侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル
聖グロリアーナメンバー→聖グロ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ

シンディー→シン


第5話・奉納しなイカ?(奉納試合編・後編)

ケイ 「ファンタスティック!」

 

高所から戦いの流れを見ていたケイが歓声を上げる。

隣にはカチューシャ、まほ、エリカたちが一緒に観戦している。

 

エリカ「まさか、ダージリン率いるグロリアーナを一瞬で封じ込めるなんて・・・・」

まほ 「荒い戦法だが、仕掛ける場所とタイミングが絶妙だ。あの場にいたら、私とて予測回避はできなかったかもしれない」

エリカ「まさか!あれはダージリンが侮って油断しただけで、隊長ほどの方になればあの程度の奇襲!」

 

まほを立てようと直前に言ってることと矛盾しているエリカ。

 

まほ 「落ち着けエリカ。・・・・それにしても、少し前に見た彼女たちとは動きが段違いに良くなっている。立案、偵察、作戦決行のタイミング、どれを取っても比較にならない」

ケイ 「ふっふー、それはね、チームに入ったニューカマーの功績よ!」

まほ 「ほう?興味深い話だな」

カチュ「いいわよイカチューシャ!そのまま蹂躙しちゃいなさーい!」

ノンナ「いいえカチューシャ、よく見てください」

 

ノンナが指さす。

その頃、戦闘中の町内では__

 

イカ娘『決まったでゲソ!』

 

イカ娘の大はしゃぎする声が無線を通じて響いてくる。

 

清美 「本当に作戦通りになっちゃった」

由佳 「聖グロリアーナにこんなキレイに奇襲が決まるなんて」

綾乃 「私たちだけじゃ考えられないよ」

知美 「何者なの・・・・相原さんたち」

 

当の作戦立案者である相原たちは涼しい顔をしている。

 

相原 「きれいに決まりました。さすが常田さん、バッチリの指示でした」

鮎美 『いえそんな、正確な索敵があればこそですから』

イカ娘『うむ!私の力をもってすれば、この程度造作もないことでゲソ!』

栄子 『調子に乗るなって。__いやしかし、ここまで見事にハマるとは私も思わなかった』

 

その頃、オイに行く手を阻まれ、退路をチャーチルとケトに阻まれたグロリアーナ一行は__

 

ルク 「なんてこった・・・・。まさかこんな速攻で勝負が付くだなんて・・・・」

ニル 「こちらが陣形を保ちつつ戦う密集陣形が得意なのを、こんな形で付かれるだなんて」

ローズ「やられましたですわね。イカ娘さんがここまでできるなんて、予想外でしてよ」

ルク 「油断は無かったんだがなあ」

ローズ「え?」

ルク 「え?ってなんだよ、えって」

 

既に負けムードが広がり、各自反省の言葉が飛び交っている。

そんな中、ダージリンは涼しい顔で紅茶を飲んでいる。

 

ペコ 「してやられましたね」

アッサ「ええ。『初手は』見事あちらの作戦通り、という訳でしたわね」

ペコ 「え?」

 

アッサムの言葉に引っ掛かりを感じたオレンジペコ。

すると、紅茶を飲み終えたダージリンが、カップを置くと同時に口を開いた。

 

ダー 「全車、後進」

聖グロ『!?』

 

ギャルギャルギャルギャル

 

いち早く動き出したのはやはりダージリンのチャーチル。

背部を向けたまま、背後に迫るイカ娘のチャーチルとケトへ迫っていく。

 

イカ娘「チャーチルが後進してきたでゲソ!」

栄子 「どうする?」

イカ娘「聞くまでもないでゲソ。わかってるでゲソよねシンディー?」

シン 「オーライ!」

 

バアン!

 

しっかり狙いをつけ、背面装甲に向けて放たれた砲撃。

それと同時に__

 

ダー 「どうぞ」

 

ギャルルルル

 

ダージリンの乗ったチャーチルが高速で超信地旋回を決めた。

その結果__

 

ガインッ!

