侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


カメさんチーム→カメ

ウサギさんチーム→ウサギ

カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門佐→左衛門

ナカジマ→ナカ

ねこにゃー→ねこ
ももがー→もも
ぴよたん→ぴよ

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ


Chapter12:決戦前夜です!

由比ガ浜海岸にて。

サーフィンがひと段落し、浜辺へ上がった男が何の気なしに視線を向ける。

 

男A 「・・・・おい、海の家やってるぞ」

男B 「はあ?んなわけないだろ、こんな季節に・・・・やってるなあ」

 

男たちの目線の先には・・・・堂々と『海の家れもん』の看板を掲げた海の家が鎮座していた。

店内では黄色いお馴染みのれもんTシャツを着た少女たちが駆け回っている。

 

千鶴 「栄子ちゃーん、焼きそばあがったわよー」

栄子 「あいよー」

ペパ 「焼きナポリタンできたっすよー」

チョビ「ああ、今持っていく」

ノンナ「焼きボルシチができました」

ニーナ「焼きボルシチ!?」

カチュ「カチューシャに不可能はないのよ!」

 

調理を担当する者、料理を運ぶ者。

それらとはまた別に、テーブルにつき料理が運ばれてくるのを待っている者たちもいた。

 

ダー 「お待たせいたしました。れもん特性のフィッシュ&チップスですわ」

監督 「ありがとう。これは美味しそうね!」

 

明日の試合の撮影と総指揮を担う女監督に料理を運ぶのは、ダージリンをはじめとした聖グロリアーナのメンバーたち。

その横では__

 

イカ娘「辻よ、この店ではエビピラフが絶品なのでゲソよ」

 

イカ娘が笑顔でエビピラフをテーブルに置く。

 

辻  「そうですか、それは楽しみですね」

メグミ「辻局長、このお店には裏メニューもあるんですよ?」

アズミ「そうそう、その名も『イカスミパスタ』!」

ルミ 「イカ娘ちゃん、ひとつご馳走してあげたら?」

イカ娘「うむ、かまわないでゲソよ。・・・・おぶえー」

 

リクエストに応えたイカ娘が塩パスタにイカスミを吐き出していく。

 

辻  「おお、これは・・・・個性的な作り方ですね」

 

面食らったものの、素直に受け入れる辻。

 

愛里寿「イカ娘、辻局長と知り合いだったの?」

 

辻と同席しているバミューダトリオと愛里寿が話しかける。

 

ルミ 「局長と知り合いっていうのも驚きだけど、何より驚きなのは距離感よね」

メグミ「親しいとかそういうの飛び越して・・・・」

アズミ「うん、何か上下関係すら構築されてるわ」

辻  「はっはっは、イカ娘さんには故あってお世話になりましてね」

イカ娘「うむ、私は辻の命の恩イカなのでゲソ」

アズミ「恩イカ」

メグミ「何があったのか聞きたいところだけど、そのワードに全部持っていかれた気がするわ」

清美 「次の料理、お持ちしましたー」

 

次に料理を運んできたのは清美たち。

もちろんれもんTシャツを羽織っている。

 

愛里寿「ありがとう、清美」

 

清美から料理皿を受け取りテーブルに並べる。

にっこり笑顔を浮かべて、清美はまた料理を取りに行く。

 

イカ娘「清美、大丈夫でゲソか?料理が重かったら代わるでゲソよ」

清美 「ううん、これくらい部活で鍛えてるから大丈夫!それにれもんでアルバイトって、一度やってみたかったから楽しいよ」

イカ娘「さすが清美でゲソ」

カチュ「キヨーミ!焼きボルシチ三つあがったわよ!」

清美 「はーい!」

 

などと各所で会話が盛り上がっていると__

 

吾郎 「千鶴さん!」

 

吾郎が店へ駈け込んできた。

 

