ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
シンディー→シン
~~現時点から遡ること三日前の由比ガ浜海岸にて~~
コツン
階段から落ちてきた五円玉がみほの頭にぶつかって跳ねた。
みほ 「ひゃっ」
驚いて見回すと__
みほ 「?・・・・五円玉?」
みほは自分の頭にぶつかった五円玉を見つけた。
どうしてこんなものが、としげしげと見ていると、
ことね「あらあらあら、ごめんなさい」
と、声が聞こえてきた。
みほは、その声に思わず振り返る。
階段の上から、ことねが慌てて降りてくる。
みほ 「あ、これあなたのですか?はいどうぞ」
ことね「ありがとう」
みほの差し出した五円玉を受け取ることね。
すぐにこめかみ部分に取り付けた。
ことね「最近締め具が弱くなってるみたいで、すぐ外れちゃうの」
みほ 「五円玉を・・・・ですか?」
不思議そうに尋ねるみほに、ことねははっとする。
ことね「あ、説明不足でごめんなさい。この五円玉は、催眠術に使うものなの」
みほ 「催眠術・・・・ですか?」
ことね「ええ。これでも私、催眠術の研究をしているの。初めまして、大原ことねよ」
みほ 「催眠術の研究・・・・ああ、それで。・・・・あっ、私、西住みほって言います」
自己紹介しながら、みほはことねの格好__セーラー服の上に白衣を羽織った装いに納得した。
ことね「となり、いいかしら?」
みほ 「あっ・・・・はい、どうぞ」
みほは少し横に座り直し、ことねは横に並んで座る。
どちらとも会話を切り出しもせず、しばらく海を眺め続ける。
みほはどう話を切り出そう、と考えを巡らせていると__
ことね「悩み事があるのかしら」
みほ 「えっ?!」
突然のことねの質問に目を丸くするみほ。
ふふっ、と微笑むことね。
ことね「ずっと海を見続けているし。そういう人は、悩みが自分の中で渦巻いている人が多いの。それに・・・・そうね、きっと人間関係じゃないかしら」
みほ 「ええっ!?さ、催眠術師の人ってそこまでわかっちゃうんですか!?」
思わず声が上がる。
驚愕した表情でことねの顔をまじまじと見る。
じっと見返していたことねだったが、しばらくして表情を崩す。
ことね「ふふふ、ごめんなさい。口から出まかせよ」
みほ 「ふえっ!?」
思いもしなかった返答に素っ頓狂な声が出る。
ことね「これも催眠術師に必要な工程なの。相手の心が見空かせているように振舞い、相手が自分に尊厳を感じるように誘導することが、ね」
みほ 「へえ・・・・」
ことね「でも、そんな私にだって悩んでいる子の様子くらいわかるわ。それだけは本当」
みほ 「・・・・やっぱり、わかっちゃいますか」
自重するような笑顔を浮かべるみほ。
ことね「良かったら、その悩み聞かせてくれない?相談くらいには乗れるかもしれないわ」
にっこりと微笑みかけることね。
みほは初対面にもかかわらず、ある種の包容力を感じ取っていた。
みほ 「実は・・・・」
ぽつりぽつりと打ち明け始めるみほ。
戦車道友達(イカ娘)の戦車が海に落ちてしまったこと。
その戦車を助けられなかったこと。
引き上げに姉や母に助力を請いたいが、何と言えばいいか決めあぐねていること。
そして、関係が修復されつつある黒森峰の元チームメイトたちと交流するたび、とある感情が沸き上がってしまっていること。
