侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※この話は、大洗女子学園編から黒森峰女学園編までの各4話、および知波単学園編から大学選抜チーム編各3話までを先にお読みいただいているともっとお楽しみいただけます。


※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
アンツィオチーム→アン

シンディー→シン


第5話・奉納しなイカ?(結成編)

イカ娘「ほーのーじあい?」

千鶴 「そう。奉納試合」

 

ある昼の海の家れもん。

お皿を片付けていたイカ娘は千鶴に話題を振られた。

 

イカ娘「奉納試合って何でゲソ?」

千鶴 「神様や仏様に奉納する、武道の試合のことよ」

イカ娘「???」

千鶴 「簡単に言えば、神様に試合している所を見てもらいましょう、という催しよ」

イカ娘「なるほど、そういうことでゲソか」

チョビ「奉納試合と言えば、この間大洗でも奉納試合をやったって聞いたな」

イカ娘「む?ということは、奉納試合というのは戦車道の試合なのでゲソか?」

チョビ「大洗でやったのはタンカスロン・・・・まあ、簡単に言えば軽戦車だけでやる戦車の試合だ。奉納試合は武道全般が対象だから、戦車道だけが奉納試合じゃないぞ」

イカ娘「ふむ」

栄子 「それで、何でいきなり奉納試合の話なんて切り出したんだ?姉貴」

千鶴 「実は、町内会長さんに出てくれないかって頼まれちゃって」

イカ娘「何に?」

千鶴 「奉納試合に」

栄子 「何の?」

千鶴 「戦車道の」

チョビ「誰が?」

千鶴 「私たちが」

イカ娘「・・・・」

 

一瞬間をおいて。

 

一同 「えええええええええええ!?」

 

驚くもの、感心するもの、目を輝かせるもの。

一同が様々な表情を浮かべる。

 

栄子 「戦車道の奉納試合って・・・・まさか姉貴、引き受けたのか!?」

千鶴 「町内会長さんにはお世話になっているし、是非どうしてもって言われちゃって・・・・」

イカ娘「ついに来たでゲソ!人類どもに私の偉大さを知らしめるビッグチャンスが!ここで実力を見せつけて、一気に町内をひれ伏させるのでゲソ!」

千鶴 「イカ娘ちゃん?」

イカ娘「ひいっ!?ごご、ごめんなさいでゲソ!」

 

調子に乗りすぎたかと反射的に謝るイカ娘。

 

千鶴 「ああ、違うのよ。奉納試合は、勝ち負けを競う試合じゃないのよ」

イカ娘「じゃあ、何で勝負するのでゲソ」

千鶴 「お互いに磨いた技術、腕前、練度、そして試合全体の美しさを神様に捧げる催しなの。だからすぐに終わらせたり、魅せる動きも無い試合にしてはいけないのよ」

イカ娘「むむむ、終わらせてはいけないとは逆にめんどくさいでゲソね・・・・」

栄子 「それで、私たちが出ればいいのか?」

千鶴 「ええ。そういうことね」

イカ娘「まあ、そういうことなら任せるでゲソ!この私のスーパーウルトラ車長テクニックバージョン3.1で、皆をあっと言わせてやるでゲソ!」

栄子 「どっから出た、3.1」

千鶴 「あ、それと」

イカ娘「まだあるのでゲソ?」

千鶴 「奉納試合は、五両一チームでないといけないらしいの」

栄子 「え」

カル 「五両・・・・ですか」

チョビ「まずれもんのチャーチル、私たちのサハリアノ・・・・二両しかないな」

ペパ 「西住さんたちに頼んでみます?近くにいるはずっすよ」

チョビ「うーん・・・・。これは由比ガ浜の町で執り行う行事の話だ。それで西住たちに助力を請うのは違うんじゃないかな」

ペパ 「じゃあどうします?町で戦車道やってる人を探すんすか?」

チョビ「うーん・・・・。千鶴さん、奉納試合はいつですか?」

千鶴 「それが、あさってなの」

栄子 「急だな!?」

千鶴 「試合に出る予定だった人がトラブルで出れなくなっちゃって、どうにかならないかって頼まれたのよ」

カル 「それは、火急の用事ですね・・・・」

千鶴 「やっぱり、ムチャだったかしら・・・・」

ペパ 「ナニ言ってるんすか千鶴さん!こういう時こそ私らの出番じゃないっすか!」

チョビ「そうだな。日頃世話になってるんだ、今こそ恩に報いるときだ」

カル 「きっとチームメンバーを見つけてきます。待っていてください」

千鶴 「みんな・・・・ありがとう!」

 

そして。

 

チョビ「どうしたらいいんだーーっ!」

 

砂浜でアンチョビは頭を抱えていた。

 

