~~夢空間~~
つみき『・・・・』
つみきは一人、ふわふわした空間に佇んでいる。
と、そこへ__
伊御 『つみき』
伊御が現れた。
つみきフィルターを通しているので、キラキラ度も50%増し。
つみき『伊御?』
伊御 『つみき。水着、とってもよく似合ってるよ』
つみき『へっ?』
伊御に言われて気が付くと、つみきはピンクのフリルのついた可愛らしい水着を着ていた。
これが一番かわいいと気に入っている、今回持ってきた水着のひとつだ。
つみき『えっ、何で私水着なんて着てて、いや違うの伊御、これは着るつもりで持って来たんじゃ・・・・』
慌てるあまり矛盾した言葉を返すつみき。
水着を隠すように後ろを向こうとするが、伊御に止められる。
伊御 『隠さないで、つみき。可愛いつみきをもっと見せてくれ』
つみき『い、伊御・・・・』
真っ赤になりながらも伊御と見つめあっていると__
伊御 『つみき』
別の場所から伊御の声がした。
つみき『えっ!?』
気が付くと目の前にいた伊御がいなくなっていた。
伊御 『つみき。戦車に乗っている姿、とても素敵だよ』
つみき『ヘッ?』
言われて周囲を見渡すと、いつの間にかつみきは戦車のキューポラで構えていた。
つみき『何で戦車に!?いや違うの伊御、私別に戦車に興味なんて__』
伊御 『謙遜しないで。戦車に乗るつみき、すごく輝いてる。ずっと見ていたい』
伊御の真摯なまなざしに見とれてしまうつみき。
伊御 『つみき。水着姿も可愛いよ』
後ろを振り向くとそこにも伊御がいる。
伊御 『つみき。戦車に乗っている姿も可愛いよ』
前を向きなおしても伊御がいる。
水着姿を褒める伊御と戦車に乗っている姿を褒める伊御にはさまれる。
つみき『えっ、どっちが本当の伊御?ていうかどっちもやりたいって訳じゃ、でも褒めてくれるのはうれしい・・・・そうじゃなくて』
伊御 『つみき』
伊御 『つみき』
伊御 『つみき』
伊御 『つみき』
どんどん湧き出る伊御に周囲を囲まれる。
つみき『にゃ、にゃ、にゃああああああああ!?』
理解不能な状況に絶叫するつみきだった。
~~夢終了~~
つみき「はっ?!」
布団の上で目覚めるつみき。
ゆっくりと上体を起こし、窓の外を見る。
外は快晴。
見覚えのない、歴史を感じる趣のある建物が並んでいる。
部屋の中を見渡すと、同じく覚えのない和室。
つみき(・・・・ここ、どこだっけ)
目覚めきっていない頭でぼんやり考えていると__
正邪 「おっ、つみき起きたか?」
洗面所で顔を洗っていた正邪が顔を覗かせた。
つみき「正邪?・・・・あ、そっか。ここ、江の島だったわね」
そこでようやく、ここがみんなで泊りに来た江の島の旅館であることを思い出したのだった。
正邪 「なあ、どうしたんだ?さっき、難しそうな顔をしながら寝てたぞ?」
つみき「・・・・ちょっと、変な夢見ちゃって」
正邪 「ふーん?」
身支度を終え、部屋を出る。
榊 「おっ、出てきた出てきた」
姫 「おはようございます~」
真宵 「おはようなのじゃよ!」
部屋の外には伊御たちが一緒に朝食を食べに行くため待っていた。
つみき「お、おはよう・・・・」
伊御 「うん、おはよう」
昨日のことや夢の内容を思い出してしまい、伊御を真っすぐ見れないつみきだった。
キクヱ「では皆さん、行きましょうか」
連れ立って朝食がふるまわれる食堂へ向かうのだった。
真宵 「それで、姫っちったら興奮しすぎてなかなか寝付けなくてじゃな__」
姫 「はわわ、それは秘密ですうー!」
榊 「あれ?真宵なんか磯っぽくないか?」
真宵 「ナイトクルージングと言うのもおつなものなのじゃよ・・・・」
伊御 「ナイトクルージング・・・・」
昨晩のアレを見ていた伊御がどう反応したものかと反応に困る。
その流れで、ふとつみきを見るも__
ふみき「__ッ!!」
慌てて視線をそらしてしまうつみきだった。
海の幸いっぱいの朝食を終えた一行。
キクヱ「皆さん、今日の予定はもう立っているのですか?」
ぴくっと反応するつみき。
真宵 「もうバッチリなのじゃよ!二度と来ない今年の夏をエンジョイしきるための、青春計画はもう練ってあるのじゃ!」
キクヱ「そうでしたか~、素敵ですね。そうそう、同じ夏は二度と来ないんですよ。そう、どんなに望んでも、どんなに願っても、同じ夏は二度と・・・・うううううぅぅ・・・・しくしく」
榊 (まずい!)
榊 「あっ!あー、俺たち、実は先生に教えてほしいことがあったんだけど~!」
キクヱ「うぅぅ・・・・ぇ?」
真宵 「そそそうそう!先生じゃないと分からないことなのじゃよ!あ~、教えてもらわないとわからないことなのにじゃな~!教えてもらえないと何もできないのじゃがな~!」
うつむいたままで表情の読めないキクヱ。
榊 (や、やっぱり露骨すぎたか・・・・!)
真宵 (いや榊さん、よく見るのじゃよ!)
