侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

あんこうチーム→あん

ねこにゃー→ねこ
ももがー→もも
ぴよたん→ぴよ

戦車道部の部員A、B、C・・・・→戦車A、B、C・・・・

シンディー→シン


第5話・伝染ってなイカ?

フラッ・・・・

 

みほ 「あれっ・・・・?」

 

急にみほの体が傾き、キューポラのフチを掴む。

砂浜を走っていたⅣ号が急停車する。

 

優花里「西住殿、いかがなさいましたか!?」

沙織 「みぽりん、大丈夫!?」

みほ 「うん、ちょっとよろけちゃっただけだから。ごめんね、大丈夫」

華  「ご気分でも、悪いのですか?」

みほ 「大丈夫!ほら、このとおり!」

 

みんなに心配かけまいと元気アピールするみほ。

 

麻子 「西住さんがそう言うならそれでいいが、本当に具合が悪いなら言ってくれ」

華  「午後の予定もありますし、ご無理はしないでくださいね」

みほ 「うん、ありがとうだみぽ、麻子さん」

 

みんなの気遣いに感謝するみほ。

 

麻子 「まあ、無理はせず・・・・ん?」

沙織 (今、みぽりん何か言った?)

華  (みぽ・・・・とか仰っていたような?)

優花里(皆さん何も言わないし・・・・聞き違い、ですよね?)

 

何か聞こえた気がするが、全員が聞き違いと思うようにした。

やがてみほの視界は回りはじめ、吐き気にも近い悪寒が走り始めてきていた。

 

みほ (何だろう、これ・・・・。でもみんなに心配かけられないし、我慢しなきゃいけないみぽ)

 

やがてⅣ号は海の家れもんへ到着した。

Ⅳ号から降りるみほ。

一行は店内に入り、席に着く。

 

みほ 「ふう」

 

その頃のみほには、もうさっきのような変調は残ってはいなかった。

 

みほ (もう大丈夫みたい。・・・・でも、さっきの何だったんだろう)

イカ娘「おおっ、西住さんたち、よく来たでゲソ!」

華  「お邪魔いたします」

麻子 「ミルクセーキ」

千鶴 「はーい」

 

あんこうチームのメンバーそれぞれにいつも頼んでいるドリンクが配られる。

 

シン 「西住さんたち、ここのところ毎日来てるわね」

渚  「そうですね。こんなに通ってくれる方はそういませんよ」

イカ娘「それで大洗の西住さんよ、今日はどんな練習をするのでゲソ!?」

 

イカ娘が目をキラキラさせながら身を乗り出してくる。

 

みほ 「うん、みんなかなり上達してきたから、今日は機動訓練にしようかなって」

麻子 「高速で走る戦車をコントロールし、相手の攻撃をかわしつつこちらに有利な状況を作り出す__簡単に言えば、勝てる走り方だ」

イカ娘「おお!」

栄子 「冷泉さんが教える戦車操縦術か・・・・。こりゃ高度そうだな」

麻子 「そんなことはない。私もほとんどは西住さんに教えてもらったことだからな」

みほ 「そんなことないよ。麻子さんの腕がすごいからで__」

 

と、いつも通りに賑わう店内。

 

沙織 「でもみぽりん、本当に調子悪いんだったら考えた方がいいよ?」

華  「そうですよ。先ほどあんなに具合悪そうにされてたのですから」

優花里「今日は機動訓練でありますから。万全でないと、お体に負担が・・・・」

みほ 「ええっ!だ、大丈夫だから!」

 

先ほどのみほの変調を切り捨てられない沙織たちが心配する。

 

栄子 「え?西住さん調子悪いの?それだったら無理しないでいいって。無理して教えてもらっても悪いしさ」

イカ娘「ええー」

栄子 「ええーじゃない!」

みほ 「あの!ほ、本当に大丈夫ですから!なんともないですって!」

 

と、周囲は気にかけていたが、当のみほ本人の懸命の大丈夫アピールにより、訓練は行われることになった。

場面は変わり、砂浜の演習場。

砂浜を走るあんこうチームのⅣ号を、遠巻きに見学するイカ娘チームのチャーチル。

 

みほ (うん、さっきの悪寒は来てない。大丈夫!)

