ウサギさんチーム→ウサギ
大洗女子学園生徒A、B、C・・・・→大洗A、B、C・・・・
鮎美 「あの・・・・、宜しくお願いします・・・・」
栄子 「うん、よろしく。ちょっと久しぶりじゃないかな?」
鮎美 「えっ、・・・・あの、そう、ですね。・・・・」
栄子 (まだ慣れてくれないか・・・・)
今日は、鮎美がシフトに入る日。
相変わらず人に慣れておらず、栄子とも目を合わせられない。
栄子 「これさえなければ人気者間違いなしなんだけど、どうにかならないもんかねえ」
みほ 「こんにちわ!」
桂利奈「おじゃましまーっす!」
と、そこへ海水浴に来ていたあんこうチームとウサギさんチームがやって来た。
イカ娘「おお、お主たち、よく来たでゲソ!こっちが空いてるでゲソよー」
席につく一同。
メニューを眺め、各々が食べたいものを決めていた。
優花里「__では、皆さんの注文はこれで決定ですね。あのー、すいませーん」
オーダーを取ってもらおうと優花里が声を上げるが、栄子も鮎美もイカ娘も料理を運んだりしているため、手が離せない。
みほ 「今日はにぎやかだね、栄子さんたち忙しそう」
あゆみ「どうしましょ?待ちます?」
沙織 「ううん、私が伝えてくる!」
さっと席を立った沙織が、厨房にいる千鶴に直接注文を伝えに行った。
優花里「あっ、ありがとうございます!」
華 「本当に、沙織さんは気配り上手ですね」
麻子 「そうだな。上手すぎてこちらがゆっくりできないほどに、な」
あや 「でもほんと、武部先輩ってすごいよねー。女子力っていうか・・・・気配り力?」
沙希 「・・・・?」
あや 「ほら、なんていうか、人のしてほしいことを察してるというか、すぐ分かってくれるっていうか・・・・」
梓 「ああ、分かる!ついそれに頼っちゃうっていう、ね」
優希 「お母さんみたいな~?」
桂利奈「あっ!それに近いかも!」
梓 「・・・・それ、武部先輩には黙ってようね」
桂利奈「どうして!?誉め言葉なのに!」
みほ 「あはは・・・・」
すると、手の空いた栄子がテーブルに近づいてきた。
栄子 「やー、いらっしゃい。ごめんね、立て込んでて」
華 「いえ、お気になさらないでください」
栄子 「えーっと、オーダーはもう決まった?」
麻子 「今、沙織が直接千鶴さんに伝えに行った」
栄子 「ありゃ、そりゃ悪いことしちゃったな」
すると、近くを鮎美が通り過ぎた。
栄子 「あっ、鮎美ちゃん!ちょっとこっち来て!」
鮎美 「えっ・・・・?」
栄子に呼ばれ、席に近づく鮎美。
栄子 「この子は、常田鮎美ちゃん。時々内を手伝ってくれてるんだ。鮎美ちゃん、前に話したでしょ、この子たちが前に話した大洗の戦車道チームの子たち。あんこうチームと、ウサギさんチームのメンバーだよ」
みほ 「はじめまして!」
梓 「よろしくお願いします!」
あゆみ「あれ、同じ名前なんだ!よろしく!」
鮎美 「・・・・!」
口々に挨拶され、狼狽える鮎美。
みほ 「あれ・・・・どうかしましたか?」
栄子 「ああ、ごめんね。鮎美ちゃん、人見知りが激しくて。特に初対面の人とは話しにくいみたいでさ」
みほ 「そうだったんですか・・・・。わかります。周りに知らない人が多いと、緊張して何を話したらいいか、どうすればいいかわからなくなっちゃますからね」
華 「転校してきたばかりのみほさんを思い出しますね」
みほ 「うん・・・・そうだね。あの時は、本当に華さんと沙織さんに助けられちゃった」
華 「ふふ、もっと助けられたのは私たちですよ」
みほ 「でも、あの時の沙織さんの一言が無かったら、きっと私はここにいなかったと思う」
麻子 「そう考えると、すべてのきかっけを作ったのは、沙織というわけだな」
優花里「やはり武部殿はみんなにとってなくてはならない存在ですね!」
みほ 「うん。・・・・よろしくね、鮎美ちゃん。きっと私たちも、仲良くできるよ」
鮎美 「は・・・・はい・・・・」
しかし、やはり鮎美はもじもじするばかりだった。
イカ娘「おや?鮎美よ、大洗の西住さんとお話できないのでゲソか?」
仕事がひと段落したイカ娘も席へやって来た。
