侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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第3話・お世話にならなイカ?

アキ 「うっ、うう・・・・」

 

涙目になりながら苦悶の表情を浮かべるアキ。

 

ミッコ「も、もうダメだ・・・・」

 

いつもの勝気な表情が失われ、青い顔をして突っ伏すミッコ。

 

???「残り二十分」

 

冷酷な男の声が聞こえる。

 

アキ 「どうしよう、あと二十分しかない・・・・」

ミカ 「考え方次第だよアキ。あと二十分しかない、じゃない。まだ二十分もあるじゃないか」

アキ 「そう言うんだったらミカ、もっとペース上げてよ」

ミカ 「うん、そうしたいのは山々だけれどね。私は車長らしく、一歩引いてみんなの背中を見守りたい」

アキ 「体のいい責任放棄だよ、それ」

 

ふう、と気を取り直して前を向きなおすアキ。

 

ミッコ「正直ナメてたよ・・・・。まさかここまで強敵だったなんて・・・・」

ミカ 「諦めるには早いよミッコ。今までもずっと、どんな道でもミッコは私たちを勝利まで送り届けてくれたじゃないか。今回もきっと乗り越えられる」

ミッコ「そんじゃまずその道のりを照らしてもらえませんかね」

 

頑張って正面を睨むが、どうにも闘志が沸き上がらない。

 

ミッコ「あの時はどうかしてたよ・・・・。冷静に考えたら、勝てるわけなかったのに」

ミカ 「強敵に立ち向かう勇気も、戦車道が教えてくれたんじゃないかな」

???「残り十五分」

 

着実に残り時間が減っていく。

 

アキ 「空腹は判断力を鈍らせるって、本当だったんだね・・・・」

ミカ 「いいや。アキの判断は間違っていなかったと今でも信じているよ」

アキ 「さらりと私のせいにされてるっぽいけど、提案したのミカだからね」

 

ポロン

 

ごまかしのカンテレのキレも悪い。

 

ミッコ「こうしててもしょうがない、とにかく少しでも前へ・・・・うぷっ」

 

ミッコが苦しそうにえづく。

 

アキ 「ミッコ、大丈夫!?もう無理しなくていいよ!」

ミッコ「でも、このままじゃあたしたち・・・・」

ミカ 「一蓮托生さ。私たちはいつも一緒だよ」

ミッコ「ミカ・・・・」

アキ 「うう・・・・だから・・・・だから、大食いチャレンジなんて無謀だったんだよーーー!」

店員 「あと十分です」

 

ここは由比ヶ浜にある丼もの屋。

ミカたちはその席で、自分たちの目の前にある巨大なカツ丼に苦戦していた。

壁には、『十人前ジャンボカツ丼、一時間以内に食べきったら賞金一万円進呈!食べ残したら罰金三千円!』と書いてある。

 

ミカ 「一人でも制覇できれば二人分まかなってお釣りがくると思ったんだけどねえ」

アキ 「考えてみれば、一人でもクリアできると思う時点で無謀だったんだよ」

 

三人のどんぶりには、まだ半分以上中身が残っている。

 

ミッコ「くっそー、あれだけ腹すかして挑戦したのに!」

ミカ 「大食いする時は、完全に空腹だと胃袋が小さくなって沢山食べられないらしいよ」

アキ 「先に言ってよ!」

 

もはや絶体絶命、諦めが入った三人。

 

アキ 「皿洗いで許してくれるかなあ・・・・。それとも警察に・・・・」

ミッコ「普通に考えりゃ、文無しで大食いチャレンジとかナメてるもんなあ」

ミカ 「南風のおじさまの人格がどれほどだったか、今になって思い知るね」

 

ガララ

 

と、店の入り口が開く。

 

店員 「いらっしゃ__あ、あなたは!?」

 

店員が入って来た人物を見ると、血相を変える。

そこには、吾郎の母ちゃんが立っていた。

 

