侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※このシリーズは、大学選抜編第4話までを先にお読みいただいているともっとお楽しみいただけます。



ハンドサイン・ウォー!

ドゴオオオオン!

 

いつもの夏のとある日。

由比ガ浜にある戦車道演習場では愛里寿率いる大学選抜チームが訓練を行っていた。

それを場外から双眼鏡で見学しているイカ娘たち。

 

愛里寿「ルミ隊、前線へ誘い出されている。気づかれたと感じさせないよう減速、B隊とC隊で両側から挟み込め」

隊員 『了解!』

 

戦車道を心がけるものにはおなじみになっている咽頭マイクを駆使し指示を飛ばす愛里寿。

指示通りルミの両脇から二両の戦車が回り込み、挟撃をかける。

 

ヴオン!

 

と、そこへ愛里寿の位置を読んでいたのかセンチュリオンの後方からパーシングが飛び出してきた。

 

愛里寿「アズミか。いい動きね」

アズミ「隊長、今日こそ一本いただきますよ!」

愛里寿「・・・・」

 

冷静に後方を確認し、手を車内に隠す。

 

サササッ

 

ハンドサインで車内にいる隊員たちに指示を送る。

 

バアン!

 

パーシングが火を吹く。

 

ササッ

 

それに対応するかのように再びハンドサイン。

 

ギュイイイイン!

 

センチュリオンが華麗に超信地旋回、パーシングの砲弾を難なくかわす。

 

サッ

 

そして三たび愛里寿のハンドサイン、そして__

 

バアン!

シュポッ

 

速攻で放たれた反撃の砲撃一つで、パーシングは白旗を上げるのだった。

 

 

~~演習後~~

 

 

アズミ「うう~ん、惜しかったわあ。あとちょっとで一矢報えたのに」

メグミ「甘いわね。あの程度の奇襲で隊長の予測範囲を超えられたわけないでしょう」

ルミ 「あそこから三手くらい上乗せできてたら可能性は三割くらいあったんじゃない?」

アズミ「相変わらず厳しいわねえ」

 

などと語らいながらワイワイと愛里寿たちが戻ってきた。

 

イカ娘「愛里寿、お疲れ様でゲソ」

 

愛里寿にペットボトル(コラボしてボコの絵柄が載っている)を差し入れするイカ娘。

 

愛里寿「ありがとう。・・・・んく、おいしい」

 

一息付けたように表情を緩ませる。

 

千鶴 「もちろんみんなにも用意してあるわよ」

 

千鶴が大きなクーラーボックスを抱えて持ってくる。

 

ルミ 「やっほー!」

メグミ「ありがとうございます!」

アズミ「私オランジーナもらい!」

メグミ「あっ、ずるい!私も狙ってたのに!」

 

途端にドリンク争奪戦が始まった。

 

イカ娘「時に愛里寿よ」

愛里寿「なあに?」

 

はしゃぐルミたちを横目に見ていた愛里寿に話しかける。

 

イカ娘「さっき見てて思ったのでゲソが、あれは何だったのでゲソ?」

 

そう言って手をニギニギさせる。

 

愛里寿「あれ?・・・・ああ、ハンドサインのこと?」

 

言いたいことを察した愛里寿。

 

愛里寿「あれはセンチュリオンの中にいる隊員に向けた合図だよ。あれを見て戦車を動かしてるの」

 

言いながらいくつかのサインをして見せる。

 

イカ娘「ふむ?どうしてそんなことしてるのでゲソ?車内に指示を出すのなら、声に出せばいいじゃなイカ。いちいちこんなことしてたら面倒くさくなイカ?」

愛里寿「確かに口で言えば早いかもしれないけど、それじゃ相手に指示の内容がばれちゃうかもしれないし」

イカ娘「?戦っている間は音がすごいから相手の声なんて聞こえないじゃなイカ?」

愛里寿「でも相手と距離を詰めた状態で口頭指示を飛ばしたら、唇を読まれちゃうし」

イカ娘「え」

愛里寿「私はそう教えられてきたし、私自身ある程度なら口の動きで何を話してるかわかるよ。これも戦略の一つだもん」

 

ほー、と感心するイカ娘。

 

イカ娘「じゃあ、私が何を言っているかわかるでゲソか!?」

 

そう言って口をパクパクさせ始める。

 

愛里寿「・・・・えーと、『エビはおいしい』?」

イカ娘「おお、当たりでゲソ!じゃあ次でゲソ!」

 

パクパク

 

愛里寿「・・・・『ボコはかっこいい』」

イカ娘「すごいでゲソ!次でゲソ!」

 

大はしゃぎのイカ娘。

 

パクパク

 

愛里寿「・・・・、えっと・・・・」

 

途端に気まずそうな表情になる愛里寿。

 

イカ娘「どうしたのでゲソ愛里寿?さっきと同じくらい簡単でゲソ?」

 

不思議そうにもう一度口をパクパクさせる。

 

千鶴 「『千鶴は怒るととても怖い鬼のような存在』・・・・かしら?」

イカ娘「ひいっ!?」

 

夢中になっていたせいで気が付かなかったが、イカ娘の後ろにはやけに笑顔を浮かべた千鶴が立っていた。

 

イカ娘「いや、これは、その、そう!愛里寿との遊びの一環でゲソ!本気で言ったんじゃないでゲソ!」

 

ガシッ!

