バドミントン部のメンバー→バド部
※清美たちの部活は原作に準拠し、バドミントン部となっています。
ある夏の日、天気のいいある昼下がり。
長谷中学校の体育館では、いつものように清美たちが部活の練習をしていた。
そんな時、
顧問 「おーい、紗倉ー」
入り口から顧問の先生が清美を呼んでいる。
清美 「?はい、何でしょうか?」
呼び声に応じ、駆け寄る清美。
顧問 「うん、実はな。校長が紗倉に用があるらしくてな。呼んできてくれって言われたんだ」
清美 「校長先生が?」
顧問 「ああ、何だか大事な用らしくてな。手が空いたらでいいから、何人か部員を連れて校長室へ来てくれ」
清美 「部員の子も?__はい・・・・わかりました」
そして、キリがついてから清美はいつもの侵略部のメンバーを連れて校長室へ歩みを進めていた。
綾乃 「何なんでしょうね、校長先生のお呼びだなんて」
由佳 「うーん、もしかしてバドミントン部の存続に関する話かも!?」
清美 「ええっ!?」
知美 「ええー、それは無いんじゃないかな?だって最近部長、大会でいい成績ばかり残してるじゃない?成績不振ならともかく、今の調子でそれはないよ」
由佳 「それじゃ、何なんだろうねー?」
やがて校長室に着き、ドアをノックする。
清美 「校長先生、紗倉です」
校長 「はい、入ってください」
中から校長の声を聴き、清美は深呼吸して意を決し、ドアを開いた__。
それから少しだけ時間が過ぎ。
由比ヶ浜戦車演習場では、イカ娘たちの乗るチャーチルが知波単学園の戦車隊と対峙していた。
西 「烏賊娘殿!いざ尋常に勝負です!」
イカ娘「ふっ、いつも懲りずにいい根性でゲソ!その不屈の精神だけは認めてやるでゲソ!」
渚 「何だかいつも返り討ちにしているような物言いですね」
シン 「いつもこちら側が結果的に負けているんだけどね」
栄子 「まあ、程いい腕前の相手だから、こうやってちょくちょく相手してくれるのはありがたいな」
そして今回も落とされる戦いの火ぶた。
そんないつも通りに理由をつけての戦車道勝負の成り行きを、少し外れたところから見つめる人影がいた。
典子 「うむ、どっちも気合は十分だな!」
あけび「イカちゃんと知波単のみなさんがお互い切磋琢磨する関係にあったなんて、知りませんでした」
忍 「福田ちゃん、頑張れー!」
妙子 「どっちもファイトだよー!」
知波単学園の面々がイカ娘と勝負すると聞きつけ、応援に駆け付けたアヒルさんチームである。
そしてしばらく戦闘は続き__
イカ娘「むっ、細見もやるようになったでゲソね。こうなったら__む?」
ふと気がつくと、演習場を遠くから眺める人影に気が付いた。
よく目をこらすと__
イカ娘「清美じゃなイカ!」
そこにはいつ声を掛けたらいいかタイミングを探していた清美がいた。
イカ娘「ストップ!一時中断でゲソ!」
イカ娘の中止要請により勝負は一時中断、イカ娘たちは清美の元へ集まった。
清美 「あっ、ごめんねイカちゃん、試合の邪魔しちゃったみたいで」
イカ娘「気にするでないでゲソ。清美は何より優先でゲソよー」
福田 「相沢殿、この方は?」
栄子 「紗倉清美ちゃん。イカ娘の親友だよ」
細見 「ほお!つまりはイカ殿の盟友という訳ですな」
イカ娘「清美がここへ来るなんて珍しいじゃなイカ。何か用でゲソ?」
清美 「うん、実はね、戦車道についてイカちゃんに話を聞きたいと思って」