みほ 『戦車は基本、まっすぐか緩やかなカーブを描く動きしかありません。ですが、そうなるとどんなに速く走っても狙いをうまくつけられては容易く被弾してしまいます』

シン 「偏差射撃、ってやつね」

華  『その通りです』

みほ 『だから、必要なのは相手の予想を上回る、または想定外の動きである必要があります』

渚  「なるほど・・・・」

イカ娘「それは、どうやるのでゲソ?」

みほ 『実際にやって見せます。こちらが動き出したら、こちらを狙って撃ってください』

シン 「オーケー、当てるつもりで狙うわ!」

 

かくして走り出すⅣ号。

チャーチルの前を横断する形で走っていく。

シンディーは狙いを澄まし__

 

シン 「Fire!」

 

Ⅳ号の速度を踏まえたうえで、進行先を狙って砲撃をする。

このままいけば直撃は免れないが__

 

みほ 『麻子さん、いま!』

麻子 『ほーい』

 

ギュアアアアアア!

 

砲撃が放たれた瞬間、Ⅳ号が急速なドリフトをかける。

 

栄子 「んなっ!?」

 

ドオン!

 

シンディーの放った砲撃は砂地に着弾し、砂煙を上げる。

そして、Ⅳ号は__

 

イカ娘「!」

 

いつのまにかぴたりと砲口をチャーチルに合わせていた。

 

渚  「すごい・・・・」

シン 「これが、全国優勝校隊長車の実力・・・・!」

栄子 「私らじゃ比較にもならんな」

 

実力の差とテクニックに舌を巻く面々。

 

イカ娘「すごいじゃなイカ!早くやり方を教えてほしいでゲソ!」

 

一人はしゃぐイカ娘。

・・・・しかし、様子がおかしい。

 

栄子 「・・・・?どうしたんだ?」

渚  「静かですね」

シン 「撃っても来ないし、無線も飛んでこない。だんまりのままね」

イカ娘「?」

 

不思議に思ったイカ娘が、脇に備え付けられた双眼鏡を覗く。

覗いてみた先に映ったものは__

 

イカ娘「!」

栄子 「どうした、イカ娘?」

イカ娘「に、西住さんが・・・・倒れてるでゲソ!」

栄子 「何っ!?」

 

急いで発進するチャーチル。

細かい起伏があり、さらに急いでいるせいで車体がガクガク揺れる。

そんな、向かっている最中に__

 

イカ娘「うっ・・・・」

 

イカ娘が苦しそうな声を上げ、顔色が悪くなり始める。

 

栄子 「イカ娘?どうしかしたのか」

イカ娘「ううっ・・・・っぷ、・・・・気持ち悪いでヒレ」

栄子 「はあ!?」

渚  「イカの人も体調不良ですか!?」

シン 「気持ち悪いとか言ってたけど、風邪かしら?」

イカ娘「目が回る・・・・気持ち悪い・・・・立ってられないでヒレ・・・・」

栄子 「おい!?語尾もおかしくなってるぞ!?」

 

やがてイカ娘もみほと同じくキューポラの上で突っ伏してしまった。

 

栄子 「おい、イカ娘!__ここで止まっててもしょうがない、とにかく西住さんたちと合流するぞ!」

 

渚とシンディーが協力してイカ娘を車内に引っ張りこむ。

イカ娘の顔は青く、先ほどまでの元気は完全に失われている。

具合の悪いイカ娘を乗せたまま急ぐチャーチル。

向かう先のⅣ号では、みほが車体の上でぐったりと横たわり、優花里たちに囲まれていた。

 

優花里「西住殿ぉ、しっかりしてくださいいいい!」

沙織 「みぽりん!みぽりん!私たちの声、聞こえる!?」

華  「西住さん!どこか痛いのですか!?」

麻子 「症状から見るに、怪我じゃなさそうだが・・・・。だとしたら、食あたりか!?」

 

泣きそうな顔(一部泣いている)でみほを心配する者や、冷静に努めようとしながらも混乱したりする者が入り混じり、修羅場と化している。

やがて、チャーチルがたどり着いた。

 

栄子 「西住さん!どうしたんだ!?」

優花里「それが、わからないんです!急に具合が悪くなったかと思ったら、倒れこんでしまって・・・・!」

沙織 「ここに来る前から調子悪そうにしてたから・・・・。もう、こんなことになるならムリヤリにでも止めるんだった!」

華  「落ち着いてください。まずは私たちが冷静にならなければ、助けようがありません」

麻子 「救急車を呼ぼう。それが一番確実だ」

渚  「そうですね。私たちに出来ることはほとんどなさそうですし」

シン 「イカ星人も同じように具合悪そうなのよ。もしかして同じ理由かしら」

沙織 「ええっ、イカちゃんも!?」

イカ娘「うう・・・・」

 

青い顔をしたイカ娘が車内から姿を現す。

 

みほ 「う・・・・」

 

と、みほが軽いうめき声を出しながら目を開ける。

 

華  「みほさん!」

沙織 「みぽりん!どうしたの!?どこか苦しい!?」

みほ 「__き、・・・・」

優花里「き!?気分が悪いのでありますか!?」

みほ 「気持ち、わるい・・・・でみぽ」

沙織 (また何か言った!?)

