トゥが契約の力で世界の崩壊を防ぎます。
「や、やった!」
ブリミル(?)を倒した後、トゥがゼロを倒したのを遠目に見たルイズ達。
しかし、その直後。
ドオオオーンっと、白い巨体がフネの横に、海に斜めに落ちた。
ミハイルだ。
花は、ほぼ溶けて崩れていた。だが花の影響を受けた風石に根付いている部分が残っていた。
「ぜ、ゼロを倒したのに…?」
「ゼロは、花が寄生していた宿主でしかない…。つまり、ゼロを倒したとしても花は…。」
「白い竜は、最強の竜なのに、勝てないのかよ!?」
「おそらく精霊の力が上乗せされている分、あの花はより強力なのだろう。」
その時、フネの上にトゥが這い上がった。
「トゥ!」
ルイズが駆け寄る。
「姉さんは、倒した…。」
「うん、うん! 見てたわ! でも、花が…。」
遙か遠くの陸地がめくれ上がるのが見えた。
花の影響で、ハルケギニア全土の風石が動き出しているのだろう。
「もう…、おしまいだぁ…。」
マルコルヌは、両膝をついて嘆いた。
「ま、まだ…だ!!」
ブハッと、ミハイルが海から顔を出した。
だがその身体は大きく傷ついていて、翼の傷が特に酷い。
「ミハイル…。あなたは、もう…、これ以上戦ったら死ぬよ?」
「僕が花を駆逐するんだ!」
「……。」
「トゥ?」
「まだ……、方法はある。」
トゥが、花を見上げた。
そして、ソッと目を閉じてから、目を開けた。
「我は…、命じる!」
トゥの足元と周囲に、天使文字と魔方陣が現れた。
「ウタノチカラをもって、この世界の…、理と契りを結び!」
「トゥ! 何をする気なの!?」
「ここに、“契約”の誓いを立てん!」
トゥは、手を花の方に向けた。
「東方の神…、西方の女神…。」
ウタの力が魔方陣と天使文字と共に渦巻く。
「我が代償とするのは、我が身、我が生命(いのち)の焔! そして、この大地に与えられる、代償は……『×××』!
そこから最後は誰にも聞き取れなかった。
そして、トゥと、そしてルイズ達…、いや、世界が白い光に包まれた。
***
そして…、ルイズは目を覚ました。
「……トゥ?」
霞む視界の中、身を起こしながらトゥを探した。
フネの甲板の上に、トゥが立っていた。
「トゥ…?」
「……ルイズ。」
トゥがルイズの方を見た。
その姿が、少し透けて見えた。
「! トゥ!?」
驚いたルイズが立ち上がり、トゥのもとへ走った。
しかし…。
「! あっ…。」
トゥに触れようとした手が、トゥの身体をすり抜けてしまった。
キラキラと、トゥの身体から光の粒子のようなものが空気中に散り始めていた。
「なに? どういうこと…?」
「ごめんね。」
「あ、謝らないでよ…。どうして? どうしてんなの!? トゥ、あんた…!」
「…さよなら。ルイズ。」
「トゥーーーー!!」
サアアっと、トゥの身体が光となって消えてしまった。
ギーシュ達、そしてアンリエッタ達が目を覚ましたときに、見たのは。
フネの甲板の上で、座り込んで大声を上げて泣いているルイズだけだった。
***
「……結論から言わせてもらう。」
ビダーシャルが調査説明を始めた。
エルフと、人間、両者がそれぞれ協力しての調査結果が出たのは、あの日から……半年ほど経過してからのことだった。
「お前達が、ハルケギニアと呼ぶ大地の底にあった風石は、消滅していた。そして…、お前達も日々感じてるだろうことだが…。魔法の力も消えつつある。」
「それは、そちらも?」
「そうだ。我々の魔法もまた、緩やかに力を失ってきている。」
強大な先住魔法を行使できたエルフ達ですら、魔法を使えなくなりつつあった。
あの日、トゥが何かをしたのは間違いない。
だがその原理が分かっていない。
あの場にいた人間やエルフが聞いていたトゥの謎の詠唱にあった…。
“契約”。
