ナカジマ→ナカ
ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
江の島南部、海中にて。
海の底に沈んだチャーチルを、ダイビング装備に身を包んだ四人が調べている。
一人は履帯を調べ、一人は砲塔を調べ、もう一人は車内に・・・・と、各々がチャーチルを調べ続ける中、少し遠巻きにイカ娘は心配そうにその様子を見続けている。
クイクイ
と、ある程度調べた段階で一人が上に上がろうと合図を送る。
三人も同意し、面々は海上へと上がっていった。
ザバァッ
四人が海面に顔を出す。
それを目視したボートが四人に近づいていく。
千鶴 「みんな、お疲れ様」
ボートには船員のほかに千鶴、栄子も乗っていた。
手を借り船上へ戻る。
ナカ 「ふう」
潜水ゴーグルを脱いだその人物は__ナカジマをはじめとした自動車部の面々。
栄子 「それで・・・・どうだった?」
栄子は恐る恐る語り掛ける。
ホシノ「うーん・・・・正直に言ったところ、芳しくないね」
スズキ「車内からエンジン部にまで完全に浸水してる。器機周りは全滅だよ」
ツチヤ「海に落ちた時の衝撃で、転輪がいくつか紛失してますね。そのせいでどちらの履帯も剥がれ落ちちゃって、自走できません」
栄子 「そんなにひどい状態なのか・・・・」
ホシノたちの話から状況を聞き、苦い表情を浮かべる栄子。
千鶴 「自走は不可能なら、戦車道関連の引き上げ船を頼もうかしら。あれなら、水没した戦車も引き上げてくれるらしいから」
ナカ 「それができればベストなんでしょうけど・・・・」
栄子 「何か問題が?」
ナカ 「はい、問題は『チャーチルの沈んでいる場所』です」
千鶴 「あっ」
ツチヤ「崖から真っ逆さまだったせいで、沈んでいるのはほぼ崖に沿った場所なんです。そのせいで__」
千鶴 「__回収船が近寄れない・・・・」
スズキ「はい」
ナカ 「離れた位置にワイヤーを引っかけて浅瀬までけん引する方法もありますが、落下の衝撃で車体がかなりのダメージを受けています。もし無理に引っ張れば、それこそ海底でバラバラになってしまう可能性も・・・・」
栄子 「手詰まりじゃんか・・・・」
悔しそうに海を見つめる栄子。
栄子 「あれ?そういえばイカ娘は?一緒に潜ってたんじゃなかったっけ?」
ツチヤ「ああ、イカ娘ちゃんはまだ__」
その時、イカ娘はまだ海中__チャーチルの所にいた。
砲塔の上にうつぶせになり、ただ悲しげな表情でチャーチルに手をあてていた。
ザザーン・・・・
由比ヶ浜海岸の波打ち際で、イカ娘は座り込んでいる。
目線の先には江の島__チャーチルの沈んだ場所がある。
優花里「・・・・イカ娘殿、あれからふさぎ込んでしまっていますね」
みほ 「うん・・・・」
そんなイカ娘の様子を、遠巻きに心配そうに見ているあんこうチーム。
沙織 「きっと・・・・すごい辛いと思う。私たちも、もしⅣ号を同じように失ったらショックだと思うし・・・・」
麻子 「そうだな。・・・・考えたくもないな」
華 「あの子には、私たちと同じくらいに思い出が詰まっているんですね」
どう声をかけるべきか、かけざるべきかと行動できないでいるあんこうチーム。
そこへ__
???「なあーにを辛気臭い顔をしているの、イカチューシャ!」
聞き覚えのある大声が飛び込んできた。
みほ 「!?」
イカ娘「!?」
驚いて声の方を向くと、そこには__
イカ娘「カチューシャ?」
砂浜に立つ、カチューシャとノンナがいた。
イカ娘の方に歩み寄るカチューシャ。
カチュ「事情は聴いたわ。大変だったわね」
イカ娘「・・・・」
オブラートに包まずストレートに話題を切り出すカチューシャに、戸惑いつつもカチューシャらしい、と思うみほ。
カチュ「これからどうするの?戦車道は続けるの?」
尚も突っ込んんだ話題を振る。
イカ娘「・・・・わからないでゲソ。チャーチルは引き上げられないし、私にはほかに戦車もないでゲソから」
カチュ「なら好都合ね!」
