侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
プラウダ生→プラ生

黒森峰の生徒A・B・C・・・・→黒森A・B・C・・・・


Chapetr04:変革です!

みほ 「ん、う・・・・」

 

朝。

みほは誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。

まだ夢うつつで、うつろな目をしている。

 

みほ (あっ、朝だ、起きなきゃ・・・・。みんなが、待ってる・・・・)

みほ 「・・・・。みんなって、誰だっけ・・・・?」

 

自分の言葉に疑問を投げかけるみほ。

しばらくぼーっとしていたが__

 

みほ 「・・・・」

 

覚め切らない眠気に流され、みほは二度寝しようと目を閉じた。

 

みほ 「すう・・・・」

???「寝るなっ!」

みほ 「はうっ!?」

 

直後、耳元で聞き覚えのある人物の怒鳴り声でたたき起こされるみほ。

一気に眠気が吹き飛び、上半身が跳ね起きる。

そして開ききらない目で目の前の人物を見つめる。

 

みほ 「あ・・・・。__おはよう」

???「おはようじゃないわよ!」

みほ 「はうっ!?」

 

再び怒鳴られてしまい、身を縮めるみほ。

どうして怒られているのか理由を必死に考える。

 

みほ 「あれ・・・・?えーっと・・・・」

???「・・・・」

 

目の前の人物は不機嫌そうにみほを見る。

 

みほ 「あっ!ごめんなさい!今日朝練の日だったっけ!?」

???「違うっ!」

みほ 「はうっ!?」

 

また怒られてしまったが、もうどうして怒られるのか理解できないみほ。

 

???「はあ、もういいわ・・・・。ちょっとそこで待ってなさい!」

 

と言って部屋を去っていってしまう。

その場で呆けるみほ。

と、しばらくして駆けてくる足音が聞こえてくる。

そして、誰よりも一番見知った顔が覗かせる。

 

???「みほ・・・・」

みほ 「あっ、おはよう!」

 

笑顔で挨拶するみほ。

だが、返ってきたのはみほの予想しない言葉だった。

 

???「みほ・・・・、何故ここにいるんだ?」

みほ 「えっ?」

 

時同じくして、大洗女子学園艦校舎、食堂にて。

テーブルを挟むようにして、目にクマのできた沙織と優花里がテーブルに突っ伏している。

 

沙織 「ううう、みぽりん、どこ行っちゃったのぉ・・・・?」

優花里「ううう、西住殿ぉ・・・・」

華  「お二人とも、少しは休んでください」

麻子 「そうだぞ。昨日からろくに寝ていないだろう。睡眠不足は肌に悪いんじゃなかったのか」

沙織 「それどころじゃないわよ・・・・。みぽりんが行方不明なのよ!?これが慌てないでどうするのよ」

 

__結局、昨日から今に至るまでみほは大洗女子に帰ってこなかった。

夜になっても戻らないみほを心配した沙織や優花里がほうぼうに連絡して回ったが、一向に見つけることには至れなかったのである。

 

沙織 「電話は出てくれないし、メールは返事くれないし、もうどうしちゃったのよみぽりん~・・・・」

優花里「由比ヶ浜のどこにも立ち寄った形跡はないようですし、まるで煙のように立ち消えてしまったようです・・・・」

麻子 「まあ、確かに変だとは思うな。西住さんは、道に迷ったり急用が出来た場合にはいつも連絡をくれている。今回ここまで形跡がないのは異常かもしれん」

華  「もしかして・・・・みほさんに何かあったのでしょうか?」

沙織 「はっ!?もしかして・・・・誘拐!?」

優花里「ええっ!?」

華  「いえ、それは話が飛躍しすぎでは・・・・」

麻子 「いや、ありえない話じゃないぞ。西住さんは今や日本中に知られる女子高生。ましてや西住流家元の娘だ。もし身代金目的の誘拐だとすれば、ありえない話じゃない」

沙織 「たたたたたた大変だ!ひゃ、百十番ーっ!」

華  「沙織さん、落ち着いて」

 

混乱した沙織がケータイを取り出した瞬間__

 

ピロリン♪

 

沙織のケータイにメール着信。

 

慌ててケータイを開き、差出人を確認する。

 

