知波単学園一同→知波単
シンディー→シン
マーティン→マー
クラーク→クラ
夏の日差しが眩しい由比ヶ浜の海辺、海の家れもんにて。
西 「それでは!誠に有意義であった本日の訓練の成果と、諸君の健闘を称え!」
一同 「かんぱーい!」
今日も戦車道の鍛錬を終えた知波単学園戦車道チームと、清美のオイチームが打ち上げ会を行っていた。
千鶴の料理が盛大にふるまわれ、知波単印の大吟醸(ノンアルコール)が惜しみなく振舞われる。
玉田 「いやあ、あそこでまさか副砲が我が正面装甲を貫こうとは」
由佳 「ほんと、副砲役の子たちもいい仕事するようになってきましたよ。こりゃ主砲もうかうかしてたら立場奪われちゃうかも」
細見 「なあに、後輩が成長するとなれば先達は更に奮起するまでよ。我らとて無為に足踏みをしているわけではなく、常に前に歩み続けているのだからな」
由佳 「はいっ、そうですね。がんばります!」
イカ娘「れもん特製冷やしうどんお待たせでゲソー」
玉田 「いよっ、待っておりました!」
冷やしうどん十二杯分をいっぺんに持って来たイカ娘に歓声が上がる。
イカ娘「今日の訓練もだいぶ有意義だったようでゲソね」
清美 「うん、おかげでまた一段階上手になった気がするよ」
イカ娘「うむうむ、親友の成長は喜ばしいことでゲソ」
綾乃 「思えば校長先生にオイを任されたときはどうしようかと思ってましたけど」
知美 「こうやって知波単の皆さんが親身になってくれたおかげで、思っていた以上の成果が得られました」
由佳 「ほんと、西さんたちには足を向けて寝れませんね」
西 「はっはっは、そうかしこまらずとも。未来ある日本女子が戦車道を志すのならば、先達の長がある我らが名乗りを上げるのは当然でありましょう」
栄子 「ほんと、西さんたちが由比ヶ浜に来てくれたおかげで色々いいことだらけだよ」
福田 「そう言ってもらるなら、恐悦至極であります!」
ビシッと敬礼で返す福田。
渚 「・・・・あれ?」
ふと、焼きそばを運んでいる渚が声を上げる。
西 「どうなされました、斉藤殿」
渚 「あの、もしかしたら私が聞き逃していただけなので、失礼なご質問だと思うのですが」
西 「はい」
渚 「知波単学園の皆さんって、こちらに何用で来られているのでしたっけ?」
ピシッ
一瞬で場の空気が凍り付く。
玉田 「な、な、な・・・・」
渚 「あっ、やっぱりぶしつけな質問でした!ごめんなさい!」
慌てて頭を下げようとすると__
玉田 「何としたことかーーーっ!」
細見 「わ、我々としたことがーっ!」
福田 「すっかり失念していたでありますーっ!」
途端に頭を抱え大騒ぎする知波単勢。
西も福田も、騒ぎはせずとも青い顔をしている。
清美 「あの、どうなされたんですか?」
西 「わ、忘れておりました・・・・。我々がまさに、今ここにいる理由!」
スッ
西はテーブルに古い装丁の冊子を差し出した。
表紙には、
『継ガレ行ク知波単ノ魂ヲ受ケ継シ者タチヘノ伝授』
と達筆な文字で書かれている。
清美 「この本は?」
知美 「かなり古い本ですね」
西 「然り!これは我が知波単学園に古くから伝わる、先達からの遺産であります」
玉田 「我が知波単学園の収蔵庫の奥深くに丁重に保管されていた書でありまして」
清美 「ということは、かなり歴史のあるものなのかもしれませんね」
慎重にページをめくると、そこにはいかにも当時の時代をにおわせる挿絵などが目に入る。
全体を通してみると、どうやら当時の戦車道教本のようだった。
綾乃 「なるほど、こんな昔から戦車道ってあったんですね」
由佳 「うわすごい、この写真のひと着物着て戦車乗ってるよ」
福田 「問題は、その冊子の最後の頁であります!」
知美 「最後のページ?」
見ると、そこには打って変わった雰囲気の、筆で直に書かれたような文字が書き込まれていた。
『知波単タル戦車道ノ道継ギシ者ヘ、来タルベキ時ノタメコレヲ託ス』
その裏には地図らしきものも書き込まれていた。
そして同ページには、いかにもなデザインの鍵が添えられている。
イカ娘「何だか回りくどい言い回しでゲソ」
