侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

幼い頃のまほ→幼まほ
幼い頃のみほ→幼みほ


第5話・遡らなイカ?

三バカ「イヤッフーゥ!」

 

海の家れもんの店内で、三バカがはしゃいでいる。

 

栄子 「うるっさいなあ、静かにできないなら帰れよ」

クラー「そりゃ興奮もしマース!」

ハリス「我々が長年研究開発してキタ装置が」

マー 「ついに完成シタのデース!」

三バカ「イヤッフーーゥ!」

栄子 「ほーう、そうかそうか。そいつはめでたいな」

 

言いながら笑顔でバットを取り出す栄子。

 

マー 「ジャスタモメント!?どうしてバットを握っているのデスか!?」

栄子 「そりゃお前らが丹精込めて作った装置ならさぞかし危険だろうからな。今のうちに処分しといた方が人類のためになるってもんだ」

クラー「横暴デース」

栄子 「前科積み重ねてよく言うよ。・・・・まあいいや。もし少しでもおかしな動きしたら、装置ごと叩き割るからな」

 

物騒な釘の刺し方をして、栄子が離れる。

 

イカ娘「む?栄子よ、似合わないモノを付けてるげゲソね」

 

イカ娘が、栄子の腰につけている小さなボコのぬいぐるみに気が付く。

 

栄子 「ああ、昨日早苗とゲーセン行ったときに取れたんだよ。確か西住さん好きだったから、あげようと思ってさ」

 

と、そこに__

 

みほ 「お邪魔します」

まほ 「失礼する」

 

みほとまほが入店してきた。

 

栄子 「あれ、いらっしゃい!二人だけで来るなんて珍しいね。初めてじゃない?」

みほ 「あはは、そうかもしれませんね」

まほ 「昨日電話で話していたんだが、お互い午前中は時間があると分かって。なら、れもんでゆっくりしようという話になったんだ」

栄子 「そっか。ならのんびりしてってよ」

まほ 「ああ。そうさせてもらう」

イカ娘「おお、西住さんたちじゃなイカ、いらっしゃいでゲソー」

みほ 「おはよう、イカ娘ちゃん」

まほ 「世話になる」

イカ娘「うむ」

 

一緒のテーブル席に着く二人。

 

みほ 「うーん、何にしよう。お姉ちゃんは何にするの?」

まほ 「そうだな・・・・。ここのカレーはとびきりうまいんだが、今食べると昼が入らなそうだしな・・・・」

みほ 「あれ?昨日の晩ごはんもカレーじゃなかった?」

まほ 「ここのカレーは別だ。何度食べても飽きが来ない」

みほ 「へえ、そうなんだ。私も食べてみようかな?」

 

和気あいあいと仲睦まじい西住姉妹。

 

イカ娘「本当に二人は仲いいでゲソね」

みほ 「うん。小さいころからずっと一緒だったし、戦車道も上手だったし、自慢のお姉ちゃんだよ」

まほ 「持ち上げすぎだ。みほの方こそ、成し遂げたことは沢山ある。自慢の妹だ」

みほ 「えへへ・・・・♪」

栄子 「そういえば二人とも小さいころから戦車道やってたんだっけ。具体的にはどのくらいから?」

みほ 「えーっと・・・・いつからだろ?」

 

言われてふと思い、記憶をさかのぼるが明確な答えが出てこない。

 

みほ 「物心ついた時からもう戦車には乗ってたから・・・・ちょっとわからないかも」

まほ 「小学校に上がる前にはもう戦車には乗っていたな。戦車道としての形を仕込まれたのはその後だ」

栄子 「はー・・・・。年期が違うわ」

イカ娘「まさに英才教育でゲソ」

みほ 「そんな大それたことじゃないよ。それに私、要領悪かったからいつもお母さんに注意されて。逆にお姉ちゃんはどんどんこなしていってて、すごいなあって思ってたもん」

 

まほはそんなみほを少し複雑そうにな笑顔で見ている。

何の気なしに、みほのバッグについているボコの人形が目に入る。

一つだけ、やたらと年期が入った古い小さなぬいぐるみだ。

ふと思い出す。

 

