侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ


Chapter20:激闘・稲村ヶ崎温泉!です!

カチッ

 

愛里寿「メグミが・・・・やられた」

 

無線を切りながら、愛里寿は気を落としながら呟いた。

 

ノンナ「カールに、バミューダトリオの皆さん。大学選抜勢で主力な方々が続々と脱落されていますね」

愛里寿「・・・・」

 

目に見えて落ち込み、塞ぎ込んでいる愛里寿。

 

カチュ「何一人で落ち込んでるのよ!カチューシャなんてアンタとやった時、一人だけになっちゃったのよ!それに比べたらそっちなんてまだまだ同志がいっぱいいるじゃない!そんなんだからお子ちゃまなんて言われるのよ」

 

カチューシャに叱咤され、しばらく顔を伏せていたがやがて顔を上げる。

 

愛里寿「・・・・わかってる。それに試合はまだ終わってないし」

 

その顔は、踏ん切りがついたように凛々しさが蘇っていた。

 

ノンナ「カチューシャ、見事な激励でした。島田さんは調子を取り戻したようですね」

 

カチューシャの皮肉を絡めながらの激励に称賛を送るノンナ。

 

カチュ「あれっ、どうして元気になってるの?鼻っ柱を折って主導権握ってやろうと思ってたのに・・・・」

 

狙いとは裏腹に元気になった愛里寿に戸惑うカチューシャ。

返事は返さず、ただ満足そうににっこりするノンナだった。

 

アッサ「ドーラが撃破されたとなると、戦力にかなりの影響があると思われます」

 

アッサムが小型のパソコンをカタカタといじる。

 

ペコ 「昨日からドーラに関しては我々も大きい被害を受けていましたからね」

ダー 「アッサム、今の勢力図はどうなっているかしら」

アッサ「はい」

 

カタカタカタカタ

 

手慣れた様子でデータを更新し、画面に映す。

 

アッサ「まず開幕から少しの間に大洗の八九式による索敵でカール、及びバミューダトリオのお二人、計三両が撃破」

ダー 「そうね」

アッサ「次に江の島攻略作戦の出端を挫かれたことにより、知波単学園の新旧チハが合わせて三両」

ペコ 「逆にそれだけで済んだのは、サンダースの皆さんの撤退の判断と手際の良さのおかげですね」

アッサ「西住まほ率いる黒森峰勢に対し江の島奪還作戦を決行した際、神社へ飛び込み撹乱に貢献した知波単の方々の車両がまた二両脱落」

ダー 「まほさんの前に飛び出して、よく戻ってこられたわね」

アッサ「その後西住まほとの一騎打ち後、フラッグ車の五式は現在行方不明」

ペコ 「弁天大橋を挟んで江の島防衛隊との威嚇射撃で損傷したプラウダの戦車も二両、修理の甲斐なく今朝撃破判定となりました」

ダー 「そして先程メグミさんがリタイア。これで被撃破数は十一両ね」

アッサ「殲滅戦のルールのひとつでは、被撃破数が十両、及びフラッグ車の撃破により負けが成立します。もしこの後五式の撃破が確認されれば、その瞬間に我々の負けとなります」

ダー 「・・・・」

 

まっすぐ前を見据えるダージリン。

 

ダー 「だけれど今は撃破は確認されていないわ。ならば私たちのなすべきことはひとつ。勝利に向かって邁進するのみ」

 

オレンジペコやアッサムは黙って頷く。

 

カチュ「いい作戦思いついたわ!」

ノンナ「どのような作戦でしょうか」

カチュ「まず、誰よりも先にイカチューシャの五式を見つけるのよ!」

ノンナ「まずの時点で難易度が跳ね上がっていますが、はい」

カチュ「そしてもし撃破されちゃってたら、近くの建物の中に隠すのよ!」

ノンナ「はい」

カチュ「そうすれば試合が終わるまで撃破されたことがバレず、試合を優位に進められるの!」

ノンナ「なるほど」

カチュ「隠しちゃえば見つからない限りフラッグ車は撃破判定にならずに、ずっと健在しているように思わせられる!これぞ、『シュレディンガーの猫作戦』!どお、完璧じゃない!」

ノンナ「はい、完璧です」

 

ふふん、とふんぞりかえるカチューシャと、引いた目で見ている愛里寿。

 

ノンナ「ルールの裏をついた見事な作戦です。もしバレた場合の被害の大きさを除けば、ですが」

カチュ「え」

 

ふんぞり続けていたカチューシャがぴたりと止まる。

 

愛里寿「たしかにその作戦を実行すればバレない限り優位にことが運ぶ。だけどもしバレた場合は悲惨なことになる」

カチュ「え・・・・悲惨?試合に負けるくらいじゃないの?」

ノンナ「はい。バレた場合、まずチームの全員がバッシングを受けるでしょう」

カチュ「え」

愛里寿「撃破されたフラッグ車を隠すなんて戦車道倫理に背く行為よ。正々堂々の真反対、言ってしまえば戦車道そのものを愚弄する行為」

カチュ「うっ」

ノンナ「例え一部の独断であろうとも、そしりを受けるのはチームの全員。彼女らは自分らの関わらないところで起きたことに責任を負わなくてはいけなくなります」

愛里寿「戦車道をするたび、悪評がついて回る。そもそも戦車道を出来なくなるかもしれないし、進学にも影響する。人によっては人生が終了する」

カチュ「あわわわわわ」

 

