侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ローズヒップ→ローズ

ニセイカ娘→ニセ娘
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー


Chapter17:鋼鉄の砦現る、です!

沙織 「撃っちゃった・・・・」

 

江の島から上がる煙を目視し、呆然とする沙織。

そっとみほの方を見上げると、みほは怒りとも悲しみともとれない表情をしている。

 

みほ 「・・・・」

 

まほ撃破の報が流れた直後____みほは一切の躊躇なく指示を飛ばし、江の島のイカ娘らの五式があろう場所に『例の砲撃』を撃ち込んだ。

先にまほに西住流のなんたるかを問われ、軽はずみな砲撃は抑えるように説得された直後の選択に、あんこうチームの面々は目を丸くしている。

 

華  「・・・・皆さん、ご無事でしょうか」

優花里「ここからでは何とも・・・・。ですがあちらはフラッグ車ですし、撃破の可否はすぐわかるはずなのですが・・・・」

 

みほの耳に届かないようひそひそと話す。

 

麻子 「運営側が撃破を見逃すとは思えない。アナウンスが無い以上、どうなったかはわからないがまだ向こうは戦えるはずだ」

優花里「そうですね!頼りがないのは元気の証拠、です!」

沙織 「使い所が違うような・・・・」

 

 

などと話していると・・・・

 

みほ 「武部さん」

 

みほが車内に声を掛けてくる。

 

沙織 「えっ!?ああ、どうしたのみぽりん?」

みほ 「相手が江の島から出てきます」

沙織 「えっ?」

 

言われて望遠鏡を覗く。

確かに言った通り、弁天大橋を渡り江の島に上陸していた知波単戦車隊や愛里寿のセンチュリオン、清美のオイなどが次々と姿を表す。

そしてその退路を援護する陸地側部隊。

 

華  「あらあら、皆さんお揃いですね」

優花里「どうしてでしょう?後半は江の島にはあちらの方が多く乗り込んでいたのに・・・・。ましてや西住副隊長殿まで・・・・あっ、すみません・・・・」

 

途中まで言いかけて縮こまる優花里。

それに対しみほは反応を示さず、江の島の成り行きを見守っている。

やがて愛里寿のセンチュリオンが渡り切ると、後続はいなくなった。

 

ダー 「これで全員揃いまして?」

アッサ「ええ。残存する勢力の全撤収は完了しました」

ダー 「では、粛々と____」

カチュ「撤退よ!」

 

ガラガラガラ・・・・

 

号令を受け、合流した江の島攻略隊と陸地部隊は速やかにその場から撤退していった。

その様子を見届けたみほは、Ⅳ号単騎で江の島に渡っていった。

 

ダー 「・・・・」

 

撤退しながらも、キューポラから後にした江の島を眺めるダージリン。

周囲のメンバーも、結果的に江の島の戦いには勝利していたにも関わらず表情は浮かない。

 

西  「・・・・まさに、してやられましたな」

 

並走する西が呟く。

 

ダー 「ええ・・・・さすがは、まほさんですわ」

 

やがて振り向いても江の島は影に隠れ、ダージリンは引き締めた顔で前を向き直した。

 

みほ 「野営薬庫が・・・・ない!?」

 

江の島へ渡ったみほ。

そこでみほは、生き残っていた小梅の隊から信じられない報告を受けていた。

 

小梅 「・・・・そうなんです。先に江の島を占拠した後、副隊長の指示のもと隊総出で薬庫の捜索にあたりました。ですが____」

麻子 「どこにも薬庫は無かった、と」

小梅 「はい・・・・」

みほ 「そんな・・・・」

 

申し訳なさそうに俯く小梅。

その様子に事実であると実感したみほは、がっくりと肩を落とす。

みほ 「・・・・私のミスだ・・・・」

 

その表情は絶望にも見て取れるほどである。

 

みほ 「お姉さまは、江の島を取った時点ですぐに薬庫がないことに気づいてた。だけどそれを悟られると相手は江の島に見向きもしないから、守りを固めてあたかも江の島に薬庫があるように振る舞ってた」

麻子 「そして相手は副隊長の思惑通り・・・・いや、それ以上の戦力を注いで江の島を攻めてきた」

華  「何倍もの戦力差を相手し続け、無駄に消耗させ、被害は最小限・・・・。さすがみほさんのお姉さまですね」

優花里「戦闘中に『あれ』を撃たせなかったのも、薬庫を守るためと信じ込ませるためのミスリードだったんですね」

みほ 「うん・・・・やっぱりお姉さまはすごい。私じゃまだ足元にも及ばなかった。もしあの時、砲撃の提案を却下されたとき、お姉さまの意図が読めていたらこんなことにはならなかったのに・・・・」