まほ 「小さいころと言えば・・・・みほ、覚えてるか?あの人たちのことを」

みほ 「あの人たち・・・・?ああ、あの時の!」

イカ娘「あの人って、どの人でゲソ」

まほ 「私たちが今話していた幼い頃、不思議な人たちに会ったんだ」

みほ 「すごく戦車道が上手で、色々すごい技を見せてらったんだよね」

まほ 「私も、あの人たちから戦車道のなんたるかを学んだんだ」

栄子 「へーっ、西住さんたちに戦車道を教える・・・・!そりゃプロか何かの筋の人なのかね」

まほ 「本人たちは趣味でやってるだけだ、と言ってたが・・・・あの戦車さばきは並ではなかった。きっと身分を隠す必要があったんだろう」

みほ 「もう一度会ってあの時のお礼を言いたいんだけど、まだ今まで会えたことが無くって」

まほ 「私も、名前と顔がもううろ覚えだ。探そうにも探しようがなくて」

千鶴 「でも、その人も戦車道をしているのでしょう?なら、戦車道を続けていれば、またきっと会えるわ」

みほ 「はい、そうですね」

 

と、昔話を交え団らんしていると__

 

三バカ「オゥイエー!」

 

三バカが更にはしゃぎだした。

 

栄子 「うっせえよ!」

 

駆け寄り、栄子はクラークの持っていた装置を奪う。

手のひらサイズで、薄い円盤のような形状をしている。

 

クラー「アッ!返してくだサーイ!」

栄子 「警告しただろ!てか、そもそもこれ何の機械なんだよ」

ハリス「・・・・人類の役にタツ?」

マー 「装置デース」

 

三バカは目線を外し、そしらぬ風に答える。

 

クラー「決して人体に有害な発明デハありまセーン。ですから、返して__」

栄子 「却下。姉貴ー」

 

と、おもむろに千鶴に向かって装置を投げる。

栄子の意図を察し、手刀を構える千鶴。

 

ハリス「アーーッ!」

マー 「やめてくだサーイ!」

クラー「その装置は、割ると発動するのデース!」

栄子 「えっ」

 

しかし時すでに遅く、千鶴の手刀が奇麗に装置を真っ二つにした。

床に落ちる装置。

そこから__

 

栄子 「な、何だ!?」

みほ 「煙!?」

 

割れた装置の中から煙が噴き出し、栄子と千鶴を包む。

 

栄子 「うわっ!?何だコレ!?」

イカ娘「栄子!?千鶴!?」

 

自分を呼ぶ声を聞きながら、栄子の意識は遠くなっていった。

 

???「__ちゃん、__子ちゃん」

 

自分をゆすりながら呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと目を覚ます栄子。

 

千鶴 「良かった、目を覚ましたのね」

栄子 「姉貴・・・・?」

 

目を覚ますと、目の前には千鶴がいた。

 

栄子 「姉貴、私たちは一体・・・・?」

 

意識が寝起きの様にはっきりせず、周囲を見渡す。

__そこは、周囲を木々に囲まれた林の中だった。

 

栄子 「・・・・ここ、どこだ?私たちは、さっきまでれもんにいたよな?」

千鶴 「私にもわからないわ。気が付いたら二人してここにいたの」

栄子 「私たちだけ・・・・?みんなはどこいったんだ?」

 

ゆっくり何が起きたのか思い出す。

 

栄子 (えっと、れもんでバイトしてて、西住さんたちが来て。三バカがうるさいから何かの機械を取り上げて__)

栄子 「そうだ。あいつらの機械を壊したら煙が出たんだ。それに包まれて__どうしてこうなった」

 

過程が分かってもどうしてそうなったのかまでは至らず、混乱する栄子だった。

 

千鶴 「ともかく、林を出ましょう。そうすればきっとここがどの辺なのか分かるわ」

栄子 「そうだな」

 

林を出るために歩き始める。

 

栄子 「この事態は、絶対三バカどものあの機械のせいだよな。戻ったらあいつら海に放り込んでやる」

千鶴 「それにしても暑いわね・・・・。今日、こんなに日差しが強かったかしら」

 

林の中にいても、木々の隙間から射す日差しは強烈で汗が噴き出す。

 

栄子 「あっちー・・・・。早くラムネでも飲みたいよ」

 

と、やっと林の終わりが見えてきた。

 

栄子 「おっ、出口だ!」

 

事態の好転を期待した栄子が早く外に出ようと駆け出す。

すると、千鶴の耳に何かの音が聞こえてくる。

 

千鶴 「__!栄子ちゃん!まだ出ちゃダメ!」

栄子 「・・・・えっ!?」

 

千鶴の制止に間に合わず、勢いよく林から一歩飛び出してしまう栄子。

次の瞬間。

 

バアン!

