侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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この話はこれまでの侵略!パンツァー娘全話と、侵略!イカ娘最終話『決断しなイカ?』を先にお読みいただくともっとお楽しみいただけます、

※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


左衛門座→左衛門

ナカジマ→ナカ

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

吾郎の母ちゃん→吾郎母


侵略!パンツァー娘:劇場版
Chapter01:再会です!


倉鎌の大仏__。

過去八百年あまり、その地に座禅を組み倉鎌の人々を見守って来た、尊大な仏像である。

そんな歴史の重みある、ありがたい大仏は__

 

ドゴオオオオン!

 

着弾による爆発で首が吹き飛んだ。

吹き飛んだ首は大きくはね__

 

ゴシャアッ

 

傍に構える本院にめり込むように着地した。

 

住職 「ウチの寺があああああ!」

 

観客席で観ていた住職が叫び声をあげる。

 

杏  「おお~あた~り~」

 

行進するヘッツァーの中で、寝転がりながら干し芋をほおばる杏。

照準器を握りしめつつ、今の砲撃を行った桃が顔面蒼白になっている。

 

柚子 「桃ちゃん、何でよりによってこういう時は当てちゃうの・・・・」

桃  「ちっ、ちがっ、わたっ、私は当てようとして撃ったわけじゃ!」

杏  「こりゃ~当たるね、当たっちゃうねえ、特大のバチが」

桃  「ひいいいい!」

柚子 「会長!」

杏  「ど~んなバチが当たるかなあ。テスト0点、寝坊連発、はたまた留年~?」

桃  「ごめんなさい、ごめんなさい、祟らないでー!」

 

桃は必死に大仏へ向かって手を合わせナンマンダブナンマンダブと唱え続ける。

 

柚子 「桃ちゃん、大丈夫だから、これくらいで大仏様は怒らないから!」

杏  「あっ!もしかしたら大学一切受からず浪人しちゃうかも!」

桃  「びえええええええーーー!」

柚子 「会長!!!」

 

今だ首のない大仏から立ち上る噴煙。

それを呆然とした顔もちで眺めるのは__Ⅳ号のキューポラから顔を覗かせるみほ。

 

沙織 「だ、大仏様の頭が・・・・」

麻子 「河嶋先輩、やってしまったな」

華  「あそこは非戦闘エリアのはずですが、どうして当ててしまったのでしょう」

優花里「試合中のアクシデントですし、恐らく弁償などの話は出ないとは思われますが・・・・」

みほ 「うん、きっと大丈夫だよね」

 

言い聞かせるように話すみほ。

と、通信が入る。

 

妙子 『こちらアヒル!現在敵は四丁目方面から南下中!五分後に接敵の模様!』

みほ 「アヒルさん、了解しました。そのまま敵を釣りながら南下してください。長谷交差点で横撃を仕掛けましょう!」

妙子 『了解しました!・・・・あ、西住隊長』

みほ 「えっ?・・・・あっ」

 

はっとしたみほは傍らに置いてあった透明な__見た目透明なチューリップ帽のようなものを頭に被る。

 

みほ 「__ア、アヒルさんはそのまま南下!長谷交差点で横撃を加えます、クラ!」

妙子 『了解です!』

 

通信を終えるとすぐ車内に引っ込み、みほは恥ずかしそうに頬を染める。

 

沙織 「みぽりん、頑張った!えらい!」

優花里「心配ありません、役になり切っていました!」

華  「とても可愛らしかったです」

麻子 「うん、ハマり役だった」

みほ 「もう、みんな他人事だからって!」

 

笑いが弾む車内。

かくしてⅣ号はアヒルと合流すべく道を進み始めた。

大洗ほどではないが、やはり由比ヶ浜も海辺の町。

通り過ぎる道は海産物を扱う店も少なくはなかった。

やがて、指示した長谷交差点へとたどり着く。

まだアヒルさんらの気配はない。

 

優花里「まだ到着していないようですね」

華  「でも交戦している音も聞こえません。遅れているだけでしょうか」

みほ 「じゃあ、予定通り準備を済ませましょう__クラ。エリカさん、準備はいいでクラ?」

エリカ『もちろん、出来てるでクラよ』

 

みほたちのいる交差点の反対側__袋小路になっている弁天堂には、エリカのティーガーⅡが死角に隠れ待ち構えている。

キューポラから姿を見せるエリカの頭には、みほと同じ透明のチューリップ帽がかぶさっている。

 

みほ 「可能な限りこちらに注意を引きます、クラ。焦らず、可能な範囲で撃破をお願いします、でクラ」

エリカ『言われなくても分かってるでクラよ』

 

無線と通じ、不思議な語尾をつけて通話する二人。

 

優花里「いや・・・・意外ですね」

エリカ『何がよ』

優花里「いえ、失礼かもしれませんが・・・・逸見殿の順応力にです」

エリカ『ついこの間まで語尾にゲソゲソつけてる娘が近くにいたのよ?嫌でも喋り方が分かるわよ』

優花里「あっ、いえ、そこではなく『語尾をつけること』事態に対してなんですが__」

エリカ『っ・・・・。試合中に余計な会話は必要ないわ!』

 

無理やり無線を切り上げるエリカだった。

と__八九式の走行音が近づいてきた。

 

妙子 『こちらアヒル、間もなく目標地点へ合流します!だけどごめんなさい、二両ついてきちゃいました!』

エリカ『一両だろうと二両だろうと関係ないクラ。どちらもここで片付けるでクラよ!』

みほ 「砲撃、準備してくださいクラ!」

優花里「装填は完了しております!」

華  「いつでもどうぞ」

 

照準を合わせるⅣ号とティーガーⅡ。

やがて八九式が全速力で交差点を走り抜ける。

固唾をのんで追撃する車両を迎え撃つ構えの二両。

そして__

 

ギャギイイイイイ!

 

追撃してきたであろうパーシング二両がお互い背を預けるようにドリフト、それぞれの砲口がⅣ号とティーガーⅡを捉えていた。

 

麻子 「読まれていたぞ!」

エリカ『構わないわ、撃ちなさいでクラ!』

 

バアン!

ドオン!

ドゴオン!