 

栄子 「やるぅ!」

 

車体を回したことで射角が浅くなり、背面装甲を大きく削ったものの撃破には至らない被害にとどまった。

直後、

 

ダー 「全力でお応えしましょう」

 

ギャルギャルギャル

 

ダージリンの号令に合わせ、グロリアーナチーム全車両がイカ娘のチャーチルに向けて、バックのまま全速力で迫ってくる。

 

栄子 「わっととと!」

 

事態に気づいた栄子が慌ててハンドルを切るが__

 

ガッシィン!

 

そのままバックしてきたダージリンのチャーチルと衝突、勢いに負けイカ娘のチャーチルは半回転したのち歩道に乗り上げてしまう。

 

ダー 「ごめんあそばせ」

 

そのスキに悠然と通り過ぎていこうとする五両。

 

熊田 「あっ、逃げていく」

相原 「この車両の火力ではどれも仕留められないわ。ここは見送りましょう」

 

かくしてダージリンたちは街角の向こうへ姿を消した。

 

ペパ 「おっ?」

 

別行動で哨戒していたサハリアノが撤退していくグロリアーナ勢を発見する。

 

ペパ 「おろ?行っちゃったっすよ?作戦失敗っすか?」

カル 「ううん、作戦自体は成功して、完全にダージリンさんの背後を捉えていたみたい」

ペパ 「えっ、そんじゃイッパツ当てて終わりじゃん。どうしてそれで外すかなー」

チョビ「外れたんじゃない、外したんだろ」

ペパ 「へ?」

チョビ「ともかく一度合流するぞ」

 

かくしてサハリアノも合流、未だ現在位置が分からないBT-42を除き全員が集合する。

 

早苗 「イカちゃーん!お疲れさまー!」

 

合流した早苗がブンブン手を振る。

 

イカ娘『まだ終わったわけじゃないでゲソ。まだ始まったばかりでゲソよ』

清美 『序盤からすごくいい感じ。あそこまで作戦通りに行けるなら、この後も行けるような気がするよ!』

ペパ 「どうっすかねー。相手はあのダージリンっすよ?ここで仕留め損ねたのが後々響いちゃうんじゃないっすかね?」

チョビ「おっ、ペパロニにしてはいい意見じゃないか」

ペパ 「ちょっ、流石に傷つくっすよ姐さん!」

カル 「まあまあ。先ほどドゥーチェも言っていたじゃない。あれは外れたんじゃなくて外したんだって」

ペパ 「だから、どういう意味っすか?」

相原 『これが奉納試合だからよ』

ペパ 「?」

熊田 『奉納試合はお互いの持てる技術と知識、そして魅せる勝負を披露しあうのが目的。しょっぱなにすぐ倒してはい終了、じゃ本来の目的が達成されない』

イカ娘「千鶴にも念を押されたでゲソ。ダージリンさんは策を仕掛ければそれに乗っかってくれるから、その時はちゃんと技を見せあったあとは次に繋げなさい、って」

ペパ 「舐めプってことっすか?」

渚  『そうじゃなくて・・・・えーっと、どういえばいいのか・・・・』

チョビ「ペパロニ、お前は隊員たちと技を見せあうとき、全力で叩き潰すのか?」

ペパ 「そんなことするわけないじゃないっすか!技を見せたあとは向こうの番で、お互いそれ動きを研究しながら高めあって__あ、そっか」

シン 『もちろんダージリンも披露する手はたくさん用意してるはず。それをさせず試合終了なんて、つまらないじゃない』

栄子 『この勝負はお互いが技を出し尽くし、奉納の本懐を遂げてから決着をつけるのが礼儀だな』

ペパ 「はーなるほどー。色々あるんすねー」

チョビ「いい機会だ、お前もいろんな奴の技を見ていくんだぞ?」

ペパ 「りょーかいっす!」

 

その頃、聖グロリアーナ勢。

 

ペコ 「そのような暗黙が・・・・」

 

オレンジペコは先ほどの試合運びの理由を聞かされ、驚いた顔をしていた。

 

