イカ娘「姉」
千鶴 「うん?」
イカ娘「姉」
栄子 「あん?」
とある日の海の家れもん。
イカ娘は千鶴と栄子を見ながら何かつぶやいている。
今日はアンチョビたちも店に出てきている。
栄子 「何ブツブツ言ってんだ」
イカ娘「栄子は、姉でゲソね」
栄子 「ん?__何だか覚えがあるパターンだぞ」
一瞬考えが止まる。
そこへ__
梓 「こんにちわー」
妙子 「お呼ばれにあずかりましたー」
ケイ 「へい、エヴリワン!」
ナカ 「何か修理か改造の依頼かな?」
ホシノ「だったらスズキやツチヤも呼ぶべきだったかな~?」
ぴよ 「お呼ばれぴよ!オフ会だっぴよ?」
いろいろやって来た。
千鶴 「あら、みんないらっしゃい。空いてる席に座ってちょうだい」
ナカ 「はーい」
アンチョビたちが手際よく人数分の水を配る。
栄子 「みんな、どうしてここに?」
率直な疑問をぶつける栄子。
ケイ 「うん?私はスクイーディに呼ばれてきたのだけど」
栄子 「イカ娘に?」
梓 「あっ、私も同じです。『証明したいことがあるからこの日にれもんに来てほしい』って」
ナカ 「私たちも同じだね」
ホシノ「そうだね」
栄子 「おいイカ娘、どういうつもりなんだ?」
栄子がイカ娘の方を向くと、イカ娘が不敵な笑みを浮かべている。
イカ娘「フッフッフ。こ奴らは、私の最強理論が間違っていないと証明するために来てもらったのでゲソ」
栄子 「なんだそりゃ」
ぴよ 「最強理論・・・・!何だか捨て置けない響きの言葉ぴよ!」
梓 「それにしても不思議な呼ばれ方ですよね」
ホシノ「そうだな。チームではなく個人の呼び出し、かと言ってウチの学校だけでなくケイさんを呼んでいる」
妙子 「私たちに何か共通点ありましたっけ?」
ケイ 「ウーン?」
頭をひねる一同。
千鶴 「あら、いけない」
カル 「どうしました?」
千鶴 「お醤油切らしていたのを忘れてたわ。どうしましょう」
ペパ 「そんじゃ、私がひとっ走り買ってきますよ!」
チョビ「待て待て、お前は調理担当だろう!私が行くからお前は準備していろ」
カル 「いえドゥーチェ、私が行きます。任せてください」
と、店から駆け出そうとすると__
イカ娘「ダメでゲソ!」
しゅるっ!
イカ娘がカルパッチョを触手で捕まえる。
栄子 「おいイカ娘、何邪魔してんだよ」
イカ娘「カルパッチョもアンチョビもペパロニも、この場からいなくなっては困るゲソ!お主らも大事な証人の一人でゲソ!」
カル 「私たちも、ですか?」
ますますもって何を言ってるのかわからない栄子。
ペパ 「あっ」
何かに気づいたように声を上げる。
チョビ「どうした?」
ペパ 「弟じゃないっすか?」
チョビ「え?」
ペパ 「私もドゥーチェもカルパッチョも、みんな弟がいるじゃないっすか」
言われて一同を見渡す。
チョビ「・・・・そうなのか?」
梓 「あ、はい、弟が一人」
妙子 「私もいますよー」
ケイ 「妹と弟がいるわよ。・・・・ということは?」
ぴよ 「いかにも!我が家には目に入れても痛くない可愛い弟クンがいるっぴよ!」
ナカ 「そういえばいたねー。ホシノもそうでしょ?」
ホシノ「ああそうだね。最近会ってなかったけど、元気かなあいつ」
栄子 「そっか、みんな弟持ちなのか。そうかそうか・・・・で?」
イカ娘「む?」
栄子 「弟持ちのみんなを呼んで、それからどうしたいんだよ」
イカ娘「うむ、今回の私の理論は__」
バッと顔を上げる。
イカ娘「『弟がいる姉はしっかり者で気づかいができて、大人びていて面倒見のいいデキる奴』でゲソ!」
栄子 「すげえ持ち上げようだな!」
イカ娘「そしてみんなにはそれをこれから証明してもらうために集まってもらったのでゲソ」
妙子 「証明って・・・・どうすればいいの?」
すると__
たける「イカ姉ちゃーん!来たよー」
店先にサッカーボールを抱えたたけるがやって来た。
イカ娘「うむ、よく来たでゲソたける!」
チョビ「おお、たける来たか。お昼の準備できてるぞー」
たける「うん、ありがとうアンチョビ姉ちゃん!」
カル 「今日はたける君の好きな鉄板ナポリタンよ~」
たける「ほんと!?カルパッチョ姉ちゃん!」
ペパ 「たけるのために特製ピーマン盛りにしといたからなー!」
たける「ええっ?!ひどいよペパロニ姉ちゃーん!」
同じように姉の様に慕っているアンチョビたちと言葉を交わすたける。
イカ娘「うんうん、やはり姉は弟に面倒を焼くものでゲソ。まさに大人の余裕でゲソ」
