ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル
アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
カチューシャ→カチュ
シンディー→シン
奉納試合に出場するための訓練をこなし、試合を明日に控えたれもんチーム。
試合に向け、店内で作戦会議を行っていた。
イカ娘「昨日の訓練でチームワークは完璧だったでゲソ。もはや私たちに敵なしでゲソ」
渚 「あのー」
おずおずと渚が手を挙げる。
栄子 「うん?どうしたの渚ちゃん」
渚 「えっと、これは奉納試合ですから・・・・勝つだけが全てではなく、連携や動きの統率・試合全体の完成度が見られるかと」
イカ娘「どういうことでゲソ?」
シン 「伏兵、陽動、偵察、挟撃、進撃、撤退、エトセトラ。それらを使い合わせ、境地を乗り越えたり強敵を撃破するのも魅せるプレーの一つよ。ただ正面から突っ込んで力押しで勝つとかなんて、試合ならともかく奉納試合では御免被られちゃうわよ」
イカ娘「???」
千鶴 「つまり、かっこいい作戦を見せてほしい、ということね」
イカ娘「それなら私の得意分野でゲソ!大いに盛り上げてやろうじゃなイカ!」
栄子 (すっげえ不安)
と、店の入り口に気配。
???「ヘイ!スクイーディ!」
イカ娘「む?」
聞き覚えのある声に振り向くと__
そこにはケイ、カチューシャを肩車するノンナ、エリカが立っていた。
イカ娘「ケイじゃなイカ!それにカチューシャたちに、ついでにエリカもいるじゃなイカ」
エリカ「ちょっと!明らかにおまけ呼ばわりしないでくれる!?」
イカ娘「ソンナコトナイデゲソヨー」
エリカ「嘘つきなさい!」
じゃれつくように店内でおいかけっこする二人。
そんな二人を嫉妬のオーラ全開で見つめる早苗。
チョビ「まあ、あいつらは放っておこう・・・・。それで?お前たち、どうしてここに?」
ケイ 「ああ、あなたたちが奉納試合に出るって聞いてね。何か力になれることがあればと思って」
栄子 「そりゃありがたい。隊長やってる人たちのアドバイスがあれば大助かりだよ」
カル 「それにしても・・・・私は連絡してなかったんですが、ケイさんたちはどうして私たちが奉納試合に出ると?」
ケイ 「ああ、メールが来たのよ。スクイーディたちが奉納試合に出るために特訓してるから、助けてもらえないか、ってね」
栄子 「メール?誰から?」
千鶴かと思い、千鶴を見るが千鶴は首を振る。
栄子 「姉貴じゃないのか?じゃあ誰が__」
視線を戻すと、鮎美がおずおずを手を挙げていた。
栄子 「鮎美ちゃんだったのか!」
ケイ 「前のアイドル対決のとき、せっかくだからメアド交換してね。面と向かってると口数少ないけど、メールになると文字数多くて楽しいわよ」
栄子 (メール上でも饒舌なのか)
鮎美は真っ赤な顔で俯いている。
カチュ「カチューシャはケイから連絡を受けてね。こんな面白い行事にカチューシャを呼ばないなんてどういうつもりかしら」
ノンナ「あくまで由比ガ浜の催しですから。自分たちの町の行事は自分たちで執り行いたいのでは」
カチュ「まあ、気持ちはわからないでもないわよ?」
ノンナ「仲間外れにされてるようで、嫌だったんですね」
カチュ「そそ、そんな訳ないでしょ!でもどうしてもって言うなら、プラウダ式の戦術を伝授してあげようかなーって思っただけなんだから!」
ノンナ「でも頼まれていませんでしたよね」
カチュ「もーっ!ノンナ、嫌い!」