自分の建てた作戦のリスクを知り、その光景を想像したカチューシャは顔を青くしてカタカタ震える。

 

ノンナ「そう言った被害が起きる可能性を除けば完璧な作戦です。カチューシャ、即座に作戦を実行しましょう」

カチュ「ちゅ、中止!この作戦は中止よ!ていうか今後も絶対やっちゃダメ!」

 

慌てて作戦決行を止めようとわたわたするカチューシャ。

そんなカチューシャを見て、愛里寿とノンナは互いに目線を合わせて楽しそうに笑顔を浮かべた。

 

ケイ 「大事なのは、『どうやって私たちの位置を掴んだか』よ」

 

場所は変わり、海岸線を進むケイたち。

ドーラの脅威から逃れ、全車両の修理を完了させた彼女らは稲村ヶ崎温泉を発ち、西に向かって進んでいた。

道中ドーラの話題になり、その最中にケイは疑問を口にする。

 

ケイ 「初日に受けた被害を直すため、私たちが一晩の宿と広い駐車場を両立できる場所を探すところまでは予想できていたとは思う。だけど、なぜドーラは『私たちが稲村ヶ崎温泉にいる』と確信したのか、そこが重要ね」

ナオミ「ドーラは一発撃てば三十分はクールダウンが必要な車両です。当て勘で乱射できるものではないはず」

ケイ 「そう。でもさっきのドーラはあからさまに私たちを狙ってた。絶対に私たちの位置があちらにバレていたのよ」

アリサ「それじゃあ、つまり・・・・」

 

アリサの質問にケイは空を見上げる。

 

ケイ 「観測者(オブザーバー)がいるわね」

 

ギャラギャラギャラ・・・・

 

かくして全車両の修理を終えたサンダース小隊は、稲村ヶ崎温泉を後にした。

そして一両もいなくなってからしばらくして。

 

カサカサカサ

 

駐車場脇の藪が揺れる。

 

バサッ

 

そしてその藪の中から、典子が姿を現した。

 

タタタタタ

ササッ

 

道路まで来た典子は、建物の影から望遠鏡を使って覗く。

出発していたサンダース小隊は、既に最後尾も遥か遠くに見えていた。

 

典子 「・・・・よしっ」

 

注意深く確認を終えたた典子は、今しがた自分が出てきた藪に向かって手を挙げる。

と____

 

ガサガサガサ

 

脇にある林が大きく揺れる。

そして____

 

ギャルギャルギャル

 

木々の中に姿を潜ませていたアヒルさんチームの八九式が姿を現した。

周囲を警戒しつつ誘導する典子。

必要以上に音を立てないようゆっくり進む八九式。

 

ガコンッ

 

やがて八九式は施設に一番近い位置に停車した。

と、各窓を開けたメンバーが顔を覗かせる。

そんなメンバーに、

 

典子 「んっ!」

 

典子は笑顔で親指を上げる。

それを見た三人も満面の笑みを浮かべた。

 

アヒル「温泉だーーっ!」

 

サブーン!

 

施設に入って僅かの間も空けず、アヒルさんチームのメンバーは一番大きいスパに向かって飛び込んだ。

 

典子 「はー・・・・気持ちいい・・・・」

あけび「やっとお風呂に入れましたねー・・・・」

忍 「一晩見張ってばかりでお預けだったから、やっと入れたもんね」

妙子 「でもやっとひと段落しましたし、これでゆっくり出来ますねキャプテン!」

典子 「ああ。あそこで小隊を撃破できなかったのは残念だが、結果として温泉が残ったのだから良しとしよう!」

 

カール撃破のための観測者役を果たしメグミの追跡から逃れた後、敵陣の中を身を隠しながら突き進んでいたアヒルさんチーム。

彼女らは江の島攻略戦の話を聞きつけ、おおよその予測から退却していったサンダース小隊の位置を探っていた。

そして日没近くになった時点でサンダース小隊をついに見つけ出し、こっそり後をつけて稲村ヶ崎温泉に滞泊したのを突き詰めていたのだった。

 

あけび「見張るのの何が一番きつかったって、やっぱりお風呂に入れなかったことだよねー」

忍  「近くに他の入浴施設はなかったし、だからと言って一緒の温泉に入ったら見張ってたのがバレるし」

妙子 「目の前でみんながお風呂入ってたのにそれを見ることしかできない、ほんとつらかったー!」

典子「みんな、よく耐えた!残念ながらドーラは撃破されてしまいポインターとしての役目は解かれてしまったが、ここで思う存分英気を養ってこの後に備えよう!」

妙子 「あっ、キャプテン!どうせだったらサウナとか行ってもいいですか!?」

典子 「ああ、行ってこい!!」

あけび「私、露天風呂入ってみたいです!」

典子 「屋根がないらしいから、実況ヘリがいない時ならいいぞ!」

忍  「牛乳とか売ってるでしょうか」

典子 「あるはずだ!温泉ならば!」

 

と思い思いに温泉を堪能するアヒルさんチーム。

最終的に、四人は江の島が見える露天風呂でくつろいでいた。

 

