あんこうチーム→あん
ダイオウイカ魔人→大魔人
第1話・通じ合わなイカ?
とある日の相沢家にて。
千鶴 「イカ娘ちゃん。お手紙届いてるわよ」
千鶴がイカ娘を呼ぶ。
イカ娘「おおっ!来てたでゲソか!」
千鶴 「はい」
イカ娘「うむ!」
千鶴から封筒を受け取り、うきうき顔で二階に駆けていく。
そんなイカ娘を横目に見る栄子。
栄子 「もう来たのか。随分早いな」
千鶴 「そうね。向こうも楽しみにしてくれているのかしら」
栄子 「それにしても、すぐ投げ出すあいつがよくまあ続くもんだな」
千鶴 「ふふふ、そうね」
それは、イカ娘が戦車道を始めるより前。
大洗女子学園が廃校を撤回させるため大学選抜チームと激闘を繰り広げる、あの試合から一か月も前の話。
~~一か月前~~
イカ娘「ヒマでゲソねー。テレビを見るでゲソ」
何の気無しに付けたテレビには、丁度これから番組が始まるところだった。
イカ娘「む?何でゲソこれは?」
ボコ 『♪や~ってやるや~ってやる__』
テレビでは、ボコが主人公の『ボコられグマのボコ』が始まったところだった。
イカ娘「何でゲソこやつは?クマ・・・・でゲソか。何だかボロボロでゲソね」
ボコ 『おいこらお前!今オイラの足踏んづけただろ!』
ボコが二人組のネコに声をかける。
ネコA『何だあ?そんなことしてねえよ』
ボコ 『ウソつけ!オイラをナメると痛い目見るぞ!』
ネコB『生意気な!やっちまうぞ!』
ボコ 『おう、かかってこい!ボッコボコにしてやんぜ!』
イカ娘「おお、二人相手にも果敢に立ち向かうとは!このクマ、ただ者ではないでゲソね!」
十秒後。
ネコB『この、この!口だけじゃねえか!』
ボコ 『うわあ、くそう、やめろぉー!』
既にボコは二匹の猫に足蹴にされまくっている。
イカ娘「弱すぎじゃなイカ!?」
そしてボコをボコりきったネコたちが去っていく。
ボコ 『うう・・・・また負けた・・・・』
イカ娘「見てて痛々しいでゲソ・・・・。勝てない相手にいちいち突っかかって、威勢だけはいいでゲソ。・・・・って」
イカ娘(まるで私みたいじゃなイカ!?)
ボコが失敗ばかりの自分に重なり、落ち込むイカ娘。
イカ娘「『解決!宇宙人君』といい、人類はどうしてこんな番組ばかり作りたがるのでゲソ!もっと侵略者が勝つ番組も作るべきじゃなイカ!・・・・とりあえず、不快だからチャンネル変えるでゲソ!」
別の番組を見ようとリモコンを手に取り、チェンネルを変えようとすると__
地べたに突っ伏していたボコがよろよろと立ち上がり始めた。
ボコ 『でも・・・・オイラめげないからな!いつか絶対、勝つまではあきらめないぞー!』
イカ娘「!」
負けても不屈の精神で立ち上がるボコを見て、イカ娘の動きが止まる。
その後も、イカ娘はチャンネルを変えずにボコの番組を見続けた。
数日後。
イカ娘「じゃーん!」
清美 「あっ、イカちゃん、ストラップ付けたんだ?」
侵略部メンバーに会ったイカ娘は、ケータイに付けたボコのストラップを見せびらかしていた。
知美 「それ、『ボコられグマのボコ』ですよね?」
イカ娘「うむ!この間千鶴にお願いしたら、買ってくれたのでゲソ!」
綾乃 「へえー。イカ先輩、ボコが好きだったんですか?]
イカ娘「この間テレビで見かけてから気に入ったのでゲソ」
由佳 「そうなんだ。結構マニアックらしいですよ、このキャラ」
清美 「たしか、いろいろな相手にケンカを仕掛けて、いつもボコボコにされる、んだっけ?」
知美 「そんな感じですね」
イカ娘「みんなも観るといいでゲソ。ボコのあの不屈の精神は、侵略にも大切なことを教えてくれるでゲソ!」
清美 「うーん……観たいのは山々だけど、最近部活が忙しくて、テレビを観る暇ができないの」
綾乃 「私はドラマしか観てなくて」
知美 「前にちょっとだけ観たことあるんだけど、私にはちょっと合わなかったですね~」
由佳 「ワタシは、ダンゼン負けるより勝つ番組が好きなんで!」
イカ娘「うーむ、そうでゲソか」
清美 「ごめんねイカちゃん、時間ができたら観るようにするから……」
イカ娘「いやいや、そこまでしてくれなくてもいいでゲソ!」
その後しばらく話したあと、イカ娘は帰路につく。
イカ娘(うーむ、清美たちにはボコの良さが伝わらなかったでゲソね。でもきっとボコのよさが分かってくれるのがどこかにいるはずでゲソ!)
