ローズヒップ→ローズ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
黒森峰隊員A、B→黒森A、B
ニセイカ娘→ニセ娘
二日目、早朝。
各自一夜限りの宿を後にし、各々の戦車の元へと歩み寄っていく。
決意新たにする者・緊張でろくに眠れなかった者・いつも通りに元気な者・はしゃぎ過ぎて寝るのを忘れていた者などなど多種多様。
そんな準備時間の中、一番張り詰めた空気を醸し出していたのは他でも無いドーラの攻防に関わるメンバーなのは言うまでもない。
カル 「右転輪、および履帯破損。交換には早くても十五分はかかります」
ニセ娘『そんなにか・・・・』
落胆した声を発しながら、駅前コンコースを見やる。
そこには、昨日と同じ位置でサハリアノに照準を合わせているヘッツァーがそびえ立っていた。
ニセ娘『殲滅戦のルール上試合開始前に戦車に触れるのは御法度、破れば即失格もあるだろう』
カル 「試合開始してから片方の履帯が使えない状態で交差点から最寄りの建物に隠れ、時間を稼ぎ履帯と転輪の交換を済ませる。それを狙われた状態からスタート。厳しいですね・・・・」
ペパ 「ズルくないっすか?なんであっちは照準合わせた所からなんすか!」
早苗 「昨日の最後忘れたの?曲がったところを撃ち抜かれて、もう一発当てられてたらやられてたのよ?次の日に持ち越せただけでもラッキーと思わないと」
ニセ娘『フェットチーネの言う通りだ。状況を嘆くよりも、現状を打破する方法を模索するのが一番大事だぞ』
ペパ 「そうは言いますけど姐さん、開始直後に一発撃たれたらはいおしまいっすよ?どーしろってゆーんすか」
ニセ娘『ぬう・・・・』
最もな意見に反論できないアンチョビ。
ペパ 「会長さん、気ぃつかってワザと外したりしてくんないっすかね?」
ニセ娘『角谷はそんな甘い奴じゃない。・・・・というか、そんな手心加えられて嬉しいか?』
ペパ 「そりゃモチロン嫌っす!勝つも負けるも、真剣勝負のうえがいいっすよー!」
ニセ娘『良く言った!それでこそ由緒あるアンツィオの一員だ!』
早苗 「あっちはすごく盛り上がってるけど、ほんとどうしようか?」
カル 「こればかりは、初撃の結果を祈るしかないわね」
そして移り変わってヘッツァー車内。
桃 「ふはははは!まさにまな板の上の鯉!一撃で決めてやるー!」
昨日のはしゃぎ具合が冷めない桃がワクワクしながら照準器を覗いている。
杏 「かーしまー、あんま肩に力入れすぎちゃだめだよ〜」
車内に寝っ転がりながら試合開始を待つ杏。
柚子 「でも会長、ほんとどうしましょう?ここのまま桃ちゃんが決めちゃうとあちらがさらに不利に・・・・」
杏 「こればっかりは手心なんて加えられないしね〜。ま、なるようになるっしょ」
無責任とも取れそうなほど緊張感のない杏。
と___
桃 「会長!」
杏 「うん?」
桃が杏に声を掛ける。
桃 「私に、もう一度催眠をかけてください!」
杏 「ほわ?」
桃 「この一発、絶対に外せません!だから、さらに上乗せして間違いなく当たるようにしてほしいんです!」
柚子 「いや、だから当てちゃまずいんだけど・・・・」
杏 「いいよ〜」
柚子 「会長!」
杏 「だいじょ〜ぶだいじょ〜ぶ、なるようになるって〜」
そう言って杏はまた桃の目の前に五円玉をたらす。
桃の顔は期待に溢れ目もキラキラしている。
杏 「かーしまは砲撃が当てられるようにな〜る、当てられるようにな〜る・・・・」
かくして杏は再度桃に催眠を掛け始めた。
真理 『さあ選手の皆さんが位置につきました!間も無く大規模戦二日目が始まろうとしています!』
上空では初日と同じようにヘリに乗った真理と亜美が町を見渡している。
真理 「蝶野さん、すばり二日目の見どころはどこになるでしょうか」
亜美 「そうですね、やはり沢藤駅前のドーラを巡る攻防でしょうか」
真理 「蝶野さんもそう思われましたか!実は私もです!ドーラの存在に気づいた大学れもん連合の戦車vsドーラを死守する黒森峰&大洗!この結果が今後を決めると言っても過言ではありませんからね」
亜美 「さらに先日、ドーラ攻略の一員であるサハリアノが履帯を損傷。これが撃破されればドーラの撃破は極めて難しくなります。着目ですね」
真里 「はい!解説ありがとうございまーす!」
そして___
真里 『それでは!大規模戦二日目、開催です!』
パァーン!
上空から真里の大きなアナウンスが響き渡り、同時に開始の合図が鳴り渡る。
カル 「試合再開の合図です!」
ニセ娘『アクセル全開!方向は問わんから、とにかく初撃をかわせー!』
早苗 「任せたわよ、ペパロニ!」
ペパ 「よっしゃあー!」
ヴィィィイイイン!
