侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


アヒルさんチーム→アヒル

ウサギさんチーム→ウサギ

カメさんチーム→カメ

カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門佐→左衛門
カバさんチーム→カバ

カモさんチーム→カモ

ナカジマ→ナカ
レオポンさんチーム→レオ

ねこにゃー→ねこ
ももがー→もも
ぴよたん→ぴよ
アリクイさんチーム→アリ


第6話・最後の戦いじゃなイカ?

場所は由比ヶ浜沖、大洗女子学園艦生徒会室。

 

柚子 「会長、これとこれに判をお願いします」

杏  「はいよー」

 

会長席に座った杏がポンポン、と慣れた手つきで書類に判を押していく。

やがて全部の書類に判を押し終える。

 

杏  「これで全部?」

桃  「すいません会長、これにもお願いします」

杏  「はいよー」

 

桃が追加した書類にもポン、と判を押す。

 

柚子 「・・・・これで、全部ですね」

杏  「そうなの?今ので最後?」

桃  「はい。これで全ての処理が終わりました」

杏  「・・・・そっか。全部終わったんだね」

 

杏はイスをぎっと回し、窓の外に広がる大海原を見つめている。

桃と柚子も同じ方を見る。

 

杏  「__終わっちゃったか~・・・・」

桃  「・・・・」

柚子 「・・・・そう、ですね・・・・」

 

そして。

 

みほ 「えっ・・・・」

華  「出港、ですか?」

桃  「そうだ」

 

会長室へ呼び出されたあんこうチームは、伝えられた内容に目を丸くしていた。

 

柚子 「件の隊長会議も終わったし、学園長の陸学校への訪問も終わったから、由比ガ浜での目的は全部終えたことになるの」

麻子 「そういえばここに来たのはそういう目的だったな」

華  「すっかり忘れていましたね」

みほ 「あはは・・・・」

優花里「では、由比ガ浜ともお別れになるんですね」

沙織 「あのっ、それで出港はいつに!?」

桃  「今日の昼過ぎだ」

沙織 「ええっ!?」

桃  「__とまあ、本来ならそれぐらいでもいいのだが」

杏  「今回の出港は明日の夕方にしといたよ~」

みほ 「明日・・・・ですか」

柚子 「これでもできるだけ伸ばせた方なの。ごめんね」

みほ 「いえ、そんな!それだけでも十分です!」

柚子 「挨拶をしたい人たちもいるでしょう?今のうち存分に語らってきてね」

華  「お心遣い、感謝します」

桃  「以上だ。下がっていいぞ」

みほ 「失礼します」

 

そう言ってあんこうチームは会長室から去っていった。

 

柚子 「やっぱりショックみたいですね」

杏  「今回の寄港はいつもと全然違ったもんねえ」

桃  「ですが学園艦に暮らすというのはこういうことです。海の上で生活するにあたり、一定の陸地に留まり続けることこそ異常であり__」

杏  「はいはい、そこまでそこまで。さみしいはわかってるからさ」

桃  「なっ、わ、私はさみしがってなどは!」

 

杏に言われて涙目になっているのを必死に誤魔化す桃。

 

柚子 「大丈夫大丈夫。あとで私たちも挨拶しに行こうね~?」

桃  「だからっ、私はさびしがってなど__ちょっ、頭を撫でるなーーッ!」

 

廊下を歩くみほたち。

 

沙織 「出港か~。そうだよね、いつまでもここにはいられないもんね」

華  「とてもいい所でしたものね。離れるのが心惜しいです」

優花里「沢山の人たちともお知り合いになれましたしね」

麻子 「出港は明日だし、やり残したこととかあればやっておくべきだな」

みほ 「やり残したこと・・・・」

 

窓から外を覗くと、由比ヶ浜海岸が見えていた。

その日の昼ごろ、海の家れもんにて。

 

左衛門「冷やしうどん、おかわりだ!」

おりょ「やはりここの焼きそばは段違いぜよ・・・・」

カエ 「ううん、結局このカレーの作り方、聞きそびれてしまったな・・・・」

千鶴 「よかったら、コツとかメモに書き起こしておく?」

カエ 「いいのか!?それは是非お願いしたい!」

エル 「鉄板焼きの扱いは見ていて参考になった。これでもっとソーセージを上手く焼けそうだ」

 

すでにれもんには数チームが席についており、思い思いに料理を堪能している。

 

そど子「嵐山さんにはこれからもこの浜辺を守ってほしいわ。みんなの風紀と安全を、よろしくお願いするわ」

吾郎 「ああ、任せとけ。風紀の方も・・・・(チラ)できるだけがんばってみるさ」

磯崎 「おい!なぜそこで俺を見る!」

ゴモヨ「そりゃあねえ」

パゾ美「その最たるものだものねえ」

 

本日は事情を聞いた千鶴の配慮により、大洗女子一行による貸し切りになっていた。

 

ねこ 「しかし、今となってはもっと早く行動すべきだったと後悔してますのにゃ~」

もも 「うむ、後悔先に立たずなんだもも」

渚  「えっ?何かやり残したことがあったんですか?」

ぴよ 「いかにも!我々が滞在中に、ぜひとも『市内対抗腕相撲大会』を開催する働きがけをしておくべきだったぴよと!」

渚  「えっ」

もも 「渚ちん、ここ最近目に見えて筋肉が付いたぴよ。このまま行けば、我らと同じ力を得うることもあったもも!」

渚  「えっ」

ねこ 「ほら!この上腕二頭筋と三角筋、三頭筋のバランスのよさ!絶対いい線いけたにゃ!」

渚  「ひあっ!?ちょっ、やめてくださいくすぐったいというかわたしまだそんなムキムキにひゃああああ!」

 