千鶴 「あら、吾郎さん?」

吾郎 「店が開いてるって話を聞いて慌ててきたんですが・・・・本当にやってたんですね!」

千鶴 「ええ。訳あって、今日だけ限定で再開してるのよ」

吾郎 「そんそうだったんですか」

 

見ると、吾郎は何だかもじもじしている。

 

吾郎 「あの、それでですね・・・・せっかく再開したので、その・・・・俺も入らせてもらっていいでしょうか」

 

吾郎の申し出に千鶴は申し訳なさそうな顔をする。

 

千鶴 「ごめんなさい吾郎さん。今日は貸し切りだから、一般のお客さんは入れられないのよ」

吾郎 「そ、そうだったんですか・・・・。すいません、厚かましいことを言ってしまって・・・」

 

千鶴の手料理(店のメニュー)を食べられると期待していた吾郎は、がっくりと肩を落とし去っていった。

そんな吾郎を見た自千鶴。

 

チャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカ

 

目にも止まらぬスピードで調理をし始める。

そして__

 

千鶴 「吾郎さん!」

吾郎 「え、千鶴さん!?」

 

とぼとぼと去っていく吾郎に追いつき、テイクアウト用の容器に入れた出来立てのエビピラフを差し出す。

 

吾郎 「こ、これは!?」

千鶴 「本当は普通の注文は受けられないんだけど・・・・吾郎さんは特別よ」

 

にっこり微笑みながら、千鶴は店に戻っていった。

容器を持つ手がブルブルと震え__

 

吾郎 「・・・・いよっしゃあーーー!」

 

あらん限りの声と共に吾郎は大きく飛び上がった。

 

ローズ「なんですの、今の品のない雄たけびは」

ルク 「お前の勝どきといい勝負だろ」

ローズ「まっ、心外ですわ!私でしたらもっと大きな声で叫べますわ」

ルク 「音量で勝負すんなよ」

 

アキ 「あれっ」

 

調理を担当していたアキが声を上げる。

 

ミッコ「どした、アキ」

アキ 「たこ焼きのタコが無くなっちゃった!」

ミッコ「マジで!?タコ抜きのたこ焼きなんてただの『焼き』じゃん!」

アキ 「いや、そうは言わないでしょ。・・・・うーん、でもどうしよう、これじゃ人数分に足りないよ」

ミカ 「心配はいらないんじゃないかな」

 

手伝いもせず柱に寄りかかっているミカが言う。

 

アキ 「なにミカ、もしかして具材の手配とかしてくれたりする?」

ミカ 「いや、何もしてないよ」

アキ 「ただの思わせぶり!?」

ミカ 「何も食材はお店で買うのが全てではないってことさ」

アキ 「何言ってるかさっぱりなんだけど」

 

と__

 

栄子 「ん?」

 

栄子がふと海の方を見ると、何かに気が付く。

 

カル 「栄子さん、どうしましたか?」

栄子 「いや、海のあそこの部分、ちょっと盛り上がって(・・・・・・)ないか?」

カル 「え?」

 

言われて見てみると・・・・確かに一部、海面が盛り上がっているように見える。

 

カル 「確かに、不自然ですね」

栄子 「あそこに何かいるのか?かなり大きいな・・・もしかしてクジラとか?」

 

見ていると、それはどんどん砂浜に近づいてくる。

近づくにつれそれは更に大きさを増していく。

それを見たサーファーたちも慌てて逃げていく。

 

栄子 「んなななななななな!?」

 

ドッパーン!