ペパ 「だから西住さんたちに頼もうって言ったんすよー。変なトコで見栄張るからー」

チョビ「仕方ないだろう!あの状況で『西住達に頼りましょう』なんて言えるか!」

カル 「でもどうしましょう?由比ガ浜には私たちのお知り合いはほぼいませんよ?」

チョビ「ぐぬぬ・・・・。ここは地元の利に頼るしかない」

 

気を取り直すように立ち上がる。

 

チョビ「私たちは早苗のところに行って心当たりがないか聞いてくる。すまないが、そっちでも探しておいてくれるか」

栄子 「そうだな。どっちかと言えばうちの問題なんだし、アンチョビさんたちだけに探してもらうのも間違ってるか」

イカ娘「ではこっちはこっちで探しておくでゲソ。そっちは頼むでゲソよー」

チョビ「ああ、任せたぞ!」

 

そして、イカ娘と栄子は町を歩き回ることになった。

 

栄子 「しっかし、私らづてでも戦車道やってる奴なんていないぞ?あとはせいぜい南風のおっさんくらいしか思いつかん」

イカ娘「何言ってるでゲソ栄子」

栄子 「ん?」

イカ娘「私たちには、とても頼りになる戦車乗りがいるじゃなイカ!」

 

三十分後。

 

清美 「ぜったい協力するよ!」

イカ娘「ありがとうでゲソ!」

 

イカ娘たちは長谷中にいた。

清美に事情を説明すると、快く引き受けてくれた。

 

栄子 「いやー助かった。そう言えば清美ちゃんたちも戦車道やってたの忘れてたよ」

イカ娘「おとぼけでゲソ」

栄子 「うっせ。・・・・でもいいのか?清美ちゃん。オイって確か学校の備品扱いじゃ」

由佳 「校長の話だと、戦車道がからむイベントには積極的に参加して欲しいって言ってました」

綾乃 「それがマイナーなイベントでも、むしろ奉納試合なら是非出て欲しいって言いますよ、ぜったい!」

知美 「奉納試合か~。剣道部のことかが出るって聞いて、うらやましかったこともあったな~」

由佳 「ウチらのは武道じゃないしね」

清美 「という訳だからイカちゃん!頑張ろうね!」

イカ娘「うむ!」

 

早くもメンバーを一人確保し、ウキウキ顔のイカ娘。

 

イカ娘「この調子なら五両どころか十両だって見つけてみせるでゲソ!」

栄子 「そんなにはないだろ」

 

しかし__

 

イカ娘「どこにもいないでゲソー・・・・」

 

そこから先は、誰も見つからなかった。

探しづかれてゲッソリするイカ娘。

 

栄子 「だから言っただろ。そう簡単に思いついたら苦労しねえって」

イカ娘「やはり大洗の西住さんたちにお願いするしかないんじゃなイカ?」

栄子 「それはあっても最終手段だな。第一、西住さんたちは由比ガ浜の住人じゃないから、奉納試合に出られるかわからんしな。もうそうなったら西住さんたちに迷惑がかかる」

イカ娘「うーむ、それは本意ではないでゲソ」

栄子 「まあ、いざとなったら私たちの二両で試合すりゃいい。事情があってのことだし、きちんとした試合を見せられればいいだろ」

イカ娘「うーむ・・・・」

 

と、そんな所に

 

愛里寿「試合?」

 

聞き覚えのある声がした。

 

イカ娘「む?」

栄子 「あっ、愛里寿ちゃん」

 

そこには、買い物帰りらしき様子の愛里寿とバミューダトリオがいた。

 

栄子 「かくかくしかじか」

メグミ「なるほど、奉納試合のメンバーが揃わない、というわけですか」

アズミ「神事は大事だものね~。できればきちんとしたいという気持ち、わかるわ~」

ルミ 「でも本来五両のところを二両だと、印象は悪くなっちゃうかもしれないわね」

栄子 「やっぱりねー」

 

と、ふと思いつく。

 

栄子 「そうだ!確か大学選抜チームの中に、由比ガ浜の大学艦所属のがあったよな!?(注:オリジナル設定です)」

アズミ「そういえばあったわね~」

栄子 「そこの艦出身の人なら、助っ人としてもオッケーなんじゃ!?」

ルミ 「うーん、いいアイデアなんだけど・・・・」

メグミ「私たちも近々試合があって、そのためのオーバーホールでほとんどの戦車は封印状態なの。この間の大会で余ってた車両を持ってこれたんだけど(大学選抜編第5話より)、あれで遊ばせてる戦車使い切っちゃったの」