麻子 「西住さん、他にどんな症状がある?教えてくれれば救急車が来てすぐに対処できるかもしれない」

みほ 「気持ちが、悪くて・・・・、あと、吐き気と・・・・」

優花里「西住殿、なんておいたわしい・・・・!」

みほ 「あと、めまいもする、でみぽ・・・・」

麻子 「気分が悪い、吐き気、めまい、あと冷や汗も凄いな。夏風邪とかも考えられるが__」

栄子 「なあ、何かさっきから西住さん、語尾がおかしくないか?」

あん 「!」

優花里「やはり。栄子殿もそう思われますか!実はれもんにつく前からそうだったのです!」

沙織 「あの時は聞き間違いか冗談かなと思ってたけど、どうにも本当に言ってるみたいだよね」

華  「意識が朦朧としてしまっているせいでしょうか?」

 

などと話していると__

 

イカ娘「・・・・原因が分かったでヒレ・・・・」

 

キューポラからイカ娘が声をかける。

 

栄子 「イカ娘!気分が悪いなら中で休んでろって!」

麻子 「・・・・何だか、イカ娘も語尾がおかしくないか?」

優花里「言われてみれば・・・・いつもはイカかゲソでしたよね」

沙織 「イカちゃん、みぽりんに何があったかわかるの!?」

イカ娘「これは、おそらく・・・・」

華  「おそらく?」

イカ娘「スミョルミルニムメム病でヒレ・・・・」

沙織 「え?・・・・、え?」

優花里「あの、イカ娘殿、今なんと?」

イカ娘「スミョルミルニムメム病でヒレ」

沙織 「スミョ、ニム・・・・ナムニム?ナニソレ!?」

麻子 「そんな病気聞いたことないぞ」

イカ娘「海に住んでいたころに聞いたことのある病気でヒレ」

栄子 「またオリジナル病かよ!まだあったのか!」

イカ娘「症状はめまい、吐き気、冷や汗、そして__」

華  「そして?」

イカ娘「語尾がおかしくなってしまう、でヒレ」

沙織 「絶対それだ!」

栄子 「それにしてもおかしいだろ。お前のところの病気なら、お前だけがなるはずだろ?何で西住さんまで」

イカ娘「この病気は、伝染病でヒレ」

渚  「伝染病!?」

シン 「それって、イカ星人の生物兵器かなんかなの!?」

栄子 「今はそういう場合じゃない!」

 

伝染病と聞いて驚いたが、それによりみほの周りから距離を取ろうとする者はいなかった。

 

イカ娘「感染率は極めて低いでヒレが、まれに他の種族にも伝染る、と聞いたでヒレ」

華  「じゃあ、昨日れもんへ伺った時に・・・・」

優花里「イカ娘殿から西住殿に感染ってしまった、ということでしょうか」

沙織 「それで、どうやったら治るの!?みぽりん、大丈夫だよね!?」

イカ娘「スミョルミルニムメム病は、特定の条件で症状が発生するでヒレ。しばらく休んでいれば、気分も落ち着いて元に戻るでゲソ」

麻子 「本当だ、語尾も元に戻ってる」

 

イカ娘は回復したのか、顔色も語尾も戻っている。

しばらくして、みほも元気を取り戻した。

顔色も元に戻り、体を起こす。

 

優花里「西住殿・・・・よかったでありますー!」

 

感極まって抱き着く優花里。

 

みほ 「もう大丈夫。ごめんね、心配かけて」

華  「イカ娘さんの仰ったとおり、時間が経てば回復しましたね」

渚  「それで、その病気が発症してしまう、特定の条件って何ですか?」

イカ娘「スミョルミルニムメム病は、一定時間横や縦の細かい揺れや振動を受け続けると発症するでゲソ。海にいる間はそんな状況になることが無かったから、私も初めての経験だったでゲソ」

沙織 「縦横の細かい揺れと振動・・・・」

麻子 「めまい、吐き気などの症状・・・・」

華  「少し休めば回復・・・・」

優花里「あの、それってつまり」

栄子 「乗り物酔いじゃんか」

シン 「つまり、その病気にかかると、極端に乗り物酔いしやすくなるってワケね」

 

なーんだ、と一同は胸を撫で下ろす。

 