ペパロニがアクセルを目一杯かけ、サハリアノが不恰好ながら交差点から逃れようと動き出す。
柚子 「サハリアノ、動き出しました!」
杏 「あー、でもかなり遅いね〜。こりゃいい的だよ」
桃 「ふははははは!この私から逃れられるものか!」
テンション上がりすぎで悪役のようになってしまっている桃が照準器を覗く。
照準は完璧にサハリアノを捉えている。
桃 「この瞬間・・・・この瞬間を待ち侘びていたぞ!くらええええい!」
ニセ娘『来るぞ!衝撃に備えろ!』
早苗 「・・・・っ!」
アンチョビの声に全員が身をこわばらせる。
桃 「ファイアーーーーーーッ!」
バァン!
そしてヘッツァーから放たれた75mm弾は、吸い込まれるように____
ドオーン!
____近くのビルに命中した。
ニセ娘『・・・・は?』
目測のズレた着弾に呆けるアンチョビ。
カル 「はずれ・・・・た?」
早苗 「な・・・・」
ペパ 「な・・・・」
桃 「なぜだー!?」
各々の中で一番驚いているのは桃だった。
杏 「は〜ずれ〜」
楽しそうに言う杏。
ニセ娘『なんだか知らんがチャンスだ!今のうちに身を隠すぞ!』
ガガガガガガ
片側の履帯だけを使い強引に十字路を曲がるサハリアノ。
ゆっくりだが確実に曲がり角に姿が見切れ始める。
桃 「ああああ逃げられてしまう!次弾次弾装填はやくー!」
焦った桃が声を上げ、柚子が次弾を装填する。
桃 「ファ、ファイヤーっ!」
バァン!
ドォン!
ドゴオン!
次々に放たれる砲弾。
しかし弾はことごとく逸れ、サハリアノを掠りもしなかった。
桃 「な、何故だ!?昨日はあんなに上手くいったのに!?か、会長!ちゃんと催眠術かけてくれたんですよね!?」
杏 「ちゃんとかけたよー」
杏が再度桃に催眠術をかけた時、柚子もそれを見ていた。
確かに間違いなく、昨日と同じ催眠術を桃にかけていたのを柚子は確認している。
桃 「じゃあ何故だ!?何故昨日みたいに効果が無いんだ!何故だー!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『催眠術への期待が強すぎると逆に催眠術にかかりにくくなる』
※ふしぎ研究部144話『リミッター解除のふしぎ』より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
桃 「うわーーーんっ!」
最後はもう泣きながらの砲撃だったが、結局一発も当たることなくサハリアノは離脱に成功するのだった。
ニセ娘『よし!うまく死角に隠れられたぞ、今のうちに修理だ!」
ペパ 「了解っす!」
即座に行動に移し始めたサハリアノチーム。
修理の訓練もしっかり重ねていたので、かなり手際良く進められている。
しかも____
カル 「ドゥーチェ、スパナをお願いします」
ニセ娘『ああ』
触手を使いひょいと渡す。
早苗 「えーと、ここを閉めるのは・・・・」
ニセ娘『そこはレンチを使え。ほら』
かと思えば別の触手を使い早苗に工具を渡す。
残りの触手も履帯の取り付けのために支えたり、ボルトを締め直したりしている。
側から見ると、キューポラから伸びた触手がうねうねとうねり、戦車のあちこちに手を伸ばしかなり異様な光景に見える。
ペパ 「はー、便利っすねーその触手」
ニセ娘『ああ、この触手はそれぞれが独立して動いてくれるからな。インプットされた動作や修理を正確にこなしてくれている」
カル 「ほんとすごい技術力ですね。あの人、どうして海の家の店長やってるんでしょうか」
ニセイカ娘の性能に声をあげつつも疑問も口にするカルパッチョ。
ニセ娘『まあ、人それぞれだ。本人がその道で満足しているなら外野がとやかく言うもんじゃない』
ペパ 「すんませんドゥーチェ、ハンマー取ってもらえますー?」
ニセ娘『ん?ああ』
間近にあったハンマーをひょいと掴み上げペパロニに差し出す。
ペパ 「あっ、どー・・・・もっ・・・・っ!」
下から目一杯手を伸ばしハンマーを掴もうとするペパロニ。
しかしニセイカ娘から差し出された位置は高く、届いていない。
ペパ 「よっ!ふんっ!・・・・あー、ドゥーチェ?すんません、もうちょっと下に伸ばしてくれないっすかね?」
ニセ娘『えっ!?あ、ああ、すまん』
ペパロニに届いていないのに気が付き、慌てて他の触手に掴ませてペパロニの手元に送る。
ペパ 「ありがとっす!」
礼を述べて作業を再開する。
早苗 「あっドゥーチェ、油差しそっちにありますか?」
ニセ娘『ああ、ここにあるぞ。よっと・・・・』
ハンマーと同じように手元にあった油差しを手に取り、身を乗り出して早苗に差し出す。
早苗も背伸びして手を伸ばし、何とか油差しを受け取った。
カル 「・・・・」
そんな光景を複雑な表情で見つめるカルパッチョ。
その後も作業は続いてく。
ドォン!
バァン!