 

泣きそうな表情で江の島の奥を見つめるみほ。

 

みほ 「それで・・・・お姉さまとティーガーはもう、回収班の方々に?」

黒森A「はい、隊長が来られるちょっと前に。今頃管理スペースに収容されたころかと」

 

 

~~場所は移り、観客席と運営テントエリアにて~~

 

 

吾郎母「あらまあすんごい煙だこと!あんなの直撃したらどんな戦車もおしまいだわあ~」

 

言葉では怖がっているそぶりを見せつつも、吾郎の母ちゃんは全くそんなそぶりも見せずまんじゅうをほおばっている。

 

吾郎母「あの弾着したところ、二人が戦ってたところよね?イカ娘ちゃんの戦車は無事だったかしら」

千代 「ええ、アナウンスも無いし無事だと思うわ。きっと砲撃を悟って回避をとっていたのね。それにしても____」

 

ちらっ、としほの顔を覗き見る。

しほは千代の方を見ようともせず、同じ姿勢でモニターを見続けている。

 

千代 「せっかくの一対一の名勝負に水を差すような真似、いただけませんわね?」

 

嫌味を織り交ぜた、ねっとりとした声でしほを揺さぶる。

 

千代 「いくらしてやられたとはいえ、憂さ晴らしのように戦車道の規格を外れたような巨砲を打ち込むのはいかがなものかと思いますけれど?」

しほ 「・・・・」

 

聞き流しているようにも見えるが、少しばかり手を握る強さが増しているようにも見られる。

その心の内を見透かしてのことか、なおもからかうように言葉を重ねようとする千代。

まさに一触即発な雰囲気だったが____

 

吾郎母「まあまあいいじゃないの、あれだって戦車だし悔しかったら一発思いっきりぶっぱなしたくもなるってもんよ!あっはっは」

 

からからと双方の睨み合いを吹き飛ばすように、間に座っている吾郎の母ちゃんが豪快に笑う。

それに当てられた二人の表情から毒気が一気に抜ける。

 

吾郎母「しっかしまあ、まほちゃんだったっけ?すごい戦車さばきだったわあ!隊長さんはその妹さんでしょう?んまー、立派な娘さんが二人もいてうらやましいわあ~。ウチのなんてちょっと筋肉があるしか取り柄の無い息子だからまあ可愛げなくってねえ~。しかもいざって時に度胸もないもんだから好きな人にいつまでたっても何も言えないんだもの」

 

止まることのないマシンガントークに完全に飲まれるしほと千代。

 

吾郎母「あらやだごめんなさい、自分ばっかりしゃべっちゃって!これお詫びの印」

 

そう言っていくつかまんじゅうを取り出ししほに差し出す。

 

しほ 「・・・・」

 

しばらく呆気にとられるように見ていたが____

 

しほ 「それじゃあ、うぐいすを一つもらおうかしら」

 

やがて一つだけ受け取りもくもくと食べ始めるのだった。

 

千代 「あら」

 

やがて、そこに回収車がティーガーⅠを乗せながら戻ってきた。

そのまま観客スペースの脇を通り、撃破されたチームと車両が待機するスペースへと向かっていくのが見えた。

 

吾郎母「あら、あれってさっきのアレよね?あなたの娘さんの」

しほ 「・・・・ええ」

吾郎母「あらあら、やっぱり!」

 

おもむろにすっくと立ちあがる。

 

吾郎母「それじゃ、ちょっと行きましょ」

千代 「え?」

しほ 「・・・・どこに?」

 

怪訝な顔で尋ねるしほと千代に、吾郎の母ちゃんはにっこりと笑みを返す。

 

吾郎母「決まってるでしょ、娘さんをねぎらいに行くのよ。『よく頑張った』ってね」

しほ 「え」

吾郎母「出せる力を出し切り、試合を終えた子にしてやれることと言えばこれに決まってるわ!そんじゃ行きましょ!」

しほ 「え、いや、私は試合を見てるから____」

吾郎母「試合はまだまだ続くから大丈夫よ!ほら行きましょ!」

 

話を聞かない吾郎の母ちゃんが急かすようにしほの腕を取り、強引にティーガーⅠのもとへ連れて行こうとする。

 