愛里寿「私のセンチュリオンもあの大会のダメージが直ってなくて、ぎりぎり試合に間に合うかどうかなの」

栄子 「そっかー・・・・。行けると思ったんだけどなー・・・・」

愛里寿「ごめんね」

イカ娘「仕方ないでゲソ。自分の学校の用事を優先するのは当り前じゃなイカ」

メグミ「他につてがないか、みんなにも聞いておくわ」

栄子 「うん、お願いするわ」

 

そして去っていくイカ娘たち。

遠ざかる二人を、愛里寿はじっと見つめていた。

その頃、アンチョビたちは早苗の部屋にいた。

 

チョビ「相変わらず個性的な部屋だなあ」

早苗 「そんな褒めないでよドゥーチェ~♪」

チョビ「いや、褒め言葉というか__まあいいや。それで、由比ガ浜で戦車道ができる人の情報についてなんだが」

早苗 「うーん、私が知る限り戦車道が出来たり携わってる人は・・・・南風のおじさんでしょ?」

カル 「ああ、そういえば・・・・」

ペパ 「あの戦車を自分で作ったオッサン?すごいよなー、アレ」

チョビ「しかも人工知能を乗せて自走させられるんだからな・・・・。あれを見ると、現代科学がどこまでできるのか限界が分からなくなってくる」

カル 「ですが・・・・あれが奉納試合にふさわしいかは、ちょっと疑問に感じちゃいますね・・・・」

チョビ「ぶっちゃけ、ちょっとどころじゃない。かなりアウトだろう」

早苗 「あと、イカちゃんの・・・・かなり親友の、清美ちゃん」

カル (言葉に含みを感じるわ)

チョビ「ああ、紗倉清美ちゃん、だな?さっき栄子から連絡があって、OKを貰えたそうだ」

ペパ 「やったじゃないっすか!これであと二両っすね!」

チョビ「そうだな。こちらとしても一両は見つけておきたいんだが・・・・」

早苗 「あっ、もう一人__今まだ戦車道やってるかわからないけど、戦車道経験者知ってるよ」

カル 「えっ、そうなんですか?ぜひ紹介してください」

早苗 「うん、多分この時間なら家にいるはずだから・・・・」

 

そう言って早苗はケータイを取り出しどこかへかけ始めた。

 

早苗 「__あっ、おばさま?長月です。あの、実は折り入ってお話が__」

 

その後。

アンチョビたちはとある場所を目指して連れ立って歩いていた。

 

チョビ「その人は、早苗の知り合いの人なのか」

早苗 「うん。知り合いのお母さんで、時々会ったりするよ」

カル 「その方が戦車道をまだされているのなら、希望が持てますね」

チョビ「そうだな。まずは会って話を聞こう」

 

そうして一行は__とあるアパートにやって来た。

 

早苗 「ここの二階よ。今呼んでくるから、ちょっと待ってて」

 

外階段を上っていく早苗。

アンチョビたちは下で戻ってくるのを待つことにした。

夏もそろそろ終わりそうな季節だというのに、日差しは暑くセミも元気よく鳴いている。

 

ペパ 「暑いっすねー・・・・。ジェラート食いたい!」

チョビ「我慢しろペパロニ。使えば使うほど持って帰れる金が無くなっていくぞ」

カル 「だいぶアルバイト代もらえましたからね。帰りは電車で帰れそうです」

チョビ「そうだな。海の家のバイトと思えないほど色を付けてもらえた。千鶴さんには頭が上がらないな」

ペパ 「そっすね!それに報いるためにも、なんとしてもメンバーを見つけないとっす!」

チョビ「おっ、ペパロニにしてはいいことを言うじゃないか」

ペパ 「ちょっ、私にしてはってどういう意味っすかー!」

 

きゃいきゃいしながら早苗を待っていると__

 

ブロロロロロ・・・・

 

遠くから音が聞こえてくる。

道路を車が走っているのか、と思い端に避けていると__

遠くからBT-42の姿が見え始めた。

 

チョビ「んなっ!?」

 

キキッ

 

そして驚いているペパロニたちの目の前で停まり__

 

ミカ 「おや」

 

キューポラからミカが姿を現した。

 

ミカ 「やあ。君は確か__シラカットさん」

チョビ「アンチョビだ!アンツィオのドゥーチェ、アンチョビ!」

ミカ 「そうそう。そっちだったね」

チョビ「絶対わざとだろ。__まあいい。お前たち、ここで何をしてる?」

ミカ 「うん?この国における、等価交換の在り方について経営者の方々と議論を交わしてきたところさ」

アキ 「パン屋さんでお買い物してきただけでしょ。何でわざわざ難しく言い換えるかな」

 

戦車の中から沢山の買い物袋を抱えこんだアキとミッコが姿を現した。

 

