侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

黒森峰女学園生A、B、C・・・・→黒森A、B、C・・・・
黒森峰女学園性たち→黒森峰

あんこうチーム→あん


Chapter09:内部調査です!

〜〜黒森峰女学院校内にて〜〜

 

黒森A「ねえ西住さん!お昼一緒に食べない?」

みほ 「えっ!?」

黒森B「いつも学食でしょ?あたし達も今日はそうなんだー。せっかくだからさ、一緒にどう?」

みほ 「あ・・・・うん!食べよう!」

 

昼休みに入った直後、チームメイトでもあるクラスメイトたちに声を掛けられたみほは、突然の誘いに戸惑いつつも彼女らと共に学食へ向かった。

そんな様子のみほを廊下から少し寂しげに見つめる沙織たち。

 

麻子 「ついてってはダメだぞ」

 

後ろから麻子が釘を刺す。

 

沙織 「・・・・わかってるってば。これもみぽりんのために必要なことだもん」

 

クラスメイトの誘いが嬉しかったのか、笑顔で学食に向かうみほ。

廊下の角に隠れながら、涙ぐんで覗き込む優花里。

 

優花里「ううう、西住殿ぉ・・・・」

華  「優花里さん、我慢です。耐えれば花開く時がきっと来ます」

 

優花里と華も、そんなみほを遠目に見守るしかなかった。

学食についたみほたちは、思い思いの購入した食べ物をテーブルに並べる。

 

黒森B「いただきまーす!」

みほ 「い、いただきます」

 

クラスメイトに合わせて食事を始めるみほ。

 

黒森A「うーん!相変わらずここの黒パンおいしー!」

黒森C「今はノンアルコールだけど、いつか本物の黒ビールと合わせて飲んでみたいなー」

黒森B「西住さんは黒パン派?それともプレッツェルとか?」

みほ 「ふえっ!?」

 

突然話題を振られて戸惑うみほ。

少し考える。

 

みほ 「私は・・・・シャトゥーテンかな。硬すぎると上手く食べられないから」

黒森B「へー、通だね!」

みほ 「そ、そうかな?」

黒森A「そうそう!硬いパンといえば、この前商店街でさー」

 

共通の話題で盛り上がるみほたち。

やがて内容は戦車道関連になっていく。

 

黒森A「そういえばさー、思い出したんだけど去年の大会!決勝の時の赤星さんのアレ(・・・・・・・・・・・・)、びっくりしちゃったよねー」

みほ 「え?赤星さん?」

 

みほがきょとんとした顔をする。

はっとした顔で見るクラスメイトたち。

 

黒森A「あれ・・・・西住さん覚えてないの?ほら、決勝で渓谷越えをしたじゃん。そのとき__」

みほ 「ああ、あの時の!」

 

おっ、という顔をするクラスメイトたち。

 

みほ 「あの時の赤星さんの動き、凄かったよね!赤星さんが先行してプラウダの戦車を食い止めてくれたからフラッグ車が無事だったんだもんね」

黒森C「・・・・」

 

ぽかーんとするクラスメイト。

そんな彼女らの様子に、

 

みほ 「あれ・・・・?みんな、どうしたの・・・・?」

 

何かまずいことを言ってしまったのか、と不安になったみほの表情が曇る。

 

黒森B「あ・・・・あー!あの時のアレね!アレは赤星さんファインプレーだったよねー!」

黒森A「そ、そうそう!アレで勝ち負けが決まったようなもんだったもんね!」

 

慌てて話を合わせる。

再び和気藹々とした空気の中続く食事の時間。

そんなみほとの会話を、彼女はテーブルの下に隠したスマホで録音し続けていた。

放課後、訓練の時間。

 

エリカ「それじゃあ、今日の訓練はここまで。以上、解散!」

黒森峰「はい!」

 

訓練が終わり、ロッカールームで着替えるみほたち。

 

黒森D「ねえねえ西住さん!今日のアレすごかったね!」

みほ 「え?」

黒森E「うーん、まさかあのショートカットを読んで回り込んでくるなんて思いもしなかった!」

 

先ほどの訓練内容を切り口にしてみほに話しかける隊員たち。

 

