侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門佐→左衛門

ナカジマ→ナカ

自動車部の面々→自動車

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ

シンディー→シン
ニセイカ娘→ニセ娘


Chapter15:江の島戦線異状ありです!

ニセ娘『んな、な・・・・!?』

 

大学・れもん連合の右翼側、北鎌倉周辺を行進していたアンチョビらは、後方から立ち昇る爆煙に目を白黒させていた。

 

カル 「あの位置は・・・・カールを配置していた辺りでは?」

ペパ 「マジで!?開始一時間足らずでやられちゃったとかありか!?」

ダー 「あの位置と爆煙のサイズから鑑みるに・・・・間違いないようですわ」

 

あくまで冷静に、客観的な目線からダージリンはカールが撃破された事実を認める。

 

アッサ「各方面より入電。カール撃破と同時に周辺警護にあたっていたパーシング二両沈黙。残る一両は近辺に大洗の八九式を発見、現在追跡中とのこと」

ペコ 「・・・・では、計画は失敗、ということですね」

アッサ「ええ、今江の島攻略組から撤退の知らせが来たわ。これで江の島はあちら側・・・・西住まほ小隊の占拠下に置かれるわね」

 

一気に形勢が不利になったことを悟り、動揺が広まる右翼小隊。

 

ニセ娘『まずいぞ!作戦ではカールの一撃で江の島を狙う西住隊に大打撃を与えつつ、江の島を確保して優位を撮る計画だっただろ!?これじゃ正反対、こっちが圧倒的不利になってるぞ!』

 

慌てる一同に反して、落ち着いて地図を見るダージリン。

 

ダー 「あそこに位置したカールを仕留めるには海岸沿い、もしくは北鎌倉から回り込むしかルートは存在しないでしょうね」

ペコ 「中央はイカ娘さんたちの隊が、海岸沿いはサンダースや知波単の方々が哨戒しながら進まれてました。そうなると・・・・」

 

それから導き出される結果に、気まずそうにするオレンジペコ。

 

ダー 「この結果を食い止められなかったのは、私たち右翼の哨戒不足」

ペコ 「・・・・はい、残念ながら」

 

否定できない事実に空気が重くなる。

 

アキ 「で、でも仕方なかったんじゃないかな!?」

ミッコ「そ、そうそう!アヒルさんチームって言ったら索敵の鬼なんて呼ばれてるくらいなんだから!しょーがなかったんだってば!うんうん」

 

少しでも気分を上げようと振る舞うアキとミッコ。

 

ダー 「こんな言葉をご存じ?『木は根元から登るものである』」

アキ 「え・・・・?」

ミカ 「何事も始まりや基礎を飛ばして成しえるものはない。どこかの国の諺さ」

 

にっこりと笑顔を浮かべたダージリンは紅茶を淹れる。

 

ダー 「どうやら、私としたことが心が浮ついてしまっていたようですわ」

 

きゅっ、と一息に紅茶を飲み干すと、いまだ煙が立ち上る鶴岡八幡宮方面を見やる。

 

ダー 「この結果は私の焦心が生み出した結果。ならば、それを挽回する働きを見せてこそ聖グロリアーナですわ」

ペコ 「ダージリン様・・・・!」

 

結果にへこむことなく先を見据えるダージリンに、オレンジペコは希望を取り戻したかのように顔をほころばせる。

 

ペコ 「アンツィオだって同じっすよ!落としたパスタはちゃんと自分で拾うっすからね!」

ニセ娘『いや、それは当たり前だろう!』

カル 「ふふっ」

 

さっきまでの落ち込みがなかったように気分を持ち直したダージリンたち。

 

ダー 「さあ、参りましょう。大隊長も今頃新しい作戦を立案されているころですわ」

 

ヴオオオオオオオン

 

かくしてダージリンら右翼小隊は心も新たに前へ進むのであった。

 

その頃、鎌倉の中心を進むイカ娘ら中央小隊。

 

イカ娘「もうダメでゲソ~~ッ!」

 

大隊長・イカ娘は五式の上で頭を抱えていた。

 

栄子 「いや、諦めんの早すぎだろ」

イカ娘「だって、江の島は絶対に取られちゃいけなかったのでゲソ!あそこにある『野営薬庫』を確保して撃てる弾薬の数であっちを上回りつつ、カールで蹴散らして勝つのが作戦だったのでゲソ!なのに、それがどうでゲソ!」

渚  「カールは一発も撃てず撃破されて」

シン 「江の島はまほたちが占拠して」

鮎美 「あちらはカールを一撃で撃破できるほどすごい火力の戦車を有してる・・・・」

栄子 「おまけに敵陣に乗り込んで引っ掻き回しながら索敵する役目だったローズヒップさんは消息不明」

イカ娘「もう終わりでゲソー!」

栄子 「それしか言えんのかお前は!」

 

