侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ

ニセイカ娘→ニセ娘


Chapter11:一気呵成です!

〜〜改編されたみほの記憶内にて〜〜

 

第63回全日本戦車道大会決勝前日。

夜遅くまで明日の決勝で使う作戦の再確認をしていたみほの部屋を誰かがノックする。

 

みほ 「?……どうぞ?……えっ、お母さん!?」

 

ドアを開け入ってきたのはしほだった。

 

みほ 「どうしたのお母さん、私の部屋に来るなんて珍しいね」

しほ 「……少し、様子を見にきたのよ」

みほ 「そ、そうなんだ……あっ、ここ座って!」

しほ 「結構よ」

 

慌てて自分の座っていた椅子を差し出そうと慌てるみほだったが、意に介さずしほは近くのベッドに腰を下ろす。

 

みほ 「…………」

しほ 「…………」

 

どちらからとも話を切り出さず、沈黙が続く。

 

みほ 「……お母さ」

しほ 「明日は、決勝ね」

みほ 「えっ!?あ、うん、そうだね!」

 

切り出した矢先に発言が被ってしまい、戸惑うみほ。

 

しほ 「…………」

みほ 「…………」

 

再び沈黙。

 

しほ 「明日優勝を果たせば、黒森峰は十一連覇。前代未聞の快挙に加え、それを率いた西住流の立場は並みならぬものになるわ」

みほ 「うん……、そうだね」

しほ 「…………」

みほ 「…………」

 

また沈黙。

 

しほ 「・・・・今日、家元襲名の推薦を受けたわ」

みほ 「えっ?・・・・えっ、ええっ!?」

 

次から次へと情報に襲われ、思考が追い付かないみほ。

 

しほ 「『前人未踏たる黒森峰十一連覇の快挙を受け、その礎を築いた功績と影響を顧みた上での満場一致』・・・・だそうよ」

みほ 「そ、そうなんだ・・・・。__あれ?『十一連覇』?」

しほ 「それが『彼ら』の提示した条件のつもりなんでしょう。もし成しえなかった場合、『素質無し』として別の誰かを立てるつもりでしょうね」

みほ 「そんな!お母さんはこれまでだけで戦車道にすごい功績を残してきたのに!」

しほ 「過去の偉業を笠に着て黙らせる選択は西住流には無い。常に結果を残し、他に存在を示し続ける。それがあるべき形」

みほ 「・・・・」

 

みほが持っていたペンを強く握る。

 

みほ 「お母さん、私たち、明日の大会絶対勝つから。見てて」

 

決意に満ちた目のみほを見て、一瞬ふっと表情をくずすしほ。

 

しほ 「重要なのは『勝つこと』ではないわ」

みほ 「えっ」

 

意外な言葉に狼狽する。

 

しほ 「西住流は『不退転にして常勝無敗』。勝つから西住流なのではない、西住流だから勝つのよ」

みほ 「・・・・」

しほ 「貴女たちが西住流を体現すればするほど、その勝利は当然のものになる。そしてあなたたち二人はそれに限りなく近い存在よ」

みほ 「お母さん・・・・」

しほ 「話が長くなったわね、これで失礼するわ」

 

そう言ってしほは毅然と部屋を出ようとする。

ドアノブに手をかけ、ぴたりと止まる。

 

しほ 「そういえば・・・・」

みほ 「・・・・お母さん?」

しほ 「・・・・私が家元を襲名した場合、師範代の座が一つ空くことになるわ」

 

そしてじっとみほを見つめる。

 

みほ 「・・・・えっ」

しほ 「明日、頑張りなさい」

 

そう言ってしほは出て行った。

そのまま呆けるみほ。

 

みほ (頑張れって・・・・初めて言ってもらえた)

 

そして次の日。

 

ドオン!