三人がかりで二の腕をもみもみされる渚。

 

紗季 「・・・・」

鮎美 「せっかく仲良くなれたのに、ちょっと残念な気もします」

紗季 「・・・・(しょんぼり)」

鮎美 「あ、でもそんなに落ち込まないで下さい。私も出来る限りメールしますから。近くに来れそうなときは、ぜひ連絡くださいね」

紗季 「・・・・(パアッ)」

あゆみ「紗季、うれしそうだね」

あや 「あそこまで紗季に通じれる人、なかなかいなかったもんね」

優希 「あ~あ、私もひと夏の出会い、欲しかったな~?」

梓  「優希ならいつだっていい人が・・・・ってあれ、桂利奈は?」

桂利奈「くらえ~!ユルトラ反射ビーム!」

たける「なんの!新必殺技、スパイラルユルトラビーム!」

桂利奈「ブシャーッ!」

たける「ドドーン!」

梓  「すっかりたける君と意気投合しちゃって」

あゆみ「ある意味では、あれもいい出会いだったかもねー」

 

店先の砂浜で夢中で遊ぶ二人を見てほっこりする梓たちだった。

 

ニセ娘「らーめんオ待チデゲソ」

ナカ 「あっ、ありがとー。ねえ、その後の経過はどう?」

ニセ娘「オカゲ様デ、作業すぴーどノ向上ニヨリ全体ノ効率ハ20ぱーせんと上昇シマシタゲソ」

スズキ「おっ、期待以上の数値が出たね。・・・・で、『あの機能』はどう?」

ニセ娘「ゴ心配ナク、店長サンニハ伝エテオリマセンデゲソ」

ホシノ「おー、いい傾向だね。メンテが必要になったら連絡してね。必要部品とか送るから」

ツチヤ「今のうちに予備部品とか渡しておこうか?店長さんにメンテ頼むわけにはいかないし」

ニセ娘「助カリマスデゲソ」

あけび(いったいどんな機能積んでるんだろう・・・・)

 

隣に位置するアヒルさんチームのテーブルには、山ほどの料理が積まれている。

 

忍  「千鶴さんの料理ともしばらくお別れですねー」

典子 「ああ!これで食べ収めだ!みんな目いっぱい食べるぞ!」

妙子 「それにしても、やっぱり残念でしたねー」

栄子 「ん?何が?」

あけび「聞いたところによると、来週ここでビーチバレー大会あったそうじゃないですかー」

栄子 「ああ、そういやそうだったな。優勝賞品はデカいテレビらしくてさ。狙ってるんだー」

あけび「へー」

典子 「テレビはどうでもいいが、せっかくバレーの機会がったというのにみすみす逃してしまうのは悔しいな」

栄子 「こっちとしては安心したよ。磯部さんたちに参加されたら絶対優勝できなかったからな」

 

各々が交流を交わしていると・・・・

 

杏  「や~や~盛り上がってるね~」

 

そこに生徒会メンバーがやって来た。

 

千鶴 「みんないらっしゃい」

柚子 「お邪魔します」

桃  「お邪魔する」

栄子 「やあ、いらっしゃい!」

 

悠々と席に着く生徒会。

 

栄子 「いよいよ出港だってね。寂しくなるなあ」

杏  「そだね~。私もここの焼きそば好きだったんだけど。いっそのこと学園長に直談判して学園艦にれもん出してもらうってのも手だね~」

栄子 「あっはっは、冗談ばっかりー」

柚子 (いえ、会長のこのトーンは・・・・)

桃  (本気だ!)

千鶴 「ところで、みほちゃんたちは来ていないのかしら?まだ来ていないのはあんこうチームの子たちだけみたいだけれど」

杏  「西住ちゃんたちは先に他の所へ挨拶してから来るってさ。明日は集中したい用事があるとかで、今日中に済ませたいみたい」

栄子 「そうなんだ?今日中にあいさつ回りを済ませたいとか、真面目だねえ」

 

その頃あんこうチームの面々は関わりのあった場所への挨拶をほぼ済ませているところだった。

移動はもちろんⅣ号に乗って行っている。

 

優花里「えーっと、戦車くらぶの店長さんへのご挨拶も終わりましたし・・・・あとは__」

麻子 「斉藤先生のいる小学校で最後だな」

優花里「そうそう、そうでした」

沙織 「あっという間だったね~。ここに来てから色々あったよ」

華  「そうですね。色々ありすぎて、とても長くいた気もします」

みほ 「わかるなあ、それ。私なんて、一年くらいここにいた気がするもん」

麻子 「さすがにそれはオーバーだと思う」

 

その後。

 

愛子 「それじゃあ元気でね。亜美にもよろしく言っておいてちょうだい」

みほ 「はい」

 

由比ガ浜小学校を訪れ、愛子へ挨拶をするあんこうチーム。

 

優花里「今度お会いした時は、ぜひモーリスの運転技術をご伝授願いたいです!」

愛子 「なんですって?」

みほ 「えっ」

 

じろり、と睨み返す。

 

愛子 「まさかモーリスの運転を習得して子供たちの気を引こうっていう魂胆じゃないでしょうね?」

優花里「えええっ!?そんなまさか、純粋に後学のためですよー!」

愛子 「それなら構わないわ。いつでも遊びに来てちょうだい!」

華  「心に正直な方ですね」

沙織 「あはは・・・・」

 

かくして小学校を出発したあんこうチーム。

 

