侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


当時ダージリンと呼ばれていた少女→昔ダー

聖グロリアーナ生A、B、C・・・・→グロA、B、C

知波単一同→知波単


Chapter07:ちょっと昔の話です!(中編)

少女 「・・・・」

隊員A「あわ、あわ、あわわわわ・・・・」

 

突如として海から現れた少女。

到底人が立てないはずの場所から上半身だけをのぞかせ、鋭い眼光を向け続けてる。

藤原やグロリアーナ副隊長、他の隊員たちも全員その場に凍り付いたように動けなくなっていた。

 

藤原 (ま、まさか本当に海女が!?いやいやまさか、いやしかしあんな場所に人が立てようはずが・・・・)

 

頭の中で肯定と否定の気持ちが入り混じり、キューポラの縁を強くつかむことしかできずにいる。

と__

 

すとっ

 

ダージリンが華麗な動作でチャーチルから降り立った。

 

副隊長「ダ、ダージリン様、何を!?」

 

動揺する副隊長にダージリンはにこっと微笑みを送ったかと思うと、さくさくと砂浜を踏みしめながら少女に近づいていく。

 

藤原 「ダージリン殿!?」

 

予想しなかったダージリンの行動に動揺する藤原。

そうしている間にもダージリンはどんどん近づき、とうとう波打ち際にまで近づいた。

 

少女 「・・・・」

 

その間にも少女は身動き一つ見せず、ダージリンを睨みつけている。

と、ダージリンがゆらりと片手を上げる。

 

昔ダー「私はダージリンと申します。貴女のお名前を伺ってもよろしくて?」

 

ダージリンは穏やかな口調で、まったく恐れなど感じていない様子で少女の微笑みかけた。

 

藤原 「ダージリン殿、いかなるおつもりか!?」

 

ようやく強引に体を引きずるようにダージリンの元へ駆け寄った藤原が、肩を掴む。

 

昔ダー「おつもりも何も。同好の士に友好の意思をお伝えしているのですわ」

藤原 「同好の・・・・士?」

 

少女のほうを見ると、ダージリンを見るのと同じように鋭い眼光を藤原に飛ばす少女。

それに飲み込まれないように、ぐっと歯を食いしばり目線を返す藤原。

と__

 

スーーーっ・・・・

 

少女の上半身がまったく揺れることなく滑るように近づいてきた。

 

隊員B「ぎえーーーっ!?」

副隊長「な、なんまいだぶなんまいだぶー!?」

 

更なるパニックに大騒ぎになる隊員たち。

藤原はダージリンのやや後ろにいつつも、怖気づくまいと懸命にその場にとどまり続ける。

そして涼しい顔でそれを見ているダージリン。

少女はそうしている間にもますます近づき__その腰から下も見え始めてきた。

と、同時に__

 

ギュラギュラギュラ__

 

どこかからか、聞き覚えのあるような音もし始めてきた。

それは前方__少女の方から聞こえてくる。

藤原は海中に目を凝らす。

少女の立っているであろう場所に、大きい影のようなものが見える。

それは、少女と一緒にこちらに近づいてきている。

すぐにそれが何なのか分かった。

 

藤原 「せ、戦車__?」

 

少女を上に載せながら、海中から戦車が現れた。

戦車に乗り海から少女が現れる。

想像もしなかった光景に、その場にいた全員(ダージリン除く)が呆然としている。

上陸した後も戦車はそのままその歩みを止めず__

 

ザッ__

 

ダージリンと藤原、二人の目前でようやく停車した。

 

少女 「・・・・」

 

少女は初めて姿を現した時と全く変わらない鋭い目つきを送り続けている。

戦車の上から見下ろす姿勢になっているので、余計に威圧感が増している。

そんな少女に対し、ダージリンは自己紹介した時と同じ微笑みと姿勢を崩さずにいる。

そんな静寂がしばらく続き__

 

藤原 「わ__」

 