麻子 「鮎美さんは人見知りらしいからな。すぐには無理だろう」
イカ娘「おかしいでゲソねー。大洗の西住さんだったら、鮎美は問題なく話せると思ったのでゲソが」
みほ 「え?それって、どういう__」
沙織 「みんな、お待たせ~!」
そこへ、料理の乗ったトレイを抱えた沙織と千鶴がやって来た。
桂利奈「やったー!千鶴さんの料理だー!」
あや 「いやー、ここに来るのはこれが一番の楽しみだよねー!」
沙希 「・・・・(コクコク)」
千鶴 「ふふ、熱いうちにどうぞ」
沙織 「みんな配るよー。どんどん受け取ってね」
みほ 「うん、ありがとう沙織さん」
料理を配り終えた頃、ふと横を見た沙織は鮎美がこちらを見ているのに気が付いた。
沙織 「あれ?初めましての子?」
みほ 「うん、時々来てくれる子なんだって。常田鮎美さん」
沙織 「へえ~、そうなんだ。初めまして!私は__」
鮎美 「武部沙織さんですよね!?」
突然鮎美が沙織に目をキラキラさせながら話しかけてきた。
千鶴 「えっ!?」
栄子 「はっ!?」
みほ 「ふえっ!?」
イカ娘「ふむ?」
沙織 「えっ、うん、そうだけど・・・・」
鮎美 「初めまして、常田鮎美と言います!あの、沙織さんのことはこの間の戦車道大会の頃に知って、ぜひお会いしたいと思っていたんです!」
沙織 「あ、そ、そうなの?あはは、ありがとう」
鮎美 「それで、あの大会に私も勇気づけられて、私も大洗の皆さんのように踏み出す勇気が持てたらなと思っていたんです!それでいつかお会いしたいと思ってて、特に沙織さんには是非お会いしたかったんです!まさかこんなに早く叶うなんて思っていませんでした!」
突如饒舌になりペラペラしゃべりだす鮎美を茫然と見つめる一同。
しかし、驚きはれもん側のほうが大きかった。
栄子 (鮎美ちゃんが・・・・!)
千鶴 (臆することなく自分から語り掛けている!?)
イカ娘「ということは・・・・沙織は人間ではなかったのでゲソか!?」
沙織 「え!?なに!?いきなり何の話!?」
かくかくしかじか、鮎美の特殊な人見知り、『人外』であれば気軽に話すことができるという特徴を聞かされた沙織。
沙織 「ナニソレ!?」
当然のことながら沙織は驚愕して叫んでいた。
沙織 「え!?どういうこと!?私人間扱いされてないの!?どうして!?どこがなの!?」
栄子 「それは私もすごく知りたい。鮎美ちゃん、どういうこと?」
鮎美 「えっと、あの・・・・それは・・・・」
イカ娘「それは?」
鮎美 「沙織さんは、超能力者だからです!」
沙織 「ぇ」
鮎美の一言に?マークの浮かぶ一同。
華 「どうして、沙織さんが超能力者だと思うのですか?」
鮎美 「沙織さんは、人を見るだけでその人がどうしてほしいか、何が欲しいか一瞬で判断しています。それは、人の心が読めるからに違いありません!」
沙織 「そんな力私にはないよ!?いたって普通の女の子だからね!?」
みほ 「そう言われれば・・・・」
ふと、みほは思い出す。
~~回想~~
転校してすぐの頃、誰かに話しかける勇気もなく、ただ俯いて過ごしていた日々。
友達が欲しいと、願いながらも声をかけられず、諦めかけていたみほに__
沙織 『へい彼女!いっしょにお昼、どお?』
沙織が声をかけて来てくれたのだ。
~~回想終了~~
みほ 「・・・・もしかして、あれは・・・・」
沙織 「違うから!ウケない覚悟で言ったジョークだからねあれ!?」
麻子 「私にも思う節がある」
沙織 「麻子も!?」
~~回想~~
初めての練習の後、お風呂で麻子に操縦主を頼んだ時。
麻子 『悪いが無理』
沙織 『麻子!遅刻ばかりで単位足りてないじゃん!戦車道取れば、いろいろ特典があるんだよ!このままじゃ留年なんでしょ!?』
麻子 『むむ・・・・分かった、やろう、戦車道』
もう一つ、朝練の時間が朝六時だと聞かされた時。
麻子 『人には出来ることと出来ないことがある。短い間だったが世話になった』
沙織 『麻子がいなくなったらだれが運転するのよ!?それにいいの単位!』
麻子 『ぐっ・・・・』
沙織 『このままじゃ進級できないよ!?私たちのこと、先輩って呼ぶようになっちゃうから!私のこと沙織先輩って言ってみ!?』