華  「あの、それでこの病気はいつ治るのでしょうか」

イカ娘「スミョルミルニムメム病の病原菌は長生きではないでゲソ。基本的に発症してから丸一日ほどで病気は完全に治るでゲソ」

沙織 「よかった~。これからずっとこのままじゃ死活問題だったよ」

麻子 「それはよかった。__だが、治るのが一日後ではまだ問題がある」

渚  「あっ!そうか!」

 

突如渚が声をあげる。

 

シン 「何かあるのかしら?」

渚  「実は、午後にうちの高校で西住さんを招いての戦車道交友会があるんです」

栄子 「何だって!?」

優花里「そこの高校の戦車道部の皆さんと交友を深め、最後にⅣ号で戦車道部の皆さんと一勝負する流れになっているんです・・・・」

麻子 「西住さんがスミョルミルニムメム病にかかっているとなると、そうは行かなくなるな」

沙織 (空で言えてる!?)

シン 「試合中に乗り物酔いで戦えなくなりました、じゃ名前に傷がつくわね」

みほ 「私の名前が傷つくのは構いません。でも、もしアクシデントを起こしたらみんなに迷惑がかかるし・・・・」

渚  「どうしたらいいんでしょう・・・・」

みんな「うーん・・・・」

 

みんなで頭を働かせていると__

 

麻子 「あ、思いついた」

優花里「おお、さすがは冷泉殿!」

沙織 「それで!?いったいどんな手を思い付いたの、麻子!?」

麻子 「この作戦を実行するには、ある人物の助けが絶対に必要だ」

華  「それは、一体どなたのことですか?」

 

麻子は、スッととある人物を指さした。

その指は__

 

みほ 「えっ?」

シン 「ワーオ」

イカ娘「ふむ」

 

麻子の指は、ある人物を指していた。

午後になって。

あんこうチーム、アリクイさんチーム、カモさんチームが渚の通う高校へやって来た。

渚を含めた生徒たちは体育館へ集められ、公友会が始まった。

 

みほ 「はじめまして、大洗女子学園戦車道チームの隊長を務めさせていただいています、西住みほと言います」

生徒A「キャーーッ!」

生徒B「西住さんだ!本物の西住みほさんだ!」

生徒C「初めて生で見た!やっぱかわいいね!」

生徒D「西住さーん!手振って~!」

みほ 「あはは・・・・」

生徒D「キャーーーッ!」

 

生徒たちを前に、壇上であいさつするみほ。

生でみほを見た生徒たちは大喜びで、かなりの盛り上がりを見せている。

 

ねこ 「西住さん、すごい人気だにゃー」

ぴよ 「もうすっかり有名人だぴょ」

もも 「同じ場所で肩を並べられるなんて、感無量もも!」

 

会は進み、第六十三回大会についてみほが壇上で語っていく。

 

みほ 「私は一度、戦車道を捨てた身でした。そんな私に声を掛けてくれたのが__」

 

やや緊張しているのか語りは堅かったが、どうにか原稿通りに話を進めることができた。

 

みほ 「__そして、今は沢山の仲間、お友達、ライバルが出来ました。私がそこで得たものは、一生の宝物になりました!」

 

パチパチパチパチ!

 

スピーチを終えたみほに、拍手喝采が贈られた。

少し照れた風にしながらも、みほは誇らしげに拍手を受けていた。

舞台袖にいたメンバーたちも姿を見せ、壇上に並ぶ。

 

司会 「続いて、質疑応答タイムです。何か大洗の皆さんにご質問は?」

生徒B「はい!」

司会 「はいそこの!」

生徒B「あの、戦車道って規律とか厳しそうですが、やっぱり全国制覇校ってかなり厳しかったりするんでしょうか?」

そど子「いい質問ね!もちろん強いチームを作りには一に規則、二に規則!三四に校則、五に規則!規則によって統率することで、一糸乱れぬ強いチームが出来上がるのよ!」

生徒C「ひぇー、やっぱり強豪校ってそこまでしないといけないのかー」

そど子「・・・・と、言いたいところなんだけど、そうはいかないのよね」

生徒B「え?」

そど子「うちのチームは規則とか決まりとか、そういうことには無関係。戦車の上で食事はするし、練習中にアイスを食べたりもする。この間も練習を放り出して海に遊びに行った子もいたわ」

優花里「ギクッ」

華  「ばれてましたね」

 

ふう、とため息をつく。

 

そど子「私はこれまでの三年間、風紀委員として拘束を厳守して、そしてみんなに守らせていたわ。でもその枠に捉えられない人の強さも学んだ。全てが自分の考えていることが正しいわけじゃない、みんなそれぞれに信じる正しさがあるということを戦車道を通じて知ったわ」

