いつもの海の家れもん。
早苗 「イカちゃ~~ん!写真撮らせて~~♪」
カメラを握りイカ娘を追いかける早苗。
イカ娘「しつこいでゲソ!いつも嫌だって言ってるじゃなイカ!」
早苗を睨みながら店の外へ逃げ出すイカ娘。
華 「本日は千鶴さんが特製かき氷をご馳走してくれるそうですよ」
みほ 「そうなんだ。楽しみだね!」
華と話しながら店に入って来たみほ。
そんなよそ見していた同士が__
栄子 「あっ、危ない!」
華 「みほさん、前!」
みほ 「ふぇっ!?」
イカ娘「うわあぁっ!?」
ドッシーン!
勢いよくぶつかった。
イカ娘「いたたた・・・・」
みほ 「うううう・・・・」
もそもそと起き上がる二人。
怪我はないようだった。
早苗 「大変!大丈夫!?」
早苗が慌ててイカ娘に声を掛け、手を差し伸べる。
イカ娘「・・・・?」
一瞬、不思議そうな顔をしていたが__
イカ娘「うん、大丈夫みたい」
早苗の手を取り立ち上がった。
呆気にとられる早苗。
栄子 「ゴラア!イカ娘ぇ!」
ゴッチーン!
イカ娘「はうっ!?」
次の瞬間、イカ娘の頭に栄子のゲンコツがめり込んだ。
栄子 「店の中走り回るなって言ってるだろ!西住さんがケガしたらどうすんだ!」
イカ娘「ごごご、ごめんなさいー!?」
訳もわからずパニック顔で謝るイカ娘。
栄子 「・・・・?」
華 「みほさん、大丈夫ですか?」
華がみほに手を差し伸べる。
みほ 「うむ・・・・」
華の手を取り、立ち上がるみほ。
みほ 「びっくりしたでゲソ。まさかあそこで大洗の西住さんたちが入ってくるとは思わなかったでゲソよ」
華 「え?」
凍り付く店内。
やがてお互いの存在に気が付き、見つめあうみほとイカ娘。
みほ 「え・・・・」
イカ娘「え・・・・」
みほがイカ娘を指さし、プルプル震えている。
みほ 「わ、私がいるでゲソ!」
イカ娘もみほを見て驚き固まっている。
イカ娘「わ、私が目の前にいる!?」
一瞬の静寂の後__
一同 「えええええええええええええええええ!?」
店内は騒然となった。
千鶴 「それじゃあ、状況を整理しましょう」
一同がテーブル席につき、千鶴が取りまとめる。
千鶴 「今のみほちゃんの心は、イカ娘ちゃんの中にいるのね」
イカ娘「はい、そうみたいです。どうしてこうなってしまったのか・・・・」
千鶴 「そして、イカ娘ちゃんの心はみほちゃんの中に」
みほ 「こんなの初めてでゲソ」
華 「私もこのような事態、初めて拝見します」
栄子 「本当かー?二人して私たちをかつごうとしてるんじゃないのか?」
みほ 「栄子は想像力が貧困で困るでゲソ。そんなんじゃ世の中の荒波は乗り越えられないでゲソよ」
栄子 「確かに西住さんはこんなことイタズラでも言いっこないだろうけど・・・・」
千鶴 「じゃあみほちゃん、ここで問題」
イカ娘「はい」
千鶴 「Ⅳ号戦車の懸架方式は?」
イカ娘「リーフスプリング方式のボギー型です」
栄子 「おお、間違いないわ。イカ娘じゃ絶対答えられん」
みほ 「どういう意味でゲソか!」
華 「ですがみほさん、どうしましょう」
イカ娘「えっ?」
華 「ほら私たち、この後・・・・」
イカ娘「あっ」
一時間後、大洗女子学園艦戦車演習場にて。
華 「__という訳でして」
イカ娘「今日はこの姿で演習することにします・・・・」
どよめく一同。
目前には、大洗女子のパンツァージャケットを着たイカ娘(中身はみほ)が立っている。
桂里奈「すごーい!この間見た映画みたい!」
大はしゃぎの桂利奈。
桂利奈「ねえねえ、あの状態の隊長をどう呼べばいいかな?」
あや 「そりゃ、西住隊長でいいんじゃない?」
優希 「でも、見た目はイカ娘ちゃんだし~」
あゆみ「トクベツな呼び方とかいいかもねー」
梓 「ダメでしょみんな!西住隊長だってこんな事態になって戸惑ってるんだし・・・・」
紗季 「・・・・、イ」
あゆみ「え?紗季、何か言った?」
紗季 「・・・・『イカ住隊長』」
ウサギ「それだー!」
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。
イカ娘の中に入ってしまった西住みほ→イカ住
あや 「ナイスネーミング!さすが紗季!」
梓 「・・・・わかってると思うけど、面と向かって西住隊長に言っちゃだめだからね?」
イカ住「今日は特殊な隊列からのチームワークを練習します」
パシャパシャ
イカ住「いつもと要領が変わりますので、十分気を付けながら訓練に挑んでください」
パシャパシャ
イカ住「では、チーム分けを__」
パシャパシャパシャ
イカ住「・・・・あの、すいません長月さん」
早苗 「えっ?」
カメラを構えながら早苗が返事する。
イカ住「これから訓練を始めますので、演習場から退避していてくれると助かるんですが・・・・」
