二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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サブタイトルほど、真相を知ったわけではないかも。

微妙にオリジナル展開です。
ティファニアの怪我が原作ほどじゃなくて、意識があります。それでも重傷です。


第百三話  トゥ、ゼロの真相を知る

 

 ゴトゴトと揺れる音でティファニアは目を覚ました。

「ここは…?」

『よお、目が覚めたかハーフの嬢ちゃん。』

「! デルフ? トゥさん!」

 ティファニアは、デルフリンガーの声で驚き、そしてベットに寝かされているトゥに気づいた。

 ティファニアは、起き上がろうとして気づいた。自分の身体にいくつもの細い管のようなものが付けられていることに。

「動くな。傷が開くぞ。」

「! あなたは…、アリィー…?」

 気難しそうな顔をしたアリィーに声をかけられた。

「トゥさんに何をしたの?」

「なにもしてない。あの洞窟で意識を失ってからまだ目を覚ましていない。」

「トゥさん…。」

「おまえ…、精霊石を持っていたのか。あれのおかげで傷を治療されてなかったら、ここの治療装置でも間に合わなかったかも知れないぞ。」

「せいれいせき…。あ…、母さんの指輪…。」

 アリィーは、ティファニアは、精霊石が無くなった母の形見の指輪を渡された。

『相棒がやってくれたんだぜ?』

「トゥさん…。」

『けど完全には治せなかった。それでな……。』

 デルフリンガーは言いにくそうにした。

「トゥさんは、どうしたの?」

『……目を覚まさないかもしれねぇ。』

「えっ?」

『いや…、目を覚ましたら、もう相棒じゃねぇかもしれねぇ。』

「!? まさか心を…。」

『ちげーよ。ここにいる連中は何もしてねぇ。相棒の中にある、花が相棒を支配しかけてんだ。』

「花が…?」

『嬢ちゃんが死にかけてたのを見て、そのショックでな……。』

「そんな…。」

『覚悟しとけ。目を覚ました途端に殺されるかもしれねぇからな。』

「おいおい! 冗談じゃないぞ!」

 話を聞いていたアリィーが声を上げた。

「なんのためにお前達を助けたと思ってるんだ!」

『そう言われてもよぉ…。』

「うぅ……。」

 トゥが呻いた。

 アリィー達が身構えた。

「トゥさん!」

「………………ティ……ファ…ちゃ…ん?」

「私はここにいるわ! トゥさん! 私は生きてるわ!」

「…生きてる? ティファちゃん!」

 トゥが飛び起きた。

『よぉ、相棒。気分はどうだ?』

「デルフ…。なんとか…、大丈夫だよ。」

「本当か?」

 アリィーが警戒しながら聞いた。

「アリィー…、助けてくれてありがとう。」

「別に…。僕達はルクシャナを助けたことですでにお尋ね者だ。だから非常に不本意だが、ガリアに亡命しなきゃならないんだ。そこで…、お前達の手引きが必要なんだ。だからついでに助けた。それだけだ。」