イカ娘「!?」
予想だにしない返答に面食らう。
カチュ「ノンナ!」
ノンナ「バジャールスタ」
取り出した無線機に話しかけるノンナ。
と、すぐに道路の方から何から近づいてきた。
ギュラギュラギュラ・・・・
そこに現れたのは__T-34/85が一両。
搭乗しているのはクラーラ。
カチュ「貴女には、これを貸してあげるわ!」
イカ娘「!?」
ノンナ「T-34/85はプラウダが誇る傑作戦車です。そして重装甲、高火力、どれをとってもイカチューシャのお使いになっていたチャーチルを上回ります」
クラ 「きっとイカチューシャ様の力になることでしょう」
これで決まり、と自信満々のカチューシャ。
そこへ__
???「お待ちになって」
みほ 「!?」
また誰か現れた。
ダー 「ご親友とあれど、ご自分の好みを押し付けになさるのはどうなのかしら」
イカ娘「?」
今度はダージリンが現れた。
ダー 「イカ娘さんは由比ガ浜のご在住、そして使われていたのもチャーチル。ならば__」
ギュラギュラギュラ
同じように、今度はアッサムの操縦するチャーチルが近づいてくる。
ダー 「心を尽くすのは私共の役目ではなくて?」
そしてにっこりとイカ娘に微笑みかける。
ダー 「さあイカ娘さん、このチャーチルをお貸ししますわ。これでしたら全く差異はなく、これまでどおりの戦車道を嗜めますわ」
カチュ「ちょっと!何勝手なこと言ってるの!抜け駆けする気!?」
ダー 「あら、抜け駆けとは心外ですわ。同じ学び舎に通い、心を通じ合わせた方が心苦しい思いをされているなら、友人として助けるのは当然のことではなくて?」
カチュ「いけしゃあしゃあと!それにこれ!この戦車!よく見たらMrk.Ⅷじゃない!なにしれっと上位車両を渡そうとしてるの!」
ダー 「これは誰も乗り手がいない余りの車両ですわ。誰にも乗られず腐らせるなら、必要とされる方に乗られる方が戦車も幸せではなくて?」
アッサ「余りって・・・・先日納車されたばかりでしょうに」
ペコ 「乗り手がいないって、来たばかりでまだ誰にも決まってなかっただけなんですが・・・・」
アッサ「データによると、ニルギリかルクリリあたりにあてがって戦力向上を図ろうとしていたらしいわ」
ペコ 「・・・・おふた方にはお知らせしない方がいいですね。きっと泣いちゃいますよ」
アッサ「賢明ね」
その間もやいのやいのと言いあうカチューシャとダージリン。
???「ちょっと待ったーっ!」
そして更に誰かの声が上がる。
チョビ「なら私だって黙ってはいないぞ!心を通じ合わせた仲というならばこちらは夏から同じ屋根の下で生活を共にした家族同然の仲だ!とあれば心を尽くすのは私たちにも、いや、私たちこそある!」
カチュ「何言ってるの、あんなのところは出せるのは豆戦車だけでしょ?無理してないで引っ込んでなさい!」
チョビ「んなっ!これを見ても言えるか!」
ギャリギャリギャリ
アンチョビの後ろからサハリアノが姿を現す。
それを見上げるカチューシャとダージリン。
チョビ「どうだ!このサハリアノならお前たちの二両を相手にしたってお釣りがくるくらいだぞ!」
しかし冷めた反応の二人。
ダー 「・・・・ええ、確かにサハリアノは素晴らしい性能をお持ちですわ。__でも」
カチュ「そうよね。そもそもそれはイカチューシャの所から譲り受けたものでしょう?もらったものを返すだけで何故そんな偉そうなのかしら」
チョビ「うっ」
ペパ 「あー、痛いとこ突かれちゃったっすね」
チョビ「まあ、それは置いといて!・・・・どうだイカ娘、これに乗ってまた一緒に戦車道をやらないか?」
ダー 「お待ちなさい。それは私の台詞です」
カチュ「カチューシャが一番最初に言い出したのよ!まずはカチューシャから返事をもらうべきよ!」
やいのやいのと言いあう三人。
ちらり、とイカ娘を見ると__
イカ娘「・・・・」
そんなやり取りなど耳の届かないといった様子で江の島を見続けている。
はあ、と息をつき頭をかくアンチョビ。