千鶴 「要約すると、『戦車道にをしている後輩にいいものをここに残しておいたよ』というところかしら」
西 「そう!まさにそのとおりなのです!」
細見 「そして我ら知波単学園の頭脳総出で解き明かしたところ、先駆者の遺産はここ由比ガ浜に隠されていると見当がついたのであります!」
栄子 「え?知波単学園って千葉の学校だろ?どうして神奈川に」
細見 「・・・・」
福田 「・・・・」
玉田 「・・・・」
西 「この際、細かいことは抜きであります!」
栄子 (何も考えてなかったのか)
バサッと地図をテーブルに開き、みんなで覗き込む。
千鶴 「確かに、これを見る限り場所は由比ガ浜を示しているわ」
イカ娘「それにしてもヘタクソな絵でゲソね。全体的にウネウネしてるでゲソ」
栄子 「当時はこのタッチで普通だったんだよ。ていうか常にウネウネしているお前には言われたくないだろな」
イカ娘「む?」
イカ娘は触手をウネウネさせながらきょとんとした顔をする。
福田 「そして、どうやら由比ガ浜のどこかにある、巨大な岩を目印にするよう書かれています」
渚 「巨大な岩?」
ありかを示しているであろう地図には、『大イナル岩ヲ訪ネヨ』と書かれている。
傍らには岩らしきイラストも添えられていた。
西 「はっ。__それがお恥ずかしながら、それを見つける段階で既に詰まってしまった次第でありまして」
福田 「焦りのせいで冷静な判断力を失い、それで、もしや海中ではないかと模索したのであります。そして、それらを調べているうちに、波にさらわれ__」
イカ娘「落ちて溺れかけた、と言うことでゲソか」
栄子 「イカ娘が福田ちゃんを助けたのには、そんな事情があったのか」
千鶴 「そして、それからいろいろあって遺産探しを忘れていた、という訳ね?」
細見 「面目次第もございません!」
清美 「まあまあ・・・・。じゃあ、まず『大イナル岩』を見つければいいんですね?私も手伝います」
知美 「私も!」
由佳 「宝探しなんてワクワクするじゃん!私もやります!」
綾乃 「私も、やりたいです」
オイチームが次々と助力を願い出る。
西 「いやそれは有難いのですが、知波単の私事に紗倉殿たちを巻き込むのはいささか・・・・」
清美 「私たちがここまで戦車道が上達できたのは、宝探しを後回しにして西さんたちがご指導してくれたからなんです。だから、今度は私たちが西さんをお手伝いする番です!」
由佳 「そうです!自分たちだけ世話を焼いておいて、人から助力を受けないなんて言わせませんからね!」
細見 「おお、まさに大和撫子・・・・!」
福田 「西隊長殿!」
西 「うむ・・・・。この申し出を断れば、それこそ知波単学園は礼を知らぬ凡愚となり果てる。紗倉殿、ここは是非知恵をお貸しいただき、共に知波単の未来を切り開きましょうぞ!」
清美 「はい!精いっぱい努力します!」
かくしてここに、過去の栄光と浪漫を求める冒険隊が結成された。
~~実録・西絹代探検隊!由比ガ浜の海奥底に、古代の切り札を見た!~~
まず西絹代探検隊隊長、西絹代は由比ヶ浜海岸へと降り立った。
浅瀬の岩場に立ち、意気揚々な探検隊。
西 「古文書に書かれた『大イナル岩ヲ訪ネヨ』・・・・。まずはその岩を見つけるのだ!各員、奮励努力せよ!」
知波単「応!」
西隊長の号令により散開する隊員たち。
かつてここを訪れた際には一切手掛かりは見つけられなかった。
その屈辱をバネに、今度こそ道を切り開こうと探り続ける隊員たち。
その心は熱く燃え滾る!
千鶴 「果たして雪辱は晴らせるのであろうか」
栄子 「・・・・なあ、姉貴」
千鶴 「なあに、栄子ちゃん?」
栄子 「さっきから、その変なナレーション、何?」
栄子隊員が千鶴隊員へ疑問を投げかける。
栄子 「それだよ、それ」
千鶴 「少しだけでも雰囲気を出そうと思って。ほら、宝探しってこういう演出があった方が楽しいと思わない?」
栄子 「いや・・・・私にはよくわかんないわ」
ジェネレーションギャップを感じる千鶴隊員であった。
捜索から十五分が経過。
その時!
知美 「あっ!」
知美隊員が声を上げた!
