侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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第6話・答えを求めなイカ?

~~エリカの夢の中~~

 

みほ 『エリカさん、エリカさん』

エリカ『ん・・・・?』

 

みほの呼ぶ声に我に返るエリカ。

辺りを見渡すと、そこは見覚えのある山の中腹。

周囲には黒森峰のパンツァージャケットに身を包んだメンバーたちが何やらワイワイと準備をしている。

そして、目の前には黒森峰のパンツァージャケットを羽織ったみほがいる。

 

エリカ『?・・・・あんた、どうしてここに・・・・』

みほ 『もう、エリカさんたら寝ぼけてるの?早く私たちも準備しなきゃ』

エリカ『準備・・・・?』

 

目線を下げると、そこには自分が抱えている大きな鍋。

周囲の生徒たちは野菜を切ったり、飯盒の火をつけていたりする。

その光景を目の当たりにして、エリカは理解した。

 

エリカ(ああ・・・・これ、一年前の野外演習の時の__)

 

夢の中で夢と自覚したエリカは、自分視点ながらも客観的に成り行きを見守り始める。

 

エリカ(ということは、この後の流れは__)

 

やがて鍋を設置し終えたエリカたちは火を起こし、鍋に材料を投入していく。

炒めた肉や玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ__どう見てもカレーの材料だ。

その鍋にみほが何かを入れる。

 

エリカ『あんた、今何入れたの』

みほ 『えへへ、__だよ』

エリカ『え?』

 

何故かその部分だけ聞き取れずにいた。

 

みほ 『うん、カレーの時は、いつもこれを入れてるんだよ』

エリカ(そう、確かにあの時この子はそう言った。でも__)

エリカ『ほんっとお子ちゃまな舌してるのね。そんなもの入れてもおいしくなるわけないでしょう』

みほ 『ええーっ、本当だってば!』

エリカ『はいはい、いいからかき混ぜなさい。焦げてカレー抜きになったら、副隊長のせいになるわよ』

みほ 『あわわわっ』

エリカ(そう、あの時私は適当に聞き流していた。全く信じないでいた)

 

やがて、カレーが完成し全員に振り分けられる。

 

エリカ『隊長、どうぞ』

まほ 『ああ、ありがとう』

 

夢の中のまほが受け取り、全員で食べ始める。

すると__

 

まほ 『__おいしい』

 

まほの顔がぱっと明るくなる。

いつもは見せないまほの嬉しそうな顔に戸惑うエリカ。

 

みほ 『お姉ちゃん、おいしい?あのね、今日のカレーはあれを入れたんだよ』

まほ 『ああ、道理で。うん、すごくおいしいぞ』

みほ 『えへへ』

 

笑顔でやり取りする二人を、少し引いた場所から見つめるエリカ。

何だか場違いな感じがして、会話に混ざれなかったのだ。

 

エリカ(あの場で何を入れたのか、なんて聞けるワケはなかった。聞いたら、料理にでもこの子に負けた気がしたから)

まほ 『エリカ、そんなところでどうした?一緒に食べよう』

みほ 『いっしょに食べよう、エリカさん!』

 

~~夢終了~~

 

そこでエリカは目を覚ました。

周囲を見渡すと、夜明けの光がうっすら差し込む寮の自室ベッドだった。

 

エリカ(あのあと、あのカレーに何を入れて隊長が喜んだのか調べたけど、どうしてもたどり着けなかった。あの子に直接聞きだすのは癪だったけど、どうにか上手く聞き出してやろうと思ってたのに)

 

引き出しから一枚の写真を取り出す。

それは夢で見ていた、一年前の野外実習の時の記念集合写真。

まほ、エリカ、小梅、そしてみほも写っている。

 

エリカ(でもその後の大会で、あの子は黒森峰を去った。__カレーの隠し味も、聞けずじまいだったわね)

 

一時間後。

日課である早朝のランニングを終わらせた小梅は、寮に戻って来ていた。

廊下を歩いていると、何やら香ばしいいい香りがしてくる。

 

小梅 「何だろう、いい香り・・・・。お肉かな?」

 

香りに誘われてたどり着いたのは、エリカと小梅の部屋だった。

 

小梅 (あれ?エリカさん?)