藤原が口を開く。

 

藤原 「私は知波単学園戦車道戦車隊隊長、藤原である!そっ、其方は如何なる御仁であるか!?」

 

戸惑いと混乱が入り混じりながらも、凛と声を張る藤原。

だがそんな藤原さえ一瞥し、少女は返事もせず周囲を見渡す。

 

少女 「・・・・」

 

着弾によりえぐられた穴ぼこ。

何重にも履帯の跡が交わり跡がない場所を見つけるほうが困難な砂浜。

至る所で黒煙を上げて戦闘不能になっている戦車たち。

そしてその戦車の上で呆けたように少女を見つめる隊員たち。

それらを見るにつれ、少女の瞳に怒りの炎とも見て取れるものが宿り始める。

 

少女 「・・・・やっとあのうるさい戦争が終わったと思ったら」

隊員A「しゃ、喋った!?」

 

少女が口を開いた。

潮風に揺れる金髪をばっと払う。

 

少女 「__しばらく経てばすぐまたどんちゃん騒ぎの繰り返し。耳障りな鉄がぶつかる音にむせ返る火薬の匂い、そして海に流れ出る不快な油」

 

ぎろり、と目線を藤原に向ける。

その冷たい目線にびくっとする。

 

少女 「あなたたち陸の人間どもがどうしようと知ったことじゃないけれど。あなたたちが好き勝手しているせいで海に生きる私たちがどれだけの害を被っているか知ってる?」

 

その言葉にはっと藤原が海のほうを見ると、遠くの海上に漁船が浮かんでいるのが見えた。

 

藤原 (ああそうか__これはしたり)

 

藤原は浜辺で戦車道をしていたせいで海を荒らし、漁の邪魔をしてしまっているのだと解釈した。

 

藤原 「それは・・・・まっこと申し訳ないことをした!」

 

がばっと頭を深々と下げる藤原。

 

隊員B「ふ、藤原隊長殿、何を!?」

藤原 「私の浅慮(試合をする場所の選定)のせいで、そちらに多大な被害と迷惑(漁の邪魔)を与えてしまったこと、心からお詫び申し上げる!この通りだ!」

少女 「っ!?」

 

謝罪する内容はズレているが、誠心誠意の謝罪を述べる。

突然向けられた藤原の心からの謝罪に面食らう少女。

 

昔ダー「・・・・そうですわね。陸で暮らし海の恩恵を受けるこの国で生きながら、海への敬意が足りていませんでしたわ。お許しくださいませ」

 

藤原にならい、ダージリンも深々と首を垂れる。

 

副隊長「た、隊長までそんな!」

少女 「・・・・」

 

そんな頭を下げる二人をしばらく見ていた少女だったが__

 

ガコンッ!

 

戦車の砲塔が動き、二人に照準を合わせる。

 

藤原 「っ・・・・!」

 

強張る藤原と表情を崩さずじっと見つめるダージリン。

しばしの沈黙__やがて、

 

少女 「・・・・砲弾の無駄ね」

 

少女はため息をつき、砲口が二人から逸れる。

藤原ははあっ、と安堵の息を吐いた。

 

少女 「戦争ごっこがしたいなら他所でやりなさい。少なくとも海から離れた場所で」

 

言い放つと戦車を反転させ、海へ戻り始めた。

 

昔ダー「お待ちになって」

 

そんな少女とと戦車の様子を見ていたダージリンが声を上げた。

驚く藤原と、いぶかしげに振り向く少女。

 

少女 「・・・・まだ何か用?私の言いたいことは伝わったでしょう?・・・・まさか、まだ理解できないと言うつもりじゃないでしょうね」

昔ダー「いいえ、貴女の仰りたいところは完全に理解しています。以後海を汚す振る舞いは厳禁とふれておきますわ。__御用があるのは、『そちらの子』」

 

ダージリンが向けた視線は、少女の乗っている戦車に向けられていた。

 