 

かくして、長谷交差点は瞬時にして轟音と砲煙、爆炎に包まれるのであった。

 

イカ娘「おお、派手にやってるでゲソ」

 

双眼鏡を覗くイカ娘が声を上げる。

 

栄子 「派手にやってるなあ。まあ、できるだけ大げさにしてくれって言われてるもんな」

千鶴 「見慣れた町中で戦車戦っていうのも、何だか新鮮ね」

たける「すごいすごい!どんどん煙が上がっていくよ!」

 

イカ娘と相沢家一行は現在試合を見守るべく観客席__にはおらず、聖グロリアーナ学院学園艦の艦橋から町を見渡していた。

さすがグロリアーナというべきか、艦橋は相当な高度とかなりの広さを誇り、戦場となっている由比ヶ浜市が一望できる一大パノラマと化している。

 

ダー 「あら、みほさんの作戦を逆手に取るだなんて」

栄子 「向こうも西住さんたちを認めているだろうから・・・・対策は数多く講じてるんじゃないですかね」

ダー 「こう見てみると・・・・その場に居合わせられないのが歯がゆく感じますわね」

 

そう言いつつも試合鑑賞のほうも楽しんでいるようで、優雅に紅茶に口をつける。

 

ペコ 「他の皆さんはどこにいらっしゃるんでしょうか」

アッサ「戦車あるところに砲煙あり。目を凝らして御覧なさい」

ペコ 「ううん・・・・」

 

観察眼を鍛えるためと言われ、オレンジペコには双眼鏡は渡されておらず裸眼で必死に戦場を見つめている。

 

千鶴 「あっ、あそこ。西倉鎌駅あたりで動きがあったわ」

ペコ 「えっ?」

 

言われてその方向を見やるが、特に何も見つけられない。

 

ペコ 「あの、申し訳ありません・・・・どのあたりでしょうか」

千鶴 「駅のすぐ近くよ。ほら、今砲煙が上がってる。あれはきっと、攪乱のための空砲ね」

ペコ (全く分からない・・・・)

 

同じ裸眼のはずの千鶴との視力の差に、ある種の戦慄を感じたオレンジペコであった。

その頃、当の西倉鎌駅付近では。

 

アズミ「うーん、うぬぼれじゃなくても実力は伯仲してるつもりだったのに」

ルミ 「さっきから結構強めに攻め立ててるっていうのに、涼しい顔してるわねえあの子」

 

透明帽子を被ったまほのティーガーⅠが、アズミとルミのパーシング相手に一両で翻弄していた。

挟撃されないよう位置取りを行いながら、片方が距離を取ろうとすれば詰め寄り、それをフォローしようとすれば速やかに距離を取る。

そして不用意に仕掛けようとすれば、背後に構える小梅のパンターがそれを阻害する。

 

ルミ 「だけど、負けるつもりは毛頭ないわ」

アズミ「でも・・・・ここで勝つと怒られちゃうのよねえ」

 

試合中でありながらも肩の力を抜いた表情で立ちまわる二人とまほ。

 

まほ 「さすがは大学選抜をしてバミューダトリオと言われただけはあるクラ。この場に一人欠けていてもそのコンビネーションは目を見張るものがあるクラ」

 

帽子と語尾以外はいつも通りのまほが冷静に分析する。

そんあまほを見て、アズミがふふっと笑みを浮かべる。

 

ルミ 「どうしたのよ、いきなり」

アズミ「ううん。まほちゃんみたいな真面目な子でも、ちゃんとこういう決まりごとに従ってくれるんだなって思ったら何だかかわいく思えてきて」

ルミ 「試合中に何考えてるの」

まほ 「ならいくらでも油断してくれていいクラ。そうしてくれたほうが突破しやすくて助かるクラ」

アズミ「あらごめんなさい、さすがにそういう訳にはいかないの。オトナの事情ってやつ?」

ルミ 「あたしたちもまだ学生でしょ」

 

バアン!

 

会話をぶった切るように不意打ちの砲撃を放つが、それも読んでいたまほはひらりとかわす。

 

ルミ 「ああもう、いい勘してるわね!」

アズミ「ほんと、やってて楽しくなってくる相手だわ。この間の勝負ではやりあえなかったから、今のうちに思いっきりやりあいたいわ」

 

と、そこへ無線が入る。

 

メグミ『えーと、こちらメグミ。封鎖線突破されたわよ』

ルミ 「あら、思ったより早いわね」

メグミ『うん、どうやらこっちよりあっちの子たちの方がやる気があるみたいよ』

アズミ「うーん。やっぱりこういうお祭りごとには、若い子たちの方がノリがいいわね」

ルミ 「だからなんでさっきから自分だけオトナ発言意識してんのよ!」

 

と、会話しながらルミとアズミが踵を返す。

 

まほ 「ん?もうここはいいのか」

ルミ 「ええ。もう十分画が撮れただろうし、みんな向こうへ向かい始めてるって」

アズミ「正直、もう少しあったら撃破できるとおもってたんだけど」

まほ 「ふむ・・・・。ならばそれまでお相手しようか」

 

一瞬、まほの纏う雰囲気が変わる。

それに触発されるようにルミとアズミの顔色も変わりかけるが__

 

小梅 「駄目ですよ隊長、予定外の行動をして支障が出たら、家元たちに恥をかかせちゃいますよ」

まほ 「・・・・む、そうだな」

 

小梅に諫められると、まほはいつもの調子に戻る。

それを見てルミたちも表情を緩めた。

二人のパーシングが先行し、それについていく形でティーガーⅠとパンターが進行する。

彼女らが向かう先には、江ノ島へ渡れる唯一の道__弁天橋が見えてきた。

そしてその弁天橋をまさに今渡っているのは__カモさんチームのルノーB1bisを先頭にした大洗女子の小隊。

そのB1bisを盾にするように、ぴったりと背後に三突とM3リー、そしてポルシェティーガが縦列陣形を取っている。

 

そど子「さあこのまま一気に仲見世通りへ突き抜けるクラわよ!」

エル 「ちょっと語尾の使い方が間違ってる気がするクラ」

おりょ「うむ、そこは『突き抜けるクラ!』ぜよ」

左衛門「いや、きっと彼女風に言うならば『突き抜けるのでクラ!』ではないか?」

カエ 「それだ!」

 

