侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※この話は、大洗女子学園編から黒森峰女学園編までの各四話、および知波単学園編から大学選抜チーム編各二話までを先にお読みいただいているともっとお楽しみいただけます。


※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー

バミューダトリオ→バミュ

南風の店長→南風
ニセイカ娘→偽イカ


第4話・クオリティ高くなイカ?(大会編)

~~前回までのあらすじ~~

 

チョビ「千鶴さんがお化け屋敷をやりたがって」

ケイ 「私たちが協力を申し出て」

ダー 「皆さんのご助力があって完成し」

まほ 「意見を聞くためエリカたちに来てもらって」

カチュ「これからお化け屋敷に入るところよ!」

エリカ「端折りすぎでしょ!」

愛里寿「でも大体あってると思うけど」

 

ポロロン♪

 

西  「おや?どこからか琴を奏でる音が聞こえたような?」

みほ 「では、続きをどうぞ!」

 

~~本編~~

 

まほに促され、お化け屋敷れもんに入ったエリカたち。

真夏だというのに中はひやっとした空気に満ちている。

暗くもあるが全く見えないほどでもなく、目を凝らせば見えてしまう分見えてしまうのではという気分にさせる。

 

エリカ「なかなか雰囲気出てるじゃない。ちょっとは楽しませてもらいたいもんね」

小梅 「ううう・・・・暗い、こわい・・・・」

エリカ「ちょっと小梅、くっつかないでよ、歩きにくいじゃない」

小梅 「あっ、ご、ごめんなさい」

まほ 「掴みは悪くないようだな」

 

後ろからついてくるまほが意見を求める。

 

エリカ「そうですね。入った途端に流れてくる冷気や雰囲気は水準が高いと思います」

小梅 「そ、そうですね。この時点でだいぶ怖いです!」

まほ 「それは何よりだ。さあ、進んでもっと意見を聞かせてくれ」

エリカ「はっ」

 

まほの手前、ビシっと毅然とした態度で応じるが、やはり内心何が出るか分かったものではなく、エリカは視線をきょろきょろと泳がせている。

と、少し進んだ先に何かあるのを見つけた。

 

小梅 「・・・・井戸、ですね」

 

それは十分な大きさのある井戸の模型だった。

人一人は余裕で入れそうな大きさで、いかにもなオーラを放っている。

そして、近くには『覗くべからず』と書かれた立札が建っている。

 

小梅 「の、覗くなと書いてあるんですし・・・・近寄らない方が」

エリカ「何言ってんのよ。こんな見え見えで予想のついている仕掛け、怖がる理由なんてないわよ」

 

エリカは胸を張って近づき、少しだけ恐る恐る井戸を覗き込む。

 

エリカ「・・・・?」

 

井戸の中は、空だった。

 

エリカ「何よ、空じゃない。まったく、こけおどしも程が__」

 

と、ぼやいていると__

 

???「足りぬ__」

???「足りぬ__」

???「足りぬぅぅぅ・・・・」

 

どこからか、地の底から響くような恨みがましい声が響いてくる。

一体どこから、とエリカが周囲を見回そうとすると__

 

細身 「突貫ーっ!」

玉田 「突撃ーっ!」

寺本 「爆散ーっ!」

福田 「ぎょ、玉砕ーっ!」

エリカ「ひいっ!?」

小梅 「きゃあああっ!?」

 

長い黒髪を振り乱しながら、白装束に身を包んだ知波単勢が、血まみれメイクで上から落ちてきた。

しかも逆さ宙づり。

一瞬にして亡霊に囲まれるエリカ。

さすがのエリカも声を上げ、思わず包囲の隙間を縫って逃げようとする。

しかし__

 

西  「本懐ーっ!」

 

さらに待ち構えていた西が、エリカの間の前に落ちてくる。

 

エリカ「うわああああっ!?」

 

さすがのエリカも、これには大声を上げざるを得なかった。

 

細身 「おおっ、あの『くうる』といわれている逸見殿が叫び声を!」

玉田 「やはり西隊長の読み通りでありましたか!」

福田 「『突撃亡霊包囲網作戦』、大成功であります!」

西  「うむ!皆、よくやった!__して、如何でありましたか、逸見殿!?」

エリカ「しゅ__」

西  「しゅ?」

エリカ「趣味が悪いッ!」

 