西 「どうした!」
細見 「見つけたのか!?」
知美 「見てください、アメフラシ!」
岩場の隙間には一匹の大きなアメフラシがウネウネとうごめいていた。
千鶴 「・・・・はっ」
『怪奇!岩の合間でうごめく、不気味な巨大軟体生物の影!』
栄子 「いや、それはもういいから」
それから一時間後。
総員を導入しても、『大イナル岩』は見つからない。
早くも探検隊に諦めの空気が流れ始ていた。
そんな時、
シン 「ハーイ」
シンディーが現れた。
西 「おお、キャンベル殿」
シン 「みんな揃って何をしているの?潮干狩りかしら」
栄子 「いや、岩場で潮干狩りはないだろ」
福田 「かくかくしかじか」
事情を説明する。
シン 「へえ、OBが遺したトレジャーハント。ロマンのある話ね」
西 「お判りいただけますか!」
シン 「ちょっと見せてちょうだい」
西から地図を受け取る。
西 「この始まりの部分、『大イナル岩』を探しているのですが、どうにも見つからず・・・・」
シン 「ふうん・・・・。__あら」
栄子 「どうした?」
シン 「このイラストの岩、似たようなのをどこかで見た覚えがあるわ」
西 「なんと!?」
福田 「どこでありますか!?」
シン 「うーーーん・・・・。どこだったかしら・・・・」
首をひねって記憶を絞り出そうとするシンディ。
シン 「たしか、由比ヶ浜に来たばかりの頃に・・・・」
~~回想~~
由比ガ浜にやってきたシンディーと三バカ。
当然やって来たばかりなので研究所なんてない。
クラー『デハ、この辺リに我々の活動拠点を築きマしょう』
ハリス『どうセなら人目につかナイ場所が好ましいデスね』
マー 『デハ、あそこの岩肌なんてドウでしょう』
クラー『グッドアイデア!』
たどり着いた場所はいいロケーションだった。
人はまず立ち入らず、海もやや離れているので人目にもつきにくい。
クラー『ベストポジション!』
ハリス『デハ、この岩肌をクリ抜いて研究所スペースを確保シマしょう』
マー 『オヤ?』
ふと見ると、岩肌に寄りかかるように巨大な岩が鎮座している。
ハリス『大きな岩ですネ』
マー 『ワイルドな形をしていマス』
クラー『しかし、ここマデ大きいと研究所ヅクリに支障がありマスね。壊シマしょうか』
クラークが懐から怪しい光線中を取り出し、引き金を引くと__
ビビビビビビ!
光線は岩に当たり、
パッ
跡形もなく消え去った。
三バカ『イヤッフーウ!』
マー 『さすがクラーク君の光線銃は性能ガ素晴らシい!』
ハリス『・・・・オヤ?』
クラー『ドウしましたハリス君?』
ハリス『岩の向コう側、ドウやら空洞だったヨウですね』
マー 『ホワッツ?』
確かに、岩があった場所にぽっかりと空いた、戦車一台くらいは通れそうな洞窟が隠れていた。
ハリス『洞窟デしょうか?』
クラー『ドコまで続いてるのデしょう』
洞窟の中を進むと、すぐ開けた大きな空間に辿り着いた。
マー 『ココは・・・・!』
ハリス『岩の奥ニこんな空間が広がっテいたとは・・・・!』
ピーン!と思いついたクラーク。
クラー『どうでショウ。ここを整備して、我々ノ研究所に改造シテみませんカ?』
マー 『ナイスアイデア!』
ハリス『サッソク取り掛かりましょう!』
三バカ『イヤッフーウ!』
~~回想終了~~
絶句する西たち。
栄子 「どうりで岩が見つからないわけだ・・・・」
イカ娘「すでに三バカによって、遺産の隠し場所は支配されていたのでゲソね」
西 「し、して!先代の遺された遺産はどうなったのでありますか!?」
シン 「それがわからないのよ。内部の整備と建築は三バカに任せっきりだったから、何があったとか見つけたものをどこにやったのか知らされてないわ」
福田 「そ、そんな!」
がっくりと膝をつく福田。
細見 「諦めるにはまだ早いぞ!」
玉田 「そうだ!キャンベル殿が分からぬのなら、わかる輩に尋ねればいいのだ!」
西 「キャンベル殿、その三羽ガラス殿らは今どこに!」
シン 「あいつらならこの時間、研究所にいるはずよ」
福田 「ご案内いただけますでしょうか?」
シン 「わかったわ。ついてきて」
場所は変わり、米国地球外生命体対策調査研究所由比ヶ浜支部。
中では三バカがビンテンドー3DSで遊んでいる。
と__
プシュー
入り口の扉が開閉した音がする。
ハリス「オヤ?シンディーが戻ったのデ__」
次の瞬間、ハリスは絶句した。
ギュラギュラギュラ
ギャギャギャギャ
ギャラギャラギャラ
チハ(旧)、オイ、チャーチルといった戦車たちが次々と研究所内の乗り込んできたのだ。
マ 「ホワアアアッツ!?」
驚きゲーム機を放り出し駆け寄るハリス。
バリン、ガキンッ、バチンッ!