みほ 「あ、ううん、それほどじゃないよ。でもあの出力なら、あそこを上れば有効な奇襲になるだろうな、って思って、それで」

黒森F「いやー、そうだと思ってもおいそれと実行できるもんじゃないよ。やっぱ場数踏んでると違うねー」

みほ 「でも、みんなだって凄かったよ?ほら、この間の大会の準決勝、聖グロリアーナとの試合。決め手はあそこにみんなが回り込んで退路を断ってくれたからだもん」

黒森D「え?」

みほ 「え?」

黒森E「・・・・あー、あれのことね!グーゼングーゼン!」

黒森F「隊長や西住さんの指示があってこその結果だったし、そう狙ってできるもんじゃないよー」

みほ 「ううん。みんなが的確に対処してくれたからの結果だよ」

 

笑顔で和気あいあいと話しながら、制服を着始めるみほ。

そこへ、小梅がやってきた。

 

小梅 「あ、西住さん・・・・」

 

最近のみほの様子のせいで、みほにどう接すればいいか戸惑いが抜けない小梅。

声をかけあぐねもじもじしていると__

 

みほ 「あっ!小梅さん(・・・・)!」

 

小梅とは真逆に、小梅を視界にとらえたみほが嬉しそうな顔をしながら駆け寄る。

その表情は、さながら沙織たちに向ける親しみと信頼に溢れた表情である。

 

みほ 「ねえ小梅さん、このあとみんなで帰りにアイス食べに行こうって話してたんだけど、一緒に行かない?」

小梅 「えっ、えっと・・・・」

 

さながらいつも通り、当然といったように誘うみほと、これまでにあったことのないみほからの誘いに戸惑う小梅。

 

黒森F「あー、小梅!あそこだよ、あそこ。今日も『いつものサンクス』に行こうって話!」

小梅 「あっ、そ、そうなんだ!『いつものサンクス』だね!うん、私も行こうかな」

みほ 「よかった!じゃあ私急いで着替えるね!」

 

小梅と一緒に買い食いに行けると喜んだみほは、近くに置いておいた制服を引っ掴んで急いで着始める。

 

黒森E「あ、西住さん」

みほ 「え?」

黒森D「それ、私の制服」

 

話に夢中で、みほは他の隊員の制服を手に取っていた。

 

みほ 「ふえっ!?ごめんなさーい!?」

黒森D「あはははは」

小梅 「・・・・」

 

その後も。

入浴の時や就寝までのロビーでの談話、朝食時にも隊員たちは積極的にみほに絡み、会話を重ねていった。

そして__

 

黒森A「これで全部。冷泉さんが欲しがってた情報は手に入ったと思うよ」

 

放課後、空き教室に集まった麻子たちと、みほと会話を重ねてきたチームメイトたちがケータイを差し出し合っている。

 

優花里「さすが冷泉殿。皆さんの会話から西住殿の記憶だけが違っている部分を抜き出し、根本を探る計画ですね!」

麻子 「西住さんの中で記憶の書き換えが起きたのはどの部分なのか。それがわかれば今の西住さんの状態がわかるし、詳しい症状も推測できるかもしれない」

 

麻子のケータイに次々と送られてくるデータ。

彼女らがみほと思い出話をしながら、本来と違っている会話を抜粋した音声データとなっている。

各メンバーがそのデータを持ち寄り、麻子に送信している。

 

黒森A「・・・・」

 

見ると、視線を落としながら思い詰めたような表情をしている子がちらほら見られる。

 

麻子 「・・・・すまない。こんなスパイのような真似、心苦しい思いをさせてしまった」

黒森A「うん・・・・?ううん、そうじゃないんだ」

麻子 「え?」

 

他のメンバーも同じなようだ。

 

黒森A「こんな事情だしね。協力して西住さんに話しかけて、解決策が見つかればいいな、くらいに思ってたんだけど」

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、一緒の昼食を楽しんでいるみほの顔だった。

 

黒森A「西住さん、ほんとはあんな風に笑えるんだな、って」

華  「え?」

黒森D「そうそう。一年の頃なんて、いつも切羽詰まった顔してたし」

黒森B「戦車道に関してもいつも必死でさ。いいプレイが出来ても勝っても、難しい顔して笑顔なんてなかったし」

優花里「・・・・」

黒森E「それに・・・・西住隊長の妹さんだし、お母さんは西住流師範代だったし。実力なんて私たちじゃ月とすっぽんだったから・・・・なんだか話しかけづらくてさ。戦車道のないときはお話なんてしようとも思わなかった」