自信満々だった作戦を看破されたイカ娘は、見事に戦意を打ち砕かれていた。

 

カチュ「ものすごく落ち込んでるわね、イカチューシャ」

 

落胆しているイカ娘を、後方から心配そうに見つめているカチューシャ。

 

ノンナ「『嚙みつきシャコ貝作戦』の要素全てに先手を打つ采配・・・・流石はみほさんと言った所でしょうか」

カチュ「フ、フン!ミホーシャにしてはやるじゃないの!これくらいのハンデはあげてあげて構わないわ!」

愛里寿「そのハンデのせいで壊滅しかけてるんだけど」

カチュ「うっ!?」

イカ娘「うっ!?」

愛里寿「あっ・・・・ごめん・・・・」

 

カチューシャの発言を皮肉った発言だったが、そのままイカ娘にも飛び火してしまい気まずくなる愛里寿。

一気に空気が重くなる。

 

クラ 「しかし気になります」

ノンナ「クラーラ?」

クラ 「確かにみほさんの実力は認めます。そして西住流としての完成度も。ですが____それを踏まえたうえで、采配が見事すぎます」

ノンナ「・・・・言われてみれば確かに。これまでのみほさんは常に苦戦を強いられながらも、そこから活路を見出し最適解を導き仲間の能力を最大限に引き出し戦ってきました。こうまで『読み』が深かったことはありません」

クラ 「これまでが整った体勢で臨めなかった、ということもあるかもしれませんが・・・・」

愛里寿「・・・・つまり、何が言いたいの?」

クラ 「単刀直入に言わせていただきます。我々の作戦があちら側に漏れている可能性があるかと」

全員 「!!!」

 

一同に戦慄が走る。

その言葉の意味する所に、ただならぬ雰囲気が走る。

 

栄子 「確かに・・・・敵陣の真っただ中に無計画に突っ込むなんて、いくらアヒルさんチームでも無謀すぎるな」

渚  「確信があって、あそこまで入り込んでいたって言うことですか?」

シン 「つまり、鶴岡八幡宮にカールを配置してるのを知ってたってこと?」

鮎美 「そんなことを試合前から分かってるなんて・・・・もしかして、西住さんもエスパーなんですか!?」

カチュ「何で嬉しそうなのよ!・・・・要するに、スパイの可能性を疑ってるわけね?」

クラ 「はい」

 

今度ははっきり断言するクラーラ。

不穏な空気が流れる。

 

栄子 「考えたくない・・・・考えたくないが、一連の動きをみるとそう考えざるを得ないな・・・・」

渚  「でも・・・・そうするといったい誰が?」

シン 「タイミングから考えると、試合前から向こうに情報を流してたとしか思えないけど・・・・」

カチュ「私たちを裏切ってミホーシャに情報を流しそうな子・・・・」

 

一同が心当たりを思い浮かべる。

もやもやしたヴィジョンが、だんだんとしっかりした形を帯び始める。

 

栄子 「作戦の詳細を知りえて」

ノンナ「こちらに悟られることなく」

カチュ「無条件にミホーシャの味方をする・・・・」

 

ポワワワーン

 

やがて一人の人物像が浮かび上がる。

 

 

<<<ダージリ~ン>>>

 

 

全員のイメージが一致した。

 

渚  「いやいやいや、まさか!?」

クラ 「ですが、最も可能性は高いかと」

カチュ「確かにあの子は前からミホーシャにぞっこんだったけど・・・・まさかそこまでするなんて・・・・」

シン 「でもそうなると合点がいくよ。アヒルさんチームが潜入突破してたのは右翼側・・・・ダージリンが率いてた小隊だったよね」

 

一同沈黙。

 

栄子 「残念だが・・・・疑う余地はないな」

カチュ「随分舐めた真似してくれるじゃない!カチューシャを欺いたらどうなるか教えてあげるわ!」

渚  「そんな・・・・ダージリンさんが・・・・」

 

誰もがダージリンスパイ説を疑わずにいたその時____

 

イカ娘「私はそう思わないでゲソ」

 

イカ娘は断固否定した。

 

カチュ「イカチューシャ?」

イカ娘「ダージリンさんと付き合いはそんなに長くないでゲソが・・・・、ダージリンさんはそんな姑息な手を使う人じゃないでゲソ。・・・・そりゃたまにこちらを手玉に取ってくることもあるでゲソが・・・・ウソは絶対につかない人でゲソ」