 

大きな音が近くで聞こえた気がしたかと思うと__

 

バシィッ!!

 

耳元でまた音が聞こえた。

そちらの方を見ると__

千鶴が栄子の目の前に腕を伸ばしていた。

・・・・正確には、栄子の眼前にある何かを掴んでいる。

何かと思い、それをよく見ると__

 

栄子 「ほ、ほほ、__砲弾!?」

 

千鶴が掴んでいたのは、栄子に直撃するコースで飛んできていた戦車の砲弾だった。

他と比べかなり細身だが、もちろん当たれば命の保証はなかった。

 

千鶴 「栄子ちゃん、大丈夫!?」

 

砲弾をキャッチした手からは少し煙が出ている。

栄子は腰が抜けたのか、その場でへたり込んでしまった。

 

千鶴 「栄子ちゃん!?当たっちゃったの!?」

栄子 「い、いや、だだだ、大丈夫・・・・。腰が抜けたみたいだけど」

千鶴 「良かった・・・・・」

 

カラン

 

千鶴が掴んでいた砲弾を地面に落とす。

 

千鶴 「KwK30・・・・。20mm機関砲の砲弾だわ」

???「ひ、人がいたよ!?」

???「だからあそこはあぶないって言ったのに!」

 

ふと、声が聞こえてくる。

砲弾が飛んできたと思わしき方角を見ると・・・・そこには、こちらに砲口を向けているⅡ号戦車が佇んでいる。

その戦車からは、二人の幼い少女が青い顔をしてこちらを見ている。

 

栄子 「もしかして__あの子たちが撃ったのか!?」

千鶴 「おそらくそうだと思うけど・・・・あの年で戦車を動かせるなんて」

 

栄子たちが唖然としていると、少女たちの乗っていた戦車がこちらに駆けつけてきた。

千鶴は足元に置いた砲弾を足で上手く草むらに隠した。

 

少女A「ごごご、ごめんなさい~!ひ、人がいるとはおもわなくて!」

少女B「大丈夫ですか!?おケガはありませんでしたか!?」

 

取り乱した少女たち。

 

千鶴 「ええ、私たちは大丈夫よ。当たらなかったから」

少女A「えっ?・・・・そっか~、よかった~!」

 

無事と聞いて茶色がかった髪の少女は胸をなでおろす。

もう一人の少女は草むらに隠した砲弾に気づいていたが、千鶴の気持ちを察したのか何も言わなかった。

 

少女B「ご迷惑をおかけしました。おわびの言葉もありません」

少女A「ごめんなさい、だれもいないところでれんしゅうしようと思って・・・・」

 

濃い茶色の髪をした少女がうながし、二人で頭を下げる。

 

栄子 「練習?・・・・戦車の?__君たちが!?」

少女B「はい」

 

よく見れば、その戦車__Ⅱ号戦車の乗組員は、その少女二人だけ。

つまり、操縦と砲撃をこの子たちがこなしたことになる。

 

千鶴 「まあ・・・・。もうそんな年で戦車を動かせるなんて、驚きだわ」

少女B「にしずみ流の人間として、とうぜんのことです」

栄子 「え」

 

少女の受け答えに一瞬止まる。

少女の顔を見る。

・・・・何だか見覚えのある顔をしてる。

 

栄子 「今・・・・何流って言った?西住流?」

少女B「はい」

栄子 「キミ・・・・西住流の子なの?」

少女B「はい。・・・・あっ、名乗りおくれました」

 

幼いながらに精悍な顔立ちになる少女B。

 

幼まほ「わたし、西住まほと言います。こっちは、妹の西住みほです」

幼みほ「にしずみみほです!はじめまして!」

栄子 「え」

千鶴 「えっ」

栄子 「__ええええええええええええええええ!?」

 

その後。

栄子と千鶴は、あぜ道を走るⅡ号戦車の上に乗っていた。

そのまま別れようとしたのだが、まほにどうしても『ご迷惑をかけたおわびがしたい』と引き留められ、自宅へ招待されることになったのだ。

風にあたりながら呆然とする栄子。

 