ところどころ車体をぶつけ、所内設備を損傷させながら進む。
ハリス「ウェイト!プリーズウェーーイト!」
ハリスの必死の呼びかけに、チハ(旧)が目の前で停まる。
西 「貴殿ら三羽ガラス博士にありますか!?」
クラー「ワッツ?」
シン 「クラーク」
チャーチルを降りたシンディーが歩み寄る。
クラー「シンディー!?コレは一体どう言ウことデスか!?」
シン 「話せば長くなるんだけど。この洞窟は、かつて彼女らの遠い先輩が遺した場所らしいの」
ハリス「ワッツ!?」
シン 「それで、彼女らはここに残されたものを求めてやってきた子というわけ。ねえ、あなたたち研究所を立てるときに内部を整備したわよね」
マー 「アー・・・・」
察したのか、目を逸らす三バカ。
福田 「場所を明け渡してほしいなどと贅沢は申し上げません。ですが、先輩方の遺したものだけはお譲りいただけないでしょうか!?」
瞬間、三バカの顔色が青ざめるのを、見逃さなかった。
まさか、と思い周囲を見渡すと、一本のパイプに目が行った。
清美 「・・・・あの、あそのパイプの一部分って、もしかして・・・・」
細見 「えっ」
慌てて目を向けると、設備に伸びているパイプの一部分が目に見えて違うもので補われている。
玉田 「こっ、これはまさか?!」
西 「チハに使われていた、九七式五糎七戦車砲!?」
福田 「西隊長、こちらを!」
福田に言われて駆け寄ると、そこは何か薬品を入れるような構造になっている機械があった。
その側面一部分が色違いの厚い鉄板が使われている。
よく見ると、表面には『カミ』と書かれている。
西 「まさかこれは、特二式内火艇の側面装甲・・・・!?」
察した隊員たちは散開して設備を隅々まで調べて回る。
玉田 「これはケニの履帯部分!?」
細見 「こっちには三式チヌの砲塔が転用されております!」
清美 「ねえ、これって砲座についてる照準器だよね?」
知美 「他にもよく見ると一部色が違ったりする設備がありますね」
一斉に三バカを見ると__すでに三人とも土下座していた。
三バカ「申し訳アリマせーーーん!」
その後。
栄子 「・・・・つまり、研究所立ててる間に資材が足りなくなってきて、資金不足もあってここに保管されていた戦車を分解して施設に組み込んだ、ってことか」
福田 「あんまりであります!先輩方が我々のために残してくれた遺産を!」
西 「よせ福田!彼らもそんなものとは思っていなかったのだ、責められるものではない」
清美 「ここの中にあった戦車は全部解体してしまったのですか?」
ハリス「ハイ・・・・アッ」
細見 「?」
ハリス「ジツは、この中全てを整備しつクシたわけではアリません」
玉田 「と、言われますと?」
マー 「奥にもう一つ、扉がアリまして」
クラー「ソコだけはマッタク手を付けテいまセンでした」
綾乃 「え?それはどうしてですか?」
案内され、そこに辿り着くと__
栄子 「あー、納得」
イカ娘「うわっ、何でゲソコレは」
一同は理解した。
そこには重厚な鉄扉があった。
ノブはなく、そして目の高さにある位置には、赤く
『封』
と書かれた大きな紙が張り付けてある。
渚 「何でしょうか、これ・・・・」
由佳 「滅茶苦茶『開けちゃいけない』オーラ出まくってますよ」
知美 「開けたら呪われそうですよね」
綾乃 「やだ、怖い!」
クラー「ゴランの通りでシテ」
ハリス「メッチャ怖いデース」
マー 「それデ、今まで放っておいたのデス」
栄子 「だからここだけ手付かずだったのか・・・・。ていうかあんたらアメリカ人だろ。何でこういうの怖がるんだよ」
クラー「我々はコウ見えても信心深イのですヨ」
ハリス「触らぬ神に祟りナシ」
マー 「開けて憑りつかれチャったらタイヘンですから」
シン 「全く、変なところで臆病なんだから」
栄子 「アンタはもうちょっと信じような」
一行は扉の前でどうしたものかと立ち尽くす。
清美 「この場所から考えると、この扉の先も知波単学園の先輩が遺したものがありそうですよね」
栄子 「でも開けるべからず、って書いてあるんだよな」
イカ娘「絶対開けちゃいけないでゲソ!祟られるでゲソ!」