しほ 「え、あの、ちょ」

 

珍しく狼狽するしほ。

断ろうともがくが、吾郎の母ちゃんの腕力には勝てず、そのままひ引きずられるように観客席を後にする。

それを見ていた千代も、面白いものが見れるとわくわく顔で二人についていくのだった。

 

ドドドドド・・・・

ギャリギャリギャリ

 

三人が試合を終えた戦車を配置するエリアにたどりついたころ、丁度回収車からティーガーⅠが降ろされたところだった。

その傍らには、ティーガーⅠの搭乗員だった黒森峰の女生徒たちも立っている。

おほん、と咳ばらいを一つし、身だしなみを直してから彼女たちに近づくしほ。

 

黒森B「____?・・・・えっ、いっ、家元っ!?」

 

最初にしほに気づいた隊員が目を見開く。

 

黒森C「ええっ!?ほ、ほんとだ!?」

黒森D「お、おつかれさまです!」

 

次々に気づいた隊員たちがビシッと姿勢を正す。

 

しほ 「楽にしなさい。・・・・まずは試合お疲れ様だったわね」

黒森E「い、いいえっ!もったいないお言葉です!」

黒森B「そそそ、そうです!それに私たちが至らないせいで、こんなに早く撤退の憂き目に・・・・」

 

申し訳なさそうに縮こまる彼女たちだったが、しほはそれ以上追及するような言葉は出さなかった。

と、そこで千代が口を開く。

 

千代 「あら?西住まほさんはどちらかしら?」

 

言われてから吾郎の母ちゃんも周囲を見当たす。

しかし千代の言う通り、ティーガーⅠと一緒に撤収したはずのまほの姿がそこにはなかった。

 

しほ 「・・・・まほはどうしたのかしら?」

黒森C「それが、隊長、あいえ、副隊長は・・・・」

 

言いづらそうな彼女の口からぽつりぽつりとまほについて語られる。

 

千代 「姿を消した____!?」

黒森B「はい・・・・」

 

彼女たちから告げられたのは、まほが姿をくらましたという内容だった。

 

黒森C「撃破されて、あの砲撃が来るまでは確かに私たちと一緒にいたんです!だけど、煙と砂ぼこりが引いたあとにキューポラの方を見たら、副隊長はすでに____」

係員 「まさか、あの爆風に吹き飛ばされて・・・・!?」

 

物騒な想像に顔を青くする係員。

だがしほの表情は曇っていない。

 

しほ 「西住流の人間たるもの、戦車に乗っていながら振り落とされるような醜態は晒しません。ここは娘が自らの意思で降りたと判断すべきかと」

吾郎母「あらまあ!」

 

素っ頓狂な声を上げ驚く。

 

千代 「でも・・・・自ら姿を消したとして、どこへ?もう戦車は撃破されたのに・・・・」

しほ 「・・・・」

 

千代の問いには答えず、しほはただ遠くにたたずむ江の島を見つめていた。

 

 

~~倉鎌市・倉鎌中央公園にて~~

 

 

江の島からの撤退を完了させた大学・れもんチーム。

再び隊を三つに分け各地に散会しており、倉鎌中央公園には愛里寿のセンチュリオンと、プラウダ戦車隊が向き合っている。

 

カチュ「ぐぬぬ・・・・」

愛里寿「・・・・」

 

そこではカチューシャと愛里寿がにらみ合って(というよりカチューシャが一方的ににらんでいるだけではあるが)おり、一触即発な空気が流れている。

 

カチュ「だから何度も言ってるでしょ!大隊長であるイカチューシャが行方不明なんだから、戻ってくるまで大同志のカチューシャが代わりに大隊長を務めるって!」

愛里寿「それは何度も聞いた。だから聞いたうえで、任せられないって言ってる」

カチュ「ああもう!頭の固いお子ちゃまね!」

愛里寿「貴女にだけは言われたくない」

カチュ「ムキー!」

 

淡々と言い返されカチューシャがキューポラのふちをバンバン叩く。

どっちが年上なのだかわからなくなる口論を繰り返しており、どんどん険悪になっていく。

 

愛里寿「それに貴女が大同志って主張するなら、私はイカ娘の大親友よ。戦車道について語り合うのはもちろん、それ以外でも話の合う共通の趣味(ボコ)がある。そちらは戦車道以外でイカ娘と語り合えることはあるの?」

カチュ「ぐぬぬ・・・・!」

 