透明帽子を被ったそど子に、透明帽子を被ったエルヴィンとカバさんチームのメンバーが進言する。

 

優希 「ねえ梓~♪」

 

車内から優希が透明帽子を被った梓にイタズラっぽい顔で呼びかける。

 

梓  「え?何?どうかしたの?」

優希 「あ~、梓ダメダメ~♪車長は喋るとき、語尾に『クラ』ってつけないと~♪」

あや 「そうそう。きまりなんだからちゃんと守らないと!」

あゆみ「はい、というわけでやり直し!」

梓  「えええっ!?うう・・・・、ど、どうしたで、クラ・・・・?」

 

梓が頬を赤くしながら小さい声で言い直す。

 

優希 「え~?なになに、きこえな~い♪」

梓  「ええっ!?ちゃ、ちゃんと聞こえてたでしょ!?」

あや 「ねえ桂利奈、今の聞こえた?」

桂利奈「え?聞こえてないよー?」

あゆみ「紗季は?」

紗季 「・・・・」

あや 「ほら、桂利奈も紗季も聞こえなかったって。ハイやり直し!」

梓  「うう、うううううう!ど、どうしたのでクラー!」

優希 「なんでもな~い♪」

 

意を決して大声を上げるが軽くあしらわれる梓。

 

梓  「もう、いい加減にしてよ!こうなったらとっととこんな試合終わらせるんだから!」

優希 「梓~?」

梓  「うううううううう!とっとと終わらせるクラー!」

 

そんな感じで何ごともなく橋を渡り切り、坂道になっている江ノ島の仲見世通りへとたどり着く。

入り口に構える鳥居を潜り抜け、次々に坂道へ進行していく。

が__

 

ナカ 「あっ、こりゃまずい。ストップストーーープ!」

 

気が付いたナカジマが停止指示を送るが、急停車が間に合わなかったポルシェティーガーはそのままの勢いで鳥居に進行。

そして__

 

メギョッ!

 

わずかに幅がたらず、履帯が鳥居に直撃してしまった。

 

ツチヤ「あちゃー、やっちゃったー」

ホシノ「こりゃ怒られちゃうかな」

ツチヤ「あとでみんなで謝りに行こう」

 

などと話していると__

 

ピシッ、バキキキキ

 

ぶつけられた鳥居の根元に亀裂が走り始め__

 

グラッ__

 

そのままポルシェティーガーに向かって倒れ掛かって来た。

 

ナカ 「わっとっと!」

 

慌てて車内に逃げ込むナカジマ。

直後、ガッシイイイン!と大きな音を立て、鳥居がポルシェティーガーにのしかかってしまった。

そんなことになっているのも気づかず、B1bisら三両はそのまま坂道を突っ走る。

時々軒先を削りながらも坂道を駆け上がる三両。

と、その進行を妨げるべく二両のチャーフィーが店の陰から姿を現し、道を塞ぐように車体を乗り出し砲撃を浴びせ始める。

 

バアン!

ドオン!

 

が、B1bisの強固な正面装甲を信じるそど子たちの足を止めることはできない。

B1bisは勢いを殺すことなくそのままの勢いで駆け上がりチャーフィーに迫る。

 

そど子「決めるクラわよ!ウルトラ風紀クラーッシュ!」

 

ガッシャアアン!

 

B1bisは全速力でチャーフィー二両にぶつかっていき、強引に押し通そうとする。

 

キュイイイイ!

 

チャーフィーも抜けさせるものかと履帯を回すが、突撃角度が深いのもあり__

 

グワッシャアアン!

 

やがて強引に二両を弾き飛ばし道を確保する。

 

そど子「見なさいクラ!これが秩序を守る風紀の力クラよ!」

ゴモヨ「なんだか、試合を重ねるたびに風紀に関係なくなってきてるよね」

パゾ美「それどころか、風紀に反してるような気もするけど」

ゴモヨ「・・・・黙ってようか。そど子楽しそうだし」

パゾ美「そうだね」

 

かくして進撃を続ける三両は仲見世通りの終着点、瑞心門へとたどり着く。

そのまま続いている階段を駆け上がり、門を抜け、上に続く階段も器用に登っていくB1bisとM3。

しかし、車体が長い三突にはそれが厳しい。

 

おりょ「この階段じゃ狭すぎるぜよ」

左衛門「ならば別の道を見つけるまで」

エル 「どこかいいのはないか?」

カエ 「あっ、あれなんてどうだ!」

 

そして__

 

エル 「行け行け行くでクラー!」

 

三突は脇に備え付けられていたエスカレーター__『江の島エスカー』の上に強引にのし上げ登り始めた。

やがて登り切った先の神社の境内には、先に到着していたB1bisとM3が待っていた。

 

エル 「む?他のみんなは?」

そど子「今連絡があったんだけど、レオポンは入り口でトラブルが発生。そのせいでまだ坂を登れず、後続の西住隊長たちもまだ通れないそうクラ」

梓  「じゃあどうしましょう?私たちだけで頂上に行くわけにもいかないクラですよね?」

そど子「そうだけど、頂上への道は限られてるクラ。絶対に敵が待ち構えてるはずクラよ」

おりょ「ならば先に露払いぜよ」

左衛門「うむ、異論はない!」

 

かくして先行した三両は、山頂への道に待ち伏せるチャーフィーらと交戦を始めた。

そんな光景を高所__江の島シーキャンドル(展望灯台)から見下ろす二人の人影がいた。

 

千代 「あら、もうここまで来られたのね。予想よりはるかに早かったわ」

しほ 「そうかしら。これでも予定よりだいぶ遅れている方だけれど」

 

展望台から楽しそうに眺めている千代と__透明帽をかぶっているしほである。

 

千代 「あらいけませんわよ家元。きちんと決まり通りの口調でいてくださらないと」

しほ 「例の口調は撮影に映る車長にだけ必要なのでしょう。私たちの会話には必要ないはずよ。__それに、こんな帽子を被っているだけ、融通したと思ってほしいのだけれど」

千代 「あら、とても似合ってますわよ。普段より何倍も親しみがわきますわ」

しほ 「それは上々」

 

千代のお世辞とも嫌味ともとれる言葉を聞き流し、手元にある冊子を持ち上げる。

そこには『江の島観光PV撮影企画書:激突!戦車女子vsクラゲ少女軍団!』と書かれている脚本だった。

 