知美 「でも他に残された戦車は解体されちゃいましたし、もうここしか残っていませんよ?」
由佳 「でももし開けて何かあったら・・・・」
栄子 「よし、シンディー頼んだ」
シン 「え、私?」
栄子 「幽霊とか信じてないんだろ?だったら一番適役だろ」
シン 「まあ、いいけれど」
扉の前に立つシンディー。
シン 「あら?」
渚 「どうしました?」
シン 「このドア、ノブがないじゃない」
栄子 「えっ」
うんうんと押してみるが、頑丈な鉄扉はびくともしない。
シン 「ダメね。どこかに開ける仕掛けがあるのかもしれないわ」
言われて周囲を探ると__
シン 「あら、ここにカギ穴があるわ」
よく見ると、ノブがあるべき部分に鍵穴が開いている。
西 「鍵穴、でありますか」
玉田 「となれば西隊長殿、あれがそうなのでは」
西 「おお、そうか」
西は書物を取り出し、添えられていた鍵をシンディーに渡す。
鍵を差し込み、回すと__
ガチャリ
鍵が開く音がした。
細見 「おお、開いたぞ!」
福田 「あの鍵は、この扉の鍵だったのですな!」
盛り上がる知波単勢。
が__
シン 「ねえ、開かないんだけれど」
西 「えっ」
シンディーがうんうんをドアを押すが、扉はうんともすんとも言わない。
シン 「鍵が開いた手ごたえはあったんだけど・・・・まだ仕掛けがあるのかしら」
栄子 「鍵をかけておいて、仕掛けを施すとか面倒なことはしないだろ」
イカ娘「開くように出来ていないなら、開けようが無いじゃなイカ」
イカ娘が触手で扉をぺちぺち叩く。
うーん、と悩んでいると__
細見 「ええい、まだるっこしい!」
チハ(新)に跨った細見が前に出た。
西 「細見、何をする気だ!?」
細見 「開かぬのなら、開けてみせましょう知波単魂!」
ガコン!
一式48口径が鉄の扉を捉える。
マー 「ウェイト!研究所の中デ砲撃は止メテくだサーイ!」
ハリス「機材が壊れてしまいマース!」
福田 「先輩殿、おやめください!人様に迷惑をかけてはなりません!」
細見 「ええい止めるな福田!これも知波単のためなのだ!」
慌てて止めようとする周囲と押し切ろうとする細見。
やいのやいのと持ち合っていると__
渚 「あのー」
清美が鉄扉に手をあてながらおずおずと声を発する。
西 「?斉藤殿、どうなされた?」
渚 「この扉って、引き戸みたいです」
玉田 「へ?」
ガラガラガラ
渚が扉を横に引くと、いともたやすく扉はスライドした。
西 「」
細見 「」
イカ娘「渚、やるじゃなイカ!」
渚 (普通に考えればわかると思うけどなあ)
知美 「考えてみれば、もっと昔の人が設置した扉ですもんね」
由佳 「見た目に騙されちゃったね」
かくして扉は開き、中に乗り込む一行。
扉の先には持っていけないので、戦車は置いていくことに。
扉の先は研究所の中と打って変わって自然の洞窟となっており、明かりもなくゴツゴツした岩肌が露出している。
福田 「真っ暗であります!」
西 「しまった、明かりを持ってこなかったぞ」
玉田 「細見、今こそ知波単魂の見せ所だ!最前線にて吶喊するといい!」
細見 「いやいや何を言う、吶喊こそ玉田の得意とするところだろう!」
玉田 「いやいやいや」
細見 「いやいやいやいや」
シン 「研究所の中に懐中電灯がないか見てくるわ」
イカ娘「その必要はないでゲソ」
イカ娘がすうっと息を吸うと、ぱあっと発光能力で光り始めた。
西 「おお、なんということだ!」
細見 「これは僥倖」
渚 「フラッシュするのはやめてくださいね」
玉田 「しかし、少し光りすぎではあるまいか?」
栄子 「あー、無理無理。こいつ明るさを制御するとかそういう細かいことできないから」
イカ娘「その言い草は何でゲソ!まるで融通の利かない不器用イカみたいに聞こえるじゃなイカ!」
栄子 「違うのか?」
イカ娘「ぐぬぬぬぬ」
西 「おふた方落ち着いてください。この明かりがあるだけで我々は大助かりなのです。玉田、滅多なことを言うものではないぞ」
玉田 「はっ、申し訳ありません!料簡の狭い発言でありました!」
栄子 (りょうけん・・・・?)