麻子 「これで挨拶回りは全部終わったな」

優花里「ではれもんへ参りましょうか」

 

道を進むⅣ号。

その道中で__

 

華  「あら?」

シン 「あら」

 

一行はシンディーに出会った。

成り行きでシンディーもⅣ号に同乗する。

 

シン 「そう、いよいよ出港なのね」

沙織 「はい。お世話になりました!」

シン 「私はお世話というほど何もしてないけれど」

華  「砲手同士、とても勉強になりました」

シン 「それこそこっちが参考にさせてもらったくらいよ。色々教えてもらったけど、まだまだ足りないくらいだわ。・・・・それで、みんなこれかられもんへ向かうのね?」

みほ 「はい。明日の夕方に出発なので、それまでにどうしてもやりたいことがあるんです」

シン 「やりたいこと?」

 

シンディーの問いに、みほは少し真面目な顔を見せた。

しばらくしてⅣ号はれもんへ到着した。

入店する一行。

 

栄子 「いらっしゃい、待ってたよ!」

みほ 「すいません、遅くなりました」

千鶴 「ううん、まだ宴も序盤と言ったところよ。さあ座って」

華  「お言葉に甘えまして」

 

席に着き、間を空けず料理が運ばれてくる。

 

沙織 「いただきま~す♪」

麻子 「いただきます」

 

食べ収めというのもあり、張り切って箸を伸ばすあんこうチーム。

 

千鶴 「みんな、ありがとう」

みほ 「ふえ?どうしたんですか?」

千鶴 「みほちゃんたちが来てくれてから、イカ娘ちゃんたちの戦車道は大きな躍進が見られたわ。それまではただ乗って動かせていればよかったけれど、みほちゃんたちと出会ってから戦車道の意義やそれによって得られるものを学べたと思うの。おかげであの子たちはとても成長できたと思うわ」

みほ 「そんな、それを言うならこちらの方です。私たちの知らないものをたくさん見せてもらえて、とっても素敵な経験ができました」

麻子 「ここに来なければ一生知らずに終わったものも多かったろうし。・・・・知らなくてよかったものも混じってはいたが」

 

とある出来事を思い出して青い顔をする麻子。

 

華  「?」

 

ふと、みほが周囲を見渡す。

 

みほ 「あの・・・・」

千鶴 「どうしたの?」

みほ 「イカ娘ちゃんは、今日どこに・・・・」

栄子 「ああ、イカ娘に用があった?」

みほ 「はい、実は__」

 

説明。

 

栄子 「なるほど・・・・そりゃ、あいつがいなきゃ話にならないな。あいつなら今日はバイト休みだからって家でゴロゴロしてるよ。もしかしたらまだ寝てるのかもしんないな。電話してみるか」

 

そう言ってケータイを取り出す。

 

みほ 「あっ、そこまでしてもらわなくても」

栄子 「いいっていいって。どっちみちメシもまだなんだし、こっちに呼んだ方が色々都合いいさ」

 

そう言って栄子はイカ娘のケータイに電話をかけ始めた。

時同じくして、相沢家の栄子の部屋。

栄子の予想通り、イカ娘は横になって眠っている。

__しかし、その顔は穏やかではなかった。

 

 

~~夢の中~~

 

ドオーン!

シュポッ

 

チャーチルから黒煙が上がり、白旗が上がる。

 

イカ娘『また負けたでゲソー・・・・』

 

がっくりとキューポラの上でうなだれるイカ娘。

対戦相手は、あんこうチームのⅣ号だった。

 

イカ娘『大洗の西住さん、強すぎでゲソ・・・・。これで何敗目でゲソか・・・・?』

栄子 『全戦全敗だよ』

 

車内から栄子の不機嫌そうな声が聞こえる。

 

イカ娘『栄子?』

栄子 『私たちは初めて会った時から一度も西住さんたちに勝ったことが無い。・・・・というか、誰とやっても負け続けてばっかりじゃんか』

 

げんなりした表情でイカ娘をにらむ栄子。

 

イカ娘『うっ、それは・・・・』

渚  『そもそも、指示がおかしいんです』

 

今度は渚の声。

 

渚  『イカの人の指示は撃てだの進めだの、車長として作戦と言えない指示ばかりなんです。そんな指示、イカの人でなくったって出来ることじゃないですか』

イカ娘『うう・・・・』

 

渚に責められ、言い返せない。

 

シン 『第一、実力差が分かってるのかしら?こっちとあっちの戦力差は開ききっているのよ?万が一にも勝てる相手じゃない。わかりきったことなのに、どうして何回も無駄な挑戦をしたがるのかしら』

イカ娘『・・・・』

 

何も言えず、涙目になる。

Ⅳ号の方を見ると、みほたちは冷めた目でこちらを見ている。

まるでやりごたえのない雑魚の相手を延々とさせられていたような、見下すような眼をしている。

気が付くと、車内には誰もいない。

慌てて周囲を見渡すと、栄子たちはいつの間にかチャーチルから降りてどこかへ歩き始めている。

 

イカ娘『ど、どこへ行くのでゲソ!』

栄子 『どこだっていいだろ。勝てない戦車道なんてやっててつまんないし』

渚  『勝つつもりもない指示に従うつもりもありません』

シン 『誰かほかのもっと強い人と組むことにするわ』

イカ娘『え・・・・ええ・・・・っ!?みんな、本気なのでゲソ!?一緒に戦車道やってて、楽しくなかったのでゲソ!?」

 

イカ娘の必死の呼びかけに足を止めた三人が、無表情で振り返る。

 

三人 『全然楽しくない』

 

 

~~夢終了~~

 

