二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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タルブ戦。

ウタを使ってミサイルの代わりの攻撃をするのは、捏造です。


第十五話  トゥ、空へ飛ぶ

 

 翌朝。

 コルベールがルイズの部屋を訪ねた。

「トゥ君、できたよ!」

「う~ん。眠いよォ…。」

「あのせんとうきというものの燃料ができたんだよ!」

「本当?」

 コルベールは、ワイン瓶に入った燃料を見せて来た。

「…でもこれじゃあ足りない。」

「どれくらい必要なんだね。」

「えーと、樽、五個分?」

「そんなにかね!」

「がんばって。」

「う…、うむ。」

 コルベールは、トボトボと自分の研究室へ帰って行った。

「なによぉ? 朝から騒がしいわね…。」

「コルベール先生が、燃料ができたって。」

「もう?」

「でも足りないからもっと作ってって言ったよ。」

「そう…。あんまり無理な注文しちゃダメよ?」

「でもコルベール先生しか頼める人いないよ?」

 確かにあの戦闘機というものに興味を持つのは、コルベールぐらいだ。

 一部の生徒や教師が見物したがすぐに興味を無くした。

 コルベールは、ある意味で変わり者なのだ。

「あ、そうだ。トゥ、ちょっと付き合って。」

「えっ? なになに?」

「姫様の婚姻時の詔を考えなきゃいけないの、ちょっと実践みたいにしたいから。」

「分かった。」

「じゃあ着替えさせて。」

「分かった。」

 トゥに着替えを手伝ってもらい、部屋の中でトゥは、チョコンと座り、その前に始祖の祈祷書を持ったルイズが立った。

「えーと…、この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ヴラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……。」

 そこまで言って、ルイズは、黙ってしまった。

「ルイズ。終わり?」

「このあとね、火に対する感謝、水に対する感謝とか…、順に四大系統に対する感謝を私的な言葉で詠みあげなきゃいけないの。」

「ふーん。」

「全然興味なさそうね…。」

「よく分からないんだもん。」

 トゥは、そう言って頬を膨らませた。

「もういい。」

 ルイズは不貞腐れてベットに横になった。

「ルイズー、朝ごはんは?」

「勝手に行きなさい。」

「…分かった。」

 トゥは、そういうと部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 厨房にはシエスタはいなかった。

 シエスタは、宝探しで帰省した時についでにそのまま休暇ということになったので、現在はタルブにいる。

「シエスタちゃんがいないと寂しいな…。」

「そうか。おまえさんもそう思うか。」

「うん。」

「姫殿下の婚姻式が終われば帰って来る。それまでの辛抱だ。」

「うん。ねえ、マルトーさん。」

「なんだ?」

「厨房を、ちょっと借りていいですか?」

「おいおい、どうした?」

「料理がしたいんです。」

「おお、おまえさん料理できんのか? ならいいぜ、そこのを貸してやる。」

「ありがとう!」

「ちゃんと手ぇ洗えよ?」

「うん!」

 そう言って、手を洗ったトゥは、料理を始めた。

 

 

 やがてルイズが朝ごはんを食べに食堂に来ると、待ってましたとトゥがルイズの席に来た。

「なに?」

「これ作ったの!」

「トゥが?」

 トゥの手には、美味しそうな見たこともないお菓子が盛られていた。

「デザートにどうぞ。」

「見たことないわね。」

「私がもといた世界のお菓子だよ。」

「あんた料理できたのね。」

「うん!」

「もう、急にどうしたの?」

「いい詔ができますようにって。」

「…私のため?」

「うん!」

 元気よく頷くトゥのその笑顔に、ルイズは頬が赤らむのを感じた。

「どうしたの? 嫌だった?」

「なんでもない。そこに置いといて、後で食べるから。」

「分かった。」

 そう言ってテーブルにお菓子の乗った皿を置いた。

 トゥが、スキップするように食堂を出ていくと、ルイズは、お菓子の一つを摘まんで食べた。

「…美味しい。」

 素直に出た言葉だった。

 

 

 食堂の外へ出た、トゥは、クルクルと踊るように回った。

「また作ってあげよう。」

 ルイズのために料理を作るのはとても楽しかった。

 とても心が晴れやかだった。

 料理が楽しいことを思いだし、トゥはとても楽しい気持ちだった。

 しかし、その時。

 まるで雪崩のように頭の中に雪崩れ込んでくる映像があった。

 

 燃えていく、家々。

 燃えていく、森。

 燃えていく、草原。

 燃えていく、人間。

 燃えていく…、シエスタ。

 