ノンナ「イカチューシャ・・・・」

 

イカ娘の迷いない言葉に、疑心暗鬼の空気が薄れていく。

 

イカ娘「みんなみほのためにこのチームに集まってくれた同胞でゲソ。私はそんな同胞を疑うことなんてしたくないでゲソ。私はみんなを信じるでゲソ!」

 

説得力はないが、信頼していることだけは十分に伝わってくるイカ娘の言葉に、一同の表情は次第に和らぎ始めた。

 

愛里寿「確かに、結論を出すには早すぎるかもしれない」

 

これまで意見していなかった愛里寿も同意する。

 

愛里寿「先に他の可能性を考えるべき。一切の要素を排除して、それでもダージリンが疑わしかったら疑えばいい」

イカ娘「愛里寿・・・・」

 

同意を得られ顔をほころばせる。

その様子に、ほかのメンバーらもほかの可能性を考え始める

 

栄子 「だけど、やっぱり一連の結果が西住さんの読みだけ、ってのはやっぱ無理があると思うんだよな」

渚  「あれだけ正確に事を運ぶには、やっぱり情報源がなければ成立しないと思いますね」

シン 「スパイ・・・・の可能性は今回排除して考えるとして、他に向こうに作戦が伝わってしまうことってどんなのがあったかしら」

 

う~ん、と考え込む一同。

 

愛里寿「じゃあ、一度思い出してみよう。あの時____試合開始前の作戦会議の時、何か不審な点はなかったかどうか」

 

 

~~回想・試合開始直前の大学・れもん連合テント~~

 

イカ娘『・・・・お待たせしたでゲソ。いきなり飛び出してごめんなさいでゲソ』

 

 

おずおずとテントに戻ってくるイカ娘。

中にいる一同の視線が集まる。

 

ダー 『お帰りなさい』

カチュ『さあ、作戦会議の続きと行くわよ!』

 

誰一人としてイカ娘を責めず、そして心から信頼した眼差しで試合への熱意を見せてくる。

そんな彼女らの姿を見て、改めて決意を固めるイカ娘。

 

イカ娘『うむ、実は思いついた作戦があるのでゲソ。聞いてくれなイカ?』

ダー 『それは頼もしいですわ。お聞かせいただきましょう』

イカ娘『うむ!その名も・・・・『嚙みつきシャコ貝作戦』でゲソ!』

ケイ 『ワオ、潮の香りがしそうな作戦ね』

 

かくかくしかじか、作戦説明中____

 

愛里寿『うん、いい作戦だと思う。すぐにカール隊に準備に入らせる』

 

イカ娘の作戦に感心した愛里寿はすぐにカールやバミューダトリオに指示を送り始めた。

 

カチュ『カールを主力にした作戦っていうのがちょっと気に入らないけど、効果的な作戦だと思うわ!』

西  『そして、その砲撃により開いた江の島への道を、我らが突き進むという訳でありますな!』

清美 『イカちゃんの作戦、きっと成功するよ!私も頑張るね!』

優花里『時にイカ娘殿!もし仮にその作戦がうまくいかなかったとき、第二プランなどはありますでしょうか!?』

イカ娘『ふっふっふ、もちろんあるでゲソ!』

 

立てた作戦が好評だったのに気分を良くしたイカ娘が、メンバーたちに次々と思いついた作戦を伝えていく。

 

 

          栄子「ちょっと待ったーーーーーーーっ!?」

 

 

~~栄子の乱入により回想強制終了~~

 

 

イカ娘「いきなり何でゲソ栄子、これから私が大隊長として凄い作戦を次々と立案するシーンなのでゲソよ?」

栄子 「いやいやいやいやいや、おかしいだろ!」

イカ娘「何がでゲソ」

栄子 「メンバー!作戦会議の時のメンバー!」

イカ娘「メンバー?」

 

栄子に言われて思い返す。

あの時作戦会議用のテント内にいたのは、

 

議事進行役・千鶴、

聖グロ代表・ダージリン、

アンツィオ・代表アンチョビ(ニセイカ娘)、

サンダース・代表ケイ、

プラウダ代表・カチューシャを肩車しているノンナ、

知波単代表・西、

大学選抜代表・愛里寿、

継続代表・ミカ、

そして秋山優花里。

 

イカ娘「・・・・」

一同 「・・・・」

 

そ し て 秋 山 優 花 里 。

 

一同 「あーーーっ?!」

 

今更気づいた一同が叫び声をあげる。

 

 

~~場所は移り、沢藤方面・Ⅳ号内~~

 

 

