南風の店長→南風
第1話・流れに乗らなイカ?
アキ 「お腹減った・・・・」
澄み渡る青空の下、ミカ・アキ・ミッコの乗るBT-42は砂浜を一定のペースで駆けてゆく。
そんな戦車の中でアキは空腹に腹を抱えていた。
アキ 「いい加減何か食べようよぉ・・・・」
懇願するように声をかけるが、ミカは涼しい顔をしてカンテレを奏でている。
ミッコ「やー、しかしホントに腹減ったよねー。何か食べないとぶっ倒れそうだよ」
アキ 「操縦手が倒れたら大変だよー?・・・・ていうか、ほんとに何か食べようよ。お腹減った!」
ミカ 「知ってるかい?空腹は最大の調味料なんだよ」
アキ 「調味料だけじゃ意味ないんだってば!ミカは胡椒やお塩だけで満足できるの!?」
ミカ 「試してみたら案外いけるかもしれないよ?」
ミッコ「試さんでいい!」
ミカ 「何ごとも経験さ」
アキ 「一生経験しないでいい」
ミッコ「大体どこさ、ミカおすすめの店って」
ミカ 「うん、この辺りにあるのは間違いなんだけどね」
アキ 「ミカの『この辺り』は半径十キロ範囲だから当てにならないんだけど」
そのまましばらく進むと__
ミッコ「あった!あれじゃないかな!?」
アキ 「ほんと!?見つけたの!?」
ミカ 「ああ、間違いないね。あそこがそうさ」
アキ 「あそこが海の家・・・・『南風』!」
かくして継続一行は目的地である海の家南風に無事到着する。
アキ 「あー、やっと着いた!もうお腹ペコペコ!」
ミッコ「それにしてもミカ、ホントに今日はミカの奢りでいいの?」
ミカ 「ああ。二人にはいつも頑張ってもらっているからね。たまには労わないと、ね」
アキ 「珍しいなあ。明日は砲弾が降るかもしれないね」
そんな話をしながら、三人は入店する。
店員A[いらっしゃいませ、三名様ですね。こちらへどうぞ」
アキ 「わー、海の家なのにちょっと洒落てない?店員さんもイケメン多いし」
ミッコ「『イケメンだらけ・・・それは海の家に必要なことなのかな?』」
アキ 「あははは!似てる!」
ミカ 「必要だね」
アキ 「!?」
ミッコ「!?」
かくして席につく三人。
アキ 「うーん、どれもおいしそうだね。どれにしようかなー」
ミッコ「ねえミカ、予算的にはいくらまでオッケー?」
ミカ 「心配はいらないよ。好きなだけ食べてくれていいよ」
アキ 「ほんとどうしたの今日は!?」
ミッコ「いつもなら『あの野草は食べられるんだよ』とか言って買い物すらさせてくれなかったのに!」
客A (どんな生活してるんだあの子たち・・・・)
アキ 「じゃあ遠慮なく!これとこれとこれ、あとこれもください!」
ミッコ「じゃあアタシは__」
注文が終わり、沢山の料理がテーブルに並べられる。
アキ 「うわあ!美味しそう!」
ミッコ「海の家レベルじゃないっしょこれ!やばっ!」
ミカ 「うん、素敵だね」
アキ 「それじゃあ__」
三人 「いただきまーす」
久々の、かつクオリティの高い料理に舌鼓を撃ちながら、あっという間に料理を平らげた三人。
アキ 「はー、お腹いっぱい・・・・。幸せ・・・・」
ミッコ「もう食えん・・・・」
目いっぱい料理を胃袋に詰め込んだ二人は、至福の表情でしばらくの間惚けていた。
ミッコ「それにしてもミカ。今回なんでわざわざ神奈川くんだりまでやってきたのさ?」
アキ 「私もまだ目的を聞いてないよ。まさかここに来ることだけが目的じゃなかったんでしょ?」
ミカ 「もちろんそうさ。それについては、店を出て出発したら教えようか」