しばらく進むと、開けた場所に出た。
その場所は吹き抜けのような竪穴だった。
真上には天井はなく、青い空が見える。
栄子 「由比ガ浜にこんな場所があったのか」
清美 「とても大きい風穴ですね」
綾乃 「なんだか神秘的です」
シン 「何なのかしらここ。もしかして宇宙人の秘密基地とか!?」
栄子 「宇宙人研究する施設の隣に宇宙人の秘密基地ってどうなんだそれ」
周囲を探るが、先に進む道は見当たらなかった。
由佳 「あっ」
上を見ていた由佳が声を上げる。
西 「西村殿、どうなされました?」
由佳 「あそこ見てください。ほら、竪穴の中間くらいの所」
玉田 「むう・・・・?」
由佳が指さしたところを見ると、岩肌から一部分だけ大きく突出した部分がある。
福田 「ずいぶん大きくせり出しているでありますな」
由佳 「あそこ、上に何か乗っていませんか?」
玉田 「なんだと?」
言われてみると、突出した岩の上に何か乗っているのが分かる。
しかし岩の陰に隠れ、何があるかまではわからない。
清美 「うーん・・・・確かに何かあるんだけど、舌からじゃ上手く見えませんね」
イカ娘「下から見えないのなら__」
清美 「え?」
イカ娘「上から見ればいいじゃなイカ!」
ビョーーーーーン
イカ娘が触手を伸ばし高く体をを持ち上げる。
高台以上にまで登り、場所を見下ろす。
イカ娘「む?」
西 「イカ娘どのー、何がありましたでしょうか!?」
イカ娘「戦車が一両置いてあるでゲソ!」
細見 「なんと!?」
一人高台に降り立ち、戦車を調べる。
知美 「イカせんぱーい、どんな戦車なんですかー?」
しかし戦車道を始めたばかりで詳しくないイカ娘。
イカ娘「うーむ、私にはわからないでゲソ。チャーチルでないことは間違いないでゲソ」
栄子 「幅広すぎだろ」
イカ娘「だったら栄子が見ればいいじゃなイカ」
しゅるっ
栄子 「うおっ」
イカ娘が触手で栄子を掴み、高台へ持ち上げる。
いざなわれた栄子も戦車を調べる。
栄子 「・・・・ふむ」
イカ娘「どうでゲソ?何か分かったでゲソか?」
栄子 「・・・・チャーチルでないことは確かだな」
イカ娘「幅広すぎでゲソ」
聞こえないふりをする栄子。
イカ娘「私たちじゃわからないから、皆にも見てもらうでゲソ」
しゅるしゅるしゅる
次々と触手が伸び、清美・由佳・知美・綾乃らを高台へ運ぶ。
シン 「うーん・・・・構造的に、チハに似ているようにも見えないかしら」
渚 「言われてみれば・・・・デザインや丸みのある車体も近いものがありますね」
綾乃 「それじゃあ、これは日本戦車なんですね」
清美 「ここは知波単の先輩たちが遺した場所みたいだし、そう思っていいかもしれないね」
知美 「でも何ていう戦車なんでしょう?」
由佳 「うーん、私たちじゃわからないよ。西さんたちに聞くしかないかも」
イカ娘「おーい、西よー」
西 「何でありましょうか」
イカ娘「私たちじゃ何の戦車なのか分からないでゲソ。そちらが見て確かめてくれなイカ?」
西 「承知いたしました!」
イカ娘「それじゃあ・・・・」
しゅるっ
上に運ぼうと触手を伸ばすも、西はそっとそれを拒む。
イカ娘「む?」
西 「烏賊娘殿、申し訳ないがそれは辞退させていただけますか」
イカ娘「どういう意味でゲソ?」
西 「思えば本日、事あるごとに我らの問題出るにもかかわらず、あらゆる問題を烏賊娘殿らに解決していただいてばかりです。これらは本来、我らが自力で切り開くべき事案だと言うのに・・・・!」
西は悔しそうに地を見つめる。
西 「ですから、ここから先はせめて烏賊娘殿らの力を借りずに我が力のみで道を切り開きたいのです!」
渚 「えっと、その考え方は立派ですけれど、どうやってそこからここに__」
西 「燃やせ!知波単魂ーっ!」
知波単「応っ!」
西の号令に応えた知波単勢たちが岩肌にしがみつき、なんとよじ登り始めた。
清美 「ええっ!?」
シン 「ワーオ、フリークライミングね」
知美 「危ないですよ!無茶はしないで下さい!」
福田 「心配は無用です!我ら知波単学園の心情は、健康な精神は健康な肉体にこそ宿るであります!」
玉田 「そうとも!生半可な鍛え方などしておらんのだ!」
言うだけはあってどんどん石壁を上り続けている。
清美 「あっ、気を付けてください!そこ一体は濡れていま__」
ズルッ!
清美が言い終わる前に西の掴んだ石がぬめり、西がバランスを崩す。
西 「!」
清美 「西さん!」
西の体が宙に放り出され、イカ娘が瞬時に触手を伸ばそうとすると__
ガシッ!