イカ娘「戦車道についてでゲソ?・・・・もしかして、清美も戦車道を始めたのでゲソ!?」
目を輝かせて食いつくイカ娘。
清美 「うん。実は__」
~~回想~~
清美 「えっ、戦車道をうちの中学に、ですか?」
校長 「ええ。実はこの間の大会を見て、年甲斐もなく心沸いちゃって。これは是非我が校にも教育の一環として取り入れたいと思って、早速一両購入したのよ」
知美 「もう買ってたんですか!?」
校長 「でも、早まっちゃったのよ。購入してから分かったのだけれど、我が校には戦車道履修者の教員が一人もいなかったの。恥ずかしながら私もね。それで、誰か戦車道に通じる、もしくは知人が関わっている子がいないか探していたんだけど・・・・」
綾乃 「それで、部長に白羽の矢が当たったと?」
校長 「ええ。聞いたところによると、紗倉さんのお友達が戦車道を嗜んでいる、と耳に挟みまして」
清美 「イカちゃんのこと、ですか」
校長 「それで、その知り合いの子に戦車道について色々聞いてきてほしいの。もちろん必要とあれば、我が校の戦車を使ってくれて構わないわ」
由佳 「ホントですか!?私一度戦車乗ってみたかったんですよ!」
校長 「もちろん貴女たちの部活動が疎かにならない程度でいいわ。その結果貴女たちの戦車道が我が校の教育にいい結果をもたらすと判断出来たら、随時導入していこうと思っているわ」
清美は部員たちと顔を見合わせる。
その顔は、見るからにやる気満々だ。
清美 「わかりました、まずは話を聞いてみます」
校長 「よろしくね」
~~回想終了~~
清美 「__というわけで、イカちゃんに戦車道についていろいろ話を聞きたいと思って」
イカ娘「任せるでゲソ!清美の頼みとあれば、一肌脱ごうじゃなイカ!」
清美 「ありがとう、イカちゃん!」
西 「話は聞かせていただきました!」
気が付くと、西達知波単勢が周囲を囲んでいる。
西 「新たに戦車道を歩もうとする前途有望な乙女のため、我等知波単学園の勇士たちも献身努力致しましょう!」
玉田 「うむ!後に続く者たちのために道を整理えるのも戦車道を志す者の務め!」
細見 「我らにできることがあればなんなりと!」
新参が現れたと知るやテンションの上がる西たち。
そして__
典子 「それじゃあ、私たちも一緒していいかな?」
アヒルさんチームたちも名乗りを上げた。
福田 「おお!アヒル殿たちも研鑽に加わってくださるならば、麻姑掻痒にありましょう!」
忍 「ま、まこそうよう・・・・?」
あけび「ともかく、よろしくね、清美ちゃん!」
あけびがフレンドリーに手を差し伸べ、握手を求める。
清美 「・・・・」
しかし、清美の目線はあけびの胸元に注がれていた。
あけび「あの・・・・何か?」
清美 「あっ!、いっ、いいえ、何も!よろしくお願いします!!」
はっと気が付いた清美は、ごまかすように大声を上げ、強く手を握った。
清美 「あの・・・・そのユニフォーム、バレー部の方ですか?」
あけび「あっ、わかる?そう、私たち、大洗女子学園バレー部の部員なんだよ~」
妙子 「兼、戦車道履修者ってところ。バレー部の方は、ちょっとした理由でお休みだけどね」
清美 「バレー部・・・・」
清美はあけびと妙子の背の高さと胸元ばかりを注視している。
清美 (私も、バレーをすればああなれるのかな・・・・)
妙子 「?」
その後。
清美の案内で長谷中学校に向かうことになった一同。
さすがに全員で向かっては迷惑だろう、ということで西、福田隊、アヒルさんチーム、イカ娘たちが長谷中に向かうことになった。