言われると、カチューシャはイカ娘と一緒にいる時間は多い方だが、やはり戦車道談義をしていることが多い。

それが劣っているとかそういう問題ではないのだが、戦車道以外でも一緒にすることがあるという愛里寿の主張に一歩及ばずという空気が出来上がっている。

 

カチュ「わ・・・・」

愛里寿「わ?」

カチュ「私はイカチューシャと一緒のベッドで寝たことがあるわ!」

愛里寿「!!」

カチュ「!!」

 

苦し紛れに放った一言だったが、思いのほか愛里寿に効いたようで表情が変わる。

それを見逃さなかったカチューシャ。

うってかわり余裕の笑みを向ける。

 

カチュ「イカチューシャは夏に一週間ほどウチ(プラウダ)に滞在してた頃があるの。アンタとはまだ知り合いでもなんでもなかった頃よ!」

愛里寿「・・・・!」

カチュ「あの一週間はとても楽しかったわ。寝起きを共にし、戦車道の訓練もいつも一緒。食事も一緒に同じものを食べたし、お風呂も一緒に入ってたわ!あんたはイカチューシャと一日でも共同生活を送ったことはあるのかしら!?」

愛里寿「・・・・」

 

先ほどとは形成逆転、今度は愛里寿が悔しそうな顔をする。

それを見たカチューシャが勝利を確信する。

 

カチュ「まあ?アンタはイカチューシャと仲がいいのは認めてあげるけど。だけどあくまで仲がいいその他大勢の一人!一番の友にして大同志はこのカチューシャよ!」

 

これまでにないほどにふんぞり返るカチューシャ。

悔しそうな顔をする愛里寿が口を開く。

 

愛里寿「そ、そんなの、ずる____」

???『ズルいーーーーーーーーーーっ!』

カチュ「!?」

愛里寿「!?」

 

急に上がった第三者の叫びに固まる二人。

いったい誰かと周囲を見渡すと____

 

???『ズルいズルいズルいズルいズルい!カチューシャさんあんまりよー!』

 

それはノンナの戦車から響く声だった。

 

カチュ「ノンナ?」

ノンナ「申し訳ありません」

 

そう言っておもむろに無線機を取り出し、ボタンをいじる。

 

???『私だって、私だってイカちゃんともっともっと仲良くなりたくて色々努力してきたのに!そんなカンタンにイカちゃんと同棲生活を送るなんてズルーーーーいっ!』

 

無線機から延々と流れてくる妬みの嵐。

その声の主は・・・・

 

カチュ「早苗?」

早苗 『そうよっ!』

 

早苗だった。

 

早苗 『私だってずっと前からイカちゃんに大好きアピールしてるのにいつもそっけない態度で逃げられちゃうし!どうしたらイカちゃんに好かれるのか24時間考えてるのに、何の苦労もなくイカちゃんとそんな親しげに!』

愛里寿「思わぬ方向から新手が来た」

カチュ「ていうか、どうしてノンナの無線から早苗の声が聞こえてくるの」

ノンナ「申し訳ありません、実は私たちと同志サナエは日常的によく連絡を取り合ってしまして」

クラ 「今日も支障のない範囲で通信を常につなげていました」

カチュ「何やってんの貴女たち」

 

呆れ顔で見つめるカチューシャ。

そんな光景を傍から見ていたニーナとアリーナ。

 

ニーナ「あんりゃあ、絶対早苗さんとイカチューシャさんに語り合ってただな」

アリー「んだな、こないだケータイで撮ってた写真の送り合いもしてたで」

早苗 『とにかく!』

 

語彙を強める早苗。

 

早苗 『その話は今度詳しく、細部に至るまでしっかり聞かせてもらいますからね!』

カチュ「えっ、え、ええ・・・・」

 

早苗の気迫に思わず返事するカチューシャ。

そこで早苗との無線は切れるのだった。

 

 

~~沢藤市内北部にて~~

 

 

早苗 「もうっ!みんなして抜け駆けだなんて、許せないわ!」

 

プリプリしながら街中を進むアンチョビたちのサハリアノ。

 

ニセ娘『抜け駆けとかそういうんじゃないだろう。普通に仲良くしているだけだとおもうんだが』

早苗 「いいえ!ドゥーチェは分かってないわ!」

 

グリンッと体を後ろにねじる。

 