やがて顔を上げたキクヱの表情は__
キクヱ「もう、仕方ありませんね。先生に何でも聞いてみてください?」
頼られる喜びに満ち溢れた表情をしていた。
榊 (セーーーーフ)
盛り上がる食堂を尻目に一人部屋に戻って来たつみき。
遅れて正邪も戻って来た。
つみき「・・・・」
つみきはケースに詰め込んだ沢山の水着を覗き込みながらため息をついていた。
そんなつみきを見ながら正邪が窓の外をちらちら見る。
正邪 「なあ、つみき」
つみき「・・・・あによ」
正邪 「水着着ないのか?せっかく海に来たんだし」
つみき「・・・・私はいいわ。そういう気分じゃないから」
正邪 「じゃあ戦車道やってみないか?昨日の戦車道の試合見て燃えただろ」
つみき「それもいいわ。そういうガラじゃないもの」
正邪 「・・・・でも本当はどっちもやりたいだろ?」
ぎくっとするつみき。
正邪 「まったく天邪鬼だなあ。やりたいならやりたいって言えばいいのに」
つみき「今更言えるわけないでしょ。それに、もうその気はなくなっちゃったから」
そこまで聞いてにいっと笑う正邪。
正邪 「そうかそうか~。そんなにやりたくないんだな~?海に行くのも、戦車乗るのも」
つみき「そうよ、だから言ってるじゃ、な・・・・」
振り返ったつみきの動きが止まる。
正邪の顔は、今まで見たこともないくらいのいたずらっ子のような顔をしていた。
がしっ!とつみきの肩を掴むと__
つみき「にゃーーーーっ!?」
次の瞬間、部屋につみきの悲鳴が上がった。
ピリリリリリピリリリリリリ
優希 「あっ、ちゃくし~ん♪」
海の家れもんでスイーツタイムを楽しんでいた優希のケータイが着信音を立てる。
ピッ
優希 「もしも~し?あっ、マヨちゃ~ん♪」
梓 「・・・・マヨちゃん?」
桂利奈「誰だろ?マヨネーズ友達かな?」
あゆみ「いやいや、マヨネーズ友達ってなんなの」
あや 「もしかして昨日会った人じゃない?優希RINE登録してたし」
紗季 「・・・・」
優希 「うん、うん?うん、今日もフリーだよ~?うん、みんないっしょ♪」
あゆみ「私たちに用なのかな?」
桂利奈「どんな用だろ?」
あや 「昨日の試合盛り上がってたし、もう一度見せてほしいとかかな?」
あゆみ「そしたらイカちゃんや清美ちゃんにも連絡とらないとだね」
優希 「うん、全然おっけ~♪みんなも大丈夫みたいだし、こっちも準備しておくね~?」
梓 「あ、話着いたみたい。準備ってことはやっぱり戦車道がらみかな」
紗季 「・・・・」
ピッ
通話を終了させる優希。
そして会話の内容を気にしているメンバーを一瞥して__にっこり微笑んだ。
後に、梓は語る。
梓 「今思い返してみれば、早く気が付くべきでした。__優希があの顔をしたときは、いつもよからぬことを計画しているときの顔だって」
由比ヶ浜の海岸を、清美たちのオイが走る。
由佳 「まさか昨日の今日でまた戦車道のお誘いが来るとは思いませんでしたね」
清美 「うん、私なんて一回やったら数日はいいかなと思うのに、すごい向上心だよね」
綾乃 「私たちも見習わないと、ですね」
知美 「イカ先輩もすいません、わざわざ来てもらって」
イカ娘「何を言ってるでゲソ。侵略部への挑戦は私への挑戦!受けた勝負はゼッタイ逃げないでゲソ!」
知美 「それに昨日と違って今日は副砲役のみんなもいるフルメンバーだもんね。ウサギさんチームには悪いけど、ゼッタイに勝つんだから!」
由佳 「それにしても・・・・変わった条件つけてきましたよね。どういうことなんだろ」
清美 「うん・・・・何でだろうね」
綾乃 「きっと何か考えはあると思うんだけど・・・・」
などと話していると待ち合わせ場所の砂浜型戦車演習場に着いた。
周囲にはまだ誰も見当たらず、一番乗りだったようだ。
すぐに前方からM3リー、ウサギさんチームが現れた。
梓がキューポラから姿を現す。
梓 「ごめんね清美ちゃん。急に呼び出しちゃって」
清美 「いいえとんでもない!お相手していただけるだけで光栄です!」
優希 「清美ちゃんいい子だよえ~。ぜひ後輩に欲しいタイプ」
桂利奈「そうだ!清美ちゃんも大洗女子においでよ!歓迎するよー!」
清美 「ええっ!?私なんかじゃもったいないですよ!?」
紗季 「・・・・(ブンブン)」
あや 「紗季もそんなことないって言ってるよ」
などと和気あいあいとしていると
イカ娘「そう言えば梓よ、今回の『コレ』はどういうことでゲソ?」
梓 「あ、そういえば説明してなかったね。じつは__」
と話を切り出そうとすると__
ギュラギュラギュラギュラ
何か聞こえてきた。
清美 「うん?何か聞こえてきませんか?」
梓 「そうだね。なんだろ、これ」
ギャラギャラギャラギャラ
桂利奈「まるで重戦車のキャタピラ音だねー」
あゆみ「いや、これまるでどころか・・・・」
ギャギャギャギャギャギャ!