少女 「・・・・これがどうかしたの?」

昔ダー「その子は、かなり高度なリモデルが施されているように見受けられますわ。__それこそ、一日中海中にいても全く支障がないほどに」

藤原 「なんと、それは真か!?かような技術、戦車道連盟からも発表があったことはないぞ」

 

現代技術を遥かに超えた加工が施されていると聞き、驚きを隠せない藤原。

 

昔ダー「ですが」

 

言葉を続ける。

 

昔ダー「逆に基礎的なお手入れがほぼされていないご様子。砲塔や転輪、履帯のメンテナンスを最後にされたのはいつ頃?」

少女 「・・・・覚えてないわ」

 

ダージリンに言われて目を向けると、確かに砲塔や砲口は所々歪みがあり、これでは狙ったところに正確に当たりそうにない。

履帯は所々めくれかけていて、いつちぎれてしまっても不思議ではない。

藤原から見ても、整備に関しては素人が誤魔化しながら運用しているようにしか思えなかった。

 

昔ダー「私たち戦車乗りにとって、戦車は相方です。その相方を無碍にされているのを見るのは、流石に忍びありませんわ」

少女 「何が言いたいの」

昔ダー「もしよろしければですが、そちらの子のメンテナンスを私どもでお引き受けいたしますわ」

副隊長「ダージリン様!?」

 

突然の申し出に驚く副隊長だったが、何より驚いているのは少女本人だった。

 

少女 「意味が分からないわ。どうしてあなたが見ず知らずの私の戦車の手入れを申し出るわけかしら。・・・・何が狙い?」

 

油断して甘い話になど乗らない、と言いたげな視線を向ける少女。

 

昔ダー「他意などありませんわ。ただ一戦車道を嗜む者として、どうあろうと貴女のために献身するその子に報いてあげたい。・・・・そう思っただけですの」

 

言われて少女は戦車に目線を落とす。

流石に彼女自身も、自分の戦車にガタがき始めていることは理解しているようだった。

しかしそれを直す技術や知識はなく、また備えも持ち合わせていないのは明白である。

 

昔ダー「見返りなど求めませんわ。修理が終わればお戻りになられて結構。__もちろん、今後は海を汚さぬよう配慮することもお約束いたしますわ」

少女 「・・・・」

 

長い沈黙はあったものの。

 

少女 「少しでもおかしな真似をしたら、無事で済むとは思わないことね」

 

その時藤原は、仁王立ちする少女の髪が潮風によるものか意志を持つようにウネウネと波打つように見えた。

__かくして少女はダージリンの申し出を受け入れた。

 

場所は移り、とある森の中。

 

ゴトゴト・・・・

 

少女の乗っていた戦車を載せたスキャメル・パイオニア(戦車運搬車)が木立をかいくぐるように進んでいく。

その前をグロリアーナが先導、後ろには知波単の戦車隊数両が付いていくように進む。

ダージリンのチャーチルはスキャメルの目の前、藤原のカミは真後ろに位置している。

そして、例の少女は__

 

少女 「・・・・」

 

油断のない表情で、キューポラから身を出す藤原の真後ろに仁王立ちしている。

 

藤原 「ずっとそこに立つのでは疲れはしまいか?中に入って座っていればよかろう。__まあ、座り心地は保証できかねぬが」

少女 「結構よ」

 

藤原の誘いは無下に断られた。

 

昔ダー『あら、ではこちらにいらしてはどうかしら。機能だけではなく、居住性も考慮された一流のものに仕上がっていますわ』

 

ダージリンが無線越しに誘いをかける。

 

少女 「・・・・それも結構よ。私はあなた達を信用したわけじゃない。あれを修理したらすぐさようなら、それだけの関係よ。それに、私はここにいるのは、あなた達を見張るため」