アッサ「もちろん奉納試合だから撃破してはいけないという理由はありません。聖グロリアーナに席を置く者として、相手を立て、儀をより厳かなものへと昇華させるのも義務と言えるわ」

ダー 「何より。聞いたところによると、これがイカ娘さんたちがご自分の意志で初めて組んだ初めてのチーム。どんな動きを見せてくれるのか、見届けたいとは思わなくて?」

ニル 『確かに、先ほどのオイの通せんぼは目を見張るものがありました』

ルク 『そうだな、あれで『終わった!』と一瞬だけど思っちゃったくらいだしな』

ローズ『あれだけがイカ娘さんたちの全力ではないとなると、いかほどのものなのか見届けたくもなりますわね!』

ダー 「分かっているわね、ローズヒップ。勿論、やられるだけでもありませんわ。今度は、こちらが業をご披露する番です」

 

合流したままの陣形で町中を進むイカ娘チーム。

すると__

 

栄子 「おっ?」

 

前方真正面に、ダージリンのチャーチルが一両姿を現した。

 

イカ娘「一両だけじゃなイカ。他はどうしたのでゲソ?」

 

と、ダージリンのチャーチルがゆっくりと前進してきた。

 

栄子 「ち、近づいてきたぞ?」

シン 「ゆっくりと一両だけ、しかも真正面から。__不敵すぎて不気味ね」

チョビ『あいつのことだ。ゼッタイ何か企んでるぞ』

イカ娘「なら乗ってやるまででゲソ!ダージリンさんのお手並み拝見というこうじゃなイカ!」

 

なおも速度を上げず、ゆっくりと近づいてくる。

 

シン 「どうするの?撃つ?」

清美 『こっちが副砲で牽制してみようか?』

イカ娘「うむ、それがいいかもしれないでゲソ。頼めるでゲソか?」

清美 『うん、いいよ。じゃあみんな準備して!』

 

手際よく砲座につき、狙いをつける部員。

狙いをチャーチルの定め__

 

清美 「撃__」

 

バアン!

 

次の瞬間、オイが被弾した。

それにより照準がそれ、チャーチルに当たらない。

 

清美 「きゃあっ!?」

知美 「後方より被弾!回り込まれた!?」

 

オイの後方にはクロムウェルが回り込んでいたが、すぐに角に消える。

そうこうしているうちにダージリンはますます近づいてくる。

 

イカ娘「どんどん来てるでゲソ!」

栄子 「わかってるっての!」

早苗 『イカちゃん!ここは私に任せて!』

チョビ『よーし、よく言ったぞ早苗!ペパロニ、前へ出ろ!』

ペパ 『ラジャーっす!』

 

打って出るためにサハリアノが前に出る。

そして交差点に差し掛かると__

 

バアン!

 

今度はサハリアノが側面から被弾する。

 

ペパ 「ななな、何すか!?」

カル 「右方向!クルセイダーです!」

 

アンチョビが慌てて確認すると、猛スピードでクルセイダーが突っ込んでくる。

 

バアン!

 

再びクルセイダーが火を噴き、サハリアノの間近くの地面をえぐる。

 

ペパ 「わわわ!」

チョビ「まずいぞ!退避ー!」

 

ギュイイイイイイ!

 

急発進で角を曲がり逃げるサハリアノ、追うクルセイダー。

そしてまだまだ迫ってくるダージリン。

 

イカ娘「ずっと同じスピードで迫ってくるでゲソー!何か怖いでゲソー!」

栄子 「こうなったら自分で何とかするしかない!」

 

砲口をダージリンのチャーチルに合わせる。

慌てて狙うシンディー。

 

シン 「そこっ!」

 

バアン!