司会 「深いお話ですね、ありがとうございました。では次の質問を__」

 

やがて質疑応答の時間も終わり、ついに例の時間が訪れた。

 

司会 「ではお待たせしました、ついにメインイベント!我が校の戦車部vs大洗女子戦車道チーム隊長車、あんこうチームのエキシビションマッチです!」

生徒 「キャーーーッ!」

優花里「ついにこの時が来ましたね」

ぴよ 「じゃあ、作戦通りに!」

ねこ 「作戦、決行にゃー!」

 

Ⅳ号に乗り込むために移動するみほたちに、生徒たちが群がる。

 

生徒D「キャー!西住さんこっち向いてー!」

生徒E「試合頑張ってくださーい!」

みほ 「はい、ありがとうございます。すいません、通りますんで・・・・」

渚  「み、みんな!西住さんも準備があるんだし・・・・」

生徒A「キャー!キャー!」

 

アイドル扱いのみほは生徒たちに囲まれて、なかなか人目から逃れられない。

と__

 

ぴよ 「さあ皆さんお立合い!」

もも 「レディースアンドジェントルメン!」

ねこ 「イッツ・アントイーターショー!」

生徒B「?」

 

声に引かれて校庭を見ると、すでに校庭にスタンバイしていたチヌにアリクイさんチームの面々がスタンバイしていた。

ももがーは地面で砲弾箱を傍らに置き、ぴよたんはやや離れたところに立つ。

さらにその先にチヌがいて、キューポラにはねこにゃーが立っている。

ふと、ももがーが砲弾を掴む。

そして__

 

もも 「ももっと!」

 

ももがーが強く砲弾を投げ飛ばす。

 

ぴよ 「ぴよっと!」

 

砲弾を片手で受け止める。

 

生徒A「わあっ!片手で受け止めた!」

ぴよ 「ぽいっと!」

ねこ 「にゃっほい!」

 

そして同じように片手で砲弾を放り、ねこにゃーが片手で受け止めた。

それを尋常ではないスピードで繰り返し、まるでお手玉の様にひょいひょい舞い始める。

 

生徒C「わあっ!」

生徒D「すごい!これが有名なアリクイさんチームの砲弾投げね!」

生徒E「もっと近くで見ようよ!」

 

アリクイさんチームの砲弾投げに興味を奪われた生徒たちの視線がアリクイさんチームに向けられているうちに、みほたちはこっそりとその場から去っていった。

小走りで校舎裏を走るあんこうチーム。

 

優花里「作戦成功ですね!」

沙織 「アリクイさんたちのあれを見たら、普通の子は目を奪われちゃうよね~」

麻子 「急ぐぞ。誰かに見られたら作戦がおじゃんだ」

 

みほはすでに装備している咽頭マイクに手を当てる。

 

みほ 「今から向かいます。『とっかえ作戦』、予定通りに実行します!」

 

やがて校舎裏にたどり着いたあんこうチーム。

そこにはⅣ号と__

 

みほ 「後は、よろしくお願いします」

 

傍らに一人の人物がいた。

三十分後。

かなりの広さを誇る運動場に、四両のⅤ号戦車が待機している。

やがて__

 

司会 「みなさん、ご覧ください!あんこうチームの入場です!」

 

そこへ、Ⅳ号戦車がやって来た。

大勢の完成に囲まれる中、Ⅳ号のキューポラからはみほが凛々しい顔をして構えている。

 

山田 「わあ、あんこうチームのⅣ号だ!」

小池 「ほら、西住さんが見える!さっきの講演の時は優しい顔してたけど、戦車に乗ると凛々しい顔をしてるね」

渚  「そ、そうだね」

 

観客の中には渚や、友達の山田や小池もいる。

そのまま通り過ぎ、観客席よりだいぶ離れたところまで進んでいく。

やがて位置についた。

Ⅳ号は正面にⅤ号を四両構えている。

 

小池 「うちの戦車道部のⅤ号四両に対し、あんこうチームのⅣ号一両かー。ハンデとしちゃかなりのもんだけど、どっちが勝つかなー?」

山田 「そりゃあんこうでしょ。ハンデあるって言っても、全国優勝者よ?斉藤さんはどっちだと思う?」

渚  「えっ!?えーっと、何ごともなければあんこうチーム、かな」

山田 「?」

司会 「では、試合__」

 

コールにしんとする会場。

 

司会 「__はじめ!」

 

バアン!×4

 

試合開始と同時にⅤ号は四両同時に砲撃をした。

しかし__

 

ヒュッ!

