カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門佐→左衛門
ナカジマ→ナカ
ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
ニセイカ娘→ニセ娘
ペパ 「ひゃーあっほーぅ!」
ザバーン!
ペパロニが思いっきりジャンプし湯船に飛び込み、大きな湯しぶぎがあがる。
早苗 「もうペパロニったら、行儀悪いわよ?」
ペパ 「硬いこと言うなよフェットチーネ!この広い浴場に私ら以外にはだーれもいないんどからさ!」
ペパロニの言う通り、湯船どころか周囲に他の客は一切いない。
この場所は沢藤駅前のフィットネスセンター。
一日目終了のアナウンスが流れた後、サハリアノを現地に残しアンチョビたちは一日の疲れと汚れを落とすべくスパ設備を利用していた。
早苗 「それにしても助かっちゃった。てっきり試合が決着つくまでお風呂とか入らないのかと覚悟してたんだけど」
カル 「それは流石に勘弁してほしいわね。やっぱり一日一回はお風呂に入らないと」
早苗 「そうよねー。私たち女の子だもんねー」
ガールズトークに花開く二人をよそに、ペパロニは湯船をひときしり泳ぎ回った。
ペパ 「はー、ごくらくごくらくー」
メグミ「何よ、おばさんみたいなこと言っちゃって」
やがてメグミも同じスパにやってきた。
体を流し、湯船に身を沈めるメグミ。
メグミ「はぁ・・・・沁みるわぁー・・・・」
ペパ 「なんかばあちゃんくさいっすよ、アンタ」
メグミ「うっさいわね!」
ローズ「いざ!吶喊ー!」
後ろからローズヒップが湯船めがけ駆けてくる。
メグミ「わわわわわ、ちょっと待ちなさい!私たち入ってるのよ!?」
ローズ「とおおぉおう!」
ドッパーーーン!
メグミ「ひゃーーー!?」
ペパ 「あはははははははは!」
メンバーの普段以上のはっちゃけにより否応無く盛り上がる一同。
全員湯船に浸かり、和やかにしながら今日の試合展開を振り返り語り合う。
ローズ「それにしても何ですのあの列車砲!サイズふざけすぎておりますわ!?」
カル 「まさかドーラまで使用許可が下りていたなんて・・・・知りませんでした」
メグミ「ドーラは前に貴女たちとやりあった時にカールと一緒に認可されていたわ。あの時は線路が引けるほどの立地が無かったのと、サイズがありすぎて見つかる可能性を危惧して隊長の指示でカールにしていたのよ」
ペパ 「うえー、あんなの出されてたら負けてたかもしんないっすね」
ニセ娘『問題は、今まさにそいつが私たちの前に立ちはだかっているということだ』
ペパ 「そっすねー。線路さえ壊しちゃえば怖くはなくなるんすけど、それが難しいんすよねー」
ニセ娘『ドーラ自体を倒す訳じゃないんだ、可能性は十分ある』
カル 「そのためにも作戦会議、ですね」
ニセ娘『そういうことだ』
メグミ「・・・・」
湯船に浸かりながら論議するアンチョビたちを、ぽかんとした顔で見るメグミ。
和気藹々と並んで浸かっている中で、唯一ニセイカ娘の頭部だけが異様に目立っている。
メグミ「ねえ、なんであんたも入ってるの?」
ニセ娘『ん?』
ニセイカ娘の頭部がメグミの方を向く。
その威圧感にビクッとする。