 

勢いを落とすことなく砂浜へ打ち上げられた。

姿を見せたそれは・・・・巨大なUFOの形をしている。

あまりにも有名なUFOの形・・・・いわゆる『アダムスキー型』の形状だ。

 

イカ娘「た、大変でゲソ!UFOが海から攻めてきたでゲソ!」

栄子 「いや、海から現れた時点で未確認飛行物体(UFO)じゃねえし!ていうかなんでこんなモンが海から来たんだ!?」

 

騒然としている栄子たち。

と、不意にUFOの正面部が開き始める。

 

アリー「う、宇宙人が出てくるん!?」

ニーナ「ひー!おったすけー!?」

 

パニックになる一同。

やがて完全に開き切ると、そこから漏れ出る白い煙のようなものの中から3つの人影が現れた。

 

ケイ 「ハーイエヴリワン!パーティーには間に合ったかしら!」

イカ娘「ケイ!?」

 

れもんTシャツを着たケイが笑顔で現れた。

後ろから同じ格好をしたアリサとナオミ。

二人ともクーラーボックスを抱えている。

 

ケイ 「千鶴からタコが無くなりそうだって聞いてね。来る途中でいろいろ獲ってきたわよ!」

 

クーラーボックスを開けると、そこには活きのいいタコが何杯も入っていた。

他にもエビやらカニやら沢山の海の幸が入っている。

 

千鶴 「ありがとうケイちゃん。おかげで人数分用意できそうだわ」

 

クーラーボックスを受け取ると、千鶴はさっそく調理に取り掛かった。

 

イカ娘「ケイ、アリサたちも久しぶりでゲソ」

アリサ「ええ、元気してたようね。私たちが日本を離れてる間にずいぶん楽しいことになってたようじゃない?」

ナオミ「千鶴さんから連絡があってみんな驚いていたぞ。急な話だったから、全員で向かうことは難しくてな。可能な限りの人数と台数を詰め込んできた」

イカ娘「え?」

 

ドッパアーン

ドッパァーン

 

直後、全く同じ形の物体が二つ砂浜へ飛び出してきた。

そしてその中から

 

ワイワイキャッキャ

ギュラギュラギュラ__

 

双方から大勢のサンダース戦車道隊員とシャーマン戦車団が路頭を組んで姿を現した。

と、その中に__

 

車長 「スクイーディー!」

装填手「やっほー」

イカ娘「おお、お主ら!」

 

イカ娘と仲のいいシャーマンチームの子らも含まれていた。

 

操縦手「隊長に頼み込んでメンバー入りさせてもらったんだ」

砲手 「あたしたちがいればたとえ黒森峰と大洗が相手でも恐れるに足らず!」

通信手「一緒に頑張ろうね!」

イカ娘「う・・・・うむ」

 

イカ娘側の事情を知らないのか、はしゃぐシャーマンチームの面々にあいまいな返事で返す。

 

車長 「それに、スクイーディに会いたがってる人たちは他にもいるしね」

 

ちらっと乗り物の奥を見やる。

すると奥から人影が見え始めた。

それは__

 

三バカ「イヤッフーウ!」

イカ娘「げっ」

 

ハリス・マーティン・クラークの三人だった。

そしてさらにその後ろから・・・・

 

シン 「ハーイ」

栄子 「シンディー!?」

 

シンディーまでもが現れた。

 

シン 「ちょうど本国の研究も落ち着いた段階に入っててね。調査が必要ない期間に入ったから、まとめて休暇をもらったのよ」

イカ娘「ほほう、いい発見でもあったのかでゲソ?」

シン 「エエ、マアネ」

 

急にカタコトになりあさっての方向を向く。

 

栄子 (進展なさ過ぎて暇になったんだな)

栄子 「それにしても・・・・」

 

砂浜に鎮座しているUFO型の乗り物を見る。

 

栄子 「何なんだこのUFO型の乗り物」

シン 「ああ、これはね・・・・」

ハリス「コレこそ我々MIT主席の頭脳とロマンが詰まった珠玉の一品!」

マー 「長距離運搬と揚陸を可能にした高性能潜水艦デース!」

クラー「最新技術と最高に吟味されたデザイン・・・・。これこそ未来の乗り物だと思いマセンカ?」

栄子 「デザインだけ時代を逆行しとるわ!」

 

ケイは店の外に出向いた辻に気づくと、歩み寄っていく。

 