 

火を噴くイカ娘のチャーチル。

しかし__

 

栄子 「外れた!」

 

迫りくるダージリンの重圧に負けたのか、シンディーの砲撃は僅かにそれてしまった。

もうダージリンのチャーチルは目前にいる。

 

イカ娘「もう目の前でゲソ!逃げるでゲソ!」

栄子 「待てよ!今ここで正面以外見せたら一巻の終わりだぞ!」

シン 「渚、次の装填はまだ!?」

渚  「ままま、待ってください!」

イカ娘「ええい、任せておけないでゲソ!私にやらせるでゲソ!」

 

イカ娘が触手を伸ばして操縦桿を奪おうとする。

 

栄子 「あっ!何やってんだ!」

イカ娘「さっさと逃げるでゲソ!」

シン 「来てる来てる来てるってば!」

渚  「せ、せかさないでください!」

鮎美 (あわわわ・・・・)

 

そして__

 

コツン

 

イカ娘「あっ・・・・」

 

ダージリンのチャーチルはゼロ距離まで接近し終え、軽く砲口でイカ娘のチャーチルの前面装甲をつついた。

 

ダー 「チェックメイト」

イカ娘「むむむむ・・・・!」

 

キューポラから顔を覗かせたダージリンが涼しい顔で告げた。

イカ娘の顔が真っ赤になった。

 

みほ 「すごい・・・・。イカ娘ちゃんが手玉に取られてる」

 

観覧席で観戦していたみほが声を漏らす。

 

優花里「さすがダージリン殿、策士ですね、心の揺さぶり方が並じゃありません」

麻子 「えげつない、とも言えるな。あれは明らかに遊んでるぞ」

華  「でも見てください」

 

ゼロ距離まで追い詰めたダージリンのチャーチルが、ゆっくりと後退し交差点を曲がり消えていく。

 

沙織 「あっ、仕留めないで行っちゃった」

優花里「先ほどの背後を取られた意趣返し、と言ったところでしょうか」

華  「やられたらやり返す、ですね」

沙織 「言い方が物騒だよ!?」

 

仕留めず去ったダージリンの元へマチルダたちが合流し、四両で編隊を組む。

 

沙織 「あれ、四両?確か五両編成の試合だよね?」

麻子 「もう一両はあそこだ」

 

麻子が別方向を指さす。

 

ペパ 「うわああああ!振り切れないっすー!」

チョビ「とにかくスルスロットルだ!止まるんじゃないぞ!」

ローズ「この俊足から逃れられると思うんじゃないですことよー!」

 

不意打ちを食らい逃げ出したサハリアノの背後にしっかり食らいついて離さないクルセイダー。

背後からバンバン砲撃が飛んでいく。

 

チョビ「ええい、やりたい放題させてたまるか!次曲がったら、やるぞペパロニ!」

ペパ 「了解っす!早苗、アレいくっすよ!」

早苗 「うん、任せて!」

 

勢いよく角を曲がり、幅の広い道路へと出る。

そのまま追いかけてくるクルセイダー。

 

ローズ「逃がしませんわー!」

チョビ「今だ!」

ペパ 「あらよっと!」

 

ギュオンン!

 

スピードを殺さずそのままの勢いでサハリアノがナポリターン。

猛スピードでバックしながら砲口をクルセイダーに向ける。

 

バアン!

 

間髪おかず放たれる砲撃。

 

ローズ「あらっと!?」

 

間一髪、車体をかすめる砲弾。

 

ローズ「やってくださいましたわねー!」

 

舌なめずりし、さらに楽しそうな顔をするローズヒップだった。

 

アッサ「クルセイダーより入電。サハリアノと交戦中、相手も反撃に出たそうです」

 

ダー 「あちらはローズヒップに任せておきましょう。こちらにもすることがありますわ」

 

かくして。

その後もダージリン率いる聖グロリアーナチームとイカ娘チームは激戦を繰り広げた。

イカ娘が異彩を放つ作戦でダージリンをからみ取れば、堂に入った作戦を高い練度で看破して見せるダージリン。

まるで演武にも通じる華麗な戦いは、見るものすべてを引き付けていた。

そして、しばらくの時が過ぎ__

 

ダー 「・・・・残念ですが、そろそろ幕引きですわ」

 

ダージリンの雰囲気が変わった。

 

バアン!×4

 