その間、サハリアノに近づけまいと牽制を続けるクルセーダーとパーシング。
ちょこまかと動き威嚇を続け未だ接近を許してはいなかった。
ローズ「サハの字の皆様!修理はまだ終わらないんですの!?」
次第に押し負けそうになりつつあるローズヒップが声を上げる。
メグミ「このまま時間かけてたら増援もあり得るわよ!?」
更に車両数の差もある。
ヘッツァー含め六両いるドーラ防衛隊に対し、攻略隊は動けないサハリアノを除くと二両のみ。
手数が足りないのは明白な上、隊で見た残弾数も厳しくなりつつある。
更に目的を達するためには十分な残弾が必要になるため、威嚇に使える弾数も限られている。
修理が長引けば長引くほど不利なのは明白である。
ニセ娘『ますいぞ、アイツら押し負け始めてる!まだ修理は終わらないのか!?』
カル 「すみません、この部分が予想以上に損傷してて・・・・!」
焦りながら作業を早めるカルパッチョたち。
その直後____
バゴオオオオン!
一際大きな弾着が起きた。
ローズ「おろろろろろろろろ!?」
直撃こそ免れたものの、その衝撃でクルセイダーがコントロールを失いクルクル回りながらビルに衝突した。
メグミ「何事!?」
慌てて双眼鏡を音のした方に向ける。
そこにいたのは、砲口から硝煙を立ち上らせる88mm砲を構えた戦車の姿だった。
メグミ「ティーガーⅡ・・・・!」
正体を目視したメグミに戦慄が走る。
ニセ娘『ティーガーⅡ!?まずいぞ、逸見が来た!』
エリカ「・・・・」
増援に駆けつけたのは黒森峰大洗連合の戦車小隊。
エリカのティーガーⅡと二両の38(t)戦車だった。
杏 「おお〜、サンパチじゃ~ん。懐かしいなぁ」
エリカ『ヘッツァー、聞こえる?状況を報告してちょうだい』
杏 「逸見ちゃん増援感謝だよ〜。現在パーシングとクルセイダーはまだ健在、サハリアノはビル陰で修理中だよ。持ち場を離れてきたってことは、戦力差で数を削っちゃう作戦かな?」
エリカ「ええ。副____オホン、隊長の指示よ。北側に脅威は見られないから、ドーラに引きつけられた戦力を叩くべき、とね」
離れた江ノ島の高台からは、みほが双眼鏡を覗き全体的な流れを観測しながら指示をしている。
みほ 「ドーラは可能な限り防衛してください。あれが健在な限り、相手は戦力を次々投入してきます。都度迎撃し、戦力を確実に削いで下さい」
エリカがきっと前方を睨むと、
ドゴオン!
ボゴオン!
間髪おかず88mm二発目が放たれ、パーシングのすぐ真横の地面を大きく抉る。
その勢いに怯み、じりじりと後退し始める。
メグミ「クルセイダー!いつまでめり込んでるの!」
傍のビルに突っ込んだクルセイダーは未だ動かず、メグミは即座に退却できずにいる。
ドオン!
チュイン!
次々と飛び交う砲弾にも怯まず打ち返すメグミのパーシング。
最年長組のプライドをかけ検討していたが____
ドオン!
突如これまでになかった方向から砲撃音と着弾が起こる。
メグミ「!?増援!?」
慌ててメグミが音がした方を向くと、そこには・・・・
あゆみ「ああっ、外れた!」
梓 「落ち着いて!次決めればいいんだから!」
あや 「桂里奈、もっと近づいて!今なら数で勝てる!」
桂里奈「あい!」
優季 「やっちゃえやっちゃえ~♪」
紗希 「・・・・」
パゾ美「何だか数の暴力みたいで気が引けるなあ」
そど子「こちらに反抗しようとしてきた生徒がいた場合、風紀総出で対処したこともあるでしょ?時には力を合わせて風紀を守るべき時があるのよ!」
ゴモヨ「別にあっちは風紀違反したわけでもないと思うんだけど・・・・」
さらなる増援に駆けつけたウサギさんチームのM3とカモさんチームのB1bisが並び立っていた。
メグミ「ウッソでしょ・・・・まだ増援が来るっていうの!?」
絶望的な展開に諦めの色が浮かび始めるメグミ。
大きく下がって少しでも被弾を免れようとするが、真正面に陣取っているティーガーⅡがそれを許さない。
ドオン!
ガインッ!
次々と装甲を削られていくパーシング。
エリカ「次で決めるわよ!狙え!____撃t」
ティーガーⅡの主砲がパーシングの姿を完璧に照準に捕らえ、二度目の一撃を食らわそうとした次の瞬間!
バシュンッ!