メグミ「だ、だってあんた遠隔操作してるんでしょ?だったらお風呂入る必要なんてないじゃない」
ニセ娘『確かにそうだが、戦車道において風呂の時間というのも大切なものだぞ?硬い車内から解放され、湯に浸かってリラックスした状態で初めて出てくる発想もある。そのためにもどんな形であろうとも風呂コミュニケーションを蔑ろにはできないからな』
ペパ 「さすがドゥーチェっす!」
メグミ「本体は湯に浸かってないでしょうが!」
やいのやいのとそんな会話をしていると____
杏 「やーやー、賑やかだねぇ」
亀さんチームの三人が入ってきた。
ニセ娘『角谷!?』
杏 「やーチョビ子、さっきは危なかったねぇ」
まるで他人事のように、笑顔で杏たちは湯船に浸かる。
ペパ 「ちょっと!何同じトコ来てんすか!作戦会議を盗み聞こうなんて戦車道精神に反するっすよ!」
杏 「まーまーそんな硬いこと言わない。干し芋食べる?」
ペパ 「食べるー!」
どこから取り出したのか干し芋の入った袋を取り出し、ペパロニを懐柔する。
カル 「それにしても、試合終了間際の砲撃、凄かったです」
早苗 「ほんとほんと!もう少し侵入角度深かったらやられてたわ」
ニセ娘『もちろん交差点に侵入する際に注意してたが、それすら見越して当ててきた。あの腕前は並じゃなかった』
桃 「・・・・♪」
口々に試合終了間際の桃の一撃を、本人の前で誉めちぎる。
そのたび桃の顔が緩む。
ペパ 「いやマジで、あの一撃ヤバかったっすよ!正直終わったかと思いましたもん!」
メグミ「実際、あれ程の腕前を持つ子はウチじゃ隊長以外にはいないかもしれないわ」
桃 「〜〜♪」
なおも褒め称えられ、むずがゆさからクネクネし始める桃。
その度に湯が揺れる。
ペパ 「アンタ、さっきから落ち着きないっすよ」
桃 「いやだって、えへへへへ」
柚子 「桃ちゃん、落ち着いて」
杏 「まあ、今までこんなに褒められたことなかったからねえ」
カル 「え?」
杏 「撃ってたのはかーしまだよ~」
杏は天井を仰ぎながら干し芋をあむあむと頬張りながら言う。
ニセ娘『はあ!?砲手は角谷じゃなかったのか!?』
信じられないといった表情で一斉に桃の方を見る。
ここにいる全員が桃の腕前を知っている。
ヘッツァーが砲口を向けているにも関わらず突っ込んでいったのも、桃の砲撃技術を理解した上でのことだった。
懐疑的な視線を向けられてなお、ふんすとふんぞり返る桃。
早苗 「河嶋さんって砲撃得意じゃなかったって聞いてたけど、あれを見る限りそうとは思えないね。何か特訓でもしたの?」
杏 「ん~、特訓は何度もしたんだけどね~」
柚子 「桃ちゃんが撃つと、必ず砲口があさっての方向いちゃうのよね・・・・」
ペパ 「何か呪われてるんじゃないっすか?」
容赦ない一言。
カル 「じゃあ、どうして?」
杏 「いやあ、見よう見まねで財布に入ってた五円玉を・・・・ね」
そう言って五円玉を揺らすそぶりを取る。
ニセ娘『はあ!?』
メグミ「まさかそれだけで!?」
杏 「や~、まさかあそこまで効果あるとはね」
他人事のように笑い飛ばす。
ニセ娘『西住の件といい河嶋の件といい、お前らは催眠が絡むとロクなことにならんな!』
杏 「あっはっはっはっは」
なおも笑い飛ばそうとする杏。
ザバーン!