カル 「あら、沢山買われたんですね」

ペパ 「それ全部パンっすか?すんごい量だなあ!」

チョビ「・・・・ちゃんと買ったんだろな?」

ミカ 「心外だね。後にも先にも、人様の物を勝手に持ち去ったりなんてしたことはないさ」

 

涼しい顔でBT-42に腰かけながら答えるミカに、アンチョビはあえて何も言わなかった。

 

チョビ「で?このアパートに何か用があったのか?」

ミカ 「近からず遠からず」

チョビ「は?」

ミッコ「実はあたしたち、ここにお邪魔してるんだ」

チョビ「そ__」

 

それはどういう、と言いかけると__

 

吾郎母「あらー、帰ってたのね!ごくろうさま!」

 

二階から大きな、豪快な声が聞こえてくる。

見上げると、階段の上から吾郎の母ちゃんが見下ろしていた。

 

ミカ 「ただいま。交渉したら、三割引きにしてくれたよ」

吾郎母「あら助かっちゃう!あそこのおじさん二割引き以上にはなかなかしてくれないのよ!ミカちゃんにお使いお願いして正解だったわね」

 

そう言って階段から降りてきた吾郎の母ちゃんは、一人で持つのがやっとそうな量のパンが詰め込められている袋をアキとミッコから軽々と受け取った。

 

吾郎母「ああ、アンタがアンチョビさんかい?」

チョビ「えっ?!」

 

突然話を振られて戸惑うアンチョビ。

 

吾郎母「早苗ちゃんから話は聞いてるよ。とりあえず、上がった上がった!」

チョビ「えっ、あのっ、ちょっ!」

 

グイグイと買い物袋を持ったままの吾郎の母ちゃんに押され、アンチョビたちは二階へ続く階段を上り、嵐山家の部屋へと入っていった。

 

吾郎母「狭いとこだけど、自由にくつろいでおくれ」

アン 「お邪魔します」

 

かくして各々のスペースを確保するアンチョビたち。

 

カル 「あのー、私たち・・・・」

吾郎母「ちょっと待ってておくれ。先にすましちゃうから」

 

そう言って吾郎の母ちゃんは袋から食パンを取り出し、ぶ厚めに切り始める。

 

チョビ「いや、我々は__」

吾郎母「あんたたち、お昼まだなんだろ?ちょうどいいから食べてきなさいって」

チョビ「いえ、そんな訳には__」

早苗 「いいからお言葉に甘えたほうがいいよ。おばさまはああなったら止まらないから」

アキ 「そうそう。遠慮なんてしないしない」

チョビ「はあ・・・・」

 

呆気にとられた顔でじっと待つアンチョビ。

吾郎の母ちゃんはスライスした食パンにチーズ、トマトソース、細切れにした野菜を乗せ始める。

 

ペパ 「おっ!これはもしかして!」

 

過程で何を作るつもりか察したペパロニが興味深そうに吾郎の母ちゃんの手元を覗き込む。

 

吾郎母「おや、わかるかい?これぞ嵐山家に伝わる秘伝のレシピ、極厚ピザトーストさ」

 

吾郎の母ちゃんは具をのせ終えたトーストをオーブンに入れようとする。

 

ペパ 「おばちゃん!焼くのは任せるっす!」

吾郎母「おんや、いいのかい?」

ペパ 「もちろん!ピザの焼き加減に関しては、私も負けるつもりはないっすよ!」

吾郎母「あら頼もしい!じゃあどんどん準備するから、どんどん焼いちゃってちょうだい!」

ペパ 「シー!」

 

料理という共通のワードにより打ち解けるペパロニと吾郎の母ちゃん。

そんな二人を横目に見ながら、アンチョビはベランダに腰かけカンテレを弾いているミカに近づく。

 

チョビ「ここで何をしているんだ?」

ミカ 「ワイナミョイネンからインスピレーションを授かる瞬間を待っているのさ」

チョビ「・・・・」

 

ツッコミもせず、全く動じずミカを見つめ続ける。

 

ミカ 「・・・・探し物をね、しにきたのさ」

チョビ「探し物?」

ミカ 「そう。とても大事で、私に関係のないものを、ね」

チョビ「なんだそりゃ」

 

ミカは答えずカンテレを弾いた。

これ以上はまともな答えは返ってこないだろうと、アンチョビは諦めてその場を離れた。

しばらくして__

 

一同 「いただきまーす!」

 

人数分が焼き上がり、一同は極厚ピザトーストにかぶりついた。

 

アキ 「おいしい!」

ミッコ「こんなにぶ厚いのにどこも焦げてないし、チーズも絶妙にトロットロだわ!」

ペパ 「へへん、どんなもんだ!」

吾郎母「うん、こりゃおいしいわ。あんた、これでお店出せるわよ」

ペパ 「アンツィオではしょっちゅう屋台出してるっすよ!」

吾郎母「あらやだ!釈迦に説法だったかしら、あっはっは!」

 