突如道路から煙幕が立ち上り、視界を白く染める。
その煙の範囲は広く、ティーガーⅡやM3のところにも届き視界を妨げる。
メグミ「煙幕・・・・?いったい誰が!?」
???「今のうちに下がりなさい」
メグミ「!?」
煙の中から声がした。
その正体は掴めなかったのの、素直に従いメグミは煙幕に紛れ離脱することに成功する。
エリカ「なっ・・・・一体何ごと!?」
立ち登る煙を手で払い、エリカが周囲を見渡す。
桂里奈「あっ!あそこ!誰かいる」
エリカ「!?」
未だ視界は晴れないが、桂里奈が指差した方角に人影らしいものが見える。
そこには、二人の人影があった。
二人は何かポーズを決め、小さい何かに乗っている。
???「私たちに名乗る名など無い。だが民草から呼ばれ通じる名ならある」
???「私は喜怒哀楽の怒だけで全てを表現する女____」
桂里奈『こ、この名乗り口上は____!』
エリカ「まさか!?」
ブワァッ
突如強い風が吹き視界が晴れる。
そこには、般若の面をつけたバイクスーツの女が立っていた。
HN 「能面ライダー般若、義によって助太刀いたす!」
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。
能面ライダー般若→HN
梓 「わっ、なにアレ!?顔怖っ!」
桂里奈「うわあーっ!能面ライダーだ!かっこいいー!」
あゆみ「え、そう?」
あや 「桂里奈の感性は私には分からんわー」
紗季 「・・・・」
優季 「正直私もわかんないけど、面白そうだからいいや〜♪」
と、般若の後ろからもう一人が姿を表す。
もう一人もライダースーツを着込み、また違った面をつけている。
そど子「えっ!?なにあのお面!?」
ゴモヨ「般若よりは怖くないね、愛嬌感じるくらいには」
パゾ美「あのお面って、確か・・・・」
すると、もう一人も同じくポーズをとる。
???「私は、喜怒哀楽の楽だけで全てを表現する女、能面ライダーひょっとこ!・・・・略してHT、とでも呼んでくれればいい」
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。
能面ライダーひょっとこ→HT
桂里奈「おおおーっ!何だかあっちもカッコいい!」
大興奮の桂里奈。
その様子は上空を飛んでいる真理たちも目視できていた。
真理 『なんということでしょう!ここで大学れもん連合からの隠し球!能面ライダーの乱入でーす!』
観衆 「おおおー!」
思わぬ展開に盛り上がる観客たち。
真理 「いやー、ほんとどこにでも湧いてきますねあの人!しかも二人に増えちゃってるし!」
亜美 「それに、あれを見てください」
真理 「え?」
亜美の指差す先、つまり二人の能面ライダーの乗っている車両、それもやがて見えるようになってきていた。
しかし、お世辞に見てもそれは戦車には見えない。
どちらかと言うと____
真理 「あれは・・・・戦車がくっついた、バイクですか!?」
エリカ「ケッテンクラートですって・・・・!?」
車両を確認したエリカが驚愕の声を上げる。
能面ライダーたちが乗っている車両は、前部はバイク、後部には豆戦車を取り付けたが如くキャタピラがくっついている半装軌車____ケッテンクラートだった。
あや 「あれってもはや戦車じゃなくてバイクじゃない!?」
あゆみ「オープントップ通り越してフルオープンだね」
優季 「でも、なんだか可愛いかも〜♪」
梓 「きっと強敵だよ!油断しないで!」
先手必勝とM3が攻撃を仕掛けるべく前へ出る。
それに気づいた能面ライダー組は即座に配置についた。
般若は操縦席、ひょっとこは後部荷台に設置された砲座につく。
しかし車両の構造の都合で、設置された砲は真後ろを向いている。
だがケッテンクラートはM3に突っ込んでいく。
桂里奈「あいっ、こっちに来るよ!」
梓 「バイクだからやっぱり早い!落ち着いて狙って!」
バァン!
ドォン!
M3の二砲門から放たれる砲弾。
しかし、
ギュアンッ!
般若は巧みな操縦で二発とも難なくかわす。
あゆみ「外れた!」
梓 「次弾装填、急いで!」
慌てて次弾装填を行うも、既にケッテンクラートはM3とすれ違い後方に回っていた。
ケッテンクラートの真後ろがM3に真っすぐ浮いた状態になり、取り付けられた5cm対戦車砲____Pak38もバッチリ照準を捉えている。
梓 「まずい!急速旋回!」
桂里奈「あ、あいーっ!」
ギャギャギャギャギャ
目一杯信地旋回を行う。
ドゴオン!
ヒュンッ!
その瞬間放たれた砲弾は信地旋回したM3ギリギリをかすめ____
バァン!
シュポッ
後ろに位置していた38(t)に命中し撃破しらしめた。
梓 「あ、危なかった・・・・!」
ほっと胸を撫で下ろす梓。
しかし____
ババババババババババ
ケッテンクラートは急旋回をきめ、再びM3に向かって突撃してきた。
あゆみ「うわーーっ!また来たーっ!」
優季 「逃げよ逃げよ!」
桂里奈「あいーーーーっ!」
直後M3は全速力で逃げ出した。
そしてそれを追うケッテンクラート。
戦車がバイクから逃げ回ると言う奇妙な構図が出来上がる。
冷静に考えれば対戦車砲は後方に向けて設置してあるので追いかけてくる限り何も怖くないのだが、垣間見た砲撃力と腕前、そして迫る般若の面にウサギさんチームの面々はパニックを起こしてしまっていた。
エリカ「全く・・・・何やってんのよあの子たち!」
ギュイン!