シュポッ

 

司会 『プラウダ全車両、戦闘不能!よって、優勝は黒森峰女学園です!』

 

決着がつき、黒森峰の十一連覇に会場が完成で大きく震えた。

 

エリカ「やったわね、みほ!」

 

笑顔でエリカが肩を抱く。

 

みほ 「うん、エリカさんのおかげだよ!」

まほ 「みほ」

みほ 「お姉ちゃん!」

エリカ「隊長!」

まほ 「ありがとう。やはり、二人に任せて正解だった」

 

少し照れ臭そうに、熱い握手を交わすみほたち。

はっと観客席を見ると、そこにはしほが座ってこちらを見ていた。

その顔は、いつもより少し和らいでいるようにも見える。

 

みほ (・・・・うん)

 

そして、みほは決意を固くするのだった。

 

 

~~現実の黒森峰~~

 

 

沙織 「・・・・」

優花里「・・・・」

麻子 「・・・・」

華  「・・・・」

 

沙織たちは、部屋の中で陰鬱になっていた。

絶望の表情で天井を見上げる優花里、クッションに顔をうずめたまま膝を抱える沙織、床に突っ伏した麻子。

そしてそんな三人をおろおろとした表情で見つめる華。

 

沙織 「どうして・・・・」

 

クッション越しに沙織がつぶやく。

 

沙織 「どうして、こんなことになっちゃったの・・・・」

優花里「西住殿の素質から考えれば、あり得ない話ではなかったと思いますが・・・・」

麻子 「しかし・・・・西住さんのお母さんがまさか認めるとは思っていなかった(・・・・・・・・・・・・・)

華  「・・・・」

 

みほが師範代襲名を引き受ける宣言をした後。

話は瞬く間に黒森峰中を駆け巡り、学園艦丸ごと混乱の渦に叩き込んでいた。

ただでさえみほが戻ってきたことで動揺が広がっていた中で、みほの師範代宣言である。

これだけでも大波乱必死だったのだが__

 

しほ 『西住みほの師範代襲名立候補を認めることとする』

 

しほが拒否しない旨を発表したものだから騒動は臨界に達していた。

その事実に打ちひしがれ絶望したあんこうチームらは、諦めムードすら漂っている。

 

優花里「西住殿のお母さまが認めたということは・・・・」

沙織 「みぽりんを西住流の一員として、黒森峰に戻ることを認めるってことだよね・・・・はあ・・・・」

麻子 「・・・・だが、これでよかったのかもしれない」

沙織 「・・・・麻子?」

麻子 「私たちは『西住さんが元に戻ったらいつでも迎えられるように』準備を進めていた。だが・・・・」

優花里「もし万が一戻らなかったら・・・・私たちは何もしてあげられません・・・・」

麻子 「西住さんの記憶が戻らないままだったら、西住さんは黒森峰に残るしか道はない。そうなった場合の一番の懸念は黒森峰の人たちの反応だった。しかし__」

優花里「西住殿のお母さまは西住流に迎え入れることを認められた。つまり、ずっと黒森峰にいていいって言ってるってことですよね・・・・」

沙織 「そんな!諦めろって言うの!?このままみぽりんを置いて帰るっていうの!?」

麻子 「沙織・・・・」

沙織 「麻子、こないだ言ってたじゃない!『何が最善だったかなんて結果が出てからしかわからないから、自分の行動を信じて進むかしない』って!ねえ麻子、この判断で間違ってないって言えるの!?みぽりんに胸張って正しい選択だったって言えるの!?」

麻子 「そんなこと、わかってる!」

 

沙織に詰め寄られ、思わず語気を強める。

 

麻子 「わかってる、わかってるんだ・・・・!」

 

制服をぎゅっと握りしめる麻子。

その麻子の姿を見て、沙織も察したようにがっくりと肩を落とすのだった。

痛いほどの静寂。

 

__と

 

 

あああんあん♪

あああんあん♪

あああんあああんあんあんあん♪

 

どこからかあんこう音頭が流れてきた。

何だろうと沙織たちが見渡していると__

 

華  「あっ、ごめんなさい」

 

華のケータイの着信だった。

ケータイを取り出し、画面を見る。

 

華  「あっ__」

 

小さく声を上げると、電話に出た。

 