 

イカ娘「はっ!?」

 

目を覚ましたイカ娘。

クーラーの入った室内にもかかわらず汗びっしょりだった。

しばらく呆然としていると、ケータイが着信していることに気が付く。

 

イカ娘「もしもし・・・・」

栄子 『おうイカ娘、やっと起きたか?』

 

電話の向こうから栄子の声が聞こえる。

直前まで見ていた悪夢の中の栄子の顔がよぎる。

 

イカ娘「・・・・何の用でゲソ?」

栄子 『今西住さんたちが店に来てるんだけどさ、お前に用があるらしいんだよ』

 

西住さん、と聞いて同じく悪夢の中のみほを思い出す。

 

栄子 『どうせお前今の今まで寝てて何も食べてないだろ?朝飯ついでにこっち降りてこいよ』

イカ娘「・・・・」

 

すぐに返事できず、ケータイを握りしめる。

 

栄子 『イカ娘?おーい、どうした?まさか二度寝してるんじゃないだろうな?』

イカ娘「・・・・そんな訳ないじゃなイカ」

栄子 『ならいい。みんな待ってるから、早めに降りて来いよー』

 

そう言って栄子は通話を終わらせた。

 

イカ娘「・・・・」

 

イカ娘はうずくまった体制のまま動けずにいた。

それから。

 

栄子 「おっ、やっと来たか」

 

昼時もとっくに過ぎたころ、やっとイカ娘がれもんへやって来た。

 

優花里「イカ娘殿、こちらです!」

華  「こちらの席が空いてますよ」

 

笑顔で同席を促すあんこうチーム。

しかし__

 

イカ娘「・・・・」

 

イカ娘は暗い表情のまま、入り口から動かずのまま。

 

みほ 「イカ娘ちゃん、どうしたの?」

麻子 「まだ眠いのか?」

沙織 「まさか、麻子じゃあるまいし」

栄子 「おいイカ娘、どうしたよ」

イカ娘「・・・・」

 

様子がおかしいイカ娘に声を掛ける。

先ほどの夢を思い出し、栄子の顔を直視できないイカ娘。

みほたちとなるべく離れた、カモさんチームのテーブル席に着いた。

 

みほ 「イカ娘ちゃん・・・・?」

 

意識的に避けられているような気がして、少し戸惑うみほ。

そんな不穏な空気を察したのか__

 

千鶴 「それでみほちゃん、イカ娘ちゃんにお話ししたいことがあるんでしょう?」

 

千鶴が少し明るめに話を切り出した。

 

みほ 「あっ、はい。・・・・実はね、イカ娘ちゃん。明日、出港が決まったの」

イカ娘「・・・・!(ピクッ)」

みほ 「それで、出発は明日の夕方なんだけど・・・・明日のお昼、私たちの相手をしてほしいの」

イカ娘「!」

栄子 「それって、大洗女子のみんなと演習ってこと?」

華  「いえ、・・・・私たちと一対一でお願いしたいのです」

栄子 「西住さんたちから一騎打ちのお願いか・・・・。そりゃ光栄なことだけど、またどうして」

みほ 「私たちの由比ガ浜の思い出は、イカ娘ちゃんたちとの試合から始まったんです。だから、最後の思い出にもう一度イカ娘ちゃんと戦車道がしたいんです」

 

そう語るみほの目は、試合だとか腕試しとかではなく、純粋に繋がりを感じたいという気持ちが見えた。

 

栄子 「ああ、構わないよ。明日なら都合つけられるし。渚ちゃんとシンディーも大丈夫だろ?」

渚  「はい、大丈夫です」

シン 「せっかくの最後の機会だもの、私たちの成長を存分に見せてあげるわ」

優花里「よろしくお願いいたします!」

栄子 「受けてたとう!やるからには全力だからな!」

みほ 「はい!」

 

かくして、明日の約束を取り付けたみほたちは引き上げていった。

 

栄子 「明日、西住さんたちとできる最後の試合か・・・・」

渚  「悔いのない試合にしたいですね」

シン 「それじゃ、あとでさっそく練習と行きましょうか」

栄子 「聞いてたなイカ娘?あとで練習するから、どっか行くんじゃないぞー?」

 

明日の試合に心躍らせる栄子たちだが、イカ娘の顔は暗いままだった。

 

栄子 「おいどうした、さっきからテンション低すぎだろ」

イカ娘「何でもないでゲソ・・・・」

 

そう言い残し、イカ娘はれもんから出ていった。

 

栄子 「おい、イカ娘!練習するって言っただろうが!」

 

呼び止める栄子の声が聞こえないかのように、イカ娘はとぼとぼとどこかへ去っていってしまった。

 

栄子 「あいつ・・・・どうしたってんだよ」

渚  「どうしましょう・・・・車長抜きになってしまいますよ」

栄子 「とにかく戻ってくるのを待つしかない。それまで自主練していよう」

シン 「それしかないわね」

 

れもんから逃げるように去っていったイカ娘は、当てもなく道路を歩いていた。

 

イカ娘(明日が、大洗の西住さんたちと試合ができる最後の日・・・・。でも、私は望まれた通りの試合ができるのでゲソか・・・・?)