西は即座に近く似合った岩を掴み、落下を免れる。
ほっとする清美。
その後はアクシデントもなく、西たちも高台へとたどり着いた。
清美 「もう、心臓が止まるかと思いました」
西 「心配をかけて申し訳ない。ですが、これは知波単学園の者として譲れない矜持ともいえるものなのです」
イカ娘「人類はめんどくさい奴が多いでゲソ」
かくして辿りついた西たちが高台に鎮座している戦車を調べる。
西 「ふむ、この形式は間違いなく日本戦車のそれでありますな。しかしこのようないで立ちの戦車、我が知波単学園でも見かけたことはありませんが・・・・。いやしかし、ううむ・・・・」
細見 「この砲身、七糎半戦車砲ではありませんか?他戦車の75ミリ砲と酷似しております」
玉田 「七糎半戦車砲を取り付けた戦車?それでいてこのいで立ちをした戦車など見たことが無いぞ」
福田 「・・・・」
それまで黙って調べていた福田だったが、
福田 「恐れながら進言いたします!」
突如声を上げる。
細見 「うおっ、どうした福田!?」
西 「なにか気が付いた点があるのだな?」
福田 「はっ!この装甲、備え付けられた二砲門、そして七糎半戦車砲なら鑑みるに、これは五式戦車かと思われます!」
玉田 「何だと!?」
細見 「五式だと!?」
西 「よもやとは思ったが、やはりそうか・・・・」
綾乃 「ねえねえ、五式ってどんな戦車?」
戦車に疎い綾乃が耳打ちする。
知美 「えっ、私に聞かないでよ。戦車の知識なんて似たり寄ったりなんだから」
由佳 「そうそう。オイのことだって全部わかかってないのに。部長じゃあるまいし、ねえ部長?」
清美 「ええっ!?」
急に話を振られ、答えに戸惑う清美。
福田 「五式、正式名称五式中戦車チリは、第二次大戦中の日本軍最後の戦車であります」
助け舟を出すように、福田が答える。
渚 「最後の戦車?」
西 「完成するもそれは終戦直前のことで、一両しか開発されなかった幻の試作車両であります」
栄子 「マジか」
福田 「並の装甲は跳ねのける重装甲、攻撃力に不足のない75ミリ砲身、そして最高速度はアンツィオのCV33にも匹敵するほどの機動性を兼ね備えた、まさに日本軍最新鋭の戦車であります」
西 「だが終戦の憂き目にあい、日の目を見ることなく表舞台から消えたと聞いている。その五式に、まさかかような場所でお目にかかるとは」
清美 「そんなすごい戦車だったんですね」
知美 「きっと、西さんたちの先輩方はこの戦車を後の後輩たちに渡したかったんですよ」
玉田 「西隊長殿、これは大きな収穫です!」
細見 「これを知波単へ持ち帰れれば、我らの戦力は大幅に跳ね上がります!」
玉田 「この重装甲と速力ならば、陣の中央に置いて先陣を切るにも任せられましょう!」
福田 「加えてこの砲撃力であります、必ずや相手の戦車も一撃粉砕に合わせられます!」
思った以上の収穫に色めき立つ知波単勢。
シン 「うーん・・・・」
だがシンディーは浮かない顔をしている。
栄子 「どうした、シンディー?」
シン 「え?ああ、確かにいい戦車だと思うんだけど、色々と府に落ちないのよ」
イカ娘「腑に落ちない、でゲソか?」
シン 「ええ。これがいい戦車だというのはわかったわ。残された書物からも、知波単の過去の卒業生たちが遺したものであるのもわかる。・・・・だとしたら、この状況は不自然じゃない?」
西 「と、言いますと?」
意味が理解できない西。
渚 「つまり、シンディーさんが言いたいのは『どうして使わずここに隠していたか』ですよね?」
イカ娘「あっ」
シン 「そう。日本戦車で、かつ高性能。なら、普通手元に置いて使うのが道理よね?それをせず、ここに隠した。でも、記録に残して後世の子たちに見つけられるようにした。その理由は何だったのかしら」
言われてみれば、と考え込む。
シン 「あと、研究所になる前に置いてあった戦車たち。あれも、どうしてあそこに置いてあったのかしら?知波単学園の戦車なのに、どうして由比ガ浜の洞窟に放置していたの?」
清美 「それに__」
続いて清美が口を開く。
清美 「この戦車、『どうやってここに置いた』のでしょうか」
西 「!」
この竪穴は相当大きい。
しかし、ここは行き止まりで来た道以外に道は続いていなかった。
つまりこの戦車は今現在の研究所から延びる洞窟を通ってここに運ばれてきたわけではないと思われる。
他に方法があるとすれば__
一同は上を見上げる。
栄子 「いや・・・・それこそ有り得ないだろ」
竪穴を登った先がどこに続いているかはわからないが、竪穴の高さは全長で50mはある。
