二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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サブタイトルほど優しくは、されていないかな…。

後半に、アコールらしき人物が登場します。

しかし、彼女の口調がよく分からない…。


第十二話  トゥ、優しくされる

 

 

 ニューカッスル城は、見るも無残な有様だった。

 そこにいた兵士達もメイジも全員が文字通りの全滅だった。

 彼らはわずか三百の数で、5万の兵に挑み、凄まじい痛手を与えた。

 それはまさに、歴史に残る、伝説というべき戦いだった。

 

 …そこからボコリッと、兵士の手が生えてくるまでは。

 

 それにより、さらに大きな犠牲が発生したのは別の話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ルイズ達を乗せたタバサのシルフィードは、トリスティン城の中庭に降りた。

 途端に、周りを兵士達に囲まれた。

「何やつ!?」

「杖を捨てろ!」

「わたしは、ラ・ヴァリエール公爵の三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しい者ではありません。姫殿下に取次ぎを願いたいわ。」

 兵士達の隊長である人物が、ルイズを見た。

 確かにヴァリエール家のルイズの母親にそっくりだと納得し、用件を聞いてきた。

「密命なので言えません。」

「それでは、取次ぎはできない。」

「えー、なんでぇ?」

 場の空気に似つかわしくない間の抜けた声に、隊長がそちらを見ると、肌を露出した青い美女が隊長を見ていた。

 その美女の美しさに思わず息をのみそうになるが、隊長としての威厳で耐えた。そして、彼女の右目から生えた奇妙な薄紅色の花にも違和感覚えた。

 ちなみにトゥは、アルビオンから脱出した後、ラ・ローシェルの道中にある小川で血を洗い流し、服を着替えたのだった。

「トゥ、黙ってて。」

「えー?」

「ルイズ!」

 その時、兵士達をかき分けて、アンリエッタが現れた。

「姫殿下!」

「無事帰ってきたのね…。ルイズ。ルイズ・フランソワーズ…。」

 ルイズとアンリエッタがヒシッと抱き合った。

「件の手紙は、この通り…。」

「ああ、やはりあなたはわたくしの一番のお友達ですわ。」

「勿体なお言葉です。」

 しかしウェールズの姿がないことに、アンリエッタは、顔を曇らせた。

「ウェールズ様は…、父王に殉じられたのですね。」

「はい……。」

 真実は違うのだが、ルイズは頷いた。いずれにせよ亡命を断ったウェールズだ。ワルドに殺されなくてもあの戦場で死んでいただろう。

「して、ワルド子爵は?」

「あの人…裏切り者だったんだよ。お姫様。」

「えっ?」

 トゥの言葉にアンリエッタは、目を見開いた。そして、自分達を見ている兵士達に気付き。

「彼らは…私の客人です。」

 そう言って、ルイズ達を城の中に招いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 キュルケ達を別室へ。ルイズとトゥは、アンリエッタの部屋に招かれた。

