侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


カエサル→カエ
エルヴィン→エル
おりょう→おりょ
左衛門左→左衛門

ナカジマ→ナカ

シンディー→シン


第3話・試してみなイカ?

バアン!

シュポッ

 

由比ガ浜にある砂地演習場で、イカ娘のチャーチルが白旗を上げる。

 

イカ娘「ゲッソー・・・・」

 

キューポラの上でぐったりするイカ娘。

 

玉田 「やったぞ!またしても我々の勝利だ!」

細見 「これでまたしても日本の平和は守られたぞ!」

渚  「また負けちゃいましたね」

シン 「全戦全敗。あの子たちとは相性悪いのかしら」

イカ娘「そんなことないでゲソ!見るでゲソ!」

 

演習場は死屍累々、玉田をはじめ細見、寺本、福田、西さえも白旗を上げている。

そんな中ピンピンしているのが・・・・

 

相原 「お相手、ありがとうございました♪」

栄子 「やっぱ強いなあ、あね・・・・相原は」

 

いつも最後の一人として立ちはだかってくる、相原である。

 

イカ娘「あ奴さえいなければ、今頃知波単は私の配下になっているものを!」

渚  「仕方ないでしょう?知波単の皆さん全員を倒したら配下にする、という約束だったはずですよ」

イカ娘「・・・・、半分以上倒したら、という条件に変更できないでゲソか?」

渚  「前言撤回するんですか?海の使者ともあろう人が」

イカ娘「うっ」

栄子 (渚ちゃん、イカ娘の扱いがうまくなったなあ)

 

勝利にはしゃぐ知波単勢。

そんな中、西と福田だけは複雑な表情をしていた。

そんなある日、知波単学園内にある作戦会議室にて。

 

西  「では今年度三十八回、知波単戦略会議を始める」

細見 「待っておりました!」

寺本 「今後の突撃についての立案会でありましょうか!」

玉田 「いやいや、突撃精度を高めるための訓練を話し合うべきでは?」

細見 「よしんば突撃必勝攻略法を編み出されたのではあるまいか!?」

玉田 「なんと!それは僥倖であるな!」

 

やいのやいのとはしゃぎまわる隊員たち。

おほん、と息をつく西。

 

西  「今回の議題は・・・・先の烏賊娘殿との勝負を顧みることから始めたい」

寺本 「おお、あの勝負からですか!」

玉田 「あれもまた名勝負でありましたからな!」

寺本 「よもやチハにあのような動きが出来たとは、存じませんでした!」

細見 「相原には、幾度も助けられていしまいましたな!」

西  「ああ・・・・。まあ、そこなんだが・・・・」

細見 「そこ、とは?」

寺本 「ああ、あの相原の突撃のことでありますか!」

玉田 「おお!あれには驚いた!どれほど鍛錬すればあれほどの鋭さを纏えるものだろうか?」

 

と、またもわいわいはしゃぐ。

纏まりのない一同に西がどうしたものかと悩んでいると__

 

福田 「恐れながら申し上げます!」

 

福田が勢いよく席を立ち声を上げる。

 

福田 「西隊長は、恐らく今の状況を危惧していらしているのではないでしょうか!」

西  「!」

寺本 「現状を危惧、と?」

福田 「はい!思えばイカ殿との対決は、ほぼ相原殿のご助力あっての勝利、我らの力のみで勝ち得た戦いは数えるほどしかありません!」

玉田 「!」

細見 「そ、それは・・・・!」

 

福田に言われて言い淀む一同。

毎度の勝利に沸いてはいるものの、思うところはあるようである。

 

福田 「かくいう自分も、恥ずかしながら未だイカ殿に単身勝利したことはありません!これは、由々しき問題であると言えるのではないでしょうか!」

西  「福田・・・・」

 

自分の発言により、一転空気が重くなったことに気が付く福田。

 

福田 「も、申し訳ありません!若輩者の身でありながら、過ぎた発言でありました!」

西  「よく言った!」

玉田 「西隊長!?」

西  「みんな、現実から目をそらしてはいかん!我々は自分の手で烏賊娘殿の野望を阻止し更生へ導くと誓ったのだ!それは我々自身だけの手で掴まねば意味がない!」

細見 「うむ!隊長殿の言うとおりだ!」

 

口々にそうだそうだと共感し始める隊員たち。

 