 

部屋の台所を覗くと、そこにはエプロンをつけたエリカが真剣な表情で肉と玉ねぎを炒めていた。

他に切られている材料を見るに、カレーを作っているのは明白だった。

 

エリカ「ん・・・・?うわっ、小梅!?何でそこにいるのよ!?」

 

しばらく気づかなかったが、肉を鍋に入れようとしたエリカがようやくエリカに気が付く。

 

小梅 「エリカさんこそ、朝からカレーですか?」

エリカ「えっ、いやこれは・・・・」

 

ごにょごにょと言い訳しようとするが、隠し事はできないと小梅に動機を打ち明ける。

 

小梅 「夢でカレーが出てきて、それでいてもたっても、ですか・・・・。ふふっ」

エリカ「な、何よ!馬鹿にしたければすればいいじゃない!」

小梅 「いいえ、そんなことありませんよ。でも、ちょっとだけエリカさんが可愛いなって思って」

エリカ「バ、バカなこと言うんじゃないわよ!ほら、そこに突っ立ってても邪魔だから座ってなさい」

小梅 「あ、手伝いますよ」

 

かくして小梅の手伝いもあり手際よくカレーが完成する。

二人の朝食はカレーである。

 

小梅 「いただきます。__うん、おいしい!」

 

一口食べて顔をほころばせる小梅。

実際、市販のルーを使っているが、手際の良さからかなりのものが完成していた。

喜んで食べる小梅だったが、エリカの表情は晴れない。

 

エリカ(・・・・違う、これじゃない)

小梅 「・・・・エリカさん?」

エリカ「えっ!?ああ、どうしたの!?」

小梅 「カレー食べながら上の空でしたよ?もしかして、思ったよりうまくできていませんでしたか?」

エリカ「いえ、十分によくできているわ。でも・・・・」

 

気を取り直してカレーを口にするも、納得しない顔をしていた。

 

小梅 「エリカさん、踏みいるようですが・・・・もしかして、夢に出たカレーって、去年野外実習で食べたカレーですか?」

エリカ「!」

 

図星の表情をくずし、しまったと思ったが小梅にバッチリみられていた。

 

小梅 「あの時のカレー、すごくおいしかったですからね。再現したくなる気持ちもわかります」

エリカ「ま、まあね」

 

真の目的を察せられまいと平静を務めようとするも__

 

小梅 「あの時、隊長もおいしいって言ってくれて、みほさんととても喜んで__あ」

 

小梅は一人で勘付いてしまう。

そして、ふふっと笑う。

 

エリカ「な、何よ」

小梅 「やっぱり、エリカさん可愛いなって」

エリカ「うるさいっ!」

 

やがて食べ終わり、二人で洗い物も済ませる。

 

小梅 「あの時のカレー、どんなルーを使っていましたっけ」

エリカ「ルー自体は市販されている、黒森峰なら普通に市販されているものよ。陸でもスーパーに行けばすぐ手に入るわ」

小梅 「そうなんですか。てっきりドイツ由来のいいものだったかと」

エリカ「となると、やっぱり鍵はあの子の入れた隠し味・・・・」

小梅 「え?隠し味ですか?」

エリカ「な、何でもないわ」

小梅 「それなら、みほさんに直接聞けばいいじゃないですか」

エリカ「察しがよすぎるのも考え物よ。__どの顔して聞けっていうのよ。『去年あんたが在籍した頃のカレーを美味しくする作り方を教えて』とでも言えって言うの?」

小梅 (みほさんなら喜んで教えてくれそうだけど)

 

ならば、と考えていると__

 

小梅 「あ、そうだ」

エリカ「なに?」

小梅 「近くに料理に関してとても心強い人がいるじゃないですか。エリカさん、今日はお休みの日ですよね」

エリカ「え?」

 

場所は変わり、海の家れもん。

 

千鶴 「いらっしゃい」

小梅 「おじゃまします」

エリカ「ど、どうも」

 

二人はれもんに来店していた。

 

千鶴 「今日は二人なのね。何がいいかしら」

エリカ「あ、あの」

小梅 「カレーライスを二つお願いします」

千鶴 「はい、ちょっと待っててね」

 

厨房に入った千鶴は手際よく準備を進める。

 

小梅 「千鶴さんのカレーは隊長もとても気に入っていましたから、きっといいヒントになりますよ」

エリカ「確かに・・・・。ホントこういう所、鋭いわよね小梅は」

 

にっこりする小梅。

 

イカ娘「む、来てたのでゲソか」

 

エリカたちが来店したことに気が付いたイカ娘が歩み寄る。

 