しほ 「倉鎌のPRのため、戦車道と江ノ島の情景を混ぜたプロモーションを撮る__。その考えは否定しないし、いい着眼点だと思うわ。だけれど__」

 

しほは被っている透明帽子をいじる。

 

しほ 「これ、本当に被る必要があったのかしら」

千代 「必須アイテムですわ。それを被ることにより、人間側と人間界へ攻め入る海の勢力__いわゆる『クラゲ少女』側との区別がつくのですから」

しほ 「そこが最大の疑問点よ」

千代 「何がでしょう?」

しほ 「・・・・どうして島田流の貴女たちが『人間側』で、私たち西住流の者が『クラゲ側』をしなければいけないのかしら」

千代 「あら、ちゃんとそこは公平にくじ引きで決めたではありませんか。それならば不公平はない、と仰ったのは家元だったのでは」

しほ 「・・・・それはほかに代案が無かったからよ。くじ引きの結果で決めるなんてそんな運任せな__」

千代 「『戦車道にまぐれなし、あるのは実力のみ』。そうおっしゃったのは貴女だったとお聞きしていますが」

 

うっ、と、そのまましほは黙り込んでしまう。

そんなしほを見て満足そうな千代が目線を落とすと、山頂広場に堂々と構えるセンチュリオンと、そこに微動だにせず待機する愛里寿の姿があった。

ぱちん、と懐中時計を開く愛里寿。

ボコのデザインの可愛らしい懐中時計を見た愛里寿は、「三十分経過」とつぶやく。

と__そこへ近づいてくる戦車の音が聞こえてきた。

 

愛里寿「来た」

 

そこには、Ⅳ号を先頭にしてティーガーⅠやティーガーⅡ、八九式に三突、パンターなど大洗や黒森峰の戦車が勢ぞろいだった。一部見当たらないのもいるが、ほぼ損壊もなく万全な状態で愛里寿のもとへたどり着いている。

凛とした表情で迎える愛里寿。

しばらくの間、沈黙が両者の間を包む。

__ちょっと長すぎる間が発生する。

 

梓  (・・・・何だろ、この間)

 

さらにしばらく間が開くと__

 

エリカ「ちょっとアンタ。セリフセリフ」

 

見るに見かねたエリカがみほをせかす。

 

みほ 「ふぇっ!?・・・・あっ!」

 

はっとした表情でわたわたしながら、だが必死に凛とした顔で正面を向くみほ。

 

みほ 「う、海を荒らす人間どもに制裁を与えに来たでクラ!これより地上は、我ら、__えっと__クラゲ少女が支配するでゲソ!__じゃない、クラ!」

 

噛み噛みなみほに、はあ、とため息をつくエリカ。

 

愛里寿「やれるものならやってみなさい!私たち人類は決してあなた達屈したりはしない!」

 

その言葉に合わせ、いたるところに隠れていたパーシングやチャーフィーが姿を現し、みほたちを囲む。

そして__指し示したわけでもなく、双方の隊長は高く手を挙げ__勢いよく手を振り下ろした。

 

愛里寿「攻撃開始!」

みほ 「パンツァー・フォー!」

???「カーーーーーーーット!」

 

突如江の島シーキャンドルから一人の女性が声を張り上げ歩み寄って来た。

その声にぴたっと動きが止まる全員。

その女性はサングラスをかけ、メガホンを片手に持っている。

そしてツカツカと早足でみほと愛里寿の間に立つ。

 

みほ 「あ、あの・・・・」

愛里寿「どうでしたか・・・・?」

 

恐る恐る尋ねる二人に、女性は両手を上げて天を仰ぎ__

 

監督 「スバラシッ!!!!」

 

笑顔で絶叫した。

そのままⅣ号に駆け寄ったかと思うと、ひらりと飛び乗り、あっという間にみほの目の前に辿り着くと、みほの手を取った。

 

監督 「素晴らしい演技だった!戦車道の臨場感、迫力、真摯な姿勢、全部が本物に感じられた!これは、この空気は、決して俳優では出せない本物の空気だよ!」

みほ 「あ、__ありがとうございます」

 

女性の勢いに引き気味だったみほだったが、褒められているとわかり、ようやく表情を崩した。

そしてⅣ号からひらりと降りると、すぐさまセンチュリオンに飛び乗り愛里寿の手を取る。

 

監督 「君たちのおかげでこのプロモーションは何よりも価値のある歴史的記録映像になるだろう!これで江の島は、由比ヶ浜は、倉鎌は更なる高みへ!」

 

それからも監督は一人ひとり戦車に赴いて感想を述べて回り、みんなの表情をやわらげて回っていた。

 

ダー 「ええ。ええ__そう、わかったわ」

 

電話を受けていたダージリンが受話器を置く。

 

ダー 「今連絡がありました。みほさんたちの撮影は本日の日程をすべて終えられたそうですわ」

栄子 「おっ、もう終わったんだ」

ダー 「ええ。全て一発OKだったそうですわ。監督もご満足だったそうで」

千鶴 「それはよかったわ。みほちゃんたち頑張ってたものね」

イカ娘「・・・・」

 

イカ娘の方を見ると、静かにうつむいたまま微動だにしない。

 

ペコ 「イカ娘さん、どうなされたのでしょう」

アッサ「先ほどの戦闘を見てから、黙りこくってしまっているわね」

ペコ 「・・・・もしや、もう夏の時のような戦車道への熱は残っていられないのでしょうか・・・・」

 

心配そうにつぶやくオレンジペコ。

 

ダー 「そうかしら?」

ペコ 「え?」

イカ娘「や・・・・」

ペコ 「や?」

イカ娘「やっぱり戦車道はすごいでゲソ!感動したでゲソ!」

 

顔を上げたイカ娘は、感動で目をキラキラさせている。

 

イカ娘「見たでゲソか栄子!みほたちが町でやっていた戦いの数々!まだあんなに私の知らない動き方があっただなんて、驚きじゃなイカ!」

栄子 「そうだなあ。夏に出会った時より、西住さんたちまた腕を上げたんじゃないのか?」

 

イカ娘はウズウズと、何かを我慢しているように体を震わせると__

ダッ!と、どこかへ走り去ろうとする。

 

