ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
カチューシャ→カチュ
シンディー→シン
ニセイカ娘→ニセ娘
イカ娘が江ノ島でチャーチルと語らっていたころ。
沙織 「はっ、はっ、はっ・・・・」
夜更けの由比ヶ浜の海岸沿い道路を沙織が駆けている。
何かが入った袋を大切そうに抱えている。
沙織 (思ったより遅くなっちゃった、急がないと!)
息を切らしながら駆ける沙織。
と__
男A 「おう、嬢ちゃん!」
沙織 「え!?」
突然声をかけられ、反射的に立ち止まって振り向いてしまう。
そこには、ネクタイを頭に巻いたいかにも酔っ払いにしか見えない男二人が赤ら顔で立っていた。
男B 「嬢ちゃん、こんな時間に出歩いちゃ危ないぜえ~?」
男A 「そうそう、親御さん心配しちゃうぜえ~?」
沙織 「え、あ、えっと・・・・」
沙織 (やだ、お酒臭い・・・・。この人たち、酔ってるの!?)
男たちから漂う酒の匂いから警戒する沙織。
男A 「この辺は治安も悪くねえが、女の子の一人歩きは感心しないねえ」
沙織 「あ、ご、ごめんなさい。今学園艦に戻るところだったんです。それじゃ__」
男B 「おっと、ちょっと待ってくれよ~」
この場から逃げ出そうとする沙織の前に立ちはだかる男。
男B 「戻るまでになにかあっちゃいけねえ。おぢさんたちが送り届けてやるからよ」
沙織 「ええっ!?だ、大丈夫です!すぐそこなんで!」
戸惑い断ろうとするが__
男A 「いやいやいや、大人の提案はありがたく受けるもんだぜえ?それに大人と一緒ならもうちょっと外にいたって大丈夫だしな!」
ガシッ!と沙織の腕をつかむ。
沙織 「痛っ!?ちょ、離してください!」
男A 「ああん?大人の申し出を断ろうなんてイケない娘だなあ?」
男B 「ここは俺たち責任ある大人がしっかり常識を教えてやらねえとなあ?」
支離滅裂な理論で沙織を逃がすまいとする男たち。
無理やり引っ張りどこかへ連れて行こうとする。
沙織 「やっ、やめてください!は、離してっ!」
必死に抵抗する沙織だが、大人の男に力には敵わず、強引に連れていかれそうになる。
と、次の瞬間__
ゴン!!
男A 「ごへっ!?」
鈍い音と男の奇声が上がり、男は地面に倒れこんだ。
男B 「ど、どうした!?」
よく見ると倒れた男に後頭部にはマンガのようなタンコブができている。
と、男の後ろから二人の人影が現れる。
男B 「な、なんだお前ら!?」
黒ヤン「何だはこっちのセリフだテメエ」
金ヤン「大の大人が女の子に二人がかりたあいい度胸してるじゃねえか」
白椙を『姐さん』と慕っているヤンキー女子の二人組だった。
よく見ると金髪ヤンキーのほうはヘルメットを掴んでいる。
恐らくそれで殴ったのだろう。
男B 「そ、それで殴ったのか!?なんて野蛮な女だ!」
黒ヤン「テメエにゃ言われたかねえよ」
殺気すら混じっていそうな目力でメンチをきる黒髪ヤンキー。
男B 「ヒッ、ヒイッ!?」
ガンつけに腰を抜かしそうになる男。
金ヤン「オラ、そこで伸びてる奴持ってとっとと帰りやがれ!」
男B 「はっ、はいいーーっ!」
男は慌てて伸びている方の男を背負い全力で逃げていった。
しばらくその場でぽかんとしていた沙織だったが__
沙織 「あ、あの!助けてもらってありがとうございました!」
慌てて頭を下げる。
黒ヤン「ああいいっていいって。これは地元の不始末だからな」
金ヤン「地元の恥は地元の人間がどうにかしないとな」
ちらっと沙織の来ている制服を観る。
金ヤン「・・・・アンタ、黒森峰の学生サンだろ?」
沙織 「えっ!?あ、・・・・はい」
黒ヤン「明日ここで由比ガ浜を紹介するためのPVを兼ねた試合をするんだろ?だったらアンタは地元を興してくれる大事なお客さんってことだ」
金ヤン「だから間違っても手を出すなんてフザケた真似を許すわけにはいかねえ。アンタたちは由比ガ浜の希望の星だからな」
沙織 「・・・・」
地元民の思わぬ期待に、戸惑う沙織。
ふと、沙織が胸に抱いている袋を見る。
黒ヤン「それが、外出の理由かい?」
沙織 「・・・・はい。大切な友達の持ち物なんです。別の場所に置いてきちゃったから、届けようと思って・・・・」