数分後。

落ち着きを取り戻したエリカは、床に降りてきた亡霊役の知波単勢と話し合っていた。

 

エリカ「やられたわ・・・・。まさかあんなアナログに走るとは思わなかった」

西  「おおっ、褒められたぞ!」

福田 「西隊長殿、大躍進であります!」

エリカ(褒めたつもりじゃなかったんだけど)

小梅 「でも、本当にびっくりしました。まさかあんなに正確に落ちてこれるなんて。でも、宙づりなんて危なくないですか?もし落ちたりしたら__」

玉田 「うむ、それは心配ご無用!」

 

玉田が上を見るように促すと、そこには骨組みを介し伸びたイカ娘の触手が五本、天井からぶらさがっていた。

 

細身 「烏賊娘殿にご協力を取次ぎ、ああして我らを吊るしてもらっているのだ」

玉田 「客が真下に差し掛かるとき、個々が合図を送れば一定の高さにまで触手が降ろしてくれるのだ!」

寺本 「これぞ匠の技!」

イカ娘「西さんよ、どうだったでゲソー?」

 

遠巻きにイカ娘の声が聞こえてくる。

 

西  「お陰様で大成功であります!」

イカ娘「それは何よりでゲソ。エリカがどんな顔してたのか、後で聞かせてほしいでゲソー」

エリカ「聞かなくていい!」

西  「ともあれ、この案が間違いないことが証明されました!逸見殿、ご協力感謝いたします!」

 

知波単勢一同がエリカに敬礼をする。

 

エリカ「まあ・・・・それなりだったわ。頑張りなさいな」

 

その場を去り、先に進む。

 

小梅 「はー、最初からびっくりしましたね。声出ちゃいました」

エリカ「小梅はまだいいわよ。あんなのに囲まれたこっちの身にもなってよ」

まほ 「ははは、なかなかいい反応だったぞ」

エリカ「隊長まで・・・・。勘弁してくださいよ」

 

やがて雰囲気が変わり、廃墟のようなセットが見られるエリアへたどり着いた。

 

小梅 「ここにも何かあるのでしょうか・・・・?」

 

おっかなびっくり周囲を見回す小梅。

すると__

 

小梅 「あら?あそこに__」

 

気が付くと、そこにはだぼだぼの白いワンピースと、大きすぎる白いつば広帽を目深に被った少女が佇んでいる。

 

小梅 「あれは・・・・カチューシャさんのようですね?」

エリカ「普通の格好じゃない。あれで怖いと思ってるのかしら。アイデアまでちびっ子なのね」

 

いつもならそんな悪口を聞こうものなら激昂するカチューシャだが、今はその場から微動だにしない。

よく見ると、小さく口が動いている。

耳を澄ますと、何か言っている。

 

小梅 「?カチューシャさん、何か言いましたか?」

 

しかし、声が小さく上手く聞き取れない。

よく聞こうと近寄っていくと__

 

カチュ「__、ぱ、ぱぱぱ__」

小梅 「え?」

 

間近まで近づいた小梅は気づいた。

それは、言葉ではなかった。

その直後__

 

カチュ「ぱぱぱぱっぱ、ぱぱ、ぱぱぱぱぱぱぱぱ」

 

カチューシャが不気味な奇声を上げ始める。

小梅が思わず後ずさりかけると__

カチューシャの背が伸び始めた。

 

小梅 「え、ええ、えええええっ!?」

 

小梅が驚いている間にもカチューシャの体はぐいぐい伸び続け__

ついには天井に届くほどの高さになっていた。

 

小梅 「あわわわわ・・・・」

エリカ「いったい何が__」

 

何が起こったか理解できずパニクる小梅とエリカ。

そんな小梅とエリカを遥か頭上から見下ろし、満足そうな笑顔を浮かべるカチューシャ。

 

カチュ「あははっ!エリカたちが小人に見えるわ!」

 

三メートルほどにまで伸びたカチューシャ。

ワンピースもそのサイズに合わせてか、しっかり足元にまで裾が届いている。

 

エリカ「何なのよ、コレ?」

カチュ「あら、知らないの?ダメねエリカは。そんなんじゃ情報化社会に置いてきぼりを食らうわよ?」

エリカ「根拠のない批判は受け付けない主義よ。・・・・で、何の真似なの、それ」

カチュ「これはね、現代社会において一番恐怖されている近代妖怪なのよ!その名も__」

ノンナ「十尺様です」

 

