トゥに魅惑のビスチェをトゥに着せないために頑張ろうとするルイズがいます。
強引な展開すみません。
始まったチップレース。
誰がより多くの客から多くのチップを貰えるかの勝負である。
勝った者は、魅惑のビスチェを着る権限がある戦いであるが、その中で燃えているのはルイズ。
それもこれも、トゥに魅惑のビスチェを着せないために…。
しかし、裏方の仕事はおろか、給仕のイロハを知るわけがないルイズが、急に給仕をできるわけがなく。
「なにすんだ、このガキ!」
「わー、ルイズ、ダメだよ!」
「トゥちゃん慰めてくれよ、このガキがワイン瓶で殴ってきたんだ!」
「大変。痛いの痛いのとんでいけー。」
「ああ、もう痛くない。ありがとう、トゥちゃん。」
そして客はトゥにチップを渡す。
ルイズの失敗をトゥが自然とカバーするため、自然とトゥがチップを稼ぐことになるという悪循環が発生していた。おまけに客は客でルイズから食らったダメージをエサにトゥに甘えるということができるのでいい思いをする。
「このままだとトゥがトップね。」
スカロンの娘であるジェシカが腕組しながら言った。
見た目良し、接客良し、力持ち。
これだけ揃っているおかげでわずかな期間でお客達の心を鷲掴みにした。
ルイズは、唇を噛み拳を握った。
分かっていたつもりだ。女として、完全にトゥに負けていることを。
男はどうしてトゥのような…胸……を喜ぶのか。そりゃ触ったら極上であるが、店の客は触っていない。わざと触ろうとする客を、トゥがヒョイッと避けてしまうのだ。身体能力じゃやはり常人じゃ敵わない。かといってガラの悪いカタギじゃない人間でも無理そうだ。
ガラの悪い客がそのことに文句を言おうとトゥを見ると、トゥはニッコニコ可愛らしく笑っていて、文句を言おうとした口を閉ざしてしまう。
そんなトゥの噂を聞いて更に客が増えてる。
スカロンは表面上は喜んだが、トゥを目当てに客が増えているのであって、トゥがやめた場合の余波を心配して料理や酒の見直しを検討しだした。
様々な事情を抱える店員達を抱える店の店主は分かっていたのだ。ルイズが貴族で、トゥはそれに従っている人間だということを。だからいずれいなくなることを。
「どうしたものかしらね~。」
「どうしたんですか、スカロンさん。」
「あら、トゥちゃん。掃除は終わったの?」
「終わりました。あの、何かお悩みですか?」
「いいのよ。こっちのことだから。」
「それ…お料理の絵ですね?」
「分かる? そっ、お店で出すお料理の改良を考えてるの。」
「………給仕をしてて思ったんですけど。これ、こうしたらどうです?」
「あら? あなたお料理できるの?」
「得意です!」
「そうなの? ……そうね。ねえ、トゥちゃん。お店の余りもので何か作ってみてくれる?」
「はい!」
トゥは、スキップするように歩きながら厨房に入った。
そしてトゥが作った料理を口にしたスカロンは…。
「トゥちゃん!」
「は、はい!」
「お料理のレシピを考案してくれる!?」
「い、いいですよ?」
「じゃあお願い!」
その日、トゥは、裏方に回った。
そのことに客達はブーイングをあげた。
特にトゥ目当てで来た客は。
そこでスカロンは、新作の料理を文句を言う客達に提供した。
文句を言いながらサービスだというので食べたところ…。
目を見開き、ガツガツとがっつく客達。
「これね、トゥちゃんが考案した料理よ? そして、今日のお料理はトゥちゃんの手料理だからね!」
スカロンがそう告げると、客達は、どよめき、おかわりを要求しだした。
ああ…、姿がなくともトゥの人気はすごい。
ルイズは、もう呆れた。
そしてトゥに渡してくれと、チップを渡し橋渡しをされた。他の店員もだ。