沙織 「えっ・・・・」

優花里「この方は・・・・」

 

その日の午後。。

 

店員 「いらっしゃいませー」

 

あんこうチームの四人と千鶴・栄子を加えた六人は、由比ヶ浜にも展開を果たしている戦車喫茶・ルクレールに足を運んでいた。

 

千鶴 「待ち合わせの場所はここで合っているの?」

優花里「はい、恐らく。由比ヶ浜に戦車喫茶はここしかないはずですし・・・・」

栄子 「じゃあ、どこかにいるはずだな」

 

店内を見回す栄子。

と__

 

沙織 「あっ!」

 

と声を上げた沙織が駆け出す。

慌てて後を追う一行。

その先には__

 

沙織 「みぽりーーーーーーーん!」

 

そこにはまほ・エリカ・小梅といった黒森峰のメンツと共に席に着いたみほの姿があった。

 

優花里「に、西住殿ぉーっ!」

みほ 「ふえっ!?」

 

涙目になって席に駆け寄る沙織と優花里。

突然の来訪者に面食らった表情のみほ。

 

沙織 「どこいってたのみぽりん!?夜になっても帰ってこないしメールしても返事ないし、すごく心配したんだからね!」

優花里「西住殿、お体は大丈夫ですか!?何か厄介に巻き込まれたりはしませんでしたか!?」

みほ 「えっ!?ええっと・・・・?」

 

二人に畳み込まれて困惑するみほ。

 

千鶴 「二人とも、落ち着いて。みほちゃんが戸惑っているわ」

 

千鶴になだめられ落ち着きを取り戻す二人。

 

栄子 「でも西住さん、二人とも一晩中探しまわってたんだよ?黒森峰に泊っていくことになってたんなら連絡すればよかったのに」

みほ 「・・・・え?」

栄子 「え?」

 

どうにも会話に要領を得ない。

と、それまで黙っていたまほが口を開く。

 

まほ 「・・・・みほ。まずは自己紹介だろう」

みほ 「あっ、そうか!」

沙織 「え?」

 

一同一斉に頭に『?』マークが浮かぶ。

席から立ちあがって一息つくみほ。

心なしか、顔つきが凛々しそうに見える。

 

みほ 「初めまして、黒森峰女学園二年生、西住みほです。よろしくお願いいたします!」

一同 「」

 

固まる一同。

そして直後__

 

一同 「えええええええええええええぇぇぇぇ!?」

 

店内に絶叫が響き渡った。

その後しばらくして。

 

千鶴 「落ち着いたかしら?」

 

千鶴が沙織の肩に手をあてる。

 

沙織 「はい・・・・。お騒がせしました」

 

人一倍取り乱していた沙織だったが、ようやく落ち着きを取り戻し水をくいっと飲み干す。

 

麻子 「・・・・それで、いったいどういう訳なんだ?まほさん」

まほ 「ああ・・・・私も今朝初めて知ったばかりなのだが__」

 

 

~~回想~~

 

 

今朝、黒森峰女学園女子寮にて。

いつも通りの時刻に目覚めたまほは、歯を磨きながら今日の日程を確認していた。

そこへ__

 

エリカ『た、た、た、隊長!』』

小梅 『し、失礼します!』

 

エリカと小梅が飛び込んできた。

 

まほ 『どうしたエリカ、小梅。朝から騒がしいな』

エリカ『あっ、申し訳ありません!__いえ、それどころではありません、副隊長がいるんです!』

まほ 『・・・・?それはそうだろう』

 

まほは何を言い出しているのだろうとエリカを見つめる。

 

小梅 『ああ、いえ、そうじゃなくって、元副隊長・・・・えっと!__みほさんです!みほさんが私たちの部屋で寝てたんです!』

まほ 『なに?』

 

未だ意味も完全に理解できなかったが、二人の慌て具合から何かあったと察したまほは、エリカと小梅の部屋に駆け込んだまほ。

そこで見たのは、二段ベッドの上__エリカがいつも寝ていたベッドに上半身だけ起き上がらせている、ぼーっとした状態のみほを見つけた。

 

まほ 『みほ・・・・』

 

恐る恐る声を掛けるまほ。

その間にもいろいろと事情を予想していた。

黒森峰に遊びに来ていたのか?