あや 「重戦車だー!?」
砂丘の稜線を乗り越えて、かなりゴツい重戦車が姿を現した。
ガコンッ
キューポラのフタが開き__
真宵 「やあやあご両人、招致に応じていただき恐悦至極じゃよ!」
水着姿の真宵が現れた。
優希 「やっほ~♪マヨちゃ~ん♪」
水着姿の優希が手を振る。
真宵 「ユキちゃ~ん♪来てくれて感激なのじゃよ~♪」
清美 「あの、これって一体何が始まるんですか?」
イカ娘「このカッコで戦車乗るのなんて初めてでゲソ」
水着姿の清美とイカ娘が言葉を飛ばす。
__つまるところ、この場に居合わせる人物全員が水着だった。
真宵 「ふっふっふ、これには相模トラフより深い事情があるのじゃよ」
つみき「言っておくけど相模トラフはそこまで深くないわよ」
水着姿のつみきがツッコミを入れた。
~~回想~~
正邪 「おーっ、似合ってるじゃん!」
時間は少し戻り、宿の部屋の中。
そこには、ピンクフリルの可愛らしい水着を着たつみきが立っていた。
つみき「いきなり人の衣服はぎ取って水着着せるとか、何考えてるの」
正邪 「お?水着いらなかった?ダイタンだなあ」
つみき「そ、そういう意味じゃないっ!」
正邪 「水着、伊御に見せたかったんだろ?」
つみき「うっ」
正邪 「このまま意地を張ってたら、一度も水着切れずに旅行終わっちゃうぞ?」
つみき「ううう・・・・」
正邪 「せっかく来たんだから、いい思い出作って帰ろうよ」
つみき「ううううう・・・・わかった。変な意地はって悪かったわ」
正邪 「うんうん、それでいいんだよ」
つみき「それで?これからみんなで海に泳ぎに行くの?」
正邪 「行かないよ」
つみき「」
理解が追いつかず、固まるつみき。
つみき「行かないって・・・・じゃあどうして__」
そこまで言いかけた時、窓の外から何か聞こえてきた。
重厚な金属がぶつかるような音と、外を歩く人たちのざわめき。
しかも、それは段々と近づいてくる。
その音は宿の外、つみきたちの部屋の目の前まで来た。
そして__
ドゴオオオオン!
つみき「にゃあっ!?」
轟音が響き渡る。
何ごとかと慌てて外を見たつみきは絶句した。
榊 「おっ、出てきた。おーい!」
姫 「正邪さーん!持ってきましたよー!」
真宵 「準備はバッチOKなのじゃよ~!」
そこにはどこから持って来たのか、砲身から煙が上る重戦車と、それに乗る水着姿の真宵たちが乗っていた。
榊 「どうやらそっちも準備できたみたいだな」
振り返ると、いつの間にか正邪も水着に着替え終わっている。
つみき(いつの間に)
正邪 「さあ準備は整った!さあつみき、行くぞ!」
つみき「行くってどこへ」
正邪 「もちろん戦車道をやるためだーっ!」
ガバッ!
突如正邪がつみきを抱えあげる。
つみき「にゃっ!?」
そしてそのまま窓から大きくジャンプ!
つみき「にゃあああああああ!?」
スタッ
そして正邪はつみきを抱いたままスムーズに着地を決めた。
呆然とした顔で正邪の腕から降りるつみき。
真宵 「ようこそつみきさん!私たちの戦車、T-100へ!」
つみき「まずは状況を説明してちょうだい」
テンション高く歓迎する真宵たちに、極めて平静に言葉を返すつみき。
姫 「ええっと、朝ご飯を食べ終わった後、真宵さんにさそわれまして」
榊 「由比ヶ浜にいる戦車レンタルをしているとこに行ってきたんだよ」
つみき「戦車レンタル」
真宵 「そこで『六人で乗れる戦車を貸してほしい!』って頼んだら、二つ返事でこれを貸してくれたのじゃよ!」
つみき「大きすぎない?」
姫 「戦車屋さんが、六人で乗るならこれが一番だ~、っておっしゃるもので」
つみき「私はやらないわよ。べつに興味ないし」
乗り気な姿勢を見せたくないつみきがそっぽを向く。
真宵 「ままま、ともかく中へ」
ずいずいと真宵に促され車内へ入るつみき。
つみき「ちょっと真宵、押さないで。私は別に、戦車道、なん、て__」
車内に入った途端、車内に座る人物を見て動きが止まった。
伊御 「うん・・・・?」
砲座に座った伊御が、水着姿の伊御が振り返る。
美化200%増しで、いつも以上に輝いて見える。
つみき「い、伊御・・・・!?」
伊御 「つみき。その水着、可愛いよ。とても似合ってる」
つみき「ニャッ__」
瞬間、つみきが真っ赤になったまま固まった。
その間に次々とメンバーが乗り込むが、つみきは固まったまま。
正邪 「よっこいせ」
固まったつみきを手ごろな場所に座らせ、全員がT-100に乗り込んだ。
榊 「よっしゃー、出発だー!」
みんな「おー」
かくして重厚な音を立てながら、六人を乗せたT-100はゆっくりと進み始めていった。
~~回想終了~~
真宵 「__という訳なのじゃよ♪」
優希 「わあ、強引~♪」
つみき「真宵が強引なのは今に始まったことじゃないわ。それで、集まってこれからどうするの?」
清美 「戦車三両で戦車道をするんですか?」
イカ娘「そもそも水着でいる必要はあるのでゲソか」
榊 「よくぞ聞いてくれた!」
身を乗り出す榊。
優希 「わあ、男子~♪」
あゆみ「うーん、いい腹筋してるねえ」
榊 「まあ、というも俺たち初心者だからさ」
真宵 「実力差があっても楽しめるルールを立案してみたのじゃよ!」
あや 「へえ、なになに!?」
真宵 「それは、これじゃよ!」
パパラパッパパー(ファンファーレ)
真宵が取り出したのはやたらとカラフルな色をしている砲弾だった。
綾乃 「それは、何の弾ですか?」
真宵 「これぞ初心者御用達、カラーペイント弾なのじゃよ!」
由佳 「カレーペイント弾?」
試しにM3リーに装填して、狙いをつける。
ドオン!