藤原 「見張るため・・・・であるか」

少女 「そう。少しでも私やあれに手を出そうものなら、この隊長さんも無事では済まないと思ってもらうわ」

藤原 「・・・・成程。私は人質、という訳か」

少女 「わかったなら、他の人間どもが余計なことを考えないように目を光らせることね」

藤原 「む?その必要ならあるまい」

少女 「・・・・?どういう意味」

藤原 「戦車道を嗜む者であれば、戦略により欺くことはあろうとも他者に対して嘘や偽りを口にする者はいない。断じていない。約束しよう」

少女 「随分他人を信じているのね。・・・・というか、戦車道って仰々しく言ってはいるけれど。あなたたちがやっていることは戦争ごっことどう違うの」

隊員B「貴様!言うに事欠いて戦争ごっことはなんだごっことは!」

隊員C「我らが下手に出ればいい気になりおって!」

藤原 「止めい!」

 

食ってかかろうとする隊員たちを一声で治める。

 

藤原 「彼女にとっては何も知らぬことだ。我らが戦車道の何たるやを説明もせずに、ただ理解が無いと言うことだけで攻める権利は我らにもあるまい」

 

藤原に正論で諭されおとなしくなる隊員たち。

 

藤原 「戦車道というものは『戦い』たるものではない。一つの目標に向かい『友』や『仲間』と共に一丸となり、喜びや悲しみすらも共有することができる。女子であるならば『友情』や『絆』を語る以上必ず通る道である!」

少女 「友情・・・・絆、ねえ・・・・」

 

熱く語る藤原に対し、終始冷ややかな少女だった。

そんな一行を、先導している副隊長は振り返りながらいぶかしげな表情を浮かべている。

やがて森の中を進む一行の前に、何か大きなものが見えてきた。

 

昔ダー「見えてきましたわ」

 

ダージリンの指さす先には__赤レンガ造りの重厚な、建物三階分はありそうな建物があった。

 

グロA「あっ、ダージリン様!」

 

ダージリンらの存在に気が付いた生徒の一人が建物側から駆け寄ってくる。

 

昔ダー「お疲れ様。作業の方はどれほど進んでらっしゃるかしら」

グロA「はい!先日やっと屋根の設置が完了いたしまして、棚一式と一部パーツの搬入を行っている段階です!」

昔ダー「素晴らしい成果ですわ。それでお聞きしたいのだけれど。建物内部には補修に利用できるスペースは確保できるかしら?」

グロA「補修作業のスペースですか?入れるのは__ああ、あの戦車ですね?」

 

生徒はスキャメルに載せられた少女の戦車を一瞥して一考する。

 

グロA「はい、機材をどかせば十分スペースは確保できるかと。先に行ってみんなに伝えてきます」

昔ダー「お願いするわ」

 

はい!と元気よく返事をして生徒は建物に戻っていった。

 

藤原 「ダージリン殿・・・・この建物は」

 

振り返ってにっこりするダージリン。

 

昔ダー「これこそ、藤原さん方にお見せしたかった次世代の戦車道を担いうる設備、『野営薬庫』ですわ」

 

先導するダージリンのチャーチルが建物に入り、続いてスキャメル、藤原のカミが入庫する。

 

隊員B「オーライ、オーラーイ」

 

位置についたスキャメルから少女の戦車が降ろされた。

すぐに作業要員の少女たちが工具やパーツを持ち寄って集まってきた。

 

藤原 「ダージリン殿、そもそもここはどういった施設であるか?」

昔ダー「本来であれば、満足いくまで練習試合をした後にグロリアーナの施設としてご紹介したかったのですけども」

 

ダージリンはぐるっと倉庫内を一瞥する。

 

昔ダー「この倉庫には古今東西、戦車道に使われるパーツ・弾薬・修理器具などあらゆる補給・整備に対応できる万全な中継基地として設立いたしましたの」

藤原 「なんと・・・・!」

 