大洗に戻らなかったのか?

もしや大洗で何かあったのか?

などとぐるぐる頭の中で渦巻いていると__

 

みほ 「あっ、おはよう!」

 

みほが笑顔で声をかけてきた。

 

まほ 『みほ・・・・、何故ここにいるんだ?』

みほ 『えっ?』

 

その質問にきょとんとした顔を浮かべる。

きょろきょろと周囲を見渡すが・・・・

 

みほ 『えっ?間違ってないよね?ここ、私とエリカさんの部屋だよね?』

エリカ『はあ!?』

小梅 『みほさん・・・・どうしちゃったんですか?』

まほ 『・・・・』

 

どうも様子がおかしい、そう思ったまほはこう問いかけた。

 

まほ 『みほ。・・・・今の自分の身分が言えるか?』

みほ 『え?』

 

またもきょとんとした顔をしたが、やがてこう答えた。

 

みほ 『えっと、黒森峰女学園高等部普通科二年生__だよ?』

 

さも当然といった顔で答えるみほだった。

 

 

~~回想終了~~

 

 

まほ 「__と、いう訳だ」

華  「そうだったのですか。気が付いた時にはもうみほさんは・・・・」

麻子 「しかし謎だな。昨日の昼間、いったん私たちと離れた西住さんは確かに普段のままだった」

沙織 「うん。先に千鶴さんとお家に入ってるって伝えた時、後で行くからって確かに言ってた」

優花里「では、私たちが家に入ってから西住殿に異変が?」

小梅 「そう考えるのが妥当かと。__ですが、みほさんにお聞きしてもその時の記憶がないようで・・・・」

エリカ「昨日は私たちと一日訓練してた、って言い張るのよ。まったく話が通じないわ」

みほ 「そんな!昨日すごくいい動きができてたって褒めてくれたのに!?」

エリカ「・・・・こんな調子よ」

栄子 「しかし、どうすればこんな風になるんだ?もしかして記憶喪失とかか?」

千鶴 「記憶喪失では別の記憶で上書きなどしたりしないわ。外的要因による記憶障害かしら?」

小梅 「例えば、みほさんが転んで頭を打った、などでしょうか」

まほ 「その可能性も考えてはいました。黒森峰に常駐している医師にも診察してもらいましたが、たんこぶ一つもできていませんでした」

栄子 「それも違うのか・・・・」

華  「気になるのは、みほさんに別の記憶があるという所です」

麻子 「そうだな。怪我などによるショックではないとしたら・・・・何らかの形で精神的要因に影響があったのかもしれない」

優花里「精神的ですか?

麻子 「そう。例えば、洗脳・・・・」

沙織 「洗脳!?」

 

急に出てきた物騒なワードに声を上げる。

 

まほ 「なるほど・・・・。それならみほの記憶が書き換えられているのにも説明が付くかもしれない」

エリカ「ちょっと強引すぎない?洗脳なんて一日やそこらで達成できるものじゃないでしょ。いくらこの子がいつもボケっとしてるからって、相手に言うことを全部鵜呑みにするほど抜けてもないでしょ」

 

そこまで言ってからまほの手前言いすぎたと焦るが、まほは苦笑した。

 

まほ 「まあ、確かにエリカの言うとおりだ。一日かからずみほをそこまでせしめるのは容易いことではないはずだ」

栄子 「人を一日足らずで記憶を書き換えるほどの洗脳・・・・」

千鶴 「普通ではありえない技術力の高さ・・・・」

一同 「・・・・」

 

???『HAHAHAHAHAHA!』

 

一同の頭には、いずれも全く同じとある三人組の顔が思い浮かんでいる。

 

栄子 「まさか、またあいつらやらかしたんじゃ!」

千鶴 「でも、彼らはシンディーさんと一緒にアメリカへ帰ったはずよ。ここ最近もこっちでは見かけてないわ」

栄子 「あいつらのことだ、誰にも気づかれず日本に侵入するくらい造作もないはずだ」

まほ 「なるほど。ではその可能性も視野に入れましょう。彼らの情報を手に入れる手段がないか講じてみます」

優花里「あの、それで・・・・。西住殿は、どうなさるおつもりでしょうか・・・・?」

 