福田 「先輩方・・・・!」

西  「そこでだ。今回の議題、実は私から提案がある。・・・・これだ!」

細見 「これは!」

 

西は取り出した紙を黒板に張り付けた。

そこには・・・・

 

『風林火山』

 

と書かれていた。

数日後。

由比ガ浜にある戦車演習場を、清美たちバドミントン部の面々が歩いている。

 

清美 「西さんからお誘いなんて、どうしたんだろう?」

綾乃 「特訓するから手伝ってほしい、って言ってましたよね」

知美 「言われたからオイも持ってきましたけど、何に使うんでしょうね?」

由佳 「まさか、デカくて硬いから的にでもするつもりじゃ!」

清美 「そ、それはさすがにないと思うけど・・・・」

 

と、指定された場所に西の姿が見える。

そこには大勢の人が集まっていた。

 

西  「お集まりいただき、まことに恐縮であります!」

 

演習場には、整列する知波単学園の面々と__

 

典子 「特訓って聞いたけど、何をするのかな!?」

あけび「ブロックの練習しょうか?」

忍  「戦車道の練習でしょ?」

妙子 「じゃあ中間をとって、ジャンプレシーブに見立てたジャンプ砲撃の練習とか!」

 

アヒルさんチーム。

 

杏  「呼ばれたからには責任は果たさないとね~。知波ちゃんのためなら一肌脱ぐよ~?」

柚子 「・・・・会長、その大量の干し芋は、どこから?」

桃  「先日、知波単名義の段ボールが大量に届いたのは知っていたが、もしや・・・・」

 

カメさんチーム。

 

おりょ「いったい何のために呼ばれたんぜよ?」

カエ 「我らの腕前を見込んでの頼み、とは言われたが」

左衛門「決闘の助太刀、という訳ではなさそうだな」

エル 「先の借りを返すいい機会だ。全力で応えよう」

 

カバさんチーム。

 

そど子「~♪」

パゾ美「そど子、機嫌いいね」

ゴモヨ「知波単のみんなお気に入りだもんね」

そど子「そうよ。彼女らほど風紀が整っている品行方正な学生はいないわ!」

 

カモさんチーム。

 

ホシノ「私らが呼ばれたってことは、オーバーホールかなんかかな?」

ツチヤ「知波単ってことは、・・・・あれ?どこをいじればいいんでしょう?」

スズキ「むしろ重戦車にしちゃおっか?」

ナカ 「何にせよ、どんなオーダーが来るか楽しみだねー」

 

レオポンさんチームらがスタンバイしていた。

 

清美 「うわあ、大洗女子の人たちだ」

由佳 「アヒルさんチームの方たちもいますよ」

綾乃 「戦車もいっぱいありますねー」

知美 「私たち、場違い感しません?」

西  「皆様をお呼びしたのは他でもありません。我ら知波単学園はさらなる戦車道の昇華を目指すため、一念を発起した次第であります」

杏  「かいつまんで言うと~?」

西  「これを実践したいのです!」

 

バッと巻物を開く。

そこには『風林火山』と書かれていた。

 

左衛門「おお、武田信玄の軍旗!」

おりょ「正確には孫子ぜよ」

典子 「それは、バレーにどういった関係が!?」

あけび「多分、ないと思いますー」

西  「我らに足りないものを考えてみました」

ホシノ「風林火山で?」

西  「はい!」

 

西はチハ(旧)に手をあてる。

 

西  「ご存知の通り、我らは烏賊娘殿の侵略を思いとどまらせるため連日勝負を行っています。しかし我らの力不足ゆえ、未だ完全に決着はつけられません」

エル 「今回、そのためにテーマに沿うと?」

西  「はい!我らに足りぬものを補うため、是非皆様方の知恵と経験をお借りしたいのです!」

柚子 「具体的には?」

西  「は!まず__」

 

説明が終わり、各員が位置につく。

そど子たちは特訓の『出番待ち』のため、観覧席から見渡している。

近くには清美も待機している。

 

そど子「聞いたところ、あなたイカ娘さんの友人だそうね?」

清美 「えっ?あっ、はい、そうです」

 

見定めるように清美をじろじろ見るそど子。

 

清美 「あの、どこかおかしいでしょうか・・・・」

そど子「・・・・」

 