ベチャッ!
桂利奈「あっ!着弾したところに絵の具が!」
真宵 「これは車体にダメージはいかず、着弾したところに絵の具が付くだけの特殊弾なのじゃよ」
榊 「これを使えばどんなに被弾しても行動不能にはならない!かつどこに被弾したかわかって参考に出来るっていうイカした弾なのさ!」
知美 「へえー、おもしろーい!」
イカ娘「そういえば、初めて大洗の西住さんと試合した時もこの弾を使った覚えがあるでゲソ」
清美 「長く楽しめそうですね。じゃあ今日はこれを使うんですね?」
姫 「はい。それでいいでしょうか?」
あや 「うん、構わないよ!むしろ面白そう!」
紗季 「・・・・(コクコク)」
あゆみ「紗季もいいって言ってるよ」
由佳 「そっか、普通の服とかだと汚れちゃうから流し落としやすい水着でやるんですね?」
そうそうと頷く真宵だが、つみきをはじめ猫毛チームのメンバーは方便だと理解していた。
真宵 「かつ!今回もう一つ特殊ルールを採用するのじゃよ!」
イカ娘「特殊ルール?」
真宵 「今回はチームを組まない三両同士のデスマッチとするのじゃよ!」
梓 「デスマッチ!?」
綾乃 「つまるところ、どこともチームを組まず一対一対一にする、ということですね?」
真宵 「話が早くて助かるのじゃよ」
清美 「一両を相手にしつつ、常にもう一両も気にかけていないといけない。これはいい訓練ができそうです」
真宵 「清美ちゃんはいい子じゃのう・・・・」
つみき「これ、ためになる訓練とかそういうんじゃなくて、絶対『面白そうだから』ていうだけよね」
真宵 「てへ♪」
かくして各自は散開し、試合開祖の合図を待つ運びとなった。
T-100に乗るネコさんチーム(猫毛高校ご一行だからこれがいいということになった)も同じように距離を取り、準備を整えている。
各員のポジショニングは以下の通り。
つみき→主砲装填手
伊御 →主砲手
榊 →操縦手
真宵 →通信手兼副砲装填手
正邪 →副砲手
そして__
姫 「な、な、な、__」
真っ青な顔の姫。
姫 「なんで私が車長なんですかあ~っ!?」
姫 →車長
キューポラから顔を覗かせながら姫の悲痛な叫びが響き渡る。
正邪 「いや、私たち戦車道あんま詳しくないしさ」
つみき「車長ができるのは戦車道に詳しい姫くらいしかいないのよ」
姫 「そそそそんなぁー!?戦車道なら真宵さんだって詳しいじゃないですかあー!?」
真宵 「いやー、私はたま~にテレビで見るくらいだしい~?姫っちの知識に比べたらとてもとても」
伊御 「えっ、姫、そんなに戦車道に詳しいんだ」
姫 「いえっ、あの、その、詳しいと言いますか好きでよく観戦に行くと言いますかでもやったことはなくて知識だけしかなくて実戦は初めてでそんな程度でみなさんを指揮なんて恐れ多いと言いますかあのその」
真宵 「試合開始ー!」
姫の弁論にお構いなく無線機を通じて試合開始を告げる真宵。
梓 「よーし、行くよみんな!全速前進!」
桂利奈「あいーっ!」
清美 「こっちも戦車前進だよ!」
知美 「やってやりましょう!」
それを受けて一斉に動き出す両チーム。
榊 「よっしゃ、こっちも行くぜー!」
榊も思いっきりアクセルを踏み、T-100が動き出す。
姫 「はわあーーーーーーーっ!?」
今までにない音量で叫ぶ姫を乗せ、戦車は戦場へと足を運ぶ。
バアン!
ズドオン!
榊 「すでにあちらさんはおっぱじめてるぜ!」
伊御 「よし、まずは様子を見よう」
榊 「突っ込むぜ!」
伊御 「おい」
つみき「こちらは初心者なんだし、近づきすぎは危ないでしょ?それに重戦車っていうのは、遠くからバシバシ撃つものじゃないかしら」
榊 「言いたいことはわかる。そりゃ痛いほどわかる。だがな御庭、これは戦車道だ。戦車道の醍醐味ってのは何だかわかるか!?」
つみき「・・・・戦略や協力による立ち回りかしら」
榊 「それも間違っちゃいない!だがな、戦車道の醍醐味は何より肉薄するゼロ距離戦闘!お互いの車体で削りあい火花を散らし、抜くか刺すかの刹那に決まる勝負の行方!これが一番燃えるってもんだろ!」
つみき「それを言っていいのは熟練した腕前を持つ人の権利だと思うのだけれど」
榊 「まあまあ。食らっても終わらないんだし、ここは楽しんだもの勝ちだろう?それに伊御だって、もっと近づかないと当たらないだろ」
伊御 「・・・・まあ、もうちょっと近づかないと当てにくい、かもな」
つみき「・・・・そう。なら、仕方ないわね」
真宵 「チョロ」
つみき「何か言った?」
ぶんぶんぶんぶん、と頭を振る真宵だった。
かくして近づいたT-100だが、
部員 「部長!左からT-100が近づいてきます!」
清美 「わかった!左副砲は牽制をお願い!主砲と右副砲はウサギさんチームから目を離さないで!」
部員 「わかりました!」
オイ(エビフライさんチーム)が即座に気が付く。
ぎいっ、と左副砲がT-100を照準に捉える。
榊 「うおっ!あっちが狙ってきてるぞ!姫、どうすればいい!?」
榊が車長である姫の指示を仰ぐが、返事がない。
バアン!