 

それを読んでいたⅣ号が車体を回してひらりとかわす。

そのまま急発進、輪を描きながらⅤ号チームの側面に回り込む。

 

小池 「うわっ、すごい!開幕からの奇襲をたやすくよけちゃった!」

山田 「いやー、さすがだわ」

渚  「うん、すごいよね」

 

側面からの攻撃に対応しようと車体を回すⅤ号たち。

 

みほ 『撃て!』

 

バアン!

シュポッ

 

走り続けるⅣ号の砲口から砲弾が放たれる。

体制を整える前に、Ⅴ号はあっという間に一両仕留められた。

 

小池 「あちゃー、速攻で一両やられたよ!」

山田 「動きも狙いも正確すぎる!」

 

間髪おかず二発目も放つが、その場から散会するようにⅤ号たちは逃げ出していく。

バラバラに逃げたⅤ号の位置を見渡すみほ。

急がず、ゆっくりと前進させて三両の様子をうかがい続けている。

 

小池 「うひゃー、隊列もう崩れちゃってるよ。こりゃ全滅は時間の問題かな?」

渚  「でも、うちの戦車道部だってしっかり練習はしているんだし、きっとまだ負けるつもりはないと思うよ?」

山田 「おっ、動いた!」

 

逃げ出していた三両が、同じタイミングで急旋回、三方向から一斉にⅣ号に狙いを定めた。

 

小池 「おおっ!逃げたと見せかけて三方向からの包囲射撃か!」

山田 「やるねー」

 

バアン!

バアン!

バアン!

 

みほ 『回避!』

 

それも読んでいたみほの指示により、急旋回で砲弾を交わす。

そしてそのまま急発進、一番近いⅤ号に向かって突貫していった。

 

戦車A「わわわ、こっちに来たー!装填急いで!迎撃、迎撃ー!」

 

急いで装填を完了させ、慌てて砲撃を行う。

 

バアン!

 

しかし、やみくもに撃った砲撃など当たるわけもなく、Ⅳ号は勢いを落とさず距離を詰める。

 

戦車A「次弾装填、まだ?!」

戦車B「オッケー、いけるよ!」

戦車A「もっと近づいてから撃つよ!相手が撃つ瞬間に合わせて撃つの!」

戦車C「了解!」

 

相打ちに近い形を狙うⅤ号。

やがて限界近くまでⅣ号は近づき__

 

戦車A「今だ!撃てー!」

 

ドオン!

 

至近距離から撃った砲撃は__

外れた。

Ⅳ号は砲撃が放たれる直前、急旋回からのドリフトを決めていた。

勢いを保ったままⅤ号の側面に回り込む。

 

渚  「あっ、あれは!」

小池 「きたーっ!あんこうチーム必殺の!」

山田 「ゼロ距離ドリフトアタックー!」

みほ 『撃て!』

 

バアン!

シュポッ

 

二両目のⅤ号も撃破された。

 

優花里「二両目の撃破も確認しました!」

沙織 「いけるいける!このままなら大丈夫だね!」

華  「皆さんも、全く疑っていないご様子です」

麻子 「うまくいったな、えい__西住さん」

 

言い直して、車長に声を掛ける麻子。

 

栄子 「栄子でいいって、誰にも聞こえないんだし」

 

車長のポジションには、栄子が乗っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

~~回想~~

 

麻子 『この作戦を実行するには、ある人物の助けが絶対に必要だ』

華  『それは、一体どなたのことですか?』

 

麻子は、スッととある人物を指さした。

その指は__

 

栄子 『・・・・え?私!?』

 

栄子を指さしていた。

 

優花里『なんと!?栄子殿がキーパーソンでありますか!?』

沙織 『ねえ麻子、どうして栄子ちゃんの協力が必要なの?』

麻子 『デモンストレーションをする以上、西住さんが出ないわけにはいかない。だが西住さんはスミョルミルニムメム病にかかっている。戦車には乗れない』

華  『そうですね』

麻子 『西住さんはいつもキューポラから体を乗り出している。だから戦車の中に隠れることもできない。観客に違和感を抱かせてしまう。ならば、影武者を立てるのが一番いい』

シン 『ワーオ、武田信玄?』

イカ娘『それで、どうして栄子なのでゲソ?』

麻子 『西住さんと背丈が一番合うのは現状栄子さんだけだ。そして髪の色と髪型もかなり近い。カツラで誤魔化そうとしても戦車の動きで振り落とされる危険性がある。地毛の方が間違いない』

沙織 『たしかに、ぱっと見かなり似てるかも?』

華  『実際の試合は危険が伴うため、観客の方々は離れて観なければいけませんものね』

麻子 『まず講演などの目の前に出る時は西住さん本人にやってもらう。そして実戦の時になったら__』

栄子 『私がすり替わる、というワケか』

 