吾郎母「おじゃまするよ」

店員 「ちょ、ちょっとお待ちください!店長に確認いたしますので!」

 

店員が慌てて店の奥に消える。

 

ミッコ「今だ!」

ミカ 「これぞ天啓だね」

アキ 「だめだめ!食い逃げなんてゼッタイダメだからね!」

 

腰を浮かそうとするミカたちをアキが止める。

 

吾郎母「んー?」

 

ミカたちに気が付く吾郎の母ちゃん。

すぐに店員が戻ってくる。

 

店員 「お待たせいたしました、店長に伺ったところ、OKだそうです」

吾郎母「ああそうかい、じゃあお願いするよ」

店員 「はい、ところでお客様、そろそろ挑戦の制限時間が__」

アキ 「は、はい・・・・」

ミッコ「あの、ギブ__」

ミカ 「まだ五分はあるよね」

アキ 「ミカ!?」

ミカ 「白旗が出るまで、まだ終わりじゃない。私たちの戦いはまだ続いてるのさ。そうだろう?」

ミッコ「諦めない姿勢はいいけどさあ、どっちかというと」

アキ 「往生際が悪いだけのような・・・・」

 

しばらくして、吾郎の母ちゃんの元に料理が運ばれてくる。

 

店員 「お待たせいたしました。大食いチャレンジのカツ丼十人前です」

 

五分後。

 

吾郎母「ごちそうさま」

店員 「完食おめでとうございます」

 

吾郎の母ちゃんは完食していた。

 

アキ 「すごい!あっという間に完食しちゃった!」

ミッコ「あんだけ食べれれば大食いチャレンジし放題だろうなあ。うらやましい」

店員 「はい、時間切れですね」

アキ 「あっ」

ミッコ「しまったー!」

 

食べっぷりに目を取られているうちに、ミカたちは時間切れになっていた。

 

店員 「残念ですが、チャレンジ失敗なのでお一人様三千円のお支払いです」

アキ 「あうう・・・・」

 

逃げ場はないと観念するアキ。

もじもじと言いづらそうに店員に近寄っていく。

 

アキ 「あ、あのー、実はですね・・・・」

店員 「はい?」

アキ 「私たち、持ち合わせが__」

吾郎母「ちょっといいかい」

 

吾郎の母ちゃんが割って入る。

 

店員 「あ、すいません。賞金ですよね。今お持ちしますので__」

吾郎母「ああ、そのことなんだけどね。賞金はいいから、この子たちの罰金チャラにしてもらえないかい?」

ミッコ「えっ」

 

思ってもみなかった申し出に目を丸くするミッコ。

 

店員 「えっ?いえ、まあ、それでよろしいのであれば結構ですが」

吾郎母「そりゃよかった。それじゃアンタたちも出ようかい。また来るよー」

 

吾郎の母ちゃんに促され、一緒に店を出ることになった三人。

 

ミカ 「ごちそうさま」

アキ 「えっと、あの、ごちそうさまでしたー」

ミッコ「ごちでーす」

 

期せずして、店から出ることが出来た。

 

アキ 「本当に、ありがとうございました!」

ミッコ「マジで助かりました!」

 

店を出るや否や、頭を下げるアキとミッコ。

 

吾郎母「あっはっは、お礼を言われるほどじゃないさ。タダであんだけカツ丼を食べられたんだから、それだけで満足よー」

 

恩を着せる風もなくあっけらかんに笑う吾郎の母ちゃん。

 

アキ 「本当に、おばさまがいてくれなかったらどうなっていたか・・・・。ほらミカ、ちゃんとお礼言いなよ!」

 

アキに促されるが、ミカはお礼は言わず、表情も崩さない。

 

ミカ 「おばさま、一ついいかな」

吾郎母「なんだい?」

ミカ 「私たちを助けてくれた本当の理由を聞かせてもらえないかな」

アキ 「ちょっ、ミカ!」

ミッコ「いくら何でも失礼だってば!」

ミカ 「普通に考えれば、行きずりの大食いチャレンジに失敗した他人を助ける道理はない。得なんて無いし、むしろ手に入れられるものを手放している。それは、何か別の打算があってのことじゃないかな?」