肩車されながら拗ねるカチューシャと、ほっこりした顔のノンナ。
ケイ 「マホにも連絡したんだけど、一年生の訓練の予定が入っちゃってたらしくて」
エリカ「本来なら私も参加するはずだったんだけれど、隊長にどうしてもアンタたちの力になってほしい、って頼まれちゃって。仕・方・な・く・来てやったのよ!」
イカ娘「私は頼んでないでゲソ」
エリカ「うっさい!黙って指導されなさい!」
相変わらず相性が悪い二人。
ケイ 「ダージリンにも連絡したんだけど、どうやら用事があるらしくて参加できないって言われちゃった」
栄子 「いや、正直ケイさんたちが来てくれてるだけで十分すぎるくらいだよ。昨日も西住さんたちが訓練つけてくれたんだけど、もう一押ししたかったところだったんだ」
カチュ「その話も聞いたわ。基本的な訓練だけつけて、相手を蹂躙するすべを伝授しないなんて、ミホーシャたちもまだまだ甘いわね!」
栄子 「いや、蹂躙しちゃまずいと思うんだけど・・・・」
かくして一同は今日も戦車演習場へ。
昨日と同じ三両がスタンバイしている。
昨日と違うところは、相手側にも三両、ケイのシャーマン、カチューシャのT-34/85、エリカのティーガーⅡがそびえ立っている。
観戦席では千鶴と、遠くではミカたちが我関せずといったふうに見学している。
かくして訓練は始まった。
まずはケイ。
三両の前に立ちはだかり、次々と飛び交う砲弾を交わし続けている。
ケイは砲撃の合間を狙い砲口を向けようとするが__
ドオン!
そうはさせまいとイカ娘側が砲撃を続け、シャーマンに攻撃のスキを与えない。
ケイ 「そう!絶えず撃ち続けて、相手に反撃のスキを与えない!仲間を守れば、仲間もあなたを守ってくれるわ!」
チャーチルの砲撃をかわされれば、そのスキをつかせないためにオイが副砲で威嚇射撃、そしてオイが止まればサハリアノが滑り込みで砲撃。
お互いがお互いを支えあい、ケイに攻撃のスキを与えない。
やがて__
清美 「そこ!撃って!」
ドゴオオオオン!
一瞬のスキを突き、オイの主砲が火を噴いた。
バゴオオオオン!
ケイ 「おっととと!」
ついに止まない砲撃の雨にシャーマンが足を取られ大きくスピン、無防備な側面を晒して停止した。
そしてそのスキを逃さなかったサハリアノがばっちり照準を合わせていた。
ケイ 「ふうっ」
大きく息をついて上体を起こすケイ。
イカ娘たちを見つめ、笑顔で親指を立てた。
栄子 「なるほど。回避が上手な相手でも、こうすればこちらを狙えないし、逆に追い詰めることもできるな」
渚 「でもこれはこちらの数が勝っているのが条件です。数が互角だったり、こちらが少なかったらこの戦法は使えませんね」
シン 「その状況に持ち込むのも作戦と言えるわね。各個撃破って戦法もあるくらいだし」
ケイ 「グッジョブ!息の合ったいい連携だったわ。そのリズムを忘れないで」
ケイの訓練が終わり、つぎはカチューシャ。
カチュ「いい!?戦車道は何といっても数の勝負!蹂躙、圧倒、殲滅!相手を遥かに凌駕し勝利することこそ、戦車道において一番の華なのよ!」
ペパ 「こりゃまた大味なテーマっすねー」
イカ娘「それで、どうするのでゲソ?」
そして__
ギャラギャラギャラ・・・・。
清美たちのオイがゆっくりと前進していく。
その真後ろをチャーチルとサハリアノが盾にするようについていく。
バアン!
バアン!
オイの副砲がT-34/85を追い込んでいく。
オイから逃れようと進路を変えようとすると__
ドオン!
