ウタの作用で出来上がった、トゥが精神を崩壊するきっかけとなった敵が最後に登場します。
「できたわよ!」
なんかやつれたモンモランシーが叫んだ。
その手には、薬…、惚れ薬の解除薬が入ったるつぼがあった。
急いで帰ってきて、休み間もなく薬を作って徹夜して…、まあ疲労でやつれているわけだ。
「これ、このまま飲むの?」
「そうよ…。」
「ルイズ。飲んで。」
「イヤ。それすごい臭いもの…。」
確かにかなり薬臭い。
「お願い。飲んで。」
「じゃあ、キスしてくれる?」
それを聞いて、同じ部屋にいたギーシュとモンモランシーが赤面して吹き出した。
「えー?」
トゥは、困ってしまった。
「キスしてくれなきゃ、イヤ。」
「えー。」
「ねえ、キスして?」
「えー。」
「えーっじゃなくって、キスして。今すぐ。」
ねだって来るルイズ。
トゥは、ちらりと、ギーシュとモンモランシーを見た。
ギーシュは、赤面して目をギンギンにしてこちらを見ており、モンモランシーは、顔を手で覆っている。
やるのか。やらないといけないのかと、トゥは心の中で自問自答した。
ルイズを見れば、可憐な唇をんっと寄せて、目をつむり、トゥからのキスを待っていた。
「……もう、しょうがないなぁ。」
トゥは、フウッと息をつきつつ、ルイズの肩を寄せて、その唇に自身の唇を重ねた。
数秒置いて、唇を離す。
「ルイズ。薬飲んで。」
「……飲んだら、もっとキスしてくれる?」
頬を染め、目を潤ませて上目遣いで聞いて来る。
トゥは、う~んっと悩む仕草をし。
「これ飲んでも私のこと好きなら、考えてあげる。」
っと、ちょっと意地悪く言った。
ルイズは、ムウっとしつつ、渋々といった様子でるつぼを受け取った。
そして、るつぼに口を寄せて、まず一口、その味に眉を寄せたが、トゥの視線に気づくと一気に飲んで堪えることにしたらしく、一気飲みした。
ゴクンッと薬を飲んだルイズは、薬のまずさに苦しそうな顔をしていたが、やがて…。
「ルイズ?」
「ああああああああああああああああああああああああ!!」
突如ルイズは、頭を抱えてしゃがみ込んで絶叫した。
トゥが、どうしたことだと、モンモランシーを見ると、モンモランシーは腕をすくめた。
「惚れ薬を飲んでた間のことを覚えているのよ。」
「…あー…。」
トゥは、納得した。
ルイズは、床を転がり、悶絶していた。惚れ薬でおかしくなっていた間に自分がやったことに身悶えて。
特に、ついさっきのキスの感触と、昨日やったトゥの胸を揉んだ感触が手に残っていて…。
視線を上げてみれば、トゥの胸が下から見えて…。
ルイズは、行き場のない羞恥心に悶えた。
「……しばらくそっとしといてあげよう。」
ギーシュが提案した。
トゥは、ギーシュ達と部屋を出た。
***
その夜。
「別にあなたに落ち度はないんでしょ?」
「う~ん。でも…。」
ルイズの部屋から閉め出されたトゥは、現在隣のキュルケの部屋にいた。
二人で並んでベットに腰かけている。
キュルケがルイズの部屋の扉の前で座り込んでいるトゥを見つけて、部屋に招いたのである。
「だったら気にしなくっていいのよ。」
「…うん。」
「それにしても…、ルイズがそこまで病みつきになる胸って、どうなの?」
「えっ?」
キュルケがジリッと近づいて妖艶な雰囲気を醸し出しながら言った。
「ちょっと、触っていい?」
「えっ…、え? ふぇ!」
キュルケの両手が、トゥの胸を鷲掴みにした。
「あら…、本当に柔らかい…、それに肌触りも最高。」
「キュルケちゃん…。」
「なるほど、確かにこれは病みつきになるわね。」
「あ…。ん…。」
「ああ…、これはいけないわね。」
「トゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
その時、ルイズがキュルケの部屋を蹴破って入ってきた。
「る、ルイズ!」
「なにしてのよ、あんたはぁああああああああああああああああああああああ!!」
「なにって、私がトゥちゃんの胸揉んでるのよ。」
「あぁん、ダメェ。」
「変な声出さないでよ!」
煙が出そうなほど赤面したルイズが、トゥを掴んでキュルケから引き剥がした。
「いいじゃない。あんなだって揉んだんでしょ?」