おずおずと上目気味に優花里が訪ねる。

 

まほ 「本来であれば君たちの所に送り届けるべきなのだが__」

みほ 「!」

 

きゅっ

 

不安げなみほがまほの袖をつかむ。

 

まほ 「・・・・みほがこの調子では、そちらに戻っても迷惑をかけてしまうだろう。チームの子らも、傷つけてしまうかもしれない」

華  「確かに、ウサギさんの皆さんは戸惑ってしまうかもしれませんが」

まほ 「提案があるのだが・・・・しばらくみほをこちらで預からせてもらえないだろうか」

沙織 「!」

まほ 「『この状態』のみほは黒森峰が一番落ち着くだろうし、腕のいい医者にも見てもらえる。___もちろん、全て解決した暁にはみほはそちらに帰ると約束する」

小梅 「ドイツの有名なお医者さんをお呼びする予定もあるんです。その先生なら、糸口をつかめるかもしれません」

華  「それは、そうかもしれませんが・・・・」

沙織 「・・・・」

 

唐突な事態に戸惑あんこうチーム。

しばし黙り込んでいたが__お互い目くばせをしザッと立ち上がり、まほとみほをじっと見つめる。

そして__

 

沙織 「みぽりんを、よろしくお願いします!」

 

あんこうチーム四人は深々と頭を下げた。

店の外。

小梅らに付き添われ、みほはちらちらと沙織たちの方を気にしながらも去っていった。

そんな様子を見届けた沙織たちも、複雑そうな顔をするのだった。

 

杏  「そっか。それで、西住ちゃんは黒森峰に預かってもらうんだね」

梓  「そんな・・・・」

 

大洗女子に戻ってから。

沙織たちは生徒会室にチーム全員を呼び集め、事態の説明をした。

 

華  「すいません、私たちだけで勝手にお話を進めてしまって」

柚子 「ううん、仕方ないわ。きっとその場にいても、私たちも同じ答えになると思うし」

桂利奈「西住隊長、転校しちゃうの!?」

あや 「そんなのヤですーっ!」

桃  「ええい、狼狽えるな!どうせ一時的なものだろう。すぐにいつもの西住に戻って何食わぬ顔で戻ってくるだろう。ですよね、会長!」

杏  「・・・・」

 

同意を貰おうと杏に振るが、杏は真面目な顔をして腕組みしたまま。

その様子に事態は思ったより深刻なのかと焦る桃。

 

杏  「とにかく、西住ちゃんは西住ちゃんのお姉さんに任せよう。西住ちゃんの安定のためなら仕方ないし、今の私たちに出来ることはないさ」

優花里「それは、そうかもしれませんが・・・・」

柚子 「西住さんのためを思うなら、今は見守ってあげましょう」

麻子 「・・・・わかった」

 

納得はしなかったようだが、各員はおとなしく生徒会室から去っていった。

ふう、と息をつきイスに深く腰掛ける。

 

杏  「ホント、今年は次々とトラブル続きだねえ」

柚子 「ほんとに。でもいつも乗り越えてきましたし、きっと今回も何とかなりますよ」

杏  「二回の廃校危機を西住ちゃんに救ってもらったその次は、西住ちゃん自身の危機になるとはねえ」

桃  「ですが、物は考えようかもしれません」

杏  「うん?」

桃  「西住はそもそも、『戦車道をやりたくないから』ウチにきたのです。そして色々あって今現在戦車道に邁進している。ならば黒森峰に戻れば、もっとランクアップを__」

 

そこまで言って、桃は杏から何も言わなくてもとてつもない重圧的なオーラが漏れ出ていることに気が付いた。

 

桃  「も、申し訳ありません!言いすぎました!」

杏  「__ま、かーしまの言いたいことも分かるよ」

桃  「へっ?」

杏  「確かに西住ちゃんは戦車道やらないためにウチに来て、私たちが無理やりみたいに戦車道やらせて今に至ってるんだ。西住ちゃんが戦車道に戻るっていうんなら、うちみたいな普通校より黒森峰みたいな戦車道名門に戻れば将来にもつながるだろうし」

柚子 「会長・・・・」

杏  「私たちは高校生だよ。確かに学校生活の充実も大切だけど、これからの未来を考えて行動もしなきゃいけない。もう誰かに言われたからそうしなきゃいけないって年でもないっしょ」