あけび「あー・・・・しあわせー・・・・」

妙子 「ずっとこのまま入ってたいねー・・・・」

忍  「気持ちはわかるけど、力抜きすぎじゃないか?仮にも試合中だぞ」

あけび「だいじょーぶだよ、いくらなんでも立ち去った後の場所にすぐ戻ってくる必要なんてないんだし」

妙子 「ちゃんといなくなったの確認してから入ったんだし、忘れ物したー!とかじゃないと戻っては来ないと思うよー」

忍  「まあ、そうかもしれないけど・・・・」

 

やきもきする忍をよそにくつろぐあけびと妙子。

そんな三人を見ていた典子だったが、はっと何かに勘付き湯船から上がる。

そして周囲をキョロキョロ見回し始める。

 

忍  「キャプテン?」

典子 「何か・・・・聞こえないか?」

妙子 「え?」

あけび「そうですか?」

 

耳をすますメンバー。

しかし潮騒以外は特に聞こえない。

 

あけび「何も・・・・聞こえませんよ?」

 

しかし納得していない様子の典子は辺りを探り続けている。

 

典子 「ん・・・・?」

 

何かに気づき、垣根を登って外を見る。

 

典子 「よっ」

 

垣根を登って見えた先、それは西に位置する江の島と、そこへ伸びる海岸沿いの道路がはっきりと見えていた。

そして・・・・道路を見た典子の顔色がみるみる変わる。

 

妙子 「キャプテン?どうしました?何か見えましたか?」

典子 「まずい、サンダース小隊だ!あちらさん戻ってきたぞ!」

三人 「えええええええ!?」

 

ギャラギャラギャラギャラ

 

海岸沿いの道路を、江の島を背に突き進むサンダース小隊。

総勢十両になるシャーマンの団体が稲村ヶ崎温泉へと迫っていた。

ナオミがガムを噛みながら照準器を覗き込む。

 

ナオミ「駐車場に八九式を確認。間違いなく温泉に入ってます」

ケイ 「読み通りね」

 

報告に満足そうなケイ。

 

車長 「まさか、本当にお風呂に入ってたなんて・・・・」

操縦手「隊長、どうして八九式の人たちが温泉に入るって分かったんですか?」

ケイ 「さっきのドーラの砲撃。チョビからの連絡通り、アレは私たちを狙ってたわ。でも向こうから私たちの居場所なんて見えるはずないし、つまりは場所を知らせている子がいたってこと」

通信手「それが、八九式だったんですか?」

ケイ 「ええ。ダックスは昨日、カールを撃破するための観測者として活躍していたわ。なら、ドーラが健在な限りその役割を果たそうとする」

砲手 「もしかして、昨日から私たち見張られてたんでしょうか?」

ケイ 「その可能性は限りなく高いわね。でも私たちは温泉に着くまで居場所を点々としてたから、今まで狙いが付けられなかったんだと思うわ」

装填手「温泉に到着したのは一日目終了間際でしたもんね。攻略隊の対処に追われて、落ち着いて狙えなかったのかな?」

ケイ 「だとしたらラッキーだったわ。もしサハリアノたちが攻め入らなかったら、私たちは昨日の時点で温泉ごと吹っ飛んでたわね」

 

あっけらかんと怖いことを言うケイにぞっとするシャーマンチーム。

 

車長 「でもドーラが撃破されたことにより任を解かれた八九式が、遅い休憩をとると読んでいたんですね!さすが隊長です!」

砲手 「でも、それだけでは必ず温泉に入るとは限らなかったんじゃないですか?」

ケイ 「ううん、必ず入るって分かってたわ。だって・・・・」

 

ケイはにっこりとシャーマンチームに笑顔を向ける。

 

ケイ 「みんな、女の子だもの」

 

その頃、稲村ヶ崎温泉浴場では。

 

妙子 「急げ急げー!」

あけび「早くしないとやられちゃう!」

典子 「落ち着け!風呂場で慌てて走ったら転んでしまうぞ!焦らず急ぐんだ!」

忍  「はいっ!」

 

そろーりそろーり

スタタタタタタ

 

走るよりは遅く、だが歩くより早足で浴場を引き換え始めるアヒルさんチーム。

落ち着いたペースで確実に進み、浴場入り口まで戻ってきた。

 

あけび「着いたー!さあ、急ぎましょう!」

 

あけびが急いでドアを開ける。

 

典子 「待てっ!」

あけび「!?」

忍  「どうしました、キャプテン?」

典子 「上がり湯がまだだ!」

 

ザバーーッ

 

落ち着いて上がり湯をかける一同。

 

典子 「よし!至急着替えるぞ!慌てず急がず、だが素早くな!」

三人 「了解!」

 

かくして、脱衣所まで辿り着いた四人は、急いで着替えを始める。

典子と忍はスムーズに着替えを済ませ、元のユニフォーム姿に戻る。

 

典子 「よし!」

忍  「そっちはどうだ?」

 

と、残りの二人の方を見る。

 

あけび「あうー!ブラのホックが入らないー!」

 

あけびが後ろ手にブラをつけられず苦戦している。

 