みほ 「色んなことが頭を駆け巡ってて、整理が追い付かないというか」
ことね「成程ね」
ことねは静かに、うんうんと相槌撃ちながらみほの話に耳を傾ける。
みほ 「特に、黒森峰のみんなと関わるたび、どうしても心の片隅で思ってしまうんです。『もしあの時黒森峰を去らなければ、今頃みんなとどんな関係になっていたんだろう』『もしかしてとてもいい関係になれていたんじゃないか』__そんなことばかり考えてしまうんです」
ことね「『もしも』を思うことは悪いことじゃないわ。自分のあったかもしれない可能性を見つめるのは新しい自分の発見にもつながるもの」
みほ 「・・・・でも、やっぱりそう思うたび、後ろめたさも感じるんです」
みほは正面、沖に浮かんでいる大洗女子の学園艦を見つめる。
みほ 「私がそう思うたびに、今の学校にいる友達を裏切っている気がして・・・・。だからもう思わないようにしようと思ってるんですけど、ふとしたことでまた考えてしまって・・・・」
大洗の仲間たちと黒森峰の元仲間たちの狭間で揺れ動いているみほ。
当然優先するべきは大洗の仲間と頭ではわかっていても、黒森峰を完全に切り離すこともできずにいた。
ことね「・・・・それじゃあ、いっそ心だけでも一度完全に元の学校に戻ってみない?」
みほ 「えっ!?」
ことねの思いもしなかった提案に驚いて顔を向けるみほ。
振り向いた先では、ことねが取り外した五円玉をぶら下げている。
ことね「私の催眠で、一時的に記憶と認識を前の学校に居続けた状態にするの。そうすれば、もし転校しなかったらどんな気持ちでいたのか体験することができるわ」
みほ 「そんな、ことが・・・・?」
ことね「もちろんその記憶はあなたの体験から作られた疑似的なもの。本来無かったことや起こらなかったことを自分の解釈や希望で造り替えちゃう可能性もある。いわば、夢を見ているのと同じ状態ね。ほら、よくあるでしょ?夢の中の突飛な設定でも、事実として受け入れちゃう特別な状態。あれと同じ心理状態にするの」
みほ 「一時的に、黒森に居続けた私に・・・・」
ことねの提案に戸惑うみほ。
もちろん黒森峰に戻りたいわけではなかった。
だが『もし』という思いを消すこともできなかった。
もし言われた通り疑似的でも黒森峰に居続けた選択を体験できるなら、心のしこりも取れるかもしれない。
そう思ったみほは、決断をした。
みほ 「じゃあ・・・・ちょっとの間だけ、お願いできますか」
ことね「任せてちょうだい」
ことねは五円玉を構え、みほの前で揺らし始める。
じっとそれを見つめるみほ。
ことね「これから3つ数えるとあなたは今から黒森峰の生徒になります。これまで何のトラブルもなく、有意義な学園生活を送れています。3・・・・2・・・・1!」
パチンッ
ことねが指を鳴らすと、みほはゆっくりと目を開け__
みほ 「・・・・?」
きょとんとした顔をしている。
その様子に違和感を感じ取ることね。
ことね「・・・・あら、西住さん?」
しげしげと自分の手を見たり、制服をつまんだり、自分の変化を調べるみほ。
しかし、見た限りどこか変化が起きたようには思えない。
みほ 「あの・・・・もう催眠、かかってますか?」
ことね「・・・・西住さん、自分の今の通ってる学校は?」
みほ 「えっと、大洗女子学園ですけど・・・・あれ?」
ことね(催眠にかかってない!?)