華  「もしもし」

杏  『あーもしもし、五十鈴ちゃ~ん?』

華  「会長・・・・」

 

電話の主は杏だった。

 

杏  『お知らせ届いたよ~。何だかタイヘンなことになってるね~?』

華  「はい。実は、そのあと更に事態が進みまして__」

 

華が杏にしほが師範代拝命を認めたことを伝える。

 

杏  『ありゃりゃ、もうそこまで進んじゃったんだ』

華  「もう・・・・って、会長はこうなるって予想されていたんですか?」

杏  『あ~、あんまり確信は無かったけどね~。西住ちゃんがもし戻らなかったら、西住ちゃんのお母さんはそうするんじゃないかな、って』

 

通話をスピーカーにして、全員に聞こえるようにする。

 

優花里「結局、その通りになってしまったんですよね・・・・」

麻子 「こうなってしまったらいち学生である私たちに西住さんを連れ戻す手立てはない。西住流師範代でありながら黒森峰に属さないのは西住さんたちにとってあまりに都合が悪い」

杏  『だろうね~。現役女子高生師範代ってだけでも注目度はマックスなのに、その西住流師範代が黒森峰にいないってんじゃねえ』

華  「こうなってしまうと、無理にみほさんを大洗に連れ帰ってしまうのは逆に迷惑になるのでは、と」

優花里「西住殿のお母さまも、もう西住流に迎え入れるおつもりですし・・・・」

 

あんこうチームの面々の口調からして、諦めの二文字が浮かび始めているのは明白だった。

 

杏  『・・・・』

華  「会長?」

杏  『五十鈴ちゃん。西住ちゃんのお母さんの宣言した内容、もう一度言ってもらえる?できれば正確に』

華  「えっ?はい、ええと・・・・『当家西住流家元・西住しほの権により、西住みほの西住流師範代襲名における立候補を認めることとする』__です。__あっ」

杏  『気が付いたね五十鈴ちゃん♪重要なのはそこだよ』

沙織 「え?」

麻子 「・・・・そうか、『立候補』の部分か」

優花里「えっ、どういうことですか?」

華  「西住さんのお母さまはみほさんをまだ師範代とは認めていません」

沙織 「えっ!?どういうこと!?」

 

 

~~黒森峰学園艦・展望デッキ~~

 

 

時同じくして、しほとみほは海が見える展望デッキで二人佇んでいた。

 

みほ 「・・・・拝命を認めてもらえない・・・・?」

 

みほはしほの答えに驚いていた。

 

みほ 「どうしてですか、お母さん__お母さま?先の大会ではお母さまのご期待に応える結果が出せました。私が師範代を拝命する意味ももちろん分かっています。その上で、何が足りないのですか!?」

 

自覚が芽生えた故かしほに対する口調が変わりつつあるみほ。

そんなみほに視線を合わせず、しほは海を見つめている。

 

しほ 「今の立場で西住流師範代に就く、ということはどういう意味か・・・・きちんと理解できているかしら」

みほ 「・・・・」

 

しほの質問に答えあぐね、返せないみほ。

 

しほ 「現役の高校生でありながら師範代。その肩書が意味するものは__同世代において最も優れている、という証明において他ならないわ」

みほ 「!」

しほ 「貴女が本当に師範代の資格たるに値するか否か。今一度証明して見せなさい」

みほ 「私が、同世代の誰よりも優れた西住流の人間かどうかの証明・・・・。でも、それはどうやって証明すればいいのですか?」

しほ 「これを見なさい」

 

そう言ってしほはみほに冊子を渡す。

 

『江の島観光PV撮影企画書:激突!クラゲ女子vsイカ少女軍団!』

 

度重なるトラブルにより撮影が滞ってしまっている例のPV撮影の企画書だった。

空いた時間を使い、例の監督が練り直したものである。

 

みほ 「これは・・・・?」

しほ 「その道の第一人者である方が行っている、ここら一帯を盛り立てるための企画書よ。由比ガ浜市全体を戦車道競技場に見たて、試合を通じて市の魅力を伝えることを目的としているわ」