アキ 「ミカ!いい加減に__」

 

無礼な物言いを連発するミカに怒りかけるアキだったが__

 

吾郎母「あっはっはっはっは!」

 

豪快に笑い飛ばす。

 

吾郎母「いやー、やっぱりそっくりだったわ。うん、そういうところまでそっくり」

ミカ 「どういうことかな?」

吾郎母「まあね、そうかもしれないけど。見て見ぬふりも後味悪いしねえ。それに・・・・」

ミッコ「それに?」

吾郎母「それにあんた。あんたを見てると、昔の友達を思い出してねえ」

ミカ 「昔の友達?」

吾郎母「そっ。私が学生だった頃、あんたみたいにいつもすまして何があっても涼しそうな顔してるコがいたのよ。どんな逆境になっても、大変な目に逢っても何てことはないって顔をしてさ。当時の私にゃ、そりゃ強いコだって思いもしたさ」

 

遠い目をして空を見上げる。

 

吾郎母「でも、大人になってからわかったのさ。あのコは強かったんじゃなくて、他人の頼り方を知らなかったんじゃないかって。手を差し出してくれりゃいつだって助けるのに、必要ないっていつも突っぱねちゃうもんだから、こっちも気づけなかったのさ」

ミカ 「・・・・」

 

ミカは口を挟まずじっと聞いている。

 

吾郎母「誰だって失敗はするもんさ。その失敗をまた誰かが助ける。人ってのはそういうもんだろ?失敗しても誰にも言わずタダ我慢するだけじゃ、先の人生楽しめなくなっちゃうわよ」

ミカ 「・・・・そうだね。肝に銘じておくよ」

 

そう言ってその場から去っていくミカ。

 

アキ 「あっ、ミカ!もう!・・・・本当に、ありがとうございました!」

ミッコ「いつか、お礼はしますんで!」

吾郎母「気にしないでいいからね!楽しく生きなよー!」

 

見えなくなるまで、吾郎の母ちゃんは手を振っていた。

 

アキ 「もう、ミカ!なんであんな態度取ったの!」

ミカ 「疑問に思ったことを聞いてみたまでさ。失礼なつもりはないよ」

アキ 「でもお礼も言わなかったじゃない。次同じようなことあっても、もう助けてくれないよ?」

ミカ 「人は学ぶ生き物さ。同じ過ちなんて、そう犯すもんじゃない」

アキ 「どうだか・・・・」

 

数日後。

久しぶりに由比ヶ浜に強めの雨が降った。

 

ミッコ「こりゃ参ったな」

アキ 「天気予報じゃ晴れだって言ってたのに」

ミカ 「空は人の所有物じゃない。自分の物じゃないものの流れに文句を言うのはお門違いって言うもんじゃないかな」

アキ 「それにしたって自由すぎるよ・・・・。あっミカ、もうちょっとしっかりキューポラ閉めてよ。しみてるしみてる」

 

ミカたちは路肩に戦車を停めて雨をしのいでいる。

 

アキ 「ねえミカ。いつまでこんな車中生活続けるの?ここに来た目的は達したんなら、もう学校に帰ろうよ」

ミカ 「・・・・アキたちにはすまないけどね。まだ終わってはいないんだ」

ミッコ「それじゃその目的を詳しく教えてもらえないかね。理由もわからずただ待つってのもけっこうしんどいんだよ」

 

ミカは何も答えずカンテレをいじっている。

ふと__

 

???「おんやあ?」

 

戦車の外から声がする。

すぐに戦車を誰かが登る音がし始めたと思うと__

 

ガコンッ

 

キューポラが開かれた。

 

吾郎母「あんらまあ!やっぱアンタたちだったのね」

 

上から吾郎の母ちゃんが覗き込んできた。

ミカとバッチリ目が合う。

 