みほは、催眠にかからなかった。
その後。
ことね「ごめんなさい西住さん。自分から提案してこんな体たらく、恥ずかしいわ」
みほ 「ああいえ、そんな、気にしないでください!」
結果失敗に終わった催眠に、顔に手を当てて恥じることね。
みほはあわててフォローする。
みほ 「でも、どうして私は催眠術にかからなかったんでしょう?」
ことね「催眠術の仕組みは深層心理に働きかけ願望や認識を引き出すもの。だから催眠に期待を寄せすぎたり、逆に催眠への信用が無さ過ぎても成立しないの」
みほ 「でも、私はそんな極端ことは考えてなかったと思うんですけど・・・・」
ことね「または、もう一つ」
みほ 「?」
ことね「『揺らぎない決意と信念を持っている』こと」
みほ 「!」
ことねはにっこりと微笑みかける。
ことね「きっと、あなたは今の状態に満足しているのよ。だから『もしもの世界』なんて必要ないし、書き換えも受け付けない。とてもいいことだと思うわ。もしかしたらダメ押しすればかけられるかもしれないけれど、今のあなたにはどうやら必要ないみたいだもの」
みほ 「・・・・ありがとうございます」
結果的に催眠にはかからなかったが、今の大洗での生活が自分にとって大切なものであると再認識できたみほは、満足そうな笑みを浮かべた。
ことね「さてと、それじゃあ人を待たせてるから、私はここで」
そう言って立ち上がることね。
みほ 「あ、はい。ありがとうございました」
ことね「いいえ、こちらこそ。今後の励みになる体験だったわ」
にっこりと笑顔を返したことねは、五円玉をこめかみのあたりに着けなおしながら階段を上る。
ことね「それじゃあ。いつかまた会えるといいわね」
みほ 「あ、はい!私もです!」
みほがそう言い返すと、ことねは踵を返し去っていった。
その刹那__
スルッ
またことねの頭に着けていた五円玉がスルリと外れ落ち、階段の方へ落ちてきた。
ことねの方はまた落としてしまったことに気が付かない。
チャリン__
五円玉の跳ねる音にはっと意識を持っていかれるみほ。
階段の上から落ちてくる五円玉に目が行くと、その瞬間体が金縛りのように動けなくなる。
チャリン__
スローモーションのようにゆっくりと、音を立てながら落ちてくる五円玉。
その間も、みほは五円玉を注視し続ける。
チャリン__
ぐらりとみほの視界が曲がり始める。
目の焦点が合わなくなる。
チャリン__
五円玉の音がするたびに、みほの中で大洗で過ごした光景が思い浮かび、その都度ぼやけていく。
チャリン__
それにすげ替わるように、まほやエリカ、小梅たちの顔や黒森峰の風景が沸き上がってくる。
チャリン__
そして、振り返るしほの姿も浮かび上がり__
チャリーン!
最後に大きく跳ねた五円玉がみほの眼前まで飛び上がり、砂浜にポスッと落ちた。
みほ 「・・・・」
五円玉が落ち切った後も、その場で固まったまま動かないでいるみほ。
しばらくそのまま固まっていたが__
みほ 「・・・・ここ、どこだっけ・・・・。私、何しようとしてたんだっけ・・・・」
焦点の合わない目でぽつりぽつりと呟きながら、階段を上り始める。
その足取りはおぼつかず、通常よりはるかにゆっくりとした歩み。
時間をかけて登り切った目の前には、沙織たちが先に向かってみほを待っている相沢家がある。
外から見える相沢家のリビングでは、沙織たちが千鶴たちと談笑しているのが見えた。
しかし__
みほ 「・・・・」
みほは相沢家をさも知らない家を見るかの如く虚ろに見るだけ。
そして、
みほ 「・・・・帰らなきゃ」
そう呟いて、踵を返したみほはそのまま相沢家を後にするのだった。
~~日時は戻り、今の相沢家にて~~
イカ娘「うーむ」
相沢家の栄子の部屋。
ベッドの上に寝転がったイカ娘が腕組みをしながら唸っている。
イカ娘「うーむ」
座りが悪いのかころころと体勢を変える。
横向き、うつ伏せ、足を上げてみたり手を上げてみたり。
果ては触手で逆立ちしした状態で考え事にふけっている。
チョビ「・・・・何をやってるんだあいつは」
そんなイカ娘の様子をドアの影から伺う4つの影。