みほ 「・・・・」

 

みほは企画書に目を通す。

 

みほ 「・・・・すごい。限られた立地の中で、これだけの魅せ方を用意できるなんて・・・・」

しほ 「監督の腕前に疑いの余地は無いわ。必要なのは彼女の企画に応えられる腕前を持った演者だけ」

みほ 「つまり、この撮影に参加すればいい、ということですね」

しほ 「ええ。でも、この撮影に台本は存在しないわ」

みほ 「え?」

しほ 「一切の打算や演技の無い本物の戦車道。彼女が撮影に求めるものはそれよ」

 

企画書をめくり、出演予定者のリストが載ったページが出てくる。

 

しほ 「撮影には我々黒森峰女学園戦車道チームと大洗女子学園戦車道チームが全面協力する形になっているわ。みほ、貴女はその隊を率いなさい」

みほ 「えっ!?私が隊長!?あの、お姉ちゃ・・・・いえ、お姉さま(・・・・)ではなく、私が・・・・ですか!?」

しほ 「これは貴女が師範代たる資格があるかを図るための機会でもある。ならば、彼女らを率いて西住流としての矜持を見せなさい。それが条件よ」

みほ 「・・・・」

 

みほは企画書をぎゅっと握る。

みほの記憶の中では、これまで黒森峰の副隊長としての経験は数多くあった。

しかし、大洗の記憶を失っている今、みほには隊長の経験は無い。

 

しほ 「自信がないのならば降りるといいわ。戦う前から後ずさるようでは、まだ__」

みほ 「・・・・やります。やらせてください!」

 

そう言い放ったみほの目は、決意に満ちていた。

 

 

~~相沢家にて~~

 

 

千鶴 「・・・・そう。しほさんはそういう選択をしたのね」

 

千鶴はまほから受けた電話で、事の顛末を詳しく聞かされた。

 

まほ 『明後日の撮影に間に合うよう、こちらでは整備や調整で手が離せなくなります』

千鶴 「わかったわ。そう決まったのなら、こちらも合わせて動くわね。メンバーもこちらで集めるから心配しないで」

まほ 『・・・・ご迷惑を』

千鶴 「気にしないで。それより、みほちゃんたちの傍にいてあげて」

まほ 『ありがとうございます。では』

千鶴 「ええ」

 

ピッ

 

栄子 「姉貴」

 

千鶴が電話を切ると、栄子が話しかける。

 

千鶴 「栄子ちゃん」

栄子 「おおよその内容は会話からわかったよ。向こうも大変なことになってるなあ」

千鶴 「ええ・・・・。どこかで元に戻るだろうと期待していたのだけれど、まさかここまで深刻な事態になってしまうなんて・・・・」

栄子 「・・・・まあ、こっちもこっちで今修羅場なんだけどな」

 

ちらり、と栄子が目線を送った先では__

 

チョビ「なんてこった・・・・」

カル 「ドゥーチェ、お気を確かに!」

ペパ 「姐さん!ねえさーーーーん!」

 

真っ青を通り越して真っ白な表情のアンチョビがソファに倒れ込んでいた。

 

栄子 「まさか出席日数が足りなくなるとは・・・・」

早苗 「私もびっくりだよ。夏休み終わってもここにいたから、てっきり帰らなくても大丈夫だと思ってたのに」

カル 「最初の予定は日帰りでしたし、ご厄介になるのも夏休みまでのつもりでした。それがずるずると今日まで長引いてしまって・・・・」

ペパ 「アンツィオは出席とかにはあんま厳しくないんだよ。勉強とかもオンライン授業とかちゃんと受けてれば欠席扱いにはならなかったし」

千鶴 「でもアンチョビちゃんは三年生だから、進学や就職に出席日数が関わってしまうのね」

早苗 「でもほら、まだ警告でしょう?今からでもアンツィオに戻ってちゃんと出席すれば間に合うんじゃないかしら?」

カル 「はい、出席日数が足りなくなるまであと一週間分はあるようです。それにアンツィオの学園艦がこちらに寄港する機会を作ってくれるそうで、それに乗りさえすれば」

千鶴 「よかった、それなら安心ね」

カル 「でも・・・・」

 