金ヤン「友達想いなのはいいが、もうちっと早い時間に行くべきだったな。アンタに何かあったら悲しむのはその友達だぜ?」
沙織 「・・・・ごめんなさい」
黒ヤン「そんな気にすんな、悪いのはこっちのほうだからな。__さ、早く友達の所に行ってやんな」
金ヤン「明日の試合、期待してるぜ?いい試合してくれよな」
沙織 「は・・・・はい!」
ぺこりと一礼してから、沙織は再び駆け出した。
~~由比ヶ浜の学園艦停泊所にて~~
華 「沙織さん、まだ戻られませんね」
優花里「何かトラブルがあったんでしょうか」
麻子 「やはり私たちも行くべきだったか」
港では華たちが戻ってくる沙織を待っていた。
と__
優花里「あ、武部殿です!」
沙織 「ごめーんみんな、お待たせ!」
息を切らせながら沙織が戻ってきた。
麻子 「遅いぞ沙織。出航間際だ」
沙織 「ごめんごめん、思ったより手間取っちゃって」
華 「では戻りましょうか」
タラップを渡り黒森峰学園艦入口に向かう。
学園艦乗船口ではしっかりとした作りの自動ドアと、脇にテンキー装置とモニターが設置されている。
優花里「では不肖秋山優花里から!」
優花里はモニターに顔を近づける。
ピッ・・・・ポーン
機械音『認識しました』
機械音性が流れて、自動ドアが開く。
そこを通り先に入る優花里。
そして同じように華、麻子、沙織がモニターに顔を映してドアを開く。
全員が入り終わり、中を進んでいく。
優花里「いやー、それにしても乗艦審査が自動顔認証とは、流石黒森峰であります!」
麻子 「顔をかざせばドアが開くから楽でいい」
沙織 「登録されていない部外者は絶対に入れないから安心だよね」
などと和気あいあいで話しながら進んでいるが、
華 「・・・・」
華だけは神妙な顔をしている。
優花里「五十鈴殿?どうなさいましたか?」
華 「え?・・・・あ、ごめんなさい、ちょっと考え事を」
優花里「?」
同時刻、黒森峰学園学生寮・みほの部屋。
そこでは、みほが机に向かい地図と模型を照らし合わせ何度も作戦を練り直していた。
もう入浴も済ませたのかパジャマ姿ではあるが、未だ眠る気配を見せず黙々と作戦を考えている。
コンコン
みほ 「?はーい」
ドアがノックされ、ドアを開けると__
???「よおお譲さん!一緒にディナーでも行かないかい?」
みほ 「!?」
目の前に、タキシードで決めたダンディなボコのぬいぐるみが飛び込んできた。
そしてそれを持っていたのが__
沙織 「へへ、なんちゃって」
みほ 「武部さん」
ボコの後ろに悪戯っぽい笑顔を浮かべた沙織や、華たちが立っていた。
沙織たちもパジャマ姿で、麻子にいたっては枕持参である。
沙織 「はいこれ、みぽりんに」
みほ 「えっ!?」
そう言ってみほにタキシードボコを渡す沙織。
戸惑いながら受け取るも、ボコのぬいぐるみをじっと見つめた後表情がほころんだ。
沙織 「プレゼントだよ」
みほ 「あ・・・ありがとう、武部さん」
沙織 「いえいえ、どういたしまして」
華 「みほさん、まだ明日の作戦を考えてらしたんですか?」
みほ 「あ・・・・うん。あの後大洗チームも組み込んだ作戦を考え直してて。でもいい作戦がいくつか浮かんだから、明日試合前に説明できると思う」
優花里「それはよかったです!」
そんな話をしていると、その脇を麻子が通り過ぎ部屋の中に入る。
そして__
ぽふっ
部屋の中にある二段ベッドの一つに身を投じた。
沙織 「あ、こら麻子!何勝手に寝てるのよ!」
麻子 「眠い。もう動きたくない。ここで寝る」
沙織 「私たちには私たちの部屋があるでしょ!そこで寝なさいよ!」
ふぎぎぎぎと布団を引きはがそうとするが、びくともしない。
沙織 「それにここは相部屋なんだから、ほかの人たちのベッド奪っちゃダメでしょ!」
みほ 「えっと、大丈夫だよ?」
沙織 「え?」
みほ 「今夜は作戦考えるのに集中したいだろうって、エリカさんたちは別の部屋で寝てるんだ」
麻子 「ほれ見ろ」
ドヤ顔の麻子。
沙織 「でも、作戦考えてるみぽりんの邪魔になっちゃうからダメでしょうが!」
みほ 「それも大丈夫。ほら、作戦は全部完成したから」
ぴらっと見せた作戦所には、びっしりと細かな作戦がたくさん書き込まれていた。
優花里「うわ、すごい・・・・!あれからの時間で、ここまで作戦を立案されたのですか!?」
華 「流石みほさんです」