アキ 「そうだね。いつまでも居座ってたらお店に迷惑だもんね」
ミッコ「それじゃ、そろそろ行こっか。ミカ、ゴチ!」
アキ 「うん!ご馳走様!」
いざ店を出ようと立ち上がる三人。
そしてミカは支払いの準備をするため荷物を探る。
・・・・ふと、ミカの動きが止まり、テーブルに座りなおす。
アキ 「・・・・?ミカ?どうしたの?」
ミッコ「何か来てない料理でもあった?」
ミカ 「・・・・」
何も答えず座り続けるミカに合わせ座りなおす二人。
ミカ 「すいません、ちょっといいかな」
店員B「はい」
ミカは近くを通りがかった店員を呼び止めた。
ミカ 「店長さんを呼んでもらえるかな」
店員B「えっ、店長を、ですか?__はあ、わかりました」
店員は店長を呼ぶために店の奥に消える。
アキ 「__ミカ?ほんと、どうしたの?」
ミカ 「アキ、ミッコ。もしこの先、私の発言が全て嘘や冗談だと思われても一向に構わない。その代わり、今だけは私の言うことを全面的に信じてはくれないかな」
アキ 「?どうしたのミカ、いきなり」
ミッコ「そんな条件出さなくったって、これからだってアタシたちはミカのことを信じ続けるよ」
ミカ 「ありがとう」
アキ 「・・・・ミカ?何かあったの?__大丈夫?」
ミカ 「・・・・今日、私は本当に二人に奢るためにここへ誘ったんだ。__信じてほしい」
アキ 「うん、信じるよ。そこまでミカが言うんだもん、きっと本当なんだよね」
ミカ 「ありがとう」
ミッコ「うん。で、何が__」
ミッコが言い終える前に、ミカは何かをスッと取り出した。
それはミカがいつも財布や小物を入れているポーチだった。
アキ 「ん?それ、ミカのポーチだよね。それがどうし__」
途中まで言って、言葉を失った。
・・・・ミカの持ったそのポーチの底に、大きな破れ目が出来ていたのである。
__ポーチの中身は、空っぽだった。
ミッコ「え__ちょ、ミカ、まさか、もしかして・・・・」
ミカ 「うん。財布を、落としたようだね」
アキ 「えええええ!?」
店内の目線が一気にアキたちに注がれる。
アキ 「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!私いま持ち合わせなんて無いよ!?」
ミッコ「アタシも燃料代で財布の中身吹っ飛んじゃったし・・・・」
アキ 「まさか、これって__」
無 銭 飲 食 !!
三人の顔が真っ青になる。
アキ 「どどど、どーすんのよミカ!?ケーサツ沙汰になっちゃうよ!?」
ミッコ「・・・・(チラ)」
ミッコが外に停めてあるBT-42に視線を送る。
アキ 「ミッコ!それはダメ!食い逃げはもっとダメだよ!」
南風 「呼んだのは、君たちか」
アキ 「っ!」
召致に応えた南風の店長が現れた。
アキ (どうしよう・・・・!これで騒ぎになっちゃったら、戦車道どころか学校にもいられなくなっちゃうよお・・・・!)
ミッコ(落ち着けアキ!きっとミカに考えがあるんだ、ミカを信じよう!)
南風の店長に聞こえないようにひそひそ話す二人。
ミカ 「貴方が店長さんかい?」
南風 「いかにも」
アキ (うわああ!怖い!海の家の店長なのになんでこんな威圧感あるの!?)
南風の店長はいつも通りだが、初対面のアキにとっては状況と南風の店長の風貌にすっかり怯えてしまっている。
南風 「どうした、うちの料理に何か不備でもあったか?」
ミッコ(なんちゅう重圧してんだよこの人!)