妙子 「落ち着いて、私が入れたげるから後ろ見せて」

あけび「あっ、ありがとう!お返しに私がそっちの入れるね!」

妙子 「うん、ありがとー」

忍  「・・・・」

 

二人の掛け合いをまじまじと見る忍と典子。

 

典子 「・・・・」

 

典子の目線が忍の胸元へ、忍の目線は典子の胸元へ。

お互いの視線の先には、スポブラに収まったお互いのスレンダーな上半身が映る。

 

二人 「さっさと準備する!」

 

和気藹々と互いを手伝う妙子とあけびに、二人の叱咤が飛んだ。

 

バタバタバタ

 

稲村ヶ崎温泉からアヒルさんチームが駆け出してくる。

急いで着替えたせいで、髪や服装はやや乱れてしまっている。

 

典子 「急げ急げ!早くしないと八九式がやられてしまうぞ!」

あけび「でも、どうして私たちが温泉に入ってるか分かったんでしょう!?」

忍  「あちらの方が上手だったってことだ」

妙子 「うー、ドライヤーする暇なかったよー・・・・」

 

慌てて駐車場に飛び出したアヒルさんチームが見たものは・・・・

 

典子 「・・・・無事だ」

 

眼前には無傷の八九式が駐車場に鎮座したままだった。

予想外な状態に呆然としていると、少し離れた距離に一両の戦車がいた。

 

忍  「あなたは・・・・」

アリサ「・・・・」

 

そこにいたのは、アリサのシャーマン一両だけだった。

近くに他の戦車はいない。

ケイをはじめ、残りのシャーマン部隊は離れたところに待機していた。

傍目から見ると戦闘に参加する意思はないように見える。

 

あけび「えっと・・・・これはどういう状況ですか・・・・?」

 

あっけに取られたアヒルさんチームの面々。

そんな彼女らの服装や整えきれてない髪を見て、アリサは呆れたようにため息をつく。

 

アリサ「ん」

 

クイッ

 

アリサがアゴで稲村ヶ崎温泉を指す。

 

妙子 「え?」

 

アリサが何を言いたいのか分からず呆けてしまう。

 

アリサ「・・・・(トントン、クイクイ)」

 

言いたいことに気づかないアヒルさんチームに、アリサは髪を指さし襟首をつまむ。

そしてもう一度アゴで施設を指す。

 

忍  「髪と服装を正してこい、ということでしょうか」

あけび「あ」

 

言われて自分の格好を改めて見ると、途端に赤面して手で隠す。

 

妙子 「それじゃあ・・・・お言葉に甘えて・・・・」

アリサ「(シッシッ)」

 

さっさと行け、という手の動きに誘われるように、アヒルさんチームはもう一度稲村ヶ崎温泉の中に消えていった。

改めてユニフォームを着直し、ドライヤーで髪を整え、お互いに不備がないかきちんとチェックする。

そして全員が万全と確認し、再びアリサの前に姿を表した。

 

あけび「お待たせしましたー!」

妙子 「待っててもらってすいませーん!」

アリサ「(チョイチョイ)」

 

『さっさと乗り込め』とジェスチャーするアリサ。

いつの間にかサングラスをつけている。

 

いつもと様子の違うアリサに、目つきが変わる典子。

 

典子 「よし!乗り込め!」

三人 「ラジャー!」

 

速やかに八九式に乗り込むアヒルさんチーム。

エンジンをかけ、小さく弧を描きアリサのシャーマンに真っ直ぐ車体を向けた。

キューポラから典子が顔を覗かせている。

その顔は勝負を待っていてくれたアリサに対する引け目や後ろめたさは全くなく、却って真摯な勝負に向けた闘志に満ちていた。

 

アリサ「・・・・それでいいわ」

 

満足そうに笑みを浮かべるアリサ。

しばらく位置についたまま、双方動こうとしなかった。

 

ヒュー・・・・

 

潮風がシャーマンと八九式の間を通り抜ける。

そして、その風が止んだその瞬間____

 

ドォン!

バァン!

ガリッ!

ヒュン!

 

お互いの戦車が火を吹く。

シャーマンが放った砲弾は八九式から逸れ、八九式が放った砲弾はシャーマンの砲塔を軽く削り取った。

アリサは初手からの実力差に一瞬怯みつつも、即座に指示を飛ばし左から回り込み始める。

 

ギャラギャラギャラギャラ

 

それを見た典子も即座に対応し、同じ方向に回り込み始め二両で弧を描き始める。

 

バァン!

ドォン!

 

グルグルと円を描きながら砲撃を繰り返す。

片方が近づこうと円を小さくすれば片方が大きく、また片方が大きく回れば片方は小さく周り一定の距離を保とうとし続ける。

その光景は側からみれば鍔迫り合いのように見えたかもしれない。

 

バァン!