ダージリンの合図と共に四両が砲撃し、イカ娘たちの隊を分断する。

砲撃をかわしたことによりケトは孤立してしまい、町中を孤軍進行することとなってしまった。

 

相原 「孤立してしまったわね」

熊田 「みんなは大通りを挟んだ向こう側にいるみたいです。早く合流しないと__」

 

と、前方の角からルクリリのマチルダⅡが姿を現す。

即座に反応し、交差点を左折する。

 

熊田 「!」

 

が、左折した先にはクロムウェル。

背後からもマチルダⅡが回り込んでいる。

そして__元来た道から、ダージリンのチャーチルが姿を現した。

 

 

熊田 「囲まれた・・・・!」

 

もはやケトには逃げ道が無くなっていた。

 

ニル 「包囲網完成です。さすがダージリン様、見事な采配です」

ルク 『だけどおかしいだろ。どうしてダージリン様はあんな豆戦車一両に四両かがりで囲むんだ?』

ニル 「ケトは軽戦車ですよ。__どうやらダージリン様は、あのケトこそがあちらのチームの大黒柱だと睨んでいるご様子です」

ルク 『あれが?ちっと見たけど、あいつら知波単の助っ人っぽかったぞ?』

ニル 「油断は禁物ですよ。ともあれ、ダージリン様のお望みのままにしましょう」

ルク 『はいよ。それは同意』

 

じりじりと近づき、包囲網を狭めていく。

懸命に周囲を探り、脱出口を探る熊田。

しかし手は見つからず、確実に仕留められる距離にまで近づかれ__

全車停止し、四つの砲口が完全にケトを捉える。

そして__

 

ダー 「砲撃、か__」

 

ダージリンが口を開こうとした瞬間。

 

???「lentää(飛べ)!」

 

バガアアアン!

 

突如一軒家の二階が炸裂し、中から戦車が飛び出してきた。

 

ルク 「んなっ、何だぁ!?」

ニル 「空から、戦車が!?」

 

ドシャアン!

 

飛び降りてきた戦車は、真下にいたクロムウェルの真上に着地。

 

バアン!

 

そのままバランスを保ち、反対側にいたマチルダⅡ(ルクリリのではないほう)に砲弾を命中させる。

 

シュポッ

 

被弾したマチルダⅡは白旗を上げた。

 

ペコ 「あれは・・・・継続高校のBT-42です!」

 

アッサ「姿を見かけないと思ったら・・・・あんなところに」

 

未だクロムウェルの上に乗り続けるBT-42の内部では、ミカが涼しい顔でカンテレを引いている。

 

アキ 「結局出てきちゃった。『できれば無駄な戦闘はしたくない』って隠れ続けてたくせに」

ミカ 「機をうかがっていただけさ。ここぞという時に飛び出した方が効率いいだろう?」

ミッコ「結局目立ってるんだから意味ない気がすっけどなあ」

 

バアン!

 

もう一度BT-42から放たれた砲弾はケトの真横の石塀を粉砕した。

即座にケトはその隙間に車体をねじ込み、姿を消した。

 

そしてクロムウェルから降りたBT-42はそのまま走り去る。

それを追うクロムウェルとマチルダⅡ。

チャーチルはその場に佇むだけだった。

車内では。

 

アッサ「追わなくてよろしいので?」

ダー 「あのおふた方はニルギリたちに任せておきましょう。私たちは__あちらのお相手をしなければならないようですので」

 

そう呟いたダージリンのチャーチルの背後からは__

 

イカ娘「見つけたでゲソ!ダージリンさんでゲソ!」

 

イカ娘のチャーチルと清美たちのオイが迫って来ていた。

 

吾郎母「あらあらあら!ミカちゃんたち家の中に隠れてたのかい!あれは気が付かなかったわあ」

 

観戦している吾郎の母ちゃんが歓声を上げる。

 

千代 「あの子・・・・そう、あの子があーちゃんの」

吾郎母「そうだけど・・・・何だい、ちーちゃんもミカちゃんたちと知り合いなのかい?」

千代 「ええ。・・・・多分、あーちゃんよりよく知っていると思うわ、あの子のことは」

 

言い方に若干の含みを感じたが、吾郎の母ちゃんはそれについては追及せず、試合の観戦に戻るのだった。

 

バアン!