ペコ 「あっ!?イカ娘さん、どちらへ?!」

イカ娘「こうしちゃいられないでゲソ!いてもたってもいられないでゲソ!」

 

そのまま走り去っていってしまった。

 

栄子 「やれやれ・・・・一人で突っ走ってどうするつもり何だか」

千鶴 「ごめんなさい、イカ娘ちゃんと追いかけないと」

アッサ「それがいいですね。残念ですが、予定していたお茶会は次回のお楽しみといたしましょう」

千鶴 「ありがとう。あた是非呼んでちょうだい」

 

そう言い残し、千鶴たちもイカ娘を追い去っていった。

そんなあわただしい相沢家一同を、ダージリンは静かに見送っていた。

 

ペコ 「ダージリン様、お気を落とさず。すぐまたイカ娘さんがたとお茶をできる機会が__」

 

ダージリンの心境を考えフォローしようとするが、どうにもそんな様子は見受けられない。

 

アッサ「・・・・ダージリン。貴女、これを見越して彼女を呼んだのでしょう?」

ダー 「ふふ、何のことかしら」

 

ただ満足そうな笑みを浮かべ、ダージリンは紅茶を自分で淹れ始めた。

 

イカ娘「栄子!もっと急ぐでゲソ!」

栄子 「おいコラ!待てってのイカ娘!」

たける「イカ姉ちゃん、待ってー!」

千鶴 「あらら、うふふ」

 

港に降り、由比ヶ浜海岸を駆けるイカ娘。

流れる汗もきにならず、とある場所へ一直線。

 

イカ娘「ただいまでゲソ!」

 

その場所は、相沢家だった。

 

チョビ「ん!?あれ、イカ娘?帰って来たのか」

イカ娘「うむ!」

 

相沢家の玄関先で掃除をしていたアンチョビがイカ娘に気が付く。

玄関できょろきょろ見回し何かを探すイカ娘。

 

イカ娘「アンチョビよ、アレはどこでゲソ!?」

チョビ「アレ?」

イカ娘「アレはアレでゲソ!いつも玄関に置いていたじゃなイカ!」

チョビ「んー・・・・?どれのことだ?」

ペパ 「ドゥーチェ、どうかしたんですか?」

チョビ「いや、イカ娘がアレはどこだアレはどこだって繰り返しててな」

ペパ 「ああ、アレのことっすね」

イカ娘「おお、流石はペパロニでゲソ!よくわかってるじゃなイカ!」

ペパ 「ほい。今日は久しぶりに日差し強いもんな!」

 

そう言いながら差し出して来たのは麦わら帽子。

 

イカ娘「違うでゲソ!」

カル 「あっ、もしかしてカギのことでしょうか?」

イカ娘「!それでゲソ!」

カル 「それでしたら、パネトーネたちが必要だからって持っていきましたよ」

千鶴 「そういえば、今日洗ってもらえるようお願いしていたわね」

イカ娘「ということはあそこの駐車場でゲソね!」

 

即座にイカ娘は踵を返し走り出す。

門の所でやっと追いついた栄子たちとすれ違う。

 

栄子 「うおい!今度はどこ行くんだ!」

イカ娘「駐車場でゲソ!ついてくるでゲソ!」

 

飛び出すイカ娘を再度追う栄子。

そんな二人を見送る千鶴。

 

千鶴 「玄関先までお掃除してくれたのね。毎日お手伝いありがとう、アンチョビちゃん」

チョビ「いえいえいえ!予定よりもはるかに長く、しかもチーム全員がお世話になってるんですし、これくらいは!」

カル 「それに、私たちがアンツィオに即時戻らなくても支障がないように手配してくださったのは千鶴さんですし」

ペパ 「ぶっちゃけ、学校の授業より千鶴さんに教えてもらった方が遥かに面白いんだよなあ。いっそアンツィオ戻らないでみんなここで暮らさないっすか?」

チョビ「アホー!お前はどれだけ千鶴さんの好意によりかかるつもりだ!次戻るチャンスが来たら絶対に戻るからな!」

カル 「遅くとも今週中にアンツィオの学園艦が寄港するそうです。それが着き次第、今度こそおいとまいたしますね」

千鶴 「あらそう?私としてはもっといてくれてもいいのだけれど」

ペパ 「ほらー!千鶴さんも言ってくれてるんだし、お言葉に甘えましょうよ!」

チョビ「ペパロニ・・・・お前ってやつは・・・・」

ペパ 「ちょっ、姐さん、それ本気で憐れんでる目っすよ!?」

たける「ねえねえカルパッチョ姉ちゃん!さっき朝言ってたアレやろうよ!」

カル 「うん、八段重ねラザニア作りのことよね。材料は買ってあるから、手を洗ったら始めましょうか」

たける「わーい!」

 

嬉しそうに洗面所へ駆けていくたける。

そんな光景を、千鶴は嬉しそうに見ていた。

 

イカ娘「パネトーネ!アマレット!ジェラート!」

 

イカ娘たちが駆けつけた駐車場では、パネトーネをはじめとしたアンツィオの戦車道チームが総出で何かを洗っている。

寄ってたかって洗われいるそれは、大きな泡柱になっていてそこに何があるかよくわからない。

 

パネ 「おっ、トータノ(スルメイカ)!」

アマ 「ん?カラマーロ(ヤリイカ)来たの?」

ジェラ「セッピア(コウイカ)、用事があるって言ってなかった?」

 

呼び名が定まっていないため好きに呼ぶ面々。

 

イカ娘「うむ!こやつに用があって来たのでゲソ!」

アマ 「そっか。まあ、おおよそ洗い終わってるからね。あとは流すだけだよ」

ジェラ「ほいホース」

イカ娘「うむ!」

 

ホースを受け取ったイカ娘が勢いよく水を泡の塊に向けて放水する。

他の角度からも放水が行われ__中にあるものが姿を現す。

 

栄子 「おお、ピッカピカじゃん」

 

そこに現れたのは、イカ娘たちの愛機__チャーチルだった。

念入りに洗われたのか、汚れは一切見当たらず履帯までも光っていた。

 

イカ娘「おお!カッコよくなったじゃなイカ!」

 

