侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※今作は、ハーメルンで小説を投稿されている他作家さんのオリジナルキャラをお借りして構成しています。
本編と作風・傾向がやや違う部分が生じることも少なからずありますので、お読みになる際はあらかじめご了承いただけるようお願いいたします。



※この話は、大洗女子学園編からサンダース大学付属高校編第1話までまでを先にお読みいただいているともっとお楽しみいただけます



※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


あんこうチーム→あん

マーティン→マー
クラーク→クラー


ハーメルン編じゃなイカ?
手がけなイカ?


朝の由比ガ浜海岸。

それを一望できる道路の歩道から、青年が海を眺めている。

その顔は、日々の目まぐるしい日常から解放されたようにすがすがしい。

 

???「勇樹君ー」

 

ふと背後から声かけられ振り向くと、そこには一人の少女が駆け寄ってきているところだった。

手には二つソフトクリームを持っている。

 

勇樹 「どこまで行ってたんですか、百合子さん?」

 

息を切らせながら、百合子と呼ばれた少女がにこっと笑う。

 

百合子「ちょっと離れたお店まで。面白いご当地グルメがないか探してたのです。はいこれ!」

 

そう言って持っていたソフトクリームを差し出す。

 

勇樹 「俺の分も?ありがとうございます」

 

そう言いながら受け取ったソフトクリームを見て・・・・固まる。

 

百合子「どうしたの?」

勇樹 「あの・・・・これ、ナンデスカ?」

百合子「江の島名産、しらすソフトクリーム!ここ限定らしいです!」

勇樹 「・・・・でしょうねぇ」

 

手に持ったソフトクリームには、釜揚げしらすと刻みネギが振りかけられている。

隠すことなく存在を主張するしらすとネギに、えも言われぬ異空間を感じる勇樹。

 

勇樹 「まあ、見た目で判断するのも何だから・・・・。食べてみましょうか」

百合子「うん」

 

思い切ってぱくっと一口いく二人。

 

勇樹 (・・・・ねーな)

 

一口で口に合わないと諦める勇樹。

ふと、隣を見ると__

 

百合子「はふう、おいしい!」

勇樹 「マジですか」

 

その後、頑張って完食した勇樹と、おいしく完食した百合子。

 

百合子「どうしたの勇樹君、顔色悪いよ?」

勇樹 「いや、何でもないです」

 

おいしそうに食べていた百合子の前で、まさかまずいとは言えずこらえる勇樹。

 

百合子「おいしかったー。また食べたいです!」

勇樹 「まあ・・・・いつか、今度」

 

言葉を濁す。

 

勇樹 「砂浜歩いてみましょうか?」

百合子「うん!」

 

一緒に階段を経て砂浜に降りていく。

 

勇樹 「こりゃまた広い海岸だな・・・・」

 

まだ朝方というだけあって海水浴客はまだ少ないため、余計に広さが感じ取られる。

 

百合子「どこまで行きましょうかー?」

勇樹 「どこまでって言われましてもねえ・・・・」

 

周囲を見渡すが、海の家はまだ開いていない。

泳ぐつもりではなかったから水着も持ってきてなかったし、江の島はここからだとかなり遠い。

うーん、と唸っていると__

 

百合子「あっ、勇樹君、あそこ!」

勇樹 「ん?どうしました?」

 

百合子が勇樹の袖を引っ張る。

勇樹もそちらを向くと__

 

勇樹 「『貸し戦車』?」

 

そこには『貸し戦車』と書かれたのぼりと、傍らに座る男性、そして後ろには戦車が何台も並んでいた。

 

勇樹 「なんだありゃ?」

百合子「戦車を貸してくれるんじゃないでしょうか?」

勇樹 「まんまですね」

 

と、話しながら貸し戦車屋へ近づいていく。

 

店主 「いらっしゃい」

百合子「こんにちわ、ここはどういうお店なんですか?」

店主 「見ての通りだよ。戦車を貸してるんだ」

勇樹 「文字通りだったのかよ」

百合子「すごい!戦車に乗れるんですか?」

店主 「ああ。でも乗れる範囲はここから向こう側だけだよ。こっち側は海水浴エリアだからね。どうだい、乗ってくかい?」

百合子「じ~・・・・」

 

口には出さずとも『乗りたい』という目で訴えてくる百合子。

 

勇樹 「じゃあ、一両貸してもらえるかな」

 

ダメとも言えず、レンタルを申し出る勇樹。

 

百合子「♪」

店主 「どうも。乗るのはお二人さんだね?なら__」

 

十分後。

 

キュラキュラキュラ・・・・

 

由比ガ浜の海岸を、戦車がゆっくり進んでいく。

 

百合子「わあ、すごい!」

 

百合子がキューポラから身を乗り出しはしゃいでいる。

 

勇樹 「身を乗り出しすぎると危ないですよー」

 

運転する勇樹が操縦席から注意を促す。

 

百合子「前方に敵機発見!撃て~!」

勇樹 「弾は入ってないって説明受けたでしょ」

百合子「えへへ」

 

などと戦車ツーリングを満喫していると__

 

百合子「あれ?」

 

百合子が前方に何かを見つける。

 

勇樹 「どうしました?」

百合子「向こうの波打ち際に、何かありますねえ」

勇樹 「んー・・・・?」

 

目を凝らしてよく見る。

よく見ると、それは__

 

勇樹 「あれは__戦車だな。しかも二両」

 

それは、波打ち際で対応上しているみほたちのⅣ号とイカ娘たちのチャーチルだった。

 