みほ 「ありがとう。でもさすがに疲れちゃったし、切り上げようかなって思ってたの」
沙織 「そうだったんだ。じゃあ__」
ちらっとベッドを見る。
麻子は既に熟睡しているように見える。
はあ、とため息をつく。
沙織 「じゃあ、私たちは部屋に戻るね。麻子が邪魔だったら廊下に放り出してもいいからね」
華 「明日はよろしくお願いします」
優花里「では失礼いたします!」
部屋を去ろうとした沙織たち。
その瞬間。
みほ 「あっ__」
ほんのわずか、小さな声がみほの口から洩れた。
それを、沙織は聞き逃さなかった。
じっ、とみほを見る。
そして、にっこりと笑顔を浮かべた。
__十分後。
沙織 「麻子、もうちょっと詰めてよ」
麻子 「寝てるから無理だ」
華 「優花里さん、端っこでいいんですか?」
優花里「だだ、大丈夫です!一緒に並ぶだけで心臓飛び出そうなので!」
沙織たちは床に布団を敷き、川の字になって横になっている。
華 「ベッドがあるのに布団を敷いて寝るのって、不思議な気持ちになりますね」
優花里「ですが、親睦を深めるには最適です!」
沙織 「明日の試合、がんばろうね」
沙織は横を向き、川の字の中心にいる人物に声をかける。
みほ 「__うん」
その中心には__みほがいた。
華 「みほさんならきっといい試合ができます。信じていますから」
みほ 「ありがとう。みんなと一緒ならやるって、心から思う」
そう応えるみほに、華はにっこりと笑顔を向ける。
みほもにっこりと微笑み返す。
反対側を向くとそこには沙織の顔。
沙織もにっこりと笑顔を向けてくれた。
沙織 「おやすみ、みぽりん」
みほ 「おやすみ。武部さん、五十鈴さん、秋山さん、冷泉さん」
華 「おやすみなさい」
沙織や華は目を閉じる。
華の肩越しでみほを見ていた優花里も目を閉じた。
みほ 「・・・・おやすみ、みんな」
やがてみほも目を閉じる。
きっといい夢が見れる。
みほはそう思った。
~~翌日・試合の日、由比ガ浜~~
ワアアアアアアアア!
試合までまだ数時間あるが、町中が大賑わいだった。
配置につくために町中を進む黒森峰の戦車団。
そんな彼女らに地元民は期待と激励の声を飛ばしている。
エリカ「まるでお祭りですね」
まほ 「彼らにとっては町おこしも兼ねた試合だ。期待と注目度が違うのだろう。それに__」
小梅 「もう一つ注目されている話題がありますからね」
まほたちは戦車団の先頭を見る。
先頭を走るのはⅣ号__みほたちの車両だ。
沙織 「この間の試合の時と比べると、盛り上がり方が段違いだね」
華 「前回は黒森峰の皆さんと私たち、大学選抜の方々とイカ娘さんたちだけでしたし。今はみほさんを取り巻く状況と、対戦相手の方々が・・・・」
麻子 「そうそうたるメンバーだな」
麻子は運転しながら脇に置いた参加チーム一覧を流し見する。
今朝受け取った試合参加メンバーの一覧表は、すでに最新のメンバー表に更新されていた。
優花里「よもやれもんのアルバイト店員としてれもんチームに皆さんが参加なされるとは、予想できませんでした」
沙織 「
麻子 「昨日の友は今日の敵、だな」
華 「逆バージョンもあったんですか?」
優花里「いえ!昨日の友は今日も友!皆さんも心は私たちと一緒ですよ!」
やがて黒森峰の一団は試合開始の挨拶をする場所である由比ガ浜海岸に到着した。
ひらりとⅣ号から降りたみほは、周囲を見渡す。
みほ 「うん、予定通りです。試合が始まるまでまだ時間があります。その間に作戦会議を開きましょう」
かくして黒森峰・大洗連合は時間に余裕を持ち作戦会議に臨むのだった。
そのころ一方、由比ガ浜の学園艦停泊所にて。
ボォー・・・・
港には、アンツィオ高校の学園艦が停泊している。
チョビ「・・・・」
乗船口には、いつもらしからぬ暗い表情のアンチョビが立っている。
そんなアンチョビを見送りに来たのは、千鶴や栄子、早苗、アンツィオのメンバーたちだった。
チョビ「本当に、申し訳ない!」
深々と頭を下げるアンチョビ。
千鶴 「気にしちゃだめよ、アンチョビちゃん。貴女の将来のための選択だもの、誰も責めたりなんてしないわ」
早苗 「試合は私たちが立派に果たして見せるわ。ドゥーチェは安心して観ててね!」
カル 「装填手はアマレットがやってくれることになりました。私だってドゥーチェほどじゃありませんが、車長として役割を果たして見せますよ?」