ドオン!

 

オイの重量を前に出し、副砲による牽制により反撃のスキを許さない。

そして少しでもチャンスと見ればイカ娘のチャーチルが顔を覗かせ砲撃する。

お得意のコンビネーションにより、ダージリンとておいそれと不用心な動きはできずにいた。

 

イカ娘『いい調子でゲソ!少しでも動きを止めたら、オイの主砲でとどめでゲソ!』

由佳 「任せてください!絶対に決めて見せますから!」

綾乃 「他の人たちはまだ交戦中です。今がチャンスですよ!」

知美 「グロリアーナに勝てたら大金星だよ!そしたら部費上げてもらえるかなあ?」

清美 「みんなまだ油断しちゃダメだよ。相手はあのダージリンさんなんだから」

 

すっかり有利に浮ついた由佳たちを嗜める清美。

と、チャーチルが角を曲がる。

 

イカ娘「追うでゲソ!」

 

オイも巨躯を操り大きく角を曲がる。

しかしオイの大きさゆえ、角一つ曲がるのにやや時間がかかる。

その間にダージリンらはさらに角を二つ回る。

結果__住宅を挟んだ一つ向こうの道にダージリンたちは位置する形になった。

高いブロック塀に囲まれ、音はすれどお互いの位置は見えない。

ダージリンはキューポラから姿を現すと、紅茶を飲みながら神経を研ぎ澄ます。

そして__ある指示を飛ばす。

それを受け、オレンジペコはとある砲弾を装填した。

そしてアッサムが塀に向かって砲身を構え__

 

ダー 「まずはクイーンをいただきますわ」

 

バアン!

 

ダージリンのチャーチルが火を噴き、塀を貫通し、向こう側にいたオイの転輪に直撃した。

__徹甲弾だった。

結果、オイの足は完全にやられる形となってしまい、進行不可能となってしまった。

 

清美 「やられちゃった!?」

由佳 「壁の向こう側から!?どうしてこっちも位置が分かったの!?」

イカ娘「オイがやられたでゲソ!」

栄子 「まずいぞ、清美ちゃんたちが立ち往生してるから前に進めない!」

 

と__砲弾が撃ち込まれた塀がガラガラと崩れ・・・・向こう側から、砲口を向けているダージリンのチャーチルが姿を現した。

 

栄子 「やべえっ!」

ダー 「砲撃開始」

 

ドオン!

 

栄子 「くっ!」

 

バアン!

 

瞬間的に反応した栄子がチャーチルをわずかに旋回させ、被弾個所をずらす。

 

渚  「きゃあっ!」

シン 「まだよ!まだ直撃には至ってない!」

栄子 「ともかく不利だ、逃げるぞ!」

 

とはいえ目の前には進行不可となったオイが邪魔になり進めない。両側は住宅に挟まれ、眼前にはチャーチルが迫る。

 

栄子 「ええい、こうするしかない!」

 

ガラガラガラガラ!

 

栄子はチャーチルを塀に突っ込ませ、強引に庭を渡り、向こう側の道路へと逃れた。

 

イカ娘「うわっ!?」

 

慌てて車内に退避するイカ娘。

 

栄子 「よっしゃ、これで__」

 

逃げおおせた、と安心していると__

 

ガラガラガラ!

 

ダージリンのチャーチルも同じように塀を突き破り、庭を横切り栄子たちを追ってくる。

 

バアン!

 

そしてその合間にも砲撃を絶やさない。

 

渚  「追いかけてきてます!」

栄子 「わかってる!でも振り切れないんだよ!」

 

性能が全く同じ戦車であるためか、どれだけ逃げても振り切ることができない。

いくつもの塀を突き破り、町内が粉砕されていく。

ふと、鮎美は何かに気が付く。

 

栄子 「どうした、鮎美ちゃん!?」

鮎美 「えっと、あの、その・・・・」

 

気が付いてはいるが、栄子に対して上手く喋れない鮎美。

鮎美は通信機に向かって叫んだ。

 

鮎美 「皆さん、『もうすぐ私たちが来ます』!」

 

どういう意味だ、と理解する前に、ダージリンのチャーチルが体当たりをしてきた。

 

ガッシイン!