イカ娘「どうしてこんなところで壊れるのでゲソー!」

栄子 「不可抗力だ!しょうがないだろ!」

華  「あらあら、どうしましょう」

優花里「自動車部の皆さんにお願いするしかないかもしれませんね」

 

何やらトラブルらしく、何人もかがみこんでチャーチルの履帯付近を調べている。

 

百合子「なんだか困ってるみたい。__勇樹君」

 

直接口には出さないが、百合子が何かを訴えるような目線を勇樹に送る。

 

勇樹 「はーいはい」

 

言われずとも理解してる勇樹が、戦車をイカ娘たちに向けて進み始める。

そんな勇樹に百合子は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 

百合子「こんにちわー。どうかしましたかー?」

イカ娘「む?」

 

突如声をかけられたイカ娘が不思議そうな表情を浮かべる。

 

麻子 「ん、戦車だな」

沙織 「えーと、あれは・・・・」

 

沙織がペラペラと戦車ノートをめくる。

 

沙織 「あ、あったあった。FCM36歩兵戦車だって」

優花里「フランスで作られた、二人乗り戦車ですね!」

みほ 「実は、こっちのチャーチルにトラブルが起きちゃったんです」

百合子「どれどれ?」

 

戦車から飛び降りた百合子がチャーチルをのぞき込むと__

 

百合子「うわー、大ごとですねこれ」

 

チャーチルの前転輪がおかしな方向にねじれ曲がり、それが履帯を巻き込んでごっちゃに絡み合っている。

 

栄子 「ここまで派手に壊れちゃうとはね」

優花里「この故障は手や簡単な工具では直しようがありませんね。今から修理を呼びますので、待っててください」

 

そう言ってケータイを取り出す優花里。

 

イカ娘「せっかく西住さんたちが操縦の練習に付き合ってくれるというのに、このありさまでゲソ」

 

そう言って栄子を見るイカ娘。

 

栄子 「何だよ、私のせいだって言うのか」

イカ娘「何も言ってないでゲソ。ただ、もっと上手く運転できるなら、ここまで壊れたりしないだろうと思っただけでゲソ」

栄子 「私のせいだって言ってるようなもんだろそれ!」

百合子「お、落ち着いて!」

 

食ってかかりそうな栄子をなだめる百合子。

と、はっと思いついた様子を見せる。

 

百合子「ねえ、勇樹君。勇樹君ならこの戦車を__」

クラー「ヘイ!お困りデスか皆サン!」

イカ娘「む」

 

百合子の発言に重ねるように、三バカが現れた。

 

ハリス「どんなトラブルも、MIT主席の我々の手にカカレば!」

マー 「赤子の手を捻るモ同然デース!」

イカ娘「む、三人ともいいところに来たでゲソ。ちょっと見てもらえなイカ?」

三バカ「ドレドレ?」

 

シンディーに促され故障部位を覗き込む三バカ。

 

マー 「フムフム・・・・」

ハリス「ナルホド・・・・」

栄子 「どうだ?直せそうか?」

 

期待を込めて声をかける栄子に、

 

クラー「無理でース」

 

キッパリと返した。

 

ハリス「我々はMIT出身。対宇宙人研究に没頭しているエリートたちなのデス!」

クラー「故ニ!それ以外のコトなどサッパリなのデース!」

マー 「ましてや戦車のことなんて全然わかりませんネ!」

三バカ「HAHAHAHAHA!」

栄子 「何しに来たお前ら!」

 

三バカの余りの約立たなさに激昂する栄子。

 

優花里「仕方ありませんね。やっぱり自動車部の皆さんに__」

百合子「あの!」

 

再度電話しようとする優花里を制する百合子。

 

優花里「は、はい!?何でありましょうか!?」

百合子「その修理、任せてもらえますでしょうか?」

栄子 「へ?」

華  「まあ、もしかして修理がおできになるのでしょうか?」

百合子「はい。あっ、でも私じゃなくって__」

 

ちらり、と顔を覗かせていた勇樹を見やる。

 

勇樹 「__俺?」

麻子 「おお、お兄さん修理できるのか」

沙織 「もしかして、戦車関係の職業の方ですか?」

勇樹 「いや、俺はそういうんじゃないですけど・・・・」

百合子「勇樹君は、とっても手先が器用なんです!どんなものだってすぐに組み立てられるし、それに困ってる人を絶対に見捨てないくらい正義感が強いんです!」

勇樹 「ちょっ、百合子さん持ち上げすぎ__」

百合子「ねっ!?」

 

勇樹に同意を求める百合子。

懇願のような、期待のような、無条件の信頼のようなまなざしが注がれる。

やれやれ、とため息をつく勇樹。

 

勇樹 「しゃあないな。__ちょっと見せてください」

 

そう言って覗き込む勇樹。

何かを確かめるように部位を触っていく。

やがて見当がついたのか、工具箱を取りだす。

 

優花里「おや、なかなか使い込まれた工具箱のようですね。やはり整備関連の方なのですか?」

勇樹 「いや、そういう職には就いてないんですけど、__成り行き上、メカやらなんやらに関わることが多くって」

 

遠巻きに見ながらひそひそ話すあんこうチームたち。

 

栄子 「あの人、どれほどの腕前なんだろうね」

華  「ひょっとしたら、自動車部さんたちくらいかもしれませんね」

麻子 「彼女さん?が自信もって薦めてたし、なかなかできるのかもしれないな」

沙織 「でも、かなり派手に壊れちゃってるよ?あの壊れ具合は、修理工場に出してもそう簡単には__」

勇樹 「よっせ。__直りました」

みほ 「ふえっ!?」

 