 

悪夢の中でみほに向けられたみほの冷たい目を思い出し、さらに気落ちする。

 

イカ娘(夢だっていうのはわかってるでゲソ。本当に大洗の西住さんがあんな目をするはずはないってわかってるでゲソ。・・・・でも、きっと私は期待に応えられないでゲソ。きっと、みんなが楽しいと思えるような試合を見せてあげられないでゲソ)

 

自己否定の言葉ばかりが浮かび、気落ちする一方のイカ娘。

と__

 

ガッ

 

イカ娘「わっ」

 

イカ娘は何かにけつまづいた。

足元を見ると__

 

???「ううう・・・・」

イカ娘「うわっ、人が倒れてるでゲソ!」

 

そこには、背広の男が倒れていた。

 

イカ娘「お主、しっかりしなイカ!こんなところで寝てたら具合悪くなるでゲソよ!」

???「み・・・・」

 

男がかろうじて口を開く。

行き倒れだろうか、かけていたであろう眼鏡は大きく外れ、顔も青白く髪もかなり乱れている。

 

???「水、を・・・・」

 

そして。

 

???「ふう、生き返りました・・・・」

 

男は木陰に腰かけ、ペットボトルの水を一気飲みしてやっと生気を取り戻した。

 

イカ娘(なけなしのお小遣いが無くなってしまったでゲソ)

 

動けなかった男の代わりに自販機から水を買ってあげたイカ娘がぼやく。

 

???「いや、本当に助かりました。お礼の言葉もありません」

 

そう言って男は深々と頭を下げた。

 

イカ娘「この日差しの中を何も考えず歩き回るなんて愚かにも程があるでゲソ」

???「いえ全く、反論の余地もありませんね」

 

恐縮した態度で頭をかく。

 

???「これまでデスクワークが長かったもので、夏日の下の危険性を甘く見ておりました」

 

そう言いながら男は串を取り出し、乱れた髪を七三分けに整え始める。

 

イカ娘「デスクワーク?」

???「ええ。・・・・お恥ずかしながら、私こういったものでして」

 

そう言って眼鏡をかけながら、男は名刺をイカ娘に差し出した。

名刺に書かれた名前を読み上げる。

 

イカ娘「辻・・・・廉太?」

 

その後。

 

栄子 「あいつどこまで行ったんだ、もう夕方になっちゃったぞ」

 

イカ娘が戻るまで自主練を続けていた栄子たちだったが、未だに戻らないイカ娘にやきもきし始めていた。

 

栄子 「いつものあいつだったら、戦車道やるって言ったらバイトすっぽかしてでもやろうとしてたくせに」

シン 「そういえば、今日のイカ星人様子がおかしかったわね」

渚  「心ここにあらずと言った感じでした。何か、迷いがあるようにも見えましたし・・・・」

栄子 「もう西住さんたちと戦車道やれる機会はないかもしれないってのに・・・・。悔いの残る結果になっちゃってもいいってのかよ」

渚  「本当に、気になりますね」

栄子 「んなっ、別にあいつのために言ってるわけじゃないよ!?せっかく相手してくれる西住さんに悪いっていう意味であって!」

シン 「はいはい、そういうことにしておきましょ。__あら、栄子、あそこ」

栄子 「ん?」

 

シンディーが指さす方角から__イカ娘が歩いてきていた。

 

栄子 「イカ娘!」

イカ娘「栄子!」

 

栄子たちに気が付き、駆け寄るイカ娘。

チャーチルを動かし、イカ娘の目の前につける。

 

栄子 『お前、どこほっつき歩いてたんだよ!』

 

そう叫びたくなるのを飲み込む栄子。

はあ、とため息をつく。

 

イカ娘「栄子、その・・・・」

栄子 「ほれ、さっさと乗れよ」

 

何かを言おうとするイカ娘の言葉を遮り、促す栄子。

 

イカ娘「栄子?」

栄子 「練習できる時間はもうわずかしかないんだ。明日の試合で悔いは残したくないだろ?話は今度時間あるとき聞いてやるよ」

イカ娘「・・・・うむ!」

 

吹っ切れたような笑顔をしたイカ娘は、ひらりとチャーチルに飛び乗った。

 

イカ娘「さあ、行くでゲソ!明日は大洗の西住さんに目にもの見せてやるでゲソ!」

三人 「おー!」

 

そして、昼。

かつてあんこうチームとイカ娘たちが初めて試合を行った、由比ガ浜の砂地演習場。

そこには既にあんこうチームとイカ娘チームが、お互いの位置についていた。

 

カエ 「まさか、西住隊長がイカ娘と一騎打ちを望むとはな」

エル 「ああ、聞いた時は私も驚いた。まさかあそこまでイカ娘を重要視してたとは思わなんだ」

左衛門「なればここは双方にとっての巌流島に相ならんと言ったところか」

おりょ「いや、これは言うなれば鳥羽伏見の戦いに値する戦いぜよ」

三人 「それだ!」

 

みほとイカ娘の決戦を見届けようと、チームメンバーたちがこぞって観戦位置についている。

 

桂利奈「西住隊長とイカちゃんか~。どっちが勝つと思う?」

梓  「そりゃ西住隊長でしょ!・・・・と言いたいところなんだけど」

あゆみ「イカちゃんたちも底の知れない実力があるもんねー。この試合中にそれが発現したらもしかしたらもしかするよ?」

紗季 「・・・・」

あや 「それにしてもあれだよね。言っちゃいけないかもしれないけど、イカちゃんいつになく真面目な顔してるよね」

優希 「大穴とかありえちゃうかも~♪」

 

桃の支えているパラソルの下でのんびり干し芋をかじっている杏。

 

杏  「う~ん、イカちゃんいつになくマジだね~」

柚子 「気迫が伝わっているんでしょうか、西住さんたちも緊張しているようです」

桃  (すごい緊張感だ・・・・。あの場にいなくてよかった)

 

やがて主審の千鶴が前に出る。

 

千鶴 「制限時間なし、使用する砲弾は実弾とします。それ故、一回限りの真剣勝負になるわ。お互い、悔いのないように全力を尽くしてちょうだい」

みほ 「はい」

イカ娘「勿論でゲソ!」

千鶴 「では、お互い、正々堂々と。__始め!」

 

千鶴の掛け声とともに、二両の戦車が動き出した。

次の瞬間。

 

みほ 「撃て!」

 

バアン!