 

席を立って窓の外も見る。

そのはるか先には、小さいながらも黒森峰の学園艦が見える。

 

柚子 「でも会長。その場合、残された彼女らの未来はどうなるのでしょうか?みんな、想い願う未来は一緒のはずですよね?」

杏  「・・・・それはこれから考えるさ」

 

振り返り、会長の椅子を見る。

 

杏  「任期最後の大仕事なんだ。みんなが悔いのない成果を出したげないとね」

 

そう言いながら、杏は会長用の机から分厚いファイルを取り出し始めた。

 

イカ娘「うーん、もう食べられないでゲソ・・・・」

 

その頃プラウダ学園艦のイベントホールでは、イカ娘が大きく膨れたお腹を満足そうにさすりながらソファに横になっていた。

そこでは、プラウダが主体になってイカ娘を元気づけようとパーティーを開いていた。

調理にはアンチョビたちも手を貸し、その光景をダージリンが見守っている。

 

カチュ「どうだったかしら?プラウダ特製ボタンエビ増量ボルシチは」

イカ娘「うむ。エビパスタも美味しかったでゲソが、こっちも文句なし、大満足でゲソ」

ニーナ「イカチューシャさん、元気が出てきたみたいでよかっただなあ」

アリー「お腹すいてたら悪ぃことばかし考えてまうべな」

クラ 「оре не море, выпьешь до дна」

ニーナ「え?何て?」

ダー 「悲しみは海ではない。だからすべて飲み干せる」

ペコ 「ロシアのことわざですね」

ノンナ「確かに事故は痛ましいことです。ですがそれで立ち止まらず、それを乗り越えていただきたい。それが我々の知るイカチューシャです」

イカ娘「・・・・そうでゲソね。それにきっとまだ手はあるでゲソ。私が諦めたら、取り返せるものも取り返せないでゲソ!」

ペパ 「それでこそイカっ娘だな!ホレ、もう一杯食え!」

 

どんぶり一杯に盛られたボルシチを差し出され、少し引くイカ娘。

周囲に笑い声が浮かぶ。

そこへ__

 

プラ生「ええっと・・・・」

 

一人のプラウダ生が会場を覗き込みながら様子をうかがっている。

それに気が付いたのはダージリンたち。

 

アッサ「どうかしたのかしら?」

プラ生「あっ、はい。カチューシャ様にお電話なんですが、今声かけると邪魔しちゃいそうで・・・・」

 

振り返るとカチューシャはイカ娘らと談笑しており、確かに中断させて呼ぶのには気が引ける。

 

ダー 「では私が取り次ぎましょう」

 

プラウダ生の案内を受け、受話器を手に取る。

 

ダー 「お電話変わりました。カチューシャさんは手が離せないので、私が取り次ぎますわ」

千鶴 『あら、ダージリンちゃん?そこにいたのね。ひょっとしてアンチョビちゃんたちも一緒かしら』

 

電話は千鶴からだった。

 

ダー 「ええ。カチューシャさんらが大事な友人を励ますための催しを設けまして。私たちもそれに乗らせていただいた次第ですわ」

千鶴 『そうだったの』

ダー 「それで、どのようなご用でしょうか?」

 

そのまま静かに千鶴の話を聞くダージリン。

__だんだんと、表情から笑みが消えていくのが見えた。

 

カチュ「だから、破損とか細かいこと気にせず一気に引き上げちゃえばいいのよ!壊れたら直せばいいし、そのまま何もせず海にそこに眠らせるのはもったいないわ!」

チョビ「それで取り返しがつかなくなったらどうするんだという話を今してるんだろう!力技だけに頼らずもうすこし機略をだな!」

イカ娘「触手でぐるぐる巻きにしてゆっくり引っ張ったらいけなイカ?」

ノンナ「その場合重量が問題になりますね。部品が破損していたとしてもまだ優に30tはあると思われます」

ペコ 「ではできる限り細かくパーツに分ければ安心かつ的確に回収できるのでは?」

アッサ「戦車一両を解体するには専用の作業場が必須よ。ましてや水中で作業するにはあまりにも技術を要しすぎるわ」

 