栄子 「なるほど、ああいう風にたけるに接する様子を見るってわけか。__そういや、アンチョビさんたちって三人とも本当に弟いたよね」
チョビ「ああ」
カル 「ええ、そうですね」
ペパ 「私んちには兄貴もいるけどなー」
イカ娘「ふむ、だからペパロニは面倒見良くて甘え上手なのでゲソね」
ペパ 「ん?そだっけか?」
イカ娘「いつもアンチョビにベッタリでゲソ」
ペパ 「あはは、そうかもなー」
チョビ「まったおく、もう少し自分で判断できるようになってもらいたいんだがな」
ペパ 「そんなこと言わないで下さいよ姐さーん」
カル 「ふふふ」
ピーマン入り鉄板ナポリタンを食べていたたける。
頑張って食べるのに集中して、足元に置いていたサッカーボールが足に当たり、妙子の方に転がっていった。
ひょいっと持ち上げ、バレーボール代わりにポーンポーンと軽やかに操る。
たける「わあっ!妙子姉ちゃん、ボールの扱い上手だね!」
妙子 「えへへ、そう?ボールの扱いに関しては誰にも負けないつもりだからね~」
そして軽くトス、レシーブしてボールを軽々と操り、ポン、とたけるに弾いて返して見せる。
たける「すごいすごい!ねえ妙子姉ちゃん、今度僕のサッカーの練習に付き合ってよ!」
妙子 「え?サッカー?」
たける「うん!妙子姉ちゃんなら、いいキーパーやってくれそうだし!」
妙子 「キーパーかー・・・・うん、ブロックとかのいい練習にかるかな?いいよ!」
たける「やったー!」
喜びで飛び跳ねるていると__
ガツン!
たける「うわわっ!?」
たけるの足が椅子に引っ掛かり、たけるがバランスを崩す。
千鶴 「!」
栄子 「たける!」
千鶴が飛び出しそうになった瞬間__
ぴよ 「ぴょっと」
ガシッ
ぴよたんが素早くたけるを抱き抱え、すんでの所で助かった。
たける「ぴよたんお姉ちゃん、ありがとう!」
ぴよ 「足元と周りには、よく気を付けないとダメぴよ?」
たける「はーい、ごめんなさい」
素直に反省したたけるににっこり笑顔を向けるぴよたん。
栄子 「いやー、危ないとこだった。ありがと」
ぴよ 「礼には及ばないぴよ。うちの弟クンも、よく走り回って転んでいたもんだぴよ」
ケイ 「咄嗟の反応力もかなりのものだったわ。それに少年とはいえ人一人を楽々と支え上げるなんて、流石大洗のアリクイさんチームね」
照れまくりのぴよたん。
それを見て、満足そうにうんうんと頷くイカ娘だった。
ナカ 「確かに言われた通り、みんななかなか甲斐性があっていいねー」
ホシノ「私らは・・・・覚えが無いなあ」
ナカ 「一緒に機械いじりとかできればよかったんだけどねー。残念ながらお互いそういう弟に恵まれなかったな」
梓 「弟かー・・・・。久しぶりに会いたくなってきちゃったかも」
ナカ 「澤ちゃんの弟さんはどんな子だった?」
梓 「素直でいい子でしたよ。私が学園艦で寮生活するって知ったら、妹たちと一緒に泣きながら引き留められてたっけ。あの時ばかりは後ろ髪引かれちゃいました」
ホシノ「そっかー。いいお姉さんだったんだねえ。ウチのなんて、行ったっきり帰ってくんなーって言われたくらいだし」
梓 「あはは・・・・きっと寂しいのを我慢してたんですよ」
ホシノ「いや、あれは絶対本心だった」
ナカ 「うちも同じようなモンだったよ。機械いじりばっかであんま弟に構ってやんなかったからねー」
梓 「じゃあ、こんど帰省したらめいいっぱい可愛がってあげたらどうですか?」
ホシノ「いやー・・・・全身鳥肌立てるか泣いて嫌がるね、ゼッタイ」
梓 「・・・・一体何したんですか、ご実家で」
各々弟談議で花開く中__
栄子 「で?何が言いたい」
イカ娘「む?」
栄子 「弟持ちの姉ができた人間だからって、相対的にお前が出来たやつだとは言わないからな?」
イカ娘「なっ!」
栄子に言いたいことを先に言われてしまったのか、驚いた様子を見せるイカ娘。
イカ娘「な、何を言ってるでゲソかねー?」
そっぽ向いて口笛を吹くフリをするイカ娘。
栄子 「前回(※シスター・ウォー!)で妹下げしたあとに自分が当てはまったから無かったことにしてたけど、今回は自分を当てはめてからテーマ持ち出したろ」
イカ娘「~♪」
鳴らない口笛を吹くイカ娘。
栄子 「たけるはお前に懐いてるし、立場だけで言えば姉と言えるかもしれない。だがな__」
栄子はビシっとイカ娘を指さす。
栄子 「こんな姑息な手段で自分上げをしようとする奴なんざ立派な姉でもなんでもねえ!」