長谷中に向かう道中、チャーチルに乗せてもらい道を進む清美。
イカ娘「清美は、もう戦車に乗ったことはあったのでゲソ?」
清美 「うん。引き受けた後、練習がてらにちょっとだけね。でもなかなかうまく動かせなかったから、イカちゃんが引き受けてくれて助かるね」
イカ娘「大船に乗ったつもりでいるゲソ!」
福田 「紗倉殿たちの乗られる戦車、どういった車輛なのでありましょう?」
忍 「そういえば聞き忘れてたね。どうなんだろ」
妙子 「始めたての初心者みたいだし、やっぱり軽戦車か豆戦車かな?」
典子 「可能性は高いな。しかしどんな戦車であれ、全力でサポートするぞ!バレー部の誇りにかけて!」
あけび「はい、キャプテン!」
かくして一行は長谷中に到着した。
周囲を見渡すが、駐車場にも校庭にも戦車の影は見当たらない。
西 「紗倉殿、戦車はいずこに?」
清美 「あっ、ごめんなさい。邪魔になっちゃうので、どかしていたんです」
清美はケータイを取り出し、誰かにかけ始めた。
清美 「みんな来てくれたよ。ゆっくりでいいから校門のほうへ持ってきて」
知美 『はい、わかりました!部長たち、着いたってさ!』
無線から知美の声が聞こえた。
そして、すぐ。
__ギュラギュラギュラ
遠くからキャタピラの回る音が聞こえてくる。
どんな戦車かわくわくしながら待つ一同。
ギャラギャラギャラ
音がだんだん大きくなる。
そして__
福田 「西隊長殿、なんだか地面が揺れている気がするであります」
西 「確かに・・・・振動を感じる、ような・・・・?」
ギャガギャガギャガ!
しまいには騒音にも近い大音量と、その戦車のものと思われる揺れすらも起き始め__そして、その『主』が校舎の陰から姿を現した。
栄子 「な・・・・!」
妙子 「えええええ!?」
西 「なんと・・・・!」
イカ娘「おおお!!」
驚愕する者、感心する者、感動する者。
三者三様の様を見せる一同の前に、清美たちの戦車が姿を現した。
四メートはあろう車高に、十メートルはある全長。
角ばったデザイン、見た目から分かる装甲の分厚さ、キャタピラの重圧感。
主砲は馬鹿みたいに大きく、副砲が副砲らしかぬ大きさで二門も取り付けられている。
それは、誰の目にも明らかな巨体の__重戦車だった。
渚 「こ、これって、もしかして重戦車じゃ!?」
シン 「もしかしなくても、このサイズと重量じゃ間違いないわね」
どんな可愛い戦車かと思ったら、怪物サイズの戦車に開いた口が塞がらない渚たち。
清美 「やっぱり大きいですよね・・・・?戦車って初めて見るから、どれくらいが普通なのかわからなくて」
栄子 「いや、明らかに普通超えてるって!」
西 「こ、これは、もしや・・・・」
福田 「西隊長殿、これは、もしやあの!?」
西 「うむ、間違いない。これは__『三菱特殊車両』・・・・『オイ車』!」
栄子 「オイ車って・・・・何か聞いたことあるぞ。たしか昔日本が作った、超デカい重戦車だよな?」
西 「ええ、その通りです。武装を含めた総重量は二百トンにも届くほどの、最大級の戦車です」
栄子 「中学生になんちゅうモン持たせてんだよ・・・・」
典子 「これは、予想外だ・・・・!」
あけび「キャプテン!もしかして、マウスより大きくないですか!?乗るところもありませんよ!?」
妙子 「どうしましょう!?てっきり軽戦車くらいだと思ってました!」