言われてから見渡してみると、まだ収め切れていないのか空いたスペースも多々あるが、各棚には国別・戦車の種類別に膨大な数の砲弾薬や機材が綺麗に陳列されている。

イギリス・アメリカ・イタリア・ソ連・ドイツ・・・・そして日本の棚が偏ることなく公平な規模で並べられている。

 

藤原 「これは景観・・・・!いやしかし、何故世界中の戦車を?」

昔ダー「『超大規模戦』・・・・。聞いたことは無くて?」

藤原 「・・・・お恥ずかしながら」

昔ダー「これから著しく復興を遂げて行く私たちのこの国と戦車道。その行く末を見据え、競技人口の増加を見越した戦車道連盟が提案している新しい戦車道の形ですわ」

藤原 「新しい戦車道のカタチ・・・・?」

昔ダー「これまでの大会のレギュレーションである最大30両vs30両。それをはるかに上回る、50両vs50両。それが連盟の提示する超大規模戦の定義ですわ」

藤原 「対五十両!それは壮観でありましょうな!」

昔ダー「ですがそれほどの物量であれば決着も長く、試合中に大きい疲弊も起こりうるでしょう。そこでこの薬庫ですわ」

 

ダージリンは各種取り揃えた棚を一瞥する。

 

昔ダー「ここは全ての戦車の補給と修理を可能とする、中立地帯として定められます」

藤原 「・・・・成程。戦闘が大規模なれば、この補給基地の確保が戦力の維持と巻き返しの可能性を秘めておりますな」

昔ダー「その通り。そしてここは消極的な戦いでは確保できない。勇気をもって前へ進まなければ、優位や勝利をつかむことはできませんわ」

藤原 「まさにここが試合の行く末を担うことになるわけですな!いやしかし、まだ連盟から公式に採用されていないにもかかわらずこの規模で既に施工されるとは、流石グロリアーナであるな!」

 

ダージリンとグロリアーナの情報と行動の早さに、ただ感嘆の声を漏らす藤原だった。

そこへ__

 

グロA「ダージリン様!」

 

先ほどの女生徒が駆けてきた。

 

昔ダー「あら、どうしたのかしら?」

グロA「あの、先ほど搬入されたあの戦車なんですが」

昔ダー「ええ」

グロA「あの・・・・その・・・・」

 

どうにも言いづらそうだ。

 

昔ダー「どうしたの?遠慮はいらないわ、仰ってちょうだい」

グロA「あの・・・・あの戦車、なんていう戦車なんでしょう?」

藤原 「えっ」

 

一同が一斉に少女の戦車を見る。

倉庫の作業スペースでは、少女の戦車を囲んでいるグロリアーナ生たちが念入りに調べながら頭を捻っている。

 

昔ダー「どういうことかしら?」

 

歩み寄るダージリンと藤原たち。

戦車の前に立ち、一生懸命戦車名簿をめくり調べ物をしている。

 

グロB「あっ・・・・ダージリン様」

昔ダー「お疲れ様。この子のお名前が分からないそうですわね?」

 

ダージリンは少女の戦車に触れながら問いかける。

 

グロB「はい、そうなんです・・・・。いくら調べてもこの戦車がリストに載っていなくて。フォルムから考えて、日本戦車だということは分かるのですが・・・・」

 

グロリアーナ生が持っている名簿をダージリンに渡す。

ぺらりぺらりとページをめくるダージリン。

手に持っているのは戦車道連盟が発行している、戦車道で使われる戦車全てが掲載されている代物。

最初から最後までスムーズに閲覧した後、ぱたんとリストを閉じた。

ダージリンはリストを副隊長に渡すと、今度は副隊長がリストを改め始める。

 

昔ダー「・・・・確かに、連盟の公式リストには登録されていない戦車ですわね」

グロB「ですよねぇ・・・・。台数が少なくて使われたことのない車両なのか、はたまた・・・・」

 

と、ダージリンは少女ににっこりと微笑みかける。

 

