カチューシャ→カチュ
大学選抜チーム隊員→大学A
みほ 「パンツァー・フォー」
グァンッ!
みほの号令により一斉に動き出す黒森峰・大洗連合の戦車たち。
イカ娘「全車前進でゲソ!」
ギャルルルル
同じようにしてイカ娘の号令で動き出す大学選抜・海の家れもん連合の戦車。
お互いのチームメンバーは、前の撮影にあったようなクラゲ帽子などをかぶってはいない。
『真摯な戦車道を行うために』と監督が被り物を免除したのである。
倉鎌の町を縫うようにして進む戦車を、上空を飛ぶヘリが一望している。
真理 「倉鎌17万人のファンの皆様、大変お待たせいたしました!友情・絆・意地がぶつかり合う乙女の主戦場、戦車道倉鎌エキシビションマッチが今!火ぶたを切って落とされました!」
上空を舞うヘリの中ではお馴染みの司会のお姉さん・真理がいた。
真理の実況はライブ配信され、観客席でモニター越しに試合を見守っているギャラリーたちに届けられている。
真理 「そして今回、私の隣にはなんと!現役自衛官にて近代戦車道の第一人者、蝶野亜美一等陸尉を開設兼ゲストとしてお招きしております!」
蝶野 「ご紹介にあずかりました。本日はよろしくお願いいたします」
紹介された蝶野がモニターに向かってぺこりと一礼する。
真理 「さて蝶野さん!早速ですが今回のエキシビションマッチの構成と、コンセプトについてお聞きしてもよろしいでしょうか!」
蝶野 「はい。今回のマッチのコンセプトはずばり、『由比ガ浜プロモーション』となっております」
真理 「ほほう、『由比ガ浜プロモーション』!」
蝶野 「戦車道を主軸とし、舞台となる町の特色を紹介する映像づくりを得意とされる監督のビジョンに基づき試合内容が構成されています」
真理 「それはつまり?」
蝶野 「つまり、由比ガ浜を舞台にしてド派手に試合をしてみんなに知ってもらおう!という訳です!」
真理 「なるほど!とてもわかりやすいです!」
蝶野の無駄を省いた説明に頷く真理。
蝶野 「ちなみに、今回の試合は特別なエキシビションマッチということで、特別な試合形式を用意させていただきました」
真理 「はい!それは私も聞き及んでいます!えーっと、『大規模戦』・・・・で、よろしかったですよね?」
蝶野 「はい」
真理は用意しておいた大規模線に関する資料メモに目を通す。
真理 「えーっと、『大規模戦』とは__」
~~大規模戦ルール~~
・最大五十両vs五十両編成による超物量決戦
・勝負が長引く場合、最大三日間にわたる試合延長が認められる(健康管理と事故防止のため、夜間の戦闘と車両の移動は厳禁とする。搭乗員の移動と休憩場所は非戦闘時間内であれば自由とする)
・特別設備『野営薬庫』の設置
『野営薬庫』を確保した陣営は、薬庫の中にある弾薬・設備をすべて利用する権利を認めるものとする
・試合の決着は
『フラッグ車を含めた二十両の撃破』
『フラッグ車を除く四十両の撃破』
『フラッグ車の弾薬切れ』
の3つとする
※尚、『野営薬庫』への意図的な砲撃・破壊活動は即座に該当チームの敗北とする
また、『野営薬庫』を盾とするため立てこもる行為も違反とみなす
~~~~~~~~~~~
真理 「こうやって見ると・・・・殲滅戦のようなフラッグ戦のような、それでいてどちらでもないような不思議な塩梅になってますねー」
蝶野 「ええ。このルール・・・・大規模戦は、戦後まもなくここ神奈川にて戦車道を嗜む御方によって考案されたと言われています。残念ながら現在大会の正式な採用形式とはなりませんでしたが、大規模な設営や運用によってこれまで何度も行われていた記録があります」
真理 「なるほどー。確かに大迫力ではありますが、最大三日かかる可能性があるとすれば、いろいろ負担が生まれますもんね」