アンチョビたちサハリアノチームである。
ペパ 「昨日出掛け先から帰って以来、ずーっとあんな感じっすね」
カル 「チャーチルの持ち主のお婆さんのお話が耳から離れないようで」
チョビ「そうか。確か、早苗にチャーチルを貸してくれた人だったな」
早苗 「うん。私もすごく感銘受けちゃった」
チョビ「千鶴さんにも軽く話に聞いたが、かなりの人徳者だったようだな。私も会ってみたかったもんだ」
早苗 「でも、そんな凄いお婆さんの戦車だったからこそ、更に責任を感じちゃったみたいで」
チョビ「あー・・・・そうかもな」
カル 「『気にしないで』って言われると、逆に思いつめちゃうものですからね」
ペパ 「そうかな?私はミスったって姐さんが『気にするな!』って言ってくれりゃきれいさっぱり忘れちゃうもんだけど」
チョビ「お前はもうちょっと反省に活かす努力をしような」
それからしばらく悩み続けるイカ娘を見守っていた四人だったが・・・・
チョビ「ん?」
どうやら一階が騒がしいことに気がつく。
イカ娘に気づかれないよう、ハンドサインで『下に行こう』と合図を送り、部屋の前から去るアンチョビたち。
そんな中一人部屋に乗り込もうとする早苗だったが・・・・
ガシッ
アンチョビに襟首を掴まれ共に階段を下りることになった。
降りた先では、リビングで栄子と千鶴が緊迫した表情で立っていた。
手には紙を一枚持っている。
テーブルには投函されていたらしいいくつかの封筒が散らばっている。
チョビ「ん?どうした、何かあったのか?」
栄子 「ああ、アンチョビさん・・・・。これ」
チョビ「ん?・・・・黒森峰からの電報?」
栄子から渡されたのは麻子から送られてきた黒森峰からの電報。
その内容を読み進めるうち、アンチョビの表情が険しくなっていく。
チョビ「『西住さんが西住流師範代襲名に立候補した。今黒森峰は混乱の渦中にいる。しばらく対処に動くため連絡が薄くなることをここに連絡する』・・・・なんだとおおおお!?」
アンチョビが声を上げる。
アンチョビから電報を受け取ったペパロニたちも内容を目にし、目を丸くしている。
千鶴 「まずいことになったわ。まさかここまで事態が深刻化するなんて」
栄子 「にしても、西住さんどうしてこんなことになった?」
チョビ「冷泉たちから西住に起きたのは洗脳か催眠による記憶の改竄だって報告があったばかりだが・・・・どうすればこうなるんだ!?」
千鶴 「みほちゃんの心の中で何が起きているのかはここからじゃわからないわ。今は麻子ちゃんたちの情報を待つしかない」
緊迫した事態に渋い顔をしてると、カルパッチョが一つの封筒を持ってきた。
カル 「ドゥーチェ」
チョビ「ん?どうしたカルパッチョ」
カル 「これを」
カルパッチョが差し出したのは、相沢家に居候状態にあるアンチョビ宛の書簡。
差し出し元は・・・・アンツィオ高校だった。
チョビ「アンツィオから?・・・・何ごとだ」
受け取った書簡を開封し内容に目を通すと・・・・アンチョビの顔色が青くなる。
ペパ 「ありゃ?どうしたんすかドゥーチェ?」
青い顔をしているアンチョビの口が辛うじて開く。
チョビ「り、留年・・・・」
ペパ 「へ?」
チョビ「私、留年するかもしれん・・・・」
カル 「え」
一瞬、静寂に包まれる。
直後__
全員 「えええええええ!?」
その場の全員が絶叫した。
~~時同じくして聖グロリアーナ女学院~~
ローズ「ふふふんふ~ん♪」
ローズヒップが鼻歌を歌いながら廊下を練り歩いている。
と__
ローズ「おろ?」
足下に何か落ちているのを見つけた。
何気なくそれを拾い、まじまじと見る。
どうやら何かが割れた破片の様だ。
ローズ「むむ・・・・?何かのかけらのようですわね?」
当たりをキョロキョロ見回してみる。
と、ちょっと進んだ先にも転々と落ちている同じような破片を見つける。
ローズ「ここにもありますわね。・・・・それにしれも、このかけらについてる模様、どこかで見た気がしますわね」
かけらを辿るように廊下を進んでいくと__
たどり着いたのはいつものテラスだった。
パリーン!