チョビ「はあ、やっぱり反応なしか」
ダー 「これだけたたみかければ少しでも反応してくれると思っていたのですが」
カチュ「だから言ったじゃない!こんな茶番じゃなくて、カチューシャが一対一でじっくりお話すべきだったのよ!」
ダー 「一対一ならば、私たちがグロリアーナのサロンをお貸しいたしますわ。そこで紅茶やスコーンをいただきながら、ゆっくりお話しすればきっと心も安らぎますわ」
チョビ「そして気が付いたらグロリアーナに転入してるとかそういうオチなんだろう!そうはさせないからな!」
栄子 「こりゃ無理だな。あの中に割って入れる雰囲気じゃない」
早苗 「イカちゃん、辛そう・・・・。こんなときこそ、私が温めてあげなくっちゃ!」
シュバッと飛び出そうとした早苗の襟首を栄子がしっかりつかむ。
きゃーきゃーと言い争うダージリンら三人を、苦笑いで見つめるあんこうチーム。
千鶴 「とりあえず、みんなうちへいらっしゃい。イカ娘ちゃんは今は彼女たちに任せましょう」
カル 「今日は風も冷たいですし、お茶を淹れますよ」
沙織 「あ、はい。行こう、みぽりん」
みほ 「あ、ごめんね沙織さん。・・・・もうちょっと、成り行きを見守ってから行くね」
麻子 「分かった。先に行っている」
少し後ろ髪を引かれるようにちらりとイカ娘に一瞥し、沙織たちは相沢家へと招かれた。
リビングで千鶴が紅茶をふるまう。
紅茶を飲んでふうと一息、沈黙がリビングを包む。
一同の頭に浮かぶのは、落ち込んだイカ娘の姿ばかり。
栄子 「あー・・・・、悪かったな、早苗」
早苗 「え?さっきイカちゃんの所に行くのを止めたこと?」
栄子 「いや、それは悪いとは思ってない」
きっぱりと言い放つ栄子に、くすっと笑みがこぼれるカルパッチョ。
栄子 「チャーチルのことだよ。せっかく貸してくれたのに、半年もたずにあんなことになっちゃってさ」
早苗 「ああ、気にしないで。もともとイカちゃんに乗ってもらうために用意したものだったんだから」
華 「そういえば、イカ娘さんのチャーチルはご友人からお貸しいただいたものと__。そのご友人と言うのは、早苗さんだったのですね」
早苗 「え?うん。イカちゃんが戦車道やりたがってるって聞いて、どうにかして喜ばせてあげたくて」
栄子 (そしてあわよくば一緒に乗ろうとしてたしな)
麻子 「それで戦車を買うとか、すごい行動力だな」
優花里「戦車道を志そうとするイカ娘どののために奮起した長月殿の心遣い、わたし感激しました!」
沙織 「うんうん、損得一切考えない無償の友情ってかんじだね」
華 「私も感激しました」
早苗 「え、そ、そう?ありがとう、あはは・・・・」
下心100%の行動だったため、そこまで持ち上げられて目線を逸らし愛想笑いするしかない早苗。
華 「でも__」
そこに華が口を開く。
華 「でも、戦車一両ですから・・・・かなりの出費だったはずです」
千鶴 「・・・・そうね。みほちゃんや私は戦車道用の戦車の相場を知っているから、気にしないでと言われてもそれで済ませるわけにはいかないわ」
たける「弁償しなきゃいけないよね。ところでカルパッチョ姉ちゃん、戦車っていくらするの?」
カル 「個々の差はありますが・・・・チャーチルくらいですと・・・・ゴニョゴニョ」
たける「」
値段を聞いてたけるは絶句した。
千鶴 「そうね。それくらいが相場だわ」
たける「そんなに高いの!?学校とかで使うって聞いてたから本物より安いと思ってたのに!?」
優花里「そういった部分はあるかもしれませんが、やはり鉄材の使用量はほぼ互角ですし、実弾を撃てる耐久度に加え、乗組員を守るための特殊カーボン加工がさらに拍車をかけていまして・・・・」
カル 「車種によっては、実車より数段値が張る場合も・・・・」
たける「・・・・(ぱくぱく)」
もはや言葉が出てこず、口をパクパクさせるだけのたける。
早苗 「栄子、気にしないで?別に弁償して欲しいとかそんなことは言わないから」