蝶野 「それ故に。この試合形式を選んだということは、この試合に対する強い意気込みが感じ取られますね」
そんな二人の会話をモニター越しに聞いている一人の人物。
しほ 「・・・・」
観客席に座り試合を見守っているしほは、眉一つひそめずただ試合の成り行きを見守っていた。
千代 「おとなり、よろしくて?」
いつの間にかすぐ後ろに立っていた千代がしほに声をかける。
が__
しほ 「・・・・」
真っ直ぐモニターを見据え、無言の拒絶オーラを匂わせるしほに、千代は次はどう切り出したものかといいわぐ寝ていた。
そこへ__
吾郎母「それじゃーお邪魔するわね、どっこいしょっと」
ドスコイッ
しほの返事を待たず同行していた吾郎の母ちゃんがしほの隣にドカッと座り込む。
しほ 「!?」
その遠慮のなさに、さすがにしほも一瞬目を丸くした。
吾郎母「いやー、もう秋だってのに今日は暑いわね!あんまりにも暑いもんだからホラ、これ持ってきちゃったわ」
そう言って手持ちのクーラーボックスから凍らせたペットボトルのスポーツドリンクを取り出した。
吾郎母「はい、これちーちゃんの分ね」
千代 「あら、ありがとうあーちゃん」
素直に受け取る千代。
普段のすました様相の千代には見られない表情に、わずかながら戸惑うしほ。
吾郎母「はい、あなたの分もあるわよ」
そう言ってペットボトルを差し出すが__
しほ 「いいえ、結構よ」
すぐ平静を取り戻しそっけなく返した。
吾郎母「あらそお?欲しくなったらいつでも言ってちょうだいね」
そう言って自分の分を取り出し、飲みながら試合の観戦をし始めた。
吾郎母を挟んだしほの反対側には、ちゃっかり千代が座りしほの思惑とは裏腹に連座が成立してしまっていた。
しほ (いつの間にかペースを握られている・・・・。油断ならない人のようね)
横目で警戒しつつ、試合を見守る。
しばらくモニターを見ていた一同だが__
吾郎母「あらやだ!」
突然パンと手を叩く。
吾郎母「あなたもしかして西住しほさん!?西住流家元の!」
しほ 「ええ・・・・まあ」
吾郎母「やあーだもう!気づくのが遅れちゃって恥ずかしいわあ!」
今になって気が付いた吾郎の母ちゃんがはしゃぎ始める。
吾郎母「ということはアレね?今試合してる黒森峰チーム側の隊長さん!」
吾郎の母ちゃんが指さした先には、大隊を率いて進むみほとⅣ号が映し出されている。
別モニターにはまほも映し出されている。
吾郎母「んまっ、凛々しいわねー!姉妹で隊長と副隊長だなんて、自慢の娘さんじゃないの!ウチの息子にも爪の垢でも飲ませてやりたいわ!」
ガッハッハと豪快に笑う吾郎の母ちゃんに、どう返したものかと頭を悩ませるしほ。
吾郎母「それじゃあアレね、あっち側のチームの愛里寿ちゃんは今回対戦相手になっちゃうわけね。どちらもいい試合ができるといいわねえ」
千代 「ええ、本当に」
しほ 「・・・・私もそう思うわ」
吾郎の母ちゃんのマシンガントークに翻弄されながらも、最後のセリフには素直に同意を口にした。
みほ 「・・・・」
沢藤市市内を進むⅣ号。
倉鎌市スタートの大学&れもんチームに対し、黒森峰&大洗チームは沢藤市スタートだった。
優花里「『大規模戦』・・・・。噂には聞いていましたが、まさかこんな機会に体験することになるなんて!不遜ではありますが、心躍りだしてしまいそうです!」
華 「戦闘エリアは沢藤市を跨いで倉鎌市、及び江の島まで、だそうですね」
沙織 「ほとんどの戦闘は市街地でやることになりそうだね。何気にあんまりやったことないかもなあ」
麻子 「しかもどっちも五十両ずつだ。長い戦いになるのは間違いない」
みほ 「うん。それに・・・・相手が多くて戦いが長引くってことは、必ず弾薬の問題が出てきちゃう」
華 「その問題を解決させるのが、『野営薬庫』__という訳ですね」