砲塔を大きく回し、周囲を警戒する。
ふと建物の方を見ると・・・・
エリカ「いない!?」
建物に突っ込んで沈黙していたクルセイダーがいつの間にかいなくなっていた。
ヴィイイイイイイン
耳を澄ますと、離れたいるとビルの間を走る駆動音が聞こえてきた。
煙幕と能面ライダーのどさくさに紛れ、ローズヒップのクルセイダーも離脱に成功していたのだった。
エリカ「くっ、逃すもんですか!総員守備体勢!奴らの狙いはドーラよ、線路に近づかせるな!」
状況を理解したエリカが指示を飛ばし、いまだ健在の守備隊が守りを固める。
エリカ「おかめチーム!相手ががそっち行ったわ、食い止めなさい!」
杏 『あ~、ウチはおかめじゃなくてカメさんなんだけど』
エリカ「そんなのどっちだっていいでしょ!早く動きなさい!」
杏 『いやいや、こういうのは大切だよ?ちゃんとした名前で呼んで、信頼関係を築いてかないと言うこと聞いてもらえないよ~?』
エリカ「ぐっ・・・・!」
こういう押し問答になると杏は一切引かないことをエリカは知っていた。
そして時間をかければかけるほどクルセイダーらがドーラに近づいてしまうことも十分に理解している。
エリカは無線機をぎゅっと握りしめると____
エリカ「____メさんチーム、ドーラの防衛へ・・・・」
顔を赤らめながら呟く。
杏 『え~?今何か言った?ごめん、聞こえなかったなあ~?』
すっとぼけた口調で返してくる杏。
エリカ「ぐぬぬぬぬぬ・・・・!」
そして顔を真っ赤にさせながら大きく叫ぶ。
エリカ「カメさんチーム!ドーラの防衛を!あいつらを阻止しなさい!」
杏 『了解しました逸見副隊長~♪』
やっとカメさんチームはドーラ防衛に向けて動き出した。
エリカ「ああもう!どうしてあの子こんな子供みたいな名前つけてんのよ!」
顔を赤らめながら憤慨するエリカ。
と・・・・
そど子「・・・・」
エリカ「・・・・」
B1bisからそど子が顔を覗かせ、エリカを見つめている。
そど子「・・・・」
エリカ「・・・・」
二人を沈黙が包む。
しばらくして。
エリカ「・・・・カモさんチームも、増援に行ってあげて」
再び顔を赤らめて指示を送ると、そど子は満足そうにドーラの方へ向かっていった。
エリカ「はあ・・・・」
エリカはがっくりとキューポラに突っ伏した。
ドオン!
ドガアン!
沢藤駅周辺では変わらず激しい戦いが繰り広げられている。
沢藤駅から西に伸びた小田急江ノ島線路上に位置しているドーラを守るべく、護衛に当たっていたパンターやⅣ号駆逐戦車らが攻め込んできたパーシングに応戦していた。
メグミ「守り硬すぎよね・・・・やっぱり本体を叩くより線路を断絶させるべきなんだけど」
ローズ『こちらも今向かっていますけれども、さすがにあちら様もそれは分かってるようですわね。おいそれと行かせてもらえそうにありませんわ』
メグミ「ここで二手に分かれても各個撃破されるのは目に見えてるわ。せめてもう一両あれば分散して注意を逸らせるんだけど・・・・」
ペパ 『お呼びっすかね!』
メグミ「!あんたたち!」
メグミたちの無線会話にサハリアノチームが割り込む。
ローズ『サハの字の皆さま!もう大丈夫なんですの!?』
カル 『お待たせしました、今そちらへ向かっています』
メグミ「よし、行けるわ!今の会話は聞いてたわね!?」
早苗 『ええ!線路の破壊のために分散、よね!』
メグミ「なら話は早いわ!ここは私が引きつけておくから、あなたたちは線路を破壊して!」
ニセ娘『了解だ!そこは任せたぞ!』
無線で作戦を伝え聞いたサハリアノチームもドーラの方へ向かう。
カル 「ドーラはその構造上、砲の上げ下げはできても左右に振ることはできません。狙いをつけるためには車体がそちらを向く必要があるんです」
早苗 「突撃砲みたいなもの?つまり、左に向くには線路が左にカーブしてないといけないのね」
ニセ娘『その通りだ。そして由比ヶ浜方面に向くことができる左カーブは、あそこしかない!』
キキィッ!
そしてサハリアノはある地点に到着した。
ニセ娘『見つけたぞ・・・・!』
沢藤駅から西に進み、北に緩やかにカーブする高架上の線路。
そこにドーラはそびえ立っていた。
早苗 「うわー・・・・おっきーい!こんなに大きかったら隠れようがないわね」
ニセ娘『だがここらは駅前というのもあって建物が入り組んでいる。少し離れれば影に隠れて目視は困難になるだろうな。うまい場所を見つけたもんだ』
ペパ 「んで、どうするんすか?さすがにあの大きさじゃ75mmでもキツいっすよ?」
カル 「ドーラ自体を撃破する必要はないわ。あれは線路がないと前進すらできない車両だから、足元の線路を少しでも断絶させれば途端に運行不能になるわ」
ニセ娘『その通りだ。どうせなら車輪の真下を狙え、それなら即座に動けなくなる』
サハリアノのいる位置からは角度的に線路が狙えないため、土手を登り線路に近づき始める。
ニセ娘『!』
と、背後に気配を感じるアンチョビ。
ニセ娘『背後だ!かわせ!』
ペパ 「っとぉ!?」
バゴォン!
即座に反応したペパロニが大きくハンドルを回すと、目前の土手が弾着で大きく抉れる。
ばっと後ろを向くと、そこにはヘッツァーが硝煙を上げながら睨みを効かせていた。
カル 「後方より、ヘッツァー!」
早苗 「今のは危なかったわね、河嶋さん催眠かけ直せたのかしら?」
ニセ娘『いや、恐らく砲座に座ってるのは・・・・」
杏 「・・・・」
アンチョビの読み通り、砲座についているのは桃ではなく杏だった。
いつになく真面目な表情で、だが少し楽しそうにトリガーを握っている。
ニセ娘『・・・・いいだろう。昨日の決着をつけるぞ、角谷!』
ギュアッ!
バァン!