美味しいものを囲んだ食卓は自然と笑顔に包まれていた。

 

早苗 「それでおばさま、さっき話した戦車道のお話なんですけれど」

吾郎母「あらやだ忘れてた。確かに昔戦車道やってたけどね、付き合いだったし、私は戦車持ってなかったのよ。今も持ってないし、近所にも戦車持ってる人は思い当たらないわあ」

カル 「そうですか・・・・」

ペパ 「どっかにいないっすかねえ、由比ガ浜で他に戦車持ってる人」

吾郎母「そうだねえ・・・・誰かいたかねえ・・・・」

ミカ 「思いつかないねえ」

チョビ「おい」

 

アンチョビがミカにツッコミを入れる。

 

ミカ 「うん?」

チョビ「今さっきまでお前たちが乗ってたあれはなんだ」

ミカ 「・・・・」

ペパ 「あ、そっか」

 

今の今まで気が付かなかった、という表情のペパロニ。

 

アキ 「いや、真っ先にツッコまれると思ってたんだけど」

カル 「今の今まで話題に出なかったから、何か事情があるのかと思って言わないでおいたんですが・・・・」

 

おほん、と咳払いするアンチョビ。

 

チョビ「短期間だとしても由比ガ浜にある家で寝泊まりしていたというのなら、私たち同様、それは由比ガ浜の人間と言える。継続よ、奉納試合に参加してはくれないか?」

 

ポロン♪

 

あえて返事はせず、カンテレを弾いているミカ。

 

カル 「どんぐり小隊の時の継続さん方のご活躍は忘れられません。もし力を貸してもらえるなら、これほど心強いものはありません」

ミカ 「・・・・評価は嬉しいけどね。残念ながら燃料が乏しくてさ。試合できるほどの残りは__」

チョビ「燃料代なら、私が出そう」

早苗 「ドゥーチェ!?」

ペパ 「本気っすか!?」

チョビ「帰りの電車賃は確保してあるし、だいぶ余りもある。戻ってからの活動資金にもと考えたが、お前たちの燃料代を持つくらいならまだ余裕がある」

ミッコ(節約で有名なアンツィオのアンチョビさんが、他校の燃料代を持つとまで・・・・!?)

アキ (本気だ・・・・!この人、奉納試合に全力を尽くすつもりだ!)

吾郎母「ここまで言ってるんだから、力貸してやってくれないかい?」

ミカ 「・・・・」

 

真っすぐ見つめるアンチョビの視線を、僅かの間真っすぐ見つめ返したミカ。

そして__

 

ミカ 「・・・・実は事情があってね。あまり公の場には姿を見せたくはないんだ」

アキ 「ミカ・・・・」

ミカ 「でも、おばさまのお願いを無碍にすることもできない。二者択一、まさに板挟みだね」

早苗 「結局のところ、どっちなの?」

 

すると、おもむろにミカはスッと何かを取り出した。

指先につままれているそれは、硬貨に見える。

 

カル 「それは・・・・マルッカ(フィンランドの旧式硬貨)ですか?」

ミカ 「そうだね。・・・・これからこれでコイントスをする。それで『表』が出たら、試合に参加しようじゃないか」

ペパ 「おっ!運しだいってワケっすね!」

チョビ「わかった。それで呑もう」

 

固唾をのんで見守る一同。

そして宙を舞う硬貨。

 

パシッ

 

ミカが左手を使って右の手の甲にコインをはさむ。

__そして、ゆっくりと左手をどかすと__

 

ペパ 「・・・・」

チョビ「・・・・」

アキ 「・・・・」

ミッコ「・・・・」

吾郎母「?」

早苗 「結局・・・・どっち?」

 

ミカはふう、とため息をつきながら諦めたような笑顔を浮かべる。

 

ミカ 「・・・・『表』だね」

チョビ「や・・・・やったぞ!」

ペパ 「これでメンバー確保っすね!」

ミカ 「自分で言い出したことだからね、約束は守るさ。奉納試合の日に、必ず向かうとするよ」

チョビ「ああ、頼んだぞ!」

カル 「よろしくお願いします」

 

そうして、アンチョビたちはアパートを後にした。

 

チョビ「これで四両目!あと一両だ!」

ペパ 「一時はどうなるかと思ったけど、運はこちらに味方したっすね!ドゥーチェはやっぱり持ってるっす!」

チョビ「ああ!戦車道の女神は私たちに微笑んでいるぞ!」

早苗 「ドゥーチェ、さっき千鶴さんから連絡があったんだけど、一度れもんに戻ってほしいって」

チョビ「ん、そうなのか?じゃあ戻るとするか」

カル 「・・・・」

 