 アリィー達は、自分達だけでは命が危険なので、トゥ達に亡命の手引きしてもらいたいらしい。

「そう…。分かった。できる限りのことはする。」

「できる限りじゃなくて、しっかりやってくれ。これから追っ手も来るだろうから楽な旅じゃないぜ。せいぜい働いてもらうからな。」

「私達を殺したら困るんじゃないの?」

「俺たちも一枚岩じゃないんだ。お前達もそうだろう?」

「…そっか。」

 自分達の心を消そうとした者達がいたように、エルフ達も複雑なんだろう。

「ん?」

 トゥは、一人、見慣れない人物がいるのに気づいた。

 寝かされているが、その顔立ちはティファニアによく似ている。

 トゥの記憶が蘇ってきた。

 彼女は…、ティファニアに銃を突きつけて…。

「どうして、この子がいるの?」

「仕方ないだろ。あのままあそこに置いておくわけにもいかなかったんだ。」

「そう…。」

 トゥは、深呼吸して湧き上がる殺意を抑えようとした。

 ルクシャナも別のベットに寝かされており、傷の手当てを受けてまだ眠っていた。

 トゥは、ふと小さな窓を見て驚いた。

「ここ…、水の中を進んでるの?」

「これは、海竜船だ。まあほとんど使われていないから、驚くのも無理はないが。」

「へぇ…。」

 どうやらエルフは、生き物に乗り物を引っ張らせるのが好きなようだ。

「……ところで。」

「なに?」

「その胸の…模様は何だ? 初めて会ったときはそんなものなかっただろ?」

「胸? あ…。」

 アリィーに指さされて、トゥは自分の胸を見た。

 左胸の方に何か文字が刻まれていた。それは、ガンダールヴのルーンに似ていたが違った形だった。

 トゥは、ハッと思い出した。

 そういえば、ティファニアに使い魔の召喚で呼ばれて、その後使い魔の印を付ける儀式…キスをしたのだ。

 二重契約。

 ルイズとティファニア、両者の使い魔となったということなのだろうか?

「デルフ、デルフ。ねえ、これってどういうこと?」

『……。』

「デルフ?」

『運命は…、相棒を選んじまったか…。』

「デルフ?」

『…すまねぇ。相棒…これ以上は…言えねぇ…。ちきしょう…。』

「デルフ…。」

 デルフリンガーが言いたくないと言っているということは、これは何か重大なことなのだろう。

「…ルイズに…なんて言おう…。」

「ごめんなさい…。」

「ティファちゃんは、悪くないよ。私が使い魔のクジを引いちゃっただけだよ。きっと。」

「ううん…。」

「ん?」

「私…、あの時、強く強く願ったの。トゥさんに来て欲しいって。だからトゥさんが来ちゃったんだわ。そして……。」

「それでも、私はティファちゃんを責めないよ。」

「トゥさん。」

「だから、自分を責めないで。」

 トゥは、ティファニアの頭を撫でた。

 ティファニアは、俯き、涙を堪えた。

 その時。

 

「この…悪魔共め!」

 

 ティファニアによく似た少女、ファーティマが目を覚ましてトゥ達を睨んできていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 しかし、ファーティマの抵抗は、すぐに終わった。

 っと言うのも、ここはアリィーの海竜船。つまりこの船の精霊は、アリィーの手中にある。なのでいくら強力な先住魔法が使えるエルフといえど何もできないのだ。

 悪魔と罵りながら暴れる彼女を、アリィー達が取り押さえた。

『そのまま押さえとけ。今、相棒を下手に刺激したら全員殺されかねないからな。』

「なんだと!?」

『それだけヤベー状態なのさ。相棒の中の花は、それだけ成長しちまった。いつ相棒を乗っ取っても不思議じゃないぜ。』

「そこまで…。」

 トゥは、自分の右目に咲いている花に触れた。

『それでよぉ…、相棒…。その胸のルーンだけどよぉ…。』

「言えないならいいよ。」

『大丈夫だ。言えるぜ。そいつは、リーヴスラシル。神の心臓って意味だ。そいつを持っちまった使い魔はな…。』

「…っ!」

『相棒!?』

「トゥさん、どうしたの!」

「あ、あぁああ…。」

 胸のルーンが輝き、痛みと熱を感じながら、逆に体温が奪われ、何が吸い出されるように力が抜けだした。

 だがそれは一瞬のことで、すぐにトゥは、落ち着いた。だが何かが吸い出されているのは感じた。

『ちくしょう! 娘っこが虚無を使ってるんだ!』

「ルイズが?」

『いいか、相棒! そのルーンは、使い魔の命を使って虚無の担い手がいくらでも虚無を使えるようにする魔力供給機だ! だがな、ウタウタイのお前さんは事情がちっとばっかし違う。今、娘っこの精神力がカラになって、それでお前さんの中にある無尽蔵の花の魔力を代わりに消費してんだろう! あのとき…、あいつと同じだ…。』