一歩、清美に歩み寄り__

 

そど子「合格よ!」

清美 「えっ!?」

 

そど子は満面の笑みで清美の両肩を掴んだ。

 

そど子「日本女子の命、美しい黒髪。長い髪をおさげにまとめた清純な髪型。一切の化粧っ化のない純朴な美意識。華美さを強調しすぎない質素なメガネ!風紀を大いに守っているわ!」

清美 「は、はあ・・・・」

そど子「あなたのような子が増えれば、戦車道の未来は清い乙女たちばかりになるわ!これからも頑張って!」

清美 「はい、精進、します・・・・?」

ゴモヨ「すごく高評価だね」

パゾ美「あそこまで規則正しく美しくを地で行く子はないよ」

 

そど子の謎のテンションに戸惑う清美だった。

 

西  「紗倉殿、ご準備をお願いします!」

清美 「あっ、はい!では園さん、またあとで!」

 

西に促され、清美は準備のために去っていった。

 

左衛門「見てて気持ちのいい子だな」

カエ 「あそこまで礼儀正しい子はそうはいないだろうな」

おりょ「準備と言ってたぜよ。もしかして、清美ちゃんたちも戦車に乗るのぜよ?」

エル 「かもしれんな。だとしたら先達として、胸を貸してやらんとな」

 

などと話していると、奥から清美たちのオイが姿を表す。

 

そど子「ちょ・・・・」

 

青い顔をして絶句するそど子。

 

ゴモヨ「わあ、重戦車だ」

パゾ美「すごいの乗ってるねえ」

 

~~回想~~

 

第63回全国戦車道大会にて。

 

市街地にてマウスと対峙するそど子たちのルノー。

 

そど子『でっかいからっていい気にならないでよ!こうしてやるー!』

 

ドガアン!

 

直後、マウスの砲撃をまともに食らい吹き飛ぶルノー。

 

~~回想終了~~

 

そど子「何よあの重戦車!校則違反よ!」

パゾ美「さっきまであんなに褒めてたのに」

ゴモヨ「重戦車とみると態度変わるねー」

カエ 「じゅ、重戦車・・・・!」

左衛門「よりによってあんなのに乗っていたとは・・・・」

おりょ「あれはトラウマぜよ・・・・」

エル 「むう・・・・」

 

~~回想~~

 

左衛門『おのれ!カモさんチームの仇!』

 

ドガアン!

 

直撃を受けひっくり返る三突。

 

~~回想終了~~

 

顔色の悪くなる両チームだった。

やがて位置につき、堂々と構える清美たちのオイ。

 

西  「ではまず、『風』からだ!細見、用意はいいか!」

細見 『無論であります!』

 

無線機からの返事から間もなく、細見のチハ(旧)が現れる。

 

桃  「ん?見たところ普通のチハのように見えるが・・・・」

杏  「ちょいと痩せ気味っぽいね~」

柚子 「装甲を削っているように見えますね」

 

現れた細見のチハ(旧)は、ところどころの装甲を排除し、まるで軽戦車にも見えるほどの軽さと軽装甲を実現している。

 

おりょ「あれじゃ当たったらイッパツぜよ」

エル 「まさかあれでオイとやりあうつもりか!?」

西  「では、両者位置について・・・・はじめ!」

 

試合が始まり、チハ(旧)が急加速で前に出る。

 

桃  「いきなり前に出た!?」

杏  「攻めるねえ」

清美 「前から来たよ!落ち着いて狙って!」

 

副砲の砲手に指示を回し、狙いをつける。

 

清美 「撃って!」

 

バアン!

 

細見 「恐れるな!進め!」

 

副砲から放たれた砲弾は弾道は合っていたものの__

 

清美 「外れた!」

知美 「あの戦車、速すぎ!」

 

装甲をはがしたチハ(旧)の動きは予想以上に素早く、清美たちの腕前では捉えきれない。

 

細見 「狙い通りだ!あちらさんはこちらの速度についていけないぞ!」

隊員 「これはいけるであります!」

 

あっという間に距離を詰め、目と鼻の先まで差しかかると__

 

由佳 「ええい、うろちょろとー!」

 

ガキョン!

 

速度で翻弄してくる細身にしびれを切らしたのか、由佳が手法でチハ(旧)に狙いを定める。

 

細見 「まずい!てんし__」

 

ドゴオオオオン!