カチューシャの腹部あたり、ワンピースの中から声がする。

 

カチュ「ちょっと、ノンナ!カチューシャがこれから説明するところだったのよ!」

ノンナ「それは失礼しました」

小梅 「十尺様って、何ですか?」

カチュ「十尺様は突如現れ、狙った子供を憑き殺すために付きまとう恐怖の存在よ!」

ノンナ「白い帽子とワンピース、十尺もある長身、そして笑い声ともとれる奇声が特徴だそうです」

まほ 「十尺と言うと、三メートルほどだな」

カチュ「まさに!このカチューシャが演じるのに相応しい妖怪だと思わない?」

エリカ「絶対背丈で選んだでしょ」

カチュ「そそ、そんなことないわよ!厳正に、厳密に、吟味して選んだ結果なんだから!」

エリカ(背だわ)

小梅 (背でしょうね)

まほ (背だろうな)

 

三人の心は一つになった。

 

小梅 「それにしてもすごい高いですね。どうやってるんですか?」

カチュ「ふふっ、興味ある?知りたいでしょう?仕方ないわね、教えてあげるわ!」

 

得意満面になったカチューシャがうんしょうんしょとワンピースをたくし上げていく。

中からノンナの足が見え始め、腰、肩まで見え始め__

 

小梅 「ああ、なるほど・・・・」

 

カチューシャはノンナの肩に肩車ではなく、両の肩に足を乗せて立っていた。

そして、正面からは見えないように触手が巻き付けてあり、倒れたり落ちたりしないようにうまく保護されている。

 

エリカ「ここにも関わってるのね、あいつ」

小梅 「便利ですねー」

まほ 「いいアイデアだカチューシャ。妖怪としての驚きと、クオリティからくるインパクトは十分にある」

カチュ「ふふふ、当然よね!任せておきなさい、カチューシャがお化け屋敷に来た客全員を恐怖のどん底に叩き落してやるんだから!」

小梅 「ノンナさんも、頑張ってくださいね」

 

よく考えてみれば、催し物の最中カチューシャはノンナに乗りっぱなし。

心配した小梅が気遣う。

 

ノンナ「ご心配なく。カチューシャが全身を私にお任せくださっているのです。例え一週間あろうとも根を上げるなどありえません」

カチュ「よく言ったわノンナ!貴女こそプラウダの誇りよ!」

ノンナ「もったいないお言葉です」

エリカ「・・・・まあ、がんばりなさいな」

 

十尺様エリアを後にし、エリカたちは先に進む。

その頃、お化け屋敷の外では。

 

愛里寿「各隊、状況を報告せよ」

ルミ 「こちらA丁目。予想通り、他店の出し物は小さな屋台や射的、ヨーヨー釣りなど小規模の物です」

アズミ「こちらB丁目。こちらも同様です。どの店舗も告知は最小限に留まっているので、周囲の認知度はれもんの比ではないかと」

メグミ「気になる情報を入手しました。どうやら、隣町も一部の店舗が参加を認められているそうです。そちらへのリサーチは完了していませんでした、申し訳ありません」

愛里寿「そうか。イレギュラーの存在は気になるが、重要なのは由比ガ浜周辺の客の出入りだ。そちらが盤石ならば心配は不要、任務を続行しろ」

バミュ「了解!」

愛里寿「・・・・だそうです」

 

通信を終えた愛里寿が栄子に報告する。

 

栄子 「そ、そう。かなりいい感じなんだな。ありがとう」

栄子 (まるで軍隊だな)

 

そんなことを考えている栄子の様子に愛里寿が気づく。

 

愛里寿「どうかしましたか?」

栄子 「ん?ああいや、あの人たちと話すときは愛里寿ちゃん、雰囲気かなり違うなって思ってさ」

愛里寿「えっ」

栄子 「何て言えばいいか、毅然?凛々しいって言うのかな。ずっと大人っぽく喋るからさ」

愛里寿「そ、それは・・・・」

 

言われてちょっと赤くなる愛里寿。

 

栄子 (ありゃ、悪いこと聞いちゃったかな)

愛里寿「私が、飛び級で大学に入ったのはご存知ですよね」

栄子 「うん、姉貴に聞いた」

愛里寿「飛び級で入った大学だから、同級生と言ってもみんな年上で。さらに戦車道チームの、しかも大学選抜チームなんていう大きな集まりをまとめることになって。それで、年下だからって見られたり、侮られたりしないように毅然としなきゃ、と思って」

