キス表現あり。
「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」
「姫殿下、こんな下賤な場所にお越しになるなんて…。」
「ねえ、ルイズ。この人、だれ?」
「あんた見てなかったの!? この方は、トリスティンの姫殿下、アンリエッタ様よ!」
「ずっと四つん這いだったから見えなかったの。」
「……ああ……、そうね…。」
自分でやらせておいて忘れていたなんて最悪だ。
「ルイズ、この方は?」
「あ、あの…、私の使い魔です。」
「トゥだよ。よろしく。」
「こら、トゥ!」
「まあ、トゥさん。下着姿で寒くありませんか?」
「えっ?」
「申し訳ありません! お目汚しになりますのであまり見ないで…。」
ルイズは、トゥを隠すようにトゥの前に行った。
「それはそうと、ルイズ…。私、結婚することになったの。」
「おめでとうございます。あの…、顔色が優れませんがいかがされたのですか?」
「……言えないわ。ああ、とても言えることではないわ。」
「おっしゃってください、姫様! 昔はなんでもお話する仲だったではないですか! そのお友達に話せないことなのですか!」
「ねーねー。ルイズ、私いない方がいい?」
「いいえ、メイジにとって使い魔は一心同体。席を外す理由にはなりませんわ。」
そこからアンリエッタは、語りだした。もの悲し気に。
トゥは、途中まで聞いていたが、だんだん飽きてきて、デルフリンガーを弄りだした。
やがて他所を向いていたトゥの肩をルイズが掴んだ。
「ちょっとぉ、トゥ! 聞いてるの!?」
「えっ、なにが?」
「聞いてなかったわね! いい、明日! 明日の朝、アルビオンへ行くわよ!」
「あるびおん?」
なんだかトゥが知らない間に、そんなことになったらしい。
トゥは、よく分からないまま、ルイズと共にアルビオンへ行くことになったのだった。
「頼もしい使い魔さん。」
「ん?」
するとアンリエッタが左手を差し出してきた。手の甲を上にして。
「いけません、姫殿下!」
「いいのですよ、ルイズ。この方はわたくしのために働いてくださるのですから、忠誠には報いるところがなければなりません。」
「なに? どういう意味?」
「あのね…、もう本当に何も知らないんだから…。お手を許すってことは、つまりキスしていいってことよ。」
「キス?」
「そうよ。」
「分かった。」
そう言ってトゥがアンリエッタに近づいた。
「えっ?」
「んー。」
チュッと、トゥは、キスをした。アンリエッタの口に。
それを見て一瞬固まったルイズは、すぐにトゥを掴んでアンリエッタから引き剥がした。
「な、ななななななな、何やってののよ!」
「なにって、…キス。」
「ききききき、キスってのは…、砕けた言い方であって……、おおおおお、お手を許すってことは、手の甲にキスするってことなのよ! なんで口にするのよぉぉぉぉ!」
「そうなの?」
「バカ! 姫殿下、申し訳ありません!」
「……貴重な体験でした。」
唇に指を添え、頬をほんのり赤らめているアンリエッタだった。
その時、部屋のドアが乱暴に開いた。
「貴様ぁぁぁぁ! 姫様に何をするか!」
ギーシュだった。
なんか鼻血出してる。鼻をぶつけたから出たものじゃない。
それでいて決めポーズをとるが、鼻血で全部台無しだ。
「薔薇のように目麗しい姫様の後をつけて、盗賊のように鍵穴から様子をうかがってみていれば…、そそ、そこの、君の使い魔の美女が、ががが…。」
「なぁに?」
トゥが可愛く首をかしげると、ギーシュはいっそう鼻血を出して、ついに倒れた。
「…今の話、聞かれたかもしれないわね。」
「どうするの、ルイズ?」
「ぜひ、僕を仲間に加えたまえ。」
「わっ、復活はや。」
「姫殿下のお役に立ちたいのです。」
「あなたは?」
「グラモン元帥の息子です。」
「あの元帥の?」
「そうです。姫殿下。」
「あなたもわたくしの力になってくれるのですね?」
「はい!」
なんだかんだで、ギーシュが仲間に加わった。
このあと、アンリエッタからウェールズ皇太子宛の手紙をもらい、そしてお守りとして水のルビーの指輪を受け取り、一行は翌日の朝、アルビオンへ出発することとなった。
***
翌朝。
「ふぁ~。」
トゥは、眠そうにあくびをした。
「早いよォ…。」
「一刻でも早く任務を遂行するの。文句言わない。」