小梅 「こんにちわイカ娘さん。お邪魔しています」

エリカ「現れたわねイカスミ流」

イカ娘「私はここでバイトしてるんだから当たり前じゃなイカ。そっちこそここでお昼なんて珍しいんじゃなイカ?」

エリカ「まあ、色々あってね」

イカ娘「具体的にはどういう理由でゲソ」

エリカ「何よ、随分食いつくわね」

イカ娘「今日はほかにお客さんが来なくてヒマだったのでゲソ」

エリカ「私たちを暇つぶしの材料にしないでもらえるかしら」

イカ娘「いいじゃなイカいいじゃなイカ」

エリカ「よくない!」

小梅 「まあまあエリカさん」

 

イカ娘が着た途端ペースが崩れるエリカ。

きょろきょろと周囲を見渡すイカ娘。

 

イカ娘「黒森峰の西住さんはいないのでゲソか?」

小梅 「ええ、今日は戦車道連盟の方との面談があるので」

イカ娘「そうだったのでゲソか。色々と聞きたいことがあったのでゲソがね」

エリカ「というか」

イカ娘「む?」

エリカ「いい加減隊長を『黒森峰の西住さん』呼びするのやめなさいよ。あの人には西住まほさんていうきちんとした名前があるのよ」

イカ娘「本人は構わないって言ってるでゲソ」

エリカ「気を使ってるに決まってるでしょ!察しなさいよ!」

イカ娘「ええー、めんどくさいでゲソ」

エリカ「このものぐさイカ!」

小梅 「まあまあ・・・・」

千鶴 「カレーあがったわよー」

 

そこへ千鶴がカレーを仕上げ、イカ娘が配膳した。

 

エリカ「いただきます」

小梅 「いただきます」

イカ娘「うむ」

エリカ「アンタには言ってない!」

 

一口食べて、

 

小梅 「おいしい!」

 

声が上がる小梅。

 

エリカ「確かに・・・・。今朝私たちが作ったカレーとはⅠ号とマウスほどの差ね」

小梅 「それほどまではさすがに・・・・、でも本当においしい」

エリカ(あの時のとは辛さや香りが違うけど・・・・これもかなりのものだわ。これが作れれば隊長も喜んでくれるかも)

 

味付けを確かめつつも、夢中になる二人。

 

イカ娘「そんなにおいしいのでゲソか」

小梅 「はい。とても」

イカ娘「もっとおいしくなる方法を知っているでゲソよ?」

エリカ「!」

小梅 「本当ですか?」

 

まさかあの隠し味を知っているのかと反応するエリカたち。

 

エリカ「本当かしら。適当なこと言ってるんでしょう?」

イカ娘「むっ、本当でゲソ!」

小梅 「イカ娘さん、どうすればもっとおいしくなるのですか?」

イカ娘「うむ、教えてやるでゲソ!エビを」

エリカ「もういいわ」

 

速攻で話を切り上げた。

 

小梅 「ごちそうさまでした、とてもおいしかったです!」

千鶴 「ふふ、ありがとう」

 

料理を褒められてうれしそうな千鶴。

 

皿を片付けにエリカたちの所へ歩み寄る。

 

千鶴 「それで、何かヒントになったかしら」

エリカ「えっ」

 

予想しなかった会話の振りに戸惑うエリカ。

 

エリカ「ななな、何のことでしょう」

 

必要もないのにとぼけてしまう。

 

千鶴 「あらあら。それじゃあ聞かなかったことにしてね」

 

誤魔化しに乗っかるように会話を終わらせようと、片付けた皿を持って帰ろうとする。

 

エリカ「あっ!・・・・うう」

 

思わず声を上げたエリカに、微笑みながら振り返る千鶴。

意地を張り続けるのもみっともないので、素直に話すことになった。

 

千鶴 「そう。去年、まほちゃんたちと実習の時食べたカレーを再現したかったのね」

小梅 「今朝同じルーで試してみたのですが、どうしても同じ味にならなかったんです」

エリカ「同じ材料でダメだったとなると、私の知らない調理法や味付けがあるはずなのですが」

イカ娘「ふむ。ならばエビを__」

エリカ「黙ってなさい」

イカ娘「ちょっとは人の話を聞かなイカ!」

エリカ「イカでしょあんたは!」

 

ギャーギャー言い争う二人を見て、とあることを思い付く千鶴。

 

千鶴 「ふふっ、そういうことなのね」

エリカ「えっ」

小梅 「千鶴さん、何か分かったんですか?」

千鶴 「ええ。きっと間違いないと思うわ。エリカちゃんの探している、隠し味の正体」

エリカ「な、何だったんですか!?教えてください!」

 