左副砲が火を噴く。
ベチャアッ!
バッチリT-100の正面装甲に命中し、車体がエビフライさんチームの青に染まる。
真宵 「被弾したのじゃよ!」
つみき「狙いバッチリだったわね」
榊 「くっそ、先制射撃を許しちまったぜ!姫、次はどうすれば__」
振り向いた榊は言葉を失った。
振り向いた先、キューポラに登るための梯子のふもとで、姫は頭を抱えてぷるぷる震えてうずくまっていた。
真宵 「姫っち、どうしたのじゃ!?」
姫 「むむむ、無理ですうー!あんな大きな音がして、弾が飛んできて、車体がぶつかり合うあんな怖い所、無理ですうう~!」
熾烈を極める戦場にすっかりすくみ上ってしまった姫は戦意喪失していた。
真宵 「それは困るのじゃよ!姫っちが指示してくれないと、相手がどう動いてくるか、どこに動けばいいか伝わらないのじゃよー!」
姫 「そそそ、そんなこといわれてもぉー!?」
ドガアン!
バチャアッ!
姫 「はわぁーっ!?」
完全涙目で固まってしまっている。
伊御 「まずいぞ、こちらが対処できずにいるからやられ放題だ」
榊 「このままじゃどうしようもねえ、とにかく動くぞ!」
ギュラギュラギュラ
少しでも状況を打破しようと動き出すT-100。
その間にもオイの副砲射撃を受け続け、車体は真っ青になってしまっている。
榊 「やられっぱなしは性に合わねえな、伊御!」
伊御 「ああ。一矢報いるか。正邪、頼めるか」
正邪 「おいよ!ついに私の出番だな!」
声を掛けられ意気揚々と発射管を握る正邪。
ゆっくり近づいてくるT-100に、再び狙いを定めるオイの左副砲。
照準を定めると__
正邪 「させるかーっ!」
バアン!バアン!バアン!
副砲の連続射撃が左副砲を襲い、T-100へ照準を定めさせない。
榊 「いいそ、効いてる!」
つみき「今のうちに近づきましょ」
伊御 「いい弾幕だ、相手が怯んでる」
つみき「ほんと、正邪は弾幕となると元気が出てくるのね」
正邪 「はーっはっはっはー!どうしたどうした、かかってこーい!」
トリガーハッピーのごとく砲弾で弾幕展開していく正邪。
その間真宵が軽快に次々と副砲に装填を繰り返していく。
部員 「ダメです!あっちの副砲が激しすぎて、狙いが定まりません!」
イカ娘「あ奴らはっちゃけてるでゲソ」
清美 「うん、でも凄い勇気だよ。こんなに車体の大きさに差があるのに物おじもしない」
綾乃 「意外な伏兵ですね」
由佳 「でもこちらも負けていられません!主砲をぶつけましょうか!?」
知美 「ダメだよ。主砲をあっちに向けたら、ウサギさんチームが距離を詰めてくる。相性的に近づかれたらおしまいだよ」
M3リーとオイは主砲によりお互いをけん制しており、それにより膠着状態になっている。
そんな中、あやが弾幕展開しながら近づくT-100に気が付く。
あや 「あっ、ネコさんチームが近づいてきたよ」
梓 「うわ、何あの副砲の弾幕」
あゆみ「一か所だけ別世界だね。どうしよっか、放っておいても怖そうだけど」
梓 「そうだね。あっちの実力も見てみたいし、お願いできる?」
あや 「待ってました!戦車道先輩としてのカンロク、見せちゃるんだから!」
ドオン!ドオン!
T-100に向けてM3の37mm砲を負けじと連射しまくる。
榊 「うおっ!今度はあっちまで撃って来たぞ!」
つみき「悪目立ちしすぎたわね。どちらからも警戒されてるわよ」
榊 「ヘイト上等!伊御、今こそお前たちの出番だ!」
伊御 「ああ、任せろ」
重い腰を上げるように、ゆっくりと伊御は発射管に手をかけた。
照準器を覗き、ゆっくりと引き金を絞り__
ドオン!
T-100の主砲、30.5口径76mmが火を噴いた。
ベジョオ!
砲弾は吸い込まれるようにM3リーに命中し、車体を白く染め上げる。
あゆみ「うわっ!」
梓 「やられた?!」
桂利奈「ねえ今、一発で当ててこなかった!?」
あや 「試し打ちからの偏差射撃もなしに、一発で当ててくるなんて!?」
優希 「タダモノじゃないみた~い♪」
ベチャ!ベチョ!ベッチョン!
