扉のイメージは、ウタヒメファイヴのメリクリウスの扉ですが、仕掛けやその他の建造物などはオリジナルです。
現れた扉を前に、ヴィットーリオ、そしてジョゼットと、ルイズとティファニアが立った。
「……ふむ。ジュリオ頼みますよ。」
「はい。」
ジュリオが前に出て、扉に触れた。
「どうです? ミュズニトニルンとなったあなたなら、これの開け方も分かるでしょう?」
「はい。まず扉は、三つあります。」
「三つ…。」
「ですが、そのうちの一つ目、つまり今見えている部分は腐食が進んでいて、壊れています。魔法をぶつければ簡単に壊れるでしょう。」
「なるほど。では、ミス・ヴァリエール。お願いできますか?」
「……トゥ…。」
「ルイズ。私は、大丈夫。だから…。」
「……分かったわ。」
ルイズが杖を取り出し、エクスプロージョンを唱えた。
爆発が起こり、腐食していた扉のひとつが簡単に崩れ落ちた。
すると、その奥にまた扉があった。
ジュリオが奥へと進み、二つ目の扉に触れた。
「これは…、ウェストウッド嬢の虚無で破壊できるでしょう。」
「わ、私がですか?」
「それなら私の魔法で…。」
「それはダメだ。この扉は、“攻撃”に対して強固だ。ウェストウッド嬢の虚無の方が適任だよ。」
「あなただけを消耗させるわけにはいきません。これから我々はさらなる大役を担わなければならないのですから。」
そう言うヴィットーリオを、うさんくさそうにルイズは、睨んだ。
そしてティファニアが、ディスインテグレートを唱え、扉を分解した。
そして、その奥に、さらに扉があった。
「あれが、最後ですね。」
そしてジュリオが奥へ進み、最後の扉に触れた。そして顔をしかめた。
「これは…。」
「どうしたのです?」
「これは、虚無の四の四を揃えることが鍵みたいだ。」
「四の四は、今ココに揃っていますよ?」
「聖地を本来の姿に戻す必要があります。そこに鍵があって、そこに四の四を乗せると…。」
ヴィットーリオは、それを聞いて少し考えた。
「分かりました。では、いったん戻りましょう。
「この扉…、向こうに何があるのです?」
「先ほども申しましたとおり、我らブリミルを始祖とするマギ族が帰るべき場所があるのです。」
「つまり、別の土地が?」
ルイズが聞くと、ヴィットーリオは頷いた。
この、嘘つきめっと、ルイズの顔が歪む。
ヴィットーリオに今にも掴みかかりそうなルイズの肩に、トゥが手を置いた。
「トゥ…。」
「見せなきゃダメだよ。じゃないと、信じない。」
「でも…!」
「私が…、やるから。」
トゥは、微笑んだ。
ルイズは、唇を噛んだ。
そして、一行は、いったんフネに戻った。
***
それからは、ヴィットーリオがジュリオと協力して、聖地を本来の姿に戻すための作業が始まった。
ルイズ達は、それまで待機となった。
ルイズは、オストラント号の甲板で、ウロウロしていた。
「ルイズ。落ち着こう。」
「落ち着いてられないわよ!」
落ち着き払っているトゥに、ルイズが叫んだ。
「なんであんたは、そんな落ち着いてんのよ!」
「だって、今更騒いだって仕方ないよ?」
「あんたねぇ…。世界が滅ぶ瀬戸際だってのに…。」
「私がやるからだいじょうぶ。」
「ゼロを倒すのはあんたよ。でもその後は?」
「……。」
トゥは、ルイズが持ってきてくれたゼロの剣を取り出した。
「……しないわよ。」
「そうしないと、今度は私が世界を滅ぼしちゃうよ?」
「…私は…。」
ルイズは、血が出そうなほど拳を握りしめた。
その時。
「トゥさーーん!」
「きゃっ、シエスタ?」
「もう、もう! ミス・ヴァリエールってば、酷いです! トゥさんが目を覚ましたなら私に教えてくださいよぉ!」
「こらー! トゥから離れなさい!」
「イヤです。」
「離れなさい!」
「イヤです。」
「く~~~!」
「…うふふ。」
「トゥ?」
「トゥさん?」
「ふふふ、あはははは。やっぱり楽しい。」
「なによ。急に。」
「……私がこの世界で生きている理由…、ココにあるんだ。」
「トゥ…。」
「トゥさん…。」
「私は、戦える。ルイズのため、シエスタのため、みんなのために!」
トゥは、笑顔を浮かべた。しかしその笑顔はこれ以上無いほど輝いていた。
二人が、呆然としていると、凄まじい音が聞こえてきた。地鳴りのような、ゴゴゴゴゴゴという感じの音だ。
「何!?」
慌てて船首の方へ行くと…。
「海が…割れてる…。」
海が割れて、そこに巨大な上部が平らで低い丸い円筒と、下は正方形の建造物現れた。
上の円筒形のような部分は、まるで蓋のように見えて、脈動するように、薄紅色の光が黒茶色のブロックの間に通っていた。
***
「どうやら、アレは、あの扉の向こう側…、つまり扉は横からあの建造物に入るための部分なのでしょう。」