そうはさせじと姿を見せるサハリアノやチャーチルが砲撃を行い、離脱を妨げる。
そのせいでT-34/85は逃げる機会を失い、結局逃げ場のない所まで追い込まれてしまう。
カル 「オイの圧倒的な重量と防御力を使った封じ込め作戦。オイの火力も加わって、これは効果的ですね」
清美 「確かに、これはすごく有利に事を運べそうです!」
イカ娘「これはいい作戦でゲソ!これなら相手が何両いても使えるんじゃなイカ?」
カチューシャ案の戦法に嬉々とするイカ娘たち。
ガコン
と、キューポラが開き__中から不機嫌そうな顔のカチューシャが姿を現した。
カチュ「・・・・」
清美 「?」
イカ娘「カチューシャ、どうしたのでゲソ?」
カチュ「__にいらない」
イカ娘「む?」
カチュ「気に入らないわ!」
清美 「えっ!?」
カチュ「さっきから大きさに物言わせて!おっきいのがそんなに偉いつもり!?」
カチューシャがオイに向かってキーキーわめきたてる。
清美 「あの、ええっと・・・・?」
カチュ「自分がそんなにおっきいからってそればっかり強調して!自慢ならよそでやってもらえるかしら!」
自分の提案なのも忘れ、涙目で文句を言うカチューシャ。
急な事態に事が呑み込めない清美。
しばらくキーキーわめいていたが__
ノンナ「カチューシャ」
ノンナに諭されてハッとするカチューシャ。
おほん、と咳払いをする。
カチュ「こ、こんなかんじで相手に平静さを失わせることもできるわ。ちょっとだけど、迫力もあったし。その調子で精進しなさい」
清美 「は、はい。ありがとうございます」
ペパ 「あれ、ゼッタイ本心だったよな」
カル 「しっ」
そして最後はエリカのティーガーⅡ。
エリカ「最後は相手が長距離砲撃に長けた相手だった場合よ。相手の砲撃をいなしつつ自らの有効射程にまで近づく。相手は制止し、当てやすい状況にあるわ。相手がどこに打ち込むかを読み、蛇行し、相手の望み通りにさせないことが肝要よ」
チョビ「それじゃあ始めよう」
三十分後。
イカ娘「対長距離砲撃、マスターしたでゲソ!」
イカ娘たちはエリカの訓練を見事にこなした。
エリカ「ちょっと!」
イカ娘「何でゲソ?」
エリカ「なんで私の訓練だけはしょられてるのよ!」
イカ娘「そんなワケないじゃなイカ。あんなに本番さながらの激闘だったじゃなイカ」
ペパ 「いやー、激戦だったよなー」
エリカ「こらっ!」
ケイ 「何にせよ、これで今教えられることは教えられたわ」
エリカ「あんたまで!」
カチュ「カチューシャたちがここまでしてあげたのよ?無様な試合なんてしたら承知しないんだから!」
エリカ「いいかげんに__」
チョビ「よーし!明日の試合、頑張ろうじゃないか!」
みんな「おーっ!」
エリカ「話を聞けーーーッ!」
そして当日。
イカ娘たちは奉納試合が行われる、甘縄神明宮に集まっていた。
イカ娘「おお、人がたくさんいるじゃなイカ!」
境内にはかなりの人数の観客が集まっていた。
栄子 「市内の催しにしては、かなりの賑わいだな。戦車道の奉納試合は久しぶりだからか?」
シン 「それにしても、けっこう若いギャラリーの子が多いわね」
渚 「そうですね。それになんだかそわそわしてます。まるで誰かを待っているような・・・・」
ペパ 「かなりの賑わいっすねー。ここで屋台出してたら儲かってたんじゃ」
チョビ「今日は私たちは選手として参加するんだ。そういう考えは捨てろ」
カル 「継続さんたち、まだ来られていませんね。約束を反故にする方たちではないはずですが・・・・」
由佳 「うーっ、何だか緊張してきちゃった!」
綾乃 「こんな大勢の前で戦車道の試合なんて初めてだもんね」
清美 「みんな落ち着いて。深刻に考えすぎず、楽しんでいこう!」
知美 「そうですね、部長!」
ふと周囲を見渡すと、早苗がキョロキョロしている。
栄子 「早苗、どうかしたか?」