麻子 『さ、お、り、せん・・・・!』
沙織 『はあ・・・・。それにさ、ちゃんと卒業できないとお祖母ちゃんメチャクチャ怒るよ?』
麻子 『おば__!・・・・わかった、やる』
~~回想終了~~
麻子 「あそこまで私の弱いところを言い当てたのは、心が読めるからだろう」
沙織 「いや、あれは麻子の性格を知ってるからこそで・・・・」
梓 「あっ!そういえば!」
沙織 「まだあるの!?」
~~回想~~
戦車道大会決勝の時、河を渡る際にM3リーがエンストしてしまった時。
梓 『私たちは大丈夫です!隊長たちは早く行ってください!』
あや 『後から追いかけます!』
河に車体を流されそうになるM3リー。
優花里『危ない!』
沙織 『このままじゃ横転しちゃう!』
麻子 『モタモタしてると黒森峰が来るぞ』
華 『でも、ウサギさんチームが流されたりしたら・・・・』
決断を攻められるみほ。
思い出す去年の黒森峰の敗因。
助けに行きたい。
でも、もし勝手な行動をしてまた負けたら、廃校が決定してしまう。
ならば見捨てるのが正解なのか?
それがみんなのためになのだろうか?
そんな葛藤をしているみほに、沙織は語り掛けた。
沙織 『行ってあげなよ。こっちは私たちが見るから』
みほ 『沙織さん・・・・』
~~回想終了~~
梓 「あれは、きっと、もしかしたら・・・・!」
沙織 「いやいやいや、そんなんじゃないし!みぽりんのことを考えたら、自然に出てくる言葉だから!」
必死に否定するも、余計に怪しく見えてしまう。
イカ娘「ならば、試してみるでゲソ」
イカ娘は何かを取り、握った両手の握りこぶしを差し出した。
イカ娘「どちらかにエビが握られているでゲソ。心が読めるのなら、どっちに入ってるかわかるでゲソよね」
沙織 「テスト始まっちゃってる!?」
渋々拳を見つめる。
沙織 (もし当てたりでもしたら、それこそ心が読めるってことにされちゃう!でも適当に答えても外れる可能性は半分!リスクを抑えるには・・・・これしかない!)
意を決して、沙織は答えた。
沙織 「ふっふっふ、イカちゃん、私は騙されないよ。ずばり・・・・どっちにもエビは握られてない!」
ズバっと言い切った。
沙織 (これならどっちの手にエビがあっても外れたことになる!私ったら冴えてる!)
しかし、イカ娘の顔は青ざめている。
沙織 「あれ・・・・イカちゃん、どうしたの?」
ゆっくり両手が開かれる。
そこには・・・・
沙希 「・・・・!」
桂利奈「えっ、うそ!」
優希 「すっご~い♪」
あゆみ「当てちゃった!」
沙織 「ウソおおおお!?」
一番驚いたのは沙織だった。
鮎美 「やっぱり、沙織さんには心を読む力があったのですね!」
優花里「驚きであります!」
華 「あらあら」
沙織 「いや、違うから!出まかせ言っただけだから!」
麻子 「普通握られてないとわからないとあんな答えは出ない。答えられるのは分かっている奴だけだ」
みほ 「あわわわわ・・・・」
結果に大騒ぎする一同。
栄子 「おいイカ娘!何事態を更に捻じれさせてるんだよ!」
イカ娘「助け船のつもりだったのでゲソ!これならどっちの手を答えてもハズレになるはずだったのでゲソー!」
これはもう決定的と盛り上がるウサギさんイーム。
ウサギ「さーおーり!さーおーり!エ・ス・パ・-・さ・お・り!」
沙織 「やーめーてー!」
そうこうあって数日後、大洗女子校舎にて。
沙織 (うう・・・・こないだは大変な目にあっちゃった)
疲れた顔で沙織はとぼとぼと廊下を歩いていた。
沙織 (あのあとも散々みんなに絡まれて、カンペキにエスパー扱いされちゃった・・・・。偶然だって言ってるのに・・・・)
ふと、沙織の耳にひそひそ話す声が聞こえてきた。
大洗A「あっ、あの人!武部沙織さんじゃない!?」
大洗B「ホントだ!あの心を読めるっていう!」
大洗C「何でも今回の大会の優勝は、あの人のチカラあってのものだったらしいよ?」
大洗D「マジで!?それじゃあ、西住さん以上の廃校回避の立役者じゃん!」
沙織 (もうウワサが広まってる・・・・!しかもなんか大事になってるっぽいし!?)
