侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※この話は、大洗女子学園編から黒森峰女学園編までの各6話、および知波単学園編から大学選抜チーム編各4話までを先にお読みいただいているともっとお楽しみいただけます。


※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル


第6話・体験しなイカ?(前編)

夏の終わりの気配が近づいてきたある日の大洗女子学園艦。

みほは、学園艦後部の公園から海を眺めていた。

 

沙織 「みーぽりん!」

 

後ろから駆け寄って来た沙織が、両手に持っていたアイスを一つ手渡す。

 

みほ 「ありがとう、沙織さん。・・・・うん、おいしい!」

 

アイスを食べて笑顔のみほを見て満足そうな沙織。

 

沙織 「イカちゃんを思い出してたの?」

みほ 「えっ?・・・・うん。今何してるのかなって」

優花里「いい人たちでしたよね、由比ヶ浜の皆さんがたも」

華  「はい。あの方たちからは、とても学ぶことがありましたし」

麻子 「千鶴さんの特性ミルクセーキ、また飲みたくなってきた」

みほ 「うん。いつか、また戦車道の相手もしてもらいたいね」

 

そんな思い出話を重ねながら校舎へ戻って来たみほ。

 

ピンポンパンポーン

 

と、校内放送のチャイム。

 

放送 『あんこうチームの皆さん、生徒会室へお越しください。繰り返します。あんこうチームの皆さん、生徒会室へお越しください』

優花里「会長からでしょうか」

華  「ともかく、参りましょう」

みほ 「うん」

 

そのまま直接生徒会室へ。

 

杏  「やーやーご足労いただいちゃったね」

みほ 「いえ、構いませんが・・・・どうしたんですか、会長?」

 

部屋の中を見やると、テーブルの上に箱が山積みにされている。

 

沙織 「何だろ、あの箱」

優花里「さあ・・・・あっ、でも箱にグロリアーナの校章が記載されてますよ」

沙織 「あっ、本当だ!じゃああれはダージリンさんからの贈り物?」

麻子 「また紅茶だろうか」

優花里「うーん、前にいただいた分がまだ終わっていませんが・・・・」

沙織 「あっ、じゃあ紅茶に合うお茶菓子かも!」

華  「それは素晴らしいですね」

麻子 (これまでにないほど目が輝いている)

桃  「これは今朝、グロリアーナから我が校へ寄贈されたものだ」

柚子 「厳密に言えば大洗女子学園の戦車道チーム宛になっているの」

みほ 「グロリアーナから?」

優花里「あの、中身は何でしょうか?」

杏  「うーん、まだ開けてないからわからないんだよね~。箱には割れ物注意って書いてあったけど」

沙織 「割れ物ってことは、クッキーかな?」

華  「まあ!」

麻子 「まだ食べ物と決まったわけじゃないだろう」

杏  「気になるからさ~。ここで開けちゃおうよ」

みほ 「わかりました」

 

かくして積んである箱の一つを開封する。

開いてみると、上質そうな衝撃吸収材がみっちりと積め込まれている。

丁寧に取り外していくと、そこから何かが見えてきた。

慎重に手に取るみほ。

 

みほ 「あれ・・・・これって・・・・」

 

場所は変わり、海の家れもん。

 

イカ娘「静かになってしまったでゲソ」

 

イカ娘はテーブルに座って黄昏ている。

 

栄子 「何言ってんだ、お客さんがちゃんといるじゃんか」

 

とは言ったものの、栄子もどこか寂しさに近いものを感じてはいた。

 

渚  「いつもの賑わいなんですけどね・・・・言われてみれば、少しそんな感じもします」

シン 「西住さんたちがいなくなったからじゃない?」

栄子 「それだ」

 

シンディーの言葉にビシッと指をさす。

 

千鶴 「最近まで、みほちゃんダージリンちゃん、ケイちゃんにアンチョビちゃん、カチューシャちゃん、まほちゃん、絹代ちゃんにミカちゃん、そして愛里寿ちゃん。それにチームのみんなも来てくれて、とても賑やかだったものね」

イカ娘「みんな帰っちゃったでゲソ」

ペパ 「私らはいるっすよ!」

 

いい笑顔で自己アピールするペパロニ。

迎えを寝過ごして置いてきぼりにされたアンチョビたちは、まだれもんでアルバイトを続けていた。

 

チョビ「アンツィオが迎えに来れるのはもうしばらくかかるそうだからな・・・・。恥ずかしいことではあるが、それまでの間しっかり手伝いをこなさねば」

カル 「チームの子たちの面倒も見なければいけませんからね」

千鶴 「ふふふ、にぎやかになって楽しいわよ?」

イカ娘「むしろ、家によく三十人以上も寝泊まりできるもんでゲソ」

栄子 「そうと決まった時の姉貴の張り切り具合、今でも思い出せるわ」

 

現在相沢家ではアンツィオメンバーたちが炊事洗濯を担当してくれている。

 

栄子 「まだこの辺にいる学園艦って言えば・・・・聖グロとサンダースだけだな」

イカ娘「ダージリンさんやケイは遊びに来てくれるけど、やはり誰も来ていない時間が多いでゲソ」

渚  「仕方ありませんよ。各地を回り、見聞を広めて成長に繋げるのが学園艦の一般的な方針なんですから」

シン 「むしろ陸で生活する私たちと海で過ごす彼女たちがここまで接点持てたこと事態が奇跡のようなものよ」

チョビ「そうだな。来た理由の大半はまちまちなのに、同時期に同じ場所に会するなんてそうはないだろう」

千鶴 「次にみんなに会えるのはいつになるのかしら」

カル 「そうですね・・・・いつになるんでしょう」

 

そんなことを話しながら、みんなが遠い目をしていると__

 

ダー 「思われているより、その日は近いですわよ」

ケイ 「ヘイ!お邪魔するわね!」

 

ダージリンとケイが現れた。

 

千鶴 「あら、二人ともいらっしゃい」

栄子 「どうしたんだ?二人一緒で来るなんて珍しい」

ケイ 「うん、みんなが由比ガ浜を出発しちゃって、スクイーディが退屈してるって聞いてね」

ダー 「そんなイカ娘さんにぴったりのものをお持ちしましたわ」

シン 「あら、どんなものかしら?」

 

ダージリンが合図をすると、いくつもの段ボールを乗せた台車をオレンジペコが押して来た。

そして段ボールをテーブルの上に乗せる。

 

イカ娘「これは何でゲソ?」

ダー 「ふふっ、どうぞ開いてごらんなさい」

 

促され段ボールを開けると__

 

イカ娘「?これは何でゲソ?」

 

中からあるものを取り出した。

 

渚  「・・・・ヘッドセット、でしょうか?」

 

イカ娘の手にあるのは、銀色の光沢を放つヘッドセットのような装置だった。

そこから飛び出るように大きなゴーグルもついている。

 

イカ娘「???」

 

手に持ったまま理解できないイカ娘。

 

ケイ 「まずは被って__」

栄子 「あああああああ!?」

 

装置に気が付いた栄子が大声をあげながら駆け寄り、イカ娘から装置を奪う。

 

イカ娘「わあっ!?栄子、何するでゲソ!」

栄子 「サイズ調整のできるヘッドセット、視界を広く覆えるゴーグル、耳を包み込む大きさのヘッドホン、ままま、まさかこれは・・・・!」

 

キラキラした目でダージリンを見る栄子。

そんな栄子にダージリンはにっこりとほほ笑みかける。

 

ダー 「お付けになられます?」

栄子 「いいのか!?」

 

大喜びで装置をセットする栄子。

ヘッドバンドを巻き、ヘッドホンで耳を覆い、ゴーグルを装着する。

 

ケイ 「スイッチオン!」

 

ピッ、とスイッチを入れる。

と__

 

栄子 「おおおおおおおおおおお!」

 

栄子が大騒ぎする。

ゴーグルで目を覆われている状態にかかわらず、上下左右とキョロキョロ見渡し、手をわたわたと振りながらよちよちと歩いている。

 

イカ娘「・・・・何やっているのでゲソ、栄子は」

 

その異様な光景に引き気味なイカ娘。

そんなイカ娘の言葉も耳に入らないのか、大興奮の栄子。

 

ケイ 「はい、これ」

 

ケイがイカ娘にも装置を渡す。

あからさまにいぶかしむイカ娘。

 

ダー 「大丈夫ですわ。付けてみてくだされば、栄子さんがはしゃがれている理由が分かります」

 

不安げにしながらも、ケイやダージリンを信用して装置を装着し、ゴーグルで視界を塞ぐ。

真っ暗闇に包まれる視界。

 

イカ娘「何も見えないでゲソー」

ケイ 「そのままでいてね。スイッチオン!」

 

ピッ!

 

装置から電子音が聞こえたかと思うと、突如視界が光に包まれる。

 

イカ娘「うわっ!?」

 

光に驚き怯むが、恐る恐る目を開くと__

 

イカ娘「うえっ!?」

 

目の前に広がるのは超高層ビルの立ち並ぶ大都会の光景。

その道路のど真ん中にイカ娘は立っていた。

 

イカ娘「こ、ここはどこでゲソ!?ケイ!?ダージリンさん!?みんなどこ行ったのでゲソー!?」

 

パッパー

 

突如、背後から音がする。

はっと振り返ると、向こうから猛スピードでトラックがイカ娘に向かって突っ込んできている。

 

イカ娘「うわあああああ!?」

 

慌ててよけようとするが間に合わない。

反射的にしゃがむが__何も起こらない。

恐る恐る顔を上げると、トラックはイカ娘をすり抜けるかのように走り去っていった。

 

イカ娘「どうなってるのでゲソ・・・・」

 

と、未だ事態を把握できないでいると__

 

はしっ

 

誰かに腕を掴まれた。

慌てて周囲を見回すが誰もいない。

 

イカ娘「わ、私の腕を掴んでいるのは誰でゲソ!?姿が見えないのに確かにつかまれているでゲソ!お、お化けでゲソー!」

 

パニックになりはじめるイカ娘。

 

ダー 「落ち着いてくださいまし、イカ娘さん」

 

と、誰もいないはずの場所からダージリンの声がする。

と、突如世界が揺れたかと思うと、

 

カパッ

 

目の前に、ケイが現れた。

 

イカ娘「え・・・・?」

 

辺りを見回すと、そこはれもんの店内。

傍らには、イカ娘の腕を握るダージリンが立っている。

 

ダー 「どうだったかしら?初めてのバーチャル体験は」

イカ娘「ばー・・・・ちゃる?」

 

店の奥では、まだ栄子がゴーグルをつけたままはしゃぎまわっていた。

その後。

 

イカ娘「なるほど・・・・ここがテレビみたいになっていて、つけると目の前に映像が現れる仕掛けになっているのでゲソね」

 

落ち着いたイカ娘は、テーブルに置いた装置・・・・VRゴーグルの説明を受けていた。

 

ケイ 「どうだった?まるで別世界にいるみたいだったでしょ」

イカ娘「うむ、凄いの一言に尽きるでゲソ。しかも首を曲げたら視点も動くし、あれが作り物の映像だなんて信じられないでゲソ」

栄子 「いやー、楽しかったー!」

 

VR体験を満喫した栄子が満足顔でテーブルに戻って来た。

 

ケイ 「堪能してもらえたみたいね」

栄子 「いつか体験してみたいとは思ってたけど、まさかここでできるとは思わなかった!」

渚  「凄い技術ですね。これはどこから?」

ケイ 「ウチの学校で使われているものよ」

イカ娘「これを使って、アリサたちも遊んでいるのでゲソか?」

ケイ 「ノンノン。これを使うのは遊びのためじゃないわ。これは戦車道に使っているの」

イカ娘「戦車道に?」

渚  「さすがサンダースとグロリアーナ、これほどのものを練習のために導入できるなんて・・・・」

栄子 「・・・・なあケイさん、戦車道の練習に使うってことは、もしかしてこれって・・・・」

 

栄子がキラキラした目でケイに問いかける。

フフッと笑うケイ。

 

ケイ 「察しがいいわね栄子。そう、このVR装置は__オンラインができるのよ!」

 

数日後。

イカ娘たち戦車道チーム(イカ娘・栄子・渚・シンディー・鮎美)はれもんの店内に集まり、テーブルを囲んでいた。

各々のメンバーの前には、例のVRゴーグルが置かれている。

お互い頷き、全員ゴーグルを被り__スイッチを入れた。

 

フィィィィィン__

 

そして光に包まれ、映し出されたのは__開けた白い空間。

そこでは、

 

みほ 「イカ娘ちゃん!」

イカ娘「おお、みほじゃなイカ!」

 

あんこうチームが仮想空間で待っていた。

空間内のアバターは全員共通だが、顔に表情が投影されているためまるで本人が目の前にいるようにも見える。

コントローラーで操作し、みほたちの所へ駆け寄る。

 

沙織 「イカちゃん、また会えたね!」

イカ娘「うむ!沙織も元気そうじゃなイカ!」

華  「シンディーさん、ご機嫌よう」

シン 「ヘイ華。そっちでは宇宙人とか見つからなかった?」

栄子 「や、お久しぶり。そっちは変わりなかった?」

麻子 「特に変わりはなかった。でもしいて言えば千鶴さんの料理が恋しい」

優花里「斉藤殿、ご無沙汰しております!例の装填練習器の具合はいかがでしょうか?」

渚  「はい、使いやすくてとても助かってます!」

 

思い思いの言葉を交わすあんこうチームとイカ娘たち。

ふと、その輪に入り損ねた鮎美に気が付く。

 

沙織 「おーい、鮎美ちゃん!こっちこっち!」

 

沙織が手招きすると、小走りで寄ってくる鮎美。

 

みほ (そういえば、鮎美ちゃんは面と向かってはうまく話せないんだったっけ)

優花里(でも無線機越しでは饒舌でしたが)

麻子 (今は仮想空間の中)

華  (いったい、どちらになるのでしょう?)

鮎美 「皆さん、お久しぶりです!」

 

ハキハキと笑顔で声を掛けた。

 

沙織 「!」

鮎美 「皆さんが帰られた後も、私なりに戦車道の勉強をしてみたんです。通信士と言っても無線でお話しするだけではなく、車長さんとも連絡を密にし誰よりも状況を把握して他車両の皆さんにも正確にお伝えしなければいけないということもわかり、より一層の勉強と経験が必要だと思いました。それに沙織さんは通信士でありながら副砲も兼任されているとのことで、機銃の練習も始めてみたんです!機銃と言えばお父さんの__」

沙織 「ストップ、ストップストーップ!わかったから、落ち着いて話そう!」

麻子 「やはり、仮想空間も人間相手ではないという認識だったか」

華  「目の前にいるのも厳密には私たちではなく、通信を介したアバターさんですものね」

みほ 「あはは・・・・」

 

と__

 

ダー 「皆さん」

 

空間内にダージリンとケイも現れた。

 

みほ 「あっ、ダージリンさん。あの、こんなすごい機械を貸していただいて、ありがとうございます!」

ダー 「いいえ、お気になさらず。私どもとしては、たとえ離れていようともみほさんとは密な関係でありたいと思っておりますので」

ケイ 「それにこの先大きな大会の予定もないし、お互いの船が近づく予定もない。待つのももどかしいじゃない」

優花里「確かに、これならいつでも面と向かってお話しできますね!」

 

はしゃぐ優花里に、ケイとダージリンは顔を合わせて苦笑する。

 

優花里「あれ・・・・、私、何か変なこと言いましたでしょうか!?」

ダー 「いえ・・・・随分と可愛らしい使い方をされると思いまして」

みほ 「?」

ケイ 「言ったでしょう?これは『戦車道を練習するための』装置だって」

 

ピッピッピッ

シュウィイイイイイイイン

 

ケイが再び端末を操作すると、白い空間があっという間にその姿を変えていく。

そして現れたその空間は__

 

みほ 「ここは・・・・倉庫、ですか?」

 

重厚なレンガと金属の屋根に覆われた、丈夫そうな建物の内部だった。

続けてケイが操作すると__

 

シュン!

 

沙織 「ひゃあ!?」

 

突如、みほたちの前に戦車が現れた。

よく見ると、ジャーマングレーに彩られたⅣ号戦車。

側面にはあんこうチームのトレードマークであるあんこうのペイントもきちんと施されている。

 

優花里「これ、私たちのⅣ号ですか?!」

華  「まあ、細かい所までそっくりです」

みほ 「すごい・・・・!」

 

本物のⅣ号と違わぬ出来栄えに声が漏れる。

 

ケイ 「みほ、戦車に近づいて決定ボタンを押してみて」

みほ 「えっと、これ・・・・かな?」

 

みほがたどたどしくコントローラーの決定ボタンを押す。

 

シュン!

 

瞬間、みほの姿が消える。

 

沙織 「あれ!?みぽりんどこに!?」

イカ娘「むっ、上でゲソ!」

優花里「上?」

 

言われて見上げると、みほが呆気にとられた顔でキューポラのポジションについていた。

 

麻子 「おおっ」

みほ 「わあ・・・・すごい、高さまで乗った時と同じに見える!」

 

何百回と乗っているであろうキューポラに跨りながらもはしゃぐみほ。

 

沙織 「ケイさん、これってもしかして私たちも・・・・」

 

ケイはにっこりと笑顔で返し、沙織たちもⅣ号に近づき姿が消える。

次の瞬間には、沙織たちはⅣ号内部でいつものポジションについていた。

 

沙織 「うわっ、すごい!内部までそのまんま!」

華  「見てください、ちゃんと引き金と照準器もついています」

麻子 「操縦席も完全に再現されているな。今にも動かせそうだ」

優花里「見てください、クッションとかの小物までそのままですよ!」

沙織 「ほんとだ!__って、あれ?どうしてⅣ号の内装まで再現されてるの?見せたことあったっけ?」

 

しばし沈黙が車内を包むが、細かいことは考えないことにした。

 

イカ娘「ほほう、これは大したものでゲソ!」

 

声のする方を向くと、イカ娘たちもチャーチルに乗り込んでいるようだった。

 

ケイ 「双方とも、全員乗り終わったかしら?」

みほ 「はい」

イカ娘「うむ!」

ダー 「では、次のプロセスへ参りましょう」

 

ダージリンが何かを操作すると、またしても風景が切り替わる。

次に現れたのは__どこまでも続く、広い野原だった。

 

みほ 「わあ・・・・」

 

突き抜けるような青空をあおぎ、声が漏れるみほ。

 

ケイ 「じゃあ、軽く動かしてみましょうか」

みほ 「え?」

 

きょろきょろと体を捻り、車体を見るみほ。

 

みほ 「これ、動かせるんですか?」

ダー 「当然ですわ。これは、戦車道の練習のためのものなのですから。麻子さん、栄子さん。コントローラーの右上と左を押してごらんなさい」

麻子 「ほーい」

栄子 「これか?」

 

言われた通りボタンを押すと__

 

ギュラギュラギュラ__

 

みほ 「わっ、わっ、わっ」

イカ娘「動いたでゲソ!」

 

ゆっくりと両戦車が進み始めた。

バーチャルな視点からの移動にとまどうみほと、はしゃぐイカ娘。

ほどなくして操作方法を心得た二人は、すぐに慣れ始めた様子だった。

その間に通信、装填、砲撃、各作業についても説明し、各員ほどなくして基本的なことは理解していく。

 

渚  「これは・・・・やってて楽しくなってきますね」

シン 「技術の進歩って言うのは素晴らしいわね。技術力ならあいつらもあるんだろうけど・・・・絶対平和なものは作れないだろうし」

ダー 「では」

 

突如、ダージリンが声を上げる。

 

みほ 「どうしたんですか?」

ケイ 「ここで一勝負してみない?」

みほ 「えっ?」

ダー 「折角操作にも慣れてきたのです、どれほどまでできるようになったのか、試してみてはいかが?」

麻子 「確かに、基本的に動けるとしても実際に試合して見ないとちゃんと動けるかわからないからな」

イカ娘「面白そうでゲソ!もちろんやるでゲソ!」

栄子 「VR空間で試合・・・・。全ゲーマーの夢ってやつだな!」

 

かくして適正な距離を取り、お互い位置に着く。

 

ケイ 「試合は時間制限なし、特殊条件もなし。ライフは3にしておくわね」

みほ 「えっ?」

優花里「あの、ライフって何ですか?」

ダー 「ライフは撃破されて復帰することができる回数です。ここは仮想空間。いくらやられても、一瞬で元通りですわ」

ケイ 「不慣れな子たちはすぐやられちゃうでしょ?それで動けなくなるとつまらないから、一定回数撃破されるまでは試合を続けられる設定に出来るの」

沙織 「へえー!」

麻子 「実際の戦車だと撃破されたら直さないといけないからな。そう考えると壊れてもすぐ直るこのシステムは練習にうってつけだな」

栄子 「こちらとしては長く楽しめるから願ってもないことだな」

ダー 「こほん、では改めまして。位置について__」

ケイ 「__ゲーム、スタート!」

 

ヴィイイイイイ!×2

 

ケイの合図に同時に動き出す両者。

 

みほ 「撃て!」

 

ドオン!

 

照準に捉えたⅣ号が速攻で火を噴く。

が__

 

ギュインッ!

 

チャーチルはチャーチルと思えぬほどの急角度な回避を行い、砲撃をかわす。

 

華  「っ・・・・!かわされました」

沙織 「今の動き、めちゃくちゃよくなかった!?」

麻子 「ああ、実際のチャーチルに乗っているときより動きにキレがある」

栄子 「へっへっへ、私にゲームコントローラー握らせて、一筋縄でいくと思うなよ!」

 

不敵な笑みを浮かべ、さらに接近していくチャーチル。

その間にも幾度も砲撃を行うが、どうにも砲撃が当たらない。

 

みほ (反応がすごくいい・・・・。こちらが砲撃しようとするとすでに回避行動に移ってる)

 

そうしている間にも、チャーチルは距離を詰めてくる。

 

イカ娘「射程範囲に入ったでゲソ!シンディー、撃つでゲソ!」

シン 「OK!」

 

バアン!

 

お返しとばかりにチャーチルが火を噴き、砲弾がⅣ号へ向かっていく。

 

みほ 「!」

 

即座に回避指示を送るが、鋭い回避を行えなかったせいか__

 

バアン!

 

側面にわずかながら被弾を許してしまう。

と__

 

みほ 「?」

 

みほの目の前に緑色のメーターゲージが現れる。

そして、

 

ピピピピ

 

少しそのゲージは減少し、止まった。

 

ダー 「それはその車両の撃破までの耐久度ゲージですわ」

 

Ⅳ号の傍らにダージリンが現れる。

 

ダー 「砲弾の当たった位置や角度、弾種から計算して、車体の損害を数値化したものです」

みほ 「ダ、ダージリンさん!?試合中に外に出ていたら危ないですよ!?」

ダー 「ご心配なく。これは生身ではありませんので、砲弾が当たっても何もダメージはありませんわ」

みほ 「あ、そ、そうでした・・・・」

 

仮想空間であることを忘れていたことに少し頬を赤らめる。

 

みほ 「つまり、このゲージが無くなったら撃破になるんですね」

ダー 「そうなりますわ」

麻子 「すまない西住さん、まだ操作をものにしきれていないみたいだ」

みほ 「麻子さん、気にしないで。これは練習試合なんだから、慣れていかなきゃ」

 

ドオン!

バアン!

 

その後も戦闘は続いていくが、依然とチャーチルの方が有利に事を運び続けている。

 

ダー 「あら、みほさんがたが押されていますわ」

ケイ 「やっぱり実物とはちょっと勝手が違うからね。逆にスクイーディたちは生き生きしてるわ」

 

麻子もコントローラーの操作をものにし切れていないのか、実物ほどには動きにキレがない。

が、それでも本来の経験と腕を活かし、済んでのところで直撃だけは免れている。

 

鮎美 「すごい!さっきからずっと優位です!」

渚  「片っ端から砲弾をかわしてる・・・・」

イカ娘「やはり栄子はゲーム感覚になるとめったやたらと強いでゲソ」

栄子 「ハハハハハ!いける、いけるぞお!この中でなら西住さんたちも恐れるに足りん!」

シン 「悪役みたいなことまで言いだしてるわ」

 

気が付けば、Ⅳ号の耐久度は残り僅か。

どこであろうとも被弾してしまえば撃破されるほどまでになっている。

 

沙織 「まずいよみぽりん!後一撃でやられちゃう!」

みほ 「残念ですが、今この場においては向こうの方が上手です。だから、起死回生の一手を打とうと思います」

麻子 「提案があるなら教えてくれ」

みほ 「はい、まず__」

 

と、突如Ⅳ号が踵を返して距離を取り始める。

 

イカ娘「あっ、逃げるでゲソ!」

栄子 「距離を空けてこっちの射程外に逃れる気か!そうはさせるかーっ!」

 

逃げるⅣ号、追うチャーチル。

逃がすまいと全速力で追いかけていると__

 

みほ 「__今です!」

 

ギャイイイイイイイ!

 

みほの合図にⅣ号は急速なドリフトをかけ百八十度反転。

Ⅳ号の砲口がまっすぐ向かってくるチャーチルを捉える。

 

イカ娘「しまった!釣られたでゲソ!」

栄子 「くそっ、まだこっちの射程に入ってない!」

みほ 「撃て!」

 

即座に砲撃指示を出すみほ。

華が照準を合わせ、発射ボタンを押そうとした瞬間__

 

ババババババ!

ガンガンガンガン!

 

華  「きゃっ!?」

 

チャーチルの機銃掃射が砲手の窓を襲う。

火花と閃光が走り、華の手が一瞬止まってしまう。

 

栄子 「よっしゃ、射程内に入った!」

イカ娘「撃つでゲソ!」

シン 「Fire!」

 

ドオン!

バアン!

 

反転し急停車していたⅣ号はかわす間もなく被弾してしまった。

 

ピピピピピ・・・・

 

耐久度メーターがどんどん下がっていき・・・・

 

ピーッ

 

やがてメーターは0を示し、『撃破されました』と表示された。

 

優花里「あー、やられちゃいましたね」

麻子 「そのようだ。どうやら今回は相手が上手だったようだな」

華  「すいません、私が怯んでしまったばっかりに・・・・」

みほ 「ううん、華さんのせいじゃないよ」

沙織 「そうそう。それに、ライフはまだ2つ残ってるんでしょう?まだ勝負は終わってないよ!」

 

気を取り直し、試合を続行しようとすると、目の前にメッセージが表示される。

 

『十秒後にリスポーンします』

 

みほ 「リスポーン?」

ダー 「やられた状態をリセットして、特定の場所から再出発するということですわ」

ケイ 「やられた場所で復活しても、そのままやられちゃうでしょ?だから、相手と一定以上の距離を取ったポイントから再スタートするようになってるの」

優花里「はー、よく考えられてるんですねえ」

 

やがてカウントが0になり、Ⅳ号がシュン!と立ち消える。

そして__

 

みほ 「えっ!?」

 

Ⅳ号はチャーチルからだいぶ離れた距離の、50mほど上空に現れた。

 

沙織 「ななな、なんで!?私たち空中にいるよ!?」

イカ娘「Ⅳ号が空を浮いてるでゲソ」

ケイ 「あれがリスポーンよ。砲弾が届かない安全な場所に移り、空中に復活するの」

渚  「どうして、空中に復活するんですか?」

ダー 「そういう仕様だから、ですわ」

 

そして、リスポーンしたⅣ号は、そのまま真下に自由落下し始める。

 

麻子 「うわあああああ!?おち、落ちてるううううう!?」

 

高所からの落下というシチュエーションにパニックに陥る麻子。

 

沙織 「麻子、落ち着いて!仮想空間だから、本当に落ちてるわけじゃないから!」

麻子 「うわあああああ!」

 

しかし風を切る音、落ちるスピードや窓から映し出される光景はあまりにもリアルで、麻子は完全に冷静さを失ってしまっていた。

やがてⅣ号は地面に着地。

衝撃もなく、そのままの姿勢で地面にそびえている。

 

イカ娘「Ⅳ号はあっちに復活したみたいでゲソ。追うでゲソ!」

 

Ⅳ号のリスポーン地点へ急ぐチャーチル。

やがてⅣ号を見つけるが__

 

イカ娘「あれ?」

 

Ⅳ号はまだ同じ場所にいた。

それどころか、一切動いた気配もない。

チャーチルに気がついたみほが、頭の上で×マークを作る。

 

渚  「どうしたんでしょう?」

 

何ごとかと様子を見ているイカ娘チーム。

その頃、現実世界のみほの部屋では__

 

麻子 「VRコワイ、落ちるのコワイ、仮想空間コワイ・・・・」

沙織 「麻子、麻子!落ち着いて!大丈夫だから、こっちが現実だから、麻子!」

 

ゴーグルをつけたままガクガク震えている麻子から装置を外し、沙織が必死に落ち着かせようとしている。

懸命に抱きしめながらなだめているが、麻子の容体はすぐに晴れそうになかった。

 

みほ 「ごめんなさい、麻子さんが・・・・」

栄子 「あー、落ちる演出にやられちゃったのか」

優花里「はい、今沙織さんが必死に慰めてますが、この様子ではどうにも・・・・」

ダー 「わかりました。試合は中止にいたしましょう」

華  「申し訳ありません」

イカ娘「いやいや、華が気にすることじゃないでゲソ」

ケイ 「リアルすぎちゃったかしら」

みほ 「はい・・・・。VRだってわかっている私でも、かなり怖いと思っちゃいましたから」

ケイ 「うーん、となるとリスポーンの仕様はどうにか変えないと今後も同じことが起きそうね」

ダー 「技術部に意見を送り、改良の余地がないかお伺いを立ててみましょう」

みほ 「すいません、ご迷惑を」

ダー 「みほさんが気にするところではありませんわ」

 

こうしてVR体験会は中断する運びとなった。

数日後、聖グロリアーナ学院艦にて。

ティーサロンで紅茶を飲んでいるダージリンの元へ、オレンジペコがやって来た。

 

ペコ 「ダージリン様。例の企業様から、調整は完了したとのご連絡が」

ダー 「そう」

 

ダージリンはくいっと紅茶を飲み干すと、

 

ダー 「では、予定通り皆さんにお送りしてと伝えてもらえるかしら」

ペコ 「承知しました」

 

踵を返し去っていくペコを見ながら、ダージリンは満足そうに次の紅茶に口を付けるのだった。




いよいよ夏編最後、十校十色編の6話にまでやってまいりました。
ここまでお付き合いいただいたお礼と共に、これからもお付き合い願えればと存じます。

私事になるのですが先日、初めてVR体験を果たしまして。
その衝撃が忘れられず、絶対話に組み入れようと思いこの内容と相成りました。

昔は夢や空想の中だけにあると思っていた技術が実現し、それを体験できるようになったのはとても喜ばしいと思います。
もっと技術が進めば、本当に戦車に乗って対戦できるVRゲームなどが出るかもしれません。
そういった技術が確立するまで、とことん長生きしたいものですね。

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