イカ娘「ぐっ・・・・!い、言いたいだけ言えばいいでゲソ!どんなに言われようとも、弟のいる姉は出来た奴であるという理論は崩れないでゲソ!」
栄子 「・・・・ふっ、果たしてそうかな?」
イカ娘「・・・・?」
栄子の不敵な笑みに嫌な予感がしたイカ娘。
と、そこへ__
柚子 「こんにちわ~、お邪魔しま~す」
柚子がやって来た。
イカ娘「!!」
栄子 「おー、いらっしゃい。こっち席空いてるよ」
柚子は栄子に促され、席に進みながら周囲を見渡す。
柚子 「今日は賑やかですね?」
栄子 「ああ、今日はイカ娘が姉キャラを一同に集めて話を聞いてたんだよ」
柚子 「そうだったんですか」
ケイ 「あら?柚子は呼ばれていなかったの?あなたも弟いたんでしょう?」
柚子 「はい。私たちには声を掛けられていませんでしたけど・・・・」
ケイ 「私
桃 「失礼する」
柚子に少し遅れて、桃もやって来た。
イカ娘「!」
桃に気が付いて逃げようとするイカ娘。
ガシッ
即座に栄子に首根っこ掴まれる。
栄子 「やあいらっしゃい。実はイカ娘が弟のいるお姉さんに話を聞きたかったらしくてさ。たまたま二人に声かけ忘れたみたいだから声かけたんだ」
梓 (ああ、そうか・・・・。柚子さんに声かけたら、必然的に桃さんも一緒に来ちゃうから・・・・)
妙子 (二人に黙ってたのね・・・・)
栄子 「さあイカ娘、存分に話を聞くがいい」
強引にイカ娘を二人の前に座らせる。
最初は慌てふためきつつも、段々と落ち着きを取り戻すイカ娘。
イカ娘「ふむふむ、やはり柚子は姉としてもとても優秀なのでゲソね」
桃 「そうだぞ?あのやんちゃざかりの弟たちの面倒を一気に見れるのは柚子ちゃんしかいないからな!」
柚子 「言い過ぎだってば桃ちゃん」
持ち上げられて照れくさそうにする柚子。
イカ娘「さすが柚子でゲソ。弟たちからさぞ慕われているんじゃなイカ?」
ちらっ、と桃を見る。
イカ娘「桃も弟がいるそうでゲソが、どうなのでゲソ?弟に振り回されっぱなしなんじゃなイカ?」
桃 「えっ?いや、まあ、かなり手のかかる弟ではあったんだが・・・・」
イカ娘「やはり。姉というのはそう楽ではないでゲソからねー」
露骨にせず、しかし何だか含みのある言い方のイカ娘。
栄子 (コイツ・・・・!河嶋さんをサゲて自分の立ち位置を少しでも上げようとしてやがる!)
イカ娘の目論見に気づいたもののどう諫めるか、と考えていると__
柚子 「でも、学園艦に移るとき、弟さんすっごく応援してくれてたんだよね?ほら」
さっと柚子は桃の持ち物の中からワッペンのようなものを取り出す。
それには__
『頑張れ姉ちゃん!目指せ日本一の女子高生!』
と手書きの文字が書かれていた。
桃 「うわわっ!?柚子ちゃんそれは恥ずかしいから人に見せないでって言ったのに!」
柚子 「でもホントうらやましいなあ。こんな形で激励くれるなんて、桃ちゃんが慕われてる証拠だね」
桃 「あううう・・・・」
真っ赤になって俯いてしまう桃。
栄子 「そっか。弟さん、すごいお姉さんを尊敬していたんだな。__それに比べてお前は」
イカ娘「ゲソッ!?」
急に矛先を向けられ戸惑う。
栄子 「たけるの世話を焼くわけでもなく、一緒に遊んでばかり。見守るどころか危ない所に連れ込んだりもするし、メシだって作ってやったことないだろ。ましてや姉として尊敬を受けたこともない」
イカ娘「うっ」
栄子 「逆に世話を焼かれる、物は壊す、普段の生活の見本にもなれない。やたらと他の人たちと比較して自分上げに躍起になってたけど、私に言わせりゃお前はこの中で最底辺の姉キャラだな!」
イカ娘「ガーーン!」
その後。
イカ娘「吾郎よ。いつ千鶴と結婚するのでゲソ?」
吾郎 「ううぇあっ!?おおおおま、何を突然!」
イカ娘「お主が千鶴と結婚すれば、お主は私の義理の兄ということになるのでゲソ。兄は妹を甘やかすものでゲソ?ちやほやされたいのでゲソ!」
栄子 「いい加減にしろ!」
イカ娘はまだ諦めるつもりはないようだった。
今回の番外編を書いているうち、弟のいる姉キャラがなかなかいることに気が付きました。
本編で見せる面倒見の良さも、それによるものなのか、と思うとなかなか奥深いものを感じますね。
桃は本編中ではダメな子認定でしたが、最終章になって根本的な部分はしっかりした子であることが分かったのは喜ばしいことでした。
※全員の姉っぷりはあくまで個人の想像から形作られています、ご了承ください。