二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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トリスタニアの休日編だけど、あんまり活躍場面有りません。

アンリエッタとの会話でちょっと狂乱します。


第二十四話  トゥの休日

 

 

 トゥとルイズは、街中を歩いていた。

 ルイズの格好は、最近流行っている胸が開いたワンピース。それに黒いベレー帽。

 最初こそ平民の服に文句を言っていたルイズだが、さすがは女の子、すぐに着こなす。

 トゥは、質素な格好をしていた。スカートではなく、ズボンで少しボーイッシュな感じである。

「もっといいのなかったの?」

「あんまり目立つと困るって言ったのルイズだよ?」

「う…、それは…そうだけど…。」

「ルイズのワンピース似合ってるよ。」

「お世辞はいいわ。」

「お世辞じゃないよ。」

 トゥは純粋にそう思って言ってくれている。それは分かるのだが理解してしまうと恥ずかしい。

 二人がこうして出かけているのは、今日は魅惑の妖精亭が休みだからである。

「それで、ルイズ、どこに行くの?」

「お芝居を見に行くわよ。」

「おしばい?」

「そうよ。トゥは、見たことない?」

「覚えてないよぉ。」

「そっか…、そうよね。」

 トゥが記憶喪失だったことを忘れていた。

 記憶喪失の割にしっかりと、明るいからすっかり忘れていた。

 そういえばそうだ。トゥは、記憶喪失というだけでもかなり不憫な境遇にあるのだ。

 すっかり忘れてしまっていたなぁ…っとルイズは、少し可哀想な目でトゥを見た。

 トゥは、よく分からず首を傾げた。

 

 やがて二人は、そのお芝居を見られる劇場に来た。

 

 席に座り、トゥはキョロキョロと物珍しそうに周りを見回している。

「ちょっと、恥ずかしいからじっとしなさい。」

「だってぇ。」

 トゥは子供みたいにだだこねる。

 年頃は近いはずなのだが、これでは体の大きい子供を相手にしているようだ。

 記憶のないトゥにとっては、すべてが興味惹かれるものなのだろう。今更ながらそんなことをルイズは思った。

 やがて幕が上がり、開演となった。

「ルイズ、このお芝居ってなに?」

「トリスタニアの休日よ。」

「とりすたにあのきゅうじつ…。」

 美しい音楽と共に劇が始まった。

 ルイズはちらりとトゥの横顔を見た。

 トゥは、目をキラキラとさせて、劇を真剣に見ている。

 どんどん進んでいく劇の物語を、二人は時に笑い、時にハッとしたり、ボロボロ泣いたりした。

 それはもうなんでそんなにタイミングが合うんだと言いたいぐらい絶妙に合った動きで、二人は同じ反応をしていた。

 しかしこの劇…、あまり評判は良くないのか、彼女たちの周りでは、あくびをしたりしてつまらなさそうに見ている客がほとんどだった。

 実際、芝居も下手だし、歌も下手。

 だけど、劇を見たことがない二人には十分だった。

 けれど…、劇は長く、やがて二人は飽きてきて、揃ってあくびをした。

 やがてコテンッと首を横に垂れさせて、二人は、頭をお互いの方に向けて寝てしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 魅惑の妖精亭で働くトゥであるが、裏口から客に言い寄られることが多々あった。

 給仕と厨房と、交互に働くようにしているのだが、表でトゥに言い寄る客はほとんどいない。

 言い寄ろうものなら、他のトゥのファンに叩かれるからだ。

 そこで裏で働いている時を見計らって、トゥが裏口から出てくるのを待ち伏せして、トゥに接触を試みようとしてくるのである。

 目的はもちろん邪な目的があってのことだ。話しかけてきたりするのはまだいい。

 だが腕を掴んできたり、無理やりキスをしようとしてきたり、抱き付こうとしてきたり、集団で押し倒そうとしてきたりするなど、過激なことに及ぼうとする者達がいた。

 だがトゥが普通じゃないことを知らないがためにそのようなことに及んでいるのだが、そんな不埒な輩は全員、トゥに倒されている。

 まず力じゃ敵わない。最近持ち歩くようなったデルフリンガーで服を微塵切りにされる。ルイズやスカロンから客に酷いことをしてはいけないと言われているので、辛うじて殺してはいない。