ギャリッ

 

しかし挙動は同じなれど、実力には差が存在している。

砲撃ごとにアリサのシャーマンは被弾回数を重ね、未だ直撃は免れているが装甲の当たる部分が削り取られてしまっている。

かたや八九式は未だ無傷。

シャーマンが狙いをつけて砲撃を放つたび、典子の動体視力と忍の指示に対する反応速度により砲撃をかわし続けていた。

 

通信手「ああっ、アリサさん押されてる!」

砲手 「やっぱり大洗のアヒルさんチーム相手じゃ分が悪いよー」

 

離れた場所で待機しているサンダース小隊の面々は、双眼鏡を使いアリサたちの戦いをハラハラしながら見守っている。

 

装填手「たいちょー、本当にアリサさん一人で戦わせて良かったんですかー?」

車長 「言っちゃうと失礼なんですが、アリサさんは参謀タイプだから自ら前に出て砲撃しあうには向いてないと思うんですか・・・・」

 

ズバリな指摘に苦笑するケイ。

 

ケイ 「まあ、確かにその通りなんだけど。でもあの戦いを望んだのはアリサ自身なのよ」

車長 「えっ、そうだったんですか?」

操縦手「てっきり隊長が『一対十なんてフェアじゃない!同じ数で行きなさい!』って言ったのかと思ってました」

ケイ 「アハハ。もし私たちだけのチームで試合してたら、そんなこと言ってたかもね。でも今私たちがいるのはスクイーディーのチーム。自分の好き好みを押しつけて、チームへの貢献を拒否する行為はあってはならないと思うわ」

通信手「じゃあ、どうしてアリサさんが単騎で?」

ケイ 「アリサが名乗りを上げたのよ。小隊総出で一両を追い回して勝っても、多勢に無勢でブーイングを食らうことになる、ってね」

装填手「おお〜、スポーツマンシップ〜」

 

話している向こうでは未だ二両がせめぎ合っている。

 

ケイ 「まあ、それは詭弁なんだろうけどね」

砲手 「え」

ケイ 「客観的に見れば、八九式をみんなで追いかけても別に非難される理由にはならないと思うわ」

車長 「あくまでそれも作戦の一環ですし、猛者として知られているアヒルさんチームを相手にするなら確実な方法を取ったほうがいいですよね」

通信手「じゃあ、アリサさんはどうして?」

ケイ 「リベンジマッチ、っていうのが一番の理由でしょうけど・・・・」

 

言いながらケイは戦っているアリサのシャーマンをさまざまな感情が入り混じった様子で見続けている。

 

ケイ 「きっと、自分の実力を見せたいんじゃないかしら」

装填手「え?誰にですか〜?」

 

装填手の問いには答えず、ケイは子供を見守る母親のような眼差しでアリサの戦いを目に焼き付けていた。

 

バアン!

ギャリッ

 

初めてシャーマンの砲撃が八九式をかする。

 

あけび「わあっ、かすった!?」

典子 「落ち着け!相手をよく見るんだ!」

 

一発かすめた、とは言うが、対してアリサのシャーマンは至る所に砲撃がかすめ、削り、装甲が剥がれ、明らかにダメージの度合いが違って見える。

だがアリサは一切怯む様子を見せず、一定の間合いを保ち続けている。

 

妙子 「アリサさん、あんなに被弾してても下がる様子がない・・・・何でだろ?」

忍  「意地になってるのか?らしくないな」

典子 「油断するな!勝負は最後の最後まで分からないぞ!」

あけび「了解!」

 

形勢が有利であろうとも、油断せず距離間を保ち続ける八九式。

その冷静な対応により、アリサのシャーマンはさらに被弾を重ねていく。

と、ここでアリサに動きが現れる。

 

アリサ「悔しいけど確かに実力はあんたたちの方が上・・・・!でもね!」

 

サッ

 

アリサが何か球状のものを取り出す。

 

典子 「!?あれは何だ!?」

あけび「何でしょう・・・・ボールかな?」

 

それの正体を掴もうとアヒルさんチームのメンバーが凝視する。

 

アリサ「そーれっ!」

 

バンッ!

 

目一杯のレシーブにより八九式に向かって飛んでいく物体。

それは、サイズ的にバレーボールに近い真っ白なボールだった。

 

典子 「ボール!?」

 

予想外の飛来物に一瞬面食らう典子。

 

忍  「こっちに飛んできます!」

典子 「うろたえるな、距離が足りない!ネットは越えないぞ!」

 

アリサの投げたものの正体が何であれ、軌道から見て届かないのは典子から見て明白だった。

しかし未だ注意深くそれを警戒するアヒルさんチーム。

バレー部として本来の習性もあり、飛んでくるものに意識を集中してしまう癖が彼女らにはあった。

____それが仇になった。

 

カッ!

 

次の瞬間、それから強い光が発せられる。

 

典子 「うわっ!?ま、眩しい!?」

あけび「ひゃーっ!?」

 

その光は強烈で、直視していた典子は思わず身をよじる。

同じく照準器越しに見ていたあけびも縮こまる。

 

アリサ「よしっ、決まった!」

 

アリサが投げたのは、ボール型の閃光手榴弾(スタングレネード)だった。

 

典子 「うわーっ!目が、目が開かない!」

アリサ「安心しなさい!目に悪い影響を残さない、協会お墨付きメーカーの競技用グレネードよ!」

あけび「そ、それは安心です〜!」

忍  「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!」

妙子 「離脱!一時離脱しよう!」

 

ギャギャギャギャギャ!