そしてイカ娘は周囲にボコを触れ回った。
吾郎、シンディー、渚、早苗(は追いかけてきて逃げたので話せてない)、白椙さん、たける__。
だが誰もボコの良さは共感してくれなかった。
イカ娘「どうしてみんな分かってくれないのでゲソかね・・・・。ボコよ。お主の良さは、私だけは分かってるでゲソからね・・・・?」
誰も理解してもらえないストラップのボコを撫でながら、イカ娘は部屋に帰って来た。
落ち込んだ気分のままベッドに横たわり、置いてあった雑誌を適当に開く。
ペラペラとページを送るうち、とあるページで手が止まった。
トトトトトトト(階段を駆け降りる音)
イカ娘「千鶴ー!」
さっきまで落ち込んだ様子だったイカ娘が、勢いよくリビングに飛び込んでくる。
千鶴 「あら、どうしたのイカ娘ちゃん?」
イカ娘「ハガキをくれなイカ!?」
千鶴 「ハガキを?」
イカ娘「うむ!手紙を出すのでゲソ!」
千鶴 「お手紙を?誰に?」
イカ娘「この子にでゲソ!」
千鶴 「?・・・・あら、懐かしいわね」
イカ娘が持っていた雑誌を指さす。
指さしたページは、今となっては珍しい、文通相手を募集するコーナーだった。
そして、イカ娘の指の先にはこんな一文があった。
『ボコが大好きです。ボコについて一緒にお話ができる人、お手紙下さい。ペンネーム・ボコリス』
イカ娘「きっとこの子なら私と話が合うでゲソ!ボコについてたくさん話がしたいでゲソ!」
千鶴 「そうね・・・・」
返事をする前に、千鶴はさっと超スピードで文通コーナーのルールを読んだ。
そして、完全に把握したうえで__
千鶴 「いいわよ」
イカ娘「やったー!」
千鶴はオーケーを出した。
テーブルに便箋を広げ、並んで座る二人。
千鶴 「文通なら、ハガキより便箋のほうがいいわよ」
イカ娘「ふむ。・・・・それで、どう書けばいいのでゲソか?」
千鶴 「イカ娘ちゃんが伝えたいことを書けばいいのよ。どれだけボコが好きか、どれだけ向こうと文通したいかをね。大丈夫、分からない所があったらちゃんと教えるわ」
イカ娘「頼りにしてるでゲソ!」
そして千鶴と二人で悪戦苦闘しながら・・・・イカ娘は手紙を書き終えた。
手紙にはちょっと下手ながら大きくこう書いてあった。
『一緒にボコについて語り合いたいでゲソ!』
千鶴 「いいと思うわ。分かりやすくて、気持ちが伝わると思う」
イカ娘「では、これを出せばいいのでゲソね!」
そして投函された。
数日後。
イカ娘「そろそろ返事が来ることでゲソねー」
栄子 「イカ娘と文通したいなんて子、いるのかー?」
イカ娘「いるでゲソ!きっと向こうも、ボコについて語り合いたいと思ってるでゲソ!」
千鶴 「お手紙は文通を管理している編集部が一旦仲介して、そこから再配布されるそうだから、普通の郵便より時間はかかるかもしれないわね」
たける「ただいまー」
と、たけるが帰って来た。
栄子 「おう、おかえりー」
たける「そういえば、お手紙来てたよ」
たけるが封筒を掲げている。
イカ娘「!」
シュッ!