栄子 「こりゃ一体どういうことだ・・・・」

千鶴 「まさかとは思うけれど・・・・」

 

冷静ながらも、千鶴も事態を正確には把握できていない。

 

千鶴 「あ、そうだわ。ねえまほちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら」

幼まほ「何でしょうか?」

 

しっかり前を見ながら、運転席からまほが返す。

 

千鶴 「今って、西暦何年だったかしら?ちょっと度忘れしちゃったみたい」

幼まほ「え?・・・・200×年ですが」

栄子 (!・・・・それって、十年前じゃんか・・・・!)

千鶴 「ありがとう。__やっぱり。にわかには信じられなかったけど、どうやら間違いないわ」

栄子 「まさか・・・・本当にここは十年前だってのか!?」

千鶴 「そう考えた方が無理がないわ。ドッキリにしても、手が込みすぎてるし」

栄子 「仮にそうだとして、どうして私たちが十年前に飛ばされてるんだ?・・・・まさかこれも三バカの機械のせいか」

千鶴 「原因は後で考えましょう。まずは身を落ち着かせないと」

 

やがてあぜ道が終わり、しばらく進むと正面に大きな日本家屋が見えてきた。

 

千鶴 「あれが、みほちゃんたちのおうちかしら」

幼みほ「うん!お父さんとお母さん、あとキクヨさんといっしょにくらしてるの!」

千鶴 (みほちゃんの実家は、確か今も昔も熊本県)

栄子 (それじゃあ、場所まで飛ばされたってことか)

 

そのままⅡ号は屋敷の中へ入り、スムーズに車庫へ向かう。

 

栄子 「それにしてもうまいなあ。私だったら何度も切り返しちゃうよ」

幼まほ「栄子さんも、戦車道をたしなまれているんですか」

栄子 「嗜むなんて上品なもんじゃないよ。つきあいっていうか、半分趣味みたいなもんさ」

幼まほ「趣味・・・・ですか。・・・・いいですね」

 

どことなくうらやましそうなまほの言葉に少し違和感を感じる栄子。

と、

 

???「戻ったのね、二人とも」

栄子 (ん?)

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

そちらを向くと__

 

幼まほ「ただ今もどりました、お母さま」

幼みほ「ただいま、おかあさん!」

 

そこにはしほが立っていた。

 

栄子 (やっぱりしほさんだ!うちらの時代も年齢を感じさせないけど・・・・やっぱ若っ!)

しほ 「あら、そちらの方は?」

幼みほ「えっ、あっ、その」

栄子 「えーっと、私たちは・・・・」

 

当然ながらこの時代のしほとは面識がなく、咄嗟にどういったらいいものか言い淀む栄子。

しかも今まで気づかなかったが、ずっとれもんのユニフォームを着たままだ。

しほの不審者を見るような鋭い眼光に怯んでしまった栄子の代わりに、千鶴が前に出る。

 

千鶴 「はじめまして、相沢千鶴と申します。こちらは妹の栄子です。西住流師範、西住しほ様ですね?お目にかかれて光栄です」

しほ 「ご丁寧に。・・・・それで、相沢さん?海の家の方が、当家に一体どのようなご要件かしら」

 

ハキハキとした様子で受け応える千鶴。

しほも千鶴の大人な対応に警戒心を和らげたように見える。

千鶴は上手く話を作り、二人が練習していたところに居合わせて話が弾み、家に招待された、と説明する。

 

千鶴 「それで、是非ともこれからの参考にさせていただきたいと思いまして」

しほ 「そう。見学なら構わないわ。好きに見て行ってちょうだい」

千鶴 「ありがとうございます」

しほ 「菊代」

 

屋敷の方に声を掛けると、中から和装の女性がやって来た。

見た目的に、お手伝いさんなのは間違いない。

 

しほ 「相沢千鶴さんと、その妹さんの栄子さんよ。彼女たちのお世話を頼むわ」

菊代 「かしこまりました」

しほ 「まほ、みほ。あなたたちはそのまま付いてきなさい。少し早くなるけれど、修練を始めます」

幼まほ「えっ、でも、お客さまが__」

しほ 「菊代がいるでしょう。彼女におもてなしさせます。行きますよ」

幼まほ「・・・・はい。行こう、みほ」

幼みほ「・・・・うん」

 