沙織 「・・・・」

 

沙織たちの表情がかげる。

 

黒森C「でもさ、今回の件で思い切っていろいろ話してみてさ、西住さんも私たちとおんなじ普通の女の子なんだな、って思ったの」

黒森D「むしろ普通よりおっちょこちょいだったよね」

黒森C「あはは、そうそう」

 

みほの話題で弾むチームメイトたち。

 

黒森A「だからさ。もし最初から__『あの出来事』が起きる前から仲良しで・・・・同じことが起きてたら__もし皆で西住さんを支えたり励ましたり出来てたら、今でも西住さんはうちにいたのかな、って思っちゃって」

麻子 「・・・・」

 

彼女らの表情から、みんな考えていることは一緒だったようだ。

どう答えたらいいものか、答えあぐねていると__

 

黒森A「あー、ごめんね!辛気臭い話になっちゃった」

 

陽気に笑い飛ばしてきた。

と、同時に全てのデータが麻子のケータイに転送し終え、彼女らはケータイをしまう。

 

黒森B「あなた達、西住さんをよろしくね。ここまでしたんだから、絶対連れ戻してあげないと許さないんだから!」

麻子 「・・・・」

 

彼女らの言葉にケータイをぎゅっと握り__

 

麻子 「ああ。任せておけ」

 

迷いなくはっきりと答えた。

その様子ににっこりとするチームメイトたち。

 

黒森C「あっ、そろそろ訓練の時間だ!」

黒森A「じゃあね!データ、確かに渡したからね!」

 

そう言って彼女らは駆け足で去っていった。

残された麻子たちはその場に立ち尽くす。

 

優花里「いい人たちでしたね」

麻子 「・・・・ああ」

華  「皆さん、本当にみほさんのことを気にかけてくれていました」

沙織 「・・・・」

 

思い詰めた表情の沙織。

 

麻子 「じゃあ部屋に戻ろう。せっかく貰ったデータだ、早く確認したい」

優花里「そうですね、参りましょう!」

 

踵を返して戻ろうとするが、沙織は立ち尽くしたまま。

 

麻子 「どうした沙織、戻るぞ」

沙織 「ねえ、麻子」

麻子 「・・・・どうした」

沙織 「・・・・みぽりん、元に戻って大洗に帰って、それで幸せなのかな?あんなにみぽりんを思ってくれる人たちがいるなら、このまま__」

華  「沙織さん」

 

強い口調で言葉を遮る。

 

華  「それは、私たちが決めることではありません。西住さんの行く末は、西住さんが決めるものです」

沙織 「・・・・」

華  「私たちがすべきことは、みほさんの行く末を決めることではありません。全てが終わった後、みほさんにその間私たちが何をしていたか胸を張ってお話し出来る行動をとることです。__沙織さん。あなたの今考えていることは、みほさんに胸を張ってお話し出来ることでしょうか?」

 

無言で首を振る沙織。

 

麻子 「何が最善かだったかなんていうのは結果が出てからわかるものだ。なら、私たちが今すべきことは自分の行動を信じて進むことしかない」

優花里「参りましょう武部殿!自分たちは、西住殿をお迎えに来たんです!」

沙織 「__、うん!」

 

生じた迷いを振り切って、麻子たちの所へ駆け寄る沙織だった。

その夜。

麻子は黒森峰の生徒たちから受け取った、音声データをパソコンに移しその内容を一つ一つ確認していた。

 

沙織 「ふぁーあ・・・・」

 

沙織が大きなあくびをする。

 

華  「沙織さん、眠いのでしたら無理をなさらず」

沙織 「ううん、もうちょっと大丈夫!とりあえず麻子が大まかな見当をつけてくれるまでは!」

 

当の麻子は目をしっかり開き、音声データとパソコンのデータ入力を同時にこなしていっている。

 

優花里「いや、流石は冷泉殿です。何だか昼間より冴えているようにも見えますねー」

麻子 「ああ。夜は私の時間だ」

 

麻子のデータ入力を横から見る沙織たち。

 

優花里「しかし、こうやって見ますと・・・・」

華  「ええ。みほさんに起きた異変の全貌が見えてくる気がします」

麻子 「あの証言はここに当てはめ・・・・となると、これはここで__」

 