たける「うわわっ!?」
一瞬でイカ娘が封筒を奪い取り、宛名を見る。
宛名の欄には、『エビカマボコ様へ』と可愛らしい字で書かれていた。
イカ娘「間違いない!私宛てでゲソ!」
栄子 「エビカマボコって何だよ」
イカ娘「ペンネームでゲソ。ペンネームは好きな名前を名乗っていいそうでゲソからね」
栄子 「それにしてもすごいセンスだな。相手もよくその名前で書いてくれたよ」
わくわくしながら封筒を開け、中の手紙を読む。
途端、イカ娘の顔がパッと輝く。
要約すると、お手紙ありがとう、ぜひ文通相手になってください、という返事だった。
イカ娘「やったー!」
かくして、イカ娘はボコ繋がりで『ボコリス』と文通友達となったのである。
~~現在に戻る~~
イカ娘「ふんふ~ん♪」
ベッドに腹ばい姿勢になるイカ娘。
鼻歌を歌いながら封筒を開け、ウキウキしながら中の手紙を取り出した。
手紙 『拝啓、エビカマボコさん。残暑が厳しいけど、大丈夫かな?私は元気でやっているよ。エビカマボコさんとの文通も始めてから一か月経ったけど、まだまだボコについて話し足りないくらい。そうそう、ボコと言えば、この間ボコミュージアムに行ってきてね__』
『ボコリス』からの手紙を楽しそうに読むイカ娘。
そんなイカ娘の様子を、ドアの上げからそっと見ている栄子たち。
栄子 「上手く続いてるみたいだな」
千鶴 「ええ。向こうも話が合う友達がいなくてつまらなかったらしいわ」
栄子 「しかし今時文通とはね。ずいぶん古風な子だよな。ていうか、年齢的にどれくらいの子なんだ?」
千鶴 「字体や雰囲気から察するに、たけるよりちょっと年上くらいのようね。たぶん、十二、三歳くらいじゃないかしら」
栄子 「十二歳くらいで文通をしてて、イカ娘と話が合う。__世の中、いるところにはいるもんだな」
千鶴 「そうね。イカ娘ちゃんには、この出会いを大切にして欲しいわ」
様子を見守られていることも知らず、イカ娘は手紙を読み続けていた。
その頃、大洗女子学園の学園艦が停泊している由比ヶ浜港にて。
愛里寿「みほさん!」
みほ 「愛里寿ちゃん!」
港にやって来た愛里寿を、みほたちあんこうチームの面々が出迎える。
みほ 「びっくりしちゃった。まさか由比ヶ浜まで来てくれるなんて」
愛里寿「みほさんから話を聞いて、いてもたってもいられなくなっちゃって。みんなに頼んで、無理やり寄航してもらったの」
優香里「すごい行動力ですね」
沙織 「それを融通させちゃう大学の人たちも、協力的というか甘いというか」
麻子 「そういえば聞いてなかったんだが西住さん、そこまでして島田流次期家元と、どこに行くつもりなんだ?」
華 「確か、この辺りにはボコミュージアムはありませんでしたよね?」
みほ 「うん。今回の目的はね__これだよ!」
みほはとある一枚のチラシをみんなに見せた。
優花里「こっ、これは!?」
時はまたちょっとだけ進み、由比ヶ浜の砂浜にて。
イカ娘「む?」
栄子 「お?」
浜辺を散歩していたイカ娘と栄子には、またしても特設ステージが設置されているのに気がつく。
イカ娘「おお、また何かショーをやるのでゲソか。何だかしょっちゅうやってるような気もするでゲソ」
今回は何をやっているのかと見てみると__
イカ娘「なっ、なんと!?」
そこには、『奇跡のコラボレーション!能面ライダー×ボコられグマのボコ、ダブルヒーローショー!』と書かれていた。
イカ娘「おおっ!ボコのステージをやるのでゲソか!?これは見ずにはいられないじゃなイカ!」
栄子 「あっ、おい!」
うきうきしながらステージに駆け寄るが、
イカ娘「む?」
ステージはまだ始まっていないようで、スタッフらしき人が数人いるだけだった。
栄子 「どうやらまだ始まってないようだな」
イカ娘「なんだ」
と__
???「ああっ、あなたたち!」
突如聞き覚えのある声がした。
栄子 「ん?」
イカ娘「どこかであったようなパターンでゲソ」
振り替えると、案の定__
イカ娘「やっぱり真理さんじゃなイカ」
そこには、司会のお姉さん役で来ていた真理がいた。
栄子 「あれっ、幼稚園の先生?」