ニセ娘『うおっ!?』

ペパ 「おお、体柔らかいなフェットチーネ」

早苗 「あんなかわいい子、何の狙いもなく接しようとするわけないじゃない!イカちゃんに近づく子はみんなイカちゃんの体目当てよ!」

ニセ娘『嫌な言い方するな!』

カル 「じゃあ、フェットチーネさんは違うっていうんですか?」

早苗 「・・・・」

 

カルパッチョの問いに一瞬黙る早苗。

 

早苗 「当り前じゃない!」

ニセ娘『嘘つけ!』

 

ヴィイイイイイイイイン

 

四人を乗せたサハリアノは市内を駆けていく。

 

ペパ 「それにしても、してやられたって感じっすね」

ニセ娘『ああ、まさか江の島に野営薬庫が無かったとはな』

カル 「あると信じて戦力を投じた以上、無かったからと言ってやすやすと帰れる状態でもありませんでしたからね」

ニセ娘『だからこそ全力を持って迎撃に当たり、「薬庫の補充があるから激しい抵抗」があると私たちに思わせた。そしてその結果、西住を撃破することはできたがこちらの被害と消耗は取り返しがつかないレベルにまで行ってしまった』

早苗 「この状況を打破するには・・・・」

ニセ娘『ああ。どこかにあるはずの薬庫を、こちらが先に見つけるしかない』

 

車内に緊張が走る。

 

ニセ娘『聖グロ・サンダース・プラウダ、それに知波単の奴らは江の島攻略で消耗しすぎて今は動けない。継続の連中はどっかいっちゃったし、大隊長のイカ娘も斥候のローズヒップも連絡がつかない。今は私たちが各自できることを果たしていくしかない』

カル 「理想としては・・・・戦力に余裕がある向こうとの戦闘を避け、野営薬庫を先に発見・確保し、正体不明の趙火力を有する車両の正体と位置を暴く・・・・といったところでしょうか」

ペパ 「きびっしいっすねー」

ニセ娘『ああ、決して楽な話じゃないだろう。だが、私たちならできる!』

カル 「根拠は?」

ニセ娘『ない!』

 

なおも街中を進むサハリアノ。

周囲に注意を払いつつ街中を捜索するが、やはりアテも無く見つかるほど簡単な話ではない。

しばらく捜索していると____

 

ニセ娘『!・・・・止まれ』

 

緊迫したアンチョビの声に歩みを止める。

どうしたのかと様子を伺っていると____

 

ギャラギャラギャラ

 

どこかからか履帯の回る音が聞こえる。

しかもその音は近づいてくる。

・・・・今いる場所を考えれば、対戦相手である可能性に高い。

アンチョビがニセイカ娘の触手を使い器用にハンドサインを送る。

正体不明の戦車が近づいてくる方向をいち早く特定し、十字路の陰で待ち伏せた。

 

ギャラギャラギャラ・・・・

 

向こうがどんどん近づいてくる。

早苗の握るトリガーに力がこもる。

やがて十字路の陰から履帯の先が見えてきた。

それを見た瞬間ハッとするアンチョビ。

 

ニセ娘『待て、味方だ!』

 

アンチョビに言われてトリガーから手を離す早苗。

十字路から姿を現したのは____ローズヒップのクルセーダーだった。

 

ローズ「あら!ご無沙汰しておりますわー!」

ペパ 「あんた、無事だったんすか!」

 

ローズヒップと再会を果たしたアンチョビたちは、彼女の案内で大庭城址公園へと場所を移した。

 

メグミ「あら、あんたたちも無事だったのね」

 

そこにはメグミのパーシングが鎮座していた。

周囲を見渡すが、それ以外の車両は見当たらなかった。

 

カル 「ここにいるのは・・・・これで全員ですか?」

メグミ「ええ。ここは言わば敵陣真っただ中。路頭を組んで入り込めるところでもないでしょ?」

ペパ 「ていうか無事だったんなら連絡くださいよー!今は少しでも仲間が欲しいんすから!」

メグミ「まあ、それは悪かったわ。さっきまでアヒルの子たちを追っかけてて、通信する暇がなかったのよ」

ローズ「私は最初の交戦で当たりどころが悪くて無線がお釈迦になってましたわ!」

ニセ娘『それであれからずっと沢藤の中を走り回ってたのか?よく無事だったな』

ローズ「まあ、あの後はみなさん江の島の方に集中なさってましたし。不本意ながら、逃げ足には自信がありましてよ!」

早苗 「まあ、無事でよかったよ。・・・・それで、このあとどうしようか?」

ニセ娘『そうだローズヒップ、お前沢藤内を走り回ってたなら、薬庫を見つけてないか?』

 