「…えっ? なに?」

 トゥは、周りをキョロキョロと見回した。だが脳裏に先ほどの映像が残っている。

 まるでそれは、これから起こる不吉な出来事そのものようであった。

「違う…、そんなことない…。そんなこと起るわけない…。」

 トゥは、否定しようとするが、かえってそれが不安を強めてしまった。

 そんなことない、そんなことないと、否定するトゥを、一匹のネズミが見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ついに、婚姻の日を迎え、魔法学院の門のところでトリスティン城への馬車を待っていた。

 だが朝もやの中、来たのは、息を切らした一人の使者だった。

 使者は、ルイズ達にオスマン氏の居場所を聞くと、学院の方へ走って行った。

 二人は顔を見合わせ、こっそりと使者の後を追った。

 

 

 学院長室の前で、聞き耳を立て、そこから聞こえる声を聞いた。

 そこで交わされる話にトゥは、目をも開いた。

 アルビオンが攻めてきて、タルブが燃えている。

 あの映像が思い起こされる。

 家が燃え、森が燃え、草原が燃え、人が燃え、シエスタが……。

 トゥは、居ても立っても居られないず、走り出した。驚いたルイズは、すぐにトゥの後を追った。

 トゥは、コルベールの研究室の扉を…、ノックしようとして破壊した。

「ふが! な、何事だね!」

 寝ていたコルベールは、飛び起きた。

「コルベール先生! 燃料は!?」

「な、なんだい、急に?」

「燃料は!」

「あ、ああ、できてるよ。」

「ありがとう!」

 そう言ってトゥは、樽を担ぎ上げて走り出した。

 広場とコルベールの研究室を行き来してすべての燃料を運ぶと、トゥは、戦闘機に燃料を注いだ。

「トゥ! どうする気なの!?」

「タルブに行く!」

「まさかこれで? そんなオモチャで何ができるのよ!」

「オモチャじゃない! これは、人殺しの武器! 私達の世界でたくさんの人を殺す武器なの!」

「いくらあんたの世界の武器でも、アルビオンの大軍相手にひとりで何ができるのよ!」

「分かってる! でもそれでも行くの!」

「なんでそこまで!」

「シエスタは最初にご飯をくれたの。押し花を作るの手伝ってくれたの! シエスタを燃やしたくないの!」

 やがて燃料を注ぎ終えたトゥは、操縦席に座った。

 エンジンをかけると、エンジンが起動した。

 凄まじいエンジン音と共に、計器が動き出す。

「トゥ! 私も行く!」

「ダメ。ルイズは、残ってて。」

「使い魔だけを行かせるなんてできないわ!」

「…分かった。」

 トゥは、手を伸ばし、ルイズを後ろの席に乗せた。

「風防を閉めるよ!」

 そう言って操縦席の風防を閉じた。

 するとコルベールが駆けつけて来た。

 トゥは、困った。

 広場は確かに広いが、距離がちと足りない。

 なんとか揚力を得ないと…っと思っていると、コルベールを見て気付いた。

 そうだ、彼に風を起こしてもらおう。

 トゥは、風防の中から、コルベールに身振り手振りで風を起こしてくれと伝えた。

 コルベールに伝わり、コルベールが呪文唱えて風を起こした。

 そしてトゥは、戦闘機を走らせた。

 すごいエンジン音のため、建物の窓から生徒達や教師達が顔を出し広場を見た。

 広場のギリギリ。本当にギリギリで、建物に衝突せず、戦闘機はふわりっと浮いた。

 長らく空を飛べなかった鋼の翼は、ついに空へと舞ったのだ。

「と、飛んだ!」

「掴まってて!」

 トゥは操縦桿を操作し、全速力でタルブ村へと飛んだ。

 トゥは、戦闘機を操縦しながら、左手の甲を撫でた。

 左手から大きな力を感じる。そしてトゥに知識を与えて来る。そのおかげで、触ったことすらない戦闘機の操縦ができる。

 馬を何回も乗り換えても一日はかかる距離をあっという間に通り過ぎ、黒煙の上がるタルブ村の上空に来た。

 タルブ村は炎上し、あの綺麗な野原も焼け、そこにアルビオン軍の兵士達がいた。

 そのタルブの空には、空を飛ぶ空中艦隊と、ドラゴンに乗った竜騎士団が陣取っていた。

「許さない!」

 タルブ村の惨状を見たトゥは、激情のまま、戦闘機を竜騎士団の中心へと突撃させた。

 ドラゴンなど及ばない、スピードは、空気の壁、衝撃波を纏い、空中戦を得意とするドラゴンを薙ぎ払い、ドラゴンの強靭な肉と骨を砕き、更に当たらなくても、近くにいただけで後に残る音の破壊力に竜騎士達は耳を破られ気絶して地上へ落下していった。