みほ 「うん。戦えば戦うほど、主力ほど後半につれて弾薬が絶対足りなくなる。最後まで戦うためには、絶対に薬庫の確保が重要になるはず」
沙織 「でも、薬庫はどこにあるか知らされてないんでしょ?戦いながら探すのって難しくない?」
麻子 「いや、大体の場所の見当はついてる」
沙織 「えっ!?」
麻子 「だろう?西住さん」
みほ 「・・・・うん。流石だね、麻子さん」
にこっと微笑んで遠くを見やる。
その目線の先には__江の島がたたずんでいた。
イカ娘「絶対江の島でゲソ!」
一方倉鎌市を進むのはイカ娘率いる大学&れもんチーム。
各々が町中を進さなか、イカ娘は地図を広げながら興奮して無線通信を行っている。
イカ娘「沢藤と倉鎌、両方からスタートしたなら、その薬庫とやらはその中間になきゃおかしいでゲソ」
ケイ 「同感ね。それに監督さんは由比ガ浜を中心としたプロモーションを撮りたいんでしょ?だったら江の島の攻防が最も画になるんじゃないかしら」
西 「それは最もな意見でありましょう。ですが・・・・」
愛里寿「こちらが気付いたなら、当然向こう__みほさんも目星をつけているはず。もたもたしてたら出遅れることになる」
ダー 「江の島への道は海路を除けば道は江の島大橋のみ、一本道同様。もし確保されれば、後手からの奪還は困難でしょう」
カチュ「だったら一気呵成よ!いっそのこと全員で一塊になって押し込んじゃえば手も足でもないんじゃない!?」
西 「おおっ、一同一丸となっての吶喊でありますか!ならば先陣はぜひ我が知波単学園に!」
カチュ「イノシシ連中は黙ってなさい!」
やいのやいのと意見が押し合いへし合い一向に進まない。
栄子 「あのさー、横やり入れるみたいですまないんだけど、『もし薬庫が江の島になかったら』ってパターンは考えないのか?」
ピタッ
栄子の発言に一同の口が止まる。
ケイ 「さすがにそのパターンは想定してなかったわね・・・・」
ニセ娘『確かに決めつけで全力で江の島を確保しても、そこに薬庫がなければ途端にピンチになる。江の島確保に全力を投じるならば、薬庫が間違いなくあることを確認する必要がある』
ダー 「となれば・・・・江の島へ斥候を放つしかないわね」
西 「ならば今こそ我々にお任せを!一機一丸となり、珠と散って見せましょうぞ!」
愛里寿「散っちゃダメ」
ナオミ「こうしている間にも向こうは準備を進めていると思う」
ノンナ「大隊長イカチューシャ、ご指示を」
イカ娘「うぇっ!?」
突如隊長としての指示を請われたイカ娘がうろたえる。
イカ娘「えーっと、えーっと、向こうより早く江の島に着く必要があって、でも鉢合わせするかもしれないし、でも全員で行くわけにもいかないし・・・・」
クラ 「イカチューシャ様、時間がありません」
イカ娘「ぐぬぬぬぬ・・・・、な、ならばこうするでゲソ!」
陣営は移り、右舷中隊__海沿いを進行しているまほたちの戦車隊。
まほ 「そろそろ彼女も仕掛けてくるころだろう」
ナカ 「江の島も近づいて来たしね。やっぱりあちらさんも譲るつもりはないみたいだね」
まほ 「まだ他車両の音はしない。建物を利用して観測砲撃を警戒してくれ」
まほの相棒であるティーガー1から顔を覗かせ、まほは周囲を警戒している。
小梅 「あの人もみほさんい負けず劣らず予想外な作戦を思いつきますからね。どう来るのかドキドキします」
まほ 「ドキドキ・・・・か」
ふっと笑みを浮かべる。
小梅 「あっ、すみません!試合中に不謹慎でした!」
まほ 「いや、そういうことじゃないんだ。・・・・実際のところ、私も彼女がどんな手で仕掛けてくるのかと待ちわびている節がある」
小梅 「そ、そうだったんですか?」
まほ 「勿論この戦いの行く末はみほの未来に繋がっている。一切の手を抜くつもりはない。__だが、私は信じてるんだ。彼女たちのことを」