栄子 「ああ、それでか。確かに、年下だからって舐められちゃったら隊長なんてできないもんな」

愛里寿「実力と威厳を見せればみんな認めてくれたから、その時の態度を改めるわけにもいかなくて・・・・」

栄子 「そうだろうなあ。強くて凛々しい隊長さん、でイメージ固まっちゃったもんな」

愛里寿「バミューダの三人はそういう部分も察して接してくれたんですけど、やっぱりそう簡単に変えられなくて」

栄子 「だろうなあ。素直になるのってのは難しいモンだよ。でもあの三人なら、どんな愛里寿ちゃんだって受け入れると思うけどね」

愛里寿「そう・・・・かな」

栄子 「付き合いが長くなるほど、お互いの関係を崩しにくくなるもんだよ。踏み出すなら今のうちだと思うよ?」

愛里寿「それって、栄子さんとイカ娘のこと?」

栄子 「!」

 

ちょっと栄子は赤くなった。

再びお化け屋敷の中。

エリカたちは次のエリアへやって来た。

 

エリカ「・・・・やたら寒いわね」

小梅 「中が涼しいのにも驚きましたけど、ここはそれを通り越してますね・・・・」

エリカ「さっきから常軌を逸しすぎよ、この中」

 

と、次のエリアにやって来た。

壁の書き割りは一面の雪景色。

あたりにはこんもりと雪が積まれている。

・・・・しかし、誰もいない。

 

エリカ「何?また上からのパターン?」

 

上を見るが、誰もいない。

 

エリカ「?」

 

と__

 

バッサーッ!

 

積まれていた雪が突然飛び散った。

 

クラ 〈いらっしゃいませ〉

エリカ「!?」

ニーナ「あばばば、よよ、よくきましちゃー・・・・」

アリー「こ、こここ、ここ、ははは・・・・」

小梅 「今度は下!?」

 

雪の中から白い着物を羽織ったクラーラと、雪ん子の格好をしたニーナとアリーナが飛び出してきた。

風景と服装から、何役なのかはすぐにわかった。

 

クラーラ「私は雪女です」

エリカ「見ればわかるわ」

ニーナ「わた、わたじらは、ゆゆ、ゆゆゆき・・・・」

アリー「しば、しばれれれれ・・・・」

エリカ「何言ってるかわからないわよ」

 

しばらくして落ち着きを取り戻す。

 

エリカ「で?何なのよ」

クラ 「私は雪女です」

エリカ「さっき聞いたわよ」

ニーナ「私らは、おつきの雪ん子ですだ・・・・」

アリー「無理やりこのカッコさしられて、強制参加だべ」

小梅 「クラーラさんが今のところ、一番王道ですね」

まほ 「そうだな。・・・・しかし、見事にはまり役だな」

 

銀色の髪、色白の肌のクラーラには、白い着物がこれでもかというほどよく似合う。

誰がどう見ても立派な雪女だ。

 

アリー「うちらもそう思いますだ」

小梅 「それにしても、ここはすごい寒いですね」

 

小梅が寒そうに身を縮こませる。

クラーラは壁の上を指さす。

 

クラ 「千鶴さんがお知り合いから借りてきた、超強力クーラーだそうです」

 

壁に設置されたそれからは、雪まじりの冷風が絶えず吹き続けている。

 

ニーナ「あれは借りてきたちゅうか・・・・」

アリー「強奪、んだなあ」

 

エリカたちの脳裏にその光景が浮かぶ。

 

エリカ「じゃあ、これ本当に雪なのね・・・・。どうりで寒いわけよ」

小梅 「だけど、クラーラさんよくその恰好で我慢できますね」

クラ 「いえ、私でもこの格好は寒いですよ」

まほ 「やはりそうだろうな。無理はするな」

クラ 「靴下が欲しいです」

エリカ「その程度!?」

 

そして次のエリアへ。

 

エリカ「はまり役だったわね。あそこまで再現されたら認めざるを得ないわ」

まほ 「ロシア人の彼女が日本の妖怪をあそこまで理解してくれているとはな」

エリカ「完成度の高さに、次が楽しみになってきました」

まほ 「それは何よりだ」

小梅 「あれ?あれは__」

 