ミカ 「いや、料理は全部素晴らしい出来だったよ。期待以上だったと言ってもいい」
南風 「そうだろう。うちはこれが自慢なんだ」
ミカ 「素直に感激さえしたよ。まさかこれほどのものを食べられるだなんてね」
アキ (・・・・)
アキたちは固唾をのんでやり取りを見守っている。
ミカ 「それで、思ったんだ。この素晴らしい『作品』たちに、見合う対価は何だろう、とね」
南風 「む?」
話が見えないのか、怪訝そうな顔をする。
ミカ 「この料理たちを頂いた対価としてお代を払うのも、お客としての私のできる一つの誠意だと思う。__だけどね、果たしてお金を払うだけが、料理や貴方たちに還せる誠意なのかな?」
南風 「ふむ、中々面白いことを言ってくるな。それじゃあ、代金以外でそっちが返してくれる対価ってのは、何だ?」
ミカ 「それはね__」
数日後、海の家れもんにて。
栄子 「う~ん・・・・?」
れもんの中で栄子が店内を見渡しながら何やら考えている。
イカ娘「どうしたでゲソ、栄子?」
栄子 「ああ、いや、気のせいかもしれないんだけどさ。何だか、最近ちょっとうちのお客さん減ってきてないか?」
イカ娘「む?」
言われて店内を見渡す。
イカ娘「言われてみれば・・・・ちょっといつもより少ないかも、でゲソ」
栄子 「だろ?」
イカ娘「心なしか、海に来ている人たちも減ってる気がするでゲソ」
千鶴 「減っているというよりも、元の数に戻っている、とも言えるわね」
イカ娘「元に?」
千鶴 「ほら、ちょっと前から隣町の海水浴場の規制が厳しくなった、とかでそこのお客さんがこちらに流れて来てたじゃない?」
栄子 「そういえばそんなことあったな。そのせいで店に来る客も減ったって、南風のおっさんもぼやいてたな」
イカ娘「それじゃあ、またみんな隣町に遊びに行き始めてる、ということでゲソ?」
千鶴 「一概には言い切れないけれど、可能性としてはあるかもしれないわ」
栄子 「景気が悪くなったから、規制を緩和したのかもしれないな」
千鶴 「今日の営業ももうすぐ終わりだし、後で隣町に見に行きましょう」
二時間後。
れもん一行は隣町の海水浴場へやって来た。
栄子 「うーん、見た感じ人の出入りは特に増えてるようには見えないが・・・・?」
辺りを見渡す栄子。
海水浴客はいるにはいるが、目に見えるほど増えているわけではないようだった。
だが、規制が厳しく鳴り始めの頃よりはやや人の数は増えているようである。
千鶴 「前通りくらい、かしら」
栄子 「どういうことだ・・・・?」
ふと、辺りを見回していたイカ娘がとあるものに目を止める。
イカ娘「栄子ー、あれは何でゲソ?」
栄子 「あん?何が・・・・何だありゃ!?」
イカ娘が指さした先__そこには、戦車が一両走っていた。
それ自体はさして問題ではない。
その戦車は、車体に大きく『南風』とペイントされ、砲塔の上にも大きく『海の家南風』と書かれた旗をたなびかせながら走っている。
千鶴 「あら、BT-42ね。こんな所に珍しいわ」
イカ娘「南風って書いてあったでゲソね。南風のおっさん、戦車を手に入れたのでゲソか」
男 「おっ、戦車で宣伝してるぞ!」
女 「海の家南風だって。面白そうだから行ってみない?」
栄子 「確かに、宣伝効果はバッチリだな」
イカ娘「れもんに人が来なくなったのは、これだったのでゲソか」
千鶴 「確かにインパクトはあるけれど・・・・それだけじゃないかもしれないわ。南風にも行ってみましょう」
南風へやって来た。
アキ 「あ、いらっしゃいませー!」
訪れたイカ娘たちを、南風のユニフォームを着込んだアキが出迎える。
栄子 「えっ、あれっ?女の子?」
まさか南風で女性店員に出迎えられるとは思わなかった栄子が面食らう。
イカ娘「三名でゲソ!」
アキ 「はーい、ではこちらへどうぞー」
アキの案内を受ける三人。
店内はかなり賑わっており、前に来たときよりはるかに繁盛している印象を受ける。
栄子 「意外だな、南風も女の子のバイトを雇ったのか」
千鶴 「可愛い子ね」
栄子 「・・・・なるほどね。これも繁盛の理由のひとつって訳だ」
店内には結構な割合で男性客も多くなっている。
これまでの南風は男性店員だけで構成されていたので、女性客の比率が圧倒的に高かった。
しかし今はアキが接客を行っているため、それ狙いで来店する男性客が増えていたのである。
栄子 「南風のおっさんも、色々考えてるってことか」
千鶴 「うちも、渚ちゃんが男装してくれていた頃は女性のお客さんが増えていたものね」
栄子 「またやってくれないもんかね」
イカ娘「あんな渚、二度と認めないでゲソ!」
かくして席についた三人。
案内された席は、南風に設営されているステージの真正面だった。
栄子 「このステージ見るとイカ娘のドラム思い出すな」
千鶴 「私も見てみたかったわ」
イカ娘「もうやらないでゲソ!」
会話をしながら何にしようかとメニューを選んでいると、周囲の客の会話が耳に入ってくる。
客B 「ねえ、そろそろかな」
客C 「そうだな。いつも通りならそろそろ・・・・」
会話を聞いてみると、客たちはステージの方を見ながら何かを心待ちにしている。
栄子 (何かを待っているな。何だ?)