 

初めての試合と同じように、Ⅳ号の奇襲が火を噴いた。

しかし__

 

ギュオン!

 

即座に反応したチャーチルが超信地旋回、難なく初撃をかわした。

 

ナカ 「おお、かわした!」

ホシノ「隊長のあの不意打ちをかわすなんて、並じゃないな」

ツチヤ「反応がよかったのはそうですけど、イカ娘ちゃん指示出してましたっけ?何もしゃべってなかったように見えましたけど」

スズキ「よく見てみろ」

 

言われて注意深く観察するツチヤ。

 

ツチヤ「あっ・・・・あれは!」

 

キューポラに立つイカ娘の触手は、よく見ると十本全部が車内に伸びている。

その触手はそれぞれに割り振られ、各々の肩や腰に巻きつくように添えられている。

栄子には、即座に運転を指示できるように両肩と両足に。

渚には、装填の補助のために両腕に。

シンディーには、姿勢の安定のために腰に。

余った触手は砲弾を掴んで渚を助けたり、機銃の操作を行ったりしている。

 

ゴモヨ「今まであんなワザ使ってたっけ?」

パゾ美「ううん、初めて見る。・・・・きっと、イカちゃんもやるのは初めてだよ」

そど子「すごいわ!イカ娘さんの統制によってチームが一つになってる!あれこそミラクル風紀フォーメーションよ!」

ゴモヨ(風紀関係ない気がする)

 

Ⅳ号から砲弾が放たれれば、即座に反応した触手から栄子に伝えられ、的確な回避運動を行う。

その安定した回避行動により、照準がぶれることなくチャーチルから反撃の砲撃が放たれる。

そんな目まぐるしい動きな中でも、しっかり固定された姿勢により速やかに次弾が装填されていく。

その一糸乱れぬ連携に、あんこうチームの中で動揺が生まれ始めていた。

 

みほ 「すごい・・・・動きに無駄が見られない」

麻子 「砲撃は確実にかわされる。狙いをつけた時にはもう回避が伝わってるぞ」

華  「車体の揺れ幅が狭いせいで、向こうの砲撃が逐一的確です」

優花里「イカ娘殿の触手、すごいとは思っていましたがまさかこんな使い方までできるなんて!」

沙織 「それもあるけど、栄子さんたちもすごいよ。いくら指示があったって、あそこまで望み通りに動けるのはイカ娘ちゃんを信頼しているからだもん!」

 

あんこうチームの表情が変わる。

最初は思い出作りのため、お互い納得できる試合ができればいいと思っていた。

しかし、今目の前にいるのはかつてない一体感を持った強敵。

考え方を改め、車内は大会の試合さながらの空気に変わる。

 

シン 「向こうの動きが変わったわ」

栄子 「いよいよあんこうチームが本気出してくるって訳か!」

渚  「でも私たちだって、まだまだやれますよね?」

イカ娘「当然でゲソ!」

 

本気になったあんこうチームを前にしても、イカ娘たちの結束は乱れない。

さらに白熱する試合展開を見つめる影が一つ。

応援している大洗のメンバーたちから隠れるように、一人の男性が試合を見守っている。

そこへ近づくもう一人の人物がいた。

 

千鶴 「ご無沙汰していますわ、辻局長」

辻  「おや、貴女は・・・・」

 

陰ながら試合を見守っていた人物__辻廉太は、声を掛けてきた千鶴に親しげな表情を浮かべる。

 

辻  「なるほど・・・・彼女は貴女の関係者でしたか。道理で」

千鶴 「イカ娘ちゃんがお世話になったようで・・・・。お心遣い感謝いたします」

辻  「はは、そうかしこまらずに。貴女と私は対等な立場にあるではないですか」

 

 

~~回想~~

 

イカ娘「『文部科学省学園艦教育局長』・・・・『辻蓮太』?」

辻  「ええ」

 

名前を読み上げられ、背広の男__辻蓮太は頷いた。

 

イカ娘「・・・・って、何でゲソ?」

辻  「そうですね、何と言いましょうか・・・・。簡単に言えば、お役所勤めです。役人の中でもちょっと偉いくらいとでも思っていただければ」

イカ娘「ふむ」

辻  「こちらへは仕事の関係で伺ったのですが・・・・いやはや、歩いて一時間足らずでこの体たらくですよ」

イカ娘「変じゃなイカ。偉いんだったら迎えとかが来るもんなんじゃなイカ?どうして一人で歩いているのでゲソか」

辻  「ははは、それは私の不徳ゆえ、と言いましょうか」

イカ娘「?」

辻  「・・・・つい先日、わたくし大きな仕事を連続して失敗してしまいましてね。そのせいで、組織の中で立場がだいぶ弱くなり__こうして、お迎えにも来てもらえない立場なのですよ」

イカ娘「お主も、負け続けてるのでゲソね」

辻  「『も』と言いますと?」

イカ娘「私も、ずっと負け続けているでゲソ。戦車道を始めてから、まともに勝てたことが無いでゲソ。そのせいで、みんなに呆れられてきているのでゲソ」

辻  「・・・・それは、直接お仲間に言われたのですか?」

イカ娘「みんな口には出してないでゲソ。でもきっとそう思ってるでゲソ。戦車道やってて勝てないんじゃ、楽しくないってきっと思ってるでゲソ」

 