忍 「私たち、重戦車の操縦なんてわかりませんよ!?」
典子 「ええい、みんな、うろたえるな!これくらいの誤差、根性でどうにかなる!」
予想外の展開に狼狽える一同。
しかし__
イカ娘「凄いじゃなイカ清美!こんな大きな戦車を貰ったのでゲソか!?」
清美 「えっと、貰ったんじゃなくて借りたんだけど」
イカ娘「どっちも同じことでゲソ。今は清美たちのものでゲソ?」
その巨躯に興味津々なイカ娘は、いそいそとオイ車に上り始める。
てっぺんまで登り切り、その高さを満喫する。
イカ娘「おおー、いい高さでゲソ!巨人になった気分でゲソ!」
知美 「あっ、イカ先輩!来てくれてありがとうございます!」
キューポラを空け、知美たちが姿を現した。
由佳 「どうです?この戦車!カッコイイでしょ!」
イカ娘「うむ!羨ましいくらいでゲソ!」
綾乃 「私は、もう少し小さくて可愛いのが良かったんですけどねー・・・・」
周囲のことなどいざ知らず、侵略部メンバーたちはオイ車を受け入れているようだった。
西 「おほん。では、きをつけ!」
ともあれ、動揺を取り戻した一行は約束を守るため、清美たちに戦車道の指導を行うべく、最寄りの演習場へ集合した。
オイ車は巨大なため、清美たち侵略部メンバーに加え、他のバドミントン部部員も含め、総勢十一名の大所帯となっている。
西 「自分は知波単学園戦車道隊隊長、西絹代であります!この度貴殿らの要請により、戦車道指導の任を受け賜りました!若輩故至らぬこともありましょうが、粉骨砕身!持てる知識を持ちまして必ずや立派な戦車乗りへと導いてみせましょう!」
イカ娘「私も一緒に手伝うでゲソよ!」
バド部「よろしくお願いしまーす!」
かくして西とイカ娘による戦車道訓練が始まり、清美たちは座学や戦車道の歴史、実動訓練などをこなしていった。
そんな様子を見守る栄子たち。
栄子 「戦車に乗る人数とは思えないな」
福田 「オイ車は巨躯故に動かすのは一人では困難であります。かつ砲も三つ、機銃もありますのでそれだけでもかなりの人数をあてる必要があるのです」
栄子 「清美ちゃんたちが気の毒になってくるよ」
しかし清美たちは真面目に訓練を受け、知識をぐんぐん吸収し、その日のうちに見違えるほど腕前が上がっていた。
清美の指示通りに動き、しっかり狙いを定める。
清美 「撃って!」
ドオオン!
演習弾が放たれ、
バアーン!
遠方で大きな音を立てて的が粉砕される。
西 「ふむ、流石としか言えませんな。これ程呑み込みが早いとは」
清美 「いえ、そんな。西さんたちの教え方が上手なんですよ。皆さんに比べたら、私なんてまだまだで」
イカ娘「謙遜することないでゲソ。清美たちは私たちよりはるかに上手くなるのが早いでゲソ」
二人に褒められ、赤くなる清美。
西 「これならば、予定を早めても構わないかもしれません」
イカ娘「そうでゲソね」
清美 「え?」
しばらくして。
演習場には四両の戦車が対峙していた。
かたや、福田のチハ(新)とアヒルさんチームの八九式。
かたや、イカ娘のチャーチルと清美たちのオイ。
西 「では、これから模擬線形式で実際の戦いにおける動きを掴んでもらいます。紗倉殿、準備はよろしいですか?」
清美 「はっ、はい!よろしくお願いします!」
深々と頭を下げる清美。
イカ娘「頑張るでゲソ清美。初めての試合を白星で飾るのでゲソ!」
清美 「う、うん!頑張ろうね、イカちゃん!」
そして各々が自分の車輛に戻っていった。