 

オイの主砲が火を噴き、近距離に着弾する。

 

細見 「うわあああ!」

 

極限まで軽量化したチハ(旧)は、その衝撃だけで吹っ飛び横転、そして白旗を上げた。

 

ナカ 「あちゃー、抜きすぎちゃったかな」

ホシノ「スピードは出たけど、軽すぎて吹っ飛んじゃったな」

 

西から要望を受け改造を施した自動車部の面々が反省を口にする。

 

西  「いえ、要望通りの素晴らしい出来栄えでございました。細見もよくやった!」

細見 「っしょっと、光栄であります!」

 

ひっくり返ったチハ(旧)から顔を覗かせた細見が敬礼した。

 

典子 「なるほど!風林火山の『風』!」

あけび「速きこと風のごとく、ですね!」

忍  「バレーにおいても疾風の攻めは必須の戦術!」

妙子 「これは参考になりましたね!」

 

アドバイザーとして軽量化に携わったアヒルさんチームも感想を口にした。

 

清美 「すいません、大丈夫ですか!?」

細見 「うむ!堂々たる攻め、見事だったぞ!」

由佳 「あはは、ありがとうございます!」

そど子「テーマに沿った改造を施した知波単戦車で、清美ちゃんたちのオイにぶつけて実践訓練・・・・」

エル 「改造を施すのはいいとして、相手が悪すぎないか?」

西  「我らが目指すは烏賊娘殿との決着です。紗倉殿のオイを制することが出来た暁には、必ずや烏賊娘殿との完全決着もつけることが出来ましょう」

おりょ「イカ娘のチャーチルを制するより、改造したチハでオイを御する方がよっぽど難関ぜよ」

カエ 「風林火山の『風』は、軽量化による早期決着か・・・・。なら、次の『林』は・・・・?」

西  「では次!『林』、前へ!」

 

撤収を手早く済ませ、次に現れたのは玉田のチハ(新)。

・・・・なのだが・・・・、

 

そど子「なに、あのチハ!?」

ゴモヨ「砲塔がないねー」

パゾ美「まるで駆逐戦車だよー」

 

玉田のチハ(新)も同様に改良を施され、まるっと砲塔が取り外されている。

砲塔のあった部分には、一式四十七ミリ戦車砲が取り付けられている。

 

柚子 「すごく・・・・強引な改造になっちゃってますね」

杏  「こりゃ、知波単のシャコタンだねえ」

桃  「ぶふっ!?・・・・会長!急に笑わせないでください!」

 

『林』の改造アドバイサーのカメさんチームの面々が観戦している。

 

ナカ 「言われた通り砲塔外しちゃったけど、だいじょぶかなあ?」

ホシノ「とりあえずの安全性は確保できてるが、視界と操作性がちょっとねえ」

スズキ「その辺りは腕しだいになるね」

西  「では、始め!」

 

西の号令で開始されたが__

 

清美 「あれ・・・・?どこ?」

 

清美はチハ(新)を探すが、どこにも見当たらない。

 

綾乃 「こっちからも見当たりませんね・・・・。隠れているんでしょうか?」

知美 「でも、さっき戦車の音は聞こえたよ。ぜったい近くにいる」

 

注意深く周囲を探るが、今は音も姿もない。

 

玉田 「作戦成功だ。紗倉殿は完全にこちらを目視できていない!」

 

車高を極端に低くしたことにより車体が稜線に隠れ、その影を伝うように移動することでオイから見えない角度でゆっくりと近づいて行っている。

もし気づかれず近距離まで忍び寄れれば、履帯を狙った勝利を狙うことが出来る。

 

由佳 「厄介だなあ・・・・。どこにいるかさっぱりわからない」

杏  「徐かなること林の如く、か~」

西  「はい。カメ殿の伏せてからの攪乱と一撃、今の我々に足りない戦術の要素だと思えるのです。先の大会の黒森峰を翻弄されたあの伏兵戦術、目を見張るものがありました!」

杏  「いや~、すごく評価してもらっちゃって照れるねえ」

柚子 「うーん、だけど・・・・」

桃  「どうした?」

柚子 「オイに、あの砲だと・・・・」

 

柚子の心配は直後に当たった。

着実なコースで有効範囲に入ったのだが__

 

玉田 「今こそ好機!突撃ー!」

 

ついに玉田のチハ(新)が急に稜線から真っすぐオイに向かって突撃を敢行した。

 

清美 「!左から来たよ!」

知美 「了解!旋回します!」

 

距離を十分詰め、チハ(新)は完璧にオイの側面を捉えていた。

そして__

 

玉田 「てぇーっ!」

 

ドオン!