昔ダー「もしよろしければ、この子についてお聞かせ願えて?」

少女 「・・・・」

昔ダー「この子とはどこで、いつからご一緒しているのかしら。どちらから手に入れましたのかしら」

少女 「・・・・」

 

しばし沈黙。

が、少しして口を開いた。

 

少女 「・・・・落ちてきたのよ」

藤原 「・・・・」

昔ダー「・・・・」

グロB「・・・・」

藤原 「・・・・は?」

 

誰しもが、『何を言っているのかわからない』という顔をする。

 

藤原 「・・・・その、落ちてきたというのは」

少女 「言葉通りよ。上から落ちてきたのよ、こいつ」

グロB「う、上・・・・!?空から降ってきたということですか?」

藤原 「空!?天からの授かりものと言うことか!?」

少女 「そんな訳ないでしょう。__海面から落ちてきた、ということよ」

昔ダー「海面から?」

少女 「ええ。__その時、海底にいたの。そしたら頭上で何か大きなものが海に落ちてきた音がして・・・・見上げたら、こいつが上から落ちてきたの。危うく下敷きになるところだったわ」

藤原 「それは剣呑・・・・。さぞ肝を冷やしたことだろう」

少女 「『これ』がどう陸で使われていたかは知っていたわ。それに海に捨て置いたってことは・・・・拾った私がどう使おうと文句はないでしょ」

昔ダー「そうですわね・・・・。聞き及んだ限り、それは海への不法な海洋投棄。むしろ海の方々へ多大なご迷惑をおかけしましたわ」

少女 「それで、回収したあと私なりに修理をして・・・・まあ、あとはあなたたちが知っているんじゃないかしら」

藤原 「それ以降こやつを駆り、海に近づく輩を脅かしまわっていた、という訳であるか」

 

頷く少女。

ようやく海女の噂の真相を知り、ほっとした藤原だった。

 

少女 「だからこいつの名前も出どころも知らない。ただ人間どもを驚かす道具として都合がよかっただけよ」

グロB「そんな、戦車をそんな方法に使うのは・・・・」

 

女生徒がたしなめようとした時、ふと藤原がダージリンの顔を見ると__

 

藤原 「__!」

 

ダージリンが怒りの感情をあらわにしている。

__いや、怒りと言ってもそれは激情に駆られたそれではなく、母が子を叱るために向けた感情にも見えた。

その表情はすぐ藤原以外の面々にも知れ、少女も一瞬びくっとひるむ。

 

昔ダー「貴女、この子を『道具』と仰ったわね?」

少女 「・・・・い、言ったけど・・・・それがどうかしたの。事実、これは戦争の道具だったんでしょう?散々そういう扱いしておいて、私がそう扱っただけで怒るとか、これだから人間っていうのは__」

昔ダー「この子は『道具』ではなく『友』、ですわ」

少女 「・・・・は?何を言ってるの」

昔ダー「よろしいかしら」

 

ふう、と一息つく。

 

昔ダー「戦車道に於いて必要不可欠な要素__それは『友』ですわ。一人では戦車は動かせない。チームが作れない。喜びを分かりあうことも、悲しみを共有することもできない。一人では得ることができない沢山のものを、友は仲間として下さいますわ」

少女 「・・・・」

昔ダー「そして、戦車道を行うにあたり__戦車もまた決して抜きでは語れない存在。あの子らがいてくれるからこそ、私たちは喜びを得ることができる。ならば、それを与えてくれるこの子たちもまた『友』と言えるのではなくて?」

藤原 「そうであるな。それこそが正に戦車道の際たるゆえんであろう」

 

ダージリンの演説にしきりにうんうん頷く藤原。

 

少女 「屁理屈だわ」

 

そんなダージリンを一蹴する返事を返す。

 

少女 「そんなのは群れないと生きられない弱い人間どもの理屈よ。__私はずっと一人で生きてきた。仲間だの友だのとか、そんなものに頼らずに。一人で戦車だって動かせる。私はあなた達とは違うのよ」