 

苦し紛れの言い訳をするイカ娘の首根っこを引っ掴む千鶴。

 

千鶴 「それじゃあ私たちはこれで失礼するわね。愛里寿ちゃんも訓練頑張ってね」

愛里寿「あ、はい・・・・。差し入れ、ありがとうございました」

 

千鶴は笑顔でひらひらと手を振り、真っ青な顔をしたイカ娘を引きずるように連れ帰っていった。

 

愛里寿(・・・・イカ娘の背中しか見えていない、しかも口パクだったのに、どうして千鶴さんは言ったことが正確にわかったんだろう・・・・)

 

いくら考えても出ない答えを胸に、愛里寿は二人が去るのを見続けていた。

 

その日の夜。

 

イカ娘「ひどい目にあったでゲソー・・・・」

 

千鶴にこってりお叱りを受け、ぐったりしたイカ娘は栄子の部屋でベッドに寝転がる。

あおむけになり、不意に手をかざす。

 

イカ娘「むー・・・・」

 

愛里寿のハンドサインを思い出し、適当に手を組んでみる。

 

栄子 「何してんだお前」

イカ娘「あ、栄子。ハンドサインを考えてたのでゲソ」

栄子 「はあ?」

 

かくかくしかじか。

 

栄子 「はー、家元の子ともなるとそこまで考えてんのか。格が違うなー」

イカ娘「それで、私も何かサインを決めたいでゲソ。決まったらカッコよくなイカ?」

栄子 「そりゃいいかもだけど、即興でできるもんでもないだろ。そもそもサインがどういう意味を持ってるのかチーム内で把握してないといけないし」

イカ娘「言われてみればそうでゲソね」

 

ふと、じーっと栄子を見る。

 

栄子 「・・・・なんだよ」

イカ娘「・・・・」

 

ササッサッササ

 

栄子を見ながらイカ娘が幾通りかハンドサインを送る。

と__

 

ぐにいいいいっ

 

栄子がイカ娘の両頬を引っ張り上げる。

 

イカ娘「いひゃ、いひゃいでげひょ!なにひゅるんでげひょー!」

栄子 「お前、私の悪口言っただろ!何となくわかるんだよ!」

 

 

~~次の日~~

 

 

イカ娘「というわけで、散々だったでゲソ」

みほ 「あはは・・・・」

 

みほ、愛里寿、イカ娘の三人・・・・というかそれぞれのチームの戦車が今日も演習場に集まっていた。

 

愛里寿「それで、ハンドサインは何かできたの?」

イカ娘「それがいろいろ考えたのでゲソが、どうにもうまく伝わりそうにもなかったのでゲソ」

みほ 「そうなんだ。私もほとんど指示はマイクで送ったりするけど、いざというときは手とかで直接合図送ったりしてたかな」

イカ娘「というわけで、私なりのハンドサインを編み出したのでゲソ!」

愛里寿「へえ、どんな?」

イカ娘「ふっふっふ、これは革命的でゲソよ。このサインは分かるものには教えなくても見れば即座に理解できて、しかも他の者にはわからないのでゲソ!」

みほ 「わあ、すごい!いったいどんな方法なの?」

イカ娘「それは実際にやってみてのお楽しみでゲソ。この訓練の間に披露するでゲソよー♪」

 

かくして訓練が始まった。

今回強豪と対峙した時の適応力を見る目的で、みほと愛里寿が同じチームに、おまけでイカ娘も同じチームに加わっている。

 

ルミ 「さすが隊長と西住流、付け入るスキが無いわ」

メグミ「アズミ、私が右舷から奇襲で注意をそらす。そのスキにまずは西住流を」

アズミ「了解!あれからさらに冴えわたる、私たちのバミューダアタックを披露しましょ!」

 

散会するバミューダのパーシング三両。

それを正面からチャーチルに乗ったイカ娘が目視していた。

 

イカ娘「散会したでゲソ!」

栄子 「陽動して背後から突く作戦か?」

渚  「後方にいる愛里寿さんたちに知らせないと!鮎美さん、通信を__」

イカ娘「その必要はないでゲソ!」

 

イカ娘が無線を制止し、触手を束ねて上へ高く伸ばしていく。

その頃、後方の愛里寿とみほ。

 

みほ 「バミューダの皆さん、どういう風に仕掛けてくるのかな?」

愛里寿「三人は訓練のたびに新しい手を仕掛けてくる。偵察でもしないと手は断定できない。でも今回はそれは難しいから__」

 