ペパ 「逆にドゥーチェよりいい結果出しちゃっても恨まないでくださいよー?」
チョビ「この、言うじゃないか」
こつん、と軽くペパロニの頭を小突く。
軽口に少し気が楽になったらしいアンチョビの顔にはうっすら笑みが戻っていた。
ボォー・・・・
チョビ「ん、そろそろ時間のようだな」
マントを翻しタラップを渡る。
チョビ「お前たち!後のことは任せたぞ!」
アン生「シー!」
元気いっぱいのアンツィオ生たちの返事に、アンチョビは笑顔で船内へと消えていった。
ボォー・・・・
そして、アンツィオの学園艦は由比ガ浜から去っていった。
千鶴 「さあ、ここからは私たちの役目よ。アンチョビちゃんに胸を張って報告できるように、頑張りましょう」
アン生「おーっ!」
アンチョビが去った後でも彼女らの士気は落ちることはなかったようだった。
ペパ 「それにしても」
周囲を見渡す。
ペパ 「イカッ娘はどこいったんすか?今朝から見てないっすね」
栄子 「そうなんだよ、起きた時からもぬけの殻でさ」
カル 「えっ、栄子さんも行き先を知らないんですか?てっきり」
千鶴 「チャーチルの所でも行ったのかしら、って思ってたけれど、それにしても戻ってこないのは心配だわ」
栄子 「だけど試合開始までに借りる戦車決めて辻さんに申請しないと、参加すらできなくなっちまうぞ」
カル 「とにかく戻ってきたらすぐ決められるように、集合場所で待ちましょう」
栄子 「そうだな、それがいいわ」
かくして栄子たちれもんチームも大学選抜チームと合流を果たし、試合開始会場へと足を踏み入れた。
千鶴 「見たところ向こうは既に到着していたようね。開始までまだ時間あるから、試合前に作戦会議しているのかしら」
栄子 「気合入ってるよなあ。私らもできればそうしたいけど、そう言ってられる時間もないし」
周囲を見回す栄子。
そこへ戦車道連盟の職員が歩み寄ってきた。
職員 「そろそろ出場戦車の登録の受付打ち切りとなります。そちらのチームはまだ出場可能台数マックスには届いておりませんが、まだ未登録の戦車はありますか?」
栄子 「え、ええっと・・・あー・・・・」
職員に詰め寄られ、どう答えたらいいか悩む栄子。
そこへケイたちが駆けつける。
ケイ 「ハイ、栄子。使う戦車は決まったかしら?」
ダー 「こちらは言っていただければすぐにご用意いたしますわ」
カチュ「もちろん乗るのはウチの戦車よね?」
愛里寿「こちらもパーシングやチャーフィーの空きは確保できてる。イギリス戦車がいいならテトラークとかも用意できるけど」
西 「いえ、ここはぜひチハを!ともに吶喊し珠と散りましょうぞ!」
カル 「散ってはだめでしょう」
栄子 「えーっと・・・・」
みんな自分の所の戦車に乗ってもらおうと詰め寄ってくる。
相談しようにも当のイカ娘がおらず、どう答えたものかと言いあぐねていると__
???『待ったー!でゲソ!』
遥か後方から拡声器に乗ったイカ娘の声が聞こえてきた。
一同 「!?」
その声に一同が後方を凝視する。
ギャルギャルギャル
ゴトゴトゴト
ザザザザザザザザ
雄々しいキャタピラの音と重厚な鉄の音を響かせながら、戦車に跨ったイカ娘が姿を現した。
愛里寿「イカ娘!?」
カチュ「どういうこと!?イカチューシャ戦車持ってるじゃない!」
ケイ 「しかも、あれって・・・・」
栄子 「ああ、間違いない。・・・・でも、どういうことだ!?」
イカ娘が持ってきた戦車、それは__
西 「あれは・・・・!?」
~~前日深夜・江ノ島に岩場にて~~
イカ娘「お主は・・・・!」
梢 「こんばんわ」
その夜、イカ娘の前に現れたのは梢だった。
夜の道を連れ立って歩く二人。
梢 「そう。明日の試合のお話をしてたのね」
イカ娘「今は動けなくてもあ奴も私たちの仲間でゲソ。見守っていてほしいでゲソね」
梢 「ふふ」
イカ娘「どうしたでゲソ?」
梢 「ごめんなさい、まるで戦車のことを友達みたいに言うものだから」
イカ娘「友達でゲソよ」
梢の反応に不機嫌を示すこともなく、イカ娘はさも当然のように答えた。
イカ娘「私の戦車道はあ奴と一緒に始まったのでゲソ。試合をするたびいつも一緒だったでゲソ。あ奴と一緒だったから、みほやダージリンさん、ケイにアンチョビ、カチューシャに黒森峰の西住さん、愛里寿や西やミカとも友達になれたでゲソ」