その日の魅惑の妖精亭は、料理の材料が切れるという事態が起こって営業終了となった。
***
店の営業前。
店の営業時間の都合で朝なのだが、店に合わせるので寝る時間。
ルイズは、食事を食べなかった。
「ルイズ、食べないと体がもたないよ?」
「いらない。」
「一口でも食べないと…。」
「いらない。」
「…なんで拗ねてるの?」
「拗ねてない!」
「うそ、拗ねてる。」
「違うもん!」
ルイズは、ベットに伏せてしまった。
トゥは、溜息をついた。
「ルイズ。明日でチップレース終わるよ?」
「うるさい。」
「ねえ、お姫様の任務…全然してないよね?」
「うるさい。」
「しなくていいの? 大事な任務でしょ?」
「うるさい!」
ルイズは、枕をトゥに投げた。
トゥは、枕を受け止めた。
「なんで私がこんなくらだらない仕事しなくちゃいけないのよ。私はもっと大きな仕事がしたいの。」
「ねえルイズ…。どの仕事も大事なんだよ。それでご飯食べてるんだよ? ルイズがくだらないって言った仕事で一生懸命働いている人達の悪口言わないで。そんなルイズ……、私…、イヤ。」
トゥの冷たい目と並べられる言葉に、ルイズは、俯いた。
「お姫様…、きっとルイズにがっかりするよ?」
そう言われた途端、ルイズの目から涙が零れた。
ボロボロと泣くルイズを、トゥは黙って見ていた。
そして、翌日の開店。
ルイズに変化が起こった。
まず、お客にお世辞が言えるようになった。
しかし簡単なお世辞にお客がなびくはずがない。しかしルイズの立ち振る舞いから上流階級の生まれだと察され、それがこんな店で働いていることに同情を買った。
ルイズは、そのことで地団太を踏みそうになるが、根性で堪えた。
更には、お店の客から情報を聞き出すために、アンリエッタや戦争などの話題をさりげなく出してみたりした。
すると、まあ、アンリエッタへの不満や、これからのトリスティンを支える者としての不安、そして増税や、いっそのことアルビオンに支配された方が生活が良くなるのではという意見があり、総合すると、タルブで奇跡的に勝利したアンリエッタの人気に陰りが出ているということらしい。
そうしてルイズは順調に、情報とチップを集めていった。
だがトゥのチップの量には敵わない。
今日だって裏方なのにトゥに渡してくれというチップが多いこと多いこと。
やがて、貴族が現れた。下級貴族らしいお供を連れている。
チュレンヌという貴族らしく、ジェシカが言うには、この地区の徴税官で、自分の地区の店に来ては、横暴を働き、自分の意に沿わないと、多額の税を払わせて店を潰してしまうそうだ。
チュレンヌの登場で、店の客達は去ってしまった。
「酷い…。」
「ええ。酷い奴よ。だから仕方なく言うことを聞いてるのよ…。」
悔しそうに顔を歪めるジェシカに、トゥは、チュレンヌを見た。
小太りで、髪が薄く、そして威張っている。まるで貴族の悪い例そのままな感じだ。
「ところで新しい給仕が入ったと聞いているが?」
するとチュレンヌが、トゥの噂を聞いて来たことを言った。
「彼女は裏方ですわよ? 給仕は現在しておりません。」
「構わん。連れてこんか。」
スカロンにそう命じたチェレンヌ。
スカロンは、トゥがいる厨房に入り、トゥにすぐに給仕服を着るよう言った。
トゥは、気が乗らないが、このままだとスカロンやジェシカ達が困ると思って給仕服を着た。
ついでに、布でくるんだ大きなものを握って表に出る。
そして満を持て出て来たトゥを見て、お供の下級貴族はあんぐる口をあけ。
チュレンヌは、ガタンと机から立ち上がり。
「おおお! これはなんと美しい! こんな店にはもったいないな! おまえ、我が屋敷で働け!」