 ジェシカに不埒な客を倒したところを見られたが、適当に邪魔にならないところに捨てておけと言われた。

 っというわけで、倒した不埒な客は、路地裏の脇に運ばれるようなった。

 ファンは増えるが、そんな不埒な輩が増えていることを、ジェシカがこっそりとトゥのファンに噂を流し、事に及ぼうとする前にファン達がガードして止めるようなったためトゥへの被害はほとんどなくなった。

 

 

 ある日、トゥが休憩をしていいと言われ、裏口から出てきた時、トゥは、ローブを纏い頭を隠した女性と出会った。

「あの…、魅惑の妖精亭はどこでしょうか?」

「えっ? ここですよ?」

 しかしトゥは、はて?っと思った。

 どこかで聞いたことがある声。

「あなたは…。」

「あれ? ……おひめ…。」

 すると姫。アンリエッタがシッとトゥの口塞いで、トゥの後ろに隠れた。

 するとガシャガシャと、表通りの方を兵士達が走って通り過ぎていくのが見えた。

「……どうしたんですか?」

「すいません。隠れられる場所はありますか?」

「…えっと…、じゃあお部屋にきますか?」

 トゥは、アンリエッタを、屋根裏部屋に案内した。

 

 屋根裏部屋に来たアンリエッタは、ベットに腰かけて一息ついた。

「どうしたんですか?」

「お城を少し抜けてきました。大事な用事がありましたので…。」

「大事な用事?」

「そのことは内密なので…。」

「はい…。」

「あの…、平民の服を貸してはもらえますか?」

「えっ? じゃあ私の服を貸します。」

「ありがとう。」

 そうお礼を言ったアンリエッタは、トゥから渡されたトゥの服に着替えた。

「ちょっと…、大きいですわ。」

「でも、似合ってますよ?」

 トゥの身長が高いため、小柄なアンリエッタでは、袖や肩が少し余ってしまうのだ。

 まあ…あれだ…、彼シャツみたいな……?

「まあ、いいわ。」

 アンリエッタは、そう言った。

 では、行きましょうっと、アンリエッタが立ち上がった。

「でも、今のままじゃすぐにお姫様だってバレちゃいますよ?」

「そうですか?」

「えーと、髪型を変えて…、お化粧をちょっとして…。」

 トゥは、アンリエッタの髪を結び、軽い化粧を施した。

「どうですか?」

「はい、鏡。」

「まあ…、これで街娘に見えますわね。」

 それでも立ち姿や滲み出る上品さや気品は隠しきれないが、印象はだいぶ変わった。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

 そして二人は、こっそりと魅惑の妖精亭を出て、裏通りに出た。

 アンリエッタがいなくなったことで表通りは厳戒態勢になっていた。

「わあ…大変…。」

「すみません。手を、握ってもらえますか。」

「えっ?」

「下手に顔を隠しては余計怪しまれます。仲の良いお友達同士ということでお願いします。」

「…分かった。」

 二人は手を握り、表通りに出た。

「えへへへ。」

「キャッ。くすぐったいです。」

「アン。あっち行ってみようよ!」

 アンリエッタをアンと呼んだトゥに手を引っ張られ、トゥとアンリエッタは、兵士達の横を通り過ぎて行った。

 遠巻きにしかアンリエッタを見たことがない兵士達は、アンリエッタが通り過ぎても気づかず、無邪気な友達に引っ張られる大人しい少女として見ているようで特に気にしていなかった。