ローズ「わたくしは河嶋さんの実力、最初から分かっておりましてよ!」
得意満面な顔で立ち上がるローズヒップ。
ニセ娘『おいはしたないぞ、ちゃんと湯に浸かれ』
ローズ「何故なら河嶋さんは!」
聞いちゃいない。
ローズ「河嶋さんは、宙を舞うわたくしをいとも簡単に打ち抜いたお方!ならばそれほどの技量が眠っていてもおかしくはありませんわ!」
ニセ娘『いや、あれはお前を狙ったんじゃなくて、逸れた車線にお前が飛び込んできただけだろ』
ローズ「Still Water Runs Deep(訳:静かに流れる川は深い)ですわ!」
ニセ娘『話を聞けーー!』
収集つかなくなってきた浴場内。
桃 「つあーっ!」
感極まった桃が真っ赤な顔で勢いよく立ち上がる。
桃 「か、会長!」
杏 「ん~?」
桃 「私、明日頑張りますから!明日は私がみんな倒してみせますから!見ててください!」
杏 「お~、期待してるよ~」
ニセ娘『いや止めろ!というか催眠を解けーっ!』
更に激しくにぎやかに、スパ内の夜は更けていくのだった。
~~同時刻・稲村ケ崎温泉にて~~
ケイ 「ん~~~~・・・・。いい湯よねえ・・・・」
西 「これぞ命の洗濯というものです」
福田 「自分、こんなにも大きな温泉は久方ぶりであります!」
清美 「・・・・」
江の島から鎌倉方面へ海岸沿いに進んだ先、そこに稲村ケ崎温泉はある。
そこでは、最初に江の島攻略を試みていたサンダース・知波単・清美らの小隊メンバーが温泉に浸かっていた。
貸し切り状態の温泉に、隊のメンバーらは大いにはしゃいでいる。
砲手 「おおー!江の島見えるよ!」
操縦手「えっ!どこどこ!?」
装填手「あ〜、あそこかな〜?」
車長 「いや、あれは埠頭だよ」
通信手「今の江の島は逆に真っ暗なんじゃない?」
露天風呂ではシャーマンチームが楽しそうにしている。
知美 「前から来たいな〜とは思ってたけど、まさか初めてがこんな形だなんてね」
由佳 「私もー。ここはまだ部活動で侵略してなかったもんね」
綾乃 「うん。・・・・イカ先輩たち、大丈夫かな?」
綾乃の言葉で未だ連絡が取れないイカ娘たちを思い出し、少し気分が落ちる。
アリサ「ま、だいじょぶなんじゃない?」
傍で話を聞いていたアリサが近づく。
知美 「アリサさん・・・・」
アリサ「スクイーディはちょっとやそっとじゃ諦めない子だし、やると決めたら最後までやるタイプよ。たとえ大破したって最後の瞬間まであがき続けるでしょ」
由佳 「うん・・・・私もそう思います」
アリサの言葉で希望を取り戻したかのように、目に光が戻る三人だった。
ケイ 「どうやら、こっちが心配することはなかったみたいねー」
少し離れた湯船から知美たちを見ていたケイは、安心したように湯に肩まで浸かる。
西 「うむ、烏賊娘殿なら必ずや大手を振って戻られよう!我らはその時諸手を振って歓迎しましょうぞ」
清美 「・・・・」
他にも、同施設内では____
細見 「お地蔵様お地蔵様、どうぞ我ら知波単学園に映えある勝利と栄光を!」
玉田 「何卒なにとぞーっ!」
寺本 「ぬぉぉぉぉぉお!」
細見たちが施設内に鎮座しているマスコット地蔵に願掛けしていたりもしていた。
そんな中、清美はと言うと・・・・
清美 「・・・・(ジー)」
何度も真面目な顔でケイと西の胸元を凝視しては、自分の胸元に目線を落としため息をついている。
ケイ 「んー?キヨミ、どうしたの?」
ケイが清美の目線に気がつく。
清美 「えっ!?あ、そのっ!」
ケイ 「さっきから私とキヌヨを見てたみたいだけど、何か気になるところとかあったかしら?」
西 「ぬ?そうであったか」
注意するわけでなく、純粋に疑問から尋ねるケイ。
目線がばれ、慌て始める清美。
ケイ 「何か聞きたいこととかあるの?だったらドンウォリー!何でも答えちゃうわよ!」
西 「うむ!将来の大和撫子たる紗倉殿であれば、いかなる質問にも答える次第ですぞ!」
清美 「え、あ、えーっと・・・・」
なんとか誤魔化そうとする清美だが、真っ直ぐな瞳で見つめられやがて
観念し、
清美 「じ、実は・・・・どうしても気になってしまって、見てしまってました!(胸を)」
ケイ 「ん?(どこを?)」
西 「む?(何を?)」
清美 「ここでこんなこと聞くの、空気読めてないって分かってるんですが、どうしても知りたいんです!教えてください、どうしたらお二人みたいになれるんですか!?(胸が)」
ケイ 「アー・・・・えーと?(ウーン、何について聞かれてるんだろ)」
西 「心配めさるな!」
ケイ 「!」
清美 「!」
西 「紗倉殿の悩みもわかる。だがしかし紗倉殿はまだまださらなる成長を秘めた逸材!己が道を歩み続ければ必ずや伸びるであろう!(戦車道の腕が)」
ケイ (あ、それのこと!?)