 

玉田の渾身の一撃がオイの側面に直撃した。

 

綾乃 「きゃあっ!」

 

着弾の衝撃で揺れるオイ。

 

桃  「おおっ、当たったぞ!」

 

しかし__

 

玉田 「なんと・・・・!」

 

それでもオイの側面装甲を貫通させるには至れなかった。

そして、旋回し狙いを定めた副砲が火を噴く。

 

ドオン!

シュポッ

 

チハ(新)は撃破された。

 

柚子 「あーあ・・・・」

杏  「四十七mmじゃ側面も抜けないよね~」

ナカ 「いやあ、砲塔取っちゃうと重量的にあれくらいしか取り付けられなくって」

スズキ「機動と潜伏を上げる代わりに、火力が犠牲になっちゃったね」

ツチヤ「そう考えると、ヘッツァーっていいデザインしてますね」

西  「課題はまだまだあるということですな。玉田、見事だった!」

杏  「うん、でもいい戦いだった。私たちも負けてらんないねえ」

 

杏は干し芋を一気に三枚ほおばった。

 

あけび「発想は悪くなかったんですけどねー」

典子 「トリックプレーは技術力の粋!練度を高めたら、あとは根性だ!」

西  「次!『火』、前へ!」

福田 「はっ!」

 

今度は福田の駆る九五式軽戦車。

の、はずなのだが__

 

そど子「なに、あれ?」

ゴモヨ「軽戦車に、すごい砲がついてるよ?」

パゾ美「あれは70mmは出てるんじゃない?」

 

福田の乗る、『火』改良を施した九五式。

その砲塔には不釣り合いなほど大きめな、五式75mm砲が取り付けられている。

それが、かなり遠めの距離から迫ってきている。

 

清美 「すごく遠い・・・・。あの距離じゃ、ここから当てるのは難しいよ」

由佳 「そうですねー。近づくのを待つしかありませんよ」

 

と、有効射程に入るのを待つ作戦のオイチーム。

しかし__

 

バアン!

 

清美 「きゃあっ!?」

 

オイの正面装甲に着弾の煙が上がる。

 

綾乃 「あの距離から当ててきましたよ!?」

知美 「まだまだこれくらいじゃ装甲は抜けないけど・・・・このままだとやられっぱなしだよ!?」

 

予想していなかった福田の九五式の遠距離戦法に、苦戦するオイチーム。

 

カエ 「見たか!あれぞ、機動と火力を兼ね備えたローマが誇る弩弓戦車からヒントを得た、バリスタクアドリロティスカスタム!」

おりょ「いやいや、機動と火力を語るなら四斤山砲も忘れちゃならんぜよ」

左衛門「大砲と言えば大筒を抜かしては話にもなるまい。台車に乗ったその姿は、まさに戦車の原型そのものと言えよう?」

エル 「そして、それらの歴史すべてを詰め込んだ理想の完成形こそ、三突という訳だな!」

三人 「わかる!」

ナカ 「いやあ、あれにはなかなか骨が折れたね」

ツチヤ「軽戦車に75mmですからねー。バランスとるために後部に追加装甲施しちゃったから、だいぶ重量ましちゃってますね」

ホシノ「軽戦車が重量増すって、それどうなんだ?」

スズキ「まあ、一定の速度は確保できてるし、あれは成功の部類に入ると思うよ」

 

軽戦車ながらに高火力、そして砲の重さに振り回されない計算された重量調整によって、軽快な遠距離砲撃を実現させている。

 

寺本 「しかし西隊長殿、一言よろしいでしょうか?」

西  「うん?どうした」

寺本 「火力を上げるのも、試合に有利なのもそれは上々なのですが__」

 

西は、寺本の言いたいことをすぐ理解した。

福田はあまり距離を縮めたりはせず、自分の有利、かつ相手の有効射程に入らないよう距離を取りながら砲撃を続けている。

 