ヴィットーリオが他の虚無の担い手達とアンリエッタやテュリューク達などの面々を呼んで説明した。
ジュリオがアズーロに乗って確認したところ、蓋みたいところの横…、ここから見ると正面の正方形の上ところに虚無の担い手達が集うべき場所があるということだ。
どうやらそれが鍵らしい。
「蛮人の教祖よ。」
「なんでしょうか?」
「アレは…、まるで何かが閉じ込めている蓋のようにも見えるが?」
ビダーシャルがヴィットーリオにずばり聞いた。
さすがの彼も汗をかいている。とてつもなく嫌な予感がしているのだろう。
「わたくしもそう思いますわ。」
アンリエッタも同意した。
「本当に…、あの怪し過ぎる建造物のようなモノにハルケギニア全土の人間を救うものがあるのですか?」
「エルフが作ったものではないでしょう?」
「あんな悪趣味なモノを、我らは作らんよ。それに、あれほどの技術は、六千年前にはなかった。」
テュリュークは、おかしそうに首を傾げた。
確かにそうなのだ。いくらエルフの技術力が高くても、これだけの建造物を六千年前に作ったとは考えにくいし、かと言って、ブリミル達の技術で作ったとも考えにくい。
「どう思う? トゥ。」
「…うーん。」
トゥは腕組みして悩んだ。
「ここでこの建造物の技術様式について語っていても、我々は救われません。まずは、行動すべきです。」
ヴィットーリオが、鍵のところに行こうと提案した。
移動するには、ジュリオが率いる竜の力を借りた。
竜にトゥが乗ろうとしたら、竜が涎を垂らして暴れたので、トゥは、自力でブロックをよじ登ることにした。
「もう! ちゃんと躾けなさいよ!」
「それは、すまない。だが仕方がないだろう?」
竜にとって、花は至高の食べ物なのだから……。
それを言われ、ルイズは唇を噛んだ。
そして、虚無の担い手と使い魔が、この謎の建造物に上った。ペガサスに乗った聖堂騎士達やレビテーションを使ってメイジ達の騎士達も護衛として登った。
確かに、四つ…、色の違うブロックが隣り合って少しだけ浮き出ている場所がある。そこだけ淡い光を発していた。
「ジュリオ。これはどうしたらいいのです?」
「誰がどこに乗っても構いません。四人が乗って、虚無の魔法を、何でもイイから唱えるのです。」
「なんでもいい…とは?」
「例えば、聖下のワールドドアでも、リコードでも構いませんし、ミス・ヴァリエールのエクスプロージョンでもいい。そうすれば、この建造物の仕掛けが四つの虚無の属性を検知して動き出す。」
「思ってたより単純なのね…。」
ティファニアがポツリッと呟いた。
こんな大がかりな建造物にしては、鍵の仕掛けそのものは単純だった。ただ、四の四を揃えなければならないという難易度が高い条件をクリアする必要があったが…。
そして、ジュリオの説明に従って、四人の虚無の担い手達が淡く光っているブロックの上に乗った。
「では、聖女殿に、その大役を。」
「私ですか?」
指名されたルイズは、ヴィットーリオを睨む。
「ご心配なく。あくまでルーンを少し唱えるだけでいいのです。魔法を発動させる過程での体からほとばしる魔力を装置に検知させれば良いだけなので、精神力は使いません。」
「…そう。」
ジョゼットの隣に控えているジュリオがそう説明し、ルイズは、フンッと鼻で笑いながら杖を握った。
そしてルイズは、自分の隣にいるトゥを見た。
本当に…いいのかと目で伝える。
トゥは、静かに頷いた。
もう……、後戻りはできない。
トゥの時間も残りわずか。そしてハルケギニア全土の風石の暴走もいつ起こるか分からない。
ルイズは、蓋の方を見た。
どう見ても…、何かを閉じ込めているようにしか見えない。そして、蓋から下へと、流れていく薄紅色の光はなんだ? まるで、これは…。
「…生き、てる?」
「ミス・ヴァリエール?」
「……始めます。」
ルイズは、エクスプロージョンの詠唱をした。
すると、詠唱の途中で、キィイイインっという感じの音がして、足元のブロックの光が強くなった。
「きゃっ! ジュリオ!」
「落ち着いて。君の中の虚無を解析しているだけだ。」
怯えてブロックの上から逃げようとするジョゼットをジュリオが落ち着かせた。
「トゥ…トゥさん!」
「だいじょうぶだよ、ティファちゃん。」
「怖い…、怖いの! 何かが起こる気がして!」
「落ち着くのよ!」
「怖い、怖い!」
ティファニアは、怯えきって頭を抱えてしゃがみ込んだ。
ガコンッ
っという、音がした。
すると、ブロックの光が消えた。あと、ブロックの間に走っていた薄紅色の光も消えた。
「今の音は…? 扉が開いたのでしょうか?」
「……いいえ。」
「ジュリオ?」
ジュリオは、首を振った。ヴィットーリオは、それを見て訝しんだ。