真理 「私、こういうショーの司会も兼業してるの。今回もこのショーのために来てたんだけど……助かったわ!あなたたち、助けてくれない!?」
栄子 「え」
真理 「実は、ショーに出る予定だった役者さんが二人、体調不良で来られなくなっちゃったの!」
栄子 「えっ、そりゃマズいんじゃ」
真理 「そうなのよ……。でも今回のショーは落ち目だったボコの人気が回復し始めたばかりの大切な時期だから、トラブルは起こしたくないのよ。だからお願い!」
イカ娘「まさか……」
真理 「そう!二人で穴埋めでショーに出てくれないかしら!?」
栄子 「ええええ!?」
二時間後。
愛里寿「みほさん、こっち!ここ空いてる!」
会場の準備が進み、用意された座席に先乗りした愛里寿たち。
ちらほら他の客もいる中、ステージ正面のいい席を確保する。
華 「あら、真正面ですね」
愛里寿「うん、いい席がとれた」
沙織 「こんな風にステージを見てると、最初に会った時を思い出すね」
優花里「そうですね。あの時も、ボコのショーを見ていたときでした」
麻子 「それから廃校を賭けた戦いの相手となり、そして戦いが終わったあと、こうしてまた一緒にボコショーを観る仲になる。__奇妙な縁だな」
みほ 「そうだね。……でも、みんないい思い出だよ」
華 「ええ。本当に」
沙織 「__あれ?そういえば、あの人たちはどうしたの?」
華 「『あの人たち』?」
沙織 「ほら、愛里寿ちゃんと同じチームの……」
みほ 「ああ、バミューダの皆さん!」
麻子 「言われてみれば、合流した時から居なかったな。どこかで待機しているのか?」
愛里寿「ううん、今日は一緒に来てない」
華 「あら、そうなんですか?」
愛里寿「ルミたちはよく一緒に来てくれるけど、ボコが好きな訳じゃなくて、私に付き合ってくれているだけだから。気を遣われるのも嫌だから、今日は黙って抜け出してきたの」
優花里「ええっ、それじゃ今頃あちらでは大騒ぎなのでは」
愛里寿「大丈夫、『一人で出掛けてくる。大丈夫だから、探さないでね』みたいな感じで書き置きしておいたから」
みほ 「それなら安心だね」
その頃、大学選抜チームの乗っている学園艦では。
アズミ「隊長が家出したー!?」
ルミ 「落ち着いてアズミ、ここは寮だから正確には家出じゃないわ!」
メグミ「でも、隊長が姿を消したのは間違いないでしょ!?それに……これ!」
メグミは握りしめたメモを開く。
それは、『探さないでください』と書かれた愛里寿の書き置きだった。
メグミ「あああどうしよう、最近隊長にベッタリだったから嫌気が差しちゃったのかな!?」
ルミ 「いや、それは今に始まったことじゃないし」
アズミ「じゃあ、私たちのボコ知識の薄さから!?いつもにわか程度にしか話を会わせられないから、愛想を尽かして……!」
ルミ 「あれこれ考えてもしょうがないわ!とにかく、隊長が由比ヶ浜に行きたがっていたのは間違いない。なら、隊長は由比ヶ浜にいるはずよ!」
アズミ「そ、そうね。ルミの言うとおりだわ!」
メグミ「すぐにでも探しに行きましょう!もし隊長を一人で行かせて、何かトラブルに巻き込まれたら__」
ルミ 「家元が黙っちゃいない……!」
途端に顔面蒼白になる三人。
メグミ「エマージェンシーコール!直ちに愛里寿隊長捜索大隊を編成するわ!ゼロゼロサンマル後に、由比ヶ浜港で落ち合いましょう!」
アズミ「了解!」
そしてその由比ヶ浜にて。
ショーの開演時間となり、会場はショーを見に来た子供たちでいっぱいになった。
会場にはたけるもいる。
真理 『みんなー!こんにちわー!』
真理が手慣れた様子で司会進行する。
真理 『今日は能面ライダーに心強いお友達がやって来たよ!』
栄子 「マジでやるのか……」
ステージ裏では、栄子が緊張した様子でスタンバイしている。
イカ娘「今さらじたばたしてもしかたないでゲソ。覚悟を決めるでゲソよ」
栄子 「いやまあ、引き受けたからにはやれるだけはやるぞ?だけどなあ……」
イカ娘「何でゲソ?」
栄子 「何で私がボコ役なんだよ!」
栄子は今、ボコのキグルミを身に付けている。