千鶴 「早苗ちゃんがそう言ってくれるとしても、こちらとしてはそうはいかないわ。やっぱり貸してもらっていた以上、こういったことにはきちんと責任を取らないと」
麻子 「そう言えば聞いたところによると、あのチャーチルは中古だったんだとか」
早苗 「うん、そうだよ。さすがに私も新品には手が出なくてー」
沙織 (手が届いたら買うつもりだったのかな)
カル 「それでも値は張るかと・・・・」
栄子 「・・・・聞くのが怖いけど聞かないといけないしな。__早苗、いくらしたんだ?」
ごくり、と固唾をのむ一同。
早苗が口を開き、値段が語られる。
沙織 「え・・・・」
千鶴 「まあ」
優花里「ほんとですか!?」
栄子 「やっす!」
その語られた値段に目を見開く。
栄子 「え・・・・早苗、それほんとなのか?私たちに気を使ってるんじゃないのか?」
早苗 「そんなことしないわよ。第一、私も栄子も学生よ?いくらお小遣い貰えたとしても、そんなに高い買い物なんてできるわけないじゃない」
栄子 「イカ娘グッズ買い占めたことあるくせにその言い分はどうかと・・・・。いやそれにしても、それが事実だとしたら安すぎないか!?最新ゲーム機買ってもおつりがくるぞ!」
早苗 「うーん、やっぱり安すぎるよねー。私もあまり手持ちなかったから助かったけど、今思えばだと安すぎると思えるわね」
栄子 「安すぎなんてもんじゃないだろ・・・・。高価じゃなかったってのは安心したかもだけど・・・・。え、なんで?なんでそんな安いんだ?」
激安戦車だと知って安堵した半面、逆にその安さに不安になる栄子。
優花里「私も不思議です。今までそんなに安い戦車、見たことありません」
沙織 「私たちは放置されてた戦車をレストアして使ってたから元手はかからなかったけど、もし買わなきゃいけなかったら買えて一両くらい、それで大会に出なきゃいけなかったかもね」
華 「一両ごとがそれくらいお安ければ、二十両用意できたかもしれませんね」
優花里「ですが逆にチームが足りなくなってしまいますね!」
カル 「うちもP90やセモヴェンテばかりにできたかもしれません」
一同 「あっはっはー」
朗らかな雰囲気になる一同。
麻子 「・・・・まさか、いわくつきだったんじゃ・・・・」
ピシッ
凍り付く一同。
沙織 「まままままま麻子、何言い出してるの!?」
麻子 「どう考えてもその値段はおかしい。この戦車、何かあるんじゃないのか?」
麻子が青い顔をして呟く。
沙織 「な、何かってなに!?」
優花里「も、もしかして・・・・事故車両でしょうか!?」
千鶴 「いわくつきの車両の可能性というわけね?」
華 「い、いわくつきの戦車・・・・」
千鶴 「ありていに言えば、事故・・・・」
沙織 「じ、事故って・・・・」
カル 「砲撃が運悪く当たってはいけない部分に当たってしまい、乗っていた人が__」
沙織 「ひゃああああああ!?」
栄子 「負けが込んだ乗組員の念が乗り移り、次に乗る人たちに呪いが__」
チャーチルから悪霊や人魂が次々と笑い声をあげながら飛び出してくるイメージ。
優花里「ご、ご勘弁をー!?」
麻子 「だ、大丈夫だったのか相沢さん!?」
栄子 「いや、別にそんなこと全然なかったけど」
華 「そうなんですか?」
栄子 「ああ。他の戦車にあまり乗らないからわかんないけど、特別不思議なことやおかしいこともなかったけどなあ」
麻子 「じゃ、じゃあチャーチルは呪われてはいないんだな!?」
沙織 「の、呪い・・・・」
カル 「元から呪われてはいないんじゃ・・・・」
話を元に戻す。
栄子 「早苗、そもそもチャーチルはどこで手に入れたんだ?」
早苗 「それはね__」
~~回想~~
夏、イカ娘が戦車道をやりたいと駄々をこねていたころ。
早苗はイカ娘に会いにれもんへ向かっていた。
早苗 『今日もイカちゃん成分を補給に行かなくちゃ~♪』
と、れもんに近づくと、栄子とイカ娘の会話が聞こえてきた。
イカ娘『私も戦車道、始めるでゲソ!』
早苗 (!戦車道・・・・?)