気が進まなそうなみほの手を、まほがきゅっと握る。

そのまま、手をつなぎながらしほについていく二人。

 

幼まほ「ごめんなさい、千鶴さん」

千鶴 「ううん、気にしないで。二人とも、後でね」

幼みほ「うん」

幼まほ「はい、後で」

 

菊代に案内され、屋敷の中を歩く。

 

菊代 「・・・・あの」

栄子 「はい?」

 

廊下でおもむろに話しかけられる。

 

菊代 「お嬢さまがたが、何かご迷惑をおかけしましたのでしょうか・・・・」

栄子 「えっ」

菊代 「みほお嬢さまの顔がすぐれませんでしたので。あの顔は、粗相をしてしほ様に叱られるのを恐れている時によくするお顔です」

 

よく見ている、と感心する栄子。

 

千鶴 「大丈夫ですよ。あの子たちは叱られるようなことは何もしていませんから」

菊代 「そうですか。安心いたしました」

 

菊代は嬉しそうな顔をした。

客間に通され、お茶とお菓子を出される。

 

栄子 「あの」

菊代 「はい」

栄子 「まほさ・・・・まほちゃんたちは、一体どこへ?」

菊代 「今日の日程では、この後は戦車道指導の時間です。恐らくは道場で師範直々にご指導に当たれていられるかと」

千鶴 「しほさん自ら、ですか」

菊代 「師範のお嬢さまがたへ掛ける期待は並々ではありませんから。既にお二人を黒森峰へ入学させる手続きも終えられているとか・・・・」

栄子 「熱心すぎだろ」

菊代 「西住の家に産まれるということは、こういうことですから・・・・。ですが時々、お嬢さまがたが不憫に思われるときも実はあります」

千鶴 「そうですね。自分の歩む道は、本人に決めてほしいという気持ちは間違ってはいませんよ」

菊代 「私には、師範に意見するなど恐れ多くてとてもできません。ですから、おふた方だけでもお嬢さまがたのお相手をしていただけると、きっとお喜びになると思います」

千鶴 「ご心配なく。私たちは、後にも先にもまほちゃんたちの味方ですから」

菊代 「ありがとうございます・・・・」

 

菊代は深々と頭を下げた。

しばらくして、御用があればお呼びください、と菊代は席を外した。

 

栄子 「なあ姉貴、これからどうする?」

千鶴 「そうね・・・・。どうしようかしら」

栄子 「まさか十年前の熊本に飛ばされるなんて・・・・。今回ばかりは三バカどもの技術力を嫌って程思い知らされたよ」

千鶴 「でもこのまま十年前のこの世界で暮らすわけにはいかないわ。私たちは私たちの時間に戻らないと」

栄子 「つってもなあ・・・・。この時代にも三バカはいるだろうけど、由比ガ浜にいるとも限らないしなあ」

 

考えが煮詰まりうーん、と畳に寝転がる栄子。

 

栄子 「・・・・西住さんたち、あんな小さいころから戦車道やらされてたんだな」

千鶴 「・・・・そうね」

 

この時代のまほたちに出会ってから感じたこと。

まほの運転技術、戦車の知識、そして幼子が二人で自主練習をするほどの環境。

自由気ままに好きなことをしていた栄子には、彼女らが置かれた状況が信じられないでいた。

 

栄子 「何とかしてあげたいって気持ちもあるけど・・・・下手に関わって過去を変えたら大問題だしな」

千鶴 「私たちが関わったせいでもしまほちゃんやみほちゃんが戦車道に関わらなくなったら、それこそとんでもないことになってしまうわ」

栄子 「・・・・」

千鶴 「・・・・」

 

今になって、ここにいることがまずいことだと気づく。

 

栄子 「・・・・出ようか、ここ」

千鶴 「そうね」

 

菊代に気づかれないよう、こっそり廊下を進む。

靴を履き、裏口から外に出ようと周囲を伺いながら進んでいると__

 

しほ 「違う!もっと旋回は小さく!」

 

しほの凛と張った声が飛んでくる。

声のした方を物陰から覗くと__そこには開けたスペースと、戦車が二両あった。

 

しほ 「まほ、それは信地旋回とは言わない。ただの適当な