「あの…今……、わたくしのことを…。」

「アンでしょ? 名前言ったらバレちゃうでしょ?」

「そうですね。」

 アンリエッタは微笑んだ。

 

 夜も遅くなり、二人は宿をとることにした。

 魅惑の妖精亭の屋根裏部屋が天国に思えるほど、環境がよろしくない宿の安部屋で、キノコまで生えている。

「わあ…、ボロボロ…。」

「素敵な部屋じゃない。」

「そうですか?」

「ええ…、少なくとも、寝首をかこうとする毒蛇はいないでしょう…。」

「変な虫はいそうだよ?」

「そうですね。」

 アンリエッタは、ふふっと微笑んだ。

 それから二人は、ルイズのことを喋ったり、アンリエッタ宛にルイズが逐一フクロウで報告していることを聞いたりした。

「ルイズ、がんばってますよ。」

「そのようですね。」

 それからアンリエッタは、ルイズからの報告で聞いた街の噂や女王である自分へ向けられる生の声を聞いてことが時に辛いことなのだと語り、顔を悲しそうに歪めた。

「……えっと…、トゥさん…でしたよね?」

「はい。」

「あの夜……、白い怪物を倒したのはあなたなのですね?」

「……白い怪物?」

 トゥは首を傾げた。

「いえ…なんでもありません。本当に記憶喪失なのですね…。」

 アンリエッタは、トゥが精神的ショックで記憶を失っているという報告を思い出し首を振った。

「…私…、何をしたんですか?」

「いいえ、本当になんでもないんです。」

「教えてください。」

「………ウェールズ皇子を覚えていますか?」

「…おうじ、さま……。」

 トゥの脳裏に、金髪の凛々しい青年の姿が思い浮かんだ。

「あの白い怪物が……、ウェールズ様の声で、わたくしを呼んだのです……。あのおぞましい姿から、なぜウェールズ様の声が…。トゥさん。あなたは、何か知って………、トゥさん?」

「あ……ああ…、あああああああああ!」

「トゥさん!?」

「いや、いや、ごめんなさい、ごめんなざい!」

 トゥは、泣き叫び、頭を抱えて床をのたうち回る。

「そんなつもりじゃなかった…、みんなを勇気づけなかっただけなのに…。私、私……、また…ウタの力で…。」

「ウタの力とは?」

「私が、ウタの力なんてもってなければ……。私がいたせいで…。皇子様達が……。ああ……。」

「トゥさん? トゥさん!」

 泣き叫んでいたトゥが急に力を失い、気を失ったため、アンリエッタは、驚いてトゥの体を揺さぶった。

 すると部屋のドアが叩かれ、宿の主が大丈夫かと声をかけて来た。

 アンリエッタは、咄嗟に大丈夫だと返事をした。

 宿の主が二つ返事でドアの前から去っていくのが聞こえた後、トゥがゆっくりと起き上がった。

「? ……私…、何してたの?」

「トゥ…さん?」

「…あなた…だれ?」

「!」

「……あっ、お姫様。」

「トゥさん…あなたは…。」

「どうしたんですか?」

「いえ……、なんでもありません。」

 アンリエッタは、これ以上トゥにあの白い怪物のことを聞くことができなかった。

「ごめんなさい…。トゥさん。」

「? どうして謝るんですか?」

「本当に、ごめんなさい。」

 アンリエッタは、ただ謝ることしかできなかった。

 

 

 その後、アンリエッタは、トゥにエスコートを頼みつつ、城下町に潜んでいるアルビオンの間者を捕えるという任務を果たしたのだが、それは別の話である。

 




トリスタニアの休日編は難しかったです。

ウェールズの声でホムンクルスがアンリエッタを呼んだことについて、聞いた途端、少し思い出して狂乱したトゥ。
でもまた忘れちゃった…。
彼女が現実を乗り越えるのはいつになるやら…、やるのは筆者である私なのだが…、難しいです。

次回は、ルイズの実家編です。

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