その声に反応し、さっと物陰に隠れて聞き耳を立てる。
栄子 『気軽に言うなよ。まず始めるにしてもウチには戦車は一台もないんだぞ?』
イカ娘『無いなら買えばいいじゃなイカ』
栄子 『さらっと言うんじゃねえよ。いくらすると思ってるんだ?』
イカ娘『いくらでゲソ?』
栄子 『ゴニョゴニヨ』
イカ娘『』
栄子 『戦車道ができるのは裕福な家か、一定以上の規模の学校とかでないとできないんだよ。それに戦車を買うだけじゃダメだ。メンテナンスに燃料、弾薬の補給なんかにも金がかかる。思い付きでできるもんじゃないんだよ』
イカ娘『ゲソ~・・・・』
そこまで聞くと、早苗は駆け出していた。
早苗 (これだわ!戦車道をやりたがるイカちゃんに戦車をプレゼントすれば、イカちゃんはもっと親密になってくれるはず!それに戦車の車内は狭いから・・・・うふふふふふふ♪)
よこしまな心と表情で町を駆け抜ける早苗。
__一時間後。
早苗はとある場所でがっくりと膝をついていた。
そこは、由比ヶ浜に唯一存在するせんしゃ倶楽部。
幾両もの戦車のカタログが並んでいるが・・・・
早苗 (高い!)
さすがの早苗も新品の戦車には全く手が出せず、絶望的な気分になっていた。
早苗 (まさか戦車がこんなに高かったなんて・・・・。お小遣い全部おろしても到底足りないじゃない!)
早苗 『ううう・・・・。イカちゃんと一緒に戦車道したかった・・・・』
半泣きになりながら店を去る早苗の後姿を、店内で見送る一人の人物がいた。
早苗 『はああ・・・・。残念だけど、どうしようもないか・・・・』
がっくり肩を落としながら帰路につく早苗。
と__
???『もし、そこのお嬢さん』
背後から声をかけられた。
早苗 『え?』
振り返ると、そこには一人の老婦人が立っていた。
年は八十ほどだろうか、杖をつきストールを身にまとい、見るからに上品そうな雰囲気をまとっている。
早苗 『えーと、私ですか?』
老婦人『ええ。先ほど、戦車を買われようとしてらしたでしょう?』
早苗 『は、はい。でも想像以上に高くって・・・・』
老婦人『そうなの。ごめんなさい、聞こえてしまったのだけれど__お友達と戦車道をしたいのね?』
早苗 『そうですけど・・・・どうにも手が出せなくて。戦車って高いんですね・・・・』
そこから早苗は老婦人と軽く話をした。
いっしょに誰と戦車道をしたいとか、どんな戦車道をやりたいのか、を簡潔に伝えた。
静かに聞いていた老婦人はうんうんと頷き、やがて__
老婦人『まだ、戦車道をやりたい気持ちはあるのかしら?』
という老婦人の問いに、早苗は強く頷いた。
そんな早苗ににっこりと笑顔を浮かべ__
老婦人『一緒に来てもらえるかしら』
と、早苗はとある家へ連れていかれた。
そこは英国風の高貴な一軒家。
隣には大きなガレージもあった。
老婦人『少し、ここで待っていてもらえるかしら』
言われた通り外で待っていると__
ガララララララ
ガレージが自動的に開いた。
そして奥から__
ギャラギャラギャラギャラ
ゆっくりとそれが姿を現した。
それは__イギリス製の歩兵戦車・チャーチル。
呆気にとられる早苗の前に停まったチャーチルの運転席から、例の老婦人が笑顔をのぞかせた。
早苗 『あの、おばさま、これは・・・・?』
老婦人『チャーチルMrk.Ⅵ。動きはさほどではないけれど、有り余る装甲と火力で試合をコントロールできる、これから戦車道を始める子にはおすすめの戦車よ』
