侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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テコイレ・ウォー!

麻子 「暑い・・・・」

 

炎天下の砂浜を、麻子がよろよろと歩いている。

 

麻子 「暑すぎる・・・・。なんでみんなはこんな危険な天気の中わざわざ外に出たがるんだ・・・・理解できん」

 

麻子の顔色は悪く、進むたびに歩みは危うくなっていく。

 

麻子 (とにかく、れもんへ逃げよう・・・・。それで、千鶴さんにミルクセーキ作ってもらおう・・・・。ミルク濃いめ、氷もたく、さ、ん__)

 

麻子の意識は、そこで途切れた。

 

麻子 「ん・・・・?」

 

目が覚めると、天井と蛍光灯が目に入った。

麻子はベッドの上で寝かされている。

 

麻子 (天井・・・・?ここって、屋内?れもんではないことは確かだが)

 

頭が重く、気分がだるい。

麻子はいつにもない無気力感を感じていた。

なんとか上半身だけ起こす。

周囲を見回すと、そこはプレハブの建物なのがわかる。

 

麻子 「もしかして、ここは__」

白椙 「救護所だ」

 

奥から白椙が姿を現す。

 

麻子 「救護所・・・・。ということはこの頭痛とだるけ、そしてほてりは・・・・そうか、私は熱中症からの脱水症状を起こしたのか」

白椙 「おや、意外と冷静だな。自分の症状がわかるのか」

麻子 「夏場だから気を付けなければと思ってたんだが・・・・油断したようだ」

白椙 「しばらく寝てるんだな。水分ならそこから自由にとっていいぞ」

麻子 「かたじけない・・・・」

麻子 (しかしここはなかなか涼しいな。しばらくこのまま寝ていよう・・・・」

 

しばらく休み、歩けるくらいに回復した麻子。

 

麻子 (ふう、そろそろ動けるくらいにはなったか)

 

白椙に礼を言おうと周囲を見渡す。

と、奥に通じるドアを見つけた。

 

麻子 (看護師さんは・・・・この向こうか?)

 

ドアについている覗き窓から中を覗き込むと__

 

白椙 「~♪」

 

白椙は控え室でクーラーをかけ、音楽を聴きながらジュースを飲んでくつろいでいた。

 

麻子 (すっごいくつろいでる)

 

邪魔するのも野暮か、と麻子はそのまま救護所を出ることにした。

途端に迎える真夏の直射日光。

 

麻子 「うおっ・・・・」

 

救護所との温度差にげんなりしている。

 

沙織 「あーっ!麻子!」

 

と、沙織たちとイカ娘が駆けつけてきた。

 

麻子 「何だ、沙織たちじゃないか。どうしたんだ?」

沙織 「どうしたんじゃないよ!れもんに行くって言ってたからいないし、どこいったのかと探してたら倒れて担ぎ込まれたって聞いたし!心配したんだからね!」

みほ 「麻子さん、大丈夫?」

麻子 「ああ、軽い熱射病だったらしい。心配かけてすまない」

優花里「そうでしたか。大事にならなかったようで、安心しました~」

華  「沙織さん、とっても心配していましたよ」

麻子 「そうか。・・・・それは、気苦労をかけた」

イカ娘「ところで麻子よ。今救護所から出てきたのでゲソ?」

麻子 「ああ、さっき担ぎ込まれてな。もう大丈夫だ。あそこは涼しかったしな。また寄りたいな」

 

それを聞いた途端、イカ娘の顔色が変わる。

 

イカ娘「それはダメでゲソ!」

麻子 「!?」

優花里「ど、どうしたのですか!?そんな血相変えて・・・・」

イカ娘「救護所の白椙さんには恐ろしい噂があるのでゲソ・・・・!」

華  「うわさ、ですか?」

イカ娘「白椙さんは怪我や具合が悪くなって救護所に行くと、一回目は優しいでゲソ」

麻子 「ふむ。そうみたいだ」

イカ娘「二回目は厳しいでゲソ」

沙織 「まあ、二回も怪我しちゃったりしたら注意くらいはするかもね」

イカ娘「そして三回目は・・・・」

優花里「さ、三回目は!?」

イカ娘「怪我を倍にして返されるという噂でゲソ!」

みほ 「えええええええ!?」

華  「救護所で怪我を倍にされる・・・・ですか。怖いお話ですね」

イカ娘「うむ!だから、みんな怪我をして救護所に行くことにならないよう気を付けてるのでゲソ!」

沙織 「で、でも・・・・ただのうわさでしょ?」

華  「火のない所に煙は立たぬ、とも言いますよ」

みほ 「ともかく・・・・みんな気をつけよう」

沙織 「うん、それが一番!」

麻子 「・・・・ふむ」

 

麻子は、何か心当たりがあるかのように救護所を見つめていた。

次の日。

 

麻子 「お邪魔する」

白椙 「ん?お前は昨日の・・・・」

 

麻子は再び救護所へやって来た。

 

麻子 「昨日は世話になった」

白椙 「構わん、これが私の役目だ。・・・・で、何をしに来た?まさか・・・・」

麻子 「いや違う。二回目じゃないぞ」

 

白椙の言いたいことを察し、先に言葉を挟む。

 

白椙 「ふむ・・・・ならいい。では何の用だ?」

麻子 「いやなに、ここについての噂を聞いて」

白椙 「噂?」

麻子 「救護所に行くと一度目は優しく、二度目は厳しく、三度目は怪我を倍にされる、という噂だ」

白椙 「ほう・・・・そんな噂があるのか」

 

簡易ベッドや器具の位置を直しながらそっけない返事を返す。

 