早苗 「いや~ん♪真面目な顔するイカ娘ちゃんも素敵だわ~♪」
あや 「ぜんぜん話を聞いてない!」
中身がみほというせいもあり、いつもと雰囲気の違うイカ娘に早苗は夢中になっていた。
かくして始まった練習。
さすがに練習が始まればイカ娘の体であろうともみほは隊長モードに入り、各員に的確に指示を飛ばしている。
イカ住「ウサギさんチーム、速度を上げてください。Ⅳ号の陰にぴったり重なるよう位置の調整を!」
桂利奈「あいー!」
Ⅳ号の真後ろに張り付きM3リーが付いていくが、真後ろ過ぎて桂利奈からは前が見えない。
パシャパシャパシャ
早苗 「ああ~ん、凛々しいイカ娘ちゃんも素敵だわ~♪」
特別に乗せてもらったヘッツァーから、並走するⅣ号から体を覗かせるみほを撮りまくる早苗。
桂利奈「前が見えないよー」
梓 「待って、私が確認するから!」
前方の視界を確認しようとキューポラの上に立つ梓。
梓 「よいしょっと・・・・。一度やってみたかったんだよね」
プラウダ戦の時みほが見せた、キューポラのふちに立って周囲を見渡すみほの真似をしようとした梓。
梓 「おっと、おっとっとっと・・・・やった!」
おぼつかないながらも何とか立ってみせた。
気分だけでもみほになりきり、キリっとした表情をする梓。
が__次の瞬間、
ギャギャギャギャギャ
目前のⅣ号が突如進路を変えたため、真後ろにいたM3リーがⅣ号に過剰接近してしまう。
優希 「桂利奈、前、前!ぶつかっちゃう!」
桂利奈「あわわわ!」
ギギギィイ!
急ブレーキを思いっきりかける桂利奈。
そのせいで車体が大きく揺れ__
梓 「えっ!?わわ、わわわわっ?!」
キューポラの上に立っていた梓が大きくバランスを崩し、宙に投げ出された。
早苗 「梓ちゃん!?」
イカ住「っ!?澤さん!」
時同じくして、海の家れもんにて。
ガッチャーン!
れもんではみほ(中身はイカ娘)が皿を落として割っていた。
栄子 「おいイカ娘!今日何枚目だ!」
みほ 「わ、わざとじゃないのでゲソ!体がうまく動かないのでゲソ!」
栄子 「そんな訳ないだろ。西住さんはたしかに少しおっとりはしているが、身体能力や反射神経は人並み以上だぞ!その体を借りてるお前が何で動けないんだよ」
みほ 「栄子は大洗の西住さんを過剰評価してるでゲソ。あれで大洗の西住さんはけっこうおっちょこちょいでゲソよ?」
栄子 「西住さんもお前にだけは言われたくないだろうな」
千鶴 「ラーメン出来たわよー。みほ娘ちゃん、お願いね」
みほ 「うむ!・・・・ん?」
ラーメンを受けとり、持っていこうとしたところでイカ娘の動きが止まる。
みほ 「今、何か変な呼ばれ方した気がするでゲソ」
栄子 「私もなんか聞いた気がする」
千鶴 「今限定の呼び方よ。今はみほちゃんの体にイカ娘ちゃんが入ってるんだから、合わせて『みほ娘』ちゃん。現状が分かりやすくていいと思うんだけど」
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。
みほの体に入ったイカ娘→みほ娘
栄子 「すごいネーミングだな。ほら、さっさと片付けるぞみほ娘」
みほ娘「お主らはそれでいいのでゲソか」
やがてみほの体での配膳も慣れてきた頃。
ふと千鶴が思いつく。
千鶴 「ねえみほ娘ちゃん、その体の間は、イカ能力を使えないのよね?」
みほ娘「うむ。触手もないしイカスミも吐けないし、発光能力も使えないでゲソ」
栄子 「ないないづくしだな」
千鶴 「触手って、いつも自分の意志で動かしてるの?」
みほ娘「うむ。まあ、時々気持ちに直結して勝手に動くこともあるでゲソが」
栄子 「そうなのか」
場面は戻り大洗女子学園艦演習場にて。
梓が戦車から放り出された直後。
梓は目をぎゅっとつぶり、身を縮こませて衝撃を覚悟していた。
・・・・が、いつまで経っても何も起こらない。
梓 「・・・・?」
恐る恐る目を開けると、目に映ったのは逆さまになっているM3リー。
そこからチームメイトたちが驚いた顔を覗かせている。
梓 「あれ・・・・?私、どうなって・・・・って、浮いてるー!?」
梓は逆さまのまま宙に浮いていた。
正確には、伸びた触手が梓の足を空中で掴んでいたのだ。
その触手はイカ娘(中身はみほ)からしっかりと伸びていた。
イカ住「こ、これって・・・・イカ娘ちゃんの触手!?」
驚いていると、体重差のせいかイカ娘の体がだんだん梓の方に引っ張られ始めた。
掴んでいる梓の方もゆらゆら揺れて危なげである。
梓 「わわ、わわわ!?」
イカ住「か、体が支えきれない!」
懸命に踏ん張るもこらえきれそうにないその時、ふと思い出した。
イカ住(そうだ、たしかイカ娘ちゃんの腕輪をいじると体重を変えられるって言ってた!だったら、重くなればきっと支えられる!)