アンチョビの質問にローズヒップは首をブンブンと振る。

 

ニセ娘『やっぱりそうだよなあ・・・・。闇雲に走るだけじゃ見つかるようなシロモノじゃなさそうだしなあ』

 

落胆するアンチョビ。

 

ローズ「ああでも、さっき街中で変なモノ見かけましたわ」

カル 「変なもの?」

ローズ「ええ。ちらっとでしたけど、戦車みたいな電車みたいな変なカタチをしていましたわ」

ペパ 「何すかねそれ?」

ローズ「ちらっと見ただけなので名前などはわかりませんわ。でも、とても大きい砲がついていたのは見えましたわ。あのサイズ、カールより大きいのではなくて?」

ニセ娘『!』

ペパ 「!」

アル 「!」

早苗 「!」

 

ローズヒップの情報に目の色が変わる。

 

ニセ娘『ローズヒップ、お前それどこで見た!?』

ローズ「え?えーと・・・・」

 

地図を広げ、思い出しながら指でなぞる。

 

ローズ「たしか・・・・このあたり、でしたわ」

 

ローズヒップが指刺したのは沢藤市のど真ん中、沢藤駅周辺だった。

 

ペパ 「あれ?この辺って結構賑やかなとこっすよね?何度か買い物にも行きましたけど」

カル 「あそこには、カールほどの火力を出せる車両を配置するスペースも、開けた場所もないはずです。ローズヒップさん、他に何か情報はありませんか?」

ニセ娘『うーん、せめてそいつが何なのか解れば攻略法も見つかるんだけどなあ』

早苗 「ねえローズヒップさん、もう少し詳しく思い出せない?」

ローズ「うーん・・・・」

 

一生懸命記憶を手繰り寄せるローズヒップ。

 

ローズ「たしか、砲はストローのように長く、すごく大きくて、本体はこんな三角形みたいな・・・・」

 

うまく説明できず、手でジェスチャーのように形を教えようとする。

なんのこっちゃさっぱり分からなかったアンチョビだったが・・・・

 

ペパ 「あーーーーっ!」

ニセ娘『うおっ!?』

 

突然ペパロニが声を上げる。

 

ペパ 「あれだ!あれっすよ姐さん!きっとあれっす!」

ニセ娘『あれってなんだよ』

ペパ 「あれはあれっすよ!」

ニセ娘『だからどれだよ!』

 

ペパロニは心当たりがあったようだが、どうにも名前が出てこないよう。

 

ペパ 「えーっと、名前何だったっけかな、ここまで出かかったるのに!」

 

ペアロニは今までになく頭を働かせている。

 

早苗 「頑張ってペパロニ!あなたの記憶が頼りよ!」

ペパ 「わかってるってー!あーもう、思い出せなくて気持ち悪い!」

 

頭を抱えるペパロニ。

 

カル 「どんな感じの名前だったか、断片的にも思い出せない?」

ペパ 「うーーーーん、あれだ、たしか・・・・人の名前みたいだったような・・・・」

メグミ「人名?」

ペパ 「そう・・・・確か、つい最近その名前を耳にしたばっかりなんだよなあ・・・・。確か、ドゥーチェたちと一緒にテレビで・・・・」

早苗 「テレビ?」

ニセ娘『最近テレビを一緒に見たって・・・・最近見たのはテレビでやってた映画くらいだったぞ』

ペパ 「あー!」

ニセ娘『いちいちうるさいな!』

ペパ 「それっす!その映画の登場人物だったっす!えーっと、顔まで浮かんだのに名前が出てこない!」

カル 「その人ってどんなシーンに出てたの?」

ペパ 「えっと、たしかアニメで、婆さんみたいなおばさんみたいな・・・・。確か、『四十秒で準備しろ』とか何とか言ってたような・・・・」

 

そこまで聞いて、メグミが口を開く。

 

メグミ「もしかして・・・・『ドーラ』?」

ペパ 「!!!!」

 

その名前を聞いた途端、アンチョビたちの目がかっと見開かれる。

 

四人 「それだ!!!」

 

 

~~沢藤駅周辺~~

 

 

ギギギギギ・・・・ガキン!