「あいつって…、ゼロ姉さんのこと? ゼロ姉さんは、リーヴスラシルだった?」

『……ああ。』

 トゥは、納得した。

 なぜゼロがブリミルと共にいたのか。それは、サーシャと同じように使い魔となったからだったのだ。

 ゼロは、ブリミルの魔力供給機になっていたのだ。

 しかし、本来は命を削って力を供給する危険極まりない立場にあるリーヴスラシルだが、強大な花の魔力を持ったウタウタイであったゼロならば、命を削らず花の魔力を代わりに供給することができたのだろう。そしてトゥは、今、ガンダールヴとリーヴスラシルを兼任しているのだ。

 しかしそれだと…。

「花の力がルイズに流れてる?」

『……。』

「デルフ! それって大丈夫なの?」

 トゥは、顔を蒼白とさせた。

 思い浮かぶのは、あの白い巨大な怪物のことだ。あれは…、花の力で変異してしまった人間だ。

『…まあ…、ルーンがこし器になって、虚無の力の供給源になってるだけだろうから…、そこんとこはたぶん、大丈夫だ。たぶん…。』

「はっきりして!」

 トゥは、デルフリンガーをガクガクと振った。デルフリンガーは、悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 この後、ファーティマから、ティファニアの母親が裏切ったために一族全員が追放されて大変な目にあったことを聞き、ティファニアとトゥがティファニアの母であるシャジャルのことを話したものの、それでは憎しみが癒えるはずがなく、飛びかかってきたファーティマを、アリィーが眠らせた。

 そして、少しした後、爆音が鳴り響き、船が大きく揺れた。

「なに!?」

「きゃあ!」

「まずい…、水軍の船に発見されたようだ。」

 アリィーが言った。

 これは、水中爆雷の攻撃だと言った。衝撃で爆発する、エルフの魔法兵器だと。

「クソッ! 人質ごと沈める気か!」

 アリィーは、眠っているファーティマを見て舌打ちした。

 鯨竜艦にたいして、こちらは攻撃する手段が無い。

 その時、ルクシャナが起きた。

「このまま、逃げ切るのは無理よ。」

「じゃあ、どうするの?」

「この船を乗り捨てていきましょう。」

「まさか、海岸まで泳ぐのか? それは危険すぎる。」

「海の中で沈没するよりはマシよ。」

「確かに…君の言うとおりかもしれないが…。」

 アリィーは、ルクシャナの提案を聞いて渋った。

 その間にも爆撃が続く。

 そしてアリィーは覚悟を決めた。

「おい、悪魔。ハーフの娘を背負って、海岸まで泳げるか?」

「だいじょうぶ。行けるよ。」

「よし。決まりだ。船を捨てて脱出するぞ!」

 やむこと無く続く爆撃をなんとか回避しながら、なんとか入り江の近くまで移動すると、水中呼吸の魔法を使い、船から脱出した。

 ティファニアをトゥが、ルクシャナをアリィーが背負い、泳いだ。ファーティマは、眠らせたままマッダーフが運んだ。最初は彼女を船においていこうとしたのだが、ティファニアがそれを止めたのだ。

 最後に残ったイドリスが、荷物袋に防水処理をした自動小銃や手榴弾、ロケットランチャーなど、聖地から持ち出してきた武器を抱えるだけ抱えて脱出した。

 トゥ達が脱出した後、海竜船は、爆雷を受け、海の底に沈んでいった。

 




ティファニアが持っていた精霊石が残ってたので、ティファニアの怪我は原作ほどではないけど、それでも重傷ということにしました。
アルビオンでの七万の敵との戦いの後、トゥが怪我をしていなかったので精霊石が消費されず残っていたのです。

ファーティマの話のところはあえて省きました。

先代のリーヴスラシルは、ゼロです。サーシャではありません。
リーヴスラシルのルーンは、本来は使い魔の命を削って虚無の魔法の補給源にされますが、ウタウタイの場合は花が持つ無尽蔵の魔力を供給する形になるので命は削りません。それでも、花から力が流れて影響されるというもっと危険な可能性を秘めていますが…。

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