予想だにしなかった勇樹の言葉に声を上げるみほ。

まさか、と一同が見たそこには、故障の跡など一切感じさせない、元通り奇麗にかみ合っている転輪と履帯があった。

 

イカ娘「おおっ、元通りでゲソ!お主、やるじゃなイカ!」

勇樹 「まあな。幸いぶっ壊れた個所はなかったから、組みなおせばどうってことなかったぞ」

華  「あの故障って、そんな容易いものでしたでしょうか?」

沙織 「どう見ても、あれは完全に壊れてたと思うけど」

栄子 「とんでもない腕前持ってるね、彼氏さん」

百合子「えっへん」

 

勇樹がベタ褒めされ、誇り高い気分の百合子。

 

優花里「じっと見ていたのに、どうやって直したのかさっぱり理解できませんでした・・・・」

 

修理技術を学ぼうと思っていたのに叶わず肩を落とす。

 

みほ 「でも本当に、すごい腕前です!ここまで腕のいい人、お父さんの仕事の関係の人にもいませんでした!」

イカ娘「西住さんが褒めるってことは、あ奴は相当すごい腕前ってことでゲソね。それにしても__」

 

ちらり、イカ娘は三バカを見る。

 

栄子 「ああ。それにしても__」

 

栄子も見る。

 

イカ娘「ホント三バカは、口だけでゲソね」

三バカ「Shooooooock!」

 

栄子たちに無能扱いされ、ショックを受ける三バカたちだった。

再度FCMに乗り込む勇樹たち。

 

勇樹 「直しはしましたけど、外れ癖がついてるかもしれないから早めに専門の人にメンテしてもらった方がいいと思いますよ」

栄子 「ああ、わかった。ホントありがとな!」

百合子「さようならー」

 

別れを告げ、勇樹たちは去っていった。

 

百合子「可愛い子たちでしたねー。特にあのイカみたいな子」

勇樹 「そうですね。しかし最近戦車に乗ってる女子が多い気がします」

百合子「戦車道ブーム再燃らしいですよー。この間の大会がすごい盛り上がって、今すごい注目されてるって」

勇樹 「はー」

百合子「そういえば勇樹君、もう連絡はつきましたですか?」

勇樹 「いえ、さっきから電話してんだけど、全然出ないんですよあいつ」

百合子「そうなんだ」

勇樹 「全く、自分から呼び出したくせに・・・・。どこ行ったんだ、美樹のやつ」

 

時同じくして、由比ガ浜の海の上。

そこでは、渚とナオミがサーフボードに跨って波に揺られていた。

ナオミは危うげながら、うまくバランスをとってボードの上に立っている。

 

渚  「もうちょっと腰を落として__そう、その姿勢です」

ナオミ「なるほど。最初よりかなり安定した感じがするな」

 

今日はナオミが渚に頼み、サーフィンをレクチャーしてもらっていた。

 

ナオミ「最初はどうなるかと思ったが、どうにかなるものだな。渚の教え方がうまくて助かるよ」

渚  「そんな。ナオミさんの呑み込みが早いからですよ」

 

それからもしばらく渚のレクチャーは続き__

ナオミはもうすっかりボードの上でもバランスを崩すことがなくなっている。

 

ナオミ「こうしてみると・・・・海も気持ちがいいな」

 

海の上に立つナオミは絵になっている。

 

渚  (さすがだなあ。戦車乗りの人たちは、みんなバランス感覚がいいのかな)

渚  「これなら、もう波乗りにもチャレンジできそうですね」

ナオミ「おっ、待ってたぞ。サーフィンならそれがなくちゃな」

渚  「あはは」

 

ボードの上にうつぶせになり、波を待つ渚。

やがて波をとらえ、ボードごと波に持ち運ばれていく。

そして波が育ったところでボードの上に立ち、波に乗って見せる渚。

 

ナオミ「おお」

渚  「こうやって、波の起こりに乗っかる感じで進みます。そのあとはバランスをとって乗っていれば、波が運んでくれますよ」

ナオミ「早速やってみよう」

 

三十分後。

 

ナオミ「渚、こうか!」

渚  「そうそう、その感じを忘れないでください!」

 

ナオミは波乗りも会得し、十分なほどに波に乗れていた。

 

渚  「素質ありますよナオミさん。もっと経験を積めば、もっと大きな波や高度なテクニックだって使いこなしちゃいそうです」

ナオミ「先生がいいからさ」

 

ボードの上で休憩がてら雑談をしていると、大きめの波の起こりが目の前で起こり始める。

 

ナオミ「おっ、これは大きそうだな」

 

おもむろに挑戦し始めるナオミ。

 

渚  「あっ、ナオミさん!それはまだ早いです!」

 

最初はさほど大きくない波も、徐々に大きくなりはじめ、気が付けばナオミの体を大きく持ち上げはじめていた。

 

ナオミ「むっ、これはっ・・・・!」

 

層状以上の波の大きさに戸惑うナオミ。

そして、動揺からバランスを崩し__

 

バッシャーン!