そこには、小さなカフェテーブルを囲んだ二人が座っていた。

そこにいるのは・・・・イギリス風ドレスを着こんだダージリンとオレンジペコだった。

二人は場違いなほど優雅に紅茶を飲んでいる。

 

ダー 「こんな格言をご存知?『ごめんなさい、わざとではないのです』」

ペコ 「かつてのフランス王妃、マリー・アントワネット最後の言葉ですね」

エリカ「何やってんのアンタら」

 

しかしダージリンは何も答えず紅茶を飲んだ。

無視されたと思ったエリカはムカっと来て__

 

エリカ「ダージリン!」

 

強く叫ぶと、ダージリンが頭をゆらっと揺らした。

次の瞬間__

 

ゴトッ!

 

ダージリンの首が落ちた。

 

小梅 「きゃああああああああああ!?」

エリカ「んなっ・・・・!?」

 

地面に落ちたダージリンの首は、涼しい顔をしている。

エリカは叫びだしそうなところを必死にこらえる。

 

ダー 「いかがだったかしら?」

ペコ 「上々だったのではないでしょうか」

エリカ「ねえ・・・・それどうやってるの?」

 

恐怖より純粋な興味が勝ったエリカが訪ねる。

 

ダー 「企業秘密ですわ」

ペコ 「我々は学生ですけどね」

 

歩みを進めるエリカたち。

 

エリカ「いきなりガチなものぶつけないでほしいわね」

小梅 「これまでの中で一番驚きました・・・・」

まほ 「みんなのやる気をひしひしと感じたな」

小梅 「れもんの広さから考えて、次が最後かもしれませんね」

エリカ「ということは__あの子たちね。・・・・あまり期待できないわね」

 

次に待っている人物の予想が立っているエリカは、気楽に構えているようだった。

 

小梅 「エリカさん、リラックスしてますね」

エリカ「そりゃそうでしょ。お気楽連中のあの子たちが脅かしたり怖がらせるなんて芸当できるわけないでしょ」

小梅 「ふふっ、ある意味驚かされてばかりですけどね」

エリカ「それとこれは別よ」

 

そしてたどり着いたエリアは__

 

エリカ「なに、ここ・・・・」

小梅 「わあ・・・・」

 

そこには一面、大量のボコのぬいぐるみが敷き詰められていた。

何とか順路を進むための足の踏み場がある程度。

 

小梅 「最後はかわいいですね!」

エリカ「むしろ寒気すらするわ」

 

その中を、ボコを踏まないように慎重に進んでいく。

その中ほどまでの進んだところで__

 

みほ 「ばあーっ!」

 

目の前のボコの山からみほが飛び出てきた。

ボコの着ぐるみを身にまとい、満面の笑顔だ。

 

麻子 「ばあー」

華  「ばあー♪」

沙織 「ば、ばあーっ」

優花里「ばあーーっ!」

 

途端、周囲からあんこうチームのメンバーが飛び出てくる。

みんな一様にボコの着ぐるみを身にまとっているが、楽しそうだったり照れながらだったりと多種多様。

四方を囲まれているが__

 

エリカ「はあ・・・・」

 

エリカはため息をつく。

 

みほ 「ばあーーっ・・・・、って、あれ?」

エリカ「アンタ、何やってるの」

みほ 「えっと、お、お化け役を__」

エリカ「どこがよ!ただのボコじゃない!」

優花里「あ、あの、これはただのボコじゃないんです!」

 

みほを問い詰めるエリカに優花里が割って入る。

 

優花里「ほら、ここです!」

 

くるりと回ってお尻を見せる。

みほも続いてお尻を見せる。

 

エリカ「・・・・なに?」

優花里「しっぽのところを見てください!」

 

言われてよく見てみると__

 

エリカ「・・・・?」

 

しっぽが、二つある。

 

エリカ「・・・・尻尾が二つあるわね」

華  「そうです!」

沙織 「しっぽが二つあるから、だからこれは!」

麻子 「ボコまた、だ」

小梅 「ボコまた、ですか」

みほ 「うん!一部の場所でしか会えない、特別なボコだよ!」

華  「一定の年齢まで勝てなかったボコが、ボコまたになるそうです」

 

ボコに囲まれ、あんこうチームのみんなが一緒のボコの着ぐるみを着てくれている状況に、幸せそうなみほ。

 