ふと、廊下の先を見る。
二人の女生徒がこちらに駆けて来る。
沙織 「あの子は・・・・やばっ!」
咄嗟に近くの階段を開け降りる沙織。
大河 「あれっ!?いない!ここを歩いていたって聞いたのに!」
周囲をキョロキョリ見渡す大河。
大河 「むむむ、さすがエスパーとして名高い武部詩織さん!放送部のエースたる私の追跡から逃れるなんてお茶の子さいさいという訳ですか!これは・・・・興味深いです!」
そう言ってそのまま去っていく大河。
それを踊り場の陰で聞いていた沙織。
沙織 (冗談じゃないよ・・・・。どんどん既成事実が出来始めちゃってるじゃん!)
焦りを感じ始める沙織。
沙織 (私一人じゃウワサを止めきれない。こうなったら・・・・気が引けるけど、『あの人』に頼るしかない!)
そう決意した沙織は、出来る限り人目を避けながらある部屋を目指した。
杏 「な~るほどね~」
椅子に座った杏が手に持った干し芋を振る。
柚子 「つまり、広がり始めたウワサを、生徒会を通じて学校の皆に誤解だって伝えてほしい、ということね?」
沙織 「はい!このままじゃ、普通に学校生活も過ごせません!」
桃 「それは困るな。戦車道大会優勝チームの一員が登校拒否とあっては、わが校の面子にかかわる」
沙織 「重要なのはそこ!?」
桃 「半分冗談だ。わが校の生徒の悩みを真に受け止めない生徒会などある訳ないだろう」
沙織 「今半分って言いましたよね?」
柚子 「それに・・・・みんなにも頼まれましたしね」
沙織 「みんな?」
柚子 「実は、あんこうチームや、ウサギさんチームのみんなにも相談を受けていたの。『自分たちがからかったせいで沙織さんに迷惑が掛かってるから、どうにかできないか』って」
沙織 「そうだったんだ・・・・」
桃 「我々としても事態を放置して利などない。早急に事態を打開すべきを案を練ってはいたのだ」
沙織 「それで、いい案は思いついたんですか!?」
柚子 「そのためには、私たちには会わなきゃいけない人がいるの」
沙織 「会なきゃいけない人?」
杏はもぐっと干し芋をくわえる。
杏 「沙織ちゃんがエスパーだって言い出した、常田鮎美ちゃんだよ~」
その日の放課後。
杏 「おじゃましま~す」
イカ娘「おや、杏じゃなイカ。よく来たでゲソ」
柚子 「お邪魔しますね」
桃 「じゃまするぞ」
生徒会の三人は海の家れもんへ赴いた。
店には栄子、イカ娘の他、今日も鮎美がバイトをしている。
杏 (おっ、いたいた)
三人は気づかない体を装う。
栄子 「角谷さん、今日はどうしたの?大洗女子生徒会の人たちだけで来るなんて珍しいじゃん」
杏 「うん、今日はちょっと会ってみたい子がいてね~」
イカ娘「会ってみたい子?」
杏 「うん。・・・・あっ、いたいた。おーい!」
ことさら明かるげに、杏は鮎美の元に歩み寄る。
鮎美 「えっ・・・・?」
突然声をかけられて戸惑う鮎美。
杏 「や~や~初めまして、私角谷杏。武部ちゃんから話は聞いてるよ~」
鮎美 「沙織さん、から・・・・?」
杏 「そうそう。それでさ、一度ぜひお話したいな~って思ってさ」
鮎美 「そ、そん__」
杏 「そんなことないんじゃないかな~?」
鮎美 「えっ・・・・!?」
鮎美の発言を遮るように杏が言葉を被らせる。
杏 「武部ちゃんに聞いたところじゃ、常田ちゃんははきはきペラペラと喋ってくれる、積極的で明るい女の子だって聞いたよ~?」
鮎美 「そ、それ__」
杏 「だったら、私にもちゃんと話してくれると思うんだけどね~?」
鮎美 「それは、どういう・・・・」
そこまで言いかけて、鮎美はハッと顔を上げる。
鮎美 「もしかして、あなたも・・・・!?」
杏はにっこりと笑顔を浮かべ、ただ頷いた。
しばらくして。
