二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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コルベール先生、ごめんなさい…。


第十三話  トゥ、宝探しをする

 あの日から、トゥとルイズは、ぎくしゃくしていた。

 ルイズが口を開こうものなら、トゥは、びーびー泣き、謝罪を繰り返す。

 ルイズに嫌われたと思い込んでいるトゥに、ルイズはほとほと困っていた。

 周りは、ルイズがトゥを虐めていると勘違いし、ヒソヒソしている、これも困った。

「もう…、どうしたらいいのよぉ…。」

 トゥが厨房に行っている間に、食堂の外に行ってしゃがみ込んだルイズが長い溜息を吐いた。

「あ、ここにいましたか。ミス・ヴァリエール。」

「なんでしょうか。ミスタ・コルベール。」

「オールド・オスマンがお呼びです。学院長室へ。」

「はい。分かりました。」

「あっ、一人で来てくださいね。」

「?」

 なぜか念を押された。

 ルイズと入れ替わりに食堂に入ったコルベールは、トゥを探した。

 やがてトゥが厨房から戻ってきたのを見つけると。

「やあ、使い魔の君。」

「なんですか?」

「ちょっといいかね?」

「?」

「こっちへ。」

 そう言ってコルベールは、トゥを外へ案内した。

 食堂に裏側に来た二人は。

「なんですか?」

「…単刀直入に言う。その花を千切ってはくれないかい?」

「えっ…。」

「その花は危険だ。君が一番分かっているのだろう?」

「それ…は…。でも…。」

「いいから千切りなさい。そして私が跡形もなく焼いてあげる。」

「…だ…ダメ…。それじゃあ、ダメ…。」

 トゥは、フルフルと首を振り、後退った。

「みんなのためだ、怖がっていてはいけない! それは分かっているはずだ!」

「ダメなの…、そんなことしたら、ゼロ姉さんみたいに……。」

「なら、私が千切ろう。」

「い…、いやああああああああああああああああ!」

 そう言って近づこうとしたコルベールに、トゥは、耐え切れず、右目を守るように両手を置いてしゃがみ込んで悲鳴を上げた。

 大きな悲鳴を聞いて、生徒や厨房のコックやメイド達が駆けつけ、コルベールは、焦った。

「コルベール先生、なにを!」

「トゥさん!」

 泣き声を上げるトゥを心配してシエスタが駆け寄った。

「ち、違うんだ…これは…。」

 コルベールが両手を上げて言い訳をしている隙に、トゥは、走って逃げていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アンリエッタの婚姻時の詔を言う巫女の役目を仰せつかり、始祖の祈祷書という国宝を渡されたルイズが食堂の方に戻ると、何か騒がしかった。

「おいおい、聞いたか?」

「ああ、ミスタ・コルベールがゼロのルイズの使い魔に手ぇ出そうとしたらしいって…。」

「ちょっと、どういうこと!」

「うわ、ゼロのルイズだ。」

「おまえんとこの使い魔が大変だぜ?」

「トゥが!? どこ、どこにいるの?」

「さあ?」

 同級生に聞いても分からなかった。

 ルイズは、トゥを探して食堂に入ったが、トゥはいなかった。

「トゥさんなら、さっき走ってどこかへ行かれました。」

「そう、ありがとう。でもどこに…。」

「たぶん、寮の方かと…。」

「分かったわ!」

 シエスタからの情報で、ルイズは、寮の自室へ走った。

 