カルパッチョが言葉を濁す。

 

栄子 「どした?」

カル 「寄港予定日が明後日なんです」

栄子 「マジか」

早苗 「それじゃあ撮影には間に合わないわね・・・・」

チョビ「情けない!みんなが大変なこんな時期に、私用で帰らなきゃならんとは・・・・!」

 

アンチョビにとって一番心苦しいのは留年についてではなく、それを理由にしてここから去らなければいけない現状そのものだった。

 

千鶴 「アンチョビちゃん」

 

自己嫌悪に陥っているアンチョビの肩に手を当てる千鶴。

 

千鶴 「心配しないで。こちらのことは私たちに任せて、アンチョビちゃんは自分のための選択をしてちょうだい」

チョビ「千鶴さん・・・・」

千鶴 「アンチョビちゃんはずっとみんなのことを考えて行動してきてくれたんだもの。たまには自分のことを優先していてもバチは当たらないわ」

チョビ「・・・・」

 

千鶴の説得に納得したのか、アンチョビは平穏を取り戻したようだった。

 

栄子 「しかし西住さんの師範代襲名を認めるために撮影を利用するか。その機転の利き方と押し通す芯の強さは似たものがあるよな」

 

と言いながらじっと千鶴を見る。

 

千鶴 「何かしら?」

 

笑顔で返す千鶴だった。

 

イカ娘「うーーーむ」

 

そこへ二階からイカ娘が降りてきた。

未だ考え事を続けているのか、逆立ちのまま触手で歩いている。

 

早苗 「あ、イカちゃん」

栄子 「お前、キモいからその歩き方止めろ」

イカ娘「こうしたほうがまだ少し落ち着いて考えられるでゲソ」

 

だが逆立ち姿勢のためかスカートが時折落ちそうになっている。

 

早苗 「あっ、いけないイカちゃん、スカートが~♪」

 

これはチャンスとスカートを心配するフリをしながらイカ娘に抱き着こうとする早苗。

 

バチーン!

 

早苗 「へぶらっ!」

 

直後、強烈な触手ビンタによって吹っ飛ばされる早苗。

と、その衝撃か__

 

チャリーン

 

ポケットに入れていたことねの五円玉が床に落ちる。

 

栄子 「ん?イカ娘、何か落ちたぞ。・・・・何だこりゃ、ヒモのついた五円玉?」

イカ娘「ああ、それは__」

 

かくかくしかじか、イカ娘は砂浜で出会ったことねの話を聞かせた。

理解した瞬間、一同の顔色がみるみる変わる。

 

みんな「それだーーーー!」

イカ娘「どれでゲソ」

 

それからしばらくして。

 

バアン!

 

カチュ「ミホーシャの異常の原因がわかったって本当!?」

 

話を聞きつけたカチューシャたちが相沢家へ乗り込んできた。

 

ダー 「あら、いらっしゃい」

カチュ「あーっ!」

 

が、そこにはすでにダージリンらが先に到着していた。

千鶴らとテーブルを囲い、お茶を飲んでいる。

 

カチュ「ちょっとダージリン、なんで先にいるのよ!さては抜け駆けね!?」

ダー 「あら、人聞きの悪い。ちょっと近くを通りがかったのでお邪魔させていただいただけですわ」

カチュ「アンタの学園艦からここまでどんだけ距離あると思ってんのよ!」

 

カチューシャと問答をするダージリンの様子はいつも通りで、もうカップを落とすような危うさは見受けられない。

 

ピンポーン

 

と、誰かがインターフォンを鳴らす。

栄子がドアを開けると__

 

杏  「お邪魔するよ~」

柚子 「ご連絡をいただいたものですから」

桃  「失礼する!」

 

そこにいたのは杏らカメさんチームの面々だった。

そしてその真後ろには、

 

鮎美 「あの、お、おじゃまします・・・・」

渚  「あの、突然呼ばれたんですけど何かあったんですか?」

ニセ娘『ハーイエヴリワン!』

 

鮎美と渚、鮎美の連れてきたニセイカ娘がいた。

更には__

 

バラバラバラバラバラ

 

上空から物々しい音がする。

見上げると・・・・

 

栄子 「んななっ!?」

 

相沢家の真上には戦闘ヘリであるアパッチがホバリングしている。

 

ガラッ!