ミカ 「・・・・やあ、また会ったね」

アキ 「えっ、おばさま!?」

吾郎母「どうしたんだい、こんなトコで雨露にうたれっぱなしで」

ミカ 「自然の成り行きさ。日が差せば照らされ、雨が降れば打たれる。過去から当たり前に行われている、人の営みだよ」

吾郎母「あっはっは、相変わらず難しい言葉知ってるコだねえ。ちょっとお邪魔するよ」

ミカ 「えっ」

吾郎母「よっこいせっと」

ミカ 「えっ、ちょっと、いや、あのっ」

 

お構いなしにぐいぐいと体を詰め込み、吾郎の母ちゃんはBT-42の車内にすっぽり収まった。

ミカが座っていようと強引に体をねじ込ませる。

元から広くない車内がぎゅうぎゅう詰めになった。

 

吾郎母「へえー、この戦車、中はこうなってるのかい」

ミッコ「どうもー」

 

吾郎の母ちゃんに好感を持っているミッコが笑顔で挨拶する。

 

吾郎母「あら!この戦車あんたが操縦してんの!?若いのに大したもんねえ!あらら、これって砲弾?もしかして本物かい?」

アキ 「あっ、はい、そうです。いつでも試合に出れる程度のお手入れもしてますよ」

吾郎母「試合?ああ、あんたたち戦車道の選手なのかい。懐かしいねえ。昔時々やったことがあったよ」

アキ 「それって、この間言ってたお友達とですか?」

吾郎母「そうそう。あのコも戦車道やっててねえ。たまにお誘い受けて、戦車に乗ってたのよ」

ミッコ「装填手としてですか?」

吾郎母「あら!よく分かったねえ!まあ、試合に出たことはなかったけど、たまに一緒にやって楽しかったねえ」

 

と、吾郎の母ちゃんがふと気が付く。

 

吾郎母「そういや、あんたたち継続高校の子なんだろ?」

アキ 「はい、そうです」

吾郎母「それじゃ、こっちには試合しに来たのかい?」

ミッコ「いや、そうじゃないっすよ。えーと、何て言うか探し物?をしに」

吾郎母「そうだったのかい。ところで、どこに泊まってるんだい?ずっと由比ヶ浜にいたんだろ?」

アキ 「えっ、そ、それは__」

 

まずいところを突かれて言い淀む。

 

吾郎母「んー?・・・・まさか、野宿だなんて言わないだろね?」

 

ギクッとするアキ。

そこを見逃さなかった吾郎の母ちゃん。

 

吾郎母「あらやだ!若い女の子が三人してそんなのダメよ!」

ミカ 「いいや。野宿なんかじゃないさ」

吾郎母「車中泊ってのもナシだからね?」

ミカ 「」

 

すぐ看破されて言葉に詰まるミカ。

 

吾郎母「よし決めた。ちょっとあんた、今から言うところに向かってちょうだい」

ミッコ「えっ?」

 

そして次の日。

 

磯崎 「こんのヤロー!」

 

海の家れもんの店先で、磯崎が吾郎に取っ組みかかっている。

 

栄子 「おいお前ら、店先で何やってんだ!営業妨害だぞ!」

吾郎 「俺のせいじゃねえ!こいつに言ってくれ!」

磯崎 「黙りやがれ!このスケコマシヤロー!」

イカ娘「いったい何ごとでゲソ」

 

騒ぎを聞きつけてイカ娘たちが出てくる。

千鶴も耳だけは注意を向けている。

 

磯崎 「聞いてくれよ!こいつ、家に女の子連れ込みやがったんだぞ!しかも三人!三人いっぺんだぞ!」

 

ガチャン!