 自室に来たルイズは、ドア越しからでも聞こえるトゥの泣き声を聞いた。

「トゥ!」

「ひぃ!」

 ルイズの声に、部屋の隅で体操座りしていたトゥが短く悲鳴を上げた。

「トゥ…、コルベール先生に何をされたの?」

「……。」

「黙ってたら分からないわ。」

「……花…。」

「はな?」

「花を……千切って言われた…、千切らないなら、自分が千切るって…。」

「それで?」

「千切ったら…、ゼロ姉さんみたいに…。」

 トゥは、ボロボロと泣きだした。

「ゼロねえさん? あなたにお姉さんがいるの?」

「千切っちゃいけないの…! 千切ったら……。」

「どうなるの?」

「うぅ…、う……、あ…。」

「トゥ!」

 ふらりと横に倒れるトゥを、ルイズが支えた。

 これは、まさかっと思っていると、案の定…。

「あれぇ? 私なにしてたの?」

「あんた、また…。」

「どうしたの、ルイズ?」

「ねえ、トゥ…。私達は、しばらく、離れた方がいいかもしれないわ。」

「どうして!」

「あなたにとって私は、害悪にしかなってない。」

「そんなこと…。」

「今はちょっと忘れてるだけですぐ思い出すわ。」

「どうして? やっぱり私のこと嫌いになの?」

「そうじゃない…って嘘になるけど…、でもね、トゥ…、このままじゃダメ。」

「……。」

 トゥは、無表情でポロポロと涙を零した。

 ルイズは、そんなトゥを見ていられず、目を背けた。

「分かった…。」

 トゥは、そう言うと立ち上がり、部屋から出て行った。

 残されたルイズは、その場にへたり込み。

「ごめんなさい…。」

 自分以外いない部屋の中で謝罪した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その日から、ルイズがトゥと行動を共にすることは無くなり、ヴェストリの広場の隅っこに、テントができた。

「なんだいこれは?」

 ギーシュがテントに近づくと、中から、クスンクスンと泣く、女の声が聞こえた。

 ギョッとして中を見ると、トゥが体操座りで体を丸めて泣いていた。

 彼女の傍には、サラマンダーがいた。キュルケのフレイムだった。

「ど、どうしたのかね?」

「ルイズに嫌われた…。」

「ああ、それは大変だ…。それでこんなところに?」

「私、どこにも行くところがない。」

「そうか…。君には故郷がないのかい? そういえば何も覚えていないと言っていたね…。」

「うん…。」

「なんとかしてやりたいが…、生憎と僕も余裕がないんだ。すまないね。」

「だいじょうぶ…。私は、だいじょうぶ…。」

「いや、大丈夫そうには見えないんだが…。」

 ギーシュは、本気で心配だった。

 オロオロしていると、シエスタが食事を乗せたお盆を持ってきた。

「トゥさん、お食事ですよ。」

「…ありがとう。」

「マルトーさんが腕によりをかけて作った料理ですよ。元気出してください。」

「ありがとう…。」

 トゥは、シエスタから食事を受け取った。

「しかし…このままここで暮らすわけにはいかないだろう?」

「でも、どこに行けばいいかわからないの…。」

「うーむ…。」

 

「じゃあ、ゲルマニアに来ない?」

 

 そこへキュルケが現れた。

「フレイムを通して見て聞いてみれば…、まあ可哀想に…。ルイズってば酷いわね。」

「違うもん。ルイズはね…、しばらく離れた方がいいって言ったんだもん。自分は私にとって害悪にしかならないって言ってたから。」

「それでも酷いわよ。ねえ、どう? ゲルマニアなら、お金さえあれば、貴族にだってなれるのよ? どう?」

「でも…。」

「このままルイズの下にいても、あなたが幸せになれるとは思えないわ。コルベール先生にも何かされかけたんでしょ? そもそも学院いてもいい気分はしないでしょ?」

「……それは…。」

 花が咲いてからずっとヒソヒソされ、ルイズの肩身も狭い様子であった。

 自分さえいなければ…、そんな考えが過った。

「私は、お金持っていないよ?」

「だったら稼ぎなさい。これ見て。」

 そう言ってキュルケは、古い紙の束を出した。

 それは地図だった。

「なにこれ?」

「宝の地図よ! そんでそのお宝を売ってお金を作る、そうすればあなた、なんでも好きにできるわよ!」

「…ねえ、どうしてそんなふうに私にしてくれるの?」

「うーん…、別にこれといった理由はないんだけど、なんかほっとけないのよね。」

 そう言ってキュルケは、トゥの頭を撫でた。

「やめたまえ。この手の宝の地図はまがい物に決まっている。そうやって適当な地図を売りつける商人がいて、それで破産した貴族だっているんだ。」

「あら、でもこの中には当たりがあるかもしれないわよ?」

「どうせまがい物に決まっている。」

 キュルケとギーシュが言い合っている間に、トゥは、宝の地図を見た。

 そして。

「私決めた。」

「えっ?」

「私、宝物探しに行く!」

「そうこなくっちゃ!」

「ダメだよ。そんあ軽率な…。」

「でもこのままじゃダメ。このままじゃルイズに迷惑かけちゃう。だから私、がんばる!」

 そう決意するトゥ。

 ギーシュは、やれやれと腕をすくめた。

 キュルケは、よく言ったと、トゥを抱きしめた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そうと決まればと、早速出発したトゥ達。