ケイ 「そうそう、こういうのは焦っちゃダメ。何より自分らしさが大事よ。キヨミの頑張り次第で、いくらでも大きくなるんだから!(背が)」
清美 「そ、そうでしょうか!?私、立派になれるでしょうか!?(胸が)」
西 「うむ!志を見失わなけば、誰よりも輝く存在になれるはずだ!(戦車道の腕が)」
ケイ 「頑張って!私たちでできることなら、何だって協力しちゃうから!(背を伸ばすために)」
清美 「ありがとうございます!私、諦めません!(胸を大きくすることを)」
ナオミ「・・・・」
そんなズレながらも成立している奇跡の会話を傍観しているアリサとナオミ。
アリサ「何かあそこ盛り上がってるけど、
ナオミ(面白いから黙っていよう)
そう決め、また肩まで深く浸かりなおすのだった。
~~江の島・岩本楼にて~~
みほ 「・・・・」
ぽかーんとした表情で弁天洞窟風呂入り口に佇むみほ。
優花里「西住殿?入らないでありますか?」
その場から動かないみほを心配するように前に回り込み声をかける。
みほ 「あ、ごめんね秋山さん。思ったより本格的で驚いちゃって」
華 「確かに、江の島にこんな本格的なお風呂があるなんて思いませんでした」
みほたちの眼前には、半分近くが洗い場、残り半分以上は洞窟をくり抜いたかのような荘厳な浴場が広がっていた。
洗い場の奥には鳥居が連なり、その最奥には金色の弁財天像がたたずんでいる。
麻子 「風呂というより神社だな」
沙織 「せっかくだから拝んでいこっか!」
優花里「そうですね!では明日の試合と撮影の成功、そして皆さんの無事を祈って!」
小梅 「あ、じゃあ私も一緒に」
パンパン
そうして安全祈願を終えた一向。
後は和気あいあいとした時間が流れていた。
この時だけは試合のことや先行きの不安などを忘れ、みほたちは友人同士楽しい時間を過ごした。
沙織 「そういえば、ここって洞窟風呂以にもローマ風呂っていうのもあるんだって!」
華 「まあ、それは興味深いですね」
小梅 「じゃあ、そちらにも行ってみませんか?」
沙織 「さんせーい!」
みほ 「う、うん!」
盛り上がりに乗じ、他の浴場も楽しもうとはしゃぐ沙織たち。
しかし、すぐ調子に乗りすぎたと後悔することになるのであった。
みほ 「・・・・」
沙織 「・・・・」
小梅 「・・・・えーと」
テンション高くローマ風呂にやってきたみほたち。
そこで目にしたのは____
ダー 「こんな格言をご存じ?『女性とはティーバッグのようなもの。お湯に入れるまで、その強さを知ることはできない』」
ペコ 「元アメリカ大統領夫人、エレノア・ルーズベルト様の言葉ですね。というか湯船にティーカップを持ち込むのはさすがにいかがなものかと・・・・」
アッサ「平常心を持ちなさい。場所や状況に左右されず普段通りの振る舞いができてこそ淑女というものよ」
ニル 「私も時々真似するんですけど、よくひっくり返して紅茶風呂になっちゃうんですよね・・・・」
ルク 「まだまだなニルギリ。まあ、私くらいになれば目をつぶってても一滴もこぼさ____」
ボチャン(ルクリリがティーカップごと湯船に落とす音)
麻子 「ここで何をしているんだ」
みほたちがやって来たローマ風呂では、既に多数のグロリアーナのメンバーが湯船につかっていた。
ダー 「お風呂をいただいておりますの。いつも江の島周辺で訓練をしたときは、よくここを利用させていただいておりましたので」
華 「まあ、そうなんですか。聖グロリアーナの方々御用達なんですね、道理で格式があるはずです」
沙織 「いやいやいや、そういう話じゃないから!?」
みほ 「・・・・どうしてここにいるのですか。江の島は我々黒森峰・大洗連合の占拠下にあるはずですが」
平静に努めているが、みほの言葉は少なからず敵意交じりになってしまっている。
そんなみほの視線にも動じず、くいっと紅茶を飲み干す。