小梅 「・・・・はい。私も信じています」
まほ 「今この場にいる者たちは、全員がみほのために集まった仲間たちだ。無論向こうのチームの奴らもな。彼女たちなら例えどんな状況に追い込まれようと必ず活路を見出すだろう」
ナカ 「うん。何度もやりあった相手だし、一緒に戦った人たちだもんね。痛いほどによく分かるよー」
まほ 「つくづく不思議な関係だな、私たちは」
そう語るまほの表情は気を許した友に向ける顔をしていた。
やがて__
ヴィイイイイ__
遠くから派手にエンジンを回し高速接近する音に気が付く。
小梅 「隊長!__あ、いえ、『副隊長』!前方より何か接近してきます!」
まほ 「ああ。全車警戒!音の主を警戒しつつ、横撃などの奇襲も警戒しろ」
車内から聞こえてくる音に耳を澄ますツチヤ。
ツチヤ「うーん、この駆動音に見合わず排気量の少なそうな音は__」
しばらく考え込み、ポンと手を叩く。
ツチヤ「ナッフィールド・リバティー!」
ホシノ「間違いないね」
スズキ「クルセーダー!」
ローズ「お呼ばれして飛び出てジャジャジャジャーン!」
ヴォンッ!
答えが出ると同時に、建物の陰からローズヒップのクルセーダーが飛び出した。
バアン!
そしてご挨拶とばかりに砲撃を放つ。
砲弾はかすりもせず、道路をえぐるだけだった。
ローズ「ご挨拶完了ですわ!では作戦通りごめんあそばせー!」
反撃の隙を与えず、クルセーダーは再び角を曲がり姿を消した。
ナカ 「いやー、素早いヒット&アウェイ、レオポンじゃああはいかないね」
小梅 「副隊長、どういたしましょう?これは恐らく__」
まほ 「ああ、間違いなく陽動だろう。だがただの陽動ではないと思うべきだ」
小梅 「セオリー通りの陽動なら、海側の私たちを陽動で釣り、そのスキに江の島へ別動隊が渡る__それが定石かと」
まほ 「基本のコンセプトは間違っていないだろう。重要なのはそれにどういったからめ手を彼女が用意しているか、だ。動くのはそれを見極めてからでなければいけない」
ローズヒップのあからさまな陽動には応じず、進行を緩めず進んでいく。
小梅 「しかしクルセーダーはどうしますか?付近に潜んでいるとあれば、流石に無視するわけにはいきませんが・・・・」
???『何だ何だ赤星ー!あんなカニ戦車一両で縮こまるなんて笑いものだぞー?』
小梅 「小島さん?」
ヤークトパンターの車長である小島エミが会話に加わってくる。
小島 「聞いた話じゃ、あのクルセーダーの車長はスピード出すことには長けてるが、砲撃のセンスはからっきしだって言うじゃんか。そんなやつが遠巻きに走り回ってようと、怖くなんてないね」
小梅 「それは油断に繋がりますよ。それに砲撃が当てにくいのは、車両速度が高すぎるせいです。ちゃんと狙えば・・・・」
小島 「って言ってもさー、近づいたらあの騒がしい音で丸わかりじゃん?近づかなきゃ当たらない、近づいたら音で丸わかり。そんな奴恐れるに足らず!って感じ?」
まほ 「それで油断していい理由にはならないぞ、小島。しかし言うことにも一理ある。各車クルセーダーの奇襲に備え、周囲の音に警戒しろ」
速度を抑え、周囲を警戒しながら進むまほ小隊。
だが、先ほどまで聞こえていた騒がしいほどまでのクルセーダーの音は全く聞こえなくなっていた。
小梅 「全く聞こえてきませんね・・・・。もう離れてしまったのでしょうか」
まほ 「だがそれでは先ほどの奇襲の意味がない。あのクルセーダーが動くときは必ずダージリンの思惑が絡む時だ。決して油断するな」
小島 「任せてください!今度あの騒音戦車が現れたら、この88mmの餌食にしてやりますよ!」
周囲を警戒しつつも前へ前へ進み続けるまほ隊。
そして、とある曲がり角に差し掛かった時__
ガギンッ!