梢 「・・・・」
イカ娘「全部あ奴のおかげでゲソ。みんなあ奴がいてくれたからでゲソ。だったら、もうあ奴も友達以外の何物でもないんじゃなイカ?」
まっすぐ答えるイカ娘に、驚いた表情の梢だったが__
梢 「・・・・そう。貴女はいつもそうだったわね」
満足そうにぽつりと呟く。
やがて、梢に連れられ辿り着いたのはとある小高い丘。
すぐ傍には海が見えてている。
梢 「ちょっとだけここで待っていてちょうだい。貴女に紹介したい子がいるの」
そう言い残し梢は木立の闇に中へ姿を消す。
イカ娘「・・・・真っ暗でゲソ」
ふと呟き、置かれた現状に身震いするイカ娘。
早く戻ってこないかとキョロキョロしていると__
ガサガサ
イカ娘「ひいっ!?」
少し離れたところで茂みが音を立て、イカ娘が飛び上がる。
イカ娘「だ、誰でゲソ!どこにいるでゲソ!」
パニックになって周囲を見渡すが、誰も見つからない。
そんな緊張と心細さから涙目になり始めていると__
ギャルギャルギャル
よく耳にしている重い金属音とエンジンの音が聞こえ始めてきた。
イカ娘「この音・・・・。いやでも、まさかこんな所にいるわけが・・・・」
が、イカ娘の予想は当たった。
茂みの向こうから、戦車が一両姿を現したのだ。
しかも、その戦車にイカ娘は覚えがあった。
イカ娘「こ、こやつは・・・・!」
それは、かつて夏に西らと共に辿り着いた洞窟で、封印されるように眠っていた__
イカ娘「五式じゃなイカ・・・・!」
竪穴の中腹で、誰の手にも触れさすまいと佇んでいたはずの五式が、イカ娘の目の前にいた。
ガコン
唖然としているイカ娘の目前で、五式のキューポラが開く。
顔を覗かせたのは、梢だった。
慣れた風にひらりと飛び降り、イカ娘の前へ。
梢 「紹介するわ。私の『友達』のひとりよ」
梢が五式に親しそうに手を載せる。
それは嘘偽りなく、本当に長い付き合いの友にように見えた。
イカ娘「驚いたでゲソ、五式はお主の戦車だったのでゲソね」
梢 「ええ。__数えれば長い付き合いだわ」
遠い目で五式を見る。
しばらくの沈黙が続いたが__
梢 「この子を連れて行ってあげて」
イカ娘「えっ?」
思わぬ申し出に素っ頓狂な声が出る。
梢 「明日の試合、チャーチルは動けないのでしょう?なら、この子を連れて行ってほしいの」
イカ娘「それは・・・・嬉しい申し出なのでゲソが、いいのでゲソか?こやつはお主の戦車でゲソ?」
梢 「ええ。それに・・・・これはこの子の願いでもあるの」
イカ娘「こやつの?」
梢 「明日の試合。貴女たちは大切な友達のための戦うのでしょう?自分のためではなく、誰かのために全力を尽くす。私もこの子も、そういう子たちが大好きだから」
梢に促され、五式に跨るイカ娘。
しばらく戦車に乗れていなかったが、いざ乗ると何かが胸の奥からこみあげてくる。
梢 「どう?乗り心地は」
イカ娘「うむ、とてもしっくりくるでゲソ。・・・・でも」
梢 「でも?」
イカ娘「こやつは日本の戦車でゲソ?チャーチルはイギリスの戦車らしいでゲソから、栄子たちが明日すぐ乗りこなせるか不安でゲソ」
梢 「心配ないわ」
イカ娘「え?」
梢 「この子は、
~~現在に戻る~~
イカ娘「それで、ついさっきまで練習してたのでゲソ」
栄子 「なんだ、それならそうと言ってくれりゃよかったじゃんか」
渚 「栄子さん、一晩帰ってこなかったってイカの人のこと心配してましたよ」
栄子 「な、そっ、そこまで心配してなかったってば」
鮎美 「でも、乗れる戦車が見つかってよかったです」
シン 「じゃあ、今のうちに乗り合わせしちゃいましょ。新しい戦車じゃ使い勝手はちょっと変わるかもしれないわ」
かくして栄子たちは五式に乗り込んだ。
イカ娘「よーし、それじゃあ乗り合わせと行くでゲソ!」
意気揚々と出発__
職員 「あのー」
しようとした矢先、戦車道連盟職員委呼び止められた。
職員 「えっと、この戦車も試合に参加されるのですか?」
栄子 「あ、はい、そうですけど」
職員 「・・・・この戦車って、もしかして・・・・」
いぶかしげな表情で五式を見つめる。
栄子 (まずい)
栄子は危険な空気を感じ取った。
例のダージリンと呼ばれたことのある老婦人の昔話。