今イカ娘たちが立っている岩場の上に戦車を置くならば、上から戦車を吊るし降ろすしかない。
そうだとしても、そうする理由が思いつかない。
イカ娘「まるで、この戦車を外に出さないために置いているみたいでゲソ」
栄子 「どういうこった。それこそ封印みたいじゃんか」
そこまで言ってハツとする栄子。
ここまでに続く道、入り口である鉄扉に貼られていた赤い『封』の文字を思い出す。
ゾッ__
途端に背筋が寒くなり、一同は口を閉ざしてしまった。
知美 「あの・・・・どうしましょう」
西 「・・・・」
西たちは難しい顔をして黙っていた。
しばらくそのままにしていたが__
福田 「西隊長殿」
最初に口を開いたのは福田だった。
福田 「・・・・五式は、ここに置いていきましょう」
細見 「福田!?」
玉田 「ここまで来てみすみす!?」
西 「よせ」
西の制止で押し留まる。
福田をじっと見つめるが、福田もじとt目を逸らさず見つめ返す。
やがて西はふっとほほ笑みを浮かべた。
西 「どうやら__この遺産はまだ受け取るわけにはいかないようだな」
細見 「!」
玉田 「・・・・」
細見たちは不服そうには見えたものの、何も言い出しはしなかった。
しゅるっ
下りは全員イカ娘の触手で降りる。
西 「ありがとうございます」
イカ娘「せっかく見つけたのに、残念でゲソ」
福田 「たしかに五式を手に入れれば知波単戦車道の戦力強化は著しいであります。ですが、その理由であの五式をここから持ち去ることが正しいこととは思えません」
西 「大先輩方が何故かのような場所に五式を置いたのか、何のための備えなのか__我々に何を伝えたいのか、それが分かるまで我らにはこれを受け継ぐ資格は無いと思われます」
清美 「あの子が、ここにいる理由、ですか・・・・」
西たちは上を見上げる。
五式は、訪れた時と同じように高台にそびえていた。
千鶴 「そうだったの。残念ね」
海の家れもんに戻って来た一同は、千鶴にことの全てを説明した。
西 「この度は、我らの都合でお騒がせいたしました」
細見 「大先輩方の遺産の発見も、皆さまのご助力あってのことです」
渚 「でも、不思議な戦車でしたね。普通じゃ登ることさえ難しい崖の中腹に置いてあるなんて」
西 「__そのことについてなんですが」
イカ娘「む?」
福田 「一度、我々は本拠地へ戻ることと相成りましたであります」
栄子 「えっ、そうなの?」
玉田 「あちらには本校の卒業生の方も多数おられます。かようの方々から話を聞けば、必ずやあの五式について知っている方に辿り着けるはず」
西 「故に、一度引き返す決断を下した所存であります」
清美 「そうですか・・・・」
由佳 「残念ですけど、仕方ないですね」
西 「紗倉殿らにも申し訳ない。もっと我らが手ほどきをするべきだとは承知しているのですが」
清美 「いえいえ、とんでもない!ここまで教えていただけたんですから、あとは自分たちで何とかします」
知美 「それに、またこっちに来られるんですよね?」
福田 「それはもちろんであります!必ずや五式の有力な情報を掴み、再びこの地を訪れるつもりであります!」
綾乃 「頑張ってくださいね!私も楽しみにしています!」
ボオーーーッ・・・・
こうして知波単学園の学園艦は、西らを乗せて彼女らの本拠地、千葉へと帰っていった。
渚 「あの謎、解けるといいですね」
イカ娘「戦車を崖に置きっぱなしにするなんて、やはり人類の考えはわからないでゲソ」
栄子 「そういえば聞いたことある。大洗のアヒルさんチームの八九式も、崖の中腹に位置するくぼみに放置されたのを見つけたものだ、って」
シン 「五式も八九式も日本戦車よね。__何か関係があるのかしら」
清美 「大洗女子学園は茨城の学園艦ですし、さすがにこちらには関係がないような気もしますが・・・・」
千鶴 「いずれにせよ、私たちにはこれ以上わからないわ。あとは西ちゃんたちに任せましょう」
知波単学園艦デッキで、遠ざかる由比ガ浜を見つめる福田。
西 「名残惜しいか?」
福田 「西隊長殿。・・・・むしろ、闘志が湧いてくるであります!」
西 「ほう!」
福田 「隊長殿!必ずや五式の謎を解き明かし、再びここへ参りましょう!」
西 「うむ、よく言ったぞ福田!その諦めぬ心こそ我ら知波単学園に相応しい!」
決意を新たに、西と福田はいつまでも由比ガ浜を見続けていた。
夏編最終話なのに謎が増えてしまいました!
もちろん五式の話は形を変えて続いていきます。
そういえば、ようやく涼しい日が多くなってきましたね。
やっとあの連日の猛暑から解放され、快適な夜がやってきました。
これで少しは筆の進みが早くなれば・・・・いいですねえ(遠い目