そして間髪おかずに次々と飛んでくる主砲の嵐。
あや 「ちょっとちょっとちょっと、いったいどうなってんの!?」
優希 「砲撃の間隔が尋常じゃないんだけど~?」
あゆみ「あれって主砲だよね!?なんで主砲があんな速度で連射できるの!?」
その頃、T-100内部では。
つみき「入れたわよ」
伊御 「ああ」
ドオン!
つみき「はい次」
伊御 「わかった」
ドオン!
つみき「これで十発目」
伊御 「そうか」
ドオン!
つみきが主砲弾をまるでゴム風船のようにひょいひょい持ち上げ、次々と装填していく。
そのペースを完全に理解しているように、入れた瞬間伊御が正確な砲撃を行っている。
二人の掛け合いが一定のテンポを生み、主砲だというのに副砲に負けない弾幕を実現している。
あっという間に真っ白になっていくM3。
榊 「おーすげえ、元の色がわからなくなってきてる。流石だな」
真宵 「二人で行う最初の共同作業なのじゃよ♪」
つみき「にゃっ!?」
その言葉につみきが一瞬にして真っ赤になり、一瞬装填が滞ってしまった。
桂利奈「てったい、てったーい!」
その隙に、たまらずM3が稜線に姿を消す。
真宵 「おお、追っ払ったのじゃよ!」
正邪 「へへん、どんなもんだい!」
つみき「待って、M3リーが姿を消したってことは__」
オイを見ると、いつの間にか両副砲、そして主砲がすべてT-100を捉えている。
榊 「一時撤退!」
全力でバックをかけ、総攻撃から逃れる。
由佳 「T-100、逃げました!」
イカ娘「追うでゲソ!全砲門を使えるなら敵じゃないでゲソ!」
清美 「周囲を警戒してウサギさんチームの奇襲に備えつつ、ネコさんチームへ追撃を行います!」
バックで逃げるT-100、追うオイ。
正邪 「くそっ、バックしながらじゃ照準がブレて当たらない!」
榊 「それに後ろが全く見えないぞ!これで後ろからM3リーが来たらヤバすぎる!」
真宵 「姫っちー!そろそろ指示を飛ばしてほしいのじゃがー!」
姫 「むむむむむむムリですぅーーーっ!」
真宵の悲痛な訴えにも、耳を抑えてぶんぶんとイヤイヤする姫。
伊御 「榊、出来る限り体制を維持し続けてくれるか」
榊 「!おう、任せとけ!」
伊御の意図を察した榊が、車体をまっすぐオイに向けながらバックし続ける。
それにより主砲はオイに向きっぱなしになる。
つみき「行くわよ、伊御」
伊御 「ああ、任せろ」
ドオン!ドオン!ドオン!
再びつみき・伊御コンビによる主砲連射がオイを襲う。
ビシャア!
清美 「きゃあ!」
オイに着弾した塗料が跳ね、清美の上半身に大きくかかる。
イカ娘「清美!大丈夫でゲソか!?」
清美 「うん、大丈夫だよ。ちょっと跳ねたけど、洗えば落とせるし__」
イカ娘「よくも清美をやってくれたでゲソね!」
清美 「あれ、イカちゃん?」
清美がやられて激昂したイカ娘は身を乗り出し、プクッと大きく口を膨らませる。
榊 「?」
何をしているのかと、榊が覗き込むように見ていた次の瞬間。
イカ娘「ブーーーーーーーッ!」
イカ娘が大量のイカスミをT-100に向けて噴き出した。
イカスミが運転席や主砲座の窓にかぶり、視界を奪う。
榊 「うおおおお!?何だこりゃ、前が見えねえ!」
伊御 「まずいぞ、このままじゃ狙いが付けられない」
つみき「イカっぽいと思ってたけど、ここまでイカなのねあの子」
正邪 (このままじゃラチがあかない!車長の指示がないとロクに動けないぞ)
そう考えた正邪は、一計を案じる。
正邪 「姫、まあまあ落ちつけって」
姫 「せせせせ正邪さん、ダメなんです、怖くって足がすくむんですうう!」
正邪 「だいじょぶだいじょぶ、姫なら出来るって。ほら、誰だったか言ってただろ?『砲弾はそう当らないから大丈夫』って」
姫 「それって当たる可能性があるってことじゃないですかあ~!イヤですう~!」
つみき「余計に嫌がらせてるじゃない」
正邪 「出来る出来る、姫ならできる!」
散々追い詰めるようなことを姫に吹き込み、最後にバシッと背中をたたく。
姫 「そんなこと言われても、絶対に、イヤですううう~~!」
顔を><にして思い切り叫ぶ姫。
__と、何だか周囲の気配が違うことに気が付く。
姫 「・・・・?」
恐る恐る目を開けると__そこは一面の砂野原。
そして目前には、自分たちを追いかけるオイ。
姫は、いつの間にかキューポラから思い切り身を乗り出していた。
姫 「はわあーーーーーーーっ!?」
一体何が起きているのか分からずパニックになる姫。
わたわたと慌てながらキューポラの中に身を隠そうとする。
と、
ビョンッ!