麻子 「その噂のせいで、どうやらここに海水浴に来る人たちは『不注意がないように気を付けている』ようだ」

白椙 「いいことだろう。怪我人がいていいことなどあるまい」

麻子 「忙しくなるしな」

 

ピクっと反応する白椙。

 

麻子 「この炎天下だ。わざわざ暑い中作業するより、涼しい部屋の中でジュースを飲んだりテレビを見たり暇している方がよっぽどいい」

白椙 「・・・・何が言いたい」

麻子 「私に提案がある」

白椙 「提案?」

麻子 「噂で抑止するよりも効率的な方法だ」

 

しばらくして。

 

千鶴 「うーん・・・・」

 

海の家れもんで、千鶴が帳簿を眺めている。

 

栄子 「姉貴、どうした?」

千鶴 「ここ最近、お客さんの質が変わった気がするの」

栄子 「どういうことだ?」

千鶴 「最近、冷たいものを注文するお客さんが減ったと思わない?」

栄子 「・・・・そう言われてみれば」

 

近頃注文を受けて運んだ覚えが無いし、ビールを頼む客も数えるほど。

今日はみほたちが来てかき氷を食べているが、確かに冷たいものの需要が減っている。

 

栄子 「どういうことだ?連日炎天下だってのに」

千鶴 「ちょっと周囲を見て回ってもらえないかしら」

栄子 「あいよー」

沙織 「あっ、私たちも一緒に行きます!」

みほ 「麻子さんも最近どこかへ行ったっきり帰ってこないことが多くって、みんなで探してるんです」

 

かくしてみほたちと共に浜辺を探る栄子。

さっそく周囲を探る。

 

栄子 (いつも通り暑いし・・・・外にいる人たちは各々ペットボトルとか持ってる。じゃあなんでウチには来ないんだ?)

優花里「あっ、あそこ!見てください」

 

優花里が指さした先は__救護所だった。

そこに、沢山の人たちが出入りしているのが見える。

 

華  「救護所で、何かやっているのでしょうか」

みほ 「みんな、行ってみよう」

 

その頃、救護所の中では__

 

麻子 「快適・・・・」

白椙 「平和だ・・・・」

 

麻子は救護所のベッドに、白椙は控室の椅子の上でくつろいでいる。

そこに、沙織がやって来た。

 

沙織 「麻子!?アンタここで何やってんの!?」

麻子 「む、沙織か」

華  「あらあら、大盛況ですね」

 

救護所の中は大材の人でにぎわっている。

にも拘わらず救護所内部はひんやりと快適な温度が保たれている。

 

麻子 「見ての通りだ。由比ヶ浜の海水浴客たちの健康管理と体調維持に一役買っている」

沙織 「どこがよ!ぐーたらしてるだけじゃない!」

優花里「いえ、そうとも言い切れませんよ。見てください」

 

見てみると中には大型の自販機が設置されており、海水浴客たちはそこで冷たいミネラルウォーターを買い求めている。

内側の壁には断熱材が設置されており、効率よく冷気を逃がさないつくりになっている。

そして暑さに負けそうになった海水浴客たちは危なくなる前に救護所へやって来るというサイクルが成立していた。

 

栄子 「涼しい屋内に冷たい飲料、そして隣の部屋には看護師が待機」

華  「無理をせず、本当に具合が悪くなる前に来てもらえれば症状も軽く済み、事態も重くなりませんね」

優花里「そして看護師さんへの負担も減り、本当に救護を必要とする人へ注力できる、という訳ですね!素晴らしいです!」

麻子 「そうだろうそうだろう」

沙織 「そうかなあ・・・・。ただ楽したいだけみたいに見えるんだけど・・・・」

 

れもんへ戻って来た一行。

 

千鶴 「そう。麻子ちゃんのアイデアだったのね」

沙織 「ごめんなさい千鶴さん。麻子のせいでお店の邪魔になっちゃって・・・・」

千鶴 「ううん、気にしなくていいわよ」

みほ 「えっ?どういうことですか?」

千鶴 「ふふふ」

 

そして、救護所では事態が変わり始めていた。

 

客A 「あのー、お水売り切れですか?」

麻子 「しまった、売り上げが仕入れのスピードを上回ったか。早く発注しないと・・・・」

客B 「はー、快適快適」

白椙 「おいお前ら、他の奴らの邪魔になるだろ!用が無かったら出ていけ!」

客C 「あのー、アイスとか置いてないんですか?」

客D 「シャワー室とかないんですか?中で使えたら嬉しいな~」

客E 「あれしてこれして~」

客F 「あれほしいこれほしい~」

麻子 「・・・・」

白椙 「・・・・」

二人 「やってられるかーーーー!」

 

そして。

 

麻子 「はー、何もしないのがやっぱり一番だ」

 

麻子はれもんのテーブルに突っ伏していた。

 

華  「もうやめてしまったのですか?」

麻子 「みんな要求が多すぎるんだ。ただ休むだけが何故できないんだ」

沙織 「そりゃ、便利な場所だったらもっと要求されたっておかしくないでしょ」

麻子 「楽できると思ったのに・・・・。余計に疲れた」

千鶴 「ふふ、お疲れ様」

 

そう言って千鶴がミルクセーキを麻子に差し出した。

口にする麻子。

 

麻子 「ふう。・・・・しかし千鶴さんはすごいな。他人に世話を焼くなんて苦労でしかないのに」

千鶴 「好きでしていることだから」

麻子 「敵わないな」

 

そう言って麻子はミルクセーキを一気飲みした。




苦労は嫌だけど楽するためなら手間は厭わない、そういう人、いると思います。

役割は果たすが苦労は嫌い、そんな白椙さんと麻子はきっといいコンビニなれると思います。

しばらくは番外編中心になり、更新の曜日はランダムに成りますが頻度は下げずに続けていくつもりです。

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