早苗 「うん、千鶴さんの言っていた五両目がまだ来ていないな、って」
栄子 「そういやまだ来てないな。姉貴が境内に直接連れてくるって言ってたんだが」
カル 「対戦相手の方々もまだですし、時間もありますから」
シン 「今日の相手って、どんな人たちだったかしら」
チョビ「千鶴さんに聞いた話じゃ、町内のママさん戦車道チームらしい。日本戦車を主軸に構えた結構な腕前らしいから、気を引き締めなきゃいけないぞ」
イカ娘「どんな奴が相手でも、絶対に負けないでゲソ!」
チョビ「ああ、その意気だ」
やがてギャラリーがざわめき始める。
大半が一定の方向を注視している。
チョビ「むっ、相手が来たらしいぞ」
由佳 「見に行きましょうよ!」
ペパ 「よっしゃ!」
チーム数名が駆け出し、栄子たちもそれを追いかける。
と、観客らから歓声が上がる。
・・・・どうにも様子がおかしい。
チョビ「どういうことだ?ママさん戦車チームでここまでギャラリーが沸くのか?」
栄子 「そんな有名なチームがいるなんて、聞いたことなかったけどなあ」
観衆をかき分け、やっと開けた場所まで抜け出した。
そこで栄子の目の前にあったものは__
イカ娘「・・・・チャーチル?」
チョビ「マチルダⅡ?」
清美 「あれって、クルセイダー・・・・で合ってましたっけ」
そこに並んでいた戦車は、チャーチル、マチルダⅡ、クルセイダー、クロムウェル・・・・。
どう見てもイギリス戦車しかいない。
チョビ「どういうことだ・・・・。確かに千鶴さんは、相手は日本戦車が主軸だって__」
ペパ 「それよりドゥーチェ!この戦車の組み合わせ、見覚えあるっすよ!」
カル 「この戦車たちは、もしかして__」
チョビ「・・・・まさか。いや、でも、そんな訳は__」
ガコンッ
やがてチャーチルのキューポラが開き、一人の人物が顔を出した。
観客 「キャーーーーーッ!」
観客の女の子たちから一段と大きい歓声が上がる。
その声援を受けた人物は__
ダー 「皆さん、ごきげんよう。本日はよろしくお願いいたしますわ」
見間違えようもない、ダージリンそのものだった。
栄子 「ダージリンさん!?」
清美 「えっ!?ダージリンさんって、聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長さんの!?」
知美 「そんなすごい人がどうしてここに!?」
シン 「もしかして応援に来てくれたのかしら?」
渚 「いえ・・・・なんだか、嫌な予感がします」
イカ娘「ダージリンさん、どうしてここにいるのでゲソ?」
ダー 「あら?伝わっておりませんでしたでしょうか」
イカ娘「む?」
ダー 「本日、甘縄神宮における奉納試合の参加選手の件は、私たち聖グロリアーナがお引き受けました」
イカ娘「え」
清美 「ええええええええ!?」
チョビ「おい待てダージリン!」
慌ててアンチョビが駆け寄ってくる。
チョビ「今日は由比ガ浜の奉納試合だろ!その土地の奉納試合には、その土地の者が参加するのが習わしだ!例外として、招待されたりしない限りは__」
そこまで言いかけてはっとするアンチョビ。
ダージリンは気づいてもらえたか、とにっこりする。
ダー 「おっしゃる通り。私たち聖グロリアーナは、『倉鎌市市長さま』のご招待を受け馳せ参じた次第ですわ。こちらに委任状もございますわ」
ダージリンは手際よく委任状をアンチョビに渡して見せる。
委任状を見て、本物だと愕然するアンチョビ。
ダー 「それに私たちも同じ県に在籍しておりますし。県内の盛り上がりに貢献できるのならば、些細な問題ではなくて?」
チョビ「・・・・お前、一体どうやってこんなものを__いや、それよりもなにより、なぜお前がそこまでして『これ』に出たがるんだ」
ダー 「仰る意味がよくわかりませんわ。私たちは依頼を受けて初めて参加を表明したまでです。そこに他意など、あるはずがありませんわ」