 

と、アパッチのドアが開いたと思いきや__

 

バババッ!

 

間髪おかず三つの人影が飛び降りてくる。

 

バシュン!

 

パラシュートを開き、器用に捜査し庭めがけて降りてくる。

よく目を凝らすと、降下してくる一人はタンデム状態にある。

その人物は__愛里寿だった。

 

シュタッ

 

難なく庭に降りる四人。

 

アズミ「隊長、お先に中へ!」

愛里寿「うん、ありがとう」

 

愛里寿は慣れた手つきでタンデムを解除し、千鶴の促しで庭から相沢家へ入っていく。

ふと、キッチンの方へ目をやると__

 

ミカ 「やあ」

愛里寿「そこで何しているの」

 

キッチンの床に座ったミカはチーズを口にくわえ、アキとミッコは料理をしている。

 

アキ 「ごはんまだの人いるみたいだからさ、朝ごはんでも作ってあげようと思って」

ミッコ「ああ大丈夫、使った食材はちゃんと千鶴さんの許可もらってるから」

ミカ 「心配は無用さ」

千鶴 「ミカちゃん、そのチーズお取り寄せ品だったんだけど」

 

ミカの顔がやや青くなった。

 

チョビ「・・・・壮観だな」

 

一同が集結した時には、相沢家のリビングの人口密度は相当なものになっていた。

 

ダージリン・アッサム・オレンジペコ。

カチューシャ・ノンナ・クラーラ。

鮎美・渚・ニセイカ娘。

愛里寿・ルミ・メグミ・アズミ。

アンチョビ・カルパッチョ・ペパロニ・早苗。

ミカ・アキ・ミッコ。

そして千鶴・栄子・イカ娘。

 

栄子 「・・・・みんな、集まった理由は同じか」

 

一同頷く。

 

千鶴 「それじゃあ、改めて今起きていることの整理と原因についてお話しするわね」

 

イカ娘の証言を交えみほに起きている現象を紐解いていく。

 

・みほは現在催眠術によって記憶を黒森峰生として書き換えられている

・発端はみほと出会った催眠術師の女子高生で、悪意は無かった

・改ざんされた記憶から、みほがしほの期待に応えるため師範代に名乗りを上げた

・しほはみほの師範代立候補を認めている

・みほが師範代として正式に就くかどうかは明後日の試合の結果次第

 

ペパ 「めっちゃめんどくさい状況っすね」

 

ぶっちゃけた感想をペパロニが口にする。

だが誰もツッコミを入れないあたり、皆そう思っているのだろう。

 

カチュ「それなら簡単な話じゃない!」

 

カチューシャが声を上げる。

 

カチュ「今からでも黒森峰に乗り込んで、ミホーシャとっ捕まえて、その五円玉で催眠を解けばいんでしょ!?楽勝よ!」

ノンナ「カチューシャ、事態はそんな容易に収められるものではありません」

カチュ「何でよ!」

ノンナ「昨日までならまだ間に合ったかもしれませんが、みほさんは師範代襲名を宣言してしまっています。そしてそれが周知されているこの状況で、仮にみほさんが正気に戻れば・・・・どうなるでしょうか」

カチュ「あっ・・・・」

 

促されて理解したのか、気まずそうな顔をする。

 

チョビ「原因を知らない者にとっては、西住が『また逃げた』と誤解されかねない。宣言しておいて怖気づいて、大洗に逃げ帰った・・・・そう思われてしまうだろう」

カル 「勿論私たちは原因を知っていますし、西住さんがそんな方ではないと分かっています。ですが出回ってしまえば、その悪評は西住さんたちに後々まで尾を引くことになります」