いまいち事態を飲み込めない早苗。
老婦人『この子を、貴女に預けたいの』
早苗 『ええっ!?』
老婦人『もう長い間乗っていないの。けれど手入れはしっかりしているから、今日からでも試合に出られるわ』
戦車からゆっくり降りてきた老婦人は早苗ににっこりとほほ笑みかけた。
老婦人『そのお友達といっしょに、この子に乗ってちょうだい』
早苗 『でも・・・・』
老婦人『お願い』
老婦人は早苗の両手を握る。
老婦人『これはただのお婆さんのわがまま。この子のまた戦車道をさせてあげたいの』
早苗 『おばあさま・・・・。でもこんなに立派なものをただ受け取るなんて』
物が物だけに素直に受け取りわけにはいかないと思っていた早苗。
そんな返答に老婦人は、
老婦人『それなら私、ほしいものがあるの』
にっこりと笑顔を見せた。
~~回想終了~~
早苗 「それで、レンタル料っていう名目でおばあさまに飲みたがっていた紅茶を買ってあげたの」
千鶴 「そうだったの。そして早苗ちゃんはそのチャーチルをイカ娘ちゃんに貸してくれたのね」
栄子 「戦車のレンタル代に紅茶って、代わったお婆さんだな」
華 「そんなことが・・・・」
カル 「つまり、その紅茶のお値段がさっき早苗さんの言っていた金額だったのですね」
早苗 「うん」
たける「そんなに高い紅茶ってあるの?」
千鶴 「イギリス王家御用達のお店なら、百グラム数万円のお茶も存在するのよ」
たける「百グラムで!?」
早苗 「そのあと一度、おばさまのに報告にいったことがあるの。イカちゃんが戦車道を始めて、訳あって私はドゥーチェのチームに加わっていっしょに戦車道してるって。おばさま、とても嬉しそうな顔をしてたなあ」
千鶴 「それじゃあ、そのおばさまにも連絡しないといけないわね」
早苗 「あっ、それは私が」
千鶴 「いいえ大丈夫、その人がどなたか分かってるわ。__ねえ早苗ちゃん、そのおばさまが飲みたがっていたのは・・・・この紅茶よね?」
千鶴は紅茶が仕舞われている扉を開き、その紅茶の箱をテーブルに置いた。
沙織 「えっ、この銘柄って__」
一同 「『ダージリン』?」
その頃、みほは一人座っていた。
みほ (私に出来るとこ、何があるかな)
一人、道路から砂浜へ延びる階段の最下段に座り物思いにふける。
イカ娘はダージリンらに強引に連れ去られ、どこかへ行ってしまっていた。
その後もみほは腰をあげず、そのまま考えに耽っていた。
みほ (お姉ちゃんに相談したら、いい手を見つけてもらえるかな・・・・。でもそうしたらお母さんにも迷惑を掛けちゃうことになるし・・・・。でも私ひとりじゃチャーチルをあそこから引き上げるなんてとても・・・・)
江の島を見つめながら、どうすればイカ娘のためになるか考えていると__
チャリン、チャリン__
上の方から、何か音が聞こえてきた。
何の音だろうと振り返ろうとすると__
コツン
それがみほの頭にぶつかって跳ねた。
みほ 「ひゃっ」
驚いて見回すと__
みほ 「?・・・・五円玉?」
そこには、長い紐らしきものが結ばれている五円玉が落ちていた。
どうしてこんなものが、としげしげと見ていると、
???「あらあらあら、ごめんなさい」
と、声が聞こえてきた。
みほは、その声に思わず振り返るのだった。
それからしばらくして。