 

突然の音に気が付いてイカ娘が振り向くと、千鶴が厨房で皿を落としてしまっていた。

信じられない、といった表情をしている。

 

吾郎 「人聞きの悪いこと言うな!それに連れてきたのは俺じゃねえ!」

磯崎 「そんなの関係ねえ!俺だってまだなのに吾郎のくせに!」

吾郎 「お前と一緒にすんな!」

 

と、大騒ぎしている所に__

 

吾郎母「なに大騒ぎしてるんだい、恥ずかしい」

 

吾郎の母ちゃんが現れた。

 

吾郎 「母ちゃん!?どうしてここにいるんだよ!」

吾郎母「どうしてって、お昼食べに来たんだよ。そんな驚くことじゃないでしょう」

 

と、吾郎の母ちゃんの背後に、誰かいるのに気が付く。

 

イカ娘「おや?お主は・・・・」

ミカ 「やあ、君は。また会ったね」

 

そこには、吾郎の母ちゃんに連れられたミカたちが立っていた。

れもんの店内。

席に着いた吾郎の母ちゃんが色々注文する。

 

栄子 「そっか、吾郎の家に来てたのって、あんたたちだったのか」

アキ 「うん。ひょんなことで知り合って、ちょっとの間お世話になることにしたの」

ミッコ「干した布団で寝れる・・・・。ああ、幸せー・・・・」

ミカ 「・・・・」

栄子 「良かったじゃないか吾郎、若い女の子に囲まれた生活はどうだ?」

 

千鶴の反応を見るため必要以上に声を上げる栄子。

 

吾郎 「バッ、バカ言ってるんじゃねえよ。俺はその間友達の家に邪魔してるっての」

千鶴 「!」

 

あからさまにほっとしている千鶴だった。

そんな千鶴を見てニヤニヤする栄子。

しばらくして、注文した料理がたくさん運ばれてくる。

 

吾郎母「さあ、おあがり」

アキ 「いっただきま~す!」

ミッコ「いただきます!」

 

嬉々として料理にありつくアキとミッコ。

そんな様子を見てニコニコする吾郎の母ちゃん。

しかし__

 

イカ娘「む?ミカよ、お主は食べないのでゲソ?」

ミカ 「残念だけど、今はお腹いっぱいなのさ」

アキ 「何意地張ってるのよミカ。今朝からあまり食べてないじゃない」

ミカ 「この辺りにも食べられる草は多い。知識があるって言うのは身を助けるものだよ」

イカ娘「ほほう。私も今度試してみるかでゲソ」

栄子 「お前がやると店の評判に関わるからやめろ」

イカ娘「しかし吾郎の母ちゃんは本当に面倒見いいでゲソね]

アキ 「ほんとだよ。行きずりの私たちにお布団とご飯まで用意してくれるんだもん。感謝にたえないよ」

ミッコ「もちろん、世話になるだけじゃいけないから、掃除とか洗濯とか手伝ってるけどね」

吾郎母「あっはは、大助かりだよ」

アキ 「それにしたって__」

 

ちらり、とミカを見る。

 

アキ 「ミカ、変に意地張りすぎだよ。泊めてくれるって言うのに自分だけ戦車の中で夜を過ごすし、ご飯も用意してくれたのにいらないって断っちゃうし」

ミッコ「何としてもおばさまに世話になってたまるかっていう意思を感じるね」

ミカ 「自分のことは自分でできる。施しを受けなければいけないほど子供でもないのさ」

アキ 「なあにそれ!私たちが子供だって言いたいの!?」

 

失言だったと感じたのか、目深に帽子をかぶりなおすミカ。

 

吾郎母「ほらほらケンカしない。チームメイトなんだからもっと仲良くしないと」

アキ 「でも、おば様・・・・」

吾郎母「ご飯は笑顔で食べないといけないわよ。美味しいものを楽しく食べられないんなら、何が楽しいって言うのさ」

ミッコ「確かに一理あるかー」

 

気を取り直して食事を続行するアキたち。

そんなアキたちに、ミカはもう何も言ってこなかった。

 

イカ娘「そう言えばお主たちはいつまでここにいるのでゲソ?」

アキ 「まだ大事な目的が果たせていないから帰れない・・・・みたいなんだよね」

イカ娘「ハッキリしないでゲソ」

アキ 「そーだよねー。ハッキリ教えてもくれずにチームメイトを引っ張りまわすのってひどいよねー」

 