「道中…、何があったのですか?」

 それから、ルイズは、道中、そして帰るまでの間にあったことを説明した。

 キュルケ達と合流したこと。

 アルビオンへ出航したが、空賊に襲われたこと。

 その空賊がウェールズだったこと。

 ウェールズに亡命を勧めたが断られたこと。

 ワルドと挙式を行ったが、その最中にルイズが結婚を断り、すると豹変したワルドによりウェールズを殺害したこと。

「あの子爵が裏切り者だっただなんて…。」

 アンリエッタは、悲嘆にくれた。ルイズが持ち帰ったウェールズへの手紙を見つめてハラハラと涙を零した。

「わたくしが、ウェールズ様の御命を奪ったも同然ですわ。裏切り者を使者として送ってしまったのですもの…。」

「違うよ。皇子様はどっちみち、残るって言ってた。真っ先に死ぬんだって言ってたもん。」

「そうですか…。」

 トゥの言葉にアンリエッタは、頷いた。

「私より、名誉の方が大事だったのかしら…。」

 手紙に亡命を勧めていたのだと、アンリエッタは告白した。

「違うよ。お姫様。」

 トゥは言った。

 ウェールズは、王家が弱敵じゃないことを示したかったこと、アンリエッタを愛するからこそ残ったことを語った。

「あと…、皇子様は、勇敢に戦って、死んだって伝えてくれって言ったんです。」

「…勇敢に戦い、死んでいく。殿方の特権ですわね…。残された女はどうしたらよいのでしょう?」

「姫様…、私がもっと強く亡命を勧めていれば…。」

「いいのです。わたくしは、亡命を勧めて欲しいなんて言っていないもの。あなたは役目を無事に果たしました。そのおかげで、同盟は盤石なものとなり、アルビオンも簡単には攻めてこないでしょう。危機は去ったのです。」

「あの…これを…。」

 ルイズは、ポケットから風のルビーを出した。

「これは風のルビー! どうしてこれを!」

「それは……。」

 ウェールズの遺体から取ったなんて言えなかった。

 アンリエッタは、何かを察し、何も言わず風のルビーを受け取った。

 そして自分の薬指にはめ、呪文を唱えると、ブカブカだった風のルビーは、アンリエッタの指にぴったりのサイズになった。

「ありがとう。ルイズ…。そして使い魔さん…。私は、勇敢に生きていこうと思います。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 帰り。シルフィードに乗って、学院に戻る途中、キュルケは、ずっとなんの任務だったのかとルイズとトゥに聞いていた。

 ルイズとトゥは、ずっと黙っていた。

「ねえ、トゥちゃん。その目の花、どうしたの?」

「これは…。」

 トゥは右目の花に指で触れた。

「危ないもの…。」

「なにそれ? 花でしょ?」

「人間の体から生えている花なんて聞いたことがないよ。」

 ギーシュが言った。

 シルフィードが、ちらちらとトゥを見ていた。

 それに気付いたトゥがシルフィードの頭の方に近づこうとした。

「ちょ、ちょっと、動かないでよ、落ちるわよ。」

「シルフィードちゃん。食べたいの?」

「はっ?」

「食べていいよ。」

「何言ってんのよ!?」

 ルイズがトゥを止めた。

 その拍子に、ルイズがギーシュにぶつかり、ギーシュがバランスを崩して落ちた。

 悲鳴を上げながら落ちて行ったギーシュだが、途中でレビテーションを唱えて事なきを得た。

「ギーシュくーん!」

「ほら、あんたのせいで落ちたでしょ。」

「私の所為なの?」

「あんたのせいよ! 変なこと言うから…。」

「だって…。」

 ルイズに掴みかかられながら、トゥは、シルフィードの顔を見た。

 シルフィードは、涎を垂らし、顔を向けて来た。

 それを見たタバサがペシンッと叩いた。

 するとシルフィードが暴れだした。

「きゃあ!」

「ルイズ!」

 落ちそうになったルイズを引っ張り、自分と入れ替わるようにトゥが落ちて行った。

「トゥ!」

「大変!」

「……。」

 タバサが面倒くさそうに、レビテーションを唱え、地面に激突する前にトゥは、浮き上がり、ゆっくりと地面に降ろされた。

 

 

「やあ、大丈夫かい?」

「だいじょうぶ。ギーシュ君は?」

「僕は大丈夫さ。それよりも君の玉のような肌に傷がつく方が心配さ。」

「?」

 ギーシュからの口説き文句にトゥは首を傾げた。

 シルフィードは降りてはこなかった。

 仕方ないので、歩いて学院に帰った。

「ところで…。」

「なぁに?」

「姫殿下は、僕のことで…何か言ってなかったかい?」

「言ってなかったよ。」

 トゥは、正直に言った。

「そ…、そうか…。」

 ギーシュは落ち込んだ。

 

 二人が仲良く歩いているのを上空から見ていたルイズは、頬を膨らませていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アルビオンから無事に帰ってから、ルイズとの生活が変わった。