まるで反比例するかのように、体が意に反して大きく外へ飛び出してしまう。
姫 「あわあーーーーーーーっ!?」
大混乱する姫。
正邪 「姫、落ち着けって!周りにM3リーは見えるかー?」
姫 「はわ、M3、ひいっ!周りに、ひゃああああ?!M3リーは、みえまきゃあああああ!?」
悲鳴交じりにも何とか周囲の状況を教えてくれる姫。
そんな状況に置いても一切体は車内に戻さず、身を投げ出す勢いでキューポラから身を乗り出している。
正邪 「まだ周囲にM3はいないらしい。しばらく逃げ続けてよさそうだ」
榊 「そうか。何とか隙間からは見えるから、オイから逃げるのに専念するぜ!」
気が付くと、隣で真宵がニヨニヨしながら正邪を見つめている。
真宵 「正邪さん、お主もワルよのお」
正邪 「まあな。これくらいしたっていいだろう?」
ニヤリと返す正邪。
__姫の背中には、「天地有用」と書かれた符が貼られている。
その効果により、姫の行動は『上下逆』となってしまっている。
正邪 「つまり、姫が身を引っ込めたいと思えば思うほど」
真宵 「逆に身を乗り出すことになるわけじゃと・・・・おっそろしいですなあ」
二人 「ふえっふえっふえっふえ」
姫 「はわあああああああああ!?」
戦車の音より大きな姫の悲鳴が戦場を響き渡る。
と、突如後方にM3が姿を現した。
桂利奈「ドンピシャ!後ろを取れたよ!」
あや 「しかもオイを気にして後ろががら空き!」
優希 「チャンスチャンス♪やっちゃえやっちゃえ~♪」
あゆみ「照準オッケーだよ!」
梓 「よーし、よーく狙って!」
ガコン!
姫 「ひゃわあああ!後ろにウサギさんがいますううう!」
榊 「マジか!?いつの間に回り込まれたんだ!?」
つみき「まずいわね。完全に照準を捉えてるわ」
正邪 「挟み撃ちだ!」
迫るオイ、待ち構えるM3。
ネコさんチームのT-100は絶体絶命の境地に立たされていた。
千鶴 「あらあら、ピンチになっちゃったわね」
時全く同じにして、海の家れもんにて。
客席から見える位置に設置されているテレビからは、今まさに繰り広げられている三つ巴の様子が流されている。
近頃の由比ヶ浜の戦車道の盛り上がりを受け、市が戦車演習場のライブカメラを取り付け、市民向けに公開するようになっていたのだ。
それにより、店にいながら千鶴たちは試合を観戦することができている。
栄子 「T-100もデカいけど、清美ちゃんたちのオイもデカいもんなあ。乗ってるのは初心者の子たちだし、こりゃ不利だろうなあ」
千鶴 「でもいい動きをしているわ。逃げながらもしっかり応戦できてるし。桜井先生のご指導がよかったんですね」
キクヱ「いえいえ、とんでもないですの~」
ラーメンを食べながら謙遜するキクヱ。
栄子 「桜井先生たちは昨日から江の島に泊まってたんでしたっけ?」
キクヱ「ええ。それで今朝戦車道を知り合った子たちとやってみたいと言われまして。私もちょっとだけかじったことがあったので、基本的なことだけ。あとはすることもなかったので、浜辺を散歩していたんです」
栄子 「へえー、桜井先生も戦車道やってたんだ。やっぱり高校生の頃に?」
聞いた途端、キクヱの周囲を黒いオーラが包み込む。
キクヱ「はい・・・・。青春のすべてを戦車道にかけていたんです・・・・。そのせいで男の子とまったく関わる機会が無くて、やめてからも全く関われず・・・・。貴重な青春時代を・・・・しくしくしくしくしくしく」
栄子 (やばっ、地雷踏んだ!?)
どうしようかとおろおろしていると、千鶴が口を開く。
千鶴 「大丈夫ですよ。まだまだ出会いの機会はあるじゃないですか」
コトリ、とテーブルにかき氷を差し入れる。
キクヱ「気休めはいいですの・・・・。もう適齢期はとっくに過ぎちゃってます・・・・」
聞く耳持たず落ち込むキクヱに千鶴は微笑みを置かべる。
千鶴 「ふふっ、そんな訳ないでしょう?戦車道をされる女の子には、まだまだこれから出会いがありますよ」
キクヱ「え・・・・?」
顔を上げるキクヱににっこり答える千鶴。
栄子 「いや、二人の年齢で『女の子』ってのは無理が__なんでもありません!」
キクヱ「私はまだ、女の子・・・・。それじゃあ私・・・・まだ青春が来る可能性があるんですね!?」
千鶴 「可能性どころじゃない。絶対に来ますわ」
パアアアアアアア
千鶴に断言され、背後のオーラがバラと天使に包まれるキクヱであった。
再び場面は戻り、退路をM3リーに断たれたネコさんチームのT-100。
榊 「どうする!?このまま背中を晒してたらやられ放題だぞ!」
つみき「でもオイに背中を向ける方がよっぽど危険よ。全身真っ青になっちゃうわ」
伊御 「かと言って離脱するスキをくれるほど甘くはないだろう。どちらにせよ一定以上の被弾は覚悟するべきだな」
正邪 「くっそー、覚悟を決めるしかないか・・・・」
真宵 「諦めるのはまだ早いのじゃよ!」
伊御 「真宵?」
不敵に笑う真宵が無線機を取り出し、伊御に差し出す。
そしてオンにしながら__
真宵 「ここで伊御さんに質問します!伊御さんは戦車道をされている女の子を、どう思いますでしょうか!?」
突如質問をぶつけた。
伊御 「えっ__えーと・・・・」
突然の質問に思考する伊緒が、無線機を掴む。
いつも間にか砲撃がやみ、周囲が伊御の答えを待ち望む。
伊御 「そう・・・・だな。みんなとっても生き生きしてて、輝いてて・・・・とても素敵だよ(エコー)」
姫 「はうあー!」
梓 「はうっ!?」
清美 「はあっ?!」
イカ娘「?」
姫は鼻血を噴き出し、梓は顔を真っ赤にして立ち尽くし、清美は真っ赤になった顔を隠すように突っ伏した。
そのダメージは車内にも及び、各員が悶絶したり照れにより正常な行動をとれなくなっていた。
もちろんT-100内のつみきや正邪もその被害を免れなかったが。
榊 「よっしゃ、今だー!」
真宵 「一気に離脱なのじゃよー!」
数少ない平常心を保てる榊と真宵の采配により、T-100は窮地から脱するのであった。
桂利奈「あーっ、ずるーい!」
真宵 「これも作戦じゃよ、作戦!」
遅れて正気を取り戻したM3リーやオイがT-100を追いかける。
飛び交う砲弾、舞い散る塗料、響き渡る黄色い歓声。
やがて日が傾きかけたころ、三両の戦車は元の色が分からないくらい塗料にまみれてしまっていた。
そして__
ガシッ!