言いかけた愛里寿が口を止める。

 

みほ 「愛里寿ちゃん、どうしたの?」

愛里寿「みほさん、あれ!」

 

驚きの表情で前方上空を指さし、みほもそれを見る。

 

みほ 「え!?あれって・・・・」

愛里寿「ボコ!?」

 

空中には、イカ娘が触手で描いたボコの姿がはっきりと描き出されていた。

そして、そのボコがまるでアニメにように動き出した。

そのボコは飛び上がり、ボディプレスをするかのような動作をする。

そのあと地面に激突したような体制に、そしてそのまま回転し始めた。

 

愛里寿「!あれって・・・・!」

みほ 「ボコイングボディプレス!」

愛里寿「__そうか、わかった!」

 

その頃、バミューダのパーシング。

 

ルミ 『ねえ、さっきすれ違ったイカ娘ちゃんのチャーチルから何か出てるわよ?』

メグミ『あれは・・・・ボコ?置いてかれちゃったからいじけて遊び始めちゃったかな』

アズミ「ふふふ、今回の陽動はうまくいっているみたいね。今日こそはあの西住流に一泡吹かせ__」

 

ほくそ笑むアズミのパーシングが稜線を超えると、そこには待ってましたと言わんばかりにバッチリ狙いを定めているⅣ号が立ちはだかっていた。

 

アズミ「え、どうし__」

みほ 「撃て!」

 

バアン!

シュポッ

 

かくして、バミューダトリオの計画も水泡に帰したのだった。

 

ルミ 「ああんもう!今回こそ裏をかけたと思ったのに!」

愛里寿「あれはいい陽動だった。だけど手段や構成を知られては逆に利用される危うさがある。今度は偵察が全くいない状況になってから仕掛けるといいと思う」

アズミ「そういえば気になってたんですけど、どうやって私たちの作戦を見破ったんです?」

イカ娘「それは私のハンドサインによるものでゲソ!」

 

ドヤ顔でアピールするイカ娘。

と、触手で先ほどの動くボコ像を作り出し、先ほどと同じ動きを見せた。

 

メグミ「これはさっきイカちゃんが作ってた・・・・。これがどういうこと?」

愛里寿「これはボコのテレビシリーズ第二十三話で、ボコが繰り出した必殺技・ボコイングボディプレス」

ルミ 「・・・・はい?」

みほ 「その時は前にいる三人組の左に向かって飛び込んで、でも距離が足りず地面に落ちちゃうの」

アズミ「痛そう」

愛里寿「でもそれはフェイント。ボコの狙いは本当は右側で、そこから体を大きく回転させて体ごとぶつけようとしたの。・・・・結局勢いが足りなくて届かず、ボコボコにされちゃったけど」

みほ 「でもすごい頑張ってたよね。あとちょっとだったんだけど」

ルミ 「えーと・・・・つまり?」

愛里寿「左はフェイント、右が本命。つまり左から仕掛けてくるけど陽動で、右から本当の奇襲が来る、っていうこと」

みほ 「だから左を愛里寿ちゃんに任せて、私は右のアズミさんを迎え撃つことができたの」

アズミ「そんな方法が・・・・!」

愛里寿「一風変わった伝達方法だったけど、すごく分かりやすかった。私やみほさんなら、一目見ただけで全部わかっちゃった」

ルミ 「いや、それは隊長たちが特殊なだけで・・・・」

愛里寿「そうだ!ルミたちもこの伝達方法使えるようにしよう」

ルミ 「ええっ!?」

愛里寿「そうすれば無線の調子が悪くても意図は伝わるし、相手には解読されにくいし!」

メグミ「いえでも、私たちボコには詳しくないですし・・・・」

みほ 「大丈夫です!私ボコのDVDもたくさん持っているので、お貸しします!」

アズミ「えええええ!?」

 

バミューダトリオにボコを布教しようとグイグイ迫る愛里寿とみほ、なんとか場を収めようとするバミューダトリオ。

そしてそんな彼女らを見てうんうんと満足そうに頷くイカ娘と、さらにそれらを見てやれやれと言った風に苦笑いするあんこううチームの面々だった。




私事により、長い間更新が滞っており、大変申し訳ありませんでした。

本当にいろいろありましたが、ようやく元通りになりつつもあり、また投稿再開の意思がまだあること、今年中には何かしらの形で一つでも投稿したいと思っていたので、短いながら番外編を投稿させていただきました。

ふんぎりがつくまで時間はかかりましたが、執筆しながらまだ自分の中で投稿の意欲は消えていないことが再確認できましたので、あとちょっと番外編を数回はさみ、それから劇場版の続きを投稿していこうと思っています。

わがままなお願いで恐縮ではありますが、これからもお付き合いいただけるのならばどうかよろしくお願いいたします。

ではまた来年お会いいたしましょう。
よいお年を!

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