「そ、それは…。」
ルイズは、口ごもった。
「ねえ、トゥちゃん。私とルイズ、どっちが良かった?」
「えっ…。」
言われてトゥは、戸惑った。
「揉むの、どっちが上手かった?」
「何聞いてんのよ、この色ボケ!」
「あら、いいじゃない。」
「良くないわよ! トゥ、行くわよ!」
ルイズは、怒鳴って、トゥの手を掴んで引っ張っていった。
残されたキュルケは、ルイズの焦りっぷりに笑った。
「ルイズ、ルイズ、痛いよ。」
「もう、あの色ボケのところに行かないで!」
自室にトゥを引っ張り込み、ルイズは、そう怒鳴った。
「だって…、ルイズが部屋から追い出すから…。」
「…そ、それでもよ。」
しゅんっとするトゥの様に、ルイズは若干罪悪感を感じながらそれでも言った。
「もう、ルイズのこと分かんない。」
トゥは、両手を握りしめ泣きそうな声で言った。
「急にお仕置きって言ったり、私の事だけ見てとかって、もう分かんない。」
「それは…、惚れ薬でおかしくなってたからよ!」
「違うもん。お仕置きは薬を飲む前からだもん。」
「それは……。」
「ルイズは、私のこと嫌いなんでしょ?」
「ちが…。」
「だってお仕置きって言って、意地悪するんだ…。」
「い、意地悪のつもりじゃ…。だって……、だって、あなたあのメイドのことばっかりで…。」
「シエスタはお友達だよ? お友達と仲良くしちゃダメなの?」
「そんなことないわ。」
「じゃあどうして?」
「……ごめんなさい。私にも…よく分からないの。」
今度はルイズがしゅんっとしてそう言った。
「分からないの?」
「完全に私が悪いのは分かってるんだけど…、どうしても止められなかった。」
「…もう…、意地悪しない?」
「しないわ。」
「本当?」
「本当よ。でも悪いことしたらお仕置きよ。」
「うん。」
その時。
トゥの脳裏に、凄まじい勢いで、映像が過った。
ネバネバとした粘液を纏った灰色の巨体。
それがトリスティン城を襲っている映像。
「あっ…。」
「トゥ? どうしたの?」
「……危ない…。」
「えっ?」
「お城が危ない!」
トゥは、弾かれたように部屋を出て行った。
***
ウタで強化した脚力で学院を走り抜け、トリスティン城へ走るトゥ。
ルイズは、トゥを追うべく、タバサに頼んでシルフィードを駆った。
「なんであんたまでついてくるのよ!」
「なんか面白いことしようってんでしょ?」
「そんなんじゃ…、ないわ。」
ニヤニヤするキュルケに、ルイズは首を振った。トゥの様子はただ事じゃなかったからだ。
夜の闇の中でも、トゥの足が発光する文字を纏っているためシルフィードは上空からでも見つけられ、それを追いかけた。
「あれは…。」
「なにあれ?」
やがてトリスティン城が見えると、そこには……。
トリスティン城に齧り付くように張り付いている巨大な灰色の物体がいた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
トゥは、ウタを使い、全身を発光させると、灰色の物体に斬りかかった。
斬られるとそこから鮮血が溢れ出た。
『ギャアアアアアアア!』
いくつもの声が重なったような叫び声を、その物体があげた。
「嘘だ…。」
トゥが呟いた。
灰色の物体が、城から剥がれて、四本足を地面に這いつくばらせて、顔のない顔でトゥを見おろした。
「嘘だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ!!」
トゥが首を振りながら叫ぶ。
『ウタヒメ…。』
『ウタヒメ。』
『ワレラにチカラをクレタ。』
『アルビオン、バンザイ。』
『バンザイ。』
『バンザイ。バンザイ。』
いくつもの人間の声が、その巨体から発せられる。
「ヤダああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
トゥの絶望の絶叫が木霊した。
灰色の巨体のバケモノ。
ホムンクルスがその巨体から、白い光の衝撃を放った。
ここでのホムンクルスは、アルビオンの王党派達です。
ウェールズも含まれているかはこの時点では不明。
果たして、この絶望を乗り越えられるのか?