麻子が頷く。

 

麻子 『もし生徒の人たちに囲まれてしまったら、アリクイのみんなに注意を引いてもらう。みんなが力を合わせればいくらでも誤魔化せるはずだ』

優花里『私、この作戦行ける気がしてきました!』

栄子 『西住さんがこうなったのもイカ娘のせいだからな。いくらでも協力するよ』

イカ娘『むー』

みほ 『えーと、それじゃあ、作戦名は・・・・『とっかえ作戦』でいきましょう!』

 

~~回想終了~~

 

みほ 「麻子さん、そこを左へ。華さんは奥のⅤ号を警戒してください」

 

みほは運動場からかなり離れた場所に隠れ、モニター越しにマイクで指示を飛ばしている。

試合会場の上空にはカメラ搭載式のドローンを飛ばしており、そこで状況はまるわかりになっている。

イレギュラーに見つからないよう、カモさんチームの三人が周囲を警戒していた。

栄子はぱっと見で違和感を感じないように、髪のハネ部分は整髪料で固めて隠し、目は軽くテープを張ってたれ気味にしている。

 

小池 「うわあ、今の危なかったなー!背後の死角からなんて」

山田 「でもすごく上手くよけたよね。まるで後ろに目があるみたい!」

渚  「あはは・・・・」

 

もちろん事情を知っている渚は、愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 

麻子 「よし、狙い通りだ。分断に成功した」

華  「あとは、各個撃破でおしまい、ですね」

沙織 「このまま行けばすぐ終わらせられるね。よかったよかった!」

優花里「栄子殿、周囲は変わりありませんか?」

栄子 「・・・・」

 

しかし、栄子からの返事がない。

 

優花里「?・・・・栄子殿?」

栄子 「だ、__」

華  「だ?」

栄子 「大丈、ぶ・・・・、近くに、は、来てない__ゲー」

優花里「!?」

華  「!」

沙織 「え、ちょっと待って待って!今のって__まさか!」

 

慌てて栄子の様子を見る沙織。

__栄子の顔は、真っ青になっている。

目の焦点が合っていなさそうに揺れ、歯を食いしばりながら冷や汗もすごい。

 

沙織 「栄子さん、もしかして・・・・!」

麻子 「・・・・栄子さんにも伝染っていたのか・・・・。その可能性は考慮していなかったな」

栄子 「だ、だいじょうぶだから・・・・これくらい、なんてことはないゲー・・・・」

優花里「なんかすごい危なそうな語尾ですよ!?」

華  「でも、どうしてでしょう?午前の時は、平気で運転手をしていらしたのに」

麻子 「たぶん、その時感染したんだ。そして今になって発症したと考えれば自然だ」

優花里「そんな!」

麻子 「まずいぞ、このままじゃ体調不良がバレる」

 

栄子の発症に注意を取られ、Ⅳ号はⅤ号二両に前後を取られてしまう。

 

みほ 「!前後にⅤ号が!」

沙織 「挟まれちゃったよ!」

麻子 「しくじったな」

優花里「ど、どちらから砲撃が来るんでしょう!?」

華  「せめて、周りを観察できれば・・・・」

 

しかし要の車長の栄子がそれどころではなく、キューポラのふちに手をついてこらえているのがせいぜいになっている。

 

優花里「ここは離脱しましょう!全速力なら脱出できます!」

麻子 「ここで急発進すれば揺れはもっとひどくなる。栄子さんが倒れる危険性もあるぞ」

沙織 「じゃあどうするの!?」

麻子 「それを今考えている!」

華  「西住さん、どうすればいいのでしょう」

みほ 『ど、どうしよう・・・・』

 

無線先のみほも、咄嗟にいい案が思いつかず、必死に頭を回転させている。

 

戦車D「前後を取った!これならいける!」

戦車E「まず背後から砲撃!それをもし避けれても、それに合わせてこっちが撃てば間違いなく当てられるわ!」

戦車D「了解!」

 

背後を取ったⅤ号がどんどんⅣ号へ接近していく。

やがてお互いの表情も見えるほどにまでなった。

 

優花里「後ろからです!」

栄子 「!」

戦車D「西住さん!覚、悟__!?」

 

まさに砲撃の合図を出そうとした瞬間。

栄子は必死に歯を食いしばり、背後に迫るⅤ号を睨みつけた。

 

戦車D「ひいっ!?」

 

歯を食いしばり、体調不良を誤魔化すためにキューポラのふちを握りしめる栄子の姿は、まるで手負いの獣のような威圧感に満ちていた。

それをもろに見てしまった彼女は、指示を出すのを一瞬忘れてしまった。

 

みほ 『今です!正面に撃ってください!』

 

バアン!