ダー 「今は競技の停止期間中。この時間においては敵味方関係なく如何なる設備も利用する権利がありますわ。言うなればこの施設も同じ。規約に引っかかる行為は一切ないと断言いたしますわ」
みほ 「・・・・確かに、仰る通りです」
ダージリンの理論に異を唱えることは出来ないと悟ったみほは、素直にダージリンの主張を認めた。
みほ 「では、私たちは別の浴場に移りますので。お邪魔しました」
そう言って背を向けて去ろうとすると____
ダー 「お待ちになって」
ダージリンがそっと声をかける。
その声に振り返ると・・・・
プカーリ×6
ダージリンたちの湯船に新しいカップ&ソーサーのセットが浮いていた。
言わんとしていることは聞かずともわかる。
ダージリンはにっこりと微笑みかける。
みほ 「折角ですが、今は競技中ですので・・・・」
ダー 「今は休戦中ですわ。先ほども申し上げた通り、その間は敵味方なし、同じ戦車道を嗜む同好の士。お茶を共にすることに何の不自然もありませんわ」
みほ 「・・・・」
しばらく厄介そうなものを見る目でダージリンと紅茶セットを交互に見ていたが・・・・
カポーン
みほ 「・・・・いただきます」
根負けしたみほたちは湯船につかり、紅茶をもらうことになった。
カポーン
しんとした浴室内に、湯船にティーカップを浮かせた少女たちのお茶会。
傍から見れば異様な光景に見えるが、それに異を唱える人物はそこにはいなかった。
むしろ、ここからどう展開していくのか固唾をのんで見守っている。
アッサ「クッキーもありますよ、どうぞ」
沙織 「うわーっ!これすっごくおいしい!もっと食べたい・・・・でも食べ過ぎたらちょっとヤバい・・・・!」
次のクッキーに手を伸ばそうとするも、必死にこらえようとする沙織。
沙織 「で、でも!お風呂に入って汗流したから、差し引きプラマイゼロだよね!うん、だいじょぶだいじょぶ!」
麻子 「沙織、汗で出ていくのは水分と塩分だけであって瘦せるわけではないぞ」
華 「むしろ過剰摂取では?」
沙織 「あーっ!あーっ!おいしくて聞こえなーいっ!」
麻子の言葉を必死に無視しクッキーを頬張る沙織、それを見て苦笑しながらもみほや華らもクッキーを手に取り頬張った。
みほ 「あっ、すごくおいしい・・・・!」
華 「はい、本当に。素材の一つ一つに丁寧さを感じる、素晴らしい出来です」
アッサ「当然でしょう。上質な素材を上質な課程で育み、丁寧に加工された材料を一流の職人が仕上げる。これで美味しくならなければ噓ですわ」
優花里「なるほど・・・・!聞けば納得ですね!あ、もう一ついいでしょうか!?」
ニル 「はいどうぞ、まだたくさんありますよ」
麻子 「わーい」
沙織をたしなめつつも自分はがっつり食べている麻子。
普段からは似つかぬ素早さで、クッキーを掴んでは頬張り掴んでは頬張っていく。
沙織 「あっ、麻子!自分だけ食べすぎよ!ちゃんと分けなさいよ!」
麻子 「こういうのは早い者勝ちだ。特にこのミルククッキーは絶品だ。私が全部貰う」
小梅 「あははは・・・・」
そんな、ちょっと前まではいつも送られていた日常を再現するかのような光景に、周囲は少しだけほっとした表情をする。
エル 「・・・・西住隊長、かなり打ち解けているようだな」
左衛門「ああ、最初に風呂で見かけたときの険しさがほぐれている」
カエ 「聖グロの奴らとの距離もこれで縮んだと観ていいかもな」
おりょ「・・・・いや、それは早計ぜよ」
カエ 「ん?どういうことだ」
おりょ「よく見てみるぜよ」
すっかり打ち解けている一行・・・・と見える中で、みほだけは様子が違う。
ダージリンらに顔を向けている時は和やかに、試合の事を忘れているかのように振る舞っているが____
みほ 「・・・・(チラッ)」
自分に目線が向けられていない僅かな間が生じるたび、みほは浴場内をざっと一望する。
そして自分に注意が帰る前に目線を戻し、何事もなかったように談笑に戻る。