沙織 「あれ?みぽりん?」
相沢家から出てきた沙織が周囲を見回す。
__が、近辺にみほの姿はどこにもなかった。
華 「先に戻られたのでしょうか」
優花里「電話にも出られません」
麻子 「メールもないな」
沙織 「おっかしいなー、後で来るって言ってたのに」
優花里「学校に呼ばれたのかもしれませんね。会長とか」
沙織 「ああ、それはあるかも」
華 「ではとりあえず学園艦へ戻り、乗船記録を見せてもらいましょう。みほさんが戻っていれば必ず乗船記録が残ります」
沙織 「そっか!華ナイス!」
そして港から大洗女子学園艦の乗船記録を受付で見せてもらう。
沙織 「ない・・・・」
記録によれば、みほはまだ大洗女子には戻ってきていなかった。
沙織 「みぽりん、どこ行っちゃったんだろ・・・・」
優花里「私、もう一度あのあたりを探してきます!」
沙織 「あっ、ゆかりん!」
呼び止めも聞かず、優花里は駆け出していった。
華 「私たちも探しに行きましょう」
麻子 「待った。闇雲に探して入れ違いになる可能性も高い。西住さんが戻ってきてもいいように、こっちにも誰か待機していた方がいい」
沙織 「じゃあ、私は寮に戻ってみんなからの連絡をまとめるね」
華 「沙織さんの得意分野ですものね」
麻子 「五十鈴さんは秋山さんと合流してくれ。連絡を密にして西住さんの情報が入ったらすぐに連絡をしてほしい」
華 「わかりました」
麻子 「私はここで西住さんが来てもすぐ分かるように待ち構えておく。もしかしたら何らかの方法で学園艦に戻るかもしれない。沙織は内部への出入りに注意を払ってくれ」
沙織 「わかった。華も麻子もよろしくね!」
あんこうチームの面々はみほを探しに散らばっていった。
みほ 「・・・・・・・・」
その頃__
みほは学校の廊下を歩いていた。
その目はうつろで、ふらふらと足もおぼつかない。
しかし向かう方向はわかっているように見えた。
みほ (・・・・どうしたんだろ、頭がぼーっとする。えっと、今日は何があったっけ・・・・)
廊下で女生徒とすれ違う。
みほを見ると、やたらと驚いた顔をしている。
が、特段気にもせず通り過ぎるみほ。
みほ (そうだ。イカ娘ちゃんの__えっと、チャーチル、が沈んじゃって、・・・・えっと、みんなが、慰めて、どこかに連れて行って・・・・、それから?)
眠そうな、意識が飛びそうな様子が強くなる。
あふ、とあくびをするみほ。
みほ (ダメだ・・・・眠くて考えられない。とにかく・・・・寝て、明日考えよう・・・・)
みほは部屋のドアを開ける。
見慣れた部屋、見慣れた内装。
ドレッサーを開き、パジャマを取り出す。
服を脱ぎ捨て、もそもそとパジャマを着こむ。
みほ 「・・・・あしたおきたら、たたまなくっちゃ・・・・。でも、そのままにしてたら・・・・おこられちゃうかな・・・・」
と、そこで足が止まる。
みほ 「おこられる・・・・?だれに、だっけ・・・・?」
が、また歩き出しベッドへ向かう。
みほ (とにかく、寝よう・・・・。明日ちゃんと起きて、ちゃんとしよう・・・・)
梯子を上り、二段ベッドの上へ。
頭まで布団をかぶる。
みほ 「おやすみなさい・・・・」
誰に言う訳でもなく呟き、みほの意識はすぐに闇に溶けた。
意味深な展開が多いチャプターとなりました。
なので自分は今回はあまり多くは語らないで行こうと思います。
意味深なので。