ケイ 「ハーイ局長、ちょっとぶりかしら?」

辻  「ええ、しばらくぶりですね。貴女がたはどうしてこちらへ?」

ケイ 「うん?そりゃ私たちもれもんのバイトだもの。お店が開いているのなら働くのは当然でしょ?」

辻  「なるほど、理にかなっていますね」

 

言いつつ辻は何かのリストを開く。

 

辻  「実は今回、お招きいただいたと同時に確認も兼ねて参りまして」

 

辻が開いたのは明日行う黒森峰・大洗連合との試合の参加者リスト。

出場する戦車チームとそこに所属するメンバー・搭乗する戦車が全て載っている。

 

辻  「黒森峰女学園及び大洗女子学園の登録内容は差異は無いと確認が取れております。あとはこちら側、大学選抜及び海の家れもんチームの記入された内容に間違いがないかどうか・・・・でしたが、どうやら記入漏れが少々(・・)あったようですね」

 

辻の持ってきたリストに記入されているのは、大学選抜チームのメンバー・戦車たちと、海の家れもんのメンバー、イカ娘らとチャーチルのみが登録された状態だった。

 

辻  「危ないところでした。貴女がたもここれアルバイトをされているということは、貴女たちも立派な『海の家れもんチーム』の一員。申請し忘れては試合に参加できませんからね、戻り次第直ちに修正いたしましょう」

ダー 「・・・・ということは、本日アルバイトに参加している校の子たちは、明日の試合への参加を認めていただけるのでしょうか」

辻  「ええ、これは確認を怠った『こちらのミス』ですから。我々が責任をもってリストを書き直させていただきます」

チョビ「よしっ」

 

目につかないよう小さくガッツポーズするアンチョビ。

ダージリンらもほっと安堵した様子だった。

辻はさらさらとリストにペンを入れ、修正すべき内容を書き込む。

 

・海の家れもんチーム(要修正あり)

→海の家れもん店員及び所属戦車道チーム

↓以下の学生らもアルバイト店員として参加を認めるものとする

→聖グロリアーナ女学院及び所属戦車道チーム

→アンツィオ高校及び所属戦車道チーム

→プラウダ高校及び戦車道チーム

→継続高校及び戦車道チーム

→サンダース大付属高校及び戦車道チーム

→長谷中学校及び戦車道チーム

 

辻  「こんなところでしょうか」

 

修正部分を書き終え、リストを閉じる。

店内では千鶴がたこ焼きを仕上げ、テーブルに運んでいる段階だった。

 

千鶴 「さあ、全部の準備ができたわ。さっそく始めましょう」

辻  「どうやらいいタイミングのようですね、参りましょうか」

 

辻らが踵を返そうとすると__

 

???「待ったー!」

 

海の方から大きな声が響く。

見ると・・・・海から今度は戦車を載せた漁船の団体が現れた。

乗っているのは・・・・西をはじめとする知波単戦車隊の面々。

やはり全員れもんTシャツを着ている。

 

西  「遅くなってしまい申し訳ない!『お使いの件』で指定されておりました落花生をお届けに参上仕りました!」

 

さわやかな笑顔で落花生の袋を掲げる西。

ケイやダージリンと辻は顔を見合わせた辻は苦笑すると、辻は再びリストを開き知波単学園も追加の申請候補に書き込んだ。

 

ダー 「お手を煩わせ、恐縮ですわ」

 

畏まるダージリンに辻はにやり、と笑い、眼鏡をクイッと上げる。

 

辻  「何事も考え次第ですよ」

 

そして。

 

千鶴 「では明日の試合の撮影の成功と、皆さんの健闘を祈って」

みんな「かんぱーい!」

 

千鶴の音頭により前夜祭が始まり、各々が料理や会話を楽しみ始める。

ある者は明日の試合へ向け真面目な打ち合わせ、

ある者は料理に集中し周りが見えていない様子、

またある者は自慢話や会っていなかった間の近況を話し合った。

・・・・そんな中、店の隅っこで神妙な顔をしている者たちがいた。

 