鮎美 「びっくりです!まさか、沙織さんのところの会長さんもだったなんて!」
杏 「まあね~。そうでなきゃ、生徒会長なんてやってけないじゃん?」
杏と鮎美は親しげにテーブルを囲み、会話が弾んでいる。
栄子 「何だありゃ」
イカ娘「いつの間にか杏が鮎美とすごく親しげになってるでゲソ」
千鶴 「さっき会話が聞こえたけど、鮎美ちゃんの言葉を全て杏ちゃんが先読みして返事を返していたように見えたわ」
栄子 「へえ・・・・それって、それじゃあ」
桃 「ああいった話術は会長の十八番だからな」
柚子 「そうですね。鮎美ちゃんの性格を知っていれば、どんな言葉をかわせば鮎美ちゃんがどう捉えてくれるか、手に取るようにわかるでしょうね」
イカ娘「それじゃ、鮎美が思い込むのも仕方ないでゲソ」
桃 「思い出すな。西住たちに戦車道を選ばせたのも、会長の話術と駆け引きテクニックがあってこそだったからな」
柚子 「いま思い返すと、あれは強引だったわよね~・・・・」
なおも会話が続く二人。
杏 「へえ、鮎美ちゃんは犬飼ってるんだ」
鮎美 「すごい!それもわかっちゃうんですね!風太郎っていうんです」
杏 「ちっちゃい豆柴か~。可愛いね」
鮎美 「はい!それに、とってもおとなしくていい子なんですよ」
杏 「そっか~。じゃ、今度連れて来てくんない?」
鮎美 「はい!楽しみにしててくださいね」
そしてバイトもあるということで、会話を切り上げた二人。
杏 「そんじゃ、私らは帰りますね~」
と、帰ることにした杏たち。
帰り際に、杏と千鶴が小さく指でオッケーサインを交わしていたのをイカ娘が見ていた。
学園艦への帰路の途中。
杏 「まずは、第一段階完了かな~」
桃 「必要な手配はしておきました」
杏 「うん、ありがとね~」
柚子 「千鶴さんのくれた情報、とても有意義に活用できましたね」
桃 「すっかり会長がエスパーだと信じていました」
杏 「そうだね~」
う~ん、と杏子は背伸びをした。
杏 「さて、ちゃっちゃと武部ちゃんを自由にしちゃおっか」
次の日。
海の家れもんにはたくさんの人物が集まっていた。
あんこうチーム、ウサギさんチームの面々、鮎美を加えたいつものれもん一同。
そして__
大河 「どうもどうも!こうして会長自ら取材の場を設けてくれまして、ありがとうございます!」
杏 「いやいや。生徒の自主的な活動を支えるのも生徒会の役割だもんね~」
その場には大河も居合わせている。
沙織はテーブル席につき、大河たちはその対面に座り意気揚々な様子。
沙織 「あ、あの、会長?」
杏 「うん?」
沙織 「『解決のめどが立ったから来て』って呼ばれたから来たんですけど、この状況は!?」
杏 「ああ、いつまでもに逃げ回っててもらちがあかないじゃない?だからさ」
みほ 「だから・・・・?」
杏 「ここいらでしっかり取材受けて、疑問をパーッ!と晴らしてもらおうとさ!」
沙織 「罠だったーっ!」
カメラ係の女生徒がハンディカムの録画ボタンを押す。
大河 「では早速なのですが!現在武部沙織さんに向けられている疑問についてお話を聞かせていただきます!」
沙織 「ええー・・・・」
杏 「がんばってねー、武部ちゃん」
そういって沙織の腰をポンポンと叩き、その場を去っていく杏。
あからさまに嫌そうな顔をする沙織。
みほ 「・・・・会長」
杏 「おろ?どしたの西住ちゃん。・・・・珍しく怖い顔しちゃって」
周囲に聞こえないように声を抑え、杏に声をかけるみほ。
みほ 「どういうつもりですか!?沙織さん、これで窮屈な生活から解放される!って喜んでたんですよ!?」
杏 「うん」
みほ 「それなのに、騙した上にこんな状況まで作り上げるなんて・・・・!」