彼女の話を思い返すなら、この五式は当時警察にマークされながらも行方をくらませたいわば指名手配状態にあったはずである。
その五式のことを連盟の職員が知らないはずがない。
どう切り抜けようかと試合していると__
ピリリリリ
職員のケータイが鳴った。
ピッ
職員 「はい。__あっ、これは__はい、お疲れ様です。はい、はい、ええ、今私の目の前に。__えっ、そうだったのですか?__はい、はい。わかりました、ではそのように」
ピッ
職員 「失礼しました。ではこちらの戦車も参加車両としてリストに挙げさせていただきます」
それだけ言うと、職員は追及せず去っていった。
シン 「何だったのかしら、今の」
渚 「さあ・・・・」
事情を知らないシンディーたちはポカンとしていた。
栄子 「何だか知らないが、助かったな」
イカ娘「よし、じゃあ改めて乗り合わせと行くでゲソ!」
ダー 「集合時間になりましたらご連絡いたしますわ。それまで存分に慣らしてくださいまし」
イカ娘「うむ!」
こうしてイカ娘らは五式に乗り練習のためにその場を離れていった。
西 「そうか・・・・そうだったのだな」
その場に残された西がぽつりと呟く。
カチュ「?なにがよ?」
西 「あ奴は・・・・五式は、彼女らを待っていたのだ」
カチュ「???」
~~戦車道連盟試合統括部・関係者控えテント~~
ピッ
電話を終えた辻がケータイを切る。
隣にはいつぞやの試合の時と同じように戦車道連盟理事長・児玉七郎が座っていた。
児玉 「今の電話、例の?」
辻 「ええ。試合登録間際でしたが、すんでの所で間に合ったようです」
児玉 「そうですかそうですか。では、この試合で幻とも言われたあれの雄姿が拝めるという訳ですな」
児玉はいつものようにどっしりと構え、ワクワクした表情で試合開始を待ちわびている。
児玉 「しかし驚きでしたな。まさか姿を消してウン十年経って、かの五式がこの日に姿を現すとは。__もしかして、知ってたんじゃないのかね?」
辻 「何をでしょう」
児玉 「またまた。君は誤魔化すのが上手だからねえ」
嫌味を感じさせず、カラカラと笑い飛ばす。
児玉 「つい三日前、君が急に五式の登録の話を切り出したかと思えば異例のスピード認可。まるで今日五式が現れるのを知ってたかのようじゃないか」
辻 「まさか。私には予知能力などありませんよ」
眉を上げながら肩を近づける児玉に対し、涼しい表情で流す辻。
辻 「それに、登録申請を行ったのは私ではありません。__そうですね、さる高名なご婦人からの要請・・・・とだけ申し上げていきましょうか」
ほほう?と眉を顰める児玉だったが、それ以上の追及は行わず、持っていた扇子を手慣れた手つきで広げるのだった。
~~由比ガ浜を一望できる小高い丘にて~~
丘の上には、試合が広く見れるとして大勢の戦車道観戦者たちが集っていた。
主に若者も多く、カメラやスマホを持って町の全景などを撮っている。
田辺 「・・・・」
その中に赤いストールをまいた老婦人・・・・田辺凛が一人、椅子に腰かけながら試合直前の熱気あふれる街を眺めてた。
傍には上品な三脚のクリケットテーブルが置かれ、上にはポットやティースタンド、カップが三つ置かれている。
はたから見れば、戦車道観戦が手慣れた戦車道好きの老婦人に見えることだろう。
やがて、ポットから紅茶を注ぎ、一息つく田辺。
そこへ近づく一人の人影。
藤原 「こんにちわ」
袴を着た藤原カナヱだった。
田辺 「こんにちわ」
突然の来訪者にも関わらず一切の驚いた様子を見せない田辺。
藤原 「素敵なティーセットね」
田辺 「ありがとう。とっておきの日用なの」
にっこりと笑みを交わす二人。
おもむろに用意していたカップの一つに紅茶を注ぐ。
田辺 「よろしければご一緒にどうかしら?」
藤原 「あら?いいの?それじゃ、お言葉に甘えて」
田辺に促され、席に着く藤原。
紅茶を一口。
藤原 「うん・・・・おいしい。とても」
満足そうに笑みを浮かべる田辺。
藤原 「あらいけない、私としたことが。
田辺 「これはご丁寧に。田辺凛と申しますわ。・・・・貴女とは、初めて会った気がしませんわ」
二人は、お互いお顔をしばらく見つめあった後__堪え切れない、といった風に同時に吹き出すのだった。
~~由比ヶ浜海岸にて~~
みほ 「・・・・」
愛里寿「・・・・」