そう言ってくいっと紅茶を口にした。
しばらくアンチョビは黙っていたが__
チョビ「・・・・わかった。今日はよろしく頼む」
ダー 「ご期待に沿えるよう、全力を尽くしますわ」
そう言って握手を交わした。
イカ娘たちのもとに戻ってくるアンチョビ。
栄子 「まさか、奉納試合の相手がダージリンさんたちになるなんて・・・・」
知美 「どどど、どうしましょう!?聖グロリアーナ戦車チームなんて、神奈川どころか全国レベルの人たちですよ!?そんな人たちの相手なんてまともにできませんよ!」
チョビ「落ち着け。面白いこと至上主義のあいつとて、これの趣旨くらいはわかっている。例え力量差があったとしても、速攻で勝負を決めるなど不躾な真似はしないはずだ」
綾乃 「そうだといいんですけど・・・・」
渚 「それにしても、なぜダージリンさんは奉納試合に乱入なんてしたのでしょうか」
チョビ「うーん・・・・」
アンチョビはちらり、とイカ娘を見る。
イカ娘「?」
チョビ「・・・・まあ、今はそれを言っている場合じゃない。私たちは私たちに出来る戦車道をあいつらに見せてやろう」
カル 「そうですね。相手がダージリンさんであろうと、やることは変わりません」
シン 「そうね!むしろここで一発、私たちにも出来るってところを見せつけてやるわ!」
チョビ「その意気だ。__で、だ。それにあたって作戦会議をしたんだが・・・・」
栄子 「継続の人たちは・・・・まだ来てないみたいだな」
カル 「先ほど嵐山のおばさまに確認したところ、確かに戦車に乗って出立されたそうです。ですので、彼女たちはきっと来てくれます」
チョビ「今は信じて待つしかないか・・・・。それにしても、千鶴さんの言ってた五両目のチームもまだなのか?まだ顔合わせもできていないって言うのに・・・・」
アンチョビが不満を口にした直後、背後から戦車が近づいてくる音がした。
一同がそれに気が付き振り返ると__
こちらに向かって日本戦車の集団が大挙として押し寄せてきていた。
栄子 「んななななな!?」
カル 「あれは、チハに九五式・・・・。知波単の皆さんでは?」
その通り、イカ娘たちのもとに参上したのは知波単学園の面々だった。
西が前へ歩み出て、びしっと敬礼をする。
西 「遅ればせまして申し訳ありません!我ら知波単学園、海の家れもん一同さまのために部隊員を送迎しに参りました!」
シン 「部隊員?・・・・もしかして、五両目は知波単の子なの?由比ガ浜出身の子がいたの?」
西 「はっ!千鶴さんからのご連絡をいただき、本人らに確認したところ、間違いなしとの返答を受けました!」
栄子 「そうだったのか。何にせよ間に合ってくれてよかったよ。それで誰が手を貸してくれるんだ?福田ちゃん?玉田?細見?もしかして西さんとか?」
西 「申し訳ありません、自分は生まれも育ちも千葉県であります!」
そう言って後ろを振り返り合図する。
無数の戦車たちをかき分けるように、一台の戦車が姿を現した。
渚 「あれは・・・・」
シン 「随分小さめな戦車ね」
チョビ「あれは・・・・二式軽戦車。通称ケト、だ」
それは主砲を37mmとした、知波単の戦車と並べてもかなり小柄な軽戦車だった。
その控えめな外見に、やや気落ちする栄子。
栄子 (助っ人は軽戦車だったのか・・・・。これじゃあ、聖グロの装甲を抜くのは難しすぎるだろ・・・・)
と、操縦窓口が開き、中から一人の人物が顔を見せた。
???「本日は、よろしくお願いいたします」
・・・・正確には顔はわからない。
何故ならその人物は軍事ヘルメットを深く被った・・・・
栄子 「あね・・・・
ケトの操縦主席に座っているのは、相原だった。
西 「はい。聞いたところ、相原は由比ガ浜出身なのだとか。本人たっての希望で、知波単を代表して助っ人として馳せ参じた次第であります」