砲塔だけを急旋回させ即座に砲撃を放つ。
ドオン!
しかしそれも読んでいたヘッツァーは僅かに後退することで難なくかわす。
ギュイイイイン
その隙に旋回を済ませたサハリアノが、土手沿いに車体を斜めにしながらヘッツァーに吶喊する。
杏 「おお、来た来た!かーしま、次弾よろしく~」
桃 「っ、ぬおー!」
桃が気合を入れながら装填を済まし、
ドオン!
即座に放たれる砲弾。
それもかわし、更に接近を続けるサハリアノ。
バァン!
チュインッ
撃ち返すサハリアノ。
その砲弾はヘッツァーの側面装甲を削る。
押しも押されぬ砲撃戦が始まった。
ローズ「おほほほほ!捕まえてごらんなさーい!」
その近くではローズヒップが派手な音を立てながらクルセイダーを乗り回している。
そど子「こらーっ、そこの暴走戦車止まりなさい!速度超過は道路風紀法違反よーっ!」
パゾ美「道路風紀法ってなに?」
ゴモヨ「つまりはそど子の気分次第ってことかな?」
ヴィイイイイン!
ド派手に音を立てながらドーラの周りを走り回るクルセイダーはそれだけで周囲の注意を引き付けている。
現にカモさんチームのB1bisを筆頭に、パンターやⅣ号駆逐戦車もクルセイダーを追い回している。
そして残りは____
エリカ「いつまでも隠れてないで出てきなさい!アンタらは三人揃わないと腰抜けなの!?」
バアン!
バギイン!
ドーラ脇で戦闘を続けるサハリアノとヘッツァー、周辺で追いかけっこをしているクルセイダーとB1bis、そしてドーラの鼻先、高架下でにらみ合いを続けているパーシングとティーガーⅡ。
三つに枝分かれしている局面の中、一番窮地に立たされているのはメグミのパーシングだった。
エリカのティーガーⅡに睨まれているうえ、両脇に38(t)戦車とパンターがそびえ立っているため、履帯の先っぽを出す余裕すらない。
エリカ「出てきなさい島田流!忍者戦術とか言っといて、隠れるしか能がないわけ!?」
メグミ「言わせておけばー!まったく、しつこいわねえ西住流は!」
エリカが挑発し誘い出そうとするが、メグミはそれに乗ろうとはしない。
姿を見せればハチの巣なのは間違いないし、ここで注意を引けばアンチョビたちがドーラを攻略する時間を稼げると踏んでいた。
しかしそんなことはエリカも百も承知。
バアン!
ドオン!
ジリジリ・・・・
威嚇射撃を繰り返しつつも、38(t)戦車が確実に距離を詰めてくる。
いつまでも物陰に隠れていようと、いずれは距離を詰められて撃破される。
しかし近寄る38(t)戦車を仕留めようにも、姿を見せれば結末は見えている。
メグミ(くっ、嫌らしい攻め方してくるじゃない!もしここにルミやアズミがいてくれたらあの程度すぐに蹴散らしてやるのに!)
メグミの脳裏に序盤でリタイアしてしまったルミとアズミの姿が思い浮かぶ。
偵察のためと一人離れドーラの被害を免れていたことに若干の引け目を感じていた。
メグミ(ええい、何弱気になってるのメグミ!こんな事態あっという間にひっくり返してドーラ撃破して、二人にふんぞり返って自慢してやるんだから!)
弱気を振り払い決意を新たにするメグミ。
メグミ(この事態を打破するとしたら、ギリギリのタイミングで飛び出してあいつらに勝負を仕掛けるしかない!正面装甲を抜けるかどうかは賭けだけど・・・・ここに留まったまま負けるより遥かにマシよ!)
意を決したメグミはエンジンを思いっきり吹かす。
メグミ「いい、合図したら全速力で飛び出すわよ!、3・2・1・・・・!」
そしてGOを出そうとした瞬間____
ヴィイイイイイイン
何か音が聞こえてきた。
エリカ「?」
それはエリカにも聞こえていたようで、音のした方を向く。
と、そこには____
HN 「まーちーなーさーいー」
桂里奈「ぎゃー!まだ追いかけてくるー!」
般若のケッテンクラートから逃げ合わっていたM3だった。
パニック状態になっているウサギさんチームは、前が見えていないのかメグミたちのいる高架下へと突っ込んでくる。
黒森A「な、なに!?」
あまりのM3の取り乱しっぷりに注意が逸れてしまう38(t)戦車の車長。
メグミ「今よ!」
ヴァンッ!
目一杯にアクセルをふかしていたパーシングが飛び出し、面食らった38(t)戦車に一撃を浴びせる。
バアン!
シュポッ
当たりどころの悪かった38(t)戦車が白旗を上げる。
エリカ「くっ、このタイミングで!狙え!」
メグミ「っ・・・・!」
エリカの号令で照準をつけるパンター。
発射直後でパーシングは無防備になっている。
が、そこへ
桂里奈「あいいいいい!」
ケッテンクラートに追い込まれたM3が突っ込んでくる。
そして、
ヴィイイイン!
道路に落ちていたガレキを踏み台にしたケッテンクラートの車体が宙を舞う。
それは吸い込まれるように、M3のキューポラの真上に落ちてくる。
梓 「わわわ、うそっ!?」
バタン!
ガシン!