 

辛うじて閃光手榴弾の角度が高かったことにより閃光の直撃を免れた忍が八九式を転身させる。

 

アリサ「逃がすもんですか!」

 

しかしそれを許さないアリサ。

均衡が破れ、今や八九式がシャーマンから逃げ回り始めている。

 

ケイ 「ワーオ、アリサの狙い通りじゃない」

 

離れた場所から双眼鏡で戦況を確認するケイ。

閃光手榴弾が決まりひっくり返った戦局を楽しそうに見ている。

 

ナオミ「しかし・・・・隊長もよく許可しましたね、あんな戦い方」

ケイ 「うん、そう?」

ナオミ「ええ。てっきりアリサには『ばっかもーん!道具に頼らず実力で勝負しなさーい!』なんて叱責するものだと」

ケイ 「アハハ、そりゃ私だってアリサには実力だけで勝ってほしかったけどね。でも相手はダックスだし、残念だけど今のあの子じゃ勝ち目がないわ」

ナオミ「はっきり言いますね」

ケイ 「それはあの子自身が一番分かってる。だから開いてしまってる差を、経験や知識を駆使して埋めようとする姿勢は評価したいと私は思う」

ナオミ「まあ・・・・阻塞気球に比べれば、あれはルールの範疇内ですから」

ケイ 「相手の実力を認め、自分を冷静に見られるのも重要よ。あの作戦が成立したのもダックスの実力と性質を理解しているからこそ。ただ闇雲な小狡い手じゃあの子たちには通用しなかったはずよ」

 

語り合っている間にも動き続ける局面。

それを真面目な眼差しで見守るケイ。

 

ナオミ「ですが・・・・それでもやっぱり正々堂々とやらせたかったでしょう」

ケイ 「ふふ、わかっちゃう?」

 

戯けたようにウィンクするケイに、苦笑いするナオミだった。

 

バァン!

ギャリン!

 

背中を見せて駐車場内を逃げ回る八九式。

チャンスを逃すまいと追い立てるシャーマン。

司令塔である典子の視覚が奪われたことにより、八九式の回避率はあからさまに下がってしまっている。

次々と砲弾が装甲を奪い、被弾率は今やシャーマンを上回ってしまっている。

 

妙子 「まずいまずいまずいよー!一方的に攻められてるよー!」

忍  「だけど今は逃げるしかない!キャプテンの目が治らないと、反撃すらできない!」

あけび「あうー!目がしぱしぱするー!」

典子 「んぬううう!」

 

未だ閃光手榴弾の効果が消えない典子とあけび。

被弾を減らすべく蛇行して回避率を上げようとするが、反撃してこない相手を狙うのは容易く、シャーマンは容赦なく砲撃を浴びせ続ける。

 

ナオミ「おお、上手く直撃を避けてるな」

ケイ 「ダックスは個々の能力もスペシャルだから。指示無しであそこまで避けられるのは大したもんね」

車長 「だけど、思ったんですが」

ケイ 「うん?」

車長 「どうしてアヒルさんチームはあんなに不利なのに離脱しないんでしょうか?彼女たちの足なら、シャーマンを振り切って逃げ切ることなんて造作もないのに」

ナオミ「それもアリサのこそ・・・・オホン、巧みなところだな」

 

姑息、と言いかけて言い直す。

 

ケイ 「十両で攻め入れるところを一両だけで決闘を申し込み、更には支度を済ませるのを待ってあげて万全な体勢で正々堂々と勝負に挑む。そんな『スポーツマンシップ』盛り盛りの相手に背中を見せて逃げ出すなんて、矜持に反するんじゃないかしら?」

車長 「な、なるほど・・・・」

ナオミ「そしてアリサは彼女らのそんな性質を存分に理解している。それがあいつの強みだ」

通信手「あの時の大会では痛い目見ましたからねー」

ナオミ「だがあれ以来、アリサは変わった」

砲手 「変わりましたっけ?」

ケイ 「まず、『相手を見る』ようになったわ」

 

ドオン!

ギャリッ

 

またも砲弾が八九式を削る。

 

ケイ 「これまで、アリサは自分の計画に絶対の自信を持っていた。自分の立てた計画は完璧だから、どんな相手だろうと思い通りに操れると信じて疑わなかったわ。前々からそういう手段に頼らないように言って聞かせてたけど・・・・案の定、あの大会でもやらかしてたからね」

ナオミ「だがそれは見破られ、逆手に取られ、看破され、果てには撃ち取られた」

ケイ 「あの時のアリサの落ち込みようったら無かったわよね。あの後ずっと泣いてたもの」

車長 (それは隊長の反省会が怖かったからでは・・・・)

 

バアン!

チュインッ

 

砲弾が八九式をかすめる。

 

ケイ 「アリサはあれ以来、『相手を見る、そして知る』ことを重視し始めたわ。相手の性格や考えていること、好きな戦い方、試合運びの癖、果ては好きなおやつまで知ろうとしてた」

操縦手「それはやりすぎでは」

ケイ 「そして、アリサが一番真剣に研究していたのはダックスについてだった。そのためにこれまで一度も見ていなかったバレーボールの試合を観たり、時には試合に参加してたりもしたわ」

装填手「方向性が変わってきてますね~」

ケイ 「それくらい、アリサの頭の中はダックスのことでいっぱいだったって事よ。・・・・でも、その原動力はリベンジ____とはちょっと違ってたわね」

ナオミ「きっと、アリサは自分の決めた道が正しかったかどうか再確認したかったんでしょう。これまでのスタイルを捨てて選んだ方法が、果たして間違っていなかったのか。それを他でもない彼女らとまみえることで確かめたかったのでは」

ケイ 「ええ。・・・・きっとそうだと思うわ」

 

ドォン!