そして、イカ娘はダイオウイカ魔人のキグルミを着ている。
今回来られなかったのはこの役の二人だったのである。
栄子 「お前ボコ好きだろ!何でお前がやらないんだよ!」
イカ娘「いやー、やりたいのもやまやまだったのでゲソが、真理さんいわく『中の人はこうしないと無理』と言われてしまったのでゲソ。それに、同胞の役を他の者にさせるわけにもイカなかったのでゲソ」
栄子 「どういう理屈だよ……」
イカ娘「それより栄子、台本は覚えたでゲソか?」
栄子 「ああ、粗方はな。大筋が合ってれば、アドリブでいいらしいからな。でも、『絶対に勝っちゃいけない』とは念を押されたな」
イカ娘「当然でゲソ。ボコは今まで一度も勝ったとこがないのでゲソからね」
栄子 「ホント変なキャラだよ……」
と、ぼやいていると……。
真理 「それじゃあみんなで呼んでみよう!せーの、ボーコー!」
ステージ上で、真理が子供たちと一緒にボコを呼び出した。
栄子 「いけね、出番だ!くれぐれも勝手な真似はするんじゃないぞ!」
イカ娘に念を押して、ボコ(栄子)がステージに上がる。
BGM『やーってやるやーってやる……』
ボコのテーマをバックに、ステージに登場するボコ。
みほ 「あっ、愛里寿ちゃん、ボコが来たよ!」
愛里寿「ボコー!頑張れー!」
愛里寿の声援に、そちらの方を見る。
栄子 (うわっ、西住さんたちが観に来てるよ!隣にいる子は……誰だ?……まあいいや、セリフセリフ)
ボコ 『おう!みんなよく来たな!噂じゃこの辺りに悪い怪人が現れると聞いてな!ボッコボコにしてやりに来たのさ!さあ、いつでもかかってきやがれー!』
シャドーボクシングで戦意満々アピールするボコ。
沙織 「おお、今日のボコはいつになく攻め気だね!」
麻子 「完璧なくらいにフラグが立っているな」
華 「もしかしたら、今日は勝てるかもしれませんね」
優花里「うーん、それはどうでしょう。ボコはシリーズか始まってから、『一度も』勝ったことがないんです。むしろ、『勝っちゃいけない』とまで言われているんですよ」
沙織 「なんて不憫な……」
みほ 「それがボコなんだよ、沙織さん!」
沙織 「う、うん」
食いぎみなみほと愛里寿に、引きぎみな沙織。
と、そこに__
???『ゲーッソッソッソッソッ。イーッカッカッカッカッカッ』
沙織 「な、何!?この統一性のない笑い声!?」
会場に笑い声が響き渡る。
やがて、声の正体がのっそりと現れる。
真理 『ああっ、大変!ダイオウイカ魔人が現れたわ!』
ダイオウイカ魔人(イカ娘)がステージの中央に陣取る。
大魔人「ゲーッソッソッソッソッ。どうやら子分のイカ魔人を倒したやつがここに来ているらしいでゲソ。さーて、どいつがそうでゲソかねー?」
ステージ上から客席を見渡す。
やがて、客席にみほたちがいることに気がついた。
イカ娘(おや、大洗の西住さんたちじゃなイカ。来ていたのでゲソね。……そうでゲソ!)
ふと、イカ娘に悪戯心が沸いた。
大魔人「見つけたでゲソ!さてはお主でゲソね!」
みほ 「えっ?……ふえっ!?」
初めは自分のこととは思っていなかったみほは、目線に気がつきすっとんきょうな声を上げる。
大魔人「さあ、覚悟するでゲソ!」
しゅるるる
みほ 「えっ!?ちょっ、きゃっ!?」
触手を巻きつけ、みほを捕まえるダイオウイカ魔人。
そのままステージの方へ引き込もうとするが__
愛里寿「みほさんっ!」
隣にいた愛里寿が触手を掴み、みほを助け出そうとする。
しかし__
大魔人「ほほう、邪魔するつもりでゲソか。ならばお主も同罪でゲソ!」
愛里寿「えっ、きゃっ!」
難無く愛里寿も捕まえるダイオウイカ魔人。
二人は触手に持ち上げられ、身動きとれずにいた。
真理 「ああっ、大変!ダイオウイカ魔人が女の子を二人捕まえてしまったわ!どうすればいいの!?」
大魔人『イーッカッカッカッカッカッ、このままこいつらをイカスミ祭りに上げてやるでゲソ!』
麻子 「血祭りじゃないのか。微妙に平和だな」
みほ 「きゃーっ、助けてー!」
愛里寿「助けてーっ!」
沙織 (みぽりん、乗りはいいけどすごい棒読みだよ!)