「イヤです。」
トゥはきっぱりと断った。
チュレンヌが顔を歪めた。だが笑顔を貼り付けて。
「おやおや、そんなことを言うとは、君は私が何者なのか知らんようだね?」
「徴税官ですよね? さっき聞きました。」
「ならば私が貴族であることは分かるね?」
「でも、嫌です。」
さらにきっぱりと断った。
するとチュレンヌが杖を抜き、トゥに向けた。
しかしトゥは、まったく動じない。
「そのような生意気な口を利くのは利巧とは言えないね! 痛い目にあわせてあげよう。」
しかし次の瞬間、杖が真ん中から切れた。
チュレンヌがポカンとしていると、布を取り去った剣を振るったトゥが剣を振った状態でいた。
「私、こっちが本業なの。」
剣を肩に乗せながらトゥは、にっこりと笑った。
「き、貴様!」
チェレンヌは、ガタガタと震えだした。
そんなチュレンヌの横から、ルイズがチュレンヌを蹴っ飛ばした。
「何をする!」
他の貴族達が杖を抜き、魔法を唱えるよりも早く、トゥの剣が舞い、杖を斬り、更にルイズが隠し持っていていた杖を抜いてエクスプロージョンを唱えた。
それによって完全に怯んだ彼らにルイズがポケットから何かを出した。
「これが見えないかしら?」
ルイズがその何かをチュレンヌに見せた。
それをジッと見たチュレンヌは、顔を蒼白とさせた。
「陛下の…許可証?」
「ええ、そうよ。私は、女王陛下の女官で、有所正しき家柄を誇る三女。あなたみたいな木端役人に名乗る名じゃないわ。」
「し、失礼しました!」
チェレンヌは、土下座した。他のお供の貴族達も震えあがり次々に頭を下げだした。
「今日見たことは忘れなさい。そしてトゥは私のもの。今後一切手を出さないと誓いなさい。」
「はい! 誓います!」
「なら、さっさとこの店から去りなさい。」
「はい!」
チュレンヌ達は、足をもつれさせながら時々転びながら無様に逃げ去っていった。
チュレンヌ達が去った後、店の中に割れんばかりの拍手が鳴った。
「ルイズ、カッコよかったよ!」
「べ、別に…。」
駆け寄ってきたトゥの笑顔にルイズは、目をそらして顔を赤らめた。
「でも、貴族だってバレちゃったね…。」
「う…。それは…。」
「いいのよ。ルイズちゃんが貴族だってとっくに気付いてたし。」
そうスカロンが言った。
スカロン達も何年も接客業をしているわけじゃない。仕草や立ち振る舞いで人を見抜く目を持つ。
スカロンと出会った時からすでにバレていたのだ。
「でもトゥちゃんが、傭兵? だったのはびっくりね。そんな大きな剣を片手で振るなんて。」
「私、ルイズの使い魔だよ。」
「まあ、色々と事情があるのね。まあここにいる子達は、このことをバラすことはないわよ。みんなそれぞれ事情があるからね。では、お客さんも帰っちゃったことだし、チップレースの勝者の発表をいきますか!」
スカロンがそう言った。
「ま、誰が見ても間違いないわよね。」
やはりトゥかとルイズが諦めていると、スカロンがルイズを指さした。
「ルイズちゃんおめでとう!」
「えっ? なんで?」
「そこにあるでしょ?」
スカロンがさらに指さした先には、チュレンヌ達の財布。その中を見ると金貨が入っていた。
「えっ…、これチップ?」
「そうよ! 優勝おめでとう!」
「よかったね、ルイズ!」
ルイズの手を取り上に掲げたスカロンと、拍手するトゥ。他の店員達も拍手した。
なやかんやあったが、トゥに魅惑のビスチェを着せないという目標は達成できたらしい。
ルイズは、それを理解すると力が抜けてへたり込んだ。
トゥは、無自覚な男殺しだと思う。
なんとかトゥに魅惑のビスチェを着せずにすんだルイズ。
そのことを知らないトゥでした。