 

波から落下し、大きく水しぶきを上げた。

 

渚  「ナオミさん!大丈夫ですか!?」

ナオミ「ぷはっ。ああ、大丈夫だ」

 

すぐに水面に姿を現すナオミ。

 

ナオミ「あんな大きい波も来るんだな」

渚  「気を付けてくださいね」

ナオミ「そうだな。まだあまり大きくない波で__ん?」

 

気が付くと、ナオミたち以外にももう一人、付近でサーフィンにいそしむ人影があった。

どうやら同年代の少女らしい。

 

少女 「よっと!うわわわ、と、っと!」

 

やや危なげなバランスだが、先ほどナオミが乗れなかった波と同じ大きさの波にうまく乗っている。

それを見て、何やら感情が湧き出てくるナオミ。

沖へ向かってボードを漕ぎ、波を待つ。

やがて、先ほどと同じ大きさの波が発生し、ナオミはそれに乗る。

今度は動揺しなかったからか、しっかりと波に乗り、ボードの上に立って見せる。

 

少女 「おっ?おお~~」

 

少女もそれに気づいたのか、声を上げる。

 

ザッパーン

 

やがて波は崩れ、水面に姿を現したナオミはどことなく満足した顔を浮かべる。

そして、もう一度という感じで沖に再び漕ぎ出す。

再び波を待っていると__

 

ナオミ「む」

少女 「おっ」

 

そこには少女がすでに波待ちをしている。

お互い何も言わず、じっと波を待つ。

そして大きな波が現れ、二人とも上手く波に乗る。

 

ザッパーン

 

ナオミ「・・・・ふっ」

少女 「・・・・へへっ」

 

何やらお互い不敵な笑みを浮かべ、照らし合わせるように同時に沖に戻る。

そして波を待つ。

二人とも波に乗る。

沖に戻る。

波に乗る__を繰り返していた。

 

渚  (何だか競い合ってるみたい。でも楽しそうだなあ)

 

やや人見知りがちな渚は輪に入るきっかけがつかめず、遠巻きに眺めていた。

何度波乗り合戦を繰り返したかその時、今までにない大きな波が生まれ始めた。

 

ナオミ(これは)

少女 (逃す手はないね!)

 

お互いに目線をかわし、大波に立ち向かう二人。

そんな二人に気が付いた渚が

 

渚  「あっ、危ない!その波は大きすぎてまだ早いですよ!」

 

慌てて声を上げるが、二人の耳には入らず波に乗り始めてしまう。

ぐんぐん大きくなる波。

そして、波は信じられないほどのビッグウェーブになり__

 

ナオミ「!」

少女 「!」

渚  「ナオミさんっ!」

 

途中で突如波は崩れ、二人を飲み込んだ。

そして、ナオミの意識は闇に落ちていった・・・・。

 

???「い、おーい・・・・」

ナオミ(ん・・・・?)

 

声をかけられた気がして、ゆっくり目を開けるナオミ。

目を開けると、目の前には__

 

少女 「あーよかった、目さましたね」

ナオミ「キミは__」

 

先ほどまでナオミと波乗り合戦で張り合っていた少女がいた。

 

ナオミ(私は、どうしたんだっけ・・・・?そうだ、大きすぎる波に挑戦して、波が崩れて、そして__)

 

状況を理解しようと周囲を見渡す。

寝かされていた場所が砂浜なことに気が付いた。

周囲に建造物は見えず、ヤシの木などとってつけたような熱帯植物が多数目に入る。

 

ナオミ「ここは、浜辺・・・・?由比ガ浜にこんな場所あったか・・・・?」

少女 「うーん、僕は由比ガ浜には詳しくないんだけど、どうやらここはさっきまでいた場所とは違うところみたいだよ。なんか島みたいなんだ」

ナオミ「島だって?」

 

ゆっくり立ち上がり周囲を見渡す。

見渡す限り、浜辺と海と熱帯雨林しか目に入らない。

どう見ても通いなれた由比ガ浜とは様相が違う。

 

ナオミ「さっきの大波に飲まれて、どこかの島に流れ着いたということか・・・・」

少女 「そうかもしれないね。もしかしたら無人島かも」

ナオミ「そうか・・・・」

ナオミ(参ったな。サーフィンする前にスマホは置いてきてしまったし、ここがどこかわからなければ泳いで辿り着くのも不可能だ。かと言ってここで手をこまねいていても__)

 

ふと気が付くと、隣にいたはずの少女がいない。

見渡すと、少女はジャングルを覗き込んでいる。

 

ナオミ「どうした?」

少女 「ジャングルだね」

ナオミ「そうだな」

少女 「結構広そうだね」

ナオミ「そのようだな」

少女 「・・・・」

ナオミ「どうした?」

 

よく見ると、少女の方が細かく震えている。

そして__

 

少女 「探検だーっ!」

 

そう叫ぶやいなや、少女はジャングルに駆け込んでいった。

 

ナオミ「お、おい!」

 

慌てて追いかけるナオミ。

木々が生い茂るジャングルだというのに、少女の足取りは軽く、ナオミは追いかけるので精いっぱい。

と、少女が開けた場所で立ち止まった。

そこだけは植物が生えておらず、中心には人ほどの大きさの岩が鎮座している。

 

ナオミ「全く・・・・。無計画に走り回ると危険だぞ。__どうした?」

 

先ほどまで駆けまわっていた少女は、先ほどと打って変わって周囲を見渡している。

 

少女 「ねえ、おかしいと思わない?」

ナオミ「何がだ?」

少女 「この島さ。日本に、こんなたくさん熱帯植物が自生してると思う?」

ナオミ「・・・・確かに、言われてみれば」

 