優花里「おのれダイオウイカ魔人!西住殿を放せー!」
華 「優花里さんも乗りがいいですね」
麻子 「私じゃなくてよかった」
などと思い思いなあんこうチーム。
そこへ。
ボコ 『やいやいやい!おいそこのイカヤロー!』
大魔人『んー?何者でゲソ』
みほたちを捕まえたダイオウイカ魔人に、ボコがからむ。
ボコ 『イカのくせに何様のつもりだ!オイラがボッコボコにしてやるぜ!』
みほ 「ボコ!?」
愛里寿「ボコーッ!頑張れー!」
大魔人『ゲッソッソッ、威勢だけはいいクマでゲソ。先にお主をイカスミ祭りに上げてやろうじゃなイカ!』
ボコ 『行くぞーっ!くーらーえー!』
拳を突き出しながら突撃するボコ。
次の瞬間。
ボスッ!
ボコ 『へぶっ!?』
だがボコの突撃は触手の一撃で阻まれる。
顔に触手がめり込みひっくり返る。
キグルミを着ている栄子自信にはダメージはいかず、すぐ立ち上がる。
ボコ 『へへっ、なかなかやるじゃねえか!次は本気だ!くらえー!はぶっ!?』
次の攻撃も、その次の攻撃も、難無く触手で返される。
だが不屈の精神で何度でも立ち上がり、ダイオウイカ魔人に立ち向かうボコ。
イカ娘(ボコを攻撃するのは心が痛むでゲソが、ショーのためなら仕方ないでゲソ!それに面と向かって栄子をボコっていいかつてないチャンスでゲソ!)
みほ 「……!ボコ……!」
捕まり、吊るされているみほもボコの戦いを固唾を飲んで見守っている。
やがて__
みほ 「ボコ、がんばれ……!」
応援の言葉を口にするみほ。
みほ 「ボコ、がんばれ、ボコ、がんばれ!ボコ、がんばれー!」
愛里寿「頑張れー!ボコ、頑張れー!頑張れー、ボコー!」
やがて愛里寿も応援しはじめ、声が大きくなっていく。
真理 (あらら、言う前に応援し始めちゃったわ)
真理 「さあみんなも、力一杯ボコを応援してあげてー!せーの!」
たける「がんばれー!」
子供達「ボコー!がんばれー!」
華 「やっぱり、この流れなんですね」
沙織 「うーん……やっぱり、やらなきゃダメかな?」
麻子 「最前列の席に座っておいて、我関せずはよろしくないな」
沙織 「やっぱりー?」
優花里「では皆さん、ご一緒に!」
あん 「頑張れ、ボコー!」
観客席から沸き上がるボココールに、ボコが立ち上がる。
ボコ 『うおおおお!きたきたきたー!今までで最高の応援だぜ、ありがとな!これなら勝てる!うおおおお、行くぞーっ!』
今だかつてない力を得たボコが突撃し……
ボコ 『あばばばばばばば!』
今だかつてない触手の突きラッシュにボコボコにされる。
沙織 「ああっ、やっぱりダメだった!」
麻子 「それがボコ、だからな」
華 「でもボコさんがやられてしまったら、みほさんたちはどうなるのでしょう?」
優花里「他のヒーローが助けるんじゃないでしょうか?まだ出てきてないみたいですし」
やがて触手ラッシュにボコは力尽き、膝を着いた。
みほ 「ああっ、ボコー!」
愛里寿「立って、立って、ボコー!」
大魔人『イッカッカッカッカ、口ほどにもないでゲソ。これで、とどめゲソー!』
勝負をつけるため、触手をまとめた強力な一撃を放つダイオウイカ魔人。
そんな中、ボコ(栄子)は__
栄子 (あー、やっと終わるのか。暑いし、重いし、動きにくいし、ロクなバイトじゃなかったな。でもやっと終わりだ。これで後イカ娘にやられれば__やられれば?)
暑さでぼんやりとしている栄子の脳裏に、ふとした思いが沸いた。
栄子 (やられる__負ける?……誰に?イカ娘に?私が?イカ娘に、負ける!?私がイカ娘に負ける!?)
瞬間。
栄子を支配したのは、イカ娘に負けたくない、という負けん気だった。
栄子 (バイトだろうとショーだろうと!イカ娘なんぞに負けて!)
ボコ 『たまるかぁーっ!』
ヒュッ!