「ところですまないが、僕の使い魔を連れていってもいいかい?」
「あんたの使い魔?」
「そうさ。」
そういうとギーシュは、地面を足で叩いた。
するとモコモコと、地面が盛り上がり、大きなモグラが顔を出した。
「ああ、ヴェルダンデ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
「わあ、大きなモグラさんだぁ。」
「ギーシュ、だめよ。そのモグラ、地面を進むんでしょ? 今からアルビオンへ行くんだから連れて行けないわよ。」
「ああ…、そんな…お別れなんて辛いよ、辛すぎるよ!」
ギーシュは、両ひざをついて項垂れた。
「ねえ、ルイズ。アルビオンってどんなところなの?」
「見れば驚くわよ。」
ルイズはそう言って笑った。
すると、ヴェルダンデが、鼻をヒクヒクさせてルイズにすり寄った。
「…なによ…。キャッ!」
ヴァルダンデがルイズに襲い掛かった。というかのしかかった。
「ちょ…このモグラどこ触って…!」
「ルイズー。」
「見てないで助けなさいよ!」
「分かった。」
そう言ってトゥは、大剣を持って、振り上げた。
「待ちなさい! 私ごと切ろうしてない!?」
「うわああああ! やめてくれ!」
「えー?」
トゥは、困った。
その時、強い突風が吹き、ヴェルダンデとトゥが飛ばされた。
「ヴェルダンデ!」
「トゥ!」
「無事か、ルイズ!」
そこへ男性の声。
見ると、羽帽子に髭の生えた凛々しい男がいた。
「ワルド様!」
「よくもヴァルダンデを!」
激昂したギーシュが造花の杖を抜くが、すぐにワルドの魔法によって杖が弾き飛ばされた。
「僕は敵じゃない。姫殿下の命を受け、君達に同行することとなった、トリスティン魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵だ。」
「ま、魔法衛士だって!?」
「なぁにそれ?」
「すべての貴族の憧れの的さ! そんな相手じゃ敵うわけがない…。」
「ふーん。」
ギーシュからそう聞いたが、トゥは、興味なさそうに声を漏らした。
「すまない、婚約者が襲われてる上に殺されそうになっているのを見過ごせなくてね。」
「こんやくしゃ?」
「……えっと…、その…、ワルド子爵は、私の親が決めた結婚相手なの…。」
「わあ、じゃあルイズの恋人!?」
「こ、ここここ、恋人って言うか…、親同士が決めた仲だから…。」
「そんなに動揺しないでくれ、僕のルイズ。」
ワルドがルイズを抱き上げた。
「ルイズ、相変わらず羽のように軽いね。」
「そんなことは…。」
「すごーい、すごい、カッコいい人だね!」
「そんなことはないさ。」
ワルドが照れ臭そうに言った。
さすがのワルドも、トゥのような美女にキラキラした目でカッコいいと言われたらさすがに照れてしまう。
ワルドが口笛を吹くと、朝もやの中から、グリフォンが現れ、ワルドの傍に降りた。
ワルドは、ルイズを抱えたままグリフォンに跨った。
「さあ、諸君。出発だ。」
アルビオンへの旅が始まった。
***
ワルドとルイズを乗せたグリフォンが先頭を走り、後ろを馬に乗ったギーシュとトゥが追いかける。
グリフォンはとにかく速い。見失わないよう追いかけるのが精いっぱいだった。
「お尻が痛いよ~。」
「うう…、魔法衛士はバケモノか…。」
馬に乗り慣れていないトゥは、腰を摩り、ギーシュも疲れて馬にもたれかかっていた。
「ルイズ~。待ってよ~!」
トゥは、前を走るグリフォンに乗ったルイズに訴えた。
「ワルド、ペースが速くない?」
「今日中にはラ・ローシェルの港町に着きたいんだが。」
「ギーシュもトゥもへばってるわ。」
「へばったら置いていけばいい。」
「そういうわけにはいかないわ!」
「ギーシュといったね、彼は君の恋人かい?」
「違うわ! そうじゃなくって、仲間なのよ…。それに使い魔を置いていくなんてメイジのすることじゃないわ。」
「優しいね。」
そんな会話など、後ろを走るトゥ達には聞こえていない。
二人は、ついていくだけで精いっぱいだった。
何度か馬を乗り換え、ギーシュはぐったりと馬の首にもたれかかり、トゥは、訴えるように前を走るグリフォンを見ていた。
こうしてラ・ローシェルの港町に入口まで、ずっと走りっぱなしだった。
女同士のキスってガールズラブ要素ですかね?