途端に栄子の顔が明るくなる。
栄子 「いける・・・・!これならいい試合どころかダージリンさんにも一泡吹かせられるぞ!」
カル 「栄子さん。この方は、そんなにすごい人なのですか?」
栄子 「ああ!なんてったって__いや、まあそれは今はいいか。何にせよ、相原さんが車長すれば、どんな戦車だって常勝間違いなしだ!」
相原 「あ、すいません。今回私は操縦手なので、車長ではありません」
栄子 「え?そうなの?じゃあ車長って・・・・?」
と、ケトのキューポラが開き・・・・そこからもう一人乗組員、車長が姿を現す。
その姿を見た瞬間、チーム全員が固まった。
清美 「・・・・ボコ?」
キューポラから姿を現したもう一人は、ボコのぬいぐるみの頭をかぶっていたのである。
小柄な体格に、ぬいぐるみに収まりきらなかったのであろう亜麻色の髪がぬいぐるみから伸びている。
???「・・・・
ぬいぐるみの首からくぐもった声が聞こえてくる。
チョビ「えっと・・・・あの、よ、よろし、く?」
早苗 「よろしくね・・・・?」
ほとんどが引いている。
全員がツッコミたいと思っているが、あまりに異様なので誰も言い出せずにいた。
西 「熊田も少々変わった外見をしてはおりますが、実力は折り紙付きです。きっと皆さまの力になることでしょう」
栄子 「え、ああ、ありがとう・・・・」
西 「では、ご検討お祈りします!」
西は再びびしっと敬礼をし、去っていった。
その場に残されたイカ娘たちとケトチーム。
栄子 「・・・・えっと、じゃあ作戦会議するからこっち来てもらえるかな・・・・?」
熊田 「はい」
かくして新メンバーである熊田を加え、栄子たちは奉納試合に挑むこととなった。
まもなく奉納試合開始となる時刻。
吾郎母「あらあらあら、大盛況ねえ」
吾郎の母ちゃんがやって来た。
大いに盛り上がっているギャラリーを眺めていると、その中にとある人物を見つけた。
細身で長身な、亜麻色の髪の女性。
吾郎母「あれは・・・・あらあらあら、間違いないわ!」
大柄な体を大きく振りながら駆け出す吾郎の母ちゃん。
吾郎母「ちーちゃーーん!」
その人物に向け、手を大きく振りながら声を上げる。
その人物も自分が呼ばれたことに気が付いたのか、声がした方向を振り返る。
そしてその声の主に気が付き__
千代 「__あーちゃん!?」
千代は目を丸くして驚いた。
千代のもとに辿り着いた吾郎の母ちゃん。
吾郎母「やっぱりちーちゃんじゃない!奇遇だわねこんなことろで!」
千代 「あーちゃんこそ!まさか会えるなんて思ってもなかった!」
思いもよらぬ再開に、昔に戻ったようにはしゃぐ二人。
吾郎母「ああ、言ってなかったっけ。私今はここら辺に住んでるのよ。息子と二人暮らし」
千代 「そうだったの・・・・。あーちゃんは、奉納試合を見に来てたの?」
吾郎母「そうだねえ。いやね、今うちで一緒に暮らしてる子たちが奉納試合に出ることになってね?こりゃ応援してあげなきゃ嘘でしょう。そういうちーちゃんは?ここには観光にきたのかい?」
千代 「・・・・ううん。実は、この試合には私の娘も出るの」
吾郎母「あらやだ!同じチームかしら!?」
千代 「どうなのかしら・・・・。でも、一緒だといいわね」
そう言って千代はイカ娘たちのチームが控えているエリアの方へ目線を送っていた。
そこでは、メンバー一同が集まって作戦の説明を聞いている。
熊田 「へくちっ」
清美 「熊田さん、大丈夫?」
熊田 「・・・・大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」
イカ娘「__以上が全作戦の概要でゲソ。理解できたでゲソね?」
熊田 「はい」
相原 「了解しました」
イカ娘「うむ、二人とも物分かりがよくて助かるでゲソ。栄子なんて何度も説明しないと理解できなかったのでゲソからね」