食いつくエリカに、ふふっと悪戯な笑顔を浮かべる千鶴。

 

千鶴 「それならエリカちゃん。私のお願いを一つ聞いてくれるかしら」

エリカ「えっ?」

 

次の日。

 

イカ娘「いらっしゃいませでゲソ!」

 

れもんに来店したお客に元気よく挨拶するイカ娘。

 

エリカ「い、いらっしゃいませ・・・・」

 

そして、厨房の中から不安げに挨拶するエリカ。

その身にはれもんTシャツを羽織っている。

 

エリカ(ど・・・・どうしてこうなったのかしら)

 

~~回想~~

 

エリカ『ええええっ!?わ、私が一日れもんを回すんですか!?』

千鶴 『明日、商店街のお付き合いでどうしても一日お店を休まなければいけなかったの。エリカちゃんがお店をやってくれたらとても助かるわ』

エリカ『ですが、私じゃどう頑張っても千鶴さんの味は出せませんよ!?』

千鶴 『それは大丈夫。店先に看板を出して、『カレー限定デー』って銘打ってカレーだけ出してもらえれば問題ないわ』

エリカ『いえそういう問題じゃ・・・・』

千鶴 『どうしてもだめ?残念ねえ。もし受けてくれたら、エリカちゃんの知りたかったことを教えてあげられたのに』

エリカ『!』

 

エリカは少し考えたのち__

 

エリカ『やります!』

 

凛と答えた。

 

~~回想終了~~

 

イカ娘「エリカ!カツカレーとコロッケカレー一人前ずつでゲソ!」

エリカ(悩んでもしょうがない。引き受けた以上、やり遂げるのが私のプライドよ!)

 

大量に作り置きしておいたカレー鍋を開け、具材のカツとコロッケを添えて上にかける。

 

エリカ「カツとコロッケあがったわ。持っていきなさい!」

イカ娘「うむ!」

 

イカ娘はいつもの調子でお客にカレーを運んでいった。

 

小梅 「はい、二十円のお返しです。ありがとうございました!」

 

助力を申し出た小梅と力を合わせ、三人で店を回していく。

 

イカ娘「コロッケカレーとメンチカツカレーとハンバーグカレーでゲソ!」

エリカ「わかったわ!」

 

客数は相変わらず大目で忙しくはあるが、料理がカレーだけでいいのと三人の役割分担がきちんとしているため効率よく事が運ぶ。

 

イカ娘「コロッケとカツ、お待たせでゲソ」

客A 「え?」

エリカ「ちょっと何やってんの!そこはメンチカツとチキン!コロッケとカツはあっちよ!」

イカ娘「おっとっと、イカんでゲソ」

 

エリカの監督も功を奏し、目立ったトラブルもなく客がはけていく。

小梅もレジが無いときはこまめに皿を片付けたり、洗い物をしてくれていたりする。

店内を飛び交うエリカのツッコミにより、いつもよりちょっと賑やかになっている店内。

そんな中、三人組の女性客が会計を済ませる。

 

客B 「今日もおいしかったです」

小梅 「ありがとうございます、また来てくださいね」

客C 「ぜひ。__ああでも、今日はカレーの日だったからかな?いつもと違う感じがしたね」

エリカ「!」

客D 「あ、それ私も思った。でもこっちもとってもおいしかったですよ」

客C 「うん、いつもの店長さんのカレーにも負けず劣らず、ってね。また来るよ~」

エリカ「あ、ありがとうございました」

 

咄嗟にペコっと頭を下げたエリカ。

 

小梅 「エリカさんのカレー、好評ですね」

エリカ「ええ・・・・」

 

嬉しそうな小梅だが、怪訝そうな表情のエリカ。

 

エリカ(そう、このカレーは千鶴さんは作ったいつものカレーじゃない。千鶴さんに言われて大量に用意しておいた、私が作ったカレーだ)

 

味見をするが・・・・先日小梅と作ったカレーとほぼ大差ない出来。

千鶴の作ったカレーとは比較にならない程なのに、客に好評なのが謎でたまらない。

 

エリカ(こんなの、大量に作っただけで家庭で作るのと同じ味なはず。なのに何故、こうもみんな喜んでいるの?)