栄子 「オイ車の訓練をしたと思えば、その日のうちに実践訓練か。清美ちゃんたちよくついていけるな」
知美 『これくらい、部活でもよくある練習量ですから。それに、戦車道についていろいろ知れて楽しかったですよ』
無線の向こうから知美の余裕そうな声が聞こえる。
栄子 「逞しい子たちだよ、ホント」
福田 「アヒル殿、またご一緒出来て光栄であります!」
典子 「うん!一緒に清美ちゃんたちにバレー部根性を教えてあげよう!」
西 「では双方、正々堂々と!はじめ!」
かくして清美たちにとって初めての練習試合が始まった。
始まったと同時に、イカ娘のチャーチルが全速で前に飛び出す。
清美 「イカちゃん!?」
イカ娘「まずは私がお手本を見せるでゲソ!戦車とやりあうにはどうしたらいいか、そこで見てるでゲソ!」
清美にいい所を見せようと張り切るイカ娘。
しかし直後__
イカ娘「助けてくれでゲソー!」
栄子 「だから調子に乗んなって言っただろ!」
流石に百戦錬磨のアヒルさんチームの八九式の前には歯が立たず、すぐにズタボロにされたチャーチルが逃げ帰ってくる。
すぐ後ろでチハ(新)と八九式が追撃のために追いかけて来る。
清美 「イカちゃん!?」
イカ娘のピンチに焦る清美。
知美 『部長、イカ先輩がピンチです!』
綾乃 『助けましょう!』
清美 「うん!イカちゃん、早くこっちへ!後ろに隠れて!」
無線でイカ娘を誘導し、車体の陰に庇う。
それでもなおも追撃を止めないチハ(新)たちが迫ってくる。
清美 (このままじゃイカちゃんがやられちゃう!何とかして追い返さないと!)
清美 「由佳ちゃん、準備は出来てる!?」
無線で砲手を担う由佳と連絡を取る。
由佳 『バッチリオッケーですよ!いつでも撃てます!』
清美 「当たらなくてもいいから、追い返せるようにできるだけ近くに着弾させて!」
由佳 『わかりました!やってみます!』
由佳は照準器を覗いて狙いをつける。
その瞬間、キューポラから身を乗り出した典子の背筋に冷たいものが走る。
典子 「これは・・・・なんかヤバい!左に思いっきり回避!」
忍 「はっ、はい!」
そして__次の瞬間。
清美 「撃って!」
ドゴオオオオオオオオオオオン!
清美の合図でオイ車の主砲が轟音と共に火を吹いた。
バゴオオオオオオオオオオオン!
福田 「うひゃあああああ!?」
砲撃は直撃せず、チハ(新)と八九式のちょうど間の地面に着弾した。
着弾と同時に爆音が響き、砂煙と衝撃が両車を襲う。
由佳 「うっひぇー・・・・。実弾は初めて撃ったけど、こんなすごいんだ・・・・」
引き金を握っていた由佳は、砲撃の反動にしばらく痺れてしまっていた。
あけび「すごい・・・・、地面がえぐれちゃってる・・・・」
着弾地点を見て青ざめるあけび。
典子 「怯むな!直撃は避けられたんだ、次の装填までスキがある!撃てーっ!」
あけび「はい!」
ドオン!
バアン!
八九式と、それに呼応したチハ(新)が何発も砲撃を当てる。
が__
ガアン!
ガキイン!
オイ車の分厚い装甲により、砲弾は次々と弾かれていく。
典子 「くそっ、だめか!」
ふと、オイの主砲が少し調整のために動いた様に見えた。
典子 「まずい!次が来るぞ!全速撤退!」
福田 「あっ、アヒル殿!我々もついて行くであります!百八十度転回の後全速前進!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!