それを探っていると、あまり間を置かず『それ』が姿を表した。
客D 「おっ、来たぞ!」
客E 「待ってました!」
客B 「ミカちゃーん!」
ステージの上に、南風のユニフォームを着たミカが現れた。
脇にはカンテレを携えている。
さすがに今は帽子は外している。
栄子 「おっ、何だ?」
千鶴 「あの子が演奏するのかしら?」
イカ娘「誰だか知らないけど、地味な楽器でゲソ。あんなものでできる演奏など、たかが知れるでゲソね」
と、イカ娘がタカをくくっていると__、
ポロロン♪
ミカがカンテレを軽く滑らせるように奏でる。
その瞬間、場の空気が変わった。
イカ娘「!」
イカ娘(どういう事でゲソ!?あやつがあの楽器を軽く弾いただけで、あんなに暑かったのに、今じゃ深海のように涼しく心結安らぐ空間に早変わりしたでゲソ!)
ミカは正面を見据える。
イカ娘と目が合った。
ミカが軽く微笑みを飛ばす。
イカ娘「!」
ポロロロン♪
曲調が変わる。
これまで穏やかだったのから、ややアップテンポに切り替わり爽やかなメロディーとなる。
これもまたいい演奏だった。
周囲の客も聞き入っており、ミカは注目を一身に集めていた、
イカ娘「むむっ、人間のくせにやるじゃなイカ!負けてはいられないでゲソ!」
おもむろに立ち上がったイカ娘がステージ上に上がる。
栄子 「お、おいイカ娘!」
何をするのかと心配になった栄子だが、イカ娘はミカに何かするわけでもなく、傍にあったドラムセットに腰を下ろした。
ドドドドンパンジャーン!
イカ娘の触手を使ったドラムテクが響き渡る。
その音にミカが振り向く。
イカ娘は『ドヤッ』といった感じでミカを見返す。
しかしミカは動じず、もう一度カンテレを引く。
ズンチャズッチャズンチャ♪
さっきより更にテンポは激しく、疾走感あふれるメロディーだ。
イカ娘「!」
ドドンパパパンドドンパン!
負けじとリズムを合わせ、ドラムをたたくイカ娘。
いつしか二人のリズムはぴったりと合い始め、カンテレとドラムという奇妙な組み合わせの中ハイレベルな合奏が繰り広げられていく。
客D 「おお!あのドラムの子も凄い!」
客C 「ドラムとカンテレの組み合わせで、こんな素晴らしい曲になるだなんて!」
演奏を聴いていた客も盛り上がり、さながらライブ会場のような空気に切り替わっていく。
そしてそれを聞きつけたのか、さらにお客が南風へと入ってくる。
栄子 「すげえ・・・・。イカ娘のドラムに弦楽器でついてきてるよ」
千鶴 「あの子も、ここのお店の繁盛に一役買っているようね」
栄子 「なるほどね」
ようやく合点がいったと栄子は納得する。
BT-42による目立つ店の宣伝。
可愛い女の子店員による男性客の急増。
そして、ハイレベルな店内演奏。
栄子 「ここまでしたら繁盛しないわけないよな。おっさんもうまいことテコ入れしたって訳か」
南風 「狙ってた訳じゃあないんだがな」
栄子 「うわっ!いきなり前に出てくんなよ!」
突如出現した南風の店長にひるむ栄子。
千鶴 「どうも、お邪魔しています」
南風 「ああ」
栄子 「それにしても、随分いい人材を探してきたんじゃないか?どこで見つけてきたんだよ」
南風 「彼女らはうちに食いに来てた客だ」
栄子 「は!?」
~~回想~~
南風 「ふむ、中々面白いことを言ってくるな。それじゃあ、代金以外でそっちが返してくれる対価ってのは、何だ?」
ミカ 「それはね__。私たちがここをもっと盛り上げるためのお手伝いをしたいのさ」
アキ 「へ!?」
ミッコ「アキ、しー」
ミッコがアキの口をふさぐ。
アキ 「むむ、むーむー」
南風 「そりゃまた随分変わった申し出だな。つまるところはバイトなんじゃないか?」
ミカ 「違うさ。私たちは対価としてお手伝いをするんだ、つまりお金はいらない。双方が料理の対価と納得できるまで、お手伝いさせてくれればそれで満足さ」