鮎美 「・・・・はい、あの・・・はい・・・・」

渚  「・・・・」

 

鮎美と渚である。

鮎美はじっと『通話中』と表示されたケータイを握り耳に当て、緊張した表情のまま微動だにしない。

渚はそんな鮎美の様子を心配そうに見ている。

 

イカ娘「どうしたのでゲソ、鮎美」

渚  「あ、イカの人。さっき、パーティーが始まった直後くらいから鮎美さんのケータイに着信があったんですが、取ってからというもの向こうが一言も話そうとしないんです。鮎美さんが話しかけてても反応がなくて」

イカ娘「む?電話をかけてきて喋らないなんて、無礼な奴でゲソね」

渚  「きっといたずら電話だろうから切った方がいい、って言ってるんですけど、あの通りケータイを話さなくて」

 

いぶかしげに鮎美に近寄るイカ娘。

 

イカ娘「鮎美よ、イタズラ電話なんて相手する必要ないでゲソ。それよりみんなと__」

 

語りかけるイカ娘に、鮎美は『しー』とジェスチャーをする。

 

イカ娘「鮎美?」

鮎美 「今、紗季さんとお電話してるんです」

イカ娘「え?」

渚  「紗季さんと?」

 

ケータイのディスプレイには、『紗季さん』と表示されている。

 

鮎美 「今、黒森峰のほうでも皆さん集まっているみたいで・・・・先ほどから、紗季さんがケータイを通じて状況を知らせれてくれているんです」

渚  「通話って・・・・何も話しているように聞こえませんでしたけど」

鮎美 「え?さっきからどこで、誰が集まって、どういうお話をしているか逐一報告してくれているじゃないですか?」

 

ほら、とケータイを近づける鮎美だが、二人にはわずかに向こうの環境音が聞こえる程度で、声と言えるものは全く聞こえてこなかった。

 

イカ娘「なんでコレで会話が成立するのでゲソ」

渚  「VR空間での時もそうでしたけど・・・・(※十校十色編第6話・体験しなイカ?(後編)より)鮎美さん、紗季さんと何故か会話が成立してましたよね」

イカ娘「相変わらず並外れた能力でゲソ」

 

イカ娘が鮎美に感心していると・・・・

 

鮎美 「あっ」

 

鮎美が小さく声を上げる。

 

イカ娘「どうしたでゲソ!?」

鮎美 「・・・・みほさんが来たようです」

 

一瞬、三人の間で緊張が走った。

 

 

~~同時刻・黒森峰女学園学園艦・ブリーフィングルームにて~~

 

 

みほ 「・・・・大洗女子学園のみなさん、初めまして(・・・・・)。今回の試合の隊長を務めさせていいただきます、西住みほです」

 

その場の全員の表情がこわばる。

特に大洗メンバーの様子は顕著だ。

みほからやや離れたところでは、杏子や沙織たちやまほ、エリカなどがみほの動向を見守っている。

 

みほ 「まずは明日という急な試合の要請に応じてくださった大洗女子の皆様がたに感謝いたします。試合内容・対戦相手などの情報はすでにお配りしてある資料に明記されています」

 

緊張しているのかやや堅苦しく、かつ(仕方ないとはいえ)初対面に対する振る舞いのみほを見た大洗のメンバーは、戸惑いとも悲しみとも言える表情を浮かべている。

 

あゆみ「西住隊長・・・・本当に黒森峰の生徒になっちゃったんだ」

あや 「会長は『催眠術のせい』って言ってたけど、原因より今隊長が向こうにいるっていう事実がこたえるよ」

桂里奈「西住隊長、いつもより何だかキンチョーしてるように見えない?」

優希 「たぶん、今の状態だと隊長をするのはハジメテだからじゃないかしら~?」

梓  「ううう・・・・西住隊長ぉぉぉ・・・・」

 

各々の感想を述べたり、とことん落ち込んだりしているウサギさんチームの面々。

そんなウサギさんチームの面々の様子をお喋るしているととらえたみほ。

 