ブシューーーーッ・・・・

 

沢藤駅へ南北に伸びている小田急江ノ島線。

その線路上に、不釣り合いなほど巨大な鉄の塊____ドーラ80cm列車砲はそびえ立っていた。

 

杏  「いやー、何度見てもでっかいねー」

 

駅に繋がるコンコースの上に陣取っているヘッツァーから杏が楽しそうに眺めている。

 

桃  「呑気なこと言ってる場合ではありません!あ、あんな巨大なの、どうやって倒すんですか!?」

柚子 「桃ちゃん、あれ味方の車両だから」

桃  「わ、わかってる!だけどあれがい続ける限り、アイツらに勝ち目は無いだろ!?もしこちらが勝ったら西住はそのまま黒森峰に・・・・!」

柚子 「・・・・うん、わかってるよ。私たちとしては元の西住さんに帰ってきてほしい。でもそれも西住さんの人生に変わりはないよ。それにわざと手を抜いて西住さんを負けさせても、待っているのは誰も望まない未来だよ?」

桃  「ううう・・・・!」

 

桃もそれがわかっているため、それ以上何も言えずにいる。

 

杏  「ま、例え勝つつもりで戦っても大丈夫だろうから安心しなよー」

 

杏は車内で寝っ転がりながら言い放つ。

 

桃  「うぐっ・・・・!」

 

言わんとしている意味を理解し、言葉に詰まる桃。

 

杏  「いや、ホントに敵さん来たらちゃんとやってよー?ワザと外してるなんて思われたら後々面倒だからねー」

桃  「うわーん!」

柚子 「会長!」

 

そんな中、杏はおもむろに財布から普通のの五円玉を取り出す。

 

杏  「五円玉ひとつでこんな事態になってるんだもん、催眠術ってすっごいよねー」

柚子 「全てが終わった後、あれを使えば西住さんは元に戻るんでしょうか?」

杏  「んー。確率は五分五分ってとこだろね。掛けた本人は見つかってないわけだし。試合前にちょっとだけ催眠術についてかじったけど、まー難しいだろね。・・・・そだ」

 

と、思いついたように起き上がる杏。

 

杏  「かーしま、ちょっとこっち見てー」

桃  「はい?」

 

言われて振り返った桃の眼前には、杏が手持ちのヒモでぶら下げた五円玉が下がっていた。

 

柚子 「会長、何を・・・・?」

杏  「訓練がてらにさ。かーしま、練習台になってよ」

桃  「えええっ!?」

杏  「だいじょーぶだいじょーぶ、悪いようにはしないから」

 

怯えた表情をしつつも、杏に押し切られ断りきれなかった桃。

姿勢を正し、杏の催眠術の相手をすることになった。

五円玉を桃の眼前で左右に揺らす。

 

杏  「あなたはこれを見続けると催眠にかかりまーす。見続けるほど催眠にかかりやすくなりまーす」

 

効いてるからか協力的なのか、桃の焦点が揺れ始める。

 

杏  「おっ、割といい感じ?えーと、今から三つ数えると、あなたはー・・・・んー・・・・あなたは・・・・」

 

やってみたはいいものの、かける内容を考えていなかった杏。

ふと、名案が浮かぶ。

 

杏  「今から三つ数えると、あなたは砲撃が上手くなりまーす!・・・・一、二、三!」

 

パチン!

 

桃   

「はっ!?」

 

杏が指をパチンと鳴らすと、桃がビクンと跳ね起きる。

 

杏  「どう?かーしま。何か変わった気がする?」

 

言われて自分の頭を触ったら頬に触れたりする桃。

 

桃  「・・・・申し訳ありません、これといって実感するところは・・・・」

杏  「あー、やっぱだめかー。かーしまならかかりやすいと思ったんだけどなー」

 

やれやれと言った感じで寝っ転がる杏。

と、そこへ____

 

無線 『敵機、接近中!目視による数、三!』

 

同じく見張りをしていた他車両から連絡が入ってきた。

 

杏  「おっ?やっと来たか。随分見つけるのに時間かかってたねー」

 

寝っ転がりながら干し芋をはむはむと齧る。

 

無線 『接近車両を目視。パーシング、クルセーダー、サハリアノ!』

杏  「おっ?チョビ子も来てるんだ。つくづくでっかいもんに縁があるねー、私たち」

 

バアン!

ドオン!

 

護衛についているパンターやⅣ号駆逐戦車などが迎撃にあたり始めた。

カメさんチームのヘッツァーも参戦するべく砲口を向ける。

やがて、照準器の向こうにサハリアノを捉える。

 

早苗 「前方に敵機確認!あれは・・・・ヘッツァーだわ!」

ニセ娘『角谷たちか!』

 

なおも接近するサハリアノ。

クルセーダーやパーシングも別路から接近していく。

 

ドオン!