寺本 「あれではとても突撃とは言えません。勝利のために知波単魂を忘れていいものなのでありましょうか!」

 

寺本は叱責を覚悟で西に意見し、ぎゅっと目をつぶる。

そんな寺本に、西はふっとほほ笑みを浮かべた。

 

西  「寺本よ、『火』の相談役はどなたかわかるか?」

寺本 「はっ!大洗女子学園の、カバさんチームの方々にあります!」

西  「では、カバ殿たちの乗られる戦車は?」

寺本 「はっ!三号突撃砲であります!__はっ!?」

 

言ってから何かに気が付く寺本。

 

西  「そう。カバ殿らは『突撃』砲に乗っておられるのだ!なれば、カバ殿の監修された戦車も、彼女らの『突撃』を引き継いでいるとは思えないか?」

寺本 「なるほど!」

杏  「それ、突撃って言葉でごまかしてない?」

エル 「我らの三突も、突撃砲とは言うが本当に突撃するわけではないのだがな」

左衛門「そうだな。あんな長砲身で近距離戦闘など持ち味を殺すだけだ」

カエ 「ひなちゃんのセモヴェンテとゼロ距離で鍔迫り合いをしておいて、それ言うか?」

おりょ「あれは仕方なかったのぜよ。あれはそうせざるを得なかったんぜよ」

エル 「そうしたかった、のではなかったのか?」

左衛門「それはない!きっと!多分!」

 

そんな突撃砲談議をしている間にも、福田の九五式長砲身が次々とオイに命中する。

 

由佳 「くっそー!」

 

バゴオオオオン!

 

やられっぱなしは性に合わないと主砲で反撃に転ずるも、距離が離れすぎているせいで全く当たらない。

 

そど子「一方的な戦いになってるわね。もしこれで勝負が付いたら、知波単の子はみんな突撃砲になるのかしら?」

パゾ美「そうしたら脅威だね」

エル 「おお、いけてるぞ!」

カエ 「やはり時代は我ら突撃砲の天下なのか!」

ゴモヨ「・・・・あれ?砲撃がやんじゃったよ?」

左衛門「え?」

 

見ると、先ほどまで間髪おかず連射していた九五式が、沈黙してしまっている。

 

おりょ「何ごとぜよ?装填手が疲れたのか?」

 

と、次の瞬間、

 

シュポッ!

 

九五式から白旗が上がった。

 

あけび「ええっ!?」

忍  「福ちゃん降参しちゃったよ!?」

妙子 「なんでなんで、どうして!?」

 

九五式が戻って来た。

 

西  「どうした福田、故障か!?」

福田 「いえ!レオポン殿の改造は完璧であったであります!」

カエ 「では、どうしたというんだ」

福田 「その、お恥ずかしいことなのですが・・・・」

西  「が?」

 

福田はビシッと敬礼しながら叫んだ。

 

福田 「弾切れであります!」

エル 「何いッ!?」

ツチヤ「いやー、実はそうなんですよ」

スズキ「ただでさえ九五式は車内が狭いのに、75mm砲とっつけたせいでさらに狭くなっちゃって」

ナカ 「結局、スペース確保するために砲弾をあんまり詰め込めなかったんだよね」

ホシノ「弾薬庫を後方に設置することも考えたけど、そうするとどうしてもバランスが偏っちゃってさ」

左衛門「惜しい・・・・!」

おりょ「やはり、長砲身を生かすには低姿勢であることが不可欠ぜよ」

西  「しかしいい戦いだった。見事だったぞ福田!」

福田 「恐縮であります!」

 

そして。

 

西  「さあ、最後は『山』!私の番だな!」

福田 『西隊長殿、ご武運を!』

 

福田が無線からエールを送る。

 

西  「応!」

 

かくして最後の『山』が正面に姿を現した。

 

由佳 「部長、あと一両で完封ですよ!」

清美 「うん、でも油断はしちゃダメだよ。・・・あれ?あれは・・・・チハ、だよね?」

 

そのチハ(旧)は、チハ(旧)の姿を残しつつも妙な存在感を放っている。

 

西  『紗倉殿、我らの要望を長きに聞いていただき、まことに恐悦でございます!』

 

無線機から西の感謝が伝えられる。

 

清美 「いえ、私たちもいい経験になりましたし」

由佳 「おかげでだいぶ腕も上がりましたよ!」

西  『それは僥倖。最後の『山』は、自分が考えた最強の布陣となっております。どうぞ一切の手心は捨て、全力をもってお相手いただきたい!』

清美 「わかりました。頑張ります!」

 

かくして最後の特訓試合が始まった。

 

西  「戦車前進!」

 

西の改造チハ(旧)がまっすぐオイに向かって進んでいく。

 

杏  「おや、オイに向かって一直線」

柚子 「一見無謀にも見えますが、どうなるんでしょう?」

 

正面からくるチハ(旧)に狙いを定める副砲。

 

清美 「撃って!」

 

ドオン!