 

それにより双方コントロールを失い__

 

栄子 「うわわわ!」

 

ドガーン!

 

ほぼ同時に塀を突き破り道路に出た。

そして、抜けた先は__

 

熊田 「あっ」

ルク 「おっ」

ニル 「えっ

相原 「あらあら」

ミカ 「おや」

 

未だ戦いを繰り広げていたルクリリたちがいる場所だった。

突然の乱入、しかも二両ともフラッグ車のチャーチルという事態に思考が止まる。

 

ルク 「あー・・・・えっと?」

ニル 「どっちがダージリン様ですか!?」

ミカ 「どっちもチャーチルだね」

熊田 「逃げてきた方・・・・?それとも、追ってきた方?」

 

全員がチャーチルへ砲口を向ける。

しかしどちらが自分のフラッグ車なのか判断が付かず砲撃できない。

 

イカ娘「!これはまずいでゲソ!」

 

事態に気が付いたイカ娘。

 

イカ娘「みんな!私たちのチャーチルは__」

 

無線で知らせようとすると__

 

パカッ!

 

後方のチャーチルのキューポラが開き__中からティーカップを突き出した腕が見えた。

 

ドオン!×4

 

次の瞬間、四両の砲口がチャーチルに向かって火を噴き__

 

シュポッ

 

イカ娘たちのチャーチルから白旗が上がった。

 

カル 「__はい、わかりました。ドゥーチェ、イカ娘さんが撃破されたそうです。私たちの負けですね」

チョビ「・・・・そうか」

ペパ 「ちぇー、せっかく足止めできてたのに」

早苗 「私たちもだけどねー」

 

イカ娘のチャーチル撃破の報を受けたアンチョビたちは、白旗を上げ黒煙を噴くサハリアノの上に腰かけていた。

と、そこへローズヒップがティカップとティーポット一式を手に歩み寄って来た。

付近には、同じく白旗を上げ白煙を上げているクルセイダーが佇んでいる。

 

ローズ「いい勝負でしたわ。ここまで腕が立つだなんて、認識を改めなくてはなりませんわね」

チョビ「そっちもな。まさかこっちについてこれるだなんて思わなかった」

 

ニッと笑うローズヒップ。

受け取ったティーカップに紅茶を注ぐと、アンチョビはぐいっと一気に飲み干すのだった。

 

イカ娘「やっぱりダージリンさんは強かったでゲソ。大洗の西住さんが褒めていた通りでゲソ」

ダー 「ふふっ」

 

ダージリンに振舞われた紅茶を一緒に飲みながら、二人は感想を語り合っていた。

場所は境内、奉納試合が完了したのち、各々のチームがお互いの健闘を称えあっていた。

 

ダー 「イカ娘さんたちの実力も予想をはるかに上回っておりましたわ。もしこれが奉納試合ではなく正式な勝負であれば、最初の作戦で決着はついていたかもしれませんわ」

イカ娘「あれは相原たちの提案でゲソ。私たちはそれに乗ったまででゲソ」

ダー 「ですが、貴女がたの実力はそれ以外にも垣間見えましてよ?隊員たちも、しきりにイカ娘さんの作戦を褒めておりますのよ」

イカ娘「いやあ、照れるでゲソ」

ダー 「これなら、滞りなく事を運べそうですわ」

イカ娘「?何のことでゲソ?」

ダー 「ふふっ、こちらの話ですわ」

栄子 「おーい!イカ娘ー!」

ルク 「ダージリン様ー!打ち上げはじまっちゃいますよー!」

チョビ「両方の隊長が不在じゃ決まりが悪いだろー?早くこっちこーい!」

 