南風 「ふむ・・・・。こちらとしては、普通に代金を払ってもらった方が手っ取り早いんだがな」
アキ 「!ぷはっ、こ、後悔はさせません!」
ミッコ「そうそう、アタシたちこう見えてもいろいろ渡り歩いてるんで!ゼッタイ店のためになれますって!」
南風の店長は顎に手を当てながら考えている。
そんな彼の目を真っすぐに見つめながらミカが言う。
ミカ 「だけど、決定権は店長さんにあるからね。もちろん、お金で払えというのなら、喜んでお支払いするよ」
しばらくの沈黙の後。
南風 「__面白い。よしわかった、しばらくの間アンタたちに店を手伝ってもらうことにしよう」
~~回想終了~~
南風 「という訳でな。飯代を金の代わりに店に貢献するってことで承諾したのよ」
栄子 (それって、単に金がないから働いて返すって話だったんじゃ・・・・)
千鶴 「そうだったんですか。でも、彼女たちは期待以上だったみたいですね」
南風 「ああ。とんだ拾い物だったな。__だがまあ、それも今日までだ」
栄子 「え?それってどういう__」
ミッコ「店長ー!またひとっ走り行ってきたっすよー!」
丁度その時、BT-42を宣伝カー替わりに走らせてきたミッコが店に戻ってきた。
南風 「おう、ご苦労!ついでだが、アキを連れて来てくれ」
ミッコ「ん、オッケー」
すぐにミッコがアキを連れてきた。
アキ 「はい。お呼びですか、店長さん?」
南風 「ああ。とりあえず、あいつらの演奏が終わるのを待とう」
ミッコ「ってうわっ、何アレ」
アキ 「カンテレとドラムがセッションしてるよ」
しばらく眺めていたが、やがて演奏が終わり、辺りは観客の拍手でいっぱいになった。
ミカ 「素晴らしい腕前__触手前だったよ。楽しい時間だった」
イカ娘「お主こそ、人間にしてはなかなかのものだったでゲソ」
お互いを讃え、握手を交わす。
ステージを降り、栄子たちの元へ戻ってくる。
栄子 「全く、もうやらないって言ってたのは誰だ?」
イカ娘「いやー、イカとして心が揺さぶられたでゲソ」
千鶴 「ふふっ、とっても上手だったわよ」
ミカ 「店長。どうしたんだい?」
南風 「うむ。お前たちが来てからというもの、うちの店はかつての活気を取り戻した。これはお前たちの功績と言っても過言じゃあない」
ミカ 「うん」
南風 「もう十分対価は払ってもらえた。だからお前たちは、お前たちの道に戻るといい」
ミッコ「!」
アキ 「!」
ミカ 「もういいのかい?こちらとしてはまだ返し切れた気はしないんだけれどね」
南風 「行きすぎなくらいだ。これ以上はこっちが甘えちまう」
ミカ 「そう。そちらが満足してくれたなら、こちらとしても本望だよ」
アキ 「あー、やっと自由になれ・・・・、おほん、もうお手伝いはおしまいか~」
ミッコ「あー、残念だなー。もうちょっとやりたかったんだけどなー」
南風の制服を着替え、元の継続高校のジャージ姿に戻る三人。
ミカ 「それじゃ店長、短い間だったけれどお世話になったね」
南風 「待った」
アキ 「?」
南風 「これを持っていけ」
封筒を差し出す南風の店長。
受け取ったアキがちらっと封筒の中身を見て、
アキ 「!」
驚きの表情を見せる。
その表情でミカは察したようだった。
ミカ 「店長、失礼だけれどそれは受け取れないよ。私たちはあくまでお手伝いをしていたんだ。働いていたわけじゃない」
南風 「ああ、わかってる。それは『余剰分』だ」
ミッコ「余剰分?」
南風 「お前たちは料理の価値以上の功績を出してくれた。これはその『余り』だ。余ったんなら返すのが当然だろう」
アキ 「店長さん・・・・」
南風 「またうちの料理を食いに来い。次は金で払ってもらって結構だからな」
ミカ 「そうだね。次はそうするとしよう」
アキ 「店長さん、お世話になりました」
ミッコ「きっとまた来るからね!」
南風 「おう!待ってるぞ!」
BT-42に乗って、去っていく三人。