バギバギバギッ
突如けたたましい音を立てて小島のパンターの履帯がはじけ飛んだ。
小島 「う、うわあっ!?」
体勢を崩し、傾いてしまうパンターに慌てる小島。
小梅 「敵襲、どこから!?」
即座に周囲を警戒する。
と、家と家の間__小型の戦車一両がやっと通れる程度の私道の先に、
ローズ「ほんのお心づけですわー!」
エンジンを切って完全に待ち伏せていたローズヒップのクルセーダーがいた。
バアン!バアン!バアン!
静止状態のクルセーダーの砲撃精度は必要ラインに達しており、砲撃ごとに各車両に被弾。
一気に複数の戦車が進行不能となってしまった。
ローズ「では華麗に転身あそばせー!」
直後、けたたましくエンジンをふかし器用にバックして再び姿を消した。
まほ 「住宅地に隠れての奇襲だ!十字路に注意を払え!」
奇襲されたにもかかわらずまほの冷静な指示により、隊列に乱れは生じずに済んだ。
まほ 「小島、修理にどれほどかかる」
小島 「申し訳ありません、履帯がちぎれた程度なので、すぐに修理できます!」
まほ 「よし、修理に集中してくれ。小規模に周囲散会!小島車に近づけるな!孤立しては二の轍を踏むことになる、必ず二両以上で警戒に当たれ」
隊員 「了解!」
小島らが修理を済ませるまで、歩みを止めることとなったまほ隊だった。
小梅 「予想外でした・・・・。まさかローズヒップさんほどの方が、こんな静かな奇襲をされてくるなんて」
まほ 「普段必要以上に賑やかな彼女の特性を逆に利用した作戦だ。よく理解しているじゃないか」
作戦にしてやられていながらも、感心したように微笑むまほ。
周囲の警戒が固いせいもあり、小島の修理も着々と進み、さらなる追撃の気配もない。
小梅 「・・・・」
修理完了を待つ間、小梅は考え込んでいる。
まほ 「赤星、どうした」
小梅 「いえ・・・・少し気になったのですが、どうしてローズヒップさんはこのような奇襲に至ったのでしょう」
まほ 「ふむ」
小梅 「確かに意表を突いた奇襲により小島さんの足は止まりました。__ですが、言ってしまえばそれまでです。そこからさらなる追撃にも至れず、こちらが警戒を強めたことで不要に仕掛けることもできなくなりました。なぜ、そんな行き当たりばったりな奇襲だったのでしょう」
まほ 「・・・・」
遠くを見るような目で考え込むまほ。
まほ 「・・・・もしかすると、倒すことが目的ではなかったのかもしれないな」
小梅 「え?」
まほ 「今回の大規模戦ルール、当然ながら争点は『野営薬庫』だ。見立てでは江の島にあるという説が有力であり、今現在こちらのチームで一番近いのは海岸沿いに進んでいる我々だ」
小梅 「では、これは江の島への到着を遅らせるための・・・・いわば陽動、ですか」
まほ 「絡め手の好きなダージリンのことだ、そう考えるのが自然だろう。__しかし、それだけでは押しが弱い」
小梅 「押し、ですか?」
まほ 「考えてみろ。奇襲により隊の歩みは止められ、いわば一塊で停滞している状態だ。ここを一気に叩けば戦力差は歴然とするだろう」
小梅 「ですがいくら固まっているとはいえ、これだけの数の戦車を一網打尽にするなんて、そんな手が__」
そこまで言ったとたん、小梅の顔が青くなる。
小梅 「まさか__」
まほ 「そうだ。『あれ』の威力は・・・・お前が一番身に染みているだろう」
小梅 「カール自走臼砲・・・・!」
時同じくして、倉鎌市鶴岡八幡宮。
その境内には空を睨むように設置されたカールと、三両のパーシングが護衛についていた。
アズミ「カール自走臼砲、装填完了」
ルミ 「砲撃に向けておおよその射角調整も済んでいます」
メグミ「あとは、『座標役』の細かい報告待ちね」
ザザッ__
と同時に無線が入った。