エリカ「__で、どこが怖いのよ」

みほ 「え?」

まほ 「ここはお化け屋敷だ。出てくるお化け役は驚かすか怖がらせるものだ。__で、みほは」

 

まほに言われてはっとするみほ。

 

みほ 「あっ・・・・怖く、ないね」

 

はあ、とため息をつくエリカ。

申し訳なさそうに縮こまるみほ。

 

エリカ「まあ・・・・ここに来るまでかなり良くできてたし。一つくらい拍子抜けがあってもアクセントにはなるかもしれないわね」

沙織 「ほらやっぱりー。誰も怖がってくれないってこれじゃ」

麻子 「西住さんらしくていいとは思うけどな」

小梅 「お化けさんたちは、みほさんたちでおしまいですか?」

みほ 「うん、そうだよ。それで、どうだったかな?」

エリカ「ドイツビールと同じね」

華  「と、言いますと?」

エリカ「ぬるい!」

 

出口へ向かって歩くエリカたち。

 

エリカ「最後はどうしようもなかったけど、トータルではレベルが高かったです」

小梅 「最後のみほさんたちは癒しでしたね。散々怖い思いをした人たちにはうれしかったのではないでしょうか」

エリカ「そういうもんかしら」

まほ 「そういえばエリカ」

 

後ろを歩くまほが口を開く。

 

エリカ「はい」

まほ 「お化けつながりで思い出したんだが、この間の騒ぎを覚えているか?」

エリカ「この間の?__ああ、あの私のニセモノのことですか」

 

先日あった、姿を消したエリカのドッペルゲンガー(※)のことを思い出す。

 

※黒森峰編第2話・潜入しなイカ?より

 

まほ 「あの後全く姿を見せないが、どこへ行ったのだろうな」

エリカ「まったくです。もし次姿を見せたら主砲で吹き飛ばしてやるのに」

まほ 「ははは、頼もしいな」

 

などと話していると、光の漏れるカーテンが見えてきた。

 

小梅 「どうやら出口のようですね」

エリカ「やっと終わりね。ずいぶん長く歩いた気がするわ」

 

と、やや足早気味にカーテンを開いた。

忘れていた夏日の直射に、目がくらむ。

眩しくて目を開けられないでいると__

 

???「おや、見終わったのかエリカ。どうだった?」

エリカ(え?)

 

正面から聞きなじんだ声が聞こえてきて、エリカの思考が止まる。

 

エリカ(今の声・・・・え?でも、え?どうして?どうしてあの人の声が出口の先から聞こえるの?だって、あの人は、ずっとさっきから__)

 

__目が慣れてきたエリカの目の前には、まほが立っていた。

棒立ちになるエリカ。

 

エリカ「た、隊長・・・・!?いつから、そこに・・・・!?」

まほ 「いつから、とはどういう意味だ?私はエリカがお化け屋敷に試しに入ったと聞いて、出口で待っていたんだが」

 

エリカの全身から血の気が引く。

 

エリカ「えっ・・・・じゃあ、さっきまで、一緒にいた、隊長は・・・・!?」

 

後ろを振り向くと__

そこには、お化け屋敷から出てくるまほがいた。

そして、固まるエリカとまほを一瞥すると__

 

まほ?「うふふ、うふふふふふふふふふ、あはははははははは・・・・」

 

不気味なほどに口を広く開け、目を大きく開き、せせら笑い始めた。

 

エリカ「っ__!きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

エリカの絶叫が響き渡る。

慌ててのけぞり、尻もちをついてしまう。

そんなエリカを見たまほ?が笑いながらゆっくりとエリカに歩み寄ってくる。

 

エリカ「く、来るな!来ないでっ!」

 

腰が抜けてしまったのか、尻もちをつきながら逃げようとする。

 

まほ 「エリカ、落ち着け」

 

そんなエリカに声をかけるまほ。

そこではっと気が付く。

 

エリカ「ダダダダダメです隊長!ドッペルゲンガーです!隊長は見ちゃいけません!見ちゃダメーッ!」

 

慌ててまほに訴えるが、まほは苦笑するだけだった。

 

まほ 「少し度が過ぎたようですね」

 

まほがまほ?に声をかける。

 

エリカ「・・・・へ?」

 

理解に追いつけず、間の抜けた声を出す。

まほ?はおもむろに頭を掴むと__

 

バサッ!