直後、ダイオウイカ魔人からの最後の一撃をギリギリでかわしたボコ。
大魔人『な、何!?』
そして、触手が戻る前にがっちりと脇と腕で掴む。
ボコ 『うおおおおおおお!』
グイイッ!
そのまま力任せに触手を引っ張る。
その急な攻撃に、不意を突かれ体ごと引っ張られ体制を崩すダイオウイカ魔人。
大魔人『うわわわっ』
ボコ 『食らええええ!』
モフンッ!
ボコのモフモフしたラリアットが決まり、そのまま仰向けの体制ですっ転ぶダイオウイカ魔人。
大魔人『ぐえっ!』
その倒れた衝撃で、ダイオウイカ魔人(イカ娘)は伸びてしまった。
力が抜けた触手がゆっくりと降り、みほたちを解放する。
みほたちは、呆気に取られた顔をしている。
沙織 「あれ……勝っ、た?」
優花里「勝ち……ましたね」
麻子 「勝ったな」
華 「そのようですね」
ボコ 『勝った……。勝った、勝ったぞおおおーっ!』
腕をあげて勝利宣言するボコ。
しかしそれに反比例するように静まり返った会場。
一拍置いて、冷静さを取り戻す栄子。
愛里寿「ボコ……?」
栄子 (や、やや、やっちゃったー!)
栄子はショーが始まる前、真理に受けた忠告を思い出す。
~~回想~~
真理 『いいですか?ステージはある程度のアドリブは大丈夫ですが、ぜったい最終的に負けてください。勝っちゃダメですよ?今まで一度も勝ったことないキャラなので、もし勝手な行動したらどんな賠償を請求されるかわかりませんからね!』
~~回送終了~~
ステージのど真ん中で青くなる栄子。
どう取り繕えばいいかわからず、その場で固まってしまう。
次第に様子がおかしいことに気がつき、ざわめき始める会場。
栄子 (ああ……終わった)
勝手な行動による賠償→借金まみれ→もちろんゲームを買う余裕もなくなる→人生お先真っ暗
栄子の脳裏には絶望的な展開が駆け巡り、全てを諦めようとしていた。
__その時!
???『見届けさせてもらった!』
突如謎の人物の声が響き渡る。
優花里「えっ?だ、誰でしょうか?」
沙織 「ど、どこ?どこにいるの?」
麻子 「上だ」
華 「まあ」
一同が見上げると、会場の真上、組まれた照明の骨組みに立っている人物がいた。
その人物は能面ライダーのスーツを身に纏い__
真理 『あ、あなたはもしや!?』
般若の面をつけていた。
長い青みがかった髪をたなびかせ、腕組みしながら佇んでいる。
子供A「能面ライダー般若だー!」
子供B「般若ー!」
沙織 「仮面こわっ!?ていうか誰!?」
たける「由比ヶ浜にしか現れない、限定のヒーローだよ!」
優花里「おおっ!ご当地ヒーローというやつですか!」
役者 「で、出番が……」
真理 「ホンット、ここでショーやるとこんなんばっかりね」
ステージ裏で能面ライダー役の役者が出番を失い立ち尽くし、真理は溜め息をつく。
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。
能面ライダー般若→HN
HN 『とうっ!』
ひらりとステージ上に降り立つ般若。
HN 『ボコくん。君の戦い、見せてもらった。見事だったわ』
ボコ 『あ、えっと、いや、オイラは……』
HN 『ボコくん。君は何故勝てたのか、わかるかしら?』
ボコ 『えっ?』
HN 『君は今まで自分のためだけに戦ってきた。だが今回、君はあの少女達を救うために立ち向かった。その燃える正義の心が、ダイオウイカ魔人を打ち砕いたのよ』
ボコ 『正義の、心……』
HN 『この先、また君は負け続けるかもしれない。だが今日の正義の心を忘れずなければ、いつかまた勝利をつかめるはずよ』
愛里寿「ボコ……」
拘束から解放された愛里寿が、ボコのもとに歩み寄る。
そんな愛里寿を優しく抱き締める。
子供A「そっか、今回の勝利はショー限定だったのか」
たける「テレビには怪人なんて出ないもんね」
子供B「レアなものみれてよかったね!」
能面ライダー般若の演説に納得した観客たち。
口々に声援を送り始めていた。
麻子 「何とか丸く収まったようだな」
沙織 「このショー限定だったのかー。なら勝っちゃっても問題ない、のかな?」