間一髪のところで着弾地点から離脱する。
綾乃 「見て、敵さんが引き返してく!」
一時撤退する二両を見て綾乃が声を上げる。
清美 「イカちゃん、大丈夫だった?」
キューポラから直接身を乗り出して気遣う清美。
イカ娘「大丈夫でゲソ。おかげで助かったでゲソ」
イカ娘の無事を確認して、にこっとほほ笑む清美だった。
栄子 「しかしとんでもない威力と音だな。砲撃のそれじゃないだろ、あれ」
渚 「調べたところによると、オイの主砲は九六式十五糎榴弾砲__つまり149ミリ砲だそうですよ」
栄子 「149ミリ!?」
シン 「ソ連のKV-2が152ミリ砲だから、それくらいの威力はあるってことね」
栄子 「つくづくとんでもないな・・・・」
他を圧倒する巨躯、砲弾をやすやすと弾き返す重装甲、直撃すれば大破は免れない大口径。
清美のようないい子たちがそれに乗っているというギャップが、栄子にはとてつもなくアンバランスに感じられていた。
イカ娘(これは心強い味方でゲソ!ついに私が知波単を侵略できるチャンスなんじゃなイカ!?)
イカ娘「清美!提案があるでゲソ!」
良からぬことを思いついたイカ娘は、無線を通じて清美たちに語り掛けた。
その頃、一時退却をしたアヒルコンビは。
福田 「恐ろしい威力であります・・・・。先人たちは、あれほどの物を作り出していたのでありますか!」
忍 「あの装甲にあの威力。私たちの戦車じゃあれを撃破するのは難しいですよ」
あけび「オイは聞いたところによると、追加装甲により側面も70ミリ越えにもなるそうですよ!?どうやって相手するんですか!?」
妙子 「胸を貸すつもりが、気が付いたら大ピンチだあ~・・・・」
オイの圧力に屈しかけた面々が戦意を喪失しかけている。
と、それまで目をつぶったまま腕組みしていた典子がカッ!と目を見開く。
典子 「諦めるなーーーーっ!!」
福田 「!」
あけび「!」
突然の大声にビクッとする。
典子 「確かにオイは強い、大きな脅威だ!だが、我々の戦いはいつも強者との戦いだったのを忘れたのか!私たちはあの苦境を何度も乗り越えてきた!ならば、今度もきっと出来るとなぜ思えん!」
忍 「ですが、あの時は西住隊長らの力もあって__」
典子 「川西。お前はバレーの試合の時も、相手が強かったらそうして諦めるのか!?」
忍 「!」
バレーに例えられた瞬間ハッとする三人。
典子 「相手がたとえどんな強豪校であろうとも、全国大会に出ていようとも、メダルを取っていようとも!同じコートに立てば私たちは格差など存在しない対等な存在だ!試合を始めてから実力に差があったからと、勝負を投げ出す者にバレーをする資格があると思うか!」
妙子 「キャプテン・・・・!」
典子 「相手が強敵だからこそ!それを乗り越えてこそ私たちは成長出来る!困難に立ち向かえずして、何がバレー部だ!」
忍 「キャプテン・・・・、私、間違っていました!」
あけび「私たちのバレー部魂、あの子たちにぶつけましょう!」
福田 「自分も感動しました!共に立ち向かわせてください!」
典子 「みんな、よく言った!実は作戦がある。これはみんなの協力なくしては成り立たない。内容は__」
再び戻ってイカ娘チーム。
オイが前方を進み、チャーチルがその陰に隠れながら縦隊系列で全身を続けている。
イカ娘「清美のオイの防御力を前に出して、相手の攻撃を防いでいるスキに私が敵を仕留める!これぞ完璧なコンビネーションじゃなイカ!」
栄子 「親友を盾にして完璧とかよく言うよ・・・・」
イカ娘「こっ、これは作戦でゲソ!盾とかじゃないでゲソ!」
知美 『そうですよ』
無線から知美が声をはさむ。
知美 「この作戦はみんなで相談して決めたことなんです。今思いつける作戦の中でベストですし、私たちも不満なんてありません」
清美 「私たちだけじゃとてもあの人たちには適いません。これは一緒にイカちゃんと戦うための作戦なんです」
由佳 「まあ、任せてくださいよ!さくっとイカ先輩に勝利をプレゼントしますから!」
綾乃 「イカ先輩は私たちを信用してくれているんです。だから、私たちもイカ先輩を信じています」
口々にイカ娘を信頼している清美たちの言葉に、照れまくるイカ娘。
栄子 「ホントいい子たちだよ・・・・。清美ちゃんたちのためにも、私たちも頑張らないとな」
渚 「はい!」
シン 「任せなさい!」
やがて前方から戦車の影が見えてくる。
清美 「正面から戦車が来るよ!あれは・・・・チハです!」
福田 「もっと加速するであります!戦車突撃!」
正面から真っすぐチハ(新)がオイに向かって吶喊してくる。
由佳 「部長、装填完了しました!いつでも撃てます!」
清美 「由佳ちゃん、まだ撃たないで。アヒルさんチームの八九式がいないのが気になる。副砲で威嚇射撃!主砲は確実に当てられる範囲に入るまでこらえて!」
清美の指示で二門の副砲が火を吹く。
ドン!