運をつかんだ、と喜ぶ三人を後ろから見ながら、カルパッチョは少し考え込んでいた。

 

カル (あの硬貨・・・・『どっちが表』だったかしら・・・・)

 

嵐山家のベランダからは、ミカが硬貨を指ではじきながら四人が去るのを見送っていた。

 

栄子 「おっ」

チョビ「おっ」

 

れもんへの帰り道、栄子たちとアンチョビたちは偶然鉢合わせした。

 

カル 「お疲れさまです」

早苗 「イカちゃ~~~~~~ん!」

 

超高速でイカ娘に抱き着く早苗。

 

イカ娘「ギャアアアアアアアアア!」

チョビ「連絡した通り、こっちも一両の助力を取り付けた。あと少しだな」

栄子 「ああ、ありがとうな。これなら五両目も見つかりそうだよ」

ペパ 「さっき千鶴さんから戻ってきてって連絡受けて、私らは帰るとこっす」

栄子 「え、そうなのか?私らも姉貴に呼ばれたんだよ」

カル 「そうだったんですか」

イカ娘「清美のっ、話をしたらっ、あてができたって、言ってたでゲソ!」

 

早苗に抱き着かれまいと触手全てと両手でかろうじて食い止めているイカ娘が言う。

 

カル 「それじゃあ、五両目が見つかったんでしょうか?」

チョビ「かもしれないな。よし、急いで戻るか」

 

かくして一行はれもんへ戻ってきた。

 

千鶴 「おかえりなさい」

チョビ「千鶴さん!あてができたって聞きましたが」

千鶴 「ええ。みんなが探しているうちに、私も見つけられたの」

ペパ 「やった!これで完璧っす!」

栄子 「一時はどうなるかと思ったが、これで万事解決だな」

千鶴 「いいえ、まだ全部終わりじゃないわよ」

イカ娘「え?」

カル 「そうですね。まだ大事なことができていません」

早苗 「大事なことって?」

栄子 「あ、そっか」

イカ娘「む?」

千鶴 「アンチョビちゃんたちはもちろんだけど、栄子ちゃんや清美ちゃんはまだ不慣れでしょう?__団体戦は」

イカ娘「あ」

千鶴 「奉納試合は五両対五両。チームワークなくして、試合を成立させることはできないわ。次はチームで戦える練習をしないと」

 

かくして。

由比ガ浜戦車演習場に、四つのチームが合流した。

イカ娘たちのチャーチル、アンチョビたちのサハリアノ、清美たちのオイ。

ミカは『風にさらわれてしまってね』と来なかった。

そして、そこには千鶴と__

 

みほ 「今日は、よろしくお願いします」

 

あんこうチームのⅣ号がいた。

 

イカ娘「大洗の西住さんが教えてくれるのでゲソ?」

沙織 「うん、千鶴さんにぜひって頼まれちゃって」

華  「お聞きしたところ、奉納試合に出られるそうで。それで、団体戦向けの訓練を行う必要があるとご連絡を受けまして」

麻子 「日頃世話になってるし、練習相手なら任せろ」

優花里「チームワークを育むには経験が一番ですからね。不肖・秋山優花里、全身全霊で事に及ばせていただく所存であります!」

栄子 「こりゃ頼もしいや」

チョビ「千鶴さん、五両目のチームは来ていないんですか?」

千鶴 「ごめんなさいね、忙しい身の子だから、当日以外は参加できないそうなの。でも腕前は保証するわ」

カル 「千鶴さんがそうおっしゃるなら、心配はなさそうですね」

 

かくしてあんこうチーム指導の元、チームワーク訓練が始まった。

隊列を組んでの行進、砲口の向きからの弾道予測、急停止からの正確な砲撃を行うためのコツなど、さまざまな技術をレクチャーされたイカ娘たちは、確実に力をつけて行っていた。

しかし__

 

みほ 『チャーチルチーム、左舷に出るのが少し遅れています。それだと左から攻められて崩壊してしまいかねません』

イカ娘「むっ、遅かったでゲソか。栄子、もっと素早く動くでゲソ」

 

全体の動きから見て、ややチャーチルの動きを合わせる動作が鈍い。

 

栄子 「お前が指示してからすぐ動いてるだろ。それで遅いってことはお前が支持飛ばすの遅いってことだよ」

みほ 『そうですね。イカ娘ちゃんの指示は、やっぱり少し遅れ気味になってしまっています』

イカ娘「むっ、そうなのでゲソか?」

清美 『多分、イカちゃんが車長と通信手を兼任してるからじゃないかな』

みほ 『恐らくは清美ちゃんの言う通りです。イカ娘ちゃんは車長としての指示だけでも精いっぱいで、全体の動きを把握しつつ通信をしているとどうしても指示が散漫になってしまうようです』