と、中から何かが割れる音がする。
???「ダ、ダージリン様、またですか!?」
???「あらあら、ごめんなさい」
テラスの中にはダージリンたちがいた。
が、どうやら騒がしい。
ダージリンの足元には割れたティーカップがいくつも散乱し、たった今ももう一つ割ったばかりの様だ。
すぐ近くではオレンジペコが必死に割れたグラスを掃除して集めている。
アッサ「ダージリン、いくら大した出費でないにしろ、我が校の備品をこうも連続で!」
ダー 「ごめんなさい。次は気を付けますわ」
と言いつつまた新しいティーカップを手に取るも、どうも心ここにあらずといった様子。
間を置かずティーカップが指から滑り落ち、床に向かって真っ逆さまに落ちる。
ローズ「うおっしゃー!」
スザーッ!
すんでの所でローズヒップのヘッドスライディングによりカップは守られた。
ペコ 「あっ、ありがとうございますローズヒップ様!」
これ以上のカップの損失を免れたオレンジペコが感嘆の声を上げる。
ローズ「まさに滑り込みセーフでしたわ。はい、ダージリン様」
そう言いながらダージリンにカップを手渡す。
ダー 「ええ、ありがとうローズヒップ」
見た目平静なダージリンだったが__
ツルッ
受け取った直後カップを落とす。
ローズ「だっしゃー!」
そして驚異的な反応力でもう一度落としたカップを空中キャッチするローズヒップ。
アッサ「助かったわローズヒップ。仕方ないわ、十個到達は阻止しなければいけないから」
さすがにそのカップはダージリンには渡らず、アッサムが回収する。
ローズ「あぶねーところでございましたわ。・・・・それにしても信じられない光景を見ていますわ。ダージリン様が何度もカップを落とされるなんて」
アッサ「今朝とある筋から情報を受け取ってからずっとこの調子よ。何を言っても上の空で、ティーカップ一つ満足に持てていないの」
ローズ「情報?」
ペコ 「これです」
ペコの渡した紙には相沢家に届いた内容とほぼ同じ、みほが現在黒森峰に在学していること、西住流師範代拝命を了承したことなど現状のみほに関する情報が綴られていた。
ローズ「西住・・・・みほさんって大洗のほうの西住さんでしょう?ダージリン様お気に入りの」
アッサ「ええ、そちらの西住さんよ」
ローズ「え、でもここには黒森峰在学って書いてあるし、西住流師範代になるとかどうこう書いてありますわよ?どうなってんですの?」
ペコ 「それがまだ詳しいことが分からなくて、こちらも困惑しているんです。__あ、ダージリン様、何をしてらっしゃるんですか!?」
相談していて一瞬目を離した隙に、ダージリンは熱湯の入ったポットを持ち上げていた。
ダー 「何って、紅茶を淹れるのよ。ローズヒップも来たことだし、たまには私がお茶を振舞おうかと」
ツルッ
言い終わる前にダージリンがポットを落とす。
ローズ「おんどりゃー!」
三度ローズヒップが飛びつき、ポットの落下を阻止する。
が__
ローズ「うあっちゃーーっ!?」
熱湯の入ったポットを直接掴んでしまったローズヒップがポットを大きく放り投げる。
アッサ「ちょっ、どうしてこっちに投げるのよ!?」
ペコ 「きゃーっ!?」
ドンガラガッチャンバリーン!