早苗 「じゃあその場合、どうすれば誰にも被害を及ぼさず治められるかな?」

愛里寿「理想はもちろん、みほさんが大洗に戻ること」

ルミ 「まあ、そうなりますね」

メグミ「そうすればきっち元鞘」

アズミ「さらに西住流の躍進も防げて一石二鳥!」

 

愛里寿ににらまれて慌てて視線を逸らす。

 

渚  「ということは・・・・まず必要なのは西住さんの師範代襲名を阻止すること、明後日の試合でみほさん率いる黒森峰にこちらが勝利することが必要条件ですね」

栄子 「最低減必要なラインがすでに高すぎる」

千鶴 「でもそうすればみほちゃんの師範代の話は無かったことになるわ。そしてその後でみほちゃんの催眠を解き、ほとぼりが冷めたころ大洗に戻れば万事解決ね」

ニセ娘『でも、実際の所、今のメンバーで黒森峰に勝てるのかしら』

 

ニセイカ娘を通じてシンディーが最もな意見を口にする。

撮影時のメンバーから考えると、試合に出られるのは大学選抜チームと手持ち戦車を失っているイカ娘チームのみ。

 

杏  「こないだの試合で勝てたのも西住ちゃんのおかげだからね~。いや~キツいねえ」

柚子 「さらに、今回は向こうに西住さんたちがいます」

桃  「絶対勝てないじゃないか!もう終わりだー!」

カチュ「何弱気なこと言ってるの!」

 

カチューシャが椅子の上で立ち上がる。

 

ノンナ「カチューシャ、お行儀が悪いですよ」

カチュ「言ってる場合!?オホン、忘れたのかしら?ついこの間の戦いのこと。・・・・そう、そこのおチビちゃんたちと戦った時のことを」

 

ビシッと愛里寿を指さす。

 

愛里寿「あなたにだけは言われたくない」

カチュ「うっさいわね!つまり、今回も同じことをすればいいのよ。また私たちが大洗に短期転校手続きをして、試合の時だけ大洗の生徒になれば堂々と試合に参加できるわ!私たち全員でかかれば、ミホーシャの率いる黒森峰だって一ひねり!どう!?この隙のない提案は!」

 

椅子から転げ落ちそうなくらいにふんぞり返るカチューシャ。

 

杏  「あー、無理だね」

カチュ「んなっ!?」

 

杏の即答にバランスを崩し転びかけるカチューシャ。

瞬時にノンナに支えられ事なきを得る。

 

カチュ「ど、どうしてよ!?」

杏  「だってうち、黒森峰と組んでるし」

カチュ「へ」

 

間の抜けた可愛い声が出てしまう。

杏はカバンから企画書を取り出す。

 

『江の島観光PV撮影企画書:激突!クラゲ女子vsイカ少女軍団!』

 

しほがみほに渡したのと同じ、改良を加えた決定稿である。

 

杏  「今朝、こっちにもこれが届いてさ。出演予定者一覧見てみてよ」

 

言われて、一同が目を通す。

そこには__

 

出演者:

クラゲ女子チーム→黒森峰女学園所属戦車道チーム、及び大洗女子学園戦車道チームに属する方々

イカ女子チーム →大学選抜戦車道チーム、及び海の家れもん戦車道チームに属する方々

尚、戦車道連盟への申請及び登録済

 

カチュ「はあ!?どうして黒森峰と大洗が同じチームにいるの?!」

杏  「元からそういうチーム編成だったんだよ。再構成した後も、構成は変わらず。ま、監督さんも今の状況知らないから無理はないけどね」

ダー 「私たちの年齢から、全員が大学側へ短期転校は難しいわね」

アッサ「ええ。一部は無理を言えば可能でしょうが、それでも叶うのは僅かな人数のみでしょう」

ペパ 「じゃあ飛び入り参加ってのはどうっすか?あっちがあんまりにも有利だから、戦力を均等にするためにーって」

ルミ 「それ、私たちだけじゃ力不足ってディスってない?」

 