 

被っていたカツラを取る。

その下からは、青みがかったロングヘアーが姿を現す。

そして目は見えているのかというほどに薄く閉じた。

それは・・・・エリカも知っている人物だった。

 

千鶴 「大成功ー♪」

 

まほに変装していた千鶴が、満足そうな声を上げる。

 

エリカ「ち、づる・・・・さん!?」

千鶴 「ええ。これがここのお化け屋敷のメイン。案内役がドッペルゲンガーだった、っていうオチ。どうだったかしら?」

 

ぽかんとするエリカ。

 

エリカ「しゅ__」

まほ 「しゅ?」

エリカ「趣味が悪いッ!!!!!」

 

しばらくして。

 

まほ 「すまなかった、エリカ」

千鶴 「本当に、ごめんなさいね」

 

砂浜に体育座りでいじけているエリカ。

 

まほ 「千鶴さんに前にドッペルゲンガーが出た、という話をしたら、お化け屋敷で使ってみよう、という話になってな」

千鶴 「背格好も声質も似てたから。これでエリカちゃんも区別がつかなかったら、完璧だと思ってたのよ」

エリカ「__です」

まほ 「ん?」

エリカ「滅茶苦茶怖かったです!間違いなくうけるんじゃないでしょうか!」

 

涙目ながらも、エリカは真面目に感想を伝えた。

かくして、大会は始まった。

 

客A 「ひゃあああああ!」

客B 「うわあああああ!」

 

お化け屋敷れもんの中からしょっちゅうお客の叫び声が聞こえてくる。

事前に行った広範囲の通知と、怖かったという口コミが功を奏し、お化け屋敷は大盛況。

特に、やはり最後のまほのドッペルゲンガーが一番怖かったようだ。

 

チョビ「道中は立派なお化け屋敷、最後のあんこうチームで拍子抜けさせておいて、最後の西住と千鶴さんで恐怖に叩き落す。このメリハリが恐怖を倍増させるわけだな」

カル 「お化け屋敷、大成功ですね」

チョビ「ああ。これでれもんの優勝は間違いなしだ」

ペパ 「本日限定血の色パスタっすよー!トマトソース二倍っすよー!」

 

れもんの前に設置したペパロニの屋台も好評で、こちらも行列ができている。

 

ケイ 「ヘイ、ペパローニ!食材の補給に来たわよ!」

ペパ 「おう、待ってたっすよ!」

 

ケイたちが屋台料理の材料を持ってくる。

 

栄子 「やあケイさん、お疲れ様!」

ケイ 「ハーイ栄子。調子はどう?」

栄子 「お陰様で大盛況だよ。みんなに感謝しないとね」

ケイ 「ノープロブレム。いつも美味しい食事をさせてもらってるんだから、これくらいはね」

 

と、お化け屋敷から出てきたお客さんの話声が聞こえる。

 

客C 「あ~、怖かった!まさかこれほどなんて!」

客D 「ほんと!あ、でも__」

栄子 (ん?)

客D 「隣町の海の家がやってたお化け屋敷も怖かったね~」

客C 「うん、そうだね!あそこも同じくらい怖かった!」

栄子 (何っ!?)

 

そう言いながら二人組は去っていった。

 

栄子 「隣町の、海の家がやってるお化け屋敷・・・・」

カル 「こちらと同じですね」

チョビ「うちの優勝は間違いないかもしれないが、気になるな」

ケイ 「じゃあ、ちょっと偵察に行かない?私も興味あるし」

チョビ「そうだな。じゃあ__」

たける「ボクもついて行っていい?」

 

たけるが名乗りを上げた。

かくしてアンチョビ、ケイ、栄子、たけるの四人は隣町にやって来た。

 

ケイ 「栄子、そのお化け屋敷がどこでやってるかわかるの?」

栄子 「ああ。隣町で海の家でお化け屋敷やるようなとこは__ここしかない」

ケイ 「ここは・・・・」

 

一行は海の家南風にやって来た。

 

栄子 「予想通りだ」

 

南風もれもんと同じくお化け屋敷に改造されており、看板は『恐怖の南風』となっている。

れもんほどではないが、こちらも中々賑わっている、

 

南風 「よう!よく来たな!」

栄子 「おっさん!」

 

店頭では南風の店長が受付を行っていた。

 