また注意が逸れたら別方向に視線を回し____を繰り返している。
エル 「なんと、あれは・・・・」
おりょ「西住隊長は、心を許したかのように振る舞いつつも、浴場内の聖グロ生らの士気を測っちょる。隙を見せれば一刀に伏せようなる・・・・以蔵のごとく鋭さぜよ」
左衛門「・・・・まだまだ道は遠そうだな」
カエ 「いやしかし、あれを見ろ」
カエサルに言われよく見てみると、みほが周囲を探ろうと目線を外すと____
ダー 「そういえば、みほさん」
みほ 「!____はい?」
ダージリンがみほに話題を振り、みほは即座に視線を戻す。
そして会話が進み、みほがまた探りを入れ始めると____
ダー 「だとすれば、みほさんはどのようなお考えを持ってらっしゃるのかしら?」
みほ 「!____そうですね、私としては・・・・」
と、みほが十分に偵察を行えないようダージリンが適切に牽制を入れ続けている。
そのためみほは悟られないように振る舞わなければならず、思うように周囲を観察できない。
カエ 「直接的な言葉でたしなめるわけでなく、かと言って野放しにせず」
左衛門「ばれていないかと言えばそうでなく、だが制止はしない」
エル 「隙はある、しかし自由にはさせてくれない」
おりょ「全てを見透かされたような手腕、恐るべきぜよ」
みほのそ知らぬふりからの偵察もなかなかだったが、ダージリンの抜け目のなさが今回は上回ったようだった。
やがてお茶会も自然とお開きになり、みほたちが先に上がる。
みほ 「お茶とお菓子、ごちそうさまでした。では私たちは先に失礼します」
華 「皆さんもお気をつけてお帰り下さい」
アッサ「ええ。明日の試合もよろしくね」
ダージリンとみほの駆け引きを知ってか知らずか、当人たち以外は至って和やかに言葉を交わす。
小梅や沙織あっちが湯船から上がり、そして最後にみほが上がる。
そんなみほに、ダージリンは小さく声をかける。
ダー 「貴女は・・・・今黒森峰の隊長をされているのよね?」
みほ 「・・・・はい。西住流の威信を賭け、隊長を務めさせてもらっています」
ダー 「西住流の威信、ね・・・・」
みほ 「・・・・何が仰りたいんですか」
ダージリンの含みある言葉に目つきが鋭くなる。
ダー 「同じ黒森峰隊長でも・・・・『随分まほさんとは違うのね』」
みほ 「・・・・!____失礼します」
みほは表情を険しくし、速足で去っていった。
ダー 「・・・・不毛ですわね」
ぽつりと呟くと、ダージリンはカップを下ろした。
カチュ「・・・・まだかしら」
江の島入り口、倒れた鳥居の前で立っているカチューシャ。
ナカ 「まあまあカッちゃん、積もる話もあるんでしょ」
カチュ「だからカッちゃんって言うな!」
傍らには自動車部の面々やプラウダ勢、愛里寿らも立っている。
カチュ「まったく、わざわざ歩いて江の島までお風呂入りに行きたいだなんて、我儘言うわねダージリンも」
ノンナ「みほさんは今夜は江の島で過ごされるそうですから・・・・どうしても言葉を交わしたかったのでしょう」
愛里寿「でも本当に会いに行くなんて、すごい行動力だと思う。・・・・私だったら、怖くて会えないから」
などと話していると、坂を下りてくるダージリン一行が見えてきた。
待っていたカチューシャらの姿を目視すると、いつもの微笑みを浮かべるダージリン。
ノンナ「お帰りなさいダージリンさん。みほさんとはお話は出来ましたか?」
ダー 「ええ。おかげで、再度決意が固まりましたわ」
カチュ「それは何よりだわ。わざわざ私が出張って迎えに来てあげたかいがあるというものよ!待ちすぎて体に障るところだったわ!」
ノンナ「そうは言われますが、つい先ほどまでゆったりされてましたよね」
ノンナの手には『アイランドスパ』と印字されたタオルが握られている。
カチュ「ちょっと、ノンナ!ここは同意して音を着せるところでしょ!もう!」