アキ 「店長さん、凄くいい人だったね」
ミッコ「何だか騙してたみたいで心苦しいな」
アキ 「そうだね。ほんと、ミカの口がうまくなかったら今頃どうなってたかわかんなかったよ」
ミカ 「果たしてそうだったのかな?」
アキ 「え?」
ミカ 「本当の大人って言うのは、彼のような人のことを言うのかもしれないね」
アキ 「・・・・ミカ?」
ミカは何も答えず、ただカンテレを弾くばかりだった。
ミッコ「あ、そういえば!」
アキ 「どうしたの?」
ミッコ「アタシたちがここにやって来た理由、まだ教えてもらってなかったんだけど!」
アキ 「あ、そうだ!バイトが忙しくて忘れてたよ!ミカ、教えてよ」
ミカは何も答えず、カンテレを弾いている。
アキ 「ミカってば!」
ミカ 「時には、耳より目で見たほうが伝わるものもあるんだよ」
アキ 「んもう!どういうことよ!?」
ミッコ「うわっ、すごっ!」
突如ミッコが声を上げた。
アキ 「ミッコ、どうしたの?外に何かあるの?」
アキが覗き窓を使って外を見やる。
アキ 「__えっ、何これ!?」
沖合いに何隻もの学園艦が来ているのが見える。
しかもそれは、
アキ 「あれって・・・・みんな大学の学園艦じゃない!?」
ミカ 「そうだね」
アキ 「そうだねって・・・・なんでここに集結してるの!」
ミッコ「ミカ、・・・・もしかして、これがここに来た理由?」
ポロロロロン♪
ミカは、何も答えずカンテレを奏でた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その頃、大学学園艦にて。
ルミ 「ふう、やっと着いたわね、由比ガ浜へ」
メグミ「隊長も突然よね。急に『由比ヶ浜に行きたい』だなんて言い出すなんて」
アズミ「隊長もまだ遊びたいお年頃だものね~。こんなこともあろうかと、ほら。可愛い水着を買っておいたのよ~?」
そう言ってアズミはボコの柄がプリントされた可愛らしいビキニの水着を見せつける。
ルミ 「あっ、アズミ抜け駆け!?私だって隊長に水着選んであげたかったのに!」
アズミ「ふっふ~♪こういうのは早い者勝ちなんだから」
メグミ「そうはいかないわ!私だってほら!」
メグミもボコの柄プリントのワンピースを取り出した。
アズミ「むむっ、やるじゃない!でもね、隊長だって背伸びしたいお年頃でもあるのよ?いつまでも子供っぽい水着なんて着るとは思わないことね」
メグミ「むむっ!でもね、こっちは布の面積が広いのよ!つまり、こっちのほうがボコの柄が多いんだから!」
アズミ「!・・・・やるわね、メグミ!」
メグミ「まだまだあなたに遅れはとらないわよ、アズミ!」
ルミ 「二人ともずるいわよ!こうなったら私も今から水着を選んで、隊長にどれがいいか選んでもらおうじゃない!」
メグミ「あら、いいわねそれ」
アズミ「それじゃ、どこか港に停泊してもらって、隊長と一緒に水着を買いに行く、っていう方向でいいわね?」
ルミ 「異議なし!それじゃ隊長を__」
隊員 「た、大変です!」
突如、隊員の一人が血相を変えて駆け込んで来る。
メグミ「ど、どうしたの!?」
隊員 「た、隊長がどこにもいないんです!それで、探してたら机の上にこんなメモが・・・・」
隊員からメモを受け取るアズミ。
アズミ「な、何ですって!?」
ルミ 「ど、どうしたのよ!?」
メグミ「私のも見せてよ!」
慌ててメモをのぞき込むと、そこには可愛い文字でこう書いてあった。
『探さないでください』
南風の店長を必要以上にダンディーにしてしまいました。
知波単に続き、継続メンバーも神奈川にやってきました!
ドングリ小隊のカール攻略戦、いつ見ても大好きです。
スピンオフや公式マンガなどでは継続は貧乏だったり盗み癖があったりしてますが、こちらの世界ではどうなるのでしょうか?
そして新たな物語の始まりを告げる、『彼女たち』もついにやってきました!