 何が変わったかというと、妙にルイズがトゥに対して優しくなったのだ。

 まず服を着替えさせるのを手伝わせない。何も言わず自分で着替える。着替えるのと手伝おうとすると断られる。

 その2。洗濯物を頼まなくなった。何度か破ったが、それでも慣れさせるためにやらされていたが、それをされなくなった。洗いに行こうとすると、止められた。

 その3。食事が美味しくなった。質素なスープとパンだけだったのに、サラダもついて、簡単な料理だがお肉、またはお魚もついた。そしてテーブルに向かい合って座ることを許された。今まで床だったのに。

「ルイズ、どうしたの?」

「別に…。」

 さすがに戸惑ったトゥが聞くが、ルイズは、適当にはぐらかすだけで答えない。

 トゥは、困ってしまった。

 何か不味いことをしてしまったのだろうか? でも思い当る節がない。

 それともアレか?

 二回も襲ったから警戒しているのだろうか?

 それとも、アルビオンで見せてしまった、花のリ・プログラム機能で再生した場面のせいだろうか…。それでトゥに恐れをなしてしまったのか。

 トゥは、ポロポロと涙を零した。

「トゥ!?」

「ごめんなさぁい!」

 両手の甲で目頭をごしごし擦りながらわんわん泣いた。

「トゥ? トゥ! どうしたの? 痛いの? 目の花がどうかしたの?」

「私、人間じゃないのぉ…。だからルイズに怖い思いさせちゃってごめんなさい…。」

「ち、違うの! 違うのよ、トゥ! 違うの!」

「じゃあ、なんで…?」

「確かに…あなたが怖くないって言ったら嘘になるけど…、でもね、それだけじゃないの。」

「やっぱり…。」

「だから違うってば! 聞きなさい!」

「ルイズに嫌われちゃったー。」

 トゥは、ずっと泣き、ルイズは、オロオロとした。

 トゥは結局泣くだけ泣き、泣き疲れて寝てしまった。

 部屋のベットで寝ているトゥに布団をかけてやりながら、ルイズは、トゥの目に生えた花を見た。

 薄紅色の花の中心には、鋼でできているような花芯があり、普通の花ではないことが伺えた。

 この花から、トゥは再生し、古いトゥが崩れて、新しいトゥに移行したのだ。

 今思い出しても、悪夢のような光景であった。

 しかし同時に、美しいと…、頭のどこかで思った自分がいた。

「私もおかしくなったのかしら…?」

 トゥがおかしいことは分かっていたつもりだ。だが自分まで影響されてしまったのだろうかと自問自答する。

 しかし考えていても答えが得られるはずもなく、思考を放棄したルイズは、授業に出るために部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥの目に、花が咲いた。

 そのことは、すぐに学園中に広まった。

 人体から生える植物など聞いたことがない。腐敗した遺体に植物が生えてしまうというのなら分かるが、生きている彼女の目を突き破るように咲いているあの薄紅色の花は、一見美しいが、不気味である。

 よくない植物に寄生されているのではないかと不安がる声が上がる中、ルイズは、花の正体を知らないため何も答えられなかった。

 

「オールド・オスマン。」

「言わんとしていることは分かっておる。トゥという娘の花のことじゃなろう?」

 コルベールが何か言う前に、オスマンが言った。

「密かにディテクトマジックを行ったんじゃろう? して、どうじゃった?」

「分かりませんでした。」

 首を振るコルベールに、オスマンはそうかと溜息を吐いた。

「ただ…。」

「ただ?」

「戻ってきてからの彼女の力が異様なほど上がっているような気がするのです。」

「そうか…。」

「アカデミーに連絡をして…、駆除をすべきではありませんか?」

「いや、それはできん。」

「なぜです!」

 声を上げるコルベールに、オスマンは首を振った。

「そんなことをすれば、更なる悲劇を招きかねん。」

「なぜそのようなことを…。」

「お主は知らんでよいことじゃ。いいな、絶対にあの娘に余計なことするでないぞ?」

「……分かりました。」

 コルベールは、納得できないが仕方なく承知した。

 その後、コルベールが退室した後。

 