証言データをヘッドホンで聞きつつ、時系列順に表に収めていく。

そして、ある程度進んだ所で__

 

ッターン

 

麻子のタイプが止まる。

 

麻子 「よし、大まかにまとめるとこんなところだろう」

沙織 「これって・・・・」

優花里「やはり、要点はあそこだったんですね!」

華  「・・・・」

 

四人は神妙な顔もちでモニターを見つめていた。

 

麻子 「西住さん」

まほ 「ん?ああ、君たちか」

華  「お話ししたいことが」

 

次の日。

朝練を終えたまほとエリカに麻子たちが声をかける。

何も言わず見据えるまほに、華はこっくりと頷く。

きょろきょろと周囲を見回したまほは、

 

まほ 「では、もう少ししたらあの部屋へ来てくれるか」

 

近くの空き部屋に案内された。

先に部屋で待機している麻子たち。

 

ガラララ__

 

ドアが開き、其方に目を向けた一行は、目を見開いた。

 

しほ 「失礼するわ」

沙織 「えっ!?」

優花里「ににににに、西住殿のお母さま!?」

 

入ってきたのはしほだった。

予想していなかった人物の登場に戸惑う4人。

 

まほ 「ああ、お待たせした」

 

続いてまほ・エリカ・小梅が部屋に入ってきた。

 

麻子 「西住さん、お母さんをお呼びしたのか」

まほ 「ああ。何か進展があればすぐに連絡するようにと言われていてな。驚かせてしまったか」

華  「いえ、まさかおいでになるとは思っていませんでしたので」

優花里「こちらとしてもまだ仮説の域を出ていないので、お母さまにはもっと情報がまとまってからと思ってまして」

しほ 「仮説域で結構よ。__それに、私よりあなた達のほうがよっぽど今のみほを把握しているでしょう」

麻子 「__それで構わないなら、加わってもらって結構です」

まほ 「それで、何かわかったのだろうか」

 

麻子は頷き、用意していた紙を取り出しまほたちに配った。

 

小梅 「これは?」

麻子 「西住さんが黒森峰に入ってから今日に至るまで。実際に合ったことと、西住さんの中で事実となっていることを比較した年代表になっている」

優花里「実は黒森峰の皆さんに西住殿と思い出話をしてもらって、事実と異なる点を洗い出してたんです」

まほ 「・・・・なるほど、これはわかりやすいな」

 

表には黒森峰高校一年時代の年代表と、二年時代の年代表がリストアップされている。

事実と一致している部分はそのままに、相違している部分だけ注釈されている。

 

麻子 「彼女らの話を統合したところ、今回の事態を引き起こした西住さんの記憶の相違部分がはっきりした」

まほ 「相違・・・となるとやはりこの部分か」

 

まほが注視したのは、みほの高校一年生・夏。

件の第62回大会終了から、相違部分が目に見えて増加しているのだ。

 

華  「注釈が加えられていないのは、わずかながら相違がない部分がある、もしくは会話から相違が確認できなかった箇所です」

エリカ「でも、やっぱり目に見えて去年の大会直後から違いまくってるわね」

麻子 「それを照らし合わせた上で推測される今の西住さんを形づける根底と、その結論は__」

 

ちらり、とエリカを見る。

 

エリカ「え、何よ。私が原因だとか言うつもり?」

 

すぐに視線を外す。

 

麻子 「今の西住さんの中では、『第62回大会であの事故は起きていない』」

小梅 「えっ」

エリカ「は?」

まほ 「・・・・やはり、そうか」

しほ 「・・・・」

 

未だ把握できないエリカと、納得した様子のまほ。

しほは目立った反応を示さず、ただじっと表を見つめ続けている。

 

麻子 「今の西住さんの中では、あの大会の赤星さんの戦車滑落事故は起きていない。だから西住さんが助けに戦車を降りることもなかったし、アクシデントも起きず黒森峰は十連覇を達成した。西住さんの中では、そうなっている」

小梅 「そんな・・・・」

エリカ「何よそれ・・・・」

 

エリカが絞り出すように声を出す。

 

エリカ「あの大会であんなことがあって、隊長や私たちが苦労して、乗り越えて、今に至るまでどれだけ大変だったか・・・・!それを、無かったことにしてるですって!?そんな、そんなの・・・・!」

まほ 「エリカ」

 

激昂するエリカの肩に、まほがそっと手を当てる。

 