イカ娘「じゃあどうすればいいのでゲソ?」

みほ 『一番は、通信手をイカ娘ちゃん以外の人にやってもらうことなんだけど・・・・』

栄子 「私は操縦で手いっぱいだぞ」

渚  「私、見えない状況から全体を把握するとか、事細かに説明するのは苦手で・・・・」

シン 「私はできなくもないけど、砲撃しながら兼任するのはムチャじゃない?」

イカ娘「他に適任がいないじゃなイカ!」

 

どうするか、とこまねいていると__

 

千鶴 『ちょっといいかしら』

 

千鶴が無線を挟んできた。

 

千鶴 『こんなこともあろうかと、もし必要になったときのために通信手ができそうな子を見つけておいたの』

チョビ『おお!』

ペパ 『さすが千鶴さん!』

 

いったん戻って来た一同。

そこには、千鶴が呼び出していた通信手候補の子が立っていた。

 

沙織 「えっ?」

栄子 「まさか・・・・」

カル 「あらあら」

鮎美 「・・・・」

 

そこには、もじもじしながら立っている鮎美がいた。

 

イカ娘「鮎美じゃなイカ!?」

栄子 「よりによって鮎美ちゃんかよ!?何故通信手に抜擢した!」

チョビ「鮎美とはれもんで何度かバイトを一緒はしたが、一度もまともに口を聞いたことが無いぞ・・・・」

千鶴 「ふふっ、大丈夫よ。ちゃんと抜擢した理由があるんだから。それじゃ鮎美ちゃん、イカ娘ちゃんのチャーチルに同乗してもらえるかしら」

鮎美 「はい、わかりました」

 

千鶴にはまともな返事を返し、チャーチルに乗り込む鮎美。

 

イカ娘「鮎美よ、よろしく頼むでゲソ」

鮎美 「はい、精いっぱい頑張ります!」

 

イカ娘にもはきはきと答える鮎美。

 

栄子 「鮎美ちゃん、よろしくね」

渚  「よろしくお願いします」

シン 「頼りにしてるわよ?」

鮎美 「は、は、はい・・・・。よろしく、お願いします・・・・」

 

栄子たちには途端におどおどし始める鮎美だった。

 

栄子 (こんなんで通信手なんて大丈夫なのか?)

 

拭えない不安とともに訓練再開。

今回はⅣ号を仮想敵として、三両で取り囲む動きの練習をすることになった。

 

みほ 『反撃はしませんが、そちらの動きを見てこちらの判断で動きます。チームで連絡を密にして、うまく取り囲んでください』

チョビ「あんこうチームのⅣ号を取り囲めとか、なかなかに無茶振りだな・・・・。しかしやってやれないことはない!みんな行くぞ!」

知美 『はい!』

 

かくして逃げるⅣ号を追うイカ娘たち。

しかしさすがは麻子の操縦、右から囲おうとすれば急加速からの大回りで左舷から抜け、両弦から囲おうとすると急旋回から隊列のど真ん中を猛スピードで抜けていく。

その動きの機敏さに、三両がかりでも対応しきれていない。

 

チョビ「くっ、さすがは大洗戦車チーム最強の足!全くとらえきれない!」

知美 『こっちも動きが鈍すぎて、急な動きに対応できません!』

カル 「私たちの一両だけではとても抑えられません。三両の息を合わせないと」

チョビ「分かってはいるが、どうすれば__」

 

と__

 

鮎美 『皆さん、ご提案があります』

 

突如、鮎美から通信が入った。

 

ペパ 「ん?」

早苗 「今の声、もしかして・・・・」

チョビ「鮎美!?」

 

その頃、イカ娘チームのチャーチル内では。

 

鮎美 「現在のⅣ号と私たちの位置関係から考えると、Ⅳ号はオイの横をすり抜けるのを常套手段としています。ならば、そこをすり抜けるタイミングを捉えられれば解決できるはずです」

 

鮎美が生き生きと、全くたじろぐ様子も見せず早口で通信機にまくしたてている。

そんな鮎美の様子に呆然とする栄子たち。

 

鮎美 「こちらには最速の、アンチョビさんたちのサハリアノがあります。それを中軸にすれば、きっと捉えられるはずです」

チョビ『あ、ああ・・・・』

 

そして、鮎美の口から作戦が伝えられる。

 

鮎美 「オイを中心に、残りを両弦に配置します。GOサインを出すタイミングはイカ娘さん、お願いします」

イカ娘「うむ、任せるでゲソ!」

 