ローズ『こちらわたくしですわー!』
ルミ 「『こちらわたくし』じゃ普通伝わんないでしょ。・・・・まあ、誰だか分ってるけど。それで、首尾はどう?」
ローズ『バッチシでございますわ!『噛みつきシャコ貝作戦』第一段階完了ですわ。今からまほさんを中心とした座標を送りますわ』
ローズヒップと無線通信をしているルミがまほたちが足止めを食らっている場所の座標を聞き出し、正確な位置を割り出す。
アズミ「ローズヒップちゃんが海岸沿いの敵動隊を発見、横やりを入れ足を止め、そこへカールをぶち込む」
メグミ「シンプルながらにリターンが大きい作戦よね。イカちゃんもいい作戦考えるわねえ」
アズミ「隊長も感心してたし、あの子の成長も著しいわよね」
メグミ「隊長とも仲いいし、いっそ飛び級してこっち来てくれないかしら」
アズミ「うーん、あれでいて狙ってる娘多いからねー。来てもらうならこっちからアピールしないと」
ルミ 「座標が特定されたわ。調整を行い次第砲撃を行うわよ」
ローズヒップから正確なまほ隊の位置を特定したルミがカールの乗組員に伝えている。
ルミ 「これでよし。あとはこの一撃が放たれれば、西住まほは一貫の終わりよ」
メグミ「でもこれって本当は西住みほの方を見つけた時に実行する作戦だったわよね?こっちで使っちゃっていいのかしら」
ルミ 「西住姉妹はどちらも同じくらいの脅威よ。それに西住まほが江の島確保に動いていたのなら、早急に潰さない限りこっちが不利になっちゃうわ」
バミューダトリオが話している間に、カールが微調整を行い照準をまほ隊へ合わせる。
メグミ「さて、一撃放った後は周囲の警戒よ。先に行って進路を確保しておくわ」
そう言ってメグミ車は先に境内を後にする。
アズミ「でもさー」
と、アズミが口を開く。
ルミ 「ん?どうしたの?」
アズミ「何かうまく事が運びすぎてないかしら」
ルミ 「どういうことよ」
アズミ「あの子たち、黒森峰や大洗の子たちだって、この間私たちとやりあったとき、カールの威力と恐ろしさはイヤってほど思い知ったはずじゃない?」
ルミ 「そうね。プラウダの戦車なんてリーダー車両しか残らなかったって言うし」
アズミ「そんな痛い目を見た車両を保有している私たちと再び相まみえてるのに、カールを警戒していないのはあまりにも不用心じゃない?」
ルミ 「言われてみれば・・・・。でも今西住みほは記憶が書き換わってるから、私たちとやりあったことも覚えてないんでしょ?いくら西住流でも『覚えがない』車両を警戒はできないでしょ」
そしてカールの照準はばっちり合わさった。
ルミ 「それに仮にカールの運用がばれていたとしても、位置が特定できなきゃ止めようがないわ。隊長はカールの一撃が成功したらカールは放棄してもいいとまで仰ってた。それだけ一発に価値があるということよ」
アズミ「存在が知れたら前回以上に速攻で仕留めにかかってくるでしょうしね。カール一両で西住まほを含めた複数両を仕留められるならおつりが来るくらいだわ」
大学A「ルミさん、照準合いました!」
ルミ 「よーし、それじゃはssy__」
合図を送ろうとした瞬間。
ヒュウウウウウウゥゥゥ
何か聞こえた。
とても『嫌なもの』が迫ってくるような音が。
その刹那。
ドグワアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
カールを中心にとてつもない爆発が起き、近くにいたルミとアズミのパーシングも紙切れのように吹っ飛んだ。
そして立ち上がる異様に大きい爆煙。
その音と光景は、町中を進むイカ娘たちも確認していた。
イカ娘「ななな、何事でゲソ!?」
戦車を止めて背後を振り返り、立ち上る炎と煙に呆然とするイカ娘。
カチュ「いきなり何なの!?爆発!?」