しばしの沈黙。

辻はペットボトルの水を飲み干し立ち上がる。

 

辻  「イカ娘さん・・・・と仰いましたか。戦車道がどうして始まったのか、戦車道がどうして『女性の武道』なのかご存知でしょうか?」

イカ娘「む?・・・・考えたこともなかったでゲソ」

辻  「かつて、戦車は男が戦いのために使う道具でした。戦車を用い、争い、時には命すら奪い合う、おおよそ平和とは無縁の存在でした。ですから、戦車道は女性の武道なのです」

イカ娘「・・・・」

辻  「男が争いのために戦車を使うならと、女性は調和のために戦車を使い始めたのです。本来戦車道とは勝敗を争うものではなく、絆を深めるためのものなのです」

イカ娘「絆を深める・・・・」

辻  「操縦手は仲間の望む場所へ運ぶため戦車を動かし、装填手は砲手のため砲弾を込め、砲手は目的を達するために引き金を引く。通信手は本来つながりを持てない戦車同士を結び、一つの目的にために幾両もの戦車が一丸となる。そして車長は各員に最良な結果が残せるよう心を巡らせる。これが絆と言わずして何と言えましょう」

 

イカ娘は辻の演説に聞き入っている。

 

辻  「戦車道が現在のように勝敗に重きを置いた競技色を強めてしまったのは、ひとえに我々大人の責任によるものです。ですが勝手なれど、大人である私は貴女たちの世代に本当の戦車道を思い出してほしい」

イカ娘「本当の戦車道・・・・」

辻  「私でさえ度重なる失敗を経て思い出すことができたのです。戦車道を愛する貴女がたならば、必ず自らの足で答えに辿り着いてくれると信じます」

イカ娘「・・・・」

辻  「すぐには難しいかもしれません。ですがその日が来るまで、どうか貴女の仲間を信じ続けてほしい」

 

~~回想終了~~

 

 

辻  「あの時お会いした少女が貴女と所縁があり、そして今、彼女は西住みほさんと戦車道を行っている。__つくづく、縁とは不思議なものですね」

千鶴 「ええ・・・・本当に」

 

眼下では未だ高度な戦いが繰り広げられている。

 

みほ 「砂地の傾斜に注意してください!砂に履帯を取られないように!」

麻子 「ほーい」

イカ娘「もう少し左に追い込むゲソ!あそこならデコボコが多いから、動きも狙いもつけにくくなるでゲソ!」

シン 「オッケー!Fire!」

 

ドオン!

ボオン!

 

放たれた砲撃がⅣ号のすぐ近くに着弾し、大きく砂煙が上がる。

それに怯み、距離を取ると読んでいたが__

 

ギュオオオオ!

 

砂煙の中を物おじせず突っ切る形でⅣ号がチャーチルに吶喊してくる。

車内では揺れる照準の中、華がしっかりと狙いを定めている。

 

イカ娘「!」

 

直感的にイカ娘は栄子に触手の指示を送る。

 

栄子 「!左急旋回!」

 

ギュイイイ!

ドオオン!

 

チャーチルの急旋回とⅣ号の砲撃が同時に行われ、砲弾がチャーチルのキューポラをかすめる。

 

イカ娘「全速離脱でゲソ!」

栄子 「おう!」

 

そのまま突っ込んでくるⅣ号。

全力でアクセルをかけたチャーチルの真後ろを体当たりしてきたⅣ号が駆け抜ける。

 

ギャギャギャギャ!

 

大きな音と火花を挙げながら車体をぶつけ合う。

そしてそのままお互いは再び距離を取った。

 

ねこ 「西住隊長~!次で決めるにゃ~!」

もも 「イカ娘どの~!次が正念場もも~!」」

ぴよ 「どっちも頑張るぴよー!」

 

ギャラリーも大いに沸き、みほを応援する者がいればイカ娘を応援する者もいる。

皆勝敗など気にもせず、純粋に繰り広げられる戦車道に心を奪われる。

距離を取りお互い停車。

みほとイカ娘が見つめあう。

そして__

 

みほ 「残弾数も残り少ない・・・・。次で勝負を決めます!」

優花里「準備は万全であります!」

麻子 「いつでもいけるぞ」

華  「私たちの全力をぶつけましょう!」

 

ギュイイイイイイ!

 

イカ娘「大洗の西住さんはこれで決着をつけるつもりでゲソ!」

シン 「ということは・・・・十中八九アレが来るわね」

渚  「ええっ、アレですか!?大丈夫なんでしょうか」

栄子 「やるしかないだろ!」

 

そして__みほとイカ娘の口が同時に開く。

 

二人 「パンツァー・フォー!」

 

ギュイイイイ!

グオオオオオ!

 

双方が全速力で吶喊を始める。

 

みほ (まだ・・・・まだ遠い!)

イカ娘(まだ・・・・まだ来ないでゲソ!)

 

そして__先に動きを見せたのはⅣ号だった。

 

ギュオオオオ!

 

大きくⅣ号が弧を描き、チャーチルの側面へ回り込む。

そして大きくドリフトをかけ、さらに高速でチャーチルの背後へと回り込む。

 

みほ 「撃__」

 

みほが砲撃指示を出そうとしたその瞬間!

 

しゅるっ!