わざと声を上げ、ミカに言い聞かせるように言うがミカは素知らぬ風だ。

 

ミッコ「まあ、おいおいわかると思うし、のんびり待つとするよ。おばさまもいつまでもいていいって言ってくれてるし」

吾郎母「一気に娘が三人も増えたみたいで楽しいねえ」

 

あっけらかんと笑い飛ばす吾郎の母ちゃんだった。

その日の夜。

 

吾郎母「いやー、ちょっと買いすぎちゃったかねえ」

 

吾郎の母ちゃんとミカたちは、沢山の買い物袋を担いでアパートへ戻って来た。

 

アキ 「とってもお得な日でしたもんね」

ミッコ「あたし、一度にこんな買い物したの初めてだわ」

吾郎母「でも助かったよ。吾郎を誘っても嫌だって断られちゃってねえ。好きなもん買っていいって言ってんのに」

アキ 「たぶん、子供扱いされるのが嫌だったんじゃ・・・・」

ミッコ「吾郎さんいい歳だしねえ」

吾郎母「何気取ってんだかねえ。親にとっちゃ子供はいつまでも子供だってのに」

ミカ 「・・・・」

 

黙って荷物持ちしていたミカが、ゆっくり玄関に袋を下ろす。

 

ミカ 「それじゃ、私は外で風と戯れてくるよ」

アキ 「はーい、行ってらっしゃい」

 

もはや引き留める気もないアキ。

そのままミカはふらっと外へ出ていった。

そんなやり取りを、やや苦笑した顔で見る吾郎の母ちゃん。

そして日が暮れて。

 

ミカ (うーん、今日はあまり食べられるものが見つからなかったか・・・・。まあいいさ、今日は水だけ飲んで寝よう)

 

若干の空腹を抱えながら帰って来たミカ。

さあ乗り込むかとBT-42に登ると、キューポラに何かが乗っている。

 

ミカ 「?」

 

よく見ると、それは皿の上に載ったたくさんの大きいおにぎりだった。

ラップに包まれ、メモも添えてある。

 

『作りすぎて余っちゃった。食べないなら捨てちゃうからね!』

 

メモを見て苦笑するミカ。

 

ミカ 「しょうがない、食べ物は粗末にできないね」

 

BT-42の上でおにぎりをほおばるミカだった。

その日の晩。

 

ミカは夢を見た。

一人の女性が立っている。

その姿はもやの中にいるかのようにぼやけ、はっきりとした姿ではない。

その傍らには、まだ幼そうな少女の面影も見える。

一瞬、手を伸ばそうとするが__すぐに手を引っ込め、背中を向けるのだった。

 

ミカ 「・・・・」

 

目が覚めると戦車の中。

無意識に伸ばしかけていたらしい腕をひっこめ、ため息をつく。

 

ミカ 「やれやれ・・・・。私もまだなりきれていない、という訳かな」

 

次の瞬間。

 

バンバンバン!

バンバンバン!

 

外から誰かが戦車を叩いている。

キューポラを開けると、そこには血相を変えたアキがいた。

夜空にはまだ星が見える。

 

ミカ 「やあアキ、おはよう」

アキ 「そんなこと言ってる場合じゃないの!早くこっち来て!」

ミカ 「うん?」

 

アキに引っ張られるがままにアパートの嵐山家へ向かう。

ドアを開けた玄関先では__

 

吾郎母「うう、ううう・・・・」

ミカ 「おばさま!?」

 

そこには、吾郎の母ちゃんが倒れこんでいた。

腹部を抑え、苦しそうな表情を浮かべている。

傍らにはミッコがしゃがみ込み、おろおろしている。

 