栄子 「お前の説明が直感的すぎるんだよ。もうちょっと文面的にしてくれりゃみんなすぐ理解できたんだよ」
イカ娘「活字嫌いのくせによく言うでゲソ」
栄子 「うっせ!」
チョビ「はいはいケンカしない!作戦の第一段階は、私と熊田たちの初動がカギを握る。くれぐれもよろしく頼むぞ」
アンチョビがずいっと近づく。
熊田は少し距離を取って、
熊田 「はい、任せてください」
返事をした。
チョビ「?」
カル 「皆さん、まもなく開始時刻です。準備を始めてください」
みんな「了解!」
カルパッチョの合図を受け、一同は各々の戦車へ乗り込んでいった。
甘中神明宮境内。
お互いの隊長車であるチャーチルが、正面でにらみ合うように位置づいている。
隊長同士の挨拶のため、ダージリンとイカ娘は戦車を降りている。
審判 「ではこれより、海の家れもん対聖グロリアーナによる奉納試合を執り行う。双方とも力を尽くし、良い戦いを捧げられることを願います」
ダー 「今日という日を楽しみにしていました。素晴らしい試合を期待していますわ」
イカ娘「うむ!期待以上のものを見せてやろうじゃなイカ!」
ダージリンは嬉しそうな顔をして去っていった。
イカ娘も早足でチャーチルへ戻り、両チャーチルはそれぞれの位置へ着くために急いで神社を後にした。
チョビ「試合中の行動範囲は、甘縄神宮の半径一キロ圏内。市街地と砂浜への侵入も認められている。ルールはフラッグ戦。フラッグ車はお互いにチャーチル。ここまではいいな?」
清美 『はい』
熊田 『理解してる』
無線で各々返事が返る。
チョビ「相手はダージリン率いる聖グロリアーナ、一筋縄では行かない。きっと苦戦を強いられるだろう」
チームの元へイカ娘のチャーチルが戻ってくる。
チョビ「だが我々もただ負けるだけには・・・・いや、十分に勝機はある、いや勝てる!西住やケイたち仕込みの私たちのチームワーク、あいつらに見せてやろう!」
由佳 『はい!へへっ、燃えてきた!』
ペパ 「おっ、あっちにも活きがいいのいるっすね!」
やがて__空に信号弾が上がった。
ヒュルルルルルルル・・・・
それを、固唾をのんで見守る一同。
ルルルルルル・・・・パアン!
イカ娘「戦車前進でゲソ!」
ダー 「戦車、前進」
いよいよ試合が始まった。
号令を共に一斉に動き始め、市内に戦車たちが散り始める。
イカ娘らはオイを最前列に置いた縦列陣形、一方ダージリンたちは鶴翼に隊を広げ、チャーチルは中央後方に構えている。
ルク 「それにしても」
行進中、ルクリリが口を開く。
ニル 『どうされました?』
ルク 「いやな、今回の奉納試合、随分無理くりだなって思ってさ」
ニル 『またそのお話ですか?ダージリン様だって、依頼があったうえでお引き受けされたと仰ってたではないですか』
ルク 「でもさー、出場するチームは決まってたんだろ?なのに何でウチが出ることになったんだ?そもそも元のチームはどうして参加しなかったんだ?」
ニル 『さあ、私も詳しくは聞き及んでおりませんが・・・・一身上のご都合、としか」
ルク 「・・・・もしかして、ダージリン様がこの試合に出るために圧力をかけた、とか」
ニル 『まさか!そもそも、そこまでしてダージリン様が奉納試合に出られて一体何のメリットが?』
ルク 「それがわからないんだよ。どうして素人相手に・・・・」
ニル 『あっ』
何か気が付いたかのようにニルギルが声を上げる。
ルク 「どうした?」
ニル 『あの、推測なんですがもしかしたら__』
ダー 『お二人とも、試合中にお喋りが過ぎましてよ』
ニル 『うひゃあっ!?』
ルク 「うへあっ!?ダダダ、ダージリン様!?聞こえてたんですか!?」
ダー 『聞こえたも何も・・・・。次回から内緒話ならば個人回線をお使いなさい』
ルク 「あっ!いけねっ!」
慌ててルクリリは全体無線のスイッチを切った。