シュポッ

 

咄嗟の指示からの砲撃で正面のⅤ号を撃破。

そして__

 

戦車D「しまった!__はっ!?」

 

直後、超信地旋回によって向けられた砲口から間髪おかず砲弾が放たれ、最後のⅤ号からも白旗が上がった。

 

司会 「Ⅴ号四両、全車両戦闘不能!よって、Ⅳ号戦車・あんこうチームの勝利!」

生徒 「わああああああああああ!」

 

白熱した試合に大歓声を上げる観客たち。

そんな中、倒れる寸前になっていた栄子を、沙織たちが急いで中に引っ張りこんだ。

 

優花里「栄子殿、お疲れさまでした!」

沙織 「栄子ちゃん、私たちの勝ちだよ!」

華  「おかげで、みほさんの名誉も守れました!」

麻子 「ナイスガッツだった」

 

口々に栄子を称える言葉を口にするあんこうチーム。

 

みほ 『栄子さん、おつかれさまでした。本当にありがとうございました!』

栄子 「__だよ、ゲー」

みほ 『え?栄子さん、今なんて?』

栄子 「もう__車長はこりごりだよゲー」

みほ 『あはは・・・・』

 

後日、海の家れもんにて。

 

渚  「あれから学校では西住さんの話題でもちきりですよ」

みほ 「そうなんだ」

 

一連の出来事を乗り越えた一同がテーブルを囲い、談笑している。

 

イカ娘「私も栄子も大洗の西住さんからもスミョルミルニムメム病の病原菌は完全に抜けたでゲソ。もう安心でゲソ」

栄子 「まったく、あれのおかげでとんだ目にあったよ」

シン 「結局、すぐ収まる病気だったのね。タイミングが悪かったわね」

優花里「でも栄子殿のご協力が無かったら今頃どうなっていたか」

華  「注意を引いてくれたアリクイさんの皆さんも、みほさんをカバーしてくれたカモさんの皆さんも、感謝にたえません」

ねこ 「あれのおかげで体を鍛えたいっていう子たちとメアドを交換できたにゃー」

もも 「筋トレ友達が増えたもも!」

ぴよ 「筋肉は正義だぴよ~」

沙織 「あはは・・・・」

そど子「それにしても、乗り物酔いしやすくなる病気だなんて・・・・。戦車道を嗜むものとして、絶対にお目にかかりたくない病気ね」

麻子 「そど子はそれくらいの方が静かでいいかもしれない」

そど子「冷泉さん!何か言ったかしら!?」

麻子 「なーんにもー」

 

自然に笑いが上がる。

 

渚  「あの、でも一つだけ問題がありまして・・・・」

みほ 「えっ」

沙織 「それは一体!?」

 

渚は校内新聞を取り出し、テーブルに広げる。

それは例の交友会についての記事だったが、その一面にはでかでかとこう書かれていた。

 

シン 「えっと、なになに・・・・?」

 

『まさに一騎当千!人にらみで戦車ものかす!軍神ならぬ、鬼神とまで噂される西住みほさんの魅力に迫る!』

 

あん 「・・・・」

渚  「最後に栄子さんの睨みがすごく怖かったらしくて、西住さんがこんな評判に・・・・」

 

場がシーンとする。

 

優花里「・・・・まあ、人のうわさも七十五日と言いますし。待つしかないかと・・・・」

みほ 「ふえっ!?」

沙織 「私としては、鬼神と呼ばれる前は軍神なんて呼ばれていたことにもびっくりだよ」

みほ 「ええっ!?」

華  「ふふっ。噂に矛盾しないように、みほさんもあのにらみを身につけないといけませんね」

みほ 「そんな、無理だよ!」

麻子 「もう一回あの病気にかかればできるようになるかもしれないぞ?」

みほ 「もう!みんな好きに言って!」

 

れもんにはみんなの笑い声がいつまでも響いていた。




スミョルミルニムメム病、恐ろしい病です。
主に自分で命名しておいて読めないところとかが。

今回はテーマを『みほのピンチ』にして書こう、として考えていくうちにオリジナル病を使うことにしました。
当たり前かもしれませんが、ガルパンの登場人物に乗り物酔いする人は出てきませんね。
もし出てきたらそれこそ死活問題になっちゃいそうです。

そしておかげさまで第5話にまで突入です!
これも読んでくれる方々がいてくれるおかげです。
これまでありがとうございます、そしてこれからもよろしくお願いします!

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