やがて試合開始の時間を迎え、各チームの代表が海岸沿いで相対した。
黒森峰・大洗側の代表として並ぶのはみほと杏。
大学選抜・れもん側の代表として並ぶのは愛里寿とイカ娘。
堂々としたみほに比べ、どこか不安げなそぶりの抜けない愛里寿たち。
みほ (この子が島田愛里寿・・・・。年齢差があるからって実力に差があるわけじゃない。油断しないようにしないと)
愛里寿(みほさん・・・・)
みほの決意から来る強い視線に、悲しそうな顔をする愛里寿。
きゅっ
戦意が削がれかけている愛里寿の手を、イカ娘が握る。
一瞬はっとしたが、すぐに気を取り直しいつもの凛とした顔つきに戻った。
イカ娘(絶対に負けないでゲソ)
決意を固め、みほに改めて向き直る二人。
篠川 「ではお互いに、礼!」
四人 「よろしくお願いします!」
審判員である篠川香音の合図により礼を交わした四人は、その後各陣営へと戻っていった。
その後、大学選抜・れもんチーム陣営のテントにて。
カチュ「だーかーらー!ウチを前に出して重戦車で圧倒するのが一番だって言ってるでしょ!」
ケイ 「黒森峰にも重戦車は多いのよ?初手から前に出すぎてやられちゃったら総重量で圧倒的に不利になっちゃうわよ?」
ダー 「やはり、陣形を組み粛々と進行するのがよろしいのではなくて?」
愛里寿「でもそれだと大口径の餌食になる。向こうにはマウスがあるのを忘れちゃいけない」
カル 「相手の出方も読まなければいけません。斥候を出し、それから対応しても遅くはないのでは」
優花里「ですね。偵察による布陣の把握は初動において鉄則です!」
ペパ 「でも向こうにいるのは西住サンだからなあ。絶対裏とか読んでくるっしょ」
西 「ううむ、やはり一丸となって吶喊・・・・いやいやいや、人ひとりの人生がかかっておるのだ、もっと良い手を考えねば、いやしかしそれ以上の策があったものか・・・・」
各校の隊長格が意見を出し合い、やいのやいのと騒がしい。
そんな中でもミカは参加してはいるものの一言も発することなく静観を決め込んでいる。
イカ娘も千鶴と共に会議には参加しているものの、ハイレベルな意見の応酬についていけてない。
愛里寿「ここで私たちが個人で意見を出し合っても纏まらない。最終的にどうするかの決定を下すのは大隊長の役目よ」
そう言うと、全員の視線がイカ娘の方を向く。
イカ娘「ふむ。どうするのでゲソ、千鶴?」
千鶴 「うん?」
自分に向けられた視線に気づくことなく、千鶴に意見を求める。
千鶴 「何を言っているのイカ娘ちゃん、大隊長はあなたよ?」
イカ娘「へ」
思ってもみなかった返事に間の抜けた声が出る。
愛里寿「このチームの代表はイカ娘、あなたになってる。ここにも書いてある」
そう言って愛里寿が見せたのは各チーム情報が載っている冊子。
そこには、『クラゲ女子チーム代表:西住みほ イカ少女チーム代表・イカ娘』と記されていた。
イカ娘「えええええええ!?」
ケイ 「あら、気が付いてなかったの」
イカ娘「ててて、てっきり愛里寿か千鶴がやるものだとばかり思ってたでゲソ!どうして私が代表になってるのでゲソ!?」
ダー 「こんな格言をご存じ?『リーダーとは、「希望を配る人」である』」
ペコ 「ナポレオンですね」
ケイ 「ミホの催眠術を突き止めたきっかけをくれたのはあなた。たまたま訪れただけだった由比ガ浜と私たちを強く結び付けてくれたのもあなた。あなたが皆にこの場にいるきっかけをくれたのよ」
カチュ「私たちはイカチューシャの所へ集まったの。私たちを集めたのはイカチューシャよ。だから私はイカチューシャを信じるし、他のやつらもイカチューシャを信じてるわ」
全員が頷き、まっすぐな視線をイカ娘に向けた。
そして、当のイカ娘はというと__
イカ娘「ちょ、ちょっと外の風にあたってくるでゲソ・・・・」
降って湧いた重役に耐えられずテントの外へ出た。
イカ娘「絶対無理でゲソー!」
外へ出るなり頭を抱えるイカ娘。
栄子 「おいおいどうしたイカ娘、作戦会議は終わったのか?」
イカ娘「それどころじゃないでゲソ!私が隊長で代表が集ってプレッシャーがリーダーなのでゲソ!」
栄子 「さっぱりわからん」
イカ娘をなだめ、落ち着いてから事情を聴きだした。
栄子 「そりゃ驚きだ」