そんなやり取りにくすっと笑みがこぼれるダージリン。
ダー 「明日が楽しみですわ」
そう言って江の島を振り返るのだった。
そして、ダージリンたちが去ったあと。
みほ 「・・・・私は、お姉様とは違う。・・・・そんなこと、わかってる・・・・」
みほは一人、岩本楼のロビーで佇み呟くのだった。
~~某時刻・由比ガ浜市内~~
アキ 「あ~~、もう疲れたよ~~!お腹すいた〜!シャワー浴びたい~!!」
市内でアキが愚痴りながらリヤカーを引いている。
リヤカーの上には涼しい顔をしたミカとミッコが横たわっている。
ミッコ「愚痴るな愚痴るなー。ジャンケンで決めた公平な結果だぞー?」
アキ 「にしたって三連敗っておかしくない!?二人して何か仕組んだんでしょ!」
ミカ 「すべての出来事には理由がある。私たちは結果に従うだけさ」
訴えもスルーしてカンテレをいじっている。
アキ 「ああ、もう・・・・。____って、あれ?」
ミッコ「ここら辺って・・・・」
ふと周囲を見渡すと、見覚えのある場所まで来ていたことに気づく。
記憶を頼りに進んでいくと・・・・
アキ 「あった!やっぱりここだったんだ」
辿り着いたのは、夏の間お世話になっていた嵐山家の部屋があるアパートだった。
ミッコ「確か、いつもこの下に・・・・」
アキ 「お願い、あって~・・・・!」
嵐山家の部屋前まで来たアキたちは、前に置いてある植木を持ち上げる。
その下には、玄関の鍵が隠されていた。
ミッコ「あった!」
アキ 「よかったー!おばさま、まだここに置いておいてくれたんだ!」
アキたちが居候している間、部屋に誰もいなかったらこの鍵を使っていいと吾郎の母ちゃんに教えられた隠し場所だった。
カチャリ
鍵を使ってドアを開く。
アキ 「お邪魔しま~す・・・・」
ミッコ「ただいま-、でいいんじゃないか?」
などと言いながら中へ入る。
真っ暗な廊下を、手探りで進むミッコ。
アキ 「でも助かったね、おばさまがまだ鍵置きっぱなしにしててくれて」
ミカ 「本当に『置きっぱなし』だったのかな?」
アキ 「どういうこと?」
ミカ 「さっきも言っただろう?」
と、ミッコが部屋の照明スイッチを見つけ、居間の明かりをつける。
途端に明るくなる室内。
その真ん中、テーブルの上には____
『みんなお疲れ様!明日も頑張りなさいね!』
と書かれたメッセージとともに、沢山の食料が積まれていた。
ミッコ「これって・・・・!」
アキ 「おばさま・・・・」
ミカ 「全てには理由があるということさ」
その夜。
銭湯から出て空を仰ぐエリカとアヒルさんチーム。
ビジネスホテルの一室を借り、作戦会議を立てるカモさんチームとアリクイさんチーム。
初めて入ったネカフェにはしゃぎまわるウサギさんチーム。
来たるべき次の日の戦いに向けて、少女たちは思い思いの夜を過ごすのだった。
~~早朝、由比ガ浜・某所にて~~
ガラガラガラ・・・・
とある倉庫のシャッターを開ける、ショートヘアの少女。
その中に鎮座する鉄の塊が目に入り、その場で凝視する。
と____後ろからもう一人の人物が姿を現す。
???「その子で大丈夫かしら?」
振り向くと、そこには髪の長い女性が立っていた。
???「問題ありません。それより、こちらこそお手を煩わせ____」
???「ふふふ、それは言いっこなし。折角だから楽しまないと、ね」
???「・・・・はい」
手慣れた様子でに『それ』に乗り込む二人。
ヴオオオオン
やがて軽快な音を立てながら、馴染みのなる振動が二人を包み込む。
ショートヘアの少女は息をすうっと吸い込み、決意したように前を向く。
???「パンツァー・フォー!」
二日目、開始。
今年も残すところあと一週間、皆さんはいかにお過ごしになるのでしょうか。
自分は良くも悪くも今まで通りの一週間になりそうです。
来年はコロナも治まりこれまでの自由と活気が帰ってくることを願ってやみません。