愛里寿「あの方角は・・・・」
事態を察した愛里寿が無線を手にする。
愛里寿「カール組、状況報告!__ルミ、メグミ、アズミ!返事をして!」
しかし愛里寿の呼びかけに応えは返ってこない。
愛里寿「そんな・・・・」
愛里寿が呆然としていると__
ザザ、ザザザ__
???「ちょう、隊長!聞こえますか!」
無線から声が聞こえてきた。
愛里寿「__メグミ!?無事だった!?」
メグミ「はい、私は何とか・・・・!」
時同じくして、修理のため足止めされていたまほ隊。
まほ 「・・・・どうやら、計画通りに進んだようだな」
爆音を聞きつけたまほはぽつりと呟く。
小梅 「今の爆発・・・・何が起こったんですか!?」
まほ 「修理が終わり次第江の島へ向かうぞ。もう、カールの脅威は消えた」
小梅 「どういう・・・・ことですか?」
大爆発が起きた鶴岡八幡宮。
周囲は目も当てられないほど黒く焦げ、神社はおろか周囲の木々も爆風によりなぎ倒されている。
境内には見るも無残な残骸となったカールと、ひっくり返って白旗を上げているルミ車とアズミ車があった。
真理 『大学選抜&海の家れもんチーム__カール自走臼砲、パーシング二両、戦闘不能!』
上空を飛ぶヘリから真理のアナウンスが飛ぶ。
愛里寿「ルミたちとカールがやられた!?」
思いもよらなかった報告に愕然とする愛里寿。
カチュ「どーいうことよちびっこ!?カールを持ってすればマホーシャの隊なんてひと捻りじゃなかったの!?こっちがやられてるじゃないの!」
愛里寿「メグミ、一体どういうことだ。なぜそちらで爆発が起きている。カールはどうなった?」
ギャーギャーと喚きたてるカチューシャを尻目に通信を続ける。
だが返事がない。
メグミ『すいません隊長、今はそれどころじゃ、このっ、よくも!あっ、コラ、逃げるな八九式!せめてアンタだけでも倒れなさい!』
代わりに聞こえてくるのはメグミの叫び声と駆動音、そして交錯している砲撃の音。
この時、メグミは__
典子 「深く関わろうとするな!サーブカットからのオーバーハンドパスで引き離すぞ!」
典子操るアヒルさんチーム__八九式を追いかけ住宅街でチェイスしていた。
イカ娘「八九式って・・・・アヒルさんチームでゲソ!どうしてあ奴らがそんなところにいるのでゲソ!?」
鶴岡八幡宮は倉鎌エリアでも後方寄りに位置している。
沢藤方面からスタートしている黒森峰・大洗チームからしてみれば、敵エリアの中腹にまで潜り込んでいることとなる。
愛里寿「試合開始直後に敵陣の真っただ中に飛び込むなんて、理由がない限り考えられない。間違いなくあの八九式の目的は最初からカールだった」
イカ娘「でも八九式の砲撃じゃあの大爆発は起こせないでゲソよ?」
愛里寿「うん、それも分かってる。だから、あの八九式の役割はポインターだった」
イカ娘「ポインター?」
ノンナ「この場合、目視により標的の正確な座標を割り出す役割のことです」
カチュ「あの
イカ娘「・・・・何だか聞き覚えのある作戦でゲソ」
渚 「あなたの立案した『噛みつきシャコ貝作戦』ですよ」
イカ娘「あーっ、そ、それでゲソ!そっくりじゃなイカ!」
敵陣に単騎潜り込み、討つべき主力の正確な位置を割り出し仕留めさせる。
まさにイカ娘がやりたかったことをそのままされていた。
栄子 「あちらさんも考えることは同じだった・・・・ってことか。しかもあちらさんの狙いはカール。そのせいで江の島に向かうまほさんたちを止められなくなっちまった」
渚 「一気にこちらが不利になってしまいましたね・・・・」
不穏なムードが広がる。
作戦を逆手に取られテンパっているイカ娘のもとに無線が入る。
清美 『イカちゃん!』
イカ娘「清美!?」
江の島方面へ向かっている清美からだった。
バアン!