イカ娘「絶対無理でゲソ、今まで指揮なんて全然したことなかったのに、こんな大事な試合で大勢の指揮なんてできっこないじゃなイカ!」
栄子 「しかもみんな全国大会出てるレベルだもんな。生半可な指揮なんてできんわ」
イカ娘「うう、どうしてこんなことに・・・・」
栄子 「さっきまで五式に乗って自信満々にしてた奴とは思えんな」
イカ娘「そ、そうだ!大隊長の権限で、大隊長の役目を千鶴か愛里寿に移しちゃえばいいのでゲソ!」
栄子 「おい、そりゃ__」
???『逃げるな!』
栄子 「!?」
イカ娘「その声は!?」
突如背後から声が飛んできた。
驚いて振り返ると、そこには__
チョビイカッ
そこには偽イカ娘が立っていた。
しかもよく見ると頭の両脇からアンチョビの緑ロールが垂れ下がっている。
ニセ娘『自分に課せられた役目から逃げるんじゃない!降りかかった困難は、乗り越えてこそ意味があるんだぞ!』
偽イカ娘からアンチョビの声が聞こえてくる。
栄子 「アンチョビさん!?」
イカ娘「どうしてニセイカからアンチョビの声がするのでゲソ!?」
ペパ 「今、姐さんの声が聞こえたっすけど!」
カル 「ドゥーチェ!?」
アンチョビの音声を聞きつけたペパロニとカルパッチョがテントから飛び出してきた。
が、目の前にいる緑ロールつきの偽イカ娘を見てフリーズする。
かくかくしかじか
カル 「__つまり、先日南風のおじさまから提案を受け、偽イカ娘さんのコントローラーを受け取っていたんですね」
ニセ娘『ああ、これならアンツィオにいながら試合に参加できる。うまく動けるか不安だったが、これならうまくいけそうだ』
ペパ 「ひゃっほう!じゃあ姐さんと一緒に試合ができるってことっすね!」
僥倖とばかりにはしゃぐペパロニ。
ニセ娘『それはさておき、だ』
グリッとイカ娘の方に向き直り、イカ娘はビクッと身を硬らせる。
偽イカ娘の元のデザインもありかなりの重圧を感じさせる。
ニセ娘『みんなにやって欲しいと言われたんだろう?ならやってみて損はないだろう』
イカ娘「だけど、この試合で負けるわけにはいかないでゲソ!だから、勝つためにはもっと強いものに__」
ニセ娘『違うぞ』
イカ娘「へ?」
ニセ娘『みんながお前を選んだのはそうすれば勝てるからじゃない。お前が誰よりも戦車道を楽しんでいるからだ』
イカ娘「私が、誰よりも戦車道を楽しんでる・・・・?」
ニセ娘『そうだ。今この国の中でも、お前ほど戦車道を楽しんでやっている奴はそうはいない。楽しむことこそが戦車道の原点であり、チームの絆を何より強固にする要素なんだよ』
イカ娘「・・・・前に、辻に言われたことがあるでゲソ。『本来の戦車道は競うためのものじゃなく、絆を深める、調和のための武道』だって」
ニセ娘『今の西住はその真逆にいる。かつては誰よりも戦車道を楽しみ、絆を大切にしていた本人が全てをないがしろにして、何よりも勝つための戦車道にとらわれてる。そんなあいつを連れ戻せるのは、本当のあいつと同等のお前しかいないと思っているんだ』
イカ娘「私が、みほと同等・・・・?」
じっと自分の手を見つめるイカ娘。
ニセ娘『あいつらはみんなお前を信じている。だから、お前もあいつらを信じてやればいい』
イカ娘「・・・・」
しばらくして。
イカ娘「・・・・お待たせしたでゲソ。いきなり飛び出してごめんなさいでゲソ」
おずおずとテントに戻ってくるイカ娘。
中にいる一同の視線が集まる。
ダー 「お帰りなさい」
カチュ「さあ、作戦会議の続きと行くわよ!」
誰一人としてイカ娘を責めず、そして心から信頼した眼差しで試合への熱意を見せてくる。
そんな彼女らの姿を見て、改めて決意を固めるイカ娘。
イカ娘「うむ、実は思いついた作戦があるのでゲソ。聞いてくれなイカ?」
間もなく、試合開始の時刻となる。
まずは、いつものペースよりかなり遅れた投稿になってしまい申し訳ありませんでした。
執筆中、あらすじに矛盾が無いようにこれまでの話を見返すことがいくらかありますが、劇場版の投稿を始めてからもう一年半は経っていることに気づきました。
長くやってると思うと同時に、まだ終わらせてないのかという自責の念もややあったりします。
せめて、これ以上ペースを落とさず完結させるに至りたい。
今はそればかり考えている今日この頃です。
そればっかり考えてちゃロクなもの作れないのも承知してるのですけどね・・・・。