まほ 「お前が怒りたい気持ちも分かる。だがみほだってそんな事を望むはずもない。__それはエリカだってよく分かってくれているだろう」

エリカ「・・・・はい」

まほ 「すまない。話を続けてくれ」

麻子 「これは西住さんの名誉のために言わせてほしいんだが、西住さんはなりたくて今の状態になった訳ではないということだ」

小梅 「それはこれまでのみほさんを見ればわかります。やっと自分の道を見つけ、歩み続ける決意をしたあの目。おいそれとその覚悟を捨ててしまう人じゃありませんもの!」

まほ 「ならば論点は・・・・『なぜみほはあの状態になってしまったか』だが」

華  「それこそまだ仮説の域を出ません。何せ当事者であるみほさんにとっては、そのきっかけになる出来事がそもそも存在していないのですから」

エリカ「まあ、確かに・・・・記憶を書き換えられたって認識してたらああはならないわよね、あの子でも」

しほ 「・・・・」

麻子 「重ね重ね憶測で申し訳ないが」

 

麻子が言葉を挟む。

 

麻子 「西住さんがああなった要因__『黒森峰が62回大会で優勝した』という事実を刷り込ませた、いわばその方法に2つ候補がある」

小梅 「2つ、ですか」

優花里「はい!私たちが考えた西住殿を変えてしまった原因は!」

沙織 「『洗脳』または『催眠』です!」

 

沙織の口から出てくる物騒なワード。

 

まほ 「洗脳・・・・。先日、君たちが喫茶店でも話していたな」

エリカ「洗脳、催眠って・・・・フィクションじゃあるまいし・・・・」

華  「そちらのお医者様からのご報告では、みほさんに外傷の類は一切見受けられなかったとお聞きしています」

小梅 「はい、そうですね」

麻子 「そうなれば西住さんの中の事実を書き換えるには、内的要因・・・・そもそもの認識を上書きすることが効果的だろう」

優花里「西住殿の中で『あの大会の中で事故は起きなかった、だから黒森峰は優勝した』と書き換えられてしまったら、それを事実として記憶や認識を改ざんしてしまう可能性があるんです」

華  「その書き換えの事実を絶対として守るため、それにそぐわない情報を頭の中で勝手に変換してしまっていると思うのです」

沙織 「先日、資料室で一緒にアルバムを見ました。みぽりんは大洗の優勝写真を見てそれを黒森峰の優勝写真と答えてました。それこそ、みぽりんが事実を書き換えられた証拠だと思います!」

 

両手をぐっと握りしめ力説する沙織たち。

突拍子もない話だが、この状況において他に説明できるものがない。

 

まほ 「なるほど・・・・。ではその2つのうちどちらかが原因だとすれば、解決するための方法を考えなければいけないな」

エリカ「それはもちろん!」

小梅 「もちろん?」

エリカ「犯人捜しよ!あの子をあんなふざけた状態にしたイカレポンチを、捕まえて全校生徒の前でつるし上げにしてやるわ!」

 

息まいて物騒なことを言い出す。

 

まほ 「落ち着け。まだ誰かの手によるものだと断定出来てはいないだろう。それに、まだ説明がついていない部分もある」

華  「はい。もし仮にそういった方の仕業だとすれば、まだ目的や方法が見えません」

麻子 「あの記憶の上書きを狙って行ったのなら、それによって当然起こりうる事態も狙い通りなんだろう」

優花里「西住殿をあのような状態にして、黒森峰に送り込む理由・・・・。スキャンダル、でしょうか?」

まほ 「・・・・可能性はあるな」

 

二回連続で優勝を逃しているものの、黒森峰は未だ高校戦車道における名門中の名門に位置づいている。

それはこれまでに功績によるものと、圧倒的な存在感を放ち続けている『西住流』の威厳によるものがある。

 

小梅 「もし西住流のお嬢さんであるみほさんが、ああいった説明不能な行動をとり始めたら・・・・」

麻子 「黒森峰の評判、ひいては西住流の威光も陰り始める。それが狙いということもあるかもしれない」

小梅 「そんな!みほさんをダシにしてそんなひどいことを!?」

麻子 「これも推測の域を出ない。だが西住さんがあの状態のままだと、必ず問題が起こる」

華  「せめて洗脳か催眠か、原因さえ絞れればそれにだけ対処できるんですが・・・・」

 