梓がキューポラを閉じて車内に引っ込んだ直後、ケッテンクラートはM3に乗り上げた。
そして直後にその場で急旋回し始める。
ギュイイイイン!
バアン!×5
その回転中にひょっとこがPak38を連射、パンターやティーガーⅡに砲弾を浴びせ、
シュポッ
何発も浴びてしまったパンターは撃破された。
エリカ「なっ・・・・」
あまりの展開に開いた口が塞がらないエリカ。
そしてケッテンクラートはM3からスマートに降りると・・・・
ヴィイイイン!
桂里奈「あいいいいい!?」
M3を追ってまた姿が見えなくなった。
あまりの展開にメグミとエリカ、双方が呆けていると、
ガゴオンッ!
ブシューーーッ・・・・
ひと際重厚で大きな声が響き渡る。
何ごとかと上を見上げると・・・・
メグミ「ドーラが・・・・動き出した・・・・!」
ゆっくりとではあるが、ドーラが確実に前へ進み始めた。
左に緩やかに曲がるカーブに沿い、80cm砲が由比ガ浜の方へと向き始める。
ニセ娘『まずいぞ、ドーラが動き出した!』
未だヘッツァーと戦闘を繰り広げているアンチョビたちも、ドーラの動きに気が付いた。
ペパ 「何すか!?逃げるつもりっすかね!?」
早苗 「あの大きさとスピードでそれはないよ」
カル 「となれば、あの動き・・・・まさか照準をつけてる!?」
車内に戦慄が走る。
ニセ娘『まずいぞ!ドーラが何を狙っているか、わかるか!?』
慌てて地図を広げるカルパッチョ。
カル 「射角、線路から推測すると・・・・おそらくここです!」
カルパッチョが指さした位置、そこは・・・・ケイたちが駐留している稲村ケ崎温泉だった。
~~稲村ケ崎温泉にて~~
ケイ 「ハリアップ、エヴリワン!ドーラが飛んでくるわよ!」
施設の駐車場に並んでいた戦車たちが次々と離脱していく。
初日に受けたダメージのオーバーホールのため、ケイたちは稲村ケ崎温泉から動けていなかったのである。
おおよその戦車は離脱が完了しているが、修理の完了が遅れているため逃げそびれている車両も見受けられる。
車長 「ボルト!ボルトどこ!?」
通信手「右前部転輪付け終わったよ!履帯まわして!」
砲手 「あいたー!爪割れたー!」
特にシャーマンチームは修理技術の未熟さとパニックから遅々として修理が終わらない。
ケイ 「ヘイ、シャーマンズ!」
ケイが駆け寄る。
装填手「た、隊長!?」
ケイ 「どこがまだ終わってないの?」
しゃがんで修理を手伝い始める。
操縦主「だ、だめですよ隊長、早く離脱してください!隊長がやられちゃったらみんなどうすればいいんですか!」
ケイ 「大を生かすために小を切り捨てる者はサンダースにはいないわ!それに・・・・」
車長 「それに?」
ケイ 「何とかしてくれるって信じてるから。彼女たちのこと」
~~沢藤駅前に戻る~~
カル 「サンダース小隊、まだ全撤退完了していません!」
ニセ娘『まずいぞ・・・・、こいつを止めなければ被害は甚大だ!一気に負けが見えてくるぞ!』
バアン!
チュインッ
どうにかしてドーラに近づきたいサハリアノだが、ヘッツァーがそれを許さない。
ニセ娘『誰かドーラを止めろ!照準をつけさせるな!』
ローズ『お任せくださいませー!』
猛スピードで駆けまわり追跡を振り払ったクルセイダーが猛スピードでドーラへ駆け寄る。
これでいける!と思った次の瞬間、
ヒョコッ
突如曲がり角からB1bisが飛び出して来た。
ローズ「!?」
ギャリンッ!
真正面同士でぶつかった拍子にクルセイダーはB1bisに勢いよく乗りあがり、ジャンプ台の要領で大きく飛び上がってしまう。
ローズ「あーれー!」
ドガシャーン!
そのまま高く上がったクルセイダーは、近くの民家の二階に突き刺さってしまうのだった。
ニセ娘『だあああ!何やってんだあああ!』
メグミ「・・・・!」
もはや打つ手が思いつかなくなった時、メグミの顔に覚悟が灯った。
バアン!
エリカ「!」
極めて正確な砲撃に身を隠すティーガーⅡ。
その隙を逃さず、メグミのパーシングが土手を上り、ドーラ阻止へと動き出す。
エリカ「させるもんですか!」
ドオン!
無防備に見せてしまった側面に放たれる88mm弾。
済んでのところでブレーキをかけ、偏差射撃に対応するが____
バギャン!
一瞬反応が遅れ、パーシングの砲身がひん曲がってしまった。
メグミ「しまった?!」
これで砲弾一つ放つことはできない。
もはやこれまでか、と諦めの空気が流れ始めたその時、
ヴィイイイイイン!
使い物にならなくなった砲身そのままにパーシングは土手を駆け上がり線路に乗り上げる。
目前からは段違いの質量差があるドーラが迫る。
そして____
ヴォオオオン!
パーシングは真っ向からドーラに向かって突撃し、
ガッシイイイン!
何と正面から体当たりを敢行した。
メグミ「こんのっ・・・・止まりなさいよ!」
常識で考えれば止まるはずのない無茶な試み。
だが偶然にもパーシングの車体や履帯がドーラの車輪に巻き込まれる形になり、『かませた』状態になり車輪の回転を阻害している。
ベギベギ・・・・バギン!