 

副砲は完璧にチハ(旧)を捉え__

 

バアン!

 

チハ(旧)の正面装甲に着弾、爆煙に包まれる。

 

桃  「やられた!?」

おりょ「いや、あれをみるぜよ!」

 

ギュラギュラギュラ・・・・

 

立ち上る煙の中から、少し全面装甲が焦げただけのチハ(旧)が悠然と姿を現す。

 

知美 「嘘っ!?あれを正面から受け止めたの!?」

清美 「すごい防御力・・・・!」

そど子「当然よ!」

 

観戦席からそど子が得意満面な顔をする。

 

そど子「この私たちの自慢の戦車、ルノーのウルトラ風紀ブロック力をもってすれば、47mm砲なんて恐れるに足らないわ!」

ナカ 「正面は追加装甲により60mmにまで達したよー」

スズキ「ルノーの売りは頑強な正面装甲だもんね」

ツチヤ「そのかわり重量が上がって、ちょっと速度落ちちゃいましたけどね」

ホシノ「だが側面はともかく、正面はそう簡単には抜けないはずだ」

 

レオポンさんチームの言葉通り、重装甲となったチハ(旧)はオイの副砲を何発も耐え抜き、じりじりとオイへと距離を詰めていく。

 

知美 「うわあ!どんだけやられてもけろっとした顔で近づいてくるよー!なんか怖い!」

清美 「すごい防御力・・・・!あれだけの砲撃を耐えられるなんて!」

綾乃 「どうしましょう?あれ以上近づかれたら、そろそろこちらの装甲も抜かれかねませんよ?」

由佳 「だとしたら主砲しかないでしょう!149ミリ砲なら一撃です!」

清美 「うん、西さんにも全力で、って言われたし!由佳ちゃん、主砲準備!」

由佳 「はい!」

 

すぐ支度を終え、砲撃準備が完了する。

 

由佳 「装填完了!いつでも撃てます!」

清美 「うん!それじゃあ__」

 

主砲を放つべく、砲口を調整する由佳。

それを西は見落としてはいなかった。

 

清美 「__撃って!」

西  「全速回避!」

 

ギュアアアアア!

バゴオオオオオオオン!

 

主砲が放たれるより一瞬早くチハ(旧)は加速し進路をそらし、すんでのところで直撃を免れる。

地面に着弾した衝撃も、追加装甲を施されたチハ(旧)の重量ではビクともしない。

 

由佳 「かわされた!?」

カエ 「口径の狭い砲は分厚い正面装甲で受け止めて距離を詰め、食らうとまずい大口径は察知して回避行動・・・・」

左衛門「口で言うのはたやすいが、実際行うのは相当困難のはずだぞ」

おりょ「終始突撃突撃言ってはいるが、実力は確かなものぜよ」

 

その間にも着実にチハ(旧)は距離を詰めていき、もはや決着がつく射程まであとわずか。

 

綾乃 「どうしましょう部長!このままだとやられますよ!」

清美 「・・・・副砲は正面からじゃはじかれちゃうし、主砲は撃とうとするとよけられちゃう・・・・」

 

と、清美がはっとした顔をし、無線機を掴む。

 

清美 「今から作戦を伝えます。これはみんなの息を合わせないとできない作戦だよ!」

 

そうしている間にも距離を縮めるチハ(旧)。

 

西  「いい調子だ。この改造が成功したのちは、全車両に正面装甲を施して、重装甲突撃隊を結成するのも面白いな!

 

などと考えていると、主砲がまたしても狙いをつけ始める。

 

西  「次の主砲が来るぞ!回避準備!」

 

すぐさま回避運動に移り、主砲の直撃を交わした。

 

バゴオオオオオオオン!