ここに来るまでを思い返す。

目に入る植物は、どれも海外の熱帯地方では見られる植物だが、ここは日本である。

無人島といえど、ここまで生えそろうのは不自然といえる。

 

少女 「まるで南の島を再現するために植えられてるみたいだよね」

ナオミ「ああ。見れば見るほど、植物園のような管理された規則性を感じる」

少女 「と、いうことは~?」

 

少女が広場の中心、大きな岩をぺたぺたと触り始める。

 

コンコン

 

岩に耳を付け、音を確かめている。

 

コンコン

コンコン

コンコン

トントン

 

少女 「!」

 

ふと、叩いていくうちに音が違う部分を見つけた。

そこを詳しく調べると・・・・

 

カパッ

 

ナオミ「!」

 

岩の一部が、切り取られるように開き、中にスイッチがあった。

 

少女 「やっぱりそうだ。ポチっと」

 

ためらいもなくスイッチを押す。

 

ウィイイイイイイイン

 

電動音が響き、岩が真っ二つに割れ、その中から__

 

ナオミ「階段・・・・?」

 

地下に伸びる階段が現れた。

覗き込んでみるが、中は薄暗く詳しくはうかがえない。

 

少女 「ね、入ってみないかい?」

ナオミ「__行くしかないだろうな」

 

覚悟を決め、階段に一歩足をかけ、足を止めるナオミ。

 

少女 「ん?どうしたんだい?」

ナオミ「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はナオミだ」

少女 「あ、そうだったね。僕は幹子。美樹幹子!よろしく!」

 

さらに場所は変わり、米国地球外生命体対策調査研究所にて。

 

クラー「酷い言われヨウでしたね」

ハリス「不屈の精神がモットーの我々でモ」

マー 「プライドと言うモノがアリまース!」

 

と、クラークは棚からメカメカしい手袋を取り出す。

 

クラー「今こそ、我々の科学力を見せつけル時デース!」

ハリス「イエス!ウェーキャンドゥイット!」

マー 「オーイエ!オーイエー!」

 

と、勇んで研究所を後にしようとする三バカ。

 

ハリス「オット。マーティン君、研究所のセキュリティスイッチは入れたカイ?」

マー 「シット!忘れテましタ!」

 

駆け足で慌てて研究所のセキュリティスイッチをONにする。

 

マー 「これで万時オーケーでース!」

クラー「デハ!」

ハリス「イザ倉鎌!」

三バカ「イヤッホーゥ!」

 

大盛り上がりで研究所を後にする三バカ。

はしゃぎすぎて、セキュリティの警戒レベルをレベルMAXの『MITモード』にしてしまっていることにも気づかずに。

海の家れもんでは、練習を終えたあんこうチームとイカ娘たちがテーブルを囲んでいる。

 

みほ 「わあ、きれいな箱ですね」

千鶴 「箱根に旅行に行っていた知り合いが、お土産にくれたのよ」

華  「箱根細工ですね。よくできてます」

 

テーブルの上にはいくつもの箱根細工が並べられ、各々が手に取っている。

 

イカ娘「この箱、フタがないでゲソ!欠陥品じゃなイカ!」

沙織 「違うよ、イカちゃん。見てて」

 

沙織は箱根細工をすこしいじり、何か所か動かして見せる。

箱に隠れた細工が動き、イカ娘の思いもよらない方法で開けて見せる。

 

イカ娘「おお!ただの木箱だと思ったらこんな仕掛けがあったのでゲソか!」

優花里「こうやって仕掛けを解いていくと、最終的に箱が開く仕組みなんですよ」

イカ娘「面白いでゲソ!開けてみるでゲソ!」

 

箱根細工に夢中になるイカ娘。

 

するとそこへ__

 

ハリス「リベンジに来ましタ!」

 

三バカたちがやってきた。

 

栄子 「開口一番何血迷ったこと言ってんだ」

マー 「栄子サン。先ほどは至らぬところをさらしてしまい、お恥ずかシイ限りデス!」

栄子 「いつものこったろ」

クラー「フッフッフ、これを見ても同じことが言えるでショウか!」

 

バッ、と研究所から持ってきたメカメカしい手袋を装着した手を見せるクラーク。

 

イカ娘「何でゲソ、その手袋は?」

栄子 「夏に手袋なんてすんなよ、見てるだけで暑苦しい」

ハリス「HAHAHA、これはタダの手袋デハありまセーン!」

マー 「これぞMIT主席の我々が最新の技術を持ち合わせて開発シタ!」

クラー「『何デモ分解ハンド君』でース!」

麻子 「酷いネーミングだ」

沙織 「しーっ。言っちゃダメだって」

華  「そうですよ。あちらの人たちはかっこいいと思っているのかもしれませんよ」

イカ娘「ふむ、これもお主たちの発明でゲソか」

クラー「ソノ通り」

 

クラークはキョロキョロと何かを探す。

そして、テーブルに置かれた箱根細工が目に入る。

 

クラー「丁度いいデスね」

 

ひょい、と手に取る。

と__

 

みほ 「あれ?」

 

クラークの手の上には、すでに完全に仕掛けが解かれた状態の箱が乗っていた。

 

栄子 「お前、いつ開けたんだ!?」

ハリス「イエース!これが我々の技術の粋とイウ物!」

マー 「こノ手袋を嵌めて両手でモノに触ルとー!」

ハリス「それを自動的ニ分解出来ルとイウ優れモノでース!」

クラー「ドウです?見直しマシたでショウ!?」

イカ娘「いったいどういう理屈でこんなもの持ってきたのでゲソ」

華  「おそらく、先ほどの修理がお上手だった方に対抗するおつもりだったのでは」

麻子 「修理で負けたなら解体で勝負、か。方向性は間違ってはないが」

栄子 「今は解体技術なんて必要じゃないんだよ。凄いのはわかったからとっとと帰れ」

 