 

理解できず疑問が頭の中でぐるぐるしていたが、そこはエリカ、きっちり役割を果たしている。

ピークもきっちりこなし、お昼時を過ぎたころ__

 

エリカ「・・・・しまった」

 

予想外の売れ行きで、コロッケカレー用のコロッケが終わってしまった。

 

小梅 「どうしましょう?看板に、コロッケカレー売り切れって書きましょうか」

エリカ「一日限定とはいえ、カレーのみで済ましているのに一部売り切れじゃれもんの面目に関わるのよ。ちょうど人もはけたし、材料を買ってくるわ。大丈夫、こんな時のために千鶴さんに卸売りしてくれる店の位置を聞いてあるわ」

小梅 「それじゃあ、私は洗い物とお片付けをしておきます。帰ってくるまでは私が応対しておきますね」

エリカ「助かるわ」

 

さっと着替えを済ませ、買い物に繰り出すエリカ。

その後ろを、イカ娘が付いていく。

 

イカ娘「私も行くでゲソ!」

エリカ「はあ?何でアンタが付いてくるのよ」

イカ娘「これから行くお店は私もたまに行くのでゲソ。あそこは安くてたくさんのエビを扱ってるのでゲソ!だから__」

エリカ「エビは買わないわよ」

イカ娘「えええ!?エビを買わずに何を買いに行くのでゲソ!?」

エリカ「コロッケの材料だって言ってるでしょ」

イカ娘「エビコロ__」

エリカ「ポテトコロッケよ」

イカ娘「ええええーーー」

 

ぶーぶー言いながらついてくるイカ娘をスルーしながら進むエリカ。

やがて店に着き、テキパキとジャガイモをカートに入れる。

後ろからすっとエビポテトの袋を入れるイカ娘。

即座に掴んで売り場に戻すエリカ。

次にパン粉を選び、カートに入れる。

後ろからすっと桜エビの詰め合わせを入れるイカ娘。

袋をひっつかんで売り場に叩き投げるエリカ。

最後に玉ねぎをカートに入れていく。

そして後ろから冷凍エビを持ったイカ娘が__

 

エリカ「いい加減にせんか!」

 

勘弁ならず怒鳴るエリカ。

 

エリカ「さっきから隙あらばエビを買わせようとして!ここにはコロッケの材料を買いに来たって言ってるでしょうが!」

イカ娘「だけど、エビだっておいしいでゲソ!」

エリカ「おいしいとかまずいとかそういう問題じゃないのよ!だいたい__」

 

そこまで言い伏せていると、イカ娘が少しうつむき加減にうっすら涙を浮かべているのが見えた。

 

イカ娘「エビは絶対においしいでゲソ・・・・!」

 

エビをぎゅっと握りしめている。

はあ、とエリカはため息をつく。

 

エリカ「しょうがないわね・・・・。ほら、入れなさい」

イカ娘「・・・・え?」

エリカ「エビ一袋くらいならいいわよ。早く入れなさいってば」

 

途端にぱあっと明るい顔をするイカ娘。

会計を終わらせ店を出るころには上機嫌で鼻歌まで歌っていた。

 

イカ娘「さあエリカよ、一刻も早く店に戻るでゲソ!小梅が待ってるでゲソよ!」

 

胸にはしっかり冷凍エビを抱いている。

 

エリカ「全く・・・・。アンタのそういう所、あの子を思い出すわ」

イカ娘「あの子・・・・?」

エリカ「元副隊長・・・・あの子のことよ」

イカ娘「ああ、そういえば去年まで同じ学校だったでゲソね」

エリカ「あの子も戦車から降りればぽわぽわしてて自分が無かったのに、好きなことに関してだけは頑として譲らないんだから。口では勝てないからって、ああやって頑なな態度でこちらが折れるのを待つのよ。ほんとああなったら手が付けられない」

 

昔のみほを思い出しながら、呆れ顔ながらも懐かしい顔をしていた。

 

イカ娘「そういえば、最近エリカとは戦車道していなかったでゲソね」

エリカ「そう言えばそうね・・・・。あれから腕は上がったのかしら?」

イカ娘「もちろんでゲソ!今度こそエリカを完封して見せるでゲソ!」

エリカ「言うわね。それなら次は西住流として、全力で手加減なしでお相手してあげるわ」

イカ娘「少しくらい手加減してくれてもいいのでゲソよ?」

エリカ「完封はどこいったのよ」

 

などと会話していると、れもんへ到着した。

 

エリカ「店を空けて三十分・・・・。せいぜい一時間が限度よ。それまでにコロッケを作り切って、次の波に備えるのよ!」

イカ娘「うむ!」

 

意気揚々と店の中へ入る二人。

そして店の中に一歩踏み込んだ瞬間__

 

ドサンッ!