沙織 「命中報告!カールの撃破に成功したよ!」

麻子 「成功したか」

華  「これで事が大きく有利に運びますね」

優花里「では西住殿のお姉さんが江の島を占拠できるのも時間の問題ですね」

みほ 「うん、予想以上にうまくいったね。優花里さんの情報のおかげだよ」

優花里「いえいえ、そんな大したほどでは~」

 

みほに感謝されて照れる優花里。

 

沙織 「それにしてもびっくりしちゃったよ。まさか試合開始前に向こうの作戦会議に潜り込んで情報取ってくるだなんて」

麻子 「普通に考えれば成功するわけないと思ってたがな」

優花里「いやー、向こうの皆さんとも顔見知りなので。当然の顔してみれば案外不振に思われないかな~、と。バレたら即座に離脱するつもりだったのですが」

華  「まさか会議が終わるまで誰も気づかないとは意外でしたね」

みほ 「おかげですごく有利に事が運べるよ。優花里さんの諜報力はプロ並みだね」

優花里「でへへへへ」

 

褒めちぎられデレデレになっている優花里。

 

麻子 「だがそれで優位に立てるのはここまでだろう。向こうももう流石に気付いているはずだ」

みほ 「うん。重要なのは、これで得た有利をどれだけ活かせるか、だね」

 

気を引き締めなおしたあんこうチームとⅣ号は、さらに加速して沢藤の街を駆け抜けていった。

 

 

~~場所は戻り、イカ娘小隊~~

 

 

イカ娘「どどどどどうしてあの場に優花里がいるのでゲソ!?あ奴は向こうがあのチームじゃなイカ!?」

栄子 「今更気づいたのかよ!?」

カチュ「あまりにも自然すぎて違和感がなかったわ!?」

愛里寿「私も全然疑問に思わなかった・・・・」

 

愕然とする一同。

つまりイカ娘たちは試合中遂行する作戦の全てを優花里に伝えてしまっていることになる。

 

ノンナ「道理でカールの位置も、その狙いもバレていた訳ですね」

イカ娘「なんてこったでゲソ・・・・!」

 

あの時、イカ娘は周囲の賞賛に浮かれて思いついた作戦をすべて話してしまっていた。

『嚙みつきシャコ貝作戦』をはじめ、すべての作戦はみほに伝わってしまっている。

つまり・・・・現在の大学選抜・れもん連合チームは有効な作戦を何一つ有していない状態にある。

作戦や当ての無い行軍ほど危険なものはない。

すぐさま新しい作戦を立て、事態に対応しなければいけないのだが____

 

イカ娘「万策尽きたでゲソ・・・・!」

 

あの時調子に乗って思いついた作戦を全部話してしまったイカ娘には、新しい作戦をひねり出す余裕はなくなってしまっていた。

 

栄子 「だから諦めんの早いっつの!」

イカ娘「じゃあどうすればいいのでゲソ!?あそこの会議で私が出した作戦はこれまで戦車道で学んできたすべてを捻りだして編み出したのでゲソ!もう他に応用できる知識なんて私は持ち合わせていないでゲソ!」

渚  「じゃあ、代わりの人に作戦を立ててもらうしか・・・・」

イカ娘「そ、そうでゲソ!愛里寿ならいい作戦が立てられるんじゃなイカ!?いっそのこと大隊長も交代して____」

愛里寿「イカ娘、それは____」

 

万策尽きたと大隊長の役目から逃げ出そうとするイカ娘と、その申し出をたしなめようとする愛里寿。

と____

 

ダー 『イカ娘さん』

イカ娘「!」

 

ダージリンから無線が入った。

 

ダー 『お話は伺いましたわ』

イカ娘「・・・・」

ダー 『流石は優花里さん、という所ですわね』

イカ娘「・・・・」

ダー 『気に病むところはありますでしょうが、気持ちを切り替えていかなければいけませんわ』

イカ娘「・・・・」

 

すっかり意気消沈して返事をこまねくイカ娘。

 

イカ娘「えっと、大隊長のことなんでゲソが____」

ダー 『交代のご提案なら反対いたしますわ』

イカ娘「うえっ!?」

 

話を切り出そうとした瞬間却下される。

 

ダー 『貴女を大隊長として担ぎ上げたわのは私たち。貴女の采配が如何なる結果を生もうとも、私たちはそれを否定したりする真似はいたしませんわ』

イカ娘「でも、私にはもう思いつく作戦はないのでゲソ!私の戦車道の経験じゃあれが精いっぱいなのでゲソよ!?」

ダー 『別に戦車道の経験でなければいけない道理はなくってよ?』

イカ娘「???」

 

ダージリンの言わんとすることが理解できずにいるイカ娘。

 