大喜びでチャーチルに抱き着くイカ娘。

 

ジェラ「汚れこそ多少はあったけど、損傷や破損してる部位はほぼなかったみたいだから、洗うのも楽だったよ」

アマ 「海辺の町なのに錆もなし!毎日メンテやってる証拠だね。アタイらもドゥーチェによく『戦車の手入れはこまめにやれー!』って言われてたもんなあ」

パネ 「今はこっちにはCVも五両しかないもんね。メンテもすぐ終わっちゃってヒマだから、こいつの洗車に気合も入っちゃうわな」

 

いそいそとチャーチルに乗り込むイカ娘。

 

イカ娘「さあ、出発でゲソ!」

 

かくしてイカ娘たちはチャーチルに乗って出発した。

 

イカ娘「さあ、行くでゲソ栄子!」

栄子 「行くってどこへだよ」

イカ娘「決まってるでゲソ!わが戦車道チームの乗組員を迎えに行くのでゲソ!」

 

ピーンポーン

 

渚  「はーい」

 

斉藤家のチャイムが鳴り、渚が玄関を開ける。

と__

 

ニューーッ

 

砲身が玄関に入り込み、渚の目の前に迫る。

ドアを開けたら目の前に砲口。

 

イカ娘「ばあーっ!」

 

常人であれば驚きおののくものだが__

 

渚  「__何してるんですか」

イカ娘「あれ?」

 

渚は冷静に、呆れた口調で諫めるように口を開く。

 

イカ娘「渚、どうして驚かないのでゲソ!」

渚  「この夏の間、どれだけこの子に乗り込んだと思ってるんですか。今更眼前に迫ったって驚きようがありませんよ」

イカ娘「ぐぬぬ、しばらく乗ってなかったら驚くと追ってたのに!」

渚  「__それより、『砲口を人に向けちゃいけない』って千鶴さんに言われてましたよね?これは千鶴さんに報告しなければいけませんよ?」

イカ娘「あわわわわ、ごごごごごめんなさいでゲソー!」

 

驚かすつもりで完璧に主導権を奪われてしまうのだった。

 

渚  「それにしても、突然どうしたんですか?また戦車道をするんですか?」

栄子 「いや、今日西住さんたちがPV撮影のために戦車道の試合をしたじゃんか。それに触発されて、また戦車道熱が上がってきたんだよこいつ」

渚  「ああ・・・・そういう訳だったんですね」

栄子 「夏が終わってから、めっきり乗る機会が減ってたもんなあ」

渚  「私たちも学校が始まりましたし・・・・」

栄子 「それに__」

イカ娘「大切なチームメンバーを一人、失ってしまったでゲソからね・・・・」

 

しんみりする一同。

 

渚  「__って、まるで死んじゃったみたいになってるじゃないですか!アメリカに帰っただけですよね、シンディーさん」

栄子 「夏休みの間だけだったし、本来の活動の場はアメリカだったろうからなあ。こればっかりは私たちの都合でどうこうするもんじゃないし」

イカ娘「砲手がいなくなっちゃって、試合に参加できなくなっちゃったでゲソからね」

渚  「でも・・・・これから再開するなら、どうしましょう?砲手の人」

栄子 「うーん、また誰か見つけるか、兼任するしかないよなあ」

イカ娘「とりあえず今日は久しぶりに乗ったのだから、適当に回ってみるでゲソ」

栄子 「そうだな、色々忘れてるかもしれないし」

 

そのまま由比ヶ浜市内を漫遊するチャーチル。

やがて長谷中学校の前を通りがかると、校門にはランニングから帰って来た清美がいた。

 

清美 「あれ!?イカちゃん!」

 

チャーチルに乗ったイカ娘を見てびっくりする清美。

 

清美 「イカちゃんが戦車に乗ってるの久しぶりだね」

イカ娘「うむ!そろそろ乗らないと栄子が動かし方を忘れちゃいそうなのでゲソ」

栄子 「私をダシにするな!お前がやりたいって言いだしたんだろ!」

清美 「そうなんだ。あっ、ちょっと待ってて!」

 

そう言って校舎裏へ駆けていったかと思うと、清美はオイに乗って戻って来た。

 

清美 「私たちももう少ししたら訓練するところだったから、一緒に行こ!」

イカ娘「さすが清美でゲソ!」

 

オイと連れ立って町を進む。

 

渚  「次はどこに行くんですか?」

イカ娘「次と来たら決まってるでゲソ。頼れる最後の仲間のところでゲソ!」

 

そしてやって来たのは隣町の常田家。

 

ギュラギュラギュラ

メキメキメキ

 

南風 「おい、庭に戦車で入ってくるな」

 

渚の時と同じように驚かせようと戦車で乗り込んだが、そこにいたのは南風の店長だけだった。

 

イカ娘「南風のおっさんよ、鮎美がどこにいるか知らなイカ?」

南風 「ん?鮎美なら友人が来ていると言って出かけていったぞ」

栄子 「鮎美ちゃんの友人?」

南風 「てっきり君たちだと思っていたんだが」

渚  「私たち以外の、鮎美ちゃんの友人・・・・、とくれば、あの人でしょうか」

イカ娘「なら、ちょうどいいじゃなイカ!」

 

踵を返すイカ娘たち。

その道中の会話。

 

イカ娘「この間メールが来たのでゲソが、カチューシャたちは今日本海にいるそうでゲソ。ニーナとアリーナが寒い寒いとうるさいってぼやいてたでゲソ」

清美 「もう冬も近いもんね。イカちゃんも気をつけないとカゼ引いちゃうよ?」

イカ娘「ふっふっふ、私はそんなヤワな鍛え方してないでゲソ。例え真冬になろうともこの一張羅さえあれば__ふえっくし!」

 

言ってる最中にくしゃみするイカ娘に苦笑いする清美。

 

清美 「そういえばイカちゃん、あれから西さんたちから連絡はあったの?」

イカ娘「む?そういえばまだ来ていないでゲソ。夏の終わりにVR空間の中で詳しい人に話を聞くとか言っていたでゲソが・・・・あれからだいぶ経つでゲソね」

清美 「期待していたお話を聞けなかったのかな?」

イカ娘「三バカたちもいなくなって今の研究所はもぬけの殻でゲソ。今ならあの戦車を持ち出すのも楽なのでゲソが」

栄子 「とは言ってもあれは西さんたちの学校の問題だ。居合わせただけの私たちがどーこー口出しする義務はないだろ」

イカ娘「そうかもしれないでゲソが・・・・気になるのでゲソ」

栄子 「だったらなおさら邪魔なんてせずに西さんたちを信じて待つこったな」

イカ娘「むう」

 