 

二人は手に持った買い物袋を床に落とした。

店内にいる人物を見た瞬間、体が固まってしまったのだ。

 

まほ 「ああエリカ、戻ったか」

しほ 「ずいぶん時間がかかったのね」

 

店内にはまほとしほ、そして気まずそうな笑顔を浮かべる小梅がいた。

 

エリカ「いいいいいいいいいい家元!?隊長も!」

イカ娘「にににににににににに西住さんの母ちゃん!?」

しほ 「また会ったわね。戦車泥棒の件以来かしら(※黒森峰編第3話・追いかけなイカ?)」

イカ娘「ひいっ!」

 

視線を向けられ、青い顔をしてエリカの後ろに隠れるイカ娘。

 

しほ 「あら・・・・嫌われたものね」

 

イカ娘はぷるぷると小刻みに震えている。

 

エリカ(あの時、部屋の中で一体何が・・・・)

エリカ「い、家元も隊長も、どうしてここに?」

まほ 「ああ、今日は戦車道連盟役員との面談があってな。お母様に同伴する形で私も参加していたんだ」

しほ 「会合が終わった後小腹がすいて。れもんが近かったことを思い出して、足を運んだ次第です」

エリカ「そ、そうだったんですか・・・・」

まほ 「事情は小梅から聞いている。代理とはいえ一日店長とは、やるじゃないかエリカ」

エリカ「い、いえ!めっそうもありません!すいません、役目がありますので」

 

気を取り直して、コロッケの材料の入った袋を持ち上げ厨房に入る。

れもんTシャツを着なおし、いざ玉ねぎを刻もうと構えると__

厨房にまほが入って来た。

 

エリカ「えっ、隊長?」

まほ 「一人でこの量は大変だろう。私も手伝おう」

エリカ「ええっ、そんな滅相もない!隊長自ら手伝っていただくことなど__」

 

慌てて手助けを拒否しようとすると__今度は反対側に人の気配。

恐る恐る振り返ると__

 

エリカ「い、家元・・・・!?」

 

そこにはしほが立っていた。

いつもの黒スーツの上を脱ぎ、ワイシャツの上にエプロンを羽織っている。

 

しほ 「ジャガイモの仕込みはやっておきます。貴女は玉ねぎと火の用意を」

エリカ「そそそんな!家元や隊長のお手を煩わせるほどのことでは!」

 

ふう、とため息をつくしほ。

 

しほ 「もしかして、一人でこの量の材料を仕込んでコロッケを揚げられると思っているの?三十分程度で?」

エリカ「うっ・・・・」

しほ 「困難から逃げず正面から立ち向かうその姿、西住流を嗜む者としては模範的です。ですが、効率的な申し出を断り非効率を一貫するという選択は愚策と言わざるを得ません。__心配しなくても、これでも二人の娘を育て上げた母。料理の腕は並にはあるわ」

 

口を動かしながらもジャガイモを扱う手は緩まず、手際よく皮をむきボウルに次々と剥かれたジャガイモが詰まれていく。

 

まほ 「エリカ、油の管理と衣の準備はこちらで済ませておく。お前は玉ねぎに集中してくれるか」

 

ジャガイモを剥くしほと、パン粉を開けたり油の温度を確かめるまほに挟まれ、しばし思考が停止していたエリカ。

しかしすぐに自分を取り戻し__

 

エリカ「お願いします!」

 

玉ねぎの仕込みに取り掛かる。

そこからの店内は、まさに戦場だった、と小梅は語る。

コロッケを揚げはじめるやいなや、れもんのカレー限定デーを聞きつけた客が大挙として押し寄せ、注文が飛び交い始めた。

イカ娘は触手をフルに活用しカレーを一気に運び、

小梅はどんな込み具合にも平静を保ち正確な接客とレジ打ちを徹底。

まほはコロッケに衣をつけて次々と揚げ続け、コロッケカレーの需要を欠かないよう努める。

しほはカツやチキンと言った具材を乗せつつ、受けた注文を正確に把握し中継役を担っていた。

そして__

 

エリカ「カツカレー二つとコロッケ三つあがったわよ!」

 

エリカはその中心としてよく働き続けていた。

そして夕方。

日も沈みかけたころ、れもんの営業は終了の運びとなった。

 

イカ娘「お、終わったでゲソー・・・・」

 

疲れ切ったイカ娘がテーブルにぺちゃんと倒れこむ。

 