 

その着弾の音にかぶせるように__

 

バアン!

 

副砲が火を噴き__チハ(旧)の側面に着弾した。

 

西  「うおおおっ!?」

 

その一瞬のスキを突いた砲撃にチハ(旧)は黒煙を上げ・・・・

 

シュポッ

 

ついに動きを止めてしまった。

 

知美 「やった!当たった!」

綾乃 「スマッシュからのカット、見事に決まりましたね!」

清美 「うん。みんな、お疲れ様!」

 

その後。

 

西  「それでは!本日はご協力いただきまして、まこと感謝の念に堪えません。これは我らの気持ちです。存分に堪能していただければと思います」

みんな「いただきまーす!」

 

全ての後片付けが終わった後、一同は海の家れもんで打ち上げを行っていた。

千鶴の料理と、一緒に作った知波単一同が作った握り飯が大量に並べられている。

福田たちも料理をふるまいながら、一緒になって談笑している。

 

イカ娘「一体何をしていたかと思えば、私に隠れてそんなことしていたのでゲソか」

福田 「申し訳ありませんイカ殿。これは特訓だったゆえ、イカ殿にお目にかけるわけにはいかなかったのであります」

イカ娘「まあ、そういう事情なら仕方ないでゲソ。勘弁してやろうじゃなイカ」

 

そう言って握り飯をほおばるイカ娘。

 

イカ娘「それにしても、清美も加わっていたとは思わなかったでゲソ」

清美 「うん、西さんにどうしてもって。私たちもいろいろ経験できたし、いい機会だったよ」

イカ娘「それは何よりでゲソ。・・・・それで、西よ」

西  「何でありましょう?」

イカ娘「結局、その特訓とやらで何か発見はあったのでゲソ?」

西  「はい!あれを通じて、自分はあるべき究極の形を見出しました!」

イカ娘「おお!」

西  「お望みとあらば、今すぐにでもお目にかけましょう」

イカ娘「ほほう、言うでゲソね。そこまで言うのなら、見せてもらおうじゃなイカ!」

 

かくして演習場にとんぼ返り。

位置につき、待ち構えるイカ娘のチャーチル。

清美たちも観戦席で見守っている。

 

清美 「西さんが見つけた究極の形って、どれだったんだろうね?」

由佳 「うーん、あたしは『火』とかけっこう厄介に感じましたけどね」

知美 「私は断然『山』が怖かったかなあ」

綾乃 「『林』も、戦い方次第では脅威だと思うよ?」

 

しばらくして、西の乗ったチハ(旧)が姿を現した。

 

清美 「あっ、来たよ。__あれっ?」

 

見ると、西の乗ったチハ(旧)は一切特殊な改造を施していない、元通りのチハ(旧)の姿をしていた。

 

イカ娘「どういうことでゲソ?見たところ普通のチハじゃなイカ」

西  「自分は今回の特訓で様々な可能性を提案し、目の当たりにし、そして体験し結論へたどり着きました。それは__」

イカ娘「それは?」

西  「『何も手を加えない本来の姿』こそが我らのあるべき姿であったということです!」

由佳 「」

西  「自分は間違っていました。勝てない理由を他に見つけようと、敗因を戦車のせいにしようとしていたのです。戦車は何も間違っていない。変わるべきは、我々自身だったのです!」

イカ娘「ふむ、いいこと言うじゃなイカ。少しは成長したようでゲソね。ならば、その意気込みを私に見せてみるでゲソ!」

西  「応!いざ、躍進の時!」

 

そして激突する西とイカ娘。

 

知美 「結局、巡り巡って元の位置・・・・」

綾乃 「こんな昔話、どっかで見たような気がする」

清美 「あはは・・・・」

 

清美は愛想笑いをしながら、激しくなっていく西たちの戦いを見守り続けた。




ちょっとしたトラブルにより、投稿が一時間遅れてしまいました、申し訳ありません。

勝てない、うまくいかないという時、自分以外に何か原因があると考えてしまうこと、たまにあると思います。
まさに自分が当てはまりますし。
その時少しだけ落ち着いて、客観的に見つめなおすのも重要なことかもしれません。

そういえば、ガルパンの新しいスマホアプリが発表されたとかで。
今度は3Dモデリングだそうなので、どんな動きを見せてくれるのか、今から楽しみですね。

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