様々な意見を交換し合い、水没したチャーチルの引き揚げ作業について論議が盛り上がっている。

そんな所に戻って来たダージリン。

 

ダー 「皆さん、申し訳ないのだけれど私たちはこれで失礼いたしますわ」

イカ娘「む?そうなのでゲソか」

カチュ「何よ、急じゃない?チャーチルを引き上げるのにダージリンの意見も聞きたかったのに」

ダー 「・・・・火急の用なのですわ」

イカ娘「そうなのでゲソか。じゃあまた今度意見を聞かせてくれなイカ?」

ダー 「ええ。それでは皆さん、ご機嫌よう」

 

挨拶も短めに去っていくダージリン、それを慌てて追うアッサムとオレンジペコ。

そんな聖グロ一行を、怪訝そうな目で見送るカチューシャだった。

 

場所は移り、黒森峰女学園更衣室。

そこではみほがさも慣れた様子で黒森峰のパンツァージャケットに袖を通している。

そんな様子を、エリカは複雑そうに見つめている。

と、エリカの視線に気が付いたみほ。

 

みほ 「エリカさん、今日の訓練も頑張ろうね!」

エリカ「え、ええ」

 

今までまったく__いや、多少なりとも黒森峰の一年生時代にはろくに見せなかった笑顔を、今のみほは屈託なく浮かべている。

 

エリカ「・・・・何だか、随分楽しそうじゃない」

みほ 「えっ、そうかな?・・・・きっと、エリカさんと一緒のチーム分けだからかな」

エリカ「・・・・柄にもないこと言うんじゃないわよ」

みほ 「え?何て言ったの?」

エリカ「何も言ってないわよ。ホラ、とっとと行くわよ!」

みほ 「あっ、待って、エリカさーん!」

 

誤魔化しながら更衣室を後にするエリカを追いかけるみほ。

そして、演習が始まった。

 

バアン!

シュポッ

 

演習が始まって間もなく、あっという間に決着はついた。

__もちろん、みほのいる方のチームの圧勝だった。

 

まほ 「そこまで!紅組のフラッグ車、撃破を確認。白組の勝ちだ」

 

演習全体を見ながら指示を出していたまほが全車両に告げた。

 

みほ 「きれいに決まったね、エリカさん」

エリカ「え、ええ・・・・」

 

呆気にとられ、呆然とするしかないエリカ。

 

エリカ(な、何なのこの洗練された指揮と遂行力・・・・。一年前の、むしろ大洗に行ってからのあの子より純度が上がってない?)

 

ふと、この一連の動きに心当たりがある気がしたエリカ。

 

エリカ(この非の打ちどころのない作戦立案と、それを実現させる練度。冷静な状況判断と乱れのない統制・・・・。まるで・・・・)

まほ (まるで、お母様を見ているかのようだった・・・・)

 

乗り込んでいるⅥ号から覗かせる、真剣な表情のみほ。

まさにそれは、しほの横顔に被って見えるほどのものだった。

視線に気づき、笑顔と手を振って返すみほ。

そんなみほに、エリカは底知れない不安めいたものを感じ始めていた。

 

エリカ(違う、あれは私の知る副隊長じゃない!__この子、いったい・・・・何者なの!?)

 

三日後。

まだみほは戻らず、大洗女子寮のみほの部屋は誰もいない。

その部屋の中を、沙織は一人立ち尽くしている。

周囲を見渡すと目に入るものはみほとの思い出の品ばかり。

と、ベッドの横に並べてあるタキシード姿のボコが目に留まる。

それを手に取る沙織。

 

沙織 『よおお嬢さん!一緒にディナーでも行かないかい?』

みほ 『!?』

沙織 『へへ、なんちゃって』

みほ 『沙織さん』

 

タキシードボコを受け取った時の嬉しそうなみほの顔がリフレインする。

そのみほの顔と、様子がおかしくなってから自分を見る怪訝そうなみほの顔が交互にちらつく。

どうしたらいいかもわからず、ただボコをぎゅっと抱きしめる。

その目じりに涙が浮かびかけた時__

 

ガチャ

 

ドアが開き、そこには華たちが立っていた。

 

大洗女子生徒会室。

そこでは、杏が受話器を手に話をしている所だった。

 