みほ 「あの、そこの・・・・えっと・・・・」

 

梓たちのチーム名が出ないのか、リストを開いて確認しよとする。

 

杏  「西住ちゃん、ウサギさんチームだよ、ウサギさんチーム」

 

察した杏が後ろから告げる。

はっとしたみほは、すぐキリッとした表情に変わる。

 

みほ 「あの、ウサギさんチームの方々。今はブリーフィング中です、お喋りは控えてもらえませんか」

ウサギ「あっ、ご、ごめんなさーい!」

 

みほからの注意に面食らったウサギさんチームの面々は慌てて姿勢を正す。

ふう、と息をつくみほ。

 

みほ 「明日の試合は大会などの公式戦ではありませんが、舞台となる町である由比ガ浜市のプロモーション撮影を兼ねた試合です。この試合のありのままが、しいては皆さんの一挙一動が由比ガ浜の印象にかかわることになります。それを忘れず、規律正しい戦車道を心がけていただけるようお願いします」

左衛門「西住隊長、あっちに行ってから目つきが変わったな」

おりょ「うむ。目的を果たすため他者を抑止しても統率する姿、土方歳三を思わせる」

カエ 「ううむ、カリグラ・・・・いや、そこまでの暴君ではないな」

エル 「いやいや、あの凛とし戦車道に真摯な姿・・・・まさにマンシュタイン」

三人 「「「それだ!」」」

 

みほに注意されないよう、極力小さく声を合わせた。

ブリーフィングは続き、プロジェクターに映し出された由比ガ浜の地図を見ながら初動や戦術について説明を進めていく。

 

そど子「むむ・・・・見事に規則性の取れた陣形、まさに模範的だわ」

パゾ美「でも、私たち基本的に後方に位置してるよね」

ゴモ代「うん・・・・あれを見る限り、私たちは後方からの支援射撃が主になるね」

 

陣形を見る限り黒森峰の戦車隊を前に押し出しており、大洗の戦車道チームは全員後方へ下げられている。

黒森峰の戦力を把握しており、目標のために勝利を譲れないみほとしては当然だろう。

が__

 

まほ 「みほ、少しいいか」

 

これまで喋らなかったまほが口を開いた。

 

みほ 「え?お姉ちゃ__、こほん・・・・お姉さま、どうされましたか?」

まほ 「・・・・この陣形を見る限り、大洗の戦車隊を下げすぎている。これでは我々黒森峰のみの試合構成になってしまうぞ」

みほ 「・・・・」

 

まほに指摘されるまでもなく、みほもそれは分かっていることである。

この試合にどうしても勝つ必要があるみほにとっては、勝率が高い戦法にしたいのだろう。

 

みほ 「お言葉ですがお姉さま。相手は戦車道に名を轟かす大学選抜、しかもそれを統率するのはあの島田愛里寿です。万全を期すことはあっても、油断していい理由にはなりません」

 

はっきり言葉には出していないが、どう考えても『大洗は戦力外』と考えているのは明らかだ。

まほもその思考に至るのは予想済みなため、言葉を続ける。

 

まほ 「みほ。大洗の方々の実力はお前が思っているより遥かに高い。個々の練度や能力は並の高校生の比ではない。・・・・言ってしまえば、我々と互角以上の力を持っている」

みほ 「えっ!?」

 

みほが『信じられない』という表情を見せる。

 

まほ 「私は大洗の力を何度も目の当たりにしている。彼女たちは自分たちより強大な相手にも物怖じせず、数の不利さえ何ら問題なく跳ね返す。・・・・私も不覚を取ったことがある」

みほ 「・・・・!?」

 

思わぬまほの言葉に言葉を失い、大洗メンバーをまじまじと見るみほ。

大洗のメンバーたちは、まっすぐみほを見つめ返す。

しばしの沈黙が流れたが__

 