ミッコ「あっ、ミカ!おばさまが、おばさまが!」

ミカ 「ミッコ、落ち着いて。何があったか教えてくれないか」

ミッコ「ええっと、晩飯食べ終わって、お風呂あがって、洗濯物たたんで、布団ひき終わったら玄関で物音がして__!」

ミカ (つまり、何が起きたかよくわかっていない、ということだね)

 

冷静に努め事態の把握に尽力する。

吾郎の母ちゃんは苦しそうに呻き続け、脂汗も吹き出ている。

 

ミカ 「アキ、救急車は?」

アキ 「うん、さっき呼んだんだけど__十分経ったのにまだ来ないの!」

 

アキの目に涙が浮かび始めている。

その間にも苦しそうにする吾郎の母ちゃん。

昼間まで見せていた笑顔がいくつもリフレインする。

ミカは一瞬目を閉じ__即座に決断を下す。

 

ミカ 「私たちで連れて行こう」

 

そして。

 

ヴィイイイイイイイイ!

 

ミッコ「おらおらおらー!どいたどいたどいたー!」

 

夜の道路を、BT-42が疾走する。

キューポラからミカが覗き、空いている道に誘導する。

アキは車内で吾郎の母ちゃんの様子をうかがっている。

 

ミッコ「このペースなら五分とかかんないね!」

ミカ 「こういう時こそ冷静さが必要だよ。もしここで事故でも起こせば不毛もいい所さ」

ミッコ「あたぼうよ!私のテクニック、ナメんなよ!」

 

車と車の間を縫い、カーブをドリフトでこなし、その間にも一切スピードを緩めない。

病院への距離もあとわずか、というところで__

 

ミッコ「!」

 

ギギイイイイイ!

 

突如ミッコが急ブレーキをかける。

突然の衝撃に、吾郎の母ちゃんをかばうアキ。

 

アキ 「どうしたの!?」

ミッコ「くっそー、こんな時に!」

 

__病院に面した前方の道路を、事故車両がふさいでいる。

 

アキ 「これは・・・・!」

ミッコ「救急車が来なかったのも、こいつのせいか!」

 

全く片づけが済んでおらず、戦車一台通れるスペースなどどこにもない。

 

ミッコ「どうする!?迂回するか!?」

アキ 「でもそうしてたら手遅れになっちゃうかも!?」

ミカ 「・・・・」

 

ミカが車内に戻ってくる。

 

アキ 「ミカ、どうしよう!?」

ミカ 「・・・・」

 

苦々しそうに前方の事故車両を睨みつけるミカ。

横たわる吾郎の母ちゃんとを見比べていた。

 

吾郎母「はあ・・・・。ミカちゃん・・・・」

ミカ 「!」

アキ 「!おばさま!?」

 

息が朦朧とした吾郎の母ちゃんが口を開く。

 

吾郎母「ミカちゃん・・・・。強いって言うのと、誰の助けも借りないってのは違うよ・・・・。はあ、はあ・・・・、大人だって、お互い支えあうもん、さ・・・・」

ミカ 「・・・・」

吾郎母「誰かにいいことされたら・・・・誰かにいいことをすりゃいいだけの、こと、だよ・・・・はあ、はあ」

アキ 「おばさま!しっかりして、おばさま!」

 

そして__

ミカの表情から迷いが消えた。

砲弾を掴み、手早く装填する。

その行動から、ミカの心を悟るアキとミッコ。

 

BT-42は事故車両の真正面に位置取り、そして__

 

バアン!

 

迷いなく事故車両に砲撃を打ち込んだ。

 

ドバアアン!