しかしそれはパーシングの車体を巻き込み粉砕していくということでもあり、どんどんパーシングの面影が無くなっていく。
だがメグミはぶつかっていくことを諦めない。
メグミ「これ以上・・・・仲間をやらせるもんですかーーーーッ!」
バギャン!ベギギギギ!ベキャキャキャキャ!
これ以上ないくらいに不穏な粉砕音を立てながら更にパーシングがドーラの車輪にめり込み、ドーラの動きが遅くなっていく。
ニセ娘『あいつ・・・・!』
メグミの捨て身の突撃に言葉を失うアンチョビ。
カル 「早苗さん!真下、高架を狙って!」
早苗 「!」
今サハリアノがいる位置からは上に線路が渡る高架が見える。
そしてそこにはドーラが差し掛かろうとしている。
早苗は即座に理解し____
ドオン!
隙をついて放たれた75mm弾は高架に吸い込まれるように飛んでいき・・・・
バゴオン!
着弾、大きくさく裂し線路を断裂させることに成功した。
ガコン!
その断絶した線路に差し掛かったドーラの車輪は、まるで足を踏み外すかのように車体を傾ける。
早苗 「やった!」
作戦成功と喜んだ直後____
ドゴオオオオオオオオオオオオン!
体勢を崩したドーラが主砲を放った。
照準が定まっていたのか、はたまた悔し紛れなのか、放たれた砲弾は目標には及ばず稲村ケ崎温泉から大分外れた位置に着弾するのだった。
バキッ・・・・ガラガラガラ!
傾きかけた車体で80cm砲を放った反動でドーラは大きく傾き、更に大きく損傷した高架は支えきれず崩れ始めた。
柚子 「ドーラが、倒れてきます!」
杏 「こりゃ~危ないね、撤退~」
いち早く危険に気が付いたヘッツァーが離脱する。
エリカ「くっ、まさかあんな滅茶苦茶なやり方で・・・・はっ!?」
ドーラが撃破されたことにショックを受けていたエリカの反応が一瞬遅れ、ティーガーⅡに向けて倒れてくるドーラに気が付けなかった。
エリカ「まずい、全速離脱!」
慌てて離脱しようとするが、
ガッ!
エリカ「!?」
なんとティーガーⅡの転輪部分に瓦礫が挟まり、履帯が回せない。
どんなに回転数を上げてもがっちり食い込み外れずにいた。
エリカ「ま、まずい!」
焦るエリカ。
再度見上げると・・・・
ズズズズズズ・・・・
まるでスローモーションのようにドーラが真っすぐにティーガーⅡへ向けて倒れこんできている。
杏 「逸見ちゃん?!」
黒森B「逸見副隊長ーっ!?」
エリカ「っ・・・・!」
もはや成す術もなく、思わず手で庇うエリカ。
ヴィイイイイイイン
HT 「エリカーーーーーーーッ!」
ニセ娘『!?あいつら!』
その時、どこからともなく現れたケッテンクラートが猛スピードで駆けつけたかと思うと、
ヴィンッ!
うまく瓦礫を踏んでジャンプ、宙を舞いティーガーⅡへと突っ込んでいく。
ガッシインッ!
そしてそのままティーガーⅡに体当たりし____
バゴォン!
ぶつかった瞬間Pak38対戦車砲を放つ。
その衝撃により転輪に挟まっていた瓦礫は転輪とともにはじけ飛んだ。
そしてその勢いによりティーガーⅡとケッテンクラートは一気に加速し、ドーラの下から脱出に成功したのだった。
ドオオオオオン!
シュポッ
シュポッ
地面に倒れこんだドーラから白旗が上がり、身を挺してドーラを食い止めていたメグミのパーシングも同じタイミングに白旗を上げた。
エリカ「・・・・」
未だ何が起こったか理解できず、呆けるエリカ。
HT 「無事か、エリカ」
声をかけられはっと振り向くと、そこにはケッテンクラートにまたがった能面ライダー般若とひょっとこがいた。
ケッテンクラートの後部座席に後ろ向きで乗るショートヘアーのひょっとこ少女は、エリカの無事を確認すると安心したようなそぶりを見せた。
HN 「無事でよかったわ。それじゃあ、またね」
ロングヘアーの般若はにこやかに声をかけた後、思い切りアクセルをふかす。
ヴィイイイイイイイン
それ以上は語らず、彼女らは速やかに立ち去って行った。
黒森B「逸見副隊長!ご無事でしたか!」
振り返ると、パンターの車長が駆け寄りエリカの身を案じていた。
エリカ「・・・・ええ」
黒森B「ドーラの撃破を確認して、即座にサハリアノらは撤退を始めました。追撃しましょうか?」
エリカ「・・・・いえ。こちらもかなりの損害を受けたわ。被害を確認し、処置を済ませて本体と合流するわよ」
黒森B「了解しました!」
敬礼して去っていくパンター車長。
もう一度振り返るエリカ。
ケッテンクラートは、もう見えなくなっていた。
タイミングとしては的外れですが、あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします。
年も明け、ついに最終章三話の公開日が発表されました。
三月になれば、この騒ぎも少しは落ち着くのでしょうか?
もしそうなったとしたら、ぜひ劇場に足を運びたいものですね。