「あれは、絶対に納得してないでしょうね。」

 

「じゃあ、どう言えばよかったんじゃ、観測者殿。」

 すると室内の物陰から、大きなトランクを持った眼鏡にこげ茶色の髪の美女が現れた。

 ちょっと独特な歩き方でオスマンの前のソファーに座った彼女は、オスマンと向き合った。

「しかし…いつまで隠しておけるかのう?」

「信じる信じないはその人の自由ですから。」

「あんなちっぽけな花が世界を滅ぼすか……。」

 いまだに信じられないとオスマンは首を振った。

「ちっぽけなんかじゃありませんよ。」

「わしは、まだこの目であの娘に咲いた花の脅威を見ておらん。じゃから、お主の言うこともまだ信じておらん。」

「この時代には、ウタウタイがいませんでしたからね。仕方のないことです。」

「この時代には…ということは、あのトゥという娘のような者が別の時代にはおったということか?」

「そうです。」

「……そんなことは文献で見たことがない。」

「記すことを拒んだのです。完全に忘れるために。」

「じゃが、時代は繰り返そうとしている。」

「そうです。」

「わしは、何をすればよい…?」

「なにも。」

「もしアカデミーに知れれば、あのトゥというウタウタイは、研究材料とされ、花を解剖されることになるじゃろうな。」

「そんなことになれば、花は自発的に動き出します。それが更なる分岐に繋がるのです。」

「…お主の話を聞いておると、花というのは、あちこちの世界に存在しているようじゃな?」

「時に分岐を封鎖することさえあります。」

「この世界の行く末は、彼女…トゥにかかっておるといっても過言ではないということか?」

「いいえ、彼女だけではありません。」

「…ミス・ヴァリエールか。」

「はい。」

「ガンダールヴのルーンと花がせめぎ合っておるのか…。」

「彼女の記憶の混乱と性格の変化は、間違いなくそれが原因でしょう。けれど、それがかえって彼女が狂気に落ちない要因にもなっています。逆に、そのおかげで彼女が花の危険性に対して薄くもなっています。」

「花が偽の記憶を構成すると言ったな。どこまでが真実で、どこまでが嘘なのか、それを見極めるにはどうしたらよい?」

「それは彼女次第です。」

「なんじゃそりゃ。偽の記憶に踊らされて、こちらが滅んでもよいというのか?」

「それを選ぶのは、観測者の権限の越えたところなので。」

「滅びもまた分岐か…。」

「そうなれば、観測を中止し、即座に分岐を封鎖します。」

「なぜわしを巻き込んだ?」

「今の彼女に言っても、私が言ったことを覚えている可能性が薄いので、記憶力のある方を選びました。」

「わしゃ年寄りじゃぞ?」

「ですが、とてもしっかりしておられます。下の方も。」

「こりゃ。いい娘がそんなことを言うでない! …まあ、ともかく、単に記憶力で選ぶのなら、コルベールでもよかったじゃろ?」

「彼はあまりにも過去の罪悪感に苛まされています。もし花とウタウタイのことを知ったら、何が何でも滅ぼそうとして動くでしょう。花の根絶は彼ではできません。彼の炎は、更なる花の増殖を招きます。」

「…単なる傍観者である必要があったんじゃな?」

「その通りです。」

「…わしは、臆病者じゃよ。ただの色ボケ老人じゃよ。」

「はい。」

「……ふふ…、ふはははは…。長生きしたことをこれほど後悔したことはない。」

「では、よろしくお願いします。」

 そう言って観測者と呼ばれた女は、立ち上がり、どこかへ去っていった。

 

 

 

 




観測者がどこまで干渉していいのか、そのさじ加減がよく分からず…。
少なくとも、D分岐でゼロ達と会話していたから、これくらいはしていいじゃないかと思ってこうしました。
アコールは、トゥの記憶の混濁から彼女と接触して警告するより、オスマンを巻き込んで間接的な観測者に仕立て上げることでトゥの分岐を観測しようとしています。

次回、コルベールがちょっとやらかす予定。

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