バアン!

 

近づかせまいと砲撃を放つ防衛隊だが、これ以上の損害は受けるわけにはいかないローズヒップたちは砲撃を済んでのところで躱し続ける。

 

杏  「あちらさんの狙いは・・・・多分線路だろうね」

柚子 「列車砲は強力ですが、線路を壊されては固定砲台になっちゃいますからね」

杏  「列車砲自体を壊しにいくより確実だね。いいところに目をつけるよ」

 

近づいてくるサハリアノが、ヘッツァーの有効射程内に入る。

 

ニセ娘『砲手は恐らく河嶋だ。気にせず突っ込めー!』

 

桃の腕前を(ある意味)信じて突撃するサハリアノ。

ゆっくりと、ヘッツァーの砲口がサハリアノに向く。

その瞬間____

 

ペパ 「!?」

 

ペパロニの背筋に嫌なものが走る。

桃がトリガーを引き絞る瞬間。

 

ペパ 「やべっ!」

 

ギュインッ!

 

ペパロニは急ハンドルを切り、サハリアノが左に大きく振れる。

 

ニセ娘『ぎょあっ!?』

 

予想していなかった急な動きに体を置いて行かれそうになったニセイカ娘が必死に踏ん張る。

直後____

 

ドガアン!

 

今の今までサハリアノが走っていた場所に75mmが直撃、道路を大きくえぐり取った。

 

カル 「い、今の・・・・」

早苗 「当てに来てた!?」

ニセ娘『何だと!?砲手は角谷がやってるのか!?』

 

あまりに正確な一撃に狼狽し続けるサハリアノチーム。

その頃、ヘッツァー車内では・・・・

 

柚子 「ま、真っすぐ飛んだ・・・・!?」

杏  「ちょっとでも避けるのが遅れてたら当たってたね。惜しい惜しい」

桃  「・・・・!」

 

トリガーを握り、照準器を覗いた姿勢のまま桃は驚愕の表情で固まっていた。

これまで幾度となく砲撃訓練を繰り返し、それでも撃つたび撃つたびあさっての方向に飛んでいた桃の放った砲弾が、まるで吸い込まれるかのように真っすぐサハリアノへ飛んで行ったのだ。

 

桃  「あ・・・・当たる・・・・!これなら、当てられる!」

 

直後、歓喜の表情に変わる桃。

 

バアン!

ドオン!

チュドオン!

 

それから次々と放たれるヘッツァーの正確な砲弾。

奇しくも催眠術が効いた桃は、今や腕利きの砲手に早変わりしていた。

 

ペパ 「ちょ、まずいっすよ!こんなの避けきれないっす!」

ニセ娘『迂回しろ!遮蔽物を利用して近づくんだ!』

 

アンチョビの指示で目の前にある交差点を曲がろうとする。

そこへ____

 

桃  「そこだあーーーっ!」

 

ドオン!

バギィンッ!

 

交差点を曲がることを読んでいた桃の砲撃が、曲がろうとしたサハイアノの側面履帯に見事命中する。

 

ニセ娘『うわあああ!?』

 

その衝撃でサハリアノは大きくスピン、履帯も破損し交差点上で立ち往生してしまう。

 

カル 「いけない、このままでは狙い撃ちです!」

早苗 「ペパロニ、早く動かして!」

ペパ 「くっそー、動かない!」

桃  「はは、ははははは!とどめー!ファイア____」

 

ビーーーーーーーーーーッ!

 

身動きできないサハリアノにとどめの一撃を食らわせようとした瞬間、大きなブザーの音が響き渡る。

 

真理 『一日目、終了です!今から先の移動と戦闘は禁止でーす!』

 

真理のアナウンスが街中に響き渡る。

 

ニセ娘『た・・・・助かった・・・・!』

 

日没。

大規模戦、一日目が終了した。




先日、例のコロナの影響で残念ながら大洗では今年あんこう祭りが中止されたというニュースを聞きました。
ですがそれでもファンが集まりエアあんこう祭りをされていたとか(普通に観光ですね)。
どんな環境下にあろうとファンの熱は冷めないということで、つくづく人気なんだと感じました。

来年度はいろいろ催しも復活して、日本中に活気が戻るのを願うばかりです。

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