藤原 「だが、それはお主が知らないだけで__」

少女 「問答するためにここに来たんじゃないわ。これ以上無駄な時間を過ごさせるのならばこいつは持って帰るわ」

 

そう言って戦車に手をかけ乗り込もうとする。

 

昔ダー「・・・・分かりましたわ。このお話はこれきりに致しましょう」

 

少女の態度にダージリンが先に折れた。

 

グロB「とにかく、正式な車種が分からないのであれば仕方ありません。代用が利くパーツを揃えて各所修繕していきましょう」

 

かくして薬庫内にいる生徒総出で少女の戦車のオーバーホールが始まった。

日本戦車がベースになっているだろうということで藤原らが意見訳として各部位を担当し、作業に当たるグロリアーナ生たちに返答やアドバイスを授けている。

 

グロA「この履帯に使えるのはどれに当たるでしょうか?」

隊員A「であるなら、この四式での代用はいかがだろうか?」

グロB「あら、エンジンもかなり焼けてきてます。すいません、このエンジンは何型でしょう?」

隊員B「ううむ・・・・見たところハ9・・・・。川崎九八式八〇〇馬力とお見受けする」

グロC「キューポラの蝶番が摩耗していますわ。これでは着弾の衝撃ではじけてしまう恐れが」

隊員C「では新調し、これを取り付けてはいかがか」

藤原 「うんうん」

 

戦車の上で全体を把握しながら、知波単学園と聖グロリアーナの生徒たちが共に協力して修理に没頭している光景を見た藤原は嬉しそうにしている。

 

少女 「何ひとりで頷いてるの」

藤原 「む?・・・・ああ、感慨深いと思ったのだ」

少女 「感慨深い?」

藤原 「ああ。練習試合の前はあれほどお相手を敵視していた我が隊の隊員たちが、一度砲弾を撃ち交わしただけであれほど打ち解け共に一つの戦車を修繕している。これに感嘆を得ずして何と言えばいいのだ?」

少女 「どうでもいいことだわ」

 

すぐ少女はそっぽを向いてしまった。

だが藤原はその素っ気ないフリをしながらも、隊員たちが気になってちらちらと見ているのに気が付いていた。

 

藤原 (ふむ、打ち解けるにはまだ時間が必要か)

藤原 「ダージリン殿!七糎半戦車砲のご準備はあるか!」

昔ダー「オフコース、ですわ」

 

少女のことはさておき、ダージリンと砲塔のメンテナンスに回る藤原だった。

 

副隊長「・・・・」

 

そんな中、聖グロリアーナ戦車チーム副隊長は未だダージリンに手渡されたリストを凝視し、時たび少女の戦車と見比べている。

やがて何かに気付いたのか、ハッとした表情を浮かべ、ダージリンに歩み寄る。

 

副隊長「ダージリン様。私、この戦車について一つ思うことがありますの」

昔ダー「あら、そうなの?」

副隊長「はい。ですが確証にはまだ至れず、学園艦の資料室に戻ればそれが確信に変えられるかと」

昔ダー「それは素晴らしいわ。ではそのようにお願い」

副隊長「承知いたしました。それでは一度、失礼いたしますわ」

 

そう言って軽くカーテシーをし、副隊長は自分のマチルダに乗って学園艦へ戻っていった。

 

副隊長「戦車道連盟に登録されていない日本戦車・・・・ハ9Ⅱ乙型エンジン・・・・七糎半戦車砲・・・・平衡式連動懸架装置・・・・」

 

道中、何かの呪文のように、耳に入った戦車の特徴をつぶやき続けながら。

__やがて。

 

藤原 「__これで完了とする!」

知波単「応!」

昔ダー「皆さん、お疲れさまでした」

グロ生「お疲れさまでしたー!」

 