押し返そうと手を突き出す栄子。

 

クラー「オット!気を付けテ下さーイ」

栄子 「あん?」

クラー「マダ人体実験はシテいないのデース。もし万が一コレに触れタラどうなるノか・・・・保証はデキマせーン」

 

栄子の脳裏に、分解ハンド君に触ってしまい分解される自分の姿がよぎる。

 

栄子 「んな物騒なモン持ってくんな!」

 

反射的にクラークにめり込む右ストレート。

 

クラー「オボッ!」

 

奇麗に決まったそれは、クラークの意識を一瞬飛ばし、足がもつれる。

 

クラー「オット」

 

そして、倒れるのを防ごうと__

 

みほ 「あ」

沙織 「あ」

イカ娘「あ」

栄子 「あああああああーーっ!」

 

クラークは店の柱両手で・・・に掴まった。

 

場所は再び変わり、無人島で謎の階段を見つけたナオミたち。

勇み降り進んだ先は、まっすぐ伸びる謎の通路だった。

 

ナオミ「しかし・・・・どこまで続くんだこの通路は」

幹子 「だいぶ歩いたよねー」

ナオミ「そもそも行き先はどこになるんだ」

幹子 「無人島にあんな仕掛け、さらに海底に伸びる秘密通路。これはあれだね。行きついた先は悪の秘密結社のアジトしかないよ!」

ナオミ「どうしてそうなるんだ。__だが、我々は秘密を暴いてしまった身だ。ここの者が必ずしも友好的とは限らんな。警戒して進もう」

幹子 「おー!」

 

そしてついに、入口らしき扉にたどり着く。

ゆっくり扉を開けて、中に入ると・・・・

 

ナオミ「何だここは」

幹子 「おおー、これはあれじゃないかな?悪の秘密基地!」

ナオミ「そんなバカな・・・・とは言い切れんな、これを見ると」

 

そこは何かの研究をしているかのように見え、怪しげな装置や人一人は入れそうなカプセルが所狭しと設置されている。

興味津々な幹子が一歩足を踏み入れた瞬間__

 

ビー!ビー!ビー!ビー!

 

音声 『侵入者発見!侵入者発見!』

 

耳をつんざくほどの警報が施設内に響き渡る。

 

ナオミ「まずい、見つかったぞ」

 

途端に上から怪しい装置がいくつも降りてくる。

金属のアームの先に取り付けられているのは、いかにも何か発射されそうな銃型の装置。

 

音声 『セキュリティレベルMAX、MITモード。侵入者を排除します』

ナオミ「排除!?」

 

物騒な言葉に仰天するナオミ。

 

音声 『排除、開始します。・・・・イヤッホオオオオーウ!』

 

ビシュシュシュシュ!

ビィーッ!

ビュイーーン!

 

音声が終わるや否や、無数のアームから大量のビームらしきものが乱射される。

ナオミは咄嗟に物影に身を隠し、様子をうかがう。

 

ナオミ「とんでもないところに来てしまったようだな。気をつけろ、幹子。__幹子?幹子!」

 

周囲を見渡しても幹子の姿がない。

慌てて探すと、なんと幹子はセキュリティシステムの群れの真ん中に立っている。

 

ナオミ「幹子、危ない!早くそこから逃げろ!」

幹子 「大丈夫大丈夫!こいつらの注意は僕がひきつけるから、ナオミさんは解決策を見つけて!」

ナオミ「ひきつけるって、__よせ!」

音声 『発射イヤッホオオオオウ!』

ナオミ「幹子ーっ!」

 

ビビビビビ!

 

四方八方から降り注ぐビームの雨。

しかし、幹子はそれを__

 

幹子 「よっと」

 

音もたやすくかわして見せる。

 

ナオミ「かわした!?」

 

続く第二射、三射も難なくかわす。

と、後ろからもアームが伸びる。

 

ナオミ「幹子、後ろだ!」

 

ビーッ!

 

幹子 「ひょいっと。甘い甘い!」

 

後ろに目が付いているのか、背後からの攻撃もひらりとかわす。

 

幹子 「さあ、どんどんこーい!」

 

今や全システムは幹子に注力していて、ナオミは完全にフリーになっている。

 

ナオミ(なんて洞察力だ。銃口の向きと発射されるタイミングから射角を割り出し、瞬時に安全な位置に身を移している。向こうだって偏差を計算したうえで攻撃しているというのに、あいつはその上を行っている)

 

ナオミの脳裏に、先の戦車道大会でⅣ号にかわされた最後の砲撃を思い出す。

 

ナオミ(偏差射撃を読み、かわす。そしてそれをも読んだ正確な予測射撃がこれからは求められるということか。__まったく、これからの課題は簡単じゃないな)

 

ふと、傍らに不思議なデザインの銃らしきものが転がっていることに気づく。

それを手に取り、構えるナオミ。

セキュリティ装置は高速で動き回るが、ナオミは慌てず動きを観察する。

そして__

次の動きを予測し、修正を加えたうえで__

 

ナオミ「__そこだ!」

 

ビュウィーン!

 

変な音を立てて、銃から光線が発射される。

それを察知したアームがかわそうとするが__

 

ビビビビビビ!

BOOOMB!