ダー 『戦車道の試合で戦車道の経験を活かす。それはあくまでその方が執る手段の一つでしかありませんわ。もし戦車道の経験を活かすことができないのであれば、貴女のこれまでの人生の経験を試合に活かせばよろしのではなくて?』

イカ娘「私の・・・・これまでの人生の経験・・・・?」

ダー 『今のみほさんは自分の人生を反映させず、戦車道のみで自分の戦車道を成そうとしていますわ。ならば、それに立ち向かうイカ娘さんが戦車道以外で戦車道を成す____。それも面白いのでは?』

イカ娘「戦車道以外で、戦車道を・・・・」

ダー 『難しい言葉で惑わせてしまったかもしれません。ですが、これだけははっきりしていますわ』

 

江の島奪還をあきらめず、立て直しを図り続けているケイ小隊。

周囲の警戒を怠らず、戦況を打開する方法を模索し続けるダージリン小隊。

そして大隊長を支えんと務めるイカ娘小隊。

 

ダー 『私たちは、貴女を心から信頼しています』

イカ娘「・・・・」

 

ダージリンの言葉に、すぐ返事を返すことはできなかった。

 

カチュ「あ、えっと・・・・ダージリン」

 

と、おずおずと会話に加わるカチューシャ。

 

カチュ「えっと、その、さっき話してたことなんだけれど・・・・」

 

緊迫した状況だったとはいえ、確信もなしにダージリンをスパイ認定してしまったことに引け目を感じていたカチューシャが声をかける。

本人に直接問いただしたことではなかったにせよ、やはり後ろめたさがあったようだった。

 

カチュ「実は私、ダージリンのことを・・・・」

ダー 『ええ、私は気にしておりませんので、気に病む必要はありませんわ』

カチュ「ふあっ!?」

 

見透かしたような返事に裏返った声が出てしまう。

 

ダー 『とりあえず、私たちは現状維持に努めますわ。決意が固まりましたらまたご連絡を』

 

無線を締めくくろうとするダージリンに、

 

栄子 「ああ、ちょっと待って!」

 

栄子が慌てて制する。

 

ダー 『いかがされまして?』

栄子 「あー、えっと、素朴な疑問なんだけどね?」

ダー 『はい』

栄子 「ダージリンさん、何でさっきからの私らの会話の内容知ってたの?」

 

スパイ論議の最中は、ダージリンらに聞こえないようずっと無線は切っていた。

つまり、ダージリンに会話の内容は伝わっていないはずだったのだが____

 

ダー 『・・・・』

 

プツッ

 

ダージリンは返事を返さぬまま無線を終了させた

 

栄子 「あっ、ちょっと!?もしもーし!?ちょっと!本当に信用してもいいんだろーな!?」

 

無線が終わってからも、イカ娘はしばらくそのまま思いつめるように固まっていた。

 

 

~~江の島・江島神社境内~~

 

 

ギャラギャラギャラ

ガガガガガガ

 

一方まほらが占拠した江の島では、まほら黒森峰の戦車隊が江島神社境内でせわしなく配置を整えているところだった。

 

小梅 「隊ちょ・・・・副隊長、隊の境内配備、ほぼ完了しました。あとは大洗の方々のご連絡待ちです」

 

ザザッ____

 

小梅がそう言った所に丁度よく無線が入る。

 

カル 『あーあー、こちらカバ、予定の配置についた』

ナカ 『こちらレオポン、配置は万全だよー』

 

無線の内容を受け、小梅はまほに向き直る。

 

まほ 「よし、各自そのままに待機。動きがあり次第都度報告を密にしてくれ」

ナカ 『了解!・・・・しかし副隊長さん、本当にこのままでいいんだね?』

まほ 「・・・・構わない。ここで余計な動きを見せるほうが逆に勘づかせてしまうだろうからな」

エル 『理にはかなっているが・・・・どうにも引きこもった防戦というのは性に合わんのだが』

まほ 「そう言ってくれるな。ここは言わば今後の戦いの行方を左右する要____フランドルのような場所だと思ってくれていい」

エル 「!」

 

まほの言葉にエルヴィンが大きく反応する。

 

エル 「おおお!フランドル!ダンケルク橋頭堡!西部せんせーーーーーん!」

 

途端にテンションマックスになるエルヴィン。

 

エル 「なればここは我らの出番!ここは任されよロンメル将軍!」

おりょ「一瞬で忠臣に早変わりぜよ」

左衛門「さすが黒森峰の隊長、エルヴィンの扱いはお手の物だな」

カエ 「二人を引き合わせたら一晩話し込んで帰ってこなさそうだな」

 