エリカ「お疲れ様。アンタにしてはよく頑張ったわ」

 

そう言ってイカ娘の前にサイダーを置くエリカ。

 

イカ娘「エリカはいつも一言余計でゲソ」

 

ブツブツ言いながらもしっかり飲むイカ娘。

結果は大成功。

一日限定のカレー限定デーは、いつも以上の繁盛をれもんにもたらしていた。

 

エリカ「おふた方、ご助力まことにありがとうございました!」

 

深々とまほとしほに頭を下げるエリカ。

 

まほ 「頭を上げてくれエリカ。私たちの中心として一番頑張っていたのはお前じゃないか」

小梅 「そうですよ。エリカさんの頑張りがなかったら、お店は回っていなかったんですから」

エリカ「正直、甘く見ていたわ。海の家経営が、こんなにもハードなものだったなんて・・・・」

 

もしまほとしほが居合わせておらず、後半を三人だけで回すことになっていたら、と考えると背筋が凍る。

 

きゅ~っ・・・・

 

乗り越えて張っていた気持ちが緩んだのか、エリカのお腹が鳴る。

少し赤くなるエリカ。

 

しほ 「・・・・そう言えば、私たちはここに食事へ来ていたわね」

まほ 「そうですね。すっかり忘れていました」

エリカ「あっ、すいません!」

 

気がついたエリカが慌てて何か出せるものはないかと見回すが、あるのは少しだけ残ったカレーだけ。

残り物を出すようで気が引けていると__

 

まほ 「エリカ、これをもらってもいいだろうか」

 

まほがカレー鍋を覗き込む。

 

エリカ「えっ!?えーっと、でもそれは残り物ですし、隊長たちにがもっとちゃんとしたものを__」

まほ 「何を言っている。手伝っている最中ずっと、このカレーのいい匂いに誘われ続けていたんだ。これ以外を食べろと言われても断るからな」

 

苦笑しながらカレーをよそう。

ちょうど五皿目ができたところでカレーが終わった。

 

まほ 「人数分足りてよかったな。皆で食べるとしよう」

 

テーブルに皿を並べ、席に着くまほ。

しかしエリカは立ったまま。

 

まほ 「どうしたんだエリカ、一緒に食べよう」

エリカ「い、いえ!家元らと席を同じくするなど、図々しいにもほどが__」

しほ 「逸見さん」

 

凛としながらも語り掛けるようにしほが口を開く。

 

しほ 「今回一番の功労者は貴女です。その貴女が食べないというのであれば、私たちにも食べる資格は無し、ということになるのだけれど」

エリカ「うっ!?__お、お邪魔します」

 

流石にそう言われては断るわけにはいかず、おずおずと席に着く。

かくして、

 

一同 「いただきます」

 

五人でテーブルを囲み、カレーにありつく。

開口一番、同時に飛び出たのは

 

一同 「おいしい!」

 

の一言だった。

 

イカ娘「これはおいしいでゲソ!今まで食べたカレーの中でも一番なんじゃなイカ!?」

小梅 「本当に、とってもおいしいです。こんなにおいしくできるなんて、さすがエリカさんです」

しほ 「店を一日任されるほどはあるわね。この出来は菊代の腕にも匹敵するかもしれないわ」

まほ 「ええ。辛さも濃さも、ちょうど私好みですし」

 

みんな口々にエリカのカレーを褒めながら食べているが、当のエリカは釈然としない。

 

エリカ(どうしてみんなこんなに喜んでくれるのかしら?貧乏舌のイカスミ流はともかく、口の肥えてる家元やカレーにうるさいはずの隊長まで・・・・)

 

エリカは午前中に味見をしていたため、このカレーがいつも作る平凡なカレーであることはわかっている。

 

エリカ(小梅だって気を使ってくれてるだけのことよ)

 

そう思いながら一口カレーを食べる。

だが__

 

エリカ(おおおおいしいいいいいい!)