 

イカ娘の触手がⅣ号のキューポラをがっしりと掴んだ。

 

典子 「ナイスブロック!」

あけび「あれっ、でもあれネットタッチになっちゃいません!?」

忍  「手じゃないからオーケーだ!」

妙子 「でも触『手』っていうよ!?」

 

他の触手もしっかりとチャーチルに巻き付いている。

 

みほ 「!?・・・・う、撃て!」

 

一瞬怯んだが、即座に指示を出す。

そして砲撃が放たれる瞬間__

 

イカ娘「全速前進でゲソー!」

 

ギュイイイイ!

 

触手がⅣ号を掴んだままチャーチルが全力で走りだした。

そして__

 

バアン!

 

Ⅳ号の砲撃は、外れた。

 

優花里「!?かわされちゃいました!」

 

イカ娘の伸ばした触手が張り詰めたことにより円運動が発生し、わずかながらチャーチルの軌道をそらしていた。

そしてその円運動は続いており、今度はチャーチルがⅣ号の背後に回り込む形になり始めた。

 

みほ 「同じ攻撃!?」

 

慌てて砲塔を回し、チャーチルを追いかける。

チャーチルも砲塔を回し、Ⅳ号に狙いをつける。

 

カバ 「行けーっ、イカ娘ーっ!」

ウサギ「西住隊長ーっ!」

カメ 「やっちゃえー!」

アヒル「根性ーっ!」

カモ 「きちんと決めちゃいなさ~い!」

レオ 「もっとスピード上げてー!」

アリ 「タクティカルボーナスゲットだぜー!」

 

__そしてお互いの砲撃が放たれる直前。

イカ娘の無線に、Ⅳ号から通信が張った。

 

沙織 『イカ娘ちゃん!戦車道って、楽しいね!』

 

その言葉に今のみほと自分の表情に気が付くイカ娘。

その顔は・・・・純粋に楽しいことをしている子供のような笑顔をしていた。

 

イカ娘「!・・・・、うむ!」

みほ 「撃て!」

イカ娘「撃つでゲソー!」

 

バアン!

バアン!

 

 

そして。

 

 

そして・・・・

 

 

そして___

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

イカ娘「みほ!絶対また来るでゲソよーーー!」

 

燃えるような夕日が沈む砂浜で、チャーチルに乗ったイカ娘が大きく手を振る。

出港した大洗女子学園艦の後部デッキから、みほたちが手を振り返している。

 

みほ 「うん!ぜったいまた来るからねー!」

 

あんこうチームをはじめ、大洗の戦車道チーム全員が手を振っている。

お互いに、はるか遠くに見えなくなるまで、手を振るのをやめなかった。

 

ボオオオー・・・・

 

汽笛を鳴らし、ついに大洗学園艦は水平線の向こうへと姿を消した。

 

千鶴 「行ってしまったわね」

栄子 「ああ。でも寂しくはないな」

渚  「はい。絶対また、会える気がします」

シン 「次会った時も恥ずかしくない自分でいなきゃね」

イカ娘「うむ!」

 

グィングィンブロロロロロ

 

チャーチルのエンジンが声を上げ、れもんへ向けて帰路に就く。

 

栄子 「なあ、帰ったら何する?」

渚  「お風呂入って」

シン 「アイス食べて」

千鶴 「それから?」

栄子 「戦車乗るか!」

イカ娘「うむ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

時同じく、大洗学園艦後部デッキ。

 

優花里「由比ヶ浜、見えなくなっちゃいましたね」

沙織 「うん」

 

見ると、みほは遠くを見るような眼でうつろいでいた。

 

みほ 「ねえ、沙織さん」

沙織 「うん?」

みほ 「私、戦車道続けててよかったって思う」

華  「みほさん・・・・」

みほ 「最初は戦車道から逃げてここへ来て。でもここでも戦車道をやることになって。でもここの戦車道は楽しくて。たくさんの人たちと友達になれて、たくさんの思い出も出来た。もしもう戦車道をやっていなかったら、こんなに素敵な出来事には出会えなかった。由比ガ浜にもこれなかったし、イカ娘ちゃんたちとも会えなかった」

 

くるっと振り返り、沙織たちに満面の笑顔を浮かべる。

 

みほ 「だからね、ありがとう。私と一緒に、戦車道をやってくれて、ありがとう!」

沙織 「み・・・・みぽりーん!」

優花里「西住殿ーっ!」

 

感極まった沙織と優花里が抱き着いてくる。

 

みほ 「わわっ!」

 

バランスを崩しながら、なんとか二人を抱き留める。

 

沙織 「これからもだからね!これからもみぽりんと私たちは一緒だからね!」

優花里「私もです!これからもずっと一緒にいたいです!」

みほ 「沙織さん、優花里さん・・・・」

 

それを見ていた華。

 

華  「えいっ」

 

ぼふっ

 

更にみほに覆いかぶさり抱きしめる。

 

みほ 「わぷっ!?は、華さん!?」

麻子 「どれ、西住さんの抱き心地は」

 

ぽふっ

 

みほ 「ま、麻子さんまで!?・・・・もう」

 

四人がかりで抱きしめられ、少し苦しそうな、少し困ったような顔をするみほ。

しかしその顔は、何より幸せそうだった。




だいぶ間が開きましたが、本編の方を再開させていただきました。
そして同時に、6話を持ちまして夏編が終了いたします。

もちろんみほとイカ娘の物語は夏が終わったくらいでは終わりません。

自分の中で思い描いていた計画ではそろそろ節目の一つとして考えていまして、今後夏を舞台とした話を思い付いた時は、番外編にて時系列を考えない話を載せていこうと思っています。

そして全校の夏編が終了した時、何が始まるか・・・・
楽しみにしてもらえると嬉しいです。

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