話はここで詰まってしまった。

 

まほ 「とにかく、報告感謝する。こちらもその2つを留意して事態の真相究明に尽力しよう」

華  「よろしくお願いいたします」

まほ 「ああ。君たちも引き続き調査と・・・・みほを、よろしくたのむ」

あん 「・・・・はい!」

しほ 「・・・・」

 

話は終わり、沙織たちは去っていった。

続いてまほたちも部屋を出た。

 

まほ 「では、私は教室に戻る。お母様は__」

しほ 「私は学長室に向かいます。いろいろと話すべきことがあるので」

まほ 「__承知しました」

 

部屋前でまほと別れ、一人廊下を進もうとするしほ。

と、背後から__

 

???「お母さん」

 

知っている声がした。

しほにとって、聞き間違えるはずのない声だ。

 

しほ 「・・・・いつからそこにいたの、みほ」

 

振り返った先には、みほがいた。

 

みほ 「お話したいことがあるの」

 

しほの問いかけに答えず話を切り出してくるみほに、大きな違和感を感じる。

慎重に言葉を選ぶように口を開く。

 

しほ 「・・・・何かしら。要件があるなら言いなさい」

 

だが、受け答えたしほにみほはまっすぐ見据えたまま話始めようとはしない。

 

みほ 「・・・・大事なお話だから・・・・場所を変えてもいい?」

しほ 「・・・・わかったわ」

 

みほの要求に応え、しほはその場を後にした。

 

カコーン・・・・

 

みほに促されるままやってきたのは、黒森峰の中に作られた和室。

歴史を感じさせる内装や、外に広がる庭園が西住家本家を思い出させる。

みほとしほは、そんな広い和室の中で二人、これもまた重厚な作りになっている大きな座卓を挟み向かい合って座っている。

 

みほ 「・・・・」

しほ 「・・・・」

 

しばらく沈黙が続く。

だが、しほはみほが口を開くまでは言葉を挟まずにいた。

やがて、みほが口を開いた。

 

みほ 「・・・・お姉ちゃんから聞いたの。お姉ちゃん、ここを卒業したらドイツの大学に通うって」

しほ 「・・・・そうよ」

 

様子を伺うように返事をする。

 

みほ 「・・・・」

 

また沈黙が続く。

しほはその沈黙の間、みほが言わんとしていることを予想し、考えを張り巡らせている。

切り出す内容は、まほのことだろうか。

それとも黒森峰の今後か、それとも・・・・記憶が正常に戻ったのか。

そんな淡い期待すらわずかながら抱いていた。

 

みほ 「あの大会の・・・・」

 

またぽつりと話始める。

 

みほ 「あの大会の決勝戦の前、お母さんが言おうとしていることがよく分からなかった。私がお姉ちゃんを差し置いてなんて、どう考えても受け入れられなかったから」

 

あの大会・・・・62回大会のことだろうか。

それか・・・・みほの中の63回大会のことかもしれない。

だとすれば、みほは何のことについて話しているのだろうか?

 

みほ 「でも、お姉ちゃんがドイツに旅立つことになって、お母さんが家元を襲名して・・・・そうなってやっと、お母さんが私に求めるものの意味が分かったの」

 

みほの目が、並みならぬ決意に染まっていく。

みほの中の『私』は一体、みほに何を吹き込んだのだろうか?

 

みほ 「お母さんは、信じてくれていたんだよね。私がお母さんの期待に応えられる娘になれるって」

 

かつてあれほみほの口から聞きたかったその言葉が、今や背筋を凍り付かせる。

 

みほ 「だから、私、決めたの」

 

いけない。

これ以上、みほの口から言わせたら取り返しがつかなくなる。

そう思い、慌てて口を挟もうとするしほ。

 

しほ 「み__」

みほ 「お母さま(・・・・)

 

しほの言葉は、凛と張ったみほの言葉にかき消され。

みほは大きく一歩引き、三つ指を立て、深々と頭を下げる。

 

 

みほ 「西住流師範代任命の件、お引き受けします」




やたらと説明的な回になっております。

間に日数や昔話を挟んだりしていたので、現状の再確認を兼ねた構成にさせていただきました。

しかし、本当に第62回大会のアレがなかったら、どうなっていたんでしょうね。
ガルパンが続く限り、尽きない論議の一つだと思います。

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