いつになく怒った表情のみほに、杏は悪戯っぽい視線を向ける。
杏 「いや~西住ちゃんをここまで怒らせるなんて・・・・武部ちゃんもスミに置けないねえ」
みほ 「ふざけている場合じゃ・・・・!」
みほがそこまで言いかけたその時。
???「クーン」
???「ワンワン!」
突如、入口の方から何かの鳴き声が二つ聞こえてきた。
その鳴き声につられ入口の方を向く一同。
そこには、アレックスと風太郎の二匹のリードを持った早苗が立っていた。
鮎美 「あっ、早苗さんおかえりなさい。風太郎、いい子にしていましたか?」
早苗 「うん、アレックスとも仲良くしてたよねー。ね、アレックス?」
アレ 「ワン!」
風太郎を抱き上げる鮎美。
続いてアレックスを撫でようとすると__
アレ 「ワンッ!」
アレックスが鼻をヒクヒクさせたと思うと、沙織目掛けて走り出した。
早苗 「あっ、アレックス!?」
突然の出来事にリードを手放してしまい、アレックスは店内へ踊りこんだ。
そして__
アレ 「ウワウッ!」
沙織 「うひゃあああ?!」
大河 「な、何ですか!?い、犬!?」
アレックスは沙織に飛びついた。
突然の乱入者に沙織と大河はパニックになる。
イカ娘「何をしてるのでゲソアレックス!離れなイカ!」
イカ娘が沙織に飛びついたアレックスを引きはがそうとするが、なぜかがっちり沙織に抱き着いていて離れない。
襲われているようには見えないが、店内はちょっとした騒ぎになっている。
あや 「武部先輩が犬に襲われた!?」
梓 「ど、どうしよう、助けないと!」
あゆみ「でも結構大きいよ!?怖いんだけど!」
桂利奈「そうだ、骨!骨をあげようよ!それで気をそらそう!」
優希 「でも、ここにはそんな骨、ないよ~?」
桂利奈「万策つきたー!」
梓 「諦めるの早っ!」
紗季 「・・・・」
ふと、沙希が沙織の元に歩み寄る。
あゆみ「あっ、紗季!危ないよっ!」
だが、紗季は一切物おじせず、沙織に張り付いたアレックスの頭を撫でる。
なでり
なでり
沙織 「うひゃあああ・・・・ぁ、あれ?おとなしくなった?」
次第にアレックスは落ち着きを取り戻し、沙織から離れはしなかったが暴れるような素振りは見せなくなった。
大河 「お、落ち着いた・・・・?」
華 「紗季さん、すごいです!」
麻子 「だが沙織から離れないな」
優花里「何かあるのでしょうか?」
と、鮎美がそこへ歩み寄る。
鮎美 「アレックスさん、突然どうなさったんですか?」
優しく語り掛ける。
すると__
アレ 「ワンッ!」
返事を返す。
鮎美 「なるほど・・・・沙織さんから、いい匂いがしてガマン出来なくなってしまった?そうですか。でも、飛びついたりなんてしたら沙織さんがびっくりしてしまいますよ?」
アレ 「クゥン・・・・」
大河 「おお・・・・!?」
鮎美に諭され、反省したような様子のアレックス。
そんな二人(?)の様子を興味深げに観察している大河。
鮎美 「ほら、沙織さんにごめんなさいしてから、早苗さんの所に戻りましょう」
アレ 「クウウン」
促され、沙織に頭を下げるアレックス。
あや 「犬が頭を下げたー!?」
あゆみ「ナニアレ、初めて見たんですけど!?」
桂利奈「わたしもわたしも!」
鮎美 「『申し訳ねえです、凄くいいニオイだったんで自分を抑えきれやせんでした、堪忍してつかあさい』、だそうですよ」
梓 「通訳したー!?」
優希 「すっごーい、ワウリンガルいらず~♪」
鮎美 「沙織さん、アレックスさんもこうして謝っていますし。許してあげてください」
沙織 「え、あ、うん?」
まるで言葉が通じているかのような鮎美とアレックスの会話に、呆気にとられる一同。
アレックスはぴょんと沙織から飛び降り、早苗の元へ戻っていった。
みほ 「沙織さん、大丈夫?」