 

砲撃がかわされた。

 

車長 「・・・・あれ?アリサさんの攻撃、当たらなくなってきてません?」

 

シャーマンチーム車長の言う通り、段々とアリサのシャーマンの砲撃が八九式を捉えられなくなってきている。

今では撃つたびかわされ、かすりもしなくなっている。

 

砲手 「あっちの車長さん、もう視力戻っちゃったのかな?」

ナオミ「いや、まだ彼女の目は開いてない。ろくに見えていないはずだ」

通信手「えっ、じゃあどうしてかわせてるんでしょう!?」

 

そんな会話の最中、アリサのシャーマンが再び狙いを定める。

 

ギギィ・・・・ガキンッ

 

砲塔が回り、狙いを定め固定される。

その音を、しっかり耳にとらえる典子。

 

典子 「来るぞ!左に回避!」

忍  「はい!」

 

バアン!

ギュイン!

 

シャーマンから砲弾が放たれる瞬間、八九式は大きく軌道を変え砲撃をかわす。

典子は目が見えずとも、シャーマンが立てる音で次の動作を読み取っていた。

 

典子 「怯むな!暗闇の中での試合など、私たちはもう何度も経験している!・・・・思い出せ、バレー部が廃部になった後の練習を!」

 

典子の言葉に、メンバーの脳裏にかつての日々が思い出される。

 

あけび「部として認めてもらえずに、体育館を使う許可も出してもらえず・・・・」

妙子 「夜になってから体育館に忍び込んで、明かりをつけずこっそり練習・・・・!」

忍  「真っ暗な中でやるバレーは、本当に辛く悲しい思い出だった・・・・!」

典子 「あの時の苦難に比べれば!今の状況など取るに足りん!目が見えるのは四人中二人!あの時に比べれば見えない人数は半分程度!そんなのどうとでもなる!根性だ!こんなハンデ根性で乗り切るぞ!」

妙子 「はい!」

典子 「バレー部ファイトー!」

三人 「オー!」

 

時間が経つにつれ、八九式の動きがどんどん正確になっていく。

ほんのわずかな間に、典子たちは見えない中での戦いに順応し始めていた。

 

砲手 「んなバカな!」

ケイ 「そんな常識はずれなこともこなしちゃうのがあの子らの怖い所よね」

車長 「そういえば聞いたことあります。大洗の西住さん・・・・今は黒森峰の隊長さんですが、遠くに聞こえる戦車のエンジン音を聞いただけで車種と距離を把握していたとか・・・・」

装填手「それってホントに人間?」

 

そんな会話が続く中、状況はひっくり返り始めていた。

シャーマンの砲撃は一切当たらなくなり、逃げ一辺倒だった八九式にも変化が現れる。

 

ヴィイイイイイン!

 

砲弾を躱しつつ速度を増し、大きく輪を描く八九式。

大きく曲がり続け、ついには正面をアリサのシャーマンに向ける。

 

アリサ「そうよね・・・・アンタたちはそういう子よ!」

 

ヴィイイイイイイイイイン!

 

八九式はなおも速度を上げ、真っすぐシャーマンへ向かって突撃してきた。

 

操縦手「まさか捨て身の突撃!?」

ケイ 「いいえ、ダックスに限ってそれはないわ!絶対に何か狙ってる!」

砲手 「アリサさん、がんばれー!」

 

外野から声援が飛ぶ。

アリサが正面から突撃してくる八九式に狙いを定める。

 

アリサ(アタシの戦車道はアンタたちに会ってから考えもあり方も大きく変わった。いつかその答え合わせをしたいってずっと思ってた。それをアンタたちで出来るなんて願ってもない状況だもの!)

 

ヴオオオオオオオン!

 

突如、アリサのシャーマンも突撃を始める。

座して迎え撃つと思っていたケイたちはその行動に面食らう。

どんどん距離が縮まる両車。

このままいけば正面衝突だが、どちらも譲る気配はない。

睨み合う典子とアリサ。

典子の視界は未だ戻っていないが、二人は間違いなく視線をかわしていた。

そして____

 

バアン!

 

先に砲撃を放ったのはシャーマンだった。

即座に反応した典子だが、距離が狭まっていたせいで完全にはかわし切れず____

 

ドオン!

 

左履帯に直撃、大きく車体が跳ね上がる。

 

車長 「決まった!」

砲手 「アリサさん!」

 

勝負はついた、と歓声をあげるシャーマンチーム。

しかし・・・・アヒルさんチームはその程度で倒れる相手ではなかった。

 

ヴィイイイイイイン!

 

跳ねた車体を戻すことなく、生き残った右履帯だけでウィリー走行を始めた。

 

操縦手「ジーザス!?」

 

そしてそのままシャーマンに突っ込んでいくアヒルさんチーム。

 

典子 「必殺!火の玉スパイク!」

三人 「ファイアーーーーッ!!」

 

ガッシイイン!