みほ 「・・・・分かりました。では陣形を練り直しますので、しばらく時間をください」

まほ 「承知した。ブリーフィングは放課後、合同練習の前に再開することにしよう。では一時解散」

 

かくしてブリーフィングは中断、みほは資料を束ね部屋を出ようとする。

 

杏  「西住ちゃん」

 

そんなみほに声をかける。

 

みほ 「はい、何でしょうか角谷生徒会長」

 

堅苦しい返答に苦笑いしながらぽりぽりと頬をかく杏。

 

杏  「これから作戦の練り直しなんでしょ?私も手伝うよ」

みほ 「え?でも・・・・」

杏  「いいからいいから。各チームの子のクセとか戦車ごとの戦力とか把握しておきたいでしょ?何でも答えるよ」

みほ 「それは・・・・、__では、お願いします」

杏  「オッケー」

 

笑顔で答えた杏はみほと共にブリーフィングルームを出る。

去り際直前、杏はみほに気づかれないように振り向き、室内のメンバーたちに笑顔でOKサインを送り、部屋のドアを閉めて去っていった。

 

一同 「はあ~~~・・・・」

 

途端、全員が肩の力が抜けたように机に突っ伏した。

立っていた沙織やエリカたちは壁にもたれながら座り込む。

 

麻子 「つくづく重症だな」

優花里「私、何度会議中に『それは違います!』って叫びそうになったかわかりません・・・・」

沙織 「もー、明日の試合がとにかく心配になってきたよー」

華  「皆さんも、よく耐えてくれました」

 

華の言葉に、大洗や黒森峰のメンバーたちもぐったりしながらも親指を立てたりして応える。

 

エリカ「ホント息苦しいったらありゃしない。あの子、身も心も西住流であろうと形式ばっちゃって見てるこっちが疲れてくるわ」

小梅 「今のみほさんにとって、西住流師範代に就くことがそれほど重要ということなんですね」

ねこ 「もし明日の試合に勝っちゃったら、隊長は晴れて西住流の人間になってしまうのにゃ?」

もも 「なら、わざと手を抜いて負ければ西住隊長は戻ってくるもも?」

ぴよ 「それじゃ舐めプぴよ、マナー違反ぴよ!」

忍  「ああ、それはスポーツマンシップに逆らっちゃってます!西住隊長とて、いや、誰も納得はしませんよ!」

あけび「それにもし負けたとして、隊長の記憶が戻らなかったら大洗に帰ってきてくれませんよ?」

妙子 「もしそうなったら、隊長は喪失感を抱いたまま黒森峰に居続けなければいけなくなる」

典子 「それこそ誰も望まない結末になってしまうぞ」

ナカ 「でももし勝っちゃったら」

ホシノ「隊長は晴れて現役高校生西住流師範代」

ツチヤ「それはそれで将来安泰でしょうけど」

スズキ「もし記憶が戻ってももう戻るわけにはいかなくなる」

柚子 「だから、理想としては『全力で戦って、西住さんの記憶を取り戻したうえで師範代襲名の件を穏便になかったことにする』ことなんですね」

桃  「無理だー!試合が終わるまでに記憶が戻るなんて都合いいことあるわけないー!」

麻子 「いや、手はある」

 

そう言って麻子はポケットから例の五円玉を取り出す。

 

小梅 「それが、例の・・・・?」

麻子 「ああ、西住さんに催眠術をかけた人の落とし物だ。会長がイカ娘から預かってきた」

エリカ「じゃあ、それを使えばあの子にかかった催眠術が解ける・・・・?」

麻子 「可能性はある。だが催眠術をかけた本人ではない以上、必ず解けるとも限らない。それにこれは奥の手だ」

華  「試合前にみほさんの催眠術を解くことに成功しても、試合と師範代襲名の件は無くなりません。元に戻ったみほさんには襲名する決意は無くなりますし、それがかかった試合となれば全力で取り掛かれなくなってしまうでしょう」