チョビ「やっぱりアンタのとこだったのか。まさかそっちもお化け屋敷だったなんてな」

南風 「そっちの評判は聞いている。大盛況だそうじゃないか」

栄子 「ああ。おっさんには悪いが、優勝はいただくからな!」

南風 「ハハハ!うちだって負けるつもりはないぞ!せっかく来たんだから入っていけ!」

 

かくして四人は恐怖の南風の中へ。

 

ケイ 「これって__」

たける「池?」

 

なんと、中は店のスペースまるまる全部使って大きな池を再現していた。

どこからか聞こえてくる風の音、遠巻きに聞こえるカラスの鳴き声、そして本物と見間違えるほどの完成度の池が異空間を作り上げている。

 

チョビ「すごい完成度だな・・・・。多彩なれもんに対し、こっちは一点勝負か」

 

立て看板を見る。

 

ケイ 「なになに~?『時計回りに一周すること。向こう岸に置いてあるおにぎりを持って帰れたらそちらの勝利』だって」

チョビ「お化け屋敷で勝利ってなんなんだ」

栄子 「まあいいさ。とっとと済ませちゃおう」

 

かくして歩き始める一行。

 

ケイ 「すごい不気味ね・・・・。この池、どうやって作ったのかしら」

栄子 「おっさん、変なところですごい技術持ってるからなあ」

 

恐怖を誤魔化すように話しながら歩き、向こう側へたどり着く。

 

偽イカ「オニギリドウゾデゲソ」

 

待ち構えていたニセイカ娘がおにぎりを差し出す。

受け取る四人。

 

たける「これを持って帰ればいいの?」

チョビ「何だ、どれほどのものかと思ったが、こんなもんか」

ケイ 「じゃあ、さっと帰っちゃいましょ」

 

残りの道を歩き始める一行。

しかし__

 

栄子 「なあ・・・・何か感じないか?」

チョビ「ああ・・・・。栄子もわかるか?この感覚・・・・」

ケイ 「誰かに、見られてない?」

 

あたりをきょろきょろするが、誰もいない。

池にももちろん人の影はない。

 

たける「誰もいないよ?」

チョビ「それはわかる。だけど・・・・何なんだ、この心臓を握られているような悪寒は」

 

姿が見えないモノの存在を感じ取り、鳥肌が立ち始める。

 

ケイ 「は、早く帰りましょ!」

栄子 「ああ!」

 

早足になり始める。

 

たける「もうすぐ出口だよ!」

栄子 「早く出るぞ!」

 

出口を目前にし、外に出ようと池を背にした瞬間。

 

???「置いてけーーーーーーーーーーーーーー

 

池の中から、地の底から響くような声が響いてきた。

池から伸びた真っ黒い手に全身鷲掴みにされたような悪寒が走る。

言う通りにしなければ握りつぶされそうな、有無を言わせないほどの重圧を感じさせる。

 

栄子 「!」

ケイ 「!」

チョビ「!」

たける「!」

チョビ「で・・・・」

一行 「出たーーーーーーっ!」

 

四人はおにぎりを放り出して一目散に逃げていった。

そして、誰もいなくなった店内。

 

アキ 「行っちゃった?」

ミッコ「みたいだね」

 

チャプン

 

池の中から、継続メンバーの三人が姿を現す。

三人とも水着だ。

 

アキ 「今の組の中に、たけるくんがいたね」

ミッコ「いたね。やっぱこの辺の子だったのか」

 

ミカはのんびり水の上に浮いている。

 

アキ 「そんな怖いかなあ、これ」

ミカ 「恐怖の定義には『わからない』という部分もあるんだよ。現象に理解が追い付けなかった時、人はそれを恐怖に置き換えるのさ」

ミッコ「ふーん」

アキ 「訳が分からないモノより、はっきりしてることの方がよっぽど怖いよ。あー、明日のお昼代どうしよ。ここのバイト代、燃料費で吹っ飛んじゃうよ?」

 

ポロロン♪

 

ミカが淵に隠してあったカンテレを弾く。

 

アキ 「ちょっとミカ、こういう時くらいカンテレ弾かないでよ」

 

ミカは意に介さず、涼しい顔でカンテレを弾き続けるのだった。




二週にわたる長編になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

各校の個性を取り入れれば、お化け役の配分は割と考えやすかったです。

ちなみに今回、サンダースとグロリアーナは裏方担当だったのですが、こんな面白いことをダージリンが遠目で見ているだけはありえないと思ったので、飛び入り参加させました(笑)

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