ドオン!
西 「怯むな!勝利への前進はあれど保身のための後退などあってはならん!」
ケイ 「ヘイ!ミス・ウェスト!どうして撃ち負けてるのに前進してるの!」
江の島入り口である江の島大橋付近では清美のオイや知波単勢・ケイたちサンダースのシャーマン隊らが砲撃による牽制を繰り返しているが、黒森峰の統率の取れた砲撃の雨に晒されじりじりと後退せざるを得なくなっている。
ガギン!
シュポッ
バアン!
シュポッ
正確な砲撃に晒された知波単戦車がだんだんと白旗を上げていく。
だが後退を良しとしない西らがその場に踏ん張り続け、そのせいで隊が縦に伸びてしまっている。
清美 「西さん!向こうの戦車が迫ってきています!下がって!」
西 「構ってくれるな紗倉殿!ここで引いたとあっては勇を見せ散っていった後輩たちに報いが!」
清美 「そんなこと言ってる場合じゃありません!」
やがてラインを押し上げていったまほ隊は、ついに江の島大橋の入り口を確保してしまった。
ケイ 「シット!これ以上は犠牲を増やすだけよ、撤退しましょう!」
ナオミ「ラジャー」
小隊長であるケイの指示により、後退しながら離脱し始めるサンダースの戦車たち。
だが知波単勢は意地になっているのか一向に下がらず、むしろ前に出ようとさえし始める。
慌ててオイが身を乗り出し西らの進行を妨げる。
清美 「西さん!撤退ですってば!お願いですから下がってください!」
西 「いやしかし・・・・いやしかし!」
バアン!
バアン!
バギン!
清美のオイが盾となって西たちをかばい続けているが、それも長くはもたない。
__と、そんな前しか見ない西のオイの真後ろに人影が現れる。
その人物は太いワイヤーの先に大きなフックが付いたものを持って近づいて来た。
そして__
カチャッ
西のオイの背部にそれを引っかける。
アリサ「今よ!引きなさい!」
ヴィイイイイイイン!
ガガガガガ
西 「おおおっ!?」
突如引きずられるように知波単戦車隊がバックし始める。
シャーマン隊が車両から伸びたウィンチを巻き取り、強引に引き戻しているのだ。
福田 「お、お待ちください!せめて一矢報いてから!先輩方の仇をー!?」
アリサ「だまらっしゃい!撤退指示が出たんだから素直に従う!ほら!行くわよ!」
清美 「殿は任せてください!」
ケイ 「センキューキヨミ!戦車全速!出るならトンネルよ!」
まるでダダをこねる子供を引きずって帰る親のごとく、ケイらは江の島の確保を断念し撤退していくのだった。
まほ 「・・・・」
重要な局面に勝利したまほは、ただ真っすぐ江の島を見つめていた。
イカ娘「江の島が・・・・取られてしまったでゲソ・・・・」
作戦の失敗に落ち込むイカ娘。
今回の江の島占領作戦『噛みつきシャコ貝作戦』の失敗により大火力であるカール、ベテランでありエース的戦力であるルミとアズミを失い、ローズヒップは敵陣に取り残され、目標である江の島は無傷で奪われてしまった。
その結末に愕然としながら、その結果に導いたただ一人の顔を思い浮かべ、イカ娘は身震いするのだった。
イカ娘「こ、これが・・・・」
絞り出すように口を開く。
イカ娘「これが、西住流でゲソか・・・・!」
更に一週間以上伸ばしてしまうという体たらく、もはや言い訳の余地もありません。
自分で決めた投稿ペースも守れないとは、何とも情けない・・・・。
もうとにかく、どうあろうと完結だけは果たしたい!
最終章第三話の発表も間近ですね。
あんこう祭りは残念ながら中止のようですが、まだまだガルパンには追い風が吹いていると感じる今日この頃でした。