少女の戦車は両校一丸となった整備の末、見違えるほどの雄姿を取り戻していた。

摩耗・破損した部位は一つとして見当たらず、どこにつけても丁寧な整備の跡が見受けられる。

彼女らがいかに真面目に修理にいそしんだのかが明白なほどの出来栄えだった。

 

昔ダー「では、エンジンをかけてみていただけるかしら」

少女 「・・・・分かった」

 

ひらりと身軽に乗り込むと、キューポラに下半身だけ収める。

戦車を取り囲んだ隊員たちが、固唾をのんで見守っている。

やがて__

 

ブオンブオォォォン・・・・

 

雄々しく整ったエンジン音が鳴り響いてきた。

そしてゆっくり前進を始める。

 

ギュラギュラギュラ・・・・

 

無限軌道も何の問題なく作用し、スムーズに前進する戦車がそこにはあった。

 

藤原 「良!」

 

わあっと少女たちの歓声が上がる。

油や煤で汚れた顔や体を気にも留めず、お互いの健闘と修理の成功を心から喜び、分かち合っている。

そんな光景を横目に見る少女は、戸惑うような、羨ましそうな表情で眺めていた。

 

昔ダー「お気に召しましたかしら?」

 

少女が気が付くと、そこにはダージリンが立っていた。

 

少女 「・・・・悪くないわ」

昔ダー「何よりですわ」

 

そう言って笑顔を浮かべるダージリンの顔にも若干油汚れがついていた。

見下ろすと、藤原はもっと汚れている。

しかしその汚れを気にもせず、隊員たちを称賛して回っていた。

その場で汚れていないのは、少女だけだった。

 

少女 「・・・・」

 

そのことに気付いた少女が、ばつの悪そうな顔をする。

と__

 

昔ダー「これが『友』、そして『仲間』ですわ。一つの目標を果たすため一丸となる。その姿に、打算や下心など存在しませんわ」

 

そう言ってダージリンが握手を求めてきた。

少しためらいながらも、握手を返す。

 

昔ダー「あらいけない、私としたことが」

少女 「え?」

 

握手を解いてから手を見てみると、少女の手は少しばかり汚れていた。

見ると、ダージリンの手に油汚れがまだ残っている。

それが移ってしまったのだ。

 

昔ダー「ごめんなさい、今拭くものをご用意いたしますわ」

 

そう言って手ぬぐいを用意しようとするダージリンを、

 

少女 「いえ、いいわ」

 

少女は引き留めた。

まじまじと汚れた自分の手を見つめる。

そして、振り返ったダージリンに、

 

少女 「・・・・『次』、また修理してもらう時は私も手伝うわ」

 

エンジンの音にかき消されそうなほど小さな声だったが、きっとダージリンには聞こえたのだろう。

満面の笑みを少女に返すダージリンだった。

__その頃、聖グロリアーナ学園艦、サロンにて。

 

トゥルルルルル

トゥルルルルル

 

副隊長「・・・・」

 

学園艦に戻っていた副隊長は、資料室に向かわずサロンに設置された黒電話でどこかへ電話をかけていた。

やがて、電話の向こうで相手が出る。

 

副隊長「もし、こちら聖グロリアーナ学園の者なのですが、是非お耳に入れたいお話が。__ええ、__ええ、はい、その類の件ですわ」

 

副隊長は一度周囲を見渡し、誰もいないことを再確認して話を進める。

 

副隊長「実は__我が校、グロリアーナの管理区域にあれが現れたのです。ええ、皆様が血眼になって探されていた、日本最後の軍用戦車__『五式』が!」




こちらは後編にするつもりでしたが、話が膨らみすぎて中編になってしましました。

ガルパンと言えば今現在ココスでクリアファイルがもらえるキャンペーンをやっていますね。
例のウィルスと時期が被ってしまっていますが、ファイル目当てで行かれる方は十分に自己防衛を意識して、みんな無事に乗り切りられるよう願っています。

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