かくしてフォーメーションを取り、再びⅣ号を追いかけまわす。

同じように一定の距離まで詰められると、Ⅳ号が急旋回からの急加速を行った。

 

イカ娘「!」

 

口を動かすより先に、イカ娘の触手が車内にサインを送る。

 

鮎美 「アンチョビさん、右へ急旋回!オイの左舷から追い抜きに来ます!」

チョビ『了解だ!』

 

鮎美からの迅速な通信を受け、サハリアノも急旋回、オイの左側面を抜けようとするⅣ号に先回りするように、オイの右側面を全速力で駆け抜ける。

それに合わせ、チャーチルも急旋回、オイも急停止を試みる。

そして__

 

鮎美 「今です!飛び出すと同時に急ブレーキ!」

麻子 「!」

 

Ⅳ号がオイの左側面を抜けるより早く、サハリアノがオイ後方からⅣ号前方へ飛び出してきた。

急ブレーキを踏み、身を挺して進路をふさぐ。

衝突回避のためドリフトをかけるⅣ号。

 

ズザザザザザアッ

 

砂埃を立て、サハリアノとの衝突を免れる。

直後__

 

ギュオオオオオン!

 

更に再加速により、横への離脱を試みるⅣ号。

しかし__

 

ギャギャギャギャギャ!

 

それを遮るかのようにチャーチルが前方に立ちふさがる。

結果__Ⅳ号は三両によって完全に包囲、身動き取れなくなってしまった。

 

麻子 「やられた。これじゃ動けない」

みほ 「うん、すごい手際だったね」

沙織 「まさに三位一体!恋人同士みたいに息の合ったコンビネーション!」

華  「三位一体では、三角関係では?」

優花里「でも、先ほどまでとは違い、動きが断然良くなってますね。何があったんでしょうか」

 

やがて訓練も終わり、戻って来た一同。

 

沙織 「びっくりしちゃった!まさかあんなに連携が上手なんて!」

麻子 「完璧に計画にハマっていた。もし試合だったら危ない所だった」

チョビ「ああ、私たちも驚きだ。まさかあんこうチーム相手にここまでやってのけるとは」

みほ 「作戦もすごく良かったけど、それぞれの動きのタイミングもすごかった。あれは誰が合図していたの?」

イカ娘「あれは__」

 

ちらっ、と鮎美を横目に見る。

 

沙織 「うそっ、立案は鮎美ちゃんなの!?」

鮎美 「あの、その、__すいません」

 

一気に注目を浴び、申し訳なさそうに縮こまる鮎美。

 

栄子 「私たちも驚いたよ。戦車に乗るまではあんなにおどおどしてたのに、通信手の席に立った途端生き生きし始めちゃって」

カル 「通信もすごく軽快にされてましたよね。あれだけ事細やかに伝えてもらえれば、とても助かります」

鮎美 「いえ、その、あの、私なんて・・・・」

 

戦車に乗っているときと打って変わって口数が少ない鮎美。

 

早苗 「どうしたのかしら鮎美ちゃん。さっきはあんなにはきはきしてたのに」

栄子 「てっきり人見知り克服したのかと思ってたけど・・・・通信機の前だけなのか?喋れるのは」

鮎美 「だ、だって・・・・」

チョビ「だって?」

鮎美 「通信機は、人じゃありませんから・・・・」

チョビ「え」

沙織 「いやいやいやでも、通信機の先には人がいるんだよ?」

鮎美 「でも顔は見えませんし・・・・話しかけるのは通信機にですから」

麻子 「基準がさっぱりわからん」

栄子 「私にもさっぱりだよ。__まあいいや。これで奉納試合に向けて必要な練習と人材は確保できたことだし」

みほ 「そうですね。あとは、当日参加される継続さんと、その五両目の人たちとどれだけ息を合わせられるか、ですね」

イカ娘「私たちだけでここまで動けたのでゲソ。二両増えたって問題ないでゲソ!」

早苗 「そうね!私たちの愛の力があればどんな相手だってイチコロよ~!」

イカ娘「は、離すでゲソーっ!」

 

奉納試合に向け、やる気十分なメンバーたち。

それを、笑顔で見守るあんこうチームの面々と千鶴だった。

 

 

                ~~『奉納試合編』に続く~~




満を持して、いよいよイカ娘たちが自分たちのチームを結成することになりました。
今は寄せ集めにしか見えないこのチーム、どうなっていくかご期待ください。

そういえば、ガルパンの新しいアプリが発表されましたね。
『あつまれ!みんなの戦車道』、どんなアプリになるか楽しみです。
3Dのようなので、自分で戦車を動かせるアクションとかだったら嬉しいのですが。

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