まほの指示を受けたカバさんチームの三突は視界の開けた道路に位置取り、江の島入り口方面を広く見張れる配置に着くのだった。

同時に同じように見渡せる位置にエレファントやパンターを配置しており、さながら要塞の体を醸している。

 

アリサ「うううーん・・・・」

 

そんな防御を固める江の島を双眼鏡で観察するアリサ。

着々と進んでいく配置を観ながら、手を出せない現状に爪を噛んでいる。

 

ケイ 「ヘイ、アリサ。動きはどう?」

 

そこへ車両のメンテナンスを終えたケイが顔を見せる。

 

アリサ「状況は芳しくないです。西住まほ隊は江の島を占拠後、各所に長砲身を展開。少しでも姿を見せれば遠慮なく撃ってくるでしょう。加えて向こうには確保した『野営薬庫』があります。気軽に無駄弾を威嚇のために撃ちまくることもできるはずです」

ケイ 「圧倒的すぎるアドバンテージよねー」

アリサ「それに、江の島入り口を見てください」

 

そう言って双眼鏡をケイに渡すし、ケイがそれを覗く。

 

ケイ 「ワーオ、レオポン!」

 

江の島に上陸してすぐの位置____まほたちが陣取る江島神社へ通じる唯一の道でる江の島仲見世通りを塞ぐかのように、レオポンさんチームのポルシェティーガーが鳥居にすっぽり収まっている。

 

ケイ 「さながらゲート・ガーディアンね。三つ首じゃないだけマシかしら」

アリサ「悠長なこと言ってる場合ですか。あそこにあんなの陣取ってたら突入しようがありませんよ」

 

江の島へ続く唯一の道は江の島大橋ただ一本。

あまりにも丸見えな橋の上で砲撃をしのぎつつ終点で待ち構えるポルシェティーガーの相手をするなどと理論上不可能にしか思えない。

 

ケイ 「正直に正面から突入しても勝ち目はなし、かといって砲撃戦を挑めば持久戦でこちらが不利。だからって無視したら~・・・・」

アリサ「背後から無数の長距離砲の雨が降ってくる。射程範囲外へ逃れるようにするなら、かなり移動範囲が制限されますね」

ケイ 「いやー、もうパーフェクト。打つ手なしって感じよね」

アリサ「ええ、もうエグいくらいに。本気の西住流ってのはこんな容赦ないのかってほどです」

ケイ 「もはや正攻法でどうにかなる状況じゃないわね。アレを打破したかったら一個中隊欲しいくらい、アハハ」

 

カラカラと笑い飛ばすケイ。

 

アリサ「笑ってる場合ですか、もう!」

 

と、そこへ二人に無線が入る。

同時に受ける二人。

 

ケイ 「はいはい、どうしたのかしら?」

 

話を聞く二人。

無線を聞き続けるうち、二人の顔つきがどんどん変わっていく。

そして無線を聞き終えたとき、驚きの表情で顔を見合わせる。

 

アリサ「隊長、これって・・・・!」

ケイ 「ええ。・・・・一個中隊がやって来るわ!」

 

次の瞬間、ケイとアリサはその場から飛び跳ねるのだった。

 

 

~~沢藤方面・みほ小隊~~

 

 

みほ 「・・・・?」

 

ケイとアリサが無縁を受けてからしばらく。

沢藤市内を進むⅣ号から顔を覗かせているみほが、不思議そうな顔をしてあたりを見回している。

 

沙織 「みぽりん、どうしたの?」

みほ 「うん・・・・」

 

沙織からの問いかけにも心ここにあらずといった風に答える。

 

華  「何か気にかかることでもあるのでしょうか?」

麻子 「少し周囲を警戒しながら進んでおくか」

 

みほは聞こえてくる無線に意識を集中したり、しきりに周囲を見渡したりしている。

 

優花里「西住殿、何か気にかかることが?」

みほ 「・・・・静かすぎる」

優花里「え?」

みほ 「・・・・まさか」

 

何かに気が付いたみほは慌てて咽頭マイクをオンにする。

 

みほ 「左翼!____エリカさん、聞こえますか!?」

エリカ『こちら左翼。どうしたのよ、そんな血相を変えて』

 

無線を受けたエリカは、どこか慌てた様子のみほに対しいぶかしげに答える。

 

みほ 「エリカさん、直近でそちらに戦闘はありましたか!?その規模は!?」

エリカ『え?戦闘?____ないわよ』

みほ 「!」

 

エリカの返答に顔色が変わる。

 

エリカ『大やら小どころか、まだ一度も接敵してないのよ。聞いた話じゃ相手右翼はダージリンたちだって言うから警戒してたのに・・・・カール落とされたくらいで姿をくらますなんて、とんだ肩透かしよ』

 

エリカの返答に、みほの目が見開かれる。

 

みほ 「いけない・・・・!」

エリカ『え?ちょっと、どうしたのよ?』

 

みほは即座に全体へと無線を切り替える。

 

みほ 「全車両に通達します!全車両、至急江の島へ急行してください!」

優花里「西住殿!?」

 

みほの慌てように面食らう優花里たち。

 

みほ 「麻子さん、全速力でお願いします!江の島が、お姉ちゃんが!」

 

バアン!