 

偏差に加え、相手の回避ルートをも読んでいたナオミの射撃は見事アームをとらえ、一つが爆散する。

 

幹子 「やった、ナオミさん!」

ナオミ「油断するな!全部仕留めるぞ!」

幹子 「おーう!」

 

その頃、由比ガ浜では。

 

百合子「そろそろ、お腹すいてきたねー」

勇樹 「そうですねー」

 

二人を乗せたFCMは、まだ海岸沿いを走っていた。

 

百合子「海の家とか、ないですかね~。・・・・あれ?」

 

キューポラからあたりを見回していた百合子が声を上げる。

 

百合子「なんだろあれ。__廃墟?」

 

近づいていくと、それは__

 

華  「あらあら、これは・・・・」

優花里「あっという間でしたね」

 

骨組みの一つに至るまで完全分解された、れもんの姿だった。

廃墟と化したれもんの中心では、正座させられている三バカと、やたらと笑顔の千鶴がいた。

栄子とイカ娘は抱き合ってガクガク震えている。

 

千鶴 「お店、見事にバラバラね」

ハリス「ハイ」

千鶴 「これじゃ、お店ができないわね」

マー 「ハイ」

千鶴 「どうしてくれるのかしら?」

クラー「アノ、わざとジャ・・・・」

 

トン!

 

三バカの目の前に、出刃包丁が突き刺さる。

千鶴の背中から漆黒のオーラが吹き出始める。

 

三バカ「ヒイイ!」

千鶴 「私ね、得意なの。__みじん切りが」

三バカ「Nooooooooooo!」

 

三バカの命の灯が今にも根元からぶった切られそうなその時__

 

百合子「ちょーっと待ったです!」

 

百合子が千鶴の前に割り込んだ。

 

沙織 「あれ、あの人、さっきの__」

百合子「あの、この人たちがどんな間違いを犯したかわかりませんが、傷つけるのは良くないです!」

 

突然の乱入者にオーラを少し収める千鶴。

 

千鶴 「あら、大丈夫よ。こらしめるだけだから」

百合子「あっ、そうなんですか?それだったらまあ、いいかな?」

クラー「チョ、ちょ、助けてクダさーイ!」

ハリス「ヘルプ、ヘルプミー!」

マー 「ハンバーグになっちゃいマス!」

千鶴 「でも、おかげでお店がこの通りなのよ。せめてお店が直るのなら少しは抑えられるんだけど」

百合子「わかりました、直ればこの人たちを許してくれるんですね?」

 

さっ、と目線を勇樹に送る。

やれやれ、と苦笑いし、勇樹は工具箱を手に戦車から降りるのだった。

 

三十分後。

 

勇樹 「よっこいせっと。__こんなもんか」

 

最後の骨組みを合わせ終える。

手に持っていた工具をくるくると回し、スチャッと腰に差す。

そこには、すっかり元通りになったれもんが建っていた。

 

みほ 「本当に直しちゃった・・・・」

麻子 「まるでマンガの世界だな」

華  「世の中には、いろいろな特技を持った人がいるのですね」

沙織 「いいのかな、そんな言葉ですましちゃって」

優花里「まあまあ。終わり良ければ総て良し、ですよ」

千鶴 「まあ、ありがとう。すっかり元通りだわ」

勇樹 「この分解ハンド君、分解したパーツとかを全く傷つけず解体してましたよ。だから戻す時も支障はなかったんです。使い道を間違えなければ、すごい発明ですよこれ」

クラー「お褒めに預かり光栄デース」

 

勇樹に助けられ、すっかり頭が上がらなくなった三バカ。

 

千鶴 「本当にありがとう。お礼に腕によりをかけてお料理するわ。楽しみにしててちょうだい」

百合子「やったー!お腹ペコペコです!」

勇樹 「それじゃお言葉に甘えて」

イカ娘「お主よ、あの技術はどうやって身に着けたのでゲソ?ぜひ教えてほしいでゲソ!」

優花里「私もです!あの補修技術は是非会得したいです!」

栄子 「しかしお姉さん度胸あるね。あんなに怒り狂った姉貴の前に飛び出るなんて」

麻子 「あれは本気で怖かった・・・・」

みほ (怒ってる時のお母さんより怖い人、初めて見たかも・・・・)

 

そして運ばれてくる料理。

 

百合子「はむっ・・・・。おいしい!」

勇樹 「ああ、こりゃそこらの店より断然うまいです」

百合子「おかわりください!」

勇樹 「早っ!」

 

気が付くと、勇樹の隣に優花里が座っている。

 

優花里「勇樹殿!先ほどの戦車の修理といい、今回の修復と言い、感動しましたであります!」

勇樹 「え?ああ、どうも」

優花里「やはり特別な訓練をされてきたのでしょうか?どのような訓練なのでしょうか?自分にも会得できるでありましょうか!?」

 

尊敬と羨望が混じった輝く目で勇樹に迫り寄る優花里。

 

勇樹 「いや、あれは訓練っていうか、好きでやってるって言うか・・・・」

麻子 「あれは私も気になる。構造力学とか、建築数学とか、そういうものとも違う独自の物を感じる。興味ある」

 

反対側に麻子に座られ、両側から迫られる勇樹。

 

勇樹 「だから、あの、それは・・・・」

 

しどろもどろになっていると__

 

百合子「それはもちろん!勇樹君がすごい人だからです!」

 

ガバッ!