テラスは大混乱の渦に叩き込まれた。
~~プラウダにて~~
カチュ「気に入らないわね!」
ノンナ「カチューシャ、いささか食べすぎでは」
不機嫌そうな顔でゼフィールをもりもり食べ続けるカチューシャとそれを嗜めるノンナ。
皿にこんもり詰まれていたゼフィールがどんどんカチューシャの胃袋に詰め込まれていく。
ノンナ「そんなに食べたらお昼ご飯が入らなくなりますよ」
ノンナの警告を無視しもう一つ掴むカチューシャ。
カチュ「せっかくこのカチューシャが少しは認めてあげてたのに!黒森峰を飛び出して無名の学校に転校してその年に優勝するなんて大したものだと褒めてあげてたのに!まさか出戻るようなマネをするなんて見損なったわ!」
ノンナ「みほさんにはみほさんの事情がおありなのでしょう。それに理由もなくみほさんが大洗の方々を見限るとは思えません」
カチュ「じゃあどうしてミホーシャは黒森峰に戻ったあげく西住流を継ぐなんて言い出したわけ!?」
ノンナ「流派を継ぐとは言っていません、西住流の師範代になると言っているのですよ」
カチュ「同じことよ!」
ぷりぷり怒り続けるカチューシャの耳にはノンナの言葉はまともに入っていない。
最後の一口を無理やり胃袋に収めると、苦しそうに椅子にもたれかかる。
カチュ「・・・・大洗の子たちはどうしてるかしら」
ぽつりと呟く。
ノンナ「かなりの混乱があるとみていいでしょう」
カチュ「ホント、何やってるのよミホーシャは」
食べ過ぎで苦しくなっているのを誤魔化すように険しい顔で腕を組むカチューシャ。
と、そこへクラーラが顔を見せる。
クラ 「カチューシャさま、お昼ご飯の準備が完了しました」
その言葉にギクッとする。
ノンナ「クラーラ、今日のお昼は何でしょうか」
クラ 「はい、カチューシャさまが大好きなホロホロ牛肉のボルシチです♪」
カチュ「ええっ!?」
献立を聞いて落胆するカチューシャ。
どうみてもズフィールの食べ過ぎでボルシチは入りそうにない。
ショボンと肩を落とすカチューシャ。
そんなシュンとした様子のカチューシャを愛しそうに見るノンナとクラーラ。
ノンナ【クラーラ、あえてカチューシャがお腹いっぱいになるまで待機してましたね?】
クラ 【はい】
ノンナ「Хорошая работа(グッジョブ)」
カチュ「日本語で話しなさいよ!もー!あれもこれも全部ミホーシャのせいよーっ!」
~~アメリカ・サンダース大付属高校学園艦~~
シン 「はい、スリーカード」
ケイ 「フッフーン、こっちはフルハウスよ!」
アリサ「ふふふ、私はフォーカードです!これで今度こそ!」
ナオミ「ストレートフラッシュ」
三人 「Nooooooooooo!」
ナオミの手役にベッドの上の三人がひっくり返る。
ケイ 「あらら、またナオミの一人勝ちかー」
ナオミ「それじゃいただきます」
ナオミがチップ代わりに賭けていた各々のチューインガムを回収する。
ナオミの手元には数えきれないほどの種類と枚数のガムがこんもりと積まれている。
シン 「あーあ、ガム無くなっちゃった。すってんてんよ」
アリサ「あんた、ガムがかかると勝率跳ねあがるの何なのよ」
ナオミ「負けられない戦いがあるということさ」
アリサ「答えになってない」
現在アメリカは時差で夜の十時。
寝る前に一勝負いこうと、ケイの部屋に四人集まってパジャマパーティー兼ポーカー大会になっていた。
ふと時計を見る。
ケイ 「あら、もうこんな時間。そろそろ消灯ね」
ナオミ「ということは・・・・由比ガ浜ではもうじき昼ですね」
シン 「うーん、今日も連絡なかったわね。予定はどうなったのかしら」
シンディーがいかついコントローラーを取り出す。
日本にあるニセイカ娘を遠隔操作することのできるリモコンである。
アリサ「由比ガ浜のプロモ撮影、予定期間満期間近なんでしょ?もうそろそろ始めないとまずいんじゃないの?」
シン 「そうなのよねー。私も休暇は一週間しか申請してないから、それ以上かかったら一度戻らないといけないし」