 

ウィリーのままシャーマンに激突する八九式。

直後、

 

バアン!

 

ゼロ距離で放たれた砲弾はかわされることなく、アリサのシャーマンに直撃した。

 

シュポッ

ギャギギギギィッ

 

アリサのシャーマンから白旗が上がり、八九式は体勢が水平に戻り駐車場に火花を立てながら停止した。

 

通信手「ア、アリサさん・・・・」

ケイ 「勝負あり、ね」

 

ヴィイイイイン

 

勝負を見届けたケイのシャーマンが駐車場へと近づいていく。

 

典子 「・・・・っ」

 

動けなくなった八九式からそれを見る典子。

ダメージがあるものの八九式は戦闘不能には陥っておらず、同時にアヒルさんチームは誰もまだ諦めてはいなかった。

そんな闘志に燃える典子を傍らに見ながら、ケイはふっと優しい笑顔を浮かべながらアリサのシャーマンへと車両を横付けし、アリサのシャーマンに飛び移る。

 

アリサ「・・・・隊長っ・・・・!」

 

アリサはがっくりと肩を落としていて、髪に隠れたその表情は読み取れなかった。

しかし拳をぎゅっと握り、肩はわずかに震えていた。

そんなアリサに、ケイは

 

ケイ 「ナイスファイト、アリサ」

 

頭を抱え込み寄せてぎゅっと抱きしめた。

 

ケイ 「帰ったら・・・・反省会しましょう、ね」

アリサ「隊長・・・・っ!」

 

アリサは声を震わせながら、ケイのパンツァージャケットを強く握った。

 

ケイ 「あなたたちもナイスガッツだったわよ、ダックス。あんな状態でよくあそこまで戦えたわね」

典子 「あはは、紙一重でしたが」

 

アリサから離れるケイ。

アリサはぐいっと顔を拭うと、目は赤かったが吹っ切れたような表情になっていた。

ケイは自分のシャーマンにひらりと戻る。

 

ケイ 「じゃあ、車両はしっかり直してあげてね。シーユー!」

忍  「はい!ありがとうございました!」

アリサ「隊長、後はお願いします!」

 

ケイは笑顔で返し、小隊を引き連れて去っていった。

 

アリサ「あーあ、今度こそ勝てると思ったのに」

 

ケイが去ったあと、アリサはむくれた様子でシャーマンの上で横になる。

 

典子 「いいや、実際かなり危なかった。イチバチの場面も多かったしな」

妙子 「あんな戦い方あったんですね、経験になりました!ありがとうございました!」

アリサ「礼を言われる筋合いはないわよ。・・・・悪かったわね」

典子 「えっ?」

アリサ「目。・・・・まだ開けない?」

あけび「ああ・・・・もうちょっとかかるかもしれませんね」

アリサ「アンタ、これ使いなさい」

 

ピンッ

 

アリサは窓から覗かせていた忍に小瓶を二つ投げ渡した。

 

忍  「これは?」

アリサ「スタングレネード用の目薬よ。それさせば少し治りが早くなるから。言っとくけど使いまわすんじゃないわよ、一人一瓶だからね」

あけび「あ、ありがとうございます!」

アリサ「だから礼言われる筋合いないってば」

 

苦笑しながら横を向く。

あれだけの激戦の間近くにありながら、稲村ヶ崎温泉は一切の被弾が無く、無傷のままだった。

ふう、と息をつき空を見上げるアリサ。

二日目の空は、曇り空一つない澄み渡った青空だった。

 

ギャギャギャギャギャ

 

沢藤と倉鎌の境、住宅地エリアを進むダージリンら中央小隊。

 

ダー 「・・・・そう。ご報告感謝するわ。引き続きお願い」

アッサ「また一両やられましたか」

ダー 「ええ。でもいい勝負だったそうよ。なら致し方ないわね」

ペコ 「これで残り三十八両。まだまだ全体数は残っていますが、敗北条件の一つが見えている現在は新たな対策が必要ですね」

ダー 「これからはフラッグ車を守りながらの戦いになるわ。・・・・当のフラッグ車の行方は知れず、だけれど」

ペコ 「そういえば・・・・向こうのチームの残存数は、いくつでしたでしょうか」

アッサ「お待ちなさい。データを整理するから」

 

アッサムがデータを入力し情報を行進する。

そんな中、町中を進むダージリンら中央小隊。

少し広めの交差点に差し掛かり、交差点へその身を乗り出す。

 

みほ 「あ」

ダー 「あら」

 

そこで、二人の目が合う。

交差点に鎮座していたあんこうチームのⅣ号。

交差点から姿を現したダージリンのチャーチル。

一瞬、双方の時間が止まり____

 

バアン!

ドオン!

 

次の瞬間、双方の車両は一切のズレもなく同時に砲撃を放つのだった。




これまで以上に間隔を空けてしまい申し訳ありませんでした。

頭の中ではアニメのような映像として話がイメージできても、文章に書き起こせない・・・・そんなよくわからない状態がしばらく続いて脱するのに日時をかけてしまいました。
これが俗に言うスランプ、だったのでしょうか?
まあ、素人が何言ってんだ、という所ですね。

二度とこうならないように色々と見直したいところです。

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