杏  「・・・・そっか、そっちはそんなことになってるんだ」

まほ 『ああ。実のところ・・・・周囲の動揺が思った以上に激しいんだ。隊員たちのメンタルにもだいぶ影響が出てしまっている』

杏  「まあ、そうだろうねえ。理由を説明されたって受け入れるのは難しいでしょ」

まほ 『そちらは大丈夫だろうか?みほのことで悪影響がなければいいんだが』

杏  「とりあえずこっちでは西住ちゃんは黒森峰と交流のために短期滞在してもらってるって触れ回っといたよ。矛盾も起こんないだろうし、ひとまずはこれで行こうかなってね」

まほ 『・・・・すまない、迷惑をかける』

杏  「ん~、気にしなくていいよ~。こっちもこれまで西住ちゃんにおんぶにだっこだったんだし、こういう時くらい会長としての立場を利用しないとね。・・・・んで、西住ちゃんは元気にやってる?」

まほ 『ああ。本人の中では過ごし慣れた場所だからな。・・・・しかし、やはり周りの子たちが・・・・な。やはりみほにどう接していいのかわからないようで、未だ孤立しがちなんだ』

杏  「まあ、去った子が戻ってきちゃったらどう対応すりゃいいか難しいだろうね」

まほ 『エリカや小梅が出来る限り傍についてはくれているんだが、私も常にいてやることはできない。だから、みほが一人でいる時が一番心配なんだ』

杏  「四六時中監視つけるのも気が引けるしねえ」

まほ 『__ということは、例の話、進めるつもりなのか』

杏  「うん。こっちはこっちで、出来る限りのことをさせてもらうよ~」

まほ 『・・・・すまない』

杏  「いいっていって。お互い西住ちゃんのためなんだから」

 

そして通話が終わり、受話器を置くと同時にノックの音。

 

杏  「入っていいよ~」

 

入って来たのは、あんこうチームの四人だった。

 

沙織 「会長、お願いがあってまいりました!実は私たち__」

杏  「うん、そろそろ来ると思ってたよ」

 

沙織が言い終わる前に、杏は大きめの茶封筒を四通、机の上に広げた。

それに描かれている文字を読み、あんこうチームの面々は驚きの表情を見せる。

 

華  「会長、これは__」

杏  「用意はこっちで済ませといたよ。あとはみんなの同意を貰うだけ」

優花里「会長・・・・!」

 

驚きと喜びが入り混じった表情の優花里に、杏はにっと笑顔を返すのだった。

その日の午後。

 

桃  「到着したか、予定通りだな。__ああ。あとはお前たちに任せる」

 

通話を終了させる桃。

 

柚子 「・・・・これで、よかったのでしょうか?」

杏  「これに関してはあの子たちの方が上手だよ。西住ちゃんのためにあそこまでできるあの子たちのほうが、ね」

 

杏は椅子の上で大きく背伸びをした。

同時刻、黒森峰女学園・食堂。

 

黒森A「あっ、あれ見て。西住みほさんだ」

黒森B「ああ、聞いてる聞いてる。負けて黒森峰から出ていったのに、大会で優勝したからって出戻って来たんでしょ?よく帰ってこれたよねえ」

黒森C「え、そうなの?私は大洗と仲が悪くなって追い出されたって聞いたけど」

黒森D「家元が呼び戻したんじゃない?なんだかんだ言ったってあの人お母さんに逆らう気概ないだろうし」

 

周囲にひそひそと好き勝手に陰口を叩かれ、一人居心地の悪そうなみほ。

話しかけようと見知った子に近づこうとするも、相手はそそくさと去ってしまう。

 

みほ (・・・・どうしたんだろう、みんな・・・・。何だか急によそよそしくなっちゃってる)

 

トレイを持ち、昼食を受け取る列に並ぶ。

 

みほ (エリカさんも様子が変だし・・・・私、知らない間に何かしちゃったのかな・・・・)

 

突然降ってわいた孤独感に、思わず涙が浮かびかけている。

そんなとき__

 

???「ヘイ彼女!いっしょにお昼、どう!?」

みほ 「えっ?」

 

突然、背後から声を掛けられた。




離れても薄れることのない絆。
今回の劇場版にあたってのテーマでもあります。

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