急ぎ腕輪をいじる。
すると__
ギュン!
さらに体が梓の重さに耐えられなくなり、体ごと持っていかれそうになったみほは必死にキューポラのヘリにしがみついた。
イカ住「ふえっ!?軽くなっちゃってる!?」
どうしてなのか分からずパニックになるイカ娘。
とうとう支えきれなくなり一緒に体を持っていかれそうになった瞬間__
ガシッ!
みほの腰を華が抱きかかえるように掴んだ。
イカ住「華さん!?」
華 「みほさん、落ち着いて!腕輪を逆に動かせば!」
イカ娘「えっ!?あっ、そうか!」
慌てて腕輪を逆方向に大きくいじると__
ズンッ!
どっしりとした感覚と共に、梓を支える体制が完全に安定した。
そのままゆっくり梓を地面に降ろす。
イカ住「ふう・・・・よかった。ありがとう、華さん」
華 「無事で何よりです」
安堵するみほに、華は微笑みで返した。
その後。
梓 「ということがありまして」
栄子 「ほー」
訓練も終わり、打ち上げが海の家れもんで行われていた。
イカ住「びっくりしちゃった。前からすごいとは思っていたけど、実際にイカ娘ちゃんになってみたら思った以上にすごい所が多くて」
桂利奈「すごかったよねー。体重が変わる腕輪に破けても元に戻る服、イカスミに発光能力!」
優希 「ロマンの詰め合わせ、って感じだよね~♪」
みほ娘「ふふん、そうでゲソそうでゲソ」
栄子 「早苗、西住さんに抱き着いたり迷惑かけたりしなかったろうな?」
早苗 「見くびらないで栄子。見た目はイカちゃんでも中身は西住さん。私が愛するイカちゃんはイカちゃんの体にイカちゃんの心が宿ってこそなのよ!」
紗季 「・・・・」
あゆみ「それにしてはデジカメのメモリーいっぱいですよねー」
あや 「うわ、今日の写真だけで容量MAX」
早苗 「てへ♪」
賑わう中で、みほとイカ娘の会話も弾む。
イカ住「入れ替わりも大変だったけど、イカ娘ちゃんのことがもっとよく知れたし、いい体験だったかも」
みほ娘「私もでゲソ。触手もイカスミもないこの体であんなことを成し遂げられる大洗の西住さんは、やっぱり只者じゃないと思ったでゲソ」
お互い顔を合わせ、にっこり笑いあう二人。
そんな二人を、流れ出る鼻血を止もせずせず早苗は写真を撮り続けていた。
そして盛り上がった打ち上げも終わり。
華 「ごちそうさまでした」
梓 「またお邪魔しますね!」
栄子 「ああ、待ってるよ!」
桂利奈「さよーならー!」
そうして大洗女子一行は去っていった。
後姿を見送る相沢姉妹。
栄子 「次はいつ来てくれるかな」
千鶴 「その時が楽しみね」
栄子 「それじゃ、片づけしよっか」
おもむろに店内を振り返り・・・・二人は固まった。
みほ娘「む?」
栄子 「・・・・」
千鶴 「・・・・」
みほ娘「あっ!」
栄子 「思ったんだけどさ」
イカ娘「む?」
栄子 「今回みたいに、もし他の人たちが入れ替わってたらどうなるんだろうな」
イカ娘「ふむ」
~~想像~~
優花里⇔早苗
優花里「イカちゃ~ん♪」(写真バシャバシャ)
早苗 「西住殿~~っ♪」(尻尾ふりふり)
優希⇔栄子
優希 「あん?復縁メール?男のくせに女々しんだよ!」(着信拒否)
栄子 「あら~♪お兄さんすごくたくましい~♪」(吾郎ドン引き)
しほ⇔千鶴
しほ 「・・・・」(笑顔のプレッシャーがすごい)
千鶴 「・・・・」(無表情のプレッシャーがすごい)
~~想像終了~~
栄子 「・・・・やっぱ、ありのままが一番だな」
イカ娘「同感でゲソ」