沙織の元へ駆け寄るあんこうチーム。
沙織 「はーっ、びっくりしたーっ」
まだショックから覚めないのか、茫然とした表情のままの沙織。
先にアレックスをなだめていた紗季と目が合う鮎美。
鮎美 「・・・・」
紗季 「・・・・」
しばらく見つめあっていたが__
鮎美 「そうなんですか。アレックスさんの暴走は、理由があったことだと思っていたんですね」
紗季 「・・・・(コクコク)」
鮎美 「え?いえいえ、私は何も特別なことは」
紗季 「・・・・」
鮎美 「ふふ、そうなんですか。大事にならなくて、よかったですね」
紗季と鮎美が普通に会話をし始めた。
桂利奈「紗季ちゃんと普通に会話してる!」
あゆみ「すごい、私たち以外で紗季と会話続けられる人初めて見た!」
梓 「犬と話せるし、沙希とも話せるし、あの人タダ者じゃないよ!」
大河 「・・・・!」
やがて、我を取り戻した大河が鮎美を見つめる。
アレックスに抱きつかれ、へろへろになってしまった沙織と、アレックスと会話を成立させ言うことを聞かせた鮎美を交互に見据える。
更に一言も察していない沙希とも会話を成立させる鮎美。
大河はマイクを握り__
大河 「大洗女子学園放送部所属、王大河です!お話よろしいでしょうかっ!」
鮎美 「えっ?!」
鮎美に対しての取材を敢行し始めた。
矢継ぎ早に質問攻めにする大河と、おろおろする鮎美。
そんな二人の元から、沙織たちはそっとその場を離れた。
麻子 「王さんの興味が完璧に常田さんに移ったな」
華 「これで、沙織さんの誤解は晴れるのでしょうか?」
優花里「大丈夫だと思いますよ」
みほ 「優花里さん?」
優花里「噂が同時期に二つ立った時、話題が大きければ大きいほど小さいほうは忘れ去られやすいんです。ましてや似たような種類の話題です、武部殿の噂への関心が薄れるのに時間はかからないでしょう」
麻子 「政治家とかのスキャンダルを同時期に起きた大事件とかで関心を塗り替えるやり方だな」
華 「例え方にリアリティを感じますね」
杏 「うまくいったっぽいね~」
沙織 「会長」
みほ 「うまくいったって・・・・あれはあのワンちゃんが乱入したからじゃないですか。そんな偶然を待っていたっていうんですか?」
杏 「そんなワケないじゃん。いくら何でも偶然なんて起こせないし」
柚子 「そうですよ。会長が起こせるのは、『必然』だけですものね」
杏 「そゆこと」
おもむろに杏は沙織のスカートのポケットに手を突っ込む。
沙織 「うひゃう!?」
驚きとくすぐったさの混じった声を上げた沙織のポケットからは、一つの小さな袋が出てきた。
みほ 「会長・・・・それは?」
中を開くと、そこには砕かれた白い何かが入っていた。
杏 「これはね~、牛肉の香りがふんだんについた骨を砕いたものだよ~」
麻子がハッとする。
麻子 「そうか。それを沙織のポケットに仕込めば__」
杏 「ご名答~。アレックスちゃんはたまらず武部ちゃんに飛びついちゃう、というワケ」
華 「でも、そんな袋をいつ沙織さんに渡したのですか?」
優花里「私が思いますに__」
~~回想~~
大河 『では早速なのですが!現在武部沙織さんに向けられている疑問についてお話を聞かせていただきます!』
沙織 『ええー・・・・』
杏 『がんばってねー、武部ちゃん』
そういって沙織の腰をポンポンと叩き、その場を去っていく杏。
~~回想終了~~
優花里「この時ではないかと」
杏 「ご名答~」
桃 「あらかじめ計画を話したのでは、自然な反応ができずバレる可能性がある。だから会長は何も言わず仕込みを入れたのだ」