 

一口食べてその考えが吹っ飛んだ。

気が付けば夢中で食べている。

あっという間に食べきってしまった五人であった。

 

しほ 「とても美味しかったわ。ありがとう」

小梅 「はい。これなら毎日いただいてもいいくらいです!」

イカ娘「それは言いすぎじゃなイカ?だけど、エビが入っていないのにここまでおいしくできるとは、やるじゃなイカ、エリカ!」

エリカ「あ、ありがとう」

 

口々に褒められて頬が熱いエリカ。

 

まほ 「エリカ」

エリカ「えっ、はい、なんでしょ__」

 

まほに声を掛けられてエリカは動きが止まる。

振り向いた先、すぐ目の前にいたのは、まさにあの時見せた__エリカが見たかった、満面の笑みのまほだった。

 

まほ 「本当に美味しいカレーだった。ここまで美味しいのを食べたのは久々だ。ありがとう」

エリカ「__っ!」

 

感極まって少し涙がにじむが、ぐいっと拭い、

 

エリカ「身に余る光栄です!」

 

誤魔化すように凛と返した。

そこへ__

 

千鶴 「あらあらエリカちゃん、ごくろうさま!」

 

千鶴が帰って来た。

 

エリカ「千鶴さん!」

しほ 「お邪魔しているわ」

千鶴 「あらあら、いらしていたんですか。おかまいもできずにすみませんね」

しほ 「いいえ、有意義な時間を過ごせたわ。娘や教え子たちと台所で並ぶなんて、何年ぶりかしら」

 

そう言いながらすっと席を立つしほ。

 

小梅 「家元、どちらへ?」

しほ 「明日の準備があるから先に失礼するわ。あなた達はゆっくりしてから戻りなさい」

まほ 「はい、わかりました」

 

しほと入れ替わりに店に入る千鶴。

 

千鶴 「一日ありがとうエリカちゃん。お店の評判がこちらにも聞こえてきていたわ」

エリカ「いえ、そんな滅相もない」

 

千鶴は謙遜するエリカにふふっとほほ笑む。

 

千鶴 「期待以上の結果を出してくれたことだし、約束のことだけど__」

エリカ「いえ、もういいんです」

千鶴 「あら?」

 

カレーの隠し味について教えようとする千鶴の言葉を遮るエリカ。

 

エリカ「知りたいことは、もうわかりましたから」

 

そう言って振り返る。

 

イカ娘「しかし本当においしかったでゲソ。これにエビを加えたら一体どうなってしまうのでゲソかね」

小梅 「じゃあ次はシーフードカレーはどうでしょう?」

まほ 「それはいいな。じゃあチームのみんなも呼んでカレーパーティーでもやろうか」

 

テーブルでは、まほ、小梅、イカ娘の三人が今日あったことやカレーについて談笑している。

その光景は、まほの笑顔は、まさにエリカが夢で見ていた一年前のあの日と全く同じだった。

ふふっ、とほほ笑む千鶴に、エリカは深々と頭を下げるのだった。

 

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みほ 『へえ、そんなことが』

まほ 「ああ」

 

その日の夜。

まほは自室でみほと電話をしていた。

 

みほ 『そんなにおいしかったの?エリカさんの作ってくれたカレー』

まほ 「ああ。あれを上回るものはそう現れないだろう」

みほ 『へえー!お姉ちゃんがそこまで褒めるなんて・・・・。私も食べてみたかったなあ』

まほ 「食べたいならエリカに頼めばいいだろう?」

みほ 『えっ・・・・。うーん、食べたいんだけど、エリカさんお願いしても作ってくれるかなあ・・・・』

 

自信なさげに呟くみほ。

 

まほ 「大丈夫さ」

みほ 『お姉ちゃん?』

 

まほはれもんで見せた、みんながカレーを堪能していた時の嬉しそうなエリカの顔を思い浮かべる。

 

まほ 「エリカは、きっとみほの頼みも聞いてくれる。私が保証しよう」

みほ 『・・・・うん』

 

しばしの沈黙。

 

みほ 『・・・・ねえ、お姉ちゃん』

まほ 「どうした?」

みほ 『今度、黒森峰に、その__遊びに行ってもいいかな?』

まほ 「!」

 

少し間が開くが、

 

まほ 「ああ、いつでも来るといい。みんな歓迎するだろう」

 

まほは笑顔で答えた。




黒森峰と言えばまほですが、まほに黒森峰と言えば?と聞いたら多分エリカと答えるかもしれない、そう思えるほどまほはエリカに期待を寄せているように思えます。

黒森峰は初めの方こそ西住流に縛られた個のないエリート集団に見えがちでしたが、時間を追うごとに自己性を見失わないしっかり者たちがいたように感じ取れるようになっていました。
常勝・勝てて当たり前と言う枷から解放された彼女らが今後どういった成長を遂げるのか楽しみです。

そしていよいよ次からは劇場版校の夏編最終話が始まります。
来るべき大きな流れに向け、今後もご期待くだされば幸いです。

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