ナオミ(戻ってもやる仕事とかあるんだろうか)
思っても口に出さずにしておくナオミだった。
~~大学学園艦・愛里寿の部屋~~
ルミ 「た、隊長!一大事です!」
バミューダの三人が愛里寿の部屋へ駆け込んで来る。
愛里寿「うん、もう聞いてる」
三人に比べ、愛里寿は平静だった。
メグミ「あ、す、すいません!取り乱しました」
落ち着き払っている愛里寿に我に返ったメグミたちは息を整える。
アズミ「それにしてもどういうつもりでしょうか、西住流」
ルミ 「ほんとよね。姉の方だけ優遇してると思わせて、妹に師範代任命しようだなんて」
メグミ「もしかして、これまでの一連の流れは全て妹を持ち上げるための演出?だとしたらやってくれたわね」
ルミ 「前大会の失態から追放、他校の生徒を率いて奇跡の全国優勝、そして日本中の注目を一点に集め栄誉の凱旋・・・・。あり得るわね」
アズミ「汚い、さすが西住流汚いわ!」
メグミ「隊長!これは島田流を挙げて戦車道の未来のためにも西住流の横暴を阻止しなければいけません!」
勝手な憶測で盛り上がるバミューダトリオ。
そんな目の前で騒ぐ三人をじっと見つめる愛里寿。
その目線は怒りを帯び始めている。
ルミ 「あんな連中と仲良くPV撮影なんてやってられないわ!」
アズミ「そうね!一刻も早く家元に報告して西住流の悪だくみを白日の下に晒さなきゃ!」
メグミ「ねえ隊長、隊長もそう思いますよね!?」
同意を求める三人の目線が愛里寿に集中する。
しばらく口を閉ざしていたが__
愛里寿「・・・・出てって」
バミュ「・・・・へ」
愛里寿は振り絞るように声を出す。
思わぬ言葉に三人が固まる。
愛里寿「三人とも出ていけ!」
バミュ「は・・・・はいいーーーっ!」
そのあまりの剣幕に、理由も聞かずバミューダトリオは部屋から飛び出していった。
一人部屋に残った愛里寿は、静かにボコのぬいぐるみをきゅっと抱きしめていた。
~~由比ガ浜の見える高台にて~~
ポロン♪
高台の上で切り株の上に腰かけカンテレを弾くミカ。
その視界の先は由比ガ浜が一望できる。
そして座っているミカの隣には、もう一人の人物が立っていた。
ミカ 「言っていた通り、嵐がやって来るようだね」
???「ええ、これは嵐の前の静けさ。じきにこれまでにない大嵐になるでしょうね」
ミカ 「やれやれ。日々平穏とはいかないものだね」
そんな会話をしているミカたちを遠目に見ているのはBT-42車内で待機させられているアキとミッコ。
アキ 「ねえ、ミカと話している子、誰?」
ミッコ「さあ・・・・こっからじゃ顔も見えないし、第一ミカにこっちに友達がいるなんて聞いたことないしなあ」
アキ 「ミカと友達になるくらいなんだから・・・・かなりの変わり者だろうね」
ミッコ「違いないね~」
ミッコは車内で足を延ばしながらなははと笑う。
???「後は任せたわ。雨降って地固まるか、それとも全てを洗い流してしまうのか。貴方たちにかかっているのだから」
ミカ 「最善は尽くすつもりさ」
会話が終わり、もう一人が近づいて来る。
通りすがり際に一目顔を見ようと覗き窓から見渡すが、どうにも上手く姿を捉えきれない。
辛うじて見えたのは、赤いワンピースを着た金髪の少女・・・・らしいということだけだった。
ガコン
さして間を置かずミカがキューポラを開け中に戻ってきた。
アキ 「お帰りー。お話は終わったの?」
ミカ 「ああ。戦車道の未来を託されてきたよ」
アキ 「なにそのスケールの大きい話」
ミッコ「さて、次どこ行く?」
ミカ 「そうだね・・・・」
キューポラから身を乗り出し、外を見まわす。
ミカ 「今のうちに日の光を浴びておこうか」
すいません、投稿したつもりで投稿完了し損ねていたようで二日ずれてしまいました。
実際みほに何かが起こった場合、大洗だけに留まらず日本中の戦車道メンバーが大騒ぎになるのではないかと思います。
そして当然動きを見せる各校の代表の反応。
そちらもきちんと書いていけるよう心がけていきます。