バン!
威嚇射撃にも怯まず、そのまま真っすぐ突っ込んでくるチハ(新)。
イカ娘「私たちも加勢するでゲソ!」
陰に隠れていたチャーチルも姿を見せ、走りながら砲撃を放つ。
福田 「チャーチルが見えた!あちらを狙うであります!」
バアン!
姿が見えると同時にチャーチル向けて砲撃をする。
が、砲撃はやや逸れてしまい、チャーチルは再びオイの陰に隠れる。
福田 「オイの強靭な防御力を前に押し出した縦列小隊!流石はイカ娘殿にあります!」
イカ娘「いけるでゲソ!この戦法なら勝てるでゲソ!」
何発も砲弾の応酬が飛び交い、いよいよチハ(新)が主砲の確注範囲に入りかける。
由佳 「一発で仕留める・・・・!」
由佳が照準器を覗き込み集中する。
そして、引き金を引こうとした瞬間__
典子 「今だ!」
オイのすぐ近く、側面に面した稜線に姿を隠していた八九式が姿を現し、チハに照準を合わせる。
イカ娘「!八九式でゲソ!」
栄子 「待ち伏せか!」
渚 「でも、オイを狙っていますよ?側面を撃つつもりでしょうか」
シン 「いくら側面を狙っても、57ミリ砲でチハの装甲は抜けないわよ?」
照準器を覗き、真剣な表情で狙い続けるあけび。
あけび「・・・・そーれっ」
小さく呟き、引き金を引く。
バアン!
八九式から放たれた砲弾は吸い込まれるように__オイの主砲連結部に命中した。
由佳 「うわっ!?・・・・ああっ、主砲が!」
いかに頑丈なオイと言えど、砲身まで同様な装甲は誇れない。
ピンポイントな砲撃により、オイの主砲は完全に沈黙。
そのせいで、オイはもはや重装甲なだけで攻撃力は劇的に下がってしまった。
イカ娘「し、しまったでゲソーッ!」
その後。
典子 「申ーーし訳ないっ!」
典子たちは両手を前に合わせ、最大限に頭を下げて清美に謝罪した。
清美 「そんな、謝らないでください。あれは試合だったんですし__」
典子 「しかし、戦車に乗ったばかりの子に配慮が無かった!練習相手を申し出ておきながら、本当にすまない!」
無力化されたオイで勝てるはずもなく、なし崩しにイカ娘チームは敗北していた。
長谷中に戻り、戦車を修理のために専用エリアに移し終わった後。
忍 「途中からみんなが初心者だってこと忘れてましたね」
妙子 「むしろ勝てるのかとかすら思っちゃったしね」
あけび「このまま行ってたら負けてたかもなくらいだったよね」
福田 「紗倉殿のオイは、これまでの強敵に全く引けを取らない重畳な強さを感じました!」
知美 「そんな、戦車の性能が良かったからですよー」
西 「戦車の性能が良くとも、乗るものがそれを引き出せなくば意味がない。あそこまで動かせたことを誇りにすべきかと」
綾乃 「あ・・・・ありがとうございます!」
感想戦で、アヒルさんチームと知波単勢たちは清美たちの健闘を褒めたたえていた。
栄子 「まさか、あのサイズに正面から勝負を挑むなんてね」
イカ娘「予想外だったでゲソ」
渚 「でも、勉強になりました。二両で戦うとなると、一両の時より作戦や戦い方が豊富になりますね」
シン 「そうね。私たちも戦略やコンビネーションについて見識を深めるべきだわ」