 耳は破れなかったが、あまりの音に耳をやられ仲間同士の連携が取れないところに、旋回した、トゥが操る戦闘機が更に突撃してくる。

 集まっていたら危険だということは理解したが、散開するよりも早く突撃してきてまた薙ぎ払われる。

 さらには、機関銃が雨あられのように飛んできて穴を開けられ撃ち落されていった。

 戦闘機がやがて艦隊に迫った。

 慌てた艦隊の乗員達が対応しようとするが、それよりも早く、ミサイルの置き土産をして戦闘機は船から離れ、船は爆発した。

「弾が…。なら……。」

 トゥは、ミサイルの残数がないことを悟ると、大きく息を吸ってウタった。

 ミサイルの発射口に、天使文字が浮かび上がり、トゥが発射スイッチを押すと、そこから青い光が発射され、船に着弾して爆発炎上した。

 それを何度か行い、何隻もの船を墜落させた。

「っ…。」

 しかし敵の艦隊は、まだまだいる。

 トゥの鼻から血が垂れた。

「トゥ? トゥ、もう限界なんでしょ?」

 トゥの異変に気付いたルイズが後ろから言った。

「まだ、いける…!」

「もう無理よ! あの敵の数を見なさい! あなたがいくら強くても、多勢に無勢、いつか力は底を尽きるわ!」

「でもやらないと!」

「っ、馬鹿!」

 ルイズが叫んだ時、ガクンッと戦闘機が揺れた、ルイズは、席に叩きつけられるように座り、持ってきていた始祖の祈禱書が開いた。

「ワルド!」

 トゥは、外にいる風竜に乗ってワルドを見つけた。

 すれ違いにワルドが風の魔法を放つたび、戦闘機が揺れた。

「くっ!」

 トゥは、クラクラする頭を押さえながら戦闘機のバランスを整えようとした。

 トゥが四苦八苦している間、後ろにいるルイズは。

「…読める。」

 開かれた始祖の祈禱書を見て呟いた。

 右手の水のルビーが光り、何も書かれていなかった白紙の始祖の祈禱書に文字が浮かんでくる。

「何よこれ……、ブリミルったらヌケてるんじゃないの? 水のルビーか、風のルビーがないと読めないなんて、それじゃあ分かんないじゃないの。」

 だがもしかしたらと、ルイズは思う。

 今浮かび上がっている文字に沿い、この呪文を完成させれば、この状況を打破できるのではないかと。

「トゥ、私が何とかするわ! あなたはそれまで耐えて!」

「ルイズ?」

「絶対に落ちるんじゃないわよ!」

「…う、うん。」

 ルイズの剣幕に、トゥは反射的に頷いた。

 しかしトゥも限界が近かった。

 ウタを使いすぎた。頭がクラクラとし、右目が酷くうずいた。鼻から垂れる血の量も増える。

 ルイズが詠唱を始めた。

 その間にもワルドからの魔法がきて、機体が揺れた。

「ま、負けない!」

 トゥは、操縦桿を握り直し、戦闘機を操作した。

 バランスを必死に整えたことで、ルイズは、円滑に詠唱を続けられた。

 やがて戦闘機が、レキシントン号の上へ来た。バランスを整えるので必死で方向など気にしていなかったのだ。

 凄まじい砲撃が飛んでくる。それをトゥは、すべて避けていくが、そのたびに、トゥの鼻から血が垂れ、トゥの足元を汚した。

 トゥは、もう限界だと、操縦桿を握る手に力が入らなくなってくるのを感じた。

 その時、ルイズの呪文が完成した。

 

 太陽のような火球がレキシントン号の上に出現し、それがすべての艦隊を包み込むように広がる大爆発となる。

 虚無の魔法、エクスプロージョンが完成したのだ。

 

 空を陣取っていた艦隊の群れがすべて燃えていく。

 何が起こったのか分からず空中を飛んでいたワルドを見つけたトゥは、力を振り絞り、機関銃を発射して、ワルドの風竜と、ワルドの背中を撃ち抜いた。ワルドは、風竜と共に墜落していった。

 トゥは、ふーふーっと呼吸を乱しながら、操縦桿を両手で握り、草原に向けて戦闘機を飛ばし、ゆっくりと降下させて、車輪を出し、草原に不時着した。

「はあ…はあ……。」

 前の計器にもたれれかかるようにトゥは、呼吸を乱していた。

「トゥ…、大丈夫?」

「…なんとか…。」

 ルイズの声にも元気がない。

 トゥは、風防を開けた。

 焦げ臭い匂いがするが、良い風が吹き抜けた。

「動けない…。」

「私も…。」

「トゥさん!」

 その時、シエスタの声が聞こえて来た。

 森に避難していたシエスタが、駆けつけたのだ。

「ああ…よかった……。シエスタ…無事で…。」

 トゥはそこで意識を失った。

 

 

 

 




トゥが見た予知は、花が見せたのか、それともガンダールヴが見せたのか、果たしてどちらなのか?

ルイズのために作ったお菓子には、モンスターは使っていません。念のため。

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