沙織 「じゃあ、早苗ちゃんがアレックスを連れてくるのも、アレックスが私に抱き着いてくるのも、紗季ちゃんと鮎美ちゃんがそれをなだめに来てくれるのも、それを見た王さんが鮎美ちゃんに興味をそらすのも、全部会長の計画と計算だったってこと!?」
杏 「そうなるね~」
こともなげに笑顔を浮かべる杏に、開いた口が閉じないあんこうチームだった。
数日後。
あんこうチームは再び海の家れもんを訪れた。
みほ 「あれ以来、沙織さんの変な噂は聞かなくなりました」
栄子 「そっか。あれからどうなったか気になってたから、よかったよ」
麻子 「今回は完全に会長の世話になってしまったな。見返りに何を要求されるのやら」
華 「会長さんたちだって、そこまで恩を着せたがったりはしませんよ」
麻子 「どうだかな」
優花里「それにしても大反響でしたよ。放送部の緊急スクープ、『倉鎌のエスパー少女!人の心、果ては犬とまで心を通じさせる少女の力に迫る!』」
麻子 「どこのゴシップ記事かと思ったが、意外にもみんな飛びついてたな」
華 「みんな、そういった娯楽に飢えてるんですね」
みほ 「でも、本当によかった。沙織さんの変な噂がたっちゃったこと、私の責任でもあったから」
沙織 「ううん、気にしないでみぽりん。こうして元通りになったんだもん」
麻子 「いや、元通りじゃないぞ。まだ常田さんが沙織を誤解したままだ」
沙織 「うん。それについても、会長に対策を教えてもらってたんだ」
優花里「おお、さすが会長殿!」
麻子 「あの人今回冴えすぎだろう」
みほ 「それで、どうすればいいって?」
沙織 「えーっとね__」
そして。
沙織と鮎美は、テーブルをはさんで向かい合って座っていた。
鮎美 「あの、それで沙織さん、お話って?」
沙織 「うん、鮎美ちゃんとは一度しっかりお話しておきたいと思って。それで__」
和気あいあいと沙織と鮎美は話し始めた。
しかし話していくうちに沙織のボルテージは上がっていく。
沙織 「それでね、やっぱり男の子って自分からリードしたいと思う心が強いと思うの!だから相手がどれだけリードしきりたがっているかを見極めて立ててあげると喜ぶと思うよ!あ、別に女の子が自己主張しちゃ駄目っていう訳じゃないよ?自分がしっかりしている女の子が好きって男の子もいるし、逆にグイグイ引っ張ってくれる女の子が好みっていう男の子もいるんだよねー。何が言いたいかって言うとやっぱり相手の好みにいち早く気付けるかで、例えば趣味は?って言われたら戦車道です!って答えた時の男の子の反応を__」
優花里「あれから十分以上、恋愛論について話し続けてますね・・・・」
麻子 「『いつも通り、自分の好きなことについて語りまくればいい』と言われたそうだ」
華 「そんなことで、本当に解決するのでしょうか?」
鮎美 「あ、あの・・・・」
沙織 「え?」
鮎美 「・・・・」
いつの間にか、鮎美は沙織と目線を合わせれられなくなっていた。
以後、鮎美の沙織に対する反応は、みほたちと同じになっていったのである。
欲しい時に背中を押してくれる嬉しい一言をくれる女の子、それが武部沙織!
今話ではおちゃらけた表現に使いましたが、本当に沙織のあの一言が無ければ物語はきっと始まっていなかったでしょうね。
鮎美の人外なら平気設定は、線引きがなかなか難しい所ですね。
千鶴は化け物、早苗は妖怪でしたが、はたしてエスパー(超能力者)は人外なのか?
今作に至っては、人を凌駕した才能=人外という捉え方をしていた、とご解釈していただければと。
ちなみにあそこまで戦車道で並外れているみほを人外として見なかったのは、それ以上に人らしい部分(ちょっとドジな部分や、悩みや葛藤の多い人らしい姿)が多く垣間見られたからです。
そしておかげさまで、4話目に突入し始めました!
ここから更に新たな展開を迎え始める今後にご期待ください!