ドオン!

ドゴオン!

 

その頃。

江の島では激しい砲撃合戦が始まっていた。

三突が火を噴き、エレファントが揺れ、パンターを掠った砲弾が火花を上げる。

彼女らが方向を向けている先____江の島へ伸びている江の島大橋へ伸びる道路には、多くの戦車が路頭を組んで砲撃を続けていた。

 

カル 「どんどん撃て!こちらに乗り込む隙を与えるな!」

 

カエサルが砲弾を装填しながら指示を飛ばす。

 

左衛門「あれだけいるならば撃てばまず当たるな!」

 

ドオン!

バアン!

シュポッ

 

三突の砲撃が当たり、シャーマンが一両沈黙する。

 

おりょ「よし、一両撃破ぜよ!この調子で____」

エル 「衝撃注意ー!」

おりょ「!?」

 

ドゴオオオン!

 

三突のすぐそばに着弾し、道路が大きくえぐれる。

 

おりょ「うおっ、危なかったー!?」

 

とっさの事態に思わず素に返ってしまったおりょう。

あわや被弾という砲撃を放ったのは____

 

クラ <僅かに逸れてしまいました。次は当てます>

ノンナ<頼もしい限りです>

 

クラーラの駆るT-34/85だった。

近くにはノンナのIS-2も位置取り、江の島に陣取った戦車たちに脅威を与え続けている。

 

愛里寿「アリサ、常に報告の更新を頼む。この戦闘の肝はあなたの索敵にかかってる」

アリサ「分かってるってば!ていうか年下なんだから年上を敬いなさい!」

 

アリサは江の島が一望できる位置から双眼鏡を覗き続け、江の島で迎撃しているまほ小隊の各戦車の動きを見張り変化を逐一味方へ伝達していた。

パンターGやヤークトティーガーが少しでも優位に立とうと位置を変えようと移動しても、木々の揺れや隙間から見える様子を逃さず察知し位置を各員に伝え続ける。

そのせいで江の島側はほぼ位置が丸見えに近い状態にあった。

 

ドオン!

ドゴオン!

 

江の島の入り口を守っているポルシェティーガーも応戦し88mm砲が火を噴き続けている。

 

ナカ 「いやー、まさか本当に攻めてくるとはね」

ツチヤ「さすがに牽制くらいで収まると思ってたんですけどねー」

ホシノ「あちらさんもそれだけここの攻略に本気ということだな」

スズキ「度胸は見事だけど、通してあげるわけにはいかないね」

ナカ 「おや・・・・あれは?」

 

ナカジマが正面を見ると____江の島大橋を渡ろうとする二つの戦車の姿が見えた。

 

ナカ 「正面、江の島大橋!何か来てるよ!」

 

即座に砲口を向け、88mmが火を噴く。

 

ドゴオン!

バアン!

 

砲弾は命中し、黒煙が上がる。

 

ナカ 「よっし、命中!」

 

目を凝らしどうなったかを見ていると____

 

ギャルギャルギャルギャル

 

被弾したはずの戦車は歩みを止めず、なおも同じ速度で江の島大橋を渡り続けている。

その戦車は____T-28重戦車。

後ろには、歩みを支えるように清美のオイが追従している。

 

ナカ 「うわー、全然効いてないや」

 

『こりゃ参ったなあ』という表情を浮かべるナカジマ。

 

バアン!

バギン!

 

T-28やオイも砲撃をはじめ、ポルシェティーガーが被弾し始める。

が、やはり重戦車であるポルシェティーガーも全くたじろぐことはない。

 

ホシノ「ここは我慢比べだね。お互いの装甲がどれだけ持つか____ん?」

 

対岸に目を凝らすと____KV-2の砲口がレオポンに向けられている。

慌てて車内に引っ込むナカジマ。

 

自動車「流石にそれはムリー!」

 

ギャギャギャギャギャ!

バリバリバリバリバリ!

 

咄即座に急バックをかけ、背後にある店の中を破壊しながらその場から離脱するレオポン。

直後、

 

バゴオオオオン!