などと話していると、目的の場所が見えてきた。

由比ヶ浜から江ノ島へ延びる弁天橋。

そのふもとでは、鮎美が誰かを待つようにして立っていた。

 

イカ娘「おっ、いたでゲソ。おーい、鮎美ー!」

鮎美 「えっ、イカさん!?」

 

思わぬ登場に驚く鮎美。

 

イカ娘「やはりここだったのでゲソね」

栄子 「鮎美ちゃんが友達に会いに行くって聞いたからさ。きっとここだと思ってたよ」

 

考えがばれていたととが恥ずかしかったのか、鮎美は顔を赤らめる。

 

イカ娘「ともかく乗るでゲソ。私たちも目的はおおよそ同じようなものでゲソ」

 

おずおずと乗り込み、通信手の席につく鮎美。

 

イカ娘「これで全員でゲソね」

栄子 「そうだな」

 

と、江ノ島の方からぞろぞろと戦車団が列をなしてこちらへ向かってきた。

先頭にいるのはもちろん__

 

イカ娘「おおーい、みほーー!」

 

イカ娘が笑顔で声を上げると、先頭にいた人物がそれに気が付いた。

 

みほ 「イカ娘ちゃん!」

 

みほも笑顔で手を振り返す。

 

鮎美 「紗季さーん!」

紗季 「・・・・!(フリフリ)」

 

鮎美が呼ぶと、紗季も顔を覗かせて精いっぱい手を振り返す。

 

あや 「紗季が手を!」

桂利奈「ほんと、鮎美ちゃんにはすごい積極的だよねー、紗季ちゃん」

 

そして、その日の夕方。

 

監督 「えー、それじゃ本日の撮影も無事に終わりましたことを祝って!」

一同 「かんぱーい!」

 

大洗、黒森峰、大学選抜、うみの家れもんのメンバー、そして監督ら撮影スタッフ全員が集結し、相沢家でささやかながら慰労会が開かれた。

さすがに全員家の中は難しいので、庭にバーベキューを用意したりして何とか全員が位置につけている。

かなりの人数なので用意も大変そうに見えるが、お世話ができて嬉しそうな千鶴をはじめ、アンチョビらアンツィオ生たちも率先して手伝っているので無理なくことが進んでいる。

 

ルミ 「いいのかしら・・・・撮影はまだ初日だし、まだまだ撮らなきゃいけないシーンだって多いはずなのにこんな打ち上げみたいなことをして。仮にも戦車道に関わる催しなんだし、常に気を引き締めてもらわないと!__って思ってるでしょ」

エリカ「いきなり絡んでくるかと思ったら、何言い出してるの。__公私の切り替えくらいきちんとできるわよ」

アズミ「あら!いつもの逸見さんだと思ったら大人な反応!」

エリカ「アンタたちからかってるでしょう!」

まほ 「エリカの言うとおりだ。休める時には休んでこそ、次に十分な成果が得られるものだ。四六時中気を張っていてはいざという時動けなくなるぞ」

メグミ「なんか・・・・変わったわね、彼女」

 

ジュースの入ったカップを一気に飲み干すエリカ。

 

イカ娘「みほよ、今日はお疲れ様でゲソ」

 

みほのジュースの入ったカップを手渡す。

 

みほ 「うん、ありがとうイカちゃん__うん、おいしい!」

 

くいっと一口飲み、笑みが浮かぶ。

 

イカ娘「今日のみほはずっと楽しそうだったでゲソ」

みほ 「えっ?そう見えたかな?」

イカ娘「うむ。もちろん戦車道には真面目だったでゲソが・・・・なんというか、あの状況が嬉しそうに見えたでゲソ」

みほ 「そっか・・・・楽しそうに見えたんだ。よかった」

イカ娘「む?」

みほ 「イカ娘ちゃん、私の高校一年生の頃の話、もう聞いてるでしょ?」

イカ娘「ああ・・・・うむ、ある程度は知ってるでゲソ」

みほ 「あの出来事から黒森峰から離れて、戦車道からも逃げて、でも戦車道をやることになって、決勝で黒森峰に勝って。ちょっと前までいたところを裏切っちゃったみたいな気持ちも、もちろんない訳じゃなかった」

 

ちらり、とまほやエリカを見る。

 

みほ 「でも試合が終わった後、お姉ちゃんやエリカさんが私の戦車道を認めてくれて。そのあとの愛里寿ちゃんとの戦いでも駆けつけてくれて、一緒に戦って。そして今日も同じチームで同じ格好をして撮影をして。やっと、何だか心のつかえがとれた気がする」

イカ娘「みほは、黒森峰に戻りたいと思ったことはないのでゲソ?」

みほ 「・・・・前までは考えたこともなかったけど、今はちょっとだけ考えたりもするよ。もし私があの時結果から逃げなかったら、みんなと一緒にいることを望んでいたら、私は今も黒森峰で笑えていたのかなって」

 

くいっと残りのジュースをほおばる。

 

みほ 「でも思うだけ。今は私は大洗女子の生徒だし、今の仲間は沙織さんたちだから」

イカ娘「うむ、強い意志を感じるでゲソ。それぐらいはっきり言えるなら、もう心配はないんじゃなイカ?」

 

その言葉にみほはにっこり笑顔を浮かべた。

 