 

被弾した事故車両は派手にはじけ、そこには戦車が通れるスペースが確保されていた。

そこを通り、ついにミカたちは吾郎の母ちゃんを病院に担ぎ込むことに成功したのであった。

 

吾郎 「すいません、うちの母が担ぎ込まれたって聞いたんですが!」

 

しばらく経って。

吾郎が病院に駆けつけてきた。

 

アキ 「吾郎さん!」

吾郎 「アキちゃん!母ちゃんが病院に担ぎ込まれたって聞いたんだが、何があった!?あとなんか、入り口に戦車停まってるんだけど!?」

ミッコ「それが、晩飯食い終わったらお腹ささえて苦しみだしちゃって!」

吾郎 「えっ」

ミカ 「どうやら救急車もトラブルで駆けつけられなかったようでね。こうして私たちで担ぎ込んだのさ」

吾郎 「・・・・」

アキ 「きっとおばさまは大丈夫です。だから吾郎さんも心配なさらずに__」

吾郎 「いや、そうじゃないんだ・・・・」

ミッコ「どういうこと?」

吾郎 「それは・・・・」

吾郎母「あら吾郎!あんたも来てたの!?」

 

後ろから陽気な声が聞こえてくる。

まさか、と振り返ると__

 

ミカ 「おばさま!」

 

吾郎の母ちゃんがケロリとした顔で歩いてきた。

 

ミッコ「おばさま、もう大丈夫なんですか!?」

吾郎母「ああ、ごめんなさいねみんな。実は__」

吾郎 「食べすぎだったんだろ」

 

吾郎が呆れた口調でツッコむ。

 

アキ 「えっ」

吾郎 「たまにあるんだよ、作りすぎたり量を考えずに食いすぎてハラ壊してぶっ倒れるパターン。最近なかったと思ったら、よりによってこの子たちが来てる間にやっちまったのか」

吾郎母「だってねえ!この子たちと一緒に食べるのが楽しくって。作りすぎちゃったのもあるし、残して無駄になったらもったいないじゃないかい」

吾郎 「普通は食える量だけを作るもんなんだよ。いっつも行き当たりばったりで量を決めるからこういうことが起こるんだよ」

吾郎母「やだねえ、小言だけは立派になっちゃって」

吾郎 「誰のせいだよ!」

ミカ 「何はともあれ、無事で何よりさ」

吾郎母「心配かけちゃってごめんなさいねえ」

ミカ 「いえ。__人は支え支えられ、でしょう?」

 

ミカがそう答えると、吾郎の母ちゃんは嬉しそうににっこり笑うのだった。

その後。

 

アキ 「今日もいい天気だねー」

ミカ 「そうだね」

 

嵐山家のアパートにて。

アキは窓際で寝そべり、ミカはベランダでカンテレを弾いている。

ミッコは部屋の中で口笛を吹きながら掃除機をかけている。

 

ミッコ「それにしても意外だったなあ」

アキ 「なにが?」

ミッコ「私たちが吹っ飛ばした車だよ。絶対後で責任問われたりすると思ったのに、何のお咎めも無かったじゃん?」

アキ 「あー、そういえば何も言われなかったねえ」

ミカ 「私は、まだ守られる子供だった。__そういうことさ」

ミッコ「ん?ミカ、何か言った?」

 

と、同時に玄関が開き、吾郎の母ちゃんが帰ってくる。

 

吾郎母「ただいまー」

アキ 「あっ、おかえりなさいおばさま」

吾郎母「今日はお肉が安くってねえ。ついたくさん買っちゃったよ。今晩はカツ丼にしようかねえ」

ミッコ「ひゃっほう!」

アキ 「わーい、お肉だー!」

吾郎母「ミカちゃんもカツ丼、好きでしょう?」

ミカ 「・・・・」

 

ミカはポロン、とカンテレを弾き__

 

ミカ 「うん、とても楽しみだね」

 

そう言って笑顔を浮かべるミカだった。




吾郎の母ちゃんは強引なところも多いですが、基本的には相手のためを思った行動なのが憎めないですね。
おちゃらけた部分もありますが、しっかりと自分の意志を持った立派な大人だと思います。

今回ミカの素性についてだいぶ触れた書き方をしましたが、未だミステリアスな部分が多い人物ですね。
多分、これからもはっきりとわかる描写はないだろうと思います。

これだけ書いておいて、実際は全く関係ありませんと公式で言われたりでもしたら・・・・。
それもあって、はっきりしなくてもいいと思います(自分勝手)

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