同じくらい塗料まみれになった正邪・真宵・梓・清美・イカ娘たちは、やりきった爽やかな笑顔を浮かべながら固い握手を交わしていた。
榊 「死闘を潜り抜けた先に芽生える、魂の友情」
姫 「まさに青春ですね~」
つみき「というか姫、あなた車長だったのになぜあなたが全然汚れてなくてあの二人が塗料まみれなの」
姫 「さあ・・・・気が付いたらもうお二人ともあの有様で・・・・」
伊御 (一体何があった)
そんな細かいことは、この場に必要ない__夕日をバックにした彼女らの姿はそう言っているようにも見えた。
つみき「見えないわ」
数日後。
つみき「おは、おやよう・・・・んっ、おは、おはよう、伊御・・・・」
つみきはいつものように猫毛海岸駅のいつもの場所で伊御を待ちながら、自然な挨拶の練習をしていた。
伊御 「おはよう、つみき」
つみき「にゃっ!?」
しかしそんな努力も伊御が来ると瓦解し、しどろもどろになってしまうのだった。
連れ立って歩く二人。
伊御 「つみき、日焼けは大丈夫だった?」
つみき「ええ。日焼け止めは用意していたし、旅行の半分は戦車の中だったもの」
伊御 「ああ・・・・そうだったな」
つみき「予想外のことだらけだったけれど・・・・楽しかったわ」
伊御 「うん、俺もそう思う。また、一緒にどこかに行きたいな」
つみき「っ!う、うん・・・・」
その『一緒に』が『みんなと一緒に』と言う意味だと分かってはいたが、少し浮かれた気分になってしまうつみきだった。
しばし一緒に連れ立っていくと、開けた場所に着いた。
榊 「おっ、来た来た」
姫 「みなさーん!こっちですよー!」
真宵 「いよっ、名装填手と名砲手のお二人のご到着じゃな!」
正邪 「待ちくたびれたぞ!早く始めよう!」
その場所__戦車演習場では他のメンバーがすでに待ち構えていた。
そして傍らには重戦車__T-100が堂々と構えていた。
つみき「まさか、こっちにも戦車レンタル屋さんがあるなんて思わなかったわ」
伊御 「しかも、T-100も扱っているとはな」
由比ヶ浜の旅行から帰って来てからと言うもの、正邪たちの戦車道熱は引くことはなかった。
それどころか更に燃え上がり、こうして戦車レンタル屋を見つけ同型のT-100を借り入れてしまったのである。
正邪 「必ず訪れるであろうあいつらとの再戦のために、腕を磨いておかないとな!」
榊 「おう!今度こそ全弾避け切ってやるぜ!」
姫 「こ、今度は勇気を出してちゃんと指示を出せるよう頑張ります!」
真宵 「規定に抵触しない改造の仕方があるらしいから、しっかりマスターしてくるのじゃよ!」
つみき「一人明らかに聞き捨てならないこと言ってるけど。__まあいいわ。やるからには六人団結して、前以上に戦果を出しましょう」
__と、何やら気まずそうな空気が流れる。
姫 「えーっと、実は・・・・」
正邪 「正確には六人じゃないっていうか・・・・」
つみき「え?」
ガコンッ
突如T-100のキューポラが開く。
そして中からは__
キクヱ「みなさ~ん!今日も戦車道、頑張りましょう~!」
キラキラしたオーラを放つキクヱが現れた。
つみき「え、先生?」
真宵 「いや、実はあの旅行から帰って来てからと言うもの、先生が一番戦車道に乗り気で・・・・」
正邪 「『失った青春を取り戻す』とか言って、そりゃもうノリノリでさ」
姫 「どうにも断り切れませんでした・・・・」
伊御 「」
つみき「」
呆然とした顔の伊御とつみき。
キクヱ「さあ、始めましょう!乙女の恋と青春が花開く、素晴らしき戦車道を!」
その後付近の戦車道界隈では、六人の高校生に一人の社会人女性を加えた凄腕の戦車のチームが現れたと、もっぱらの話題になったという。
まずはDr.クロさんへ、今回のコラボの申し入れと調整の件、ありがとうございました。
納得していただける出来に仕上がっていたら幸いです。
かのように個性にあふれた人物たちが入り混じる場合、個々がどの役割にあてがわれたらどのような活躍を見せるのか、原作から突出させないよう表現するのが楽しかったです。