 

KV-2から放たれた152mm砲弾は真っすぐ飛んでいき____

 

ボッゴオオオオオオオオン!

 

鳥居ごと着弾地点を大きく吹き飛ばした。

爆風により仲見世通り入り口は大きく道が開けた状態になっている。

 

ダー 「開通いたしましたわね」

イカ娘「うむ」

 

オペラグラスで一連の流れを見ていたダージリンが呟く。

現在、江の島近辺には一部を除いた大学・れもん連合のほぼ全ての車両が集結し江の島へ攻撃を続けている。

 

ペコ 「まさか、全員を集めて江の島を取り返そうとするなんて・・・・。こんな戦い方セオリーに外れています」

アッサ「それどころかこんな戦い方誰も実践したことがないわ。言い換えてみれば、向こうは経験もなく想定さえしていなかった状況に放り込まれたことになる。事態に適応するまではこちらにコントロール権があるわ」

イカ娘「海において、天敵と戦うのに必要なのは作戦ではないでゲソ。同胞らが総出で力をあわせる戦いこそが真理なのでゲソよ!」

愛里寿「恐らくみほさんは連絡が届く前に事態を察知してる。決着が長引くほどこちらの不利になる」

 

ガラガラガラ・・・・

 

ポルシェティーガーが突っ込んだ店の中から、お土産品がいくつも転げ落ちてきている。

 

ナカ 「ふう・・・・無茶するねー」

 

慌ててバックしたせいで店に乗りあげる形になっており、ポルシェティーガーの車体は大きく傾いてしまっていた。

直撃しなかったとはいえ衝撃は大きく、片側の履帯も切れてしまっている。

 

ツチヤ「これはしばらく動けませんねー」

ホシノ「まあ、直撃を回避できただけマシと思っておこう」

 

そんなのんびりとした会話を車内でしていると____

 

ギャギャギャギャ

ゴトゴトゴトゴト

 

江の島へ上陸を果たしたT-28とオイが目の前の坂道を進んでいく。

 

清美 「あの、すいません!先に進ませていただきます!」

 

キューポラから顔を覗かせた清美が申し訳なさそうに声をかける。

 

ナカ 「あー、気にしないで、どうぞどうぞー」

 

あっけらかんと笑顔で見送る自動車部の面々だった。

 

ペコ 「T-28とオイ、上陸果たしました」

ダー 「結構ですわ。では私たちも、粛々と。エスコートはお任せしましてよ」

西  「承知した!知波単戦車隊、前へ!今こそ雄飛の時だ!」

 

先行した重戦車組が入り口を突破したのを確認すると、今度は聖グロリアーナと知波単の戦車隊が江の島大橋を渡り始める。

それを阻止せんと黒森峰戦車隊も応戦するが、向こう側の戦車が多すぎて手数の差に圧倒され進行を阻止できないでいる。

 

小梅 「グロリアーナ・知波単の戦車隊が橋を渡ってきます!援護砲撃が厚すぎて、進行を阻止でいていません!」

まほ 「本土決戦が望みか、いいだろう。各員に通達!プロジェクトツヴァイへ移行、速やかに配置につけ」

 

まほの指示を受け、迎撃態勢にあったエレファントやパンターが引っ込んでいく。

 

ガコン

チュン!

 

固定砲台と化し応戦し続けていたカバさんチームにも連絡が届く。

 

おりょ「西住副隊長から伝達、内地戦に切り替えぜよ」

エル 「くっ、やはり歴史は変えられぬのか!おのれモンゴメリー!」

カエ 「はいはい、引くぞー」

 

なおも飛んでくる無数の砲弾を弾きつつ、カバさんチームの三突もその身を木々の中に消した。

 

ギャリギャリギャリ

ガラガラガラ

 

門番を退け、ゆっくりと商店街の坂を登り続ける重戦車たち。

開いた活路を行進し続けるチハとグロリアーナ歩兵戦車の列。

姿を晒せば即座に撃ち抜かんと構える海岸沿いの戦車団。

占拠を果たし優位に立ったはずの江の島まほ小隊は、今や包囲の憂き目へと追いやられていた。

ふと、包囲する戦車団の中に五式____イカ娘の姿を目視したまほ。

偶然か、イカ娘も同じタイミングでまほの姿を見つける。

そのまほの表情は____この状況にも関わらず、楽しげに見えた。




どうあっても投稿ペースが一日程ずれる自分の体たらく具合に毎回呆れる限りです。

最終章第三話、公開の目途が立ちましたね。
来年の春とのことですが・・・・例のウィルスはその頃には収まってくれるのでしょうか。
ぜひ気兼ねなく映画館で思いっきり観たいものですね。

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