優花里「そうなると周囲からは『襲名に立候補しておきながら無残な試合を晒した』となって西住殿や西住流にも大きな遺恨になってしまいます」

沙織 「だけど勝つわけにもいかない。だから解けても解けなくても、試せるのは試合の結果が出てからなんだね」

麻子 「そういうことだ」

まほ 「だから、我々は明日の試合に手を抜くとこは一切できない。勝っても負けても、それが手心一切抜きの全力でなければみほの未来は潰えてしまう」

小梅 「私たちは、みほさんのために全力で戦います」

エリカ「叩き潰すつもりで行くから、そっちも全力で来なさい!」

 

そう言って、まほたちは一斉に紗季の方を見る。

紗季はケータイをかざし、バッチリれもん側に音声が届くよう掲げていた。

 

 

~~再び海の家れもん~~

 

 

ダー 「ええ、望むところですわ」

 

エリカの言葉に、ダージリンが返す。

鮎美のケータイを通じ、れもんにいる全員に会議でのやり取りが聞こえていた。

 

アッサ「当然ね。手を抜いた黒森峰や大洗に勝っても、何の自慢にもなりませんから」

ペコ 「やっぱり、黒森峰の皆さんも同じ気持ちでいたんですね」

ルク 「一時は本当に西住を持ち上げるつもりかと思ってたけどな」

ローズ「つまりはみんな西住さんのために動いているというわけですわね!」

 

ローズヒップの一言に全員が顔を見合わせる。

 

ケイ 「そう言われればそうね」

チョビ「考えてみればこの間の試合と大差ないな」

カチュ「そうね。私たちが集まった理由は大体同じ」

ミカ 「けれど全部同じじゃあなんじゃないかな?」

西  「そう、今回は対戦相手の皆さんも想っていることは全く同じ」

愛里寿「明日の試合は全部、みほさんのためにある」

 

全員が頷いた。

 

その日の夜。

 

栄子 「んー・・・・むにゃむにゃ・・・・」

 

栄子がベッドの上で眠っている。

が、いつも同じ部屋で寝ているイカ娘の姿はそこには無かった。

 

ザザーン・・・・

 

江ノ島の切り立った崖の下、海中。

一週間前、アクシデントで水没してしまったチャーチルの車内、そこにイカ娘はいた。

 

イカ娘「・・・・明日、西住さんたちと試合するでゲソ」

 

チャーチルの計器を撫でながらつぶやく。

 

イカ娘「あっちはかなり強いらしいでゲソが、こっちはそれ以上の味方がいるでゲソ。だから心配内ないゲソ。お主はここで高見の見物をしていればいいんじゃなイカ?」

 

操縦席に座る。

 

イカ娘「辻が計らいでお主も登録してくれたでゲソ。試合に参加したくなったらいつでも来てもいいでゲソからね?」

 

操縦桿を握るが、何も反応はない。

 

イカ娘「当日、ダージリンさんやケイが戦車を貸してくれるそうでゲソ。どこまでやれるかわからないでゲソが・・・・まあ、何とかなるんじゃなイカ?」

 

沈黙。

操縦席にそのまま突っ伏していたが__やがて踏ん切りをつけて立ち上がる。

 

イカ娘「試合が終わったら絶対に迎えに来るでゲソ。だからいい子で待ってるのでゲソよ」

 

そう言い残し、イカ娘はチャーチルを後にした。

 

ザザーン・・・・

 

月夜が海を照らす。

岩場に上がったイカ娘は、明日には戦いの舞台になる由比ガ浜の町を見つめる。

と__

 

ジャリ

 

後ろに誰かが立つ気配がする。

はっと後ろを振り向くイカ娘。

 

イカ娘「お主は・・・・!」

 

目を見開いたイカ娘の眼前では、赤いワンピースが風に揺れていた。




いよいよ次回から決戦ということろまでこぎつけました。

長編の決着をつけるための試合なので、これまでにない規模の内容になると思います。
中だるみなどはしないようにしっかり気を張って書いていこうと思います。

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