 しかし一筋縄ではいかなかった。

 まず、モンスターがいる。

 これは、トゥが剣を振るって倒し、宝の地図にそって宝を探した。

 それが数日続いた。

「これがお宝かい?」

 ギーシュが言った。

「この真鍮でできた安物のネックレスや耳飾りが、『ブリーシンガメル』なのかい?」

 しかしキュルケは答えない。つまらなそうに爪を弄っている。

 同じく動向をさせられたタバサは、本を読んでおり、トゥは、またモンスターが来るかもしれないので外で待っていた。

「なあ、これで七件目だぞ! 地図あてに危険を犯して行ってみれば、見つかるのは金貨どころか、せいぜい銅貨か、安物ばかりだ! 地図の注釈に書かれた宝なんて微塵もないじゃないか! インチキな地図ばかりじゃないか!」

「うるさいわね。本物が、中には、あるかもしれないってことよ。」

「しかしいくらなんでも酷過ぎる! 廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になっているし、苦労してそいつらをやっつけても、得られる報酬がこれじゃあ、割に合わない!」

「そのほとんどは、トゥちゃんが一人で倒したけどね。」

「う…。」

 女性陣だけで行かせるのは自分の主義に反するとして、力を貸すということでついてきたギーシュだったが、実際にはほとんど活躍してなかった。トゥがほとんど一人でモンスターや猛獣を倒してしまうからだ。

 険悪なムードになる一同の中に、明るい声が響いた。

「皆さーん。お食事の支度ができました。」

 シエスタがそう言った。

 シエスタは、コトコト煮えた鍋から器に中身を盛り、全員に配っていった。

「うん、美味い! これはなんの肉だい?」

「オーク鬼の肉です。」

「ブッ!」

 ギーシュが吹いた。

「う、嘘です! ウサギです!」

 シエスタの存在が、険悪なムードを和らげる。

 トゥは、クスクスを笑う。

 その様子を見て、キュルケもギーシュもちょっと良かったと思った。宝探しに来るまで本当に暗い雰囲気だったからだ。

「シエスタって、料理上手なんだね?」

「そ、それほどでもありません。」

「私がオーク鬼の肉を料理するなら…。」

「だ、だから、違いますってば! これはウサギの肉です!」

「んーん。オーク鬼のお肉だって料理次第では…。」

「やめて。絶対やめてね。」

「でも食べられるものがなかったら仕方ないよ?」

「それだけ追い詰められたら致し方ないけど…、普段はしないで。」

「なんだか君の言い方だと、君、モンスターを料理に使ってたのかい?」

「うん。なんとなく思い出した。」

「…そ…、そうかい。」

「チビちゃん達が美味しい美味しいって言ってくれるんだよ。」

「うわ…。」

「チビちゃん達って…、あなた子供いたの?」

「違うよ。孤児院をね……私と、セント……が………。」

「トゥちゃん?」

 言いかけて急に固まったトゥに全員が驚いた。

 トゥは、しばらく動かず、キュルケが慌てて目の前に手をちらつかせたり、体を揺すった。

「トゥちゃん!」

「…あれ? 私……。」

「よかった…。急に固まらないでよ…。びっくりしたじゃない。」

「これ、美味しいね。シエスタは、料理上手だね。」

「トゥさん…?」

 先ほどの話がまた出て来た。

「トゥちゃん…? あなた…。」

「なぁに?」

「さっき、孤児院がどうのって話してたわよね? 続きは?」

「こじいん? なにそれ?」

 トゥは、普通に言った。

 場がシーンっとなった。

「? どうしたの?」

「トゥ…ちゃん…あなた…、いいえ、なんでもないわ。」

 キュルケがそう言って話題を変えようとした。

「おかわり。」

「あ、はい…。」

 トゥが、シエスタに空になった皿を渡して、ハッと我に返ったシエスタが料理を盛った。

 嬉しそうに美味しそうにご飯を食べ続けるトゥを、全員が何とも言えない表情で見ていた。

 食事が終わった後、キュルケが地図を広げた。

「もう諦めて学院に帰ろう。」

「あと一件! あと一件だけよ。」

 そう言ってキュルケが目の色を変えて、一枚の地図を叩きつけた。

「竜の羽衣! これよ。」

「えっ、竜の羽衣ですか?」

「そうよ。」

「それ…、私の村にあります。」

「えっ?」

「ラ・ローシェルの向こう側にある、私の村、タルブに、竜の羽衣と呼ばれる物が納められています。」

 思わぬ形で、次の行き先が決まった。

 

 




ごめんなさい。コルベール先生にこんな役やらせて…。でも彼以外に思いつかなかったんです。
たぶん花の危険性にいち早く気づきそうという考えがあったので。

なぜかキュルケがトゥの世話を焼きますが…深い理由はないかな。

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