華 「会場の皆さんが納得してらっしゃるのなら、いいのではないでしょうか」
優花里「ですねー」
観客 「ボーコ!ボーコ!ボーコ!」
ボコ 『うおおおー!勝ったぞー!』
ボコは大きく拳を振り上げた。
そしてショーは終わり、栄子たちはステージ裏にいた。
真理 「いやー、いったいどうなっちゃうのかヒヤヒヤしたわよ」
イカ娘「全くでゲソ。後先考えないからでゲソ」
栄子 「いやー、悪い悪い。思わず体が動いちゃって」
真理 「事務所の方から返事が来たけど、ショー限定の演出だったってことにするから、今回の行動は不問にするそうよ」
栄子 「やった!」
イカ娘「勝手な行動して、私は倒されて、おとがめ無しなんてズルいじゃなイカ」
栄子 「まあそう言うなって。バイト代も出たんだし、何か奢ってやるよ」
イカ娘「エビがいいでゲソ!」
栄子 「はいはい」
海岸にいるみほたち。
みほ 「はー……ボコに助けてもらえるなんて、夢みたい!」
愛里寿「私も、抱き締めてもらえた……」
二人は幸せの余韻に浸りっぱなしだった。
沙織 「このあとどうしよっか?」
麻子 「お腹すいた」
華 「そうですね。そろそろお昼にしましょうか」
優花里「それならば、海の家れもんに行きましょう!」
麻子 「賛成だ」
沙織 「それじゃ、みぽりんたちが戻ってきたら愛里寿ちゃんも一緒に……って何あれ!?」
沙織が指差した先、海岸の彼方から砂ぼこりが立っている。
よくよく見てみると、それは戦車の団体だった。
優花里「あれは……パーシングとチャーフィーですよ!?しかもあんなにたくさん!」
華 「ということは……大学チームの方々でしょうか?」
ルミ 「隊長発見!繰り返す、隊長発見!!」
やがて、愛里寿のもとへ何十両もの戦車が終結する。
アズミ「隊長~!心配しましたよ~!」
メグミ「黙っていなくなるなんて、ひどいです!」
愛里寿「えっと、ごめんなさい……?でも、ちゃんと書き置きしておいたし……」
みんなで『探さないでください』のメモを見る。
優花里「これは……家出と見られても仕方ないと思いますよ」
愛里寿「簡潔に伝えようと思ったんだけど……分かりにくかったかな」
ルミ 「まあ、家出じゃなかったのなら良かったです」
愛里寿「うん、心配させてごめんね。あとは、お昼御飯食べたら戻るから__」
アズミ「申し訳ありませんが隊長、今すぐ戻ってもらえないでしょうか……」
メグミ「実は、家元が事態を聞き付けてしまいまして」
愛里寿「えっ、お母様が?」
アズミ「それはもう大変取り乱してしまいまして、私たちでは手に負えなくて……」
愛里寿「……分かった。すぐに戻って、お母様に電話する」
ルミ 「助かります」
愛里寿「ごめんねみほさん、お昼も一緒に食べたかったけど」
みほ 「ううん、気にしないで。また次に食べに行こう!」
愛里寿「うん!」
そして愛里寿と戦車の団体は帰っていった。
華 「残念でしたね」
みほ 「うん……でも、愛里寿ちゃんにはまた会えるから」
優花里「そうですね!」
麻子 「じゃあ、今回は私たちだけでれもんに行くとしよう」
沙織 「さあ、行こっか!」
数日後。
イカ娘のもとに、ボコリスからの手紙が届いた。
手紙 『拝啓エビカマボコさん。実は先日、とても嬉しいことがあったの。ボコのショーがあって、観ていたら悪者に捕まっちゃって、でもボコが助けてくれたの!生まれてから一番嬉しかったかもしれない!いつか、エビカマボコさんに会えたら、この間話した新しくできたボコ友達と一緒に、ボコショーを観に行きたい。その時を楽しみにしています。ボコリスより』
やって参りました、ボコマイスター愛里寿。
イカ娘とのこのニアミスな関係は、書いてて楽しいものがありました。
愛里寿は戦車に乗っているときの年不相応な凛々しさと、ボコがらみの時の幼さのギャップがチャームポンイトだと思います。
今回、中盤辺りから文体が変わったと思われたでしょうが、執筆中にパソコンが壊れちゃいまして、途中からスマホで執筆していました。
パソコンが復旧したら後に修正しますので、ご容赦のほどよろしくお願いします。