イカ娘「愛里寿もおつかれでゲソ」

愛里寿「うん、ありがとう。今回はあまり撮影の出番なかったけれど」

イカ娘「決着は次の撮影で撮るらしいでゲソね。それで、どっちが勝つ予定なのでゲソ?」

愛里寿「それが決まってないって」

渚  「決まってない?」

愛里寿「あくまで自然に、撮影関係なしのありのままの戦車道の試合を撮りたいって監督さんが言ってて、どちらが勝つとかどう戦うとか、そういう台本はないの」

栄子 「え?それじゃあ、あれは段取りとかじゃなくてマジで試合してたのか」

愛里寿「もちろん隊長格がすぐにやられちゃったり、変な場所での決着は避けてほしいって言われてたから、一時戦闘を取りやめたり特定の場所を目指してたりはしたけれど」

渚  「じゃあ、決まりごとはあくまで江ノ島で決着、以外は自由だったんですね」

愛里寿「うん」

栄子 「まあ、そうだよなあ。リアリティが欲しいっていうんなら、ガチで試合しなきゃそんな画は撮れないもんな」

沙織 「やっほーイカちゃん。楽しんでる?」

 

と、会話している所に沙織たちがやってきた。

 

イカ娘「うむ。沙織も相変わらずで安心したでゲソ」

沙織 「あはは、ありがとう。最近イカちゃん戦車乗れてないって聞いたからちょっと気になってたんだ」

イカ娘「仕方ないでゲソ。砲手してたシンディーがアメリカに帰らなきゃいけなくなったのでゲソからね」

華  「残念ですが・・・・シンディーさんにも事情があるのでしょうね」

栄子 (多分宇宙人見つけられなかったから呼び戻されたとかだろうけど)

麻子 「アメリカと言えば・・・・今サンダースもアメリカに行っているらしいな」

優花里「はい!定期的にアメリカ本土の空気と文化にじかに触れるため、太平洋を渡って短期的な留学を学園艦ごとされているとかで!」

栄子 「おお・・・・さすがサンダース、規模が違う」

みほ 「もしかしたら、向こうでシンディーさんと鉢合わせてるかも」

イカ娘「十分にありそうでゲソ」

監督 「やあやあ皆さん、本日は誠にお疲れさまでした!」

 

ことさら陽気に監督が声を上げる。

 

みほ 「あっ、監督さん!今日はおつかれさまでした!」

愛里寿「お疲れさまでした」

 

監督 「やあお二人とも、今日はご協力ありがとう。おかげで文句なしのいい画が撮れたよ!」

愛里寿「それはなによりです」

みほ 「完成、楽しみにしています」

監督 「うんうん。完成したらみんなに出来を見てもらうから、楽しみにしてて!」

親しみやすく気さくな監督は、みほにとっても話しやすい人物のようだった。

 

監督 「そして相沢千鶴さん。本日は御庭まで貸していただいて上にスタッフたちの労をねぎらっていただき、誠に感謝いたします」

 

深々と首を垂れる。

 

千鶴 「いえいえ。監督さんには倉鎌のいい所をいっぱい紹介してもらいたいですし、地元民としてはこれくらいの用意は当然ですわ」

 

千鶴も腰低く、笑顔で返す。

 

みほ 「それにしても驚きました。千鶴さんに今日の打ち上げ会を催してもらえると聞いて、てっきりれもんでするものだとばかり」

麻子 「それは私も思っていた。シーズンオフでお客もいないだろうから貸し切り状態だと思っていたら」

華  「まさか、お店が丸ごと無くなっていたなんて。とても驚きました」

栄子 「まあ、そうだろうなあ」

沙織 「何かあったんですか?」

栄子 「それがかくかくしかじか__てなわけで、イカ娘が店を跡形もなくぶっ壊しちまったってわけ」

愛里寿「相変わらず後先考えないのね」

監督 「イカ娘ちゃん、かい?」

みほ 「あっ、はい。私たちが夏にここへ来た時友達になった子で、相沢家の人たちと一緒に暮らしているんですよ」

栄子 「ちょうどいいからあいつも監督さんに挨拶させるか。おーい、イカ娘ー」

イカ娘「?何でゲソか栄子?」

 

栄子に呼ばれたイカ娘が監督の前に歩み出る。

ちょうどウサギさんチームの面々にジュースを配っていたので、触手をフルに使って瓶やコップを掴んだ触手がウネウネとひしめいていた。

 

監督 「!!」

 

一目見た瞬間固まる監督。

 

麻子 「おや、監督固まってしまったぞ」

栄子 「意外だな、こういうのに耐性あると思ってたんだけど」

 

驚かせてしまったか、と栄子たちがフォローの言葉を考えていると__

 

監督 「キ、キミッ!」

 

顔色を変えた監督がイカ娘に詰め寄る。

 

イカ娘「なな、何でゲソっ!?」

監督 「その風貌、触手、佇まい__信じられん、まるでキミはイカそのものじゃないか!」

みほ 「そのものっていうか・・・・」

栄子 「イカだし」

監督 「沸いてきた・・・・インスピレーションが湧いてきた!人対クラゲ、そこに現れた第三勢力、その名もイカ少女!圧倒的な力により歯が立たない人とクラゲが手を組み、そこから生まれる戦車道の絆__こここ、これだあー!」

 

何やら独り言を言っていた監督が、アイデアが固まったのか大声を上げる。

そしてガシッとイカ娘の両手を握る。

 

イカ娘「ななな、何でゲソか!?」

監督 「キミッ!是非、キミも出演してくれないか!?」

イカ娘「うえっ!?」

 

その日の夜。

ミカ・アキ・ミッコの三人は、どこかの山の中、BT-42の中に寝そべり野宿していた。

 

アキ 「ねえ、何で私たちまだここにいるの?」

ミッコ「おばさまに別れを告げて、やっと学園艦に帰る最中だったっていうのにさー」

 

ぶつくさ言う二人に、ミカは静かにカンテレを弾く。

 

ミカ 「__友人から知らせが入ってね。どうやら嵐が来るようなんだ」

アキ 「あらしー?そんな季節は通り過ぎてるでしょ。天気予報だって当分晴れが続くって言ってたじゃん」

ミッコ「ていうか嵐が来るなら避ければいいのに。なんでわざわざ向かうわけよ」

 

ミカは何も答えず、そのまま寝そべり寝入るのだった。




いよいよはじめることができました、長編・劇場版。
読んでいただける人たちにご納得いただける出来になるよう努力いたしますので、もうしばらくお付き合いをいただけたら幸いです。

話の大本はできているのですが、長編に起こすとなると細部の調整や伏線の解決・矛盾が発生しないように注意を払いながら進める必要があることがよくわかります。
正直やや勝手が違うとまで感じたりもしますが__もちろん完結させるつもりです。

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