この言葉が、おそらくは鍵だろうとビダーシャルは考え、そこで聖地に住んでいた海韻竜・海母から話を聞いた。
彼女は、こう答えた。
花には、世界の摂理すらも変える力があると…。
トゥの意思により、世界の法則を変え、世界の滅びを止めた代わりに、代償として世界から魔法を消そうとしているのだろうと。
そして、契約を結んだ張本人であるトゥは、世界の理の一部となって実体を保てなくなったのだろうと。
あの日、大怪我を負ったミハイルは、療養した後、どこかへと飛び去っていった。
聖地回復を謳って、世界を巻き込み、結果、世界を最悪の結末へと導きかけた罪で、当然だがヴィットーリオとロマリアは、その責任を追及された。
あそこに滅びしかなかったことを、ヴィットーリオは、本当に知らなかったのだ。
そんなロマリアに全面協力すると言ってしまったガリアは、手のひらを返してロマリアに責任追及している派閥と、自分達も同罪だとする派閥に別れてしまい、混乱している。この状況をタバサに成り代わったジョゼットが治められるはずがないので、タバサが復帰して、内政の立て直しに奮起している。
ゲルマニアは、めくれ上がってしまった大地の被害を回復させるので精一杯で、国民の不満をロマリアに向けさせようとしている。
トリスティンも、多大な被害を被ったが、ギリギリのラインでアンリエッタは、国内を治めている。
すべての国で共通しているのは、これまで魔法を使えるからと偉ぶっていた貴族が魔法を使えなくなってきたことで、これまで虐げてきた平民に逆襲されていることだ。
これから、先、それは大きな問題となってハルケギニアだけじゃなく、エルフの国にも大きな影を落とすこととなるだろう。
ところ変わって、ド・オルニエールでは、新しく迎えたはずの主人を再び失い、その活力をますます失うことになった。
帰る人を失った屋敷は、再び無人となり、少しずつ寂れ始めてきていた。
「ミス・ヴァリエール……。ルイズさん…。」
「……。」
自由都市エウメネスで、シエスタがルイズに話しかけるが、ルイズは何も答えない。
このやりとりももう何度目だろう…。もう数え切れないほど繰り返されてきた。
「ド・オルニエールに帰りませんか? 皆さんが心配しているみたいですよ?」
「…トゥがいない…。」
「トゥさんは…、この世界の一部になったって聞いてます。つまり、私達の傍にずっといるって考えられませんか?」
「……私、そんなこと望んでない。」
ルイズは、震える声で言った。
「私は…、最後の瞬間まで、トゥと一緒が良かった……!」
「ミス・ヴァリエール……。」
「馬鹿トゥ…、自分で勝手に消えて……、私を残していくなんて…! 酷い、酷いわ!」
嘆き悲しむルイズに、シエスタは何も言えなくなった。
「ばかあああああああああああああああああ!!」
ルイズは、天に向かって泣き声をあげた。
彼女のその涙を止めてくる人物は、もういない……。
***
報告。
ウタウタイ・トゥは、ウタノチカラ…すなわち花の力を用いて、世界の理と契約した。
それにより、世界の崩壊は防がれたものの、ウタウタイ・トゥは、世界の理の一部となり、その実体を失う。
また契約の代償に、世界は、少しずつ魔法の力を失いつつある。
魔法の消滅と、契約という新たなる概念の発生は、今後この分岐にどんな影響をもたらすかは分からない。
引き続き、この分岐の観測を続行する。
イメージとしては、カイムのために女神となったアンヘルが消えたシーンです。
代償に、世界から魔法が消えつつあるというのは、書いてて思いついたネタです。
世界の崩壊の原因となった精霊の力(魔法)の源をトゥが抑えてしまったため、魔法が減退して最後にはなくなるようなってしまったということにしました。
これで、A分岐は終了です。ありがとうございました。