やがて、清美が今の時刻に気が付く。
清美 「あっ、そろそろ部活の始まる時間だ」
由佳 「そうだ、忘れてた!部長、戻りましょう!」
知美 「私、ネット張ってきます!」
綾乃 「あっ、私も手伝うよ!」
知美と綾乃は準備のために体育館に走っていった。
西 「おっと、これから部活でありますか。長々と拘束してしまい、申し訳ない」
清美 「いいえ、ことらこそ、とてもいい勉強になりました。また次もご指導おねがいします」
西 「承知した!」
西と清美はきゅっと握手を交わした。
イカ娘「それにしても、オイの真正面から突撃だなんて、すごい度胸でゲソね」
福田 「恐縮であります!」
福田がビシッと敬礼を返す。
福田 「自分の役割はアヒル殿が決めやすくするための囮役でありましたから。お二方の注意を完全に引く必要があったのであります」
栄子 「作戦にしたって、あれは真に迫ってた。あそこまで目立たれたら、注意も向いちゃうよ」
福田 「へへへ・・・・」
口々に感心されて照れまくる福田だった。
と、典子が何だかそわそわしている。
典子 「紗倉さん、今ネットって言ってたけど、部活ってもしかして・・・・」
清美 「あ、はい、私たち、バ__」
バドミントン部、と言おうとした瞬間。
典子 「やっぱりバレー部か!」
典子の声にかき消された。
清美 「えっ!?」
忍 「そうだったの!?」
あけび「わあ、嬉しいな!バレー部の友達が増えましたね!」
妙子 「ちょっと見学して行っていいかな!?」
バレー部と決めつけ勝手に盛り上がるアヒルさんチーム。
清美 「いや、あの、私たち__」
典子 「体育館はあっちか!私たちも同行させてもらいたい!」
清美 「でも、バ__」
言いかけて、また目の前にあけびと妙子が映る。
また胸元を凝視し、しばらく押し黙る清美。
清美 「__バレーを続けていれば・・・・皆さんのようになれるんでしょうか?」
何かに期待を込めるように清美が質問する。
あけび(?戦車道についてかな?)
あけび「そうだね。両立は難しいかもしれないけど、信じて続けていればきっと叶うよ!」
清美 (確かに、あの胸でバレーをするのは大変かもしれない・・・・。けど)
清美 「それなら・・・・私、バレーやります!」
そのまま体育館に早足で歩いていく清美。
由佳 「部長!?」
慌てて追いかける由佳。
清美 「由佳ちゃん、みんなにも伝えるよ!今日はバレーにするって!」
由佳 「どういうことですか!?」
勘違いしたままの清美と、訳も分からず追いかける由佳。
そして、さらにそれを追いかけるアヒルさんチーム。
双方の誤解が解けるのか、それとも体育館でバレーの試合が始まるのか。
それはまた、別のお話。
いよいよ清美たちも戦車道に参戦を果たしました。
オイ車は他の方のSSなどにも多数登場していますので、イメージが固めやすかった印象があります。
某戦車ゲームでも戦っている所を見ましたが、あの装甲と火力はおかしいですね。
あれが量産の暁には、連邦なd(略
書き終わってから知波単学園というよりアヒルさんチームに偏ってしまった気もします。
次話はもっと知波単勢の活躍を重視した話にしますのでご容赦を!