ダー 「ふふっ」
ルクリリたちの反応を聞いたダージリンは、楽しそうな表情で紅茶を口にした。
アッサ「何をやっているのかしらあの子たちは・・・・」
あきれ顔のアッサムに、苦笑するオレンジペコ。
アッサ「でも、私もあの子たちと同意見です」
ペコ 「と、仰りますと?」
アッサ「奉納試合に参加したいからって、ママさん戦車会に直接交渉に赴くなど行き過ぎです。もしこれが口外されれば、グロリアーナ全体の品位が疑われてしまいます」
ダー 「ご心配なく。あの方達は交わした約束は正しく守ってくださる、淑女の集まりですわ」
アッサ「そう言うことでは・・・・まあ、いいでしょう。今は試合に集中いたしましょう」
ダー 「ええ」
話している間にも、ダージリンの指示通りに進む一行は大きな舗装道路の道を行進し始めていた。
ニル 『随分開けた道ですね』
ルク 『こういう所こそ、横撃や背撃の絶好なポイントなんだ。周囲三百六十度警戒していけ!』
ローズ『ならば、わたくしがひとっ走りして周囲を偵察してさしあげますわ!』
ルク 『おいやめろ!それで各個撃破されたら目も当てられないぞ!』
アッサ「ダージリン、相手はどう出ると見ているんですか?わざわざこんな開けた道を行くというならば、何か考えがおありなのでしょう?」
すぐには答えず、紅茶を淹れるダージリン。
前方には、右の坂道から繋がる交差点が見えてきた。
ダー 「こんな格言をご存知?『チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れなさい』」
ペコ 「本田宗一郎ですね」
ダー 「彼女らは成長の真っ最中。新しい戦術や経験を重ねて上へ上へ登り続けているの。そんな彼女らが、奉納試合という絶好の舞台でただの横撃なんて無難な手を選択するのかしら」
アッサ「ならば、どういう__」
言いかけて、アッサムは言葉を止める。
何か聞こえてくる。
ガガガガガ・・・・。
何か重いものが近づいてくる。
__しかも、かなりのスピードで。
ギャギャギャギャギャ!
ローズ『な、何の音ですの!?』
ニル 『警戒を!何かが近づいて__』
そこまで言いかけて、ニルギリは絶句した。
ブアンッ!
目の前の交差点から飛び出してきたのは__下り坂を利用して猛スピードになったオイだった。
ギャギイイイイイイイイ!
耳をつんざく金属音と火花をまき散らしオイが急停車する。
アッサ「っ・・・・!何てこと!」
交差点のど真ん中に陣取ったオイ。
その巨躯のせいで交差点は進行不能となった。
ローズ『これじゃ通れませんわー!』
ニル 『後方!チャーチルと二式です!』
後方を確認すると、私道に隠れていたチャーチルとケトがゆっくりと姿を現す。
ダージリンたちにとって交差点以外に迂回する道はなく、グロリアーナ一行は道路上でありながら袋小路に追い込まれる形となってしまった。
ルク 『なんてこった!』
ニル 『まさか、道路上で追い詰められるなんて!』
ゆっくり近づいてくるイカ娘のチャーチルとケト。
慌てふためくルクリリたち。
そんな中、どうするつもりなのか、オレンジペコはとちらりとダージリンの方を見た。
ペコ (・・・・笑ってる?)
顔には楽しそうな笑みが浮かび、軽く舌が唇を舐めていた。
その時のオレンジペコには、それが紅茶を軽く舐め取るためなのか、はたまた思わず出た舌なめずりなのか・・・・判断が付かなかった。
~~奉納試合編・後編へ続く~~
詰め込みすぎて三部構成になってしまいました。
まだまだ書きたいことはたくさんありますが、次話できちんと決着をつけられるようにしたいと思っています。
次話を載せた後、企画や今後の展開などを練るための期間を確保させていただきたいので、ちょっとの間本編の方は更新が止まります。
その間は企画や番外編などを載せていきますので、そちらを見ながらお待ちいただければ幸いです。