 

百合子が後ろから勇樹に抱き着く。

 

百合子「勇樹君は賢くって、勇樹君は優しくって、勇樹君は・・・・私のヒーローなのです!」

勇樹 「うわっ、ちょっ、百合子さん危ないって!」

 

勇樹の制止も聞かず引っ付く百合子。

それを少し困った顔をしながらも受け止める勇樹。

それを真っ赤な顔をしながら見つめる沙織は、

 

沙織 「これ以上は野暮だよ!」

 

と、麻子の襟首を持って立ち去る。

その勢いのまま、優花里も持っていく。

 

優花里「ああっ、ま、待ってください!せめて、せめて転輪の履修技術のコツをー!」

沙織 「人の恋路を邪魔する人は、戦車に蹴られて由比ガ浜って言うでしょ!」

麻子 「初めて聞いたぞ。おい、離さないか!まだ聞きたいことがー」

 

麻子たちが去ったあと、しばらくそこは二人の空間が形成されていた。

 

クラー「イヤー、それにしてモ助かりましたネ」

ハリス「一時はモウ終わりカト」

マー 「彼らニは感謝ですネー」

 

安堵した三バカが帰ろうとすると。

 

千鶴 「あら?どこへ行くの?」

マー 「エ?許してもらえタんですシ、帰ろうカト」

千鶴 「ええ。お店を壊したことは勘弁してあげる。でも__」

ハリス「エ?エ?」

千鶴 「お店に来ていたみんなに迷惑をかけたことに関しては、許していなかったわよね?」

クラー「エ?エ?エ!?」

千鶴 「あの子たちもいる手前だし、みじん切りは勘弁してあげる」

 

スラっと包丁を抜く千鶴。

 

ハリス「ノ・・・・」

マー 「ノ・・・・!」

三バカ「Noooooooooooo!」

 

三バカの断末魔は空にまで響いた。

 

ウィイイイイイイイイイン

 

由比ガ浜のとある岩場に隠れている、米国地球外生命体対策調査研究所の入り口が開く。

中からナオミと幹子が出てきた。

 

幹子 「やった、外だ!」

ナオミ「無事に出られたな」

 

あたりを見回すと、見覚えのある場所だと気づく。

 

ナオミ「何だ、ここは由比ガ浜じゃないか。すぐそこにれもんもあるはずだが」

幹子 「あっ、そうなの?じゃあさっきの場所に戻って来たんだ?」

 

と、幹子が途端に焦った顔になる。

 

幹子 「やばっ!勇樹君たちのこと忘れてた!もう来てるかも!」

ナオミ「知り合いか?」

幹子 「うん、いとこ!会おうって呼んでたの忘れてた!」

 

言い終わるが早いか駆けだす幹子。

 

幹子 「じゃあねナオミさん!キミとの冒険、楽しかったよー!」

ナオミ「こちらもいい経験になった。また会おう」

幹子 「ばいばーい!」

 

手を振りながら幹子は去っていった。

 

ナオミ「さて、私も戻るかな。渚が心配してるかもしれない」

 

と、ナオミも去っていった。

それから間を置かず。

 

マー 「ヒドい目に逢いマシた」

ハリス「命あるダケよしとしまショウ」

クラー「むしろヨク生きてますね、私タチ」

 

千鶴に千切りにされた三バカがよたよたと研究所に帰ってきた。

研究所の入り口を開けるスイッチを押す。

扉が開き、内部が見える。

 

マー 「ホワッツ・・・・!?」

 

内部は錚々たるありさまだった。

あたりから火花が散り、設備は大破し、セキュリティアームはことごとく破壊されている。

 

クラー「イッタイ、何が・・・・」

ハリス「ホント、今日は・・・・」

三バカ「厄日デーーーーース!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

幹子 「おーーーい!」

百合子「あっ、幹子ちゃん来ましたね」

勇樹 「まったく、やっと来たか」

 

戦車を返し終えた勇樹たちは、浜辺で幹子と合流した。

 

勇樹 「おっせえよ、何してたんだ」

幹子 「ごめんごめん、悪の秘密基地で射撃の上手い女子と一緒に戦っててさ」

勇樹 「はあ??」

 

言ってる意味が理解できない勇樹。

 

勇樹 「んで、俺たちを呼んだ理由は何なんだよ」

幹子 「あっ、そうそう!この町にすっごいおいしいスイーツがあってさ!勇樹たちにも食べさせてあげたくて」

百合子「スイーツですか!?」

勇樹 (まだ食べるのか!)

幹子 「こっちに売ってるよー」

 

幹子が先導する。

 

百合子「どんなスイーツでしょうか?楽しみです!」

幹子 「江の島名産を使った、斬新なアイスだよ!」

勇樹 「江の島名産の、アイス・・・・?」

 

嫌な予感がする勇樹。

やがて、その店につく。

 

幹子 「じゃん!江の島名産、しらすソフトクリーム!」

百合子「まあ!」

 

目を輝かせる百合子。

 

勇樹 「しらすはもうええっちゅねんーーー!」

 

勇樹は空に向かって絶叫した。




今回のお話は、水岸薫さんのオリジナル小説『organization』からキャラクターをお借りして描かせていただきました。
ありがとうございます。
こう言った試みは初めてだったのですが、楽しんでもらえる作品に出来ていたのならば幸いです。

原作のお話の方はかなりSFなお話でしたので、そのまま設定を持ってきてしまうと世界観が崩壊してしまう故、こちらの方でかなり設定を押えさせていただきました。
あちらの方ではSF全開なので、ご興味があればぜひ。

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