そして、前方にある巨大な蓋のような部分が少しずつ浮き始めた。
だが、次の瞬間。
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
っと、巨大な蓋が遙か彼方へ吹き飛んだ。
ルイズ達が、それを目の当たりにして、ポカーンとしていると、異変はすぐに起こった。
凄まじ勢いで、黒いドロのようなモノが蓋の中から吹き出た。
上空へ向けて伸び続けたドロは、やがて枝分かれしていき、その先端が手のようになっていった。
「なに…、アレ?」
「花だ…。」
「えっ…?」
「きゃああああ!」
蓋が外れた箇所からドロドロと、黒いドロがこちらに向かって流れてきてジョゼットとティファニアが悲鳴を上げた。
「に……逃げるのよ!」
何が起こったのか分からず唖然としてルイズだったが、なんとか正気を保って叫んだ。
すると、今度は足元や周りのブロックが倒壊を始めた。
ジュリオがすぐに口笛を吹いて竜を呼び、トゥは、ルイズとティファニアを抱えて竜の背に飛んだ。それに続くようにトリスティン、ガリア、ゲルマニアのメイジの騎士達や聖堂騎士達が一斉に我先にと逃げ出す。
ジュリオは、ジョゼットを抱えてアズーロの背に乗り、今起きていることがいまだ理解できずこの光景に目を奪われているヴィットーリオをアズーロにくわえさせて飛び立った。
***
フネに戻った時、すぐにアンリエッタ達が駆け寄ってきた。
「これは、一体どういうことですか!?」
話が全く違うと、放心しているヴィットーリオに詰め寄った。
「なんだ…、この精霊の力は…、これほどの巨大な精霊の力は…。」
「これは、風石?」
ドロに呼応するように、風が吹き荒れ、海が荒れ出していた。
あちこちで竜巻が起こり、遙か遠い土地では地響きが轟いていた。
ガラガラとブロックで構築されていた建造物が海に崩れ落ち、残ったのは、割れた海の底の大地に根を張った、黒いドロだけが残った。
「な…、ば、馬鹿な!? アレは、大地に眠る風石に沿って、根を張っているのか!?」
高い実力を誇る行使手あるビダーシャルがすぐに、気づいた。
このドロのような物体は、風石に沿って根を張っていると。
やがて、ドロが形を変えていく。
上空に伸びていた部分が下へと降りてきて、球体のように固まっていき、根を張ったままゴボゴボと蠢き出す。
そして、フワリッと花弁が開き始めた。
「……花?」
誰かが呟いた。
そして次の瞬間、カッと天使文字と魔方陣が花から発生してそこから光が放たれ、海を切り裂き、聖地回復連合軍の船団の半分近くを消し去った。
ただ焼き尽くすのではない、分解するのではない。完全なる消滅だ。
オストラント号や、ルイズ達がいるロマリアのフネは、ギリギリで難を逃れたが、すぐ眼前でそれを目の当たりにして、トゥ以外の全員が固まった。アンリエッタなどは、あまりのことにヘナヘナと腰を抜かし、テュリュークとビダーシャルは、呆然としていた。
さらに、ベキベキベキベキと、割れた海の底の地面が割れだし、さらに竜の巣の島も砕けて浮き上がりだして、花の周りに飛び回り出す。海水も竜巻によって巻き上げられ、あちこちで天空に向けて渦を巻きだしていた。
その圧倒的な光景に、フネの上にいた軍隊は大混乱。ジョゼットは、ジュリオに縋りつき、ティファニアは、ガタガタ震えて腰を抜かしていた。
「教皇聖下! これがあなたの言う、救済なのですか!!」
ルイズが叫んだ。
「この地に…、救いがあると説いておきながら、まさか滅びこそが救いだなんて言うんじゃないでしょうね? なにを放心しているのです!!」
ルイズは、荒れる海の上で大きく船体が揺れながら待避していくフネの上で、倒れそうになりながらいまだ放心しているヴィットーリオに詰め寄ってビンタした。
そして、胸ぐらを掴み上げた。
「答えなさいよ!!!!」
「違う……、こんな…はず…では……。」
ヴィットーリオは、俯きブツブツと呟いた。そんなヴィットーリオを、ジュリオは冷めた目で見ていた。
やがて、すべての花弁が開ききった。
その中心に、誰かがいるのを見た。
「ゼロ姉さん!!!!」
トゥが叫び、大剣とデルフリンガーを抜いた。その腰には、ゼロの剣もあった。
その時、はるか空の彼方から、雲を切り裂くように、飛んでくる、白い一匹竜の姿に、誰も気づかなかった。
これ、そのうち書き直すかも…。
ルイズに、ヴィットーリオに向けて、最後の方のセリフを言わせてみたかったんです。
果たして、ヴィットーリオが狼狽えるかどうかは、不明ですが…、始祖の円鏡から得た情報から聖地に別世界があると思って行動したモノの、結果、そこにあったのは、滅びしかなかったら?っとなった時、たぶん放心するじゃないかな?
ゼロ登場。
そして最後の方、あのドラゴンがやってきました。