バミューダの三人に睨みつけられて首を横にブンブン振りまくるペパロニ。

 

カル 「戦車道を行うにあたって、所属や参加する方々の細かい登録と申請は必須よ。いざ試合になってから、登録されていなかったり所属不明の戦車が現れたら現場は大混乱になってしまうわ」

チョビ「そうなればその校の信頼はガタ落ち、普通の試合の申請すら今後無事に通るかすら危うくなる」

ペパ 「あっちゃー、そりゃキツいっすねー」

チョビ「ていうか常識だろ!それくらい覚えとけ!」

 

てへへと頭をかくペパロニ。

 

ダー 「企画書に目を通すあたり、戦車道連盟への申請はすでにされていますわね。この申請を取り消し、再申請を通すには早くても三日かかりますわ」

ニセ娘『それじゃ試合までに間に合わないわね』

栄子 「くそっ・・・・、せっかくみんな協力してくれるっていうのに・・・・」

 

歯がゆい思いの栄子。

そんな中__一人が口を開く。

 

千鶴 「・・・・一つだけ、手があるわ」

アッサ「えっ」

ペコ 「千鶴様、それは一体・・・・?」

千鶴 「ここを見てちょうだい」

 

千鶴が指さした先__そこは出演者の項目の、『海の家れもん戦車道チーム』の部分だった。

 

次の日。

 

由比ガ浜海岸に沿う道路を走る二台の車があった。

そのうちの一台が停まり、中から人が降りてくる。

 

監督 「えーと、ここら辺のはずね」

 

PV撮影を仕切っている監督である。

周囲を見渡し、何かを探していると__

 

キッ

 

そのすぐ近くでもう一台車が停まった。

その車から降りてきたのは・・・・

 

辻  「おや」

 

文部省役人・辻だった。

 

監督 「あら辻さん、この度はお世話になります」

辻  「いえいえこちらこそ」

 

お互いに気付いた監督と辻が頭を下げ合う。

 

辻  「監督さんは、どうしてこちらに」

監督 「いえ、私はとある知人にお呼ばれしまして」

辻  「おや、奇遇ですね。私もなのですよ」

監督 「あら?ではもしかして__」

イカ娘「お二人とも、待ってたでゲソ!」

 

そこへイカ娘が現れた。

二人を先導し、砂浜を進む。

 

辻  「イカ娘さん、お聞きした内容によりますと、前夜祭だとおっしゃってましたが」

イカ娘「うむ!明日の試合の前に、チームみんなでパーティーでゲソ!」

監督 「それは楽しそうね!でも私たちもお呼ばれしちゃっていいのかしら」

イカ娘「構わないでゲソ!みんなで食べればそれだけおいしいのでゲソ!」

 

やがて目的地が見えてきた。

すでに結構な人数が集まっているのか、ワイワイと賑やかな様子がうかがえる。

 

辻  「・・・・おや?あの店は確か・・・・」

 

早くも目的地が何なのか気が付いた辻。

中ではダージリンら各校の生徒たちや千鶴たちが調理をしたり食べ物を並べたりと各々の役割を果たしている。

__やがて、建物の目の前に辿り着くと、三人に気が付いたメンバーたちが一斉にそちらを見やり、笑顔になる。

彼女らは全員同じ格好__見覚えのある黄色いTシャツを身にまとっていた。

 

栄子 「せーの!」

 

栄子が音頭を取る。

 

 

             一同 「ようこそ、海の家れもんへ!」

 

 

 




イカ娘の原作者さんが現在執筆されている『あつまれ!ふしぎ研究部』は今も愛読しています。
が、どうしても読んでいるとところどころに出てくるイカ娘要素を目にするたびイカ娘を再開してくれないかなーと思ってしまう自分がいたりします。

さて、物語はいよいよ終盤を迎えます。
最後までよろしくお願いいたします。

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