離れたところから栄子たちが呼ぶ。

 

ダー 「では参りましょうか。お互いの健闘を称えに」

イカ娘「うむ!」

 

そうして、二人は仲良く歩みを並み揃え仲間たちの元へと向かうのだった。

 

ザザーン

 

神社から離れた、由比ヶ浜海岸にて。

そこには神社から抜け出していたミカたちと、熊田が立っていた。

 

熊田 「まさか貴女に助けられる日が来るとは思わなかった」

ミカ 「そうかい?予想より早かったと思うよ」

熊田 「・・・・借りは返すから」

ミカ 「期待しているよ」

 

そう言ってミカはBT-42に乗り込み、去っていった。

 

ミカ 「おばさま」

 

道中で帰路に就いた吾郎の母ちゃんを見つけたミカたちは、間近で停車した。

 

吾郎母「ああ、ミカちゃん!お疲れさま!アキちゃんも頑張ったねえ!」

アキ 「えへへ」

吾郎母「それにしたってミッコちゃん!あんたスゴいテクニック持ってるねえ!私の時代じゃ考えらんないわよー!」

ミッコ「へへっ」

 

照れくさそうに、嬉しそうにするアキとミッコ。

 

吾郎母「それにしてもどうしたんだい?奉納試合に参加した選手は、試合の後に神社側から打ち上げの料理が振舞われるって言ってなかったかい?」

アキ 「あ、はい・・・・私としては是非参加したかったんですが・・・・」

ミカ 「あちらよりおばさまの料理の方が美味しそうと思えたのさ。どうせ食べるなら美味しい方がいいだろう?」

ミッコ「何気に図々しいこと言ってるよね」

吾郎母「あら嬉しいこと言ってくれるじゃない!」

 

ミカの言葉に満面の笑みを浮かべる吾郎の母ちゃん。

 

アキ (あ、いいんだ)

吾郎母「それじゃあ今日は特に腕によりをかけて作るからね!大活躍のお祝いに肉料理と行こうかねえ!」

ミッコ「わーい!やったー!」

吾郎母「それじゃ買い物に行かないといけないねえ。スーパーまで乗っけてってくれるかい?」

ミカ 「うん、構わないよ」

吾郎母「よっこいせっと」

 

吾郎の母ちゃんがBT-42の右側に乗り、ややそちらに傾く。

 

ミッコ「よーし、レッツゴー!」

 

そして軽快にBT-42は走り去っていった。

それを見届けていた熊田。

後方から千代が歩み寄って来た。

 

千代 「おつかれさま」

熊田 「あっ・・・・はい」

 

熊田はきょろきょろと周囲を探り、誰も見ていないことを確認すると、被っていたボコの頭を脱いだ。

その中から覗かせた顔は__なんと愛里寿だった。

 

千代 「誰にもばれなかったかしら?」

愛里寿「はい。・・・・恐らく、『相原さん』以外には」

千代 「あの人は__例外ね。それに口外するような人でもないから心配することはないわ」

愛里寿「うん」

千代 「さあ、戻るとしましょう。あなたたちの戦いは、次が本番なのよ」

少し愛里寿は後ろ髪を引かれるように神社の方を振り向いたが__すぐに前を向きなおし歩いて行った。




まずは投稿が大変遅れたこと、そして結局まる一週間も空けてしまったことについて、大変申し訳ありませんでした。
件の事情については安定しましたので、今後に影響はないと思われます。
また今後もお付き合いいただけるなら幸いです。

ダージリンの強みは、眼前に砲口を突き付けられても顔色一つ変えない冷静さを胆力によるものだと思います。
どんな状況に置いても平静を失わず最善の対処を出来ること、一番大切でありながらも実際にこなすのがどれほど困難なことか日々思い知らされます。

そして前回お伝えした通り、大きな節目に差し掛かるため、作品としての安定を図るため本編の更新はやや期間を設けさせていただくこととなります。
その間は他の要素で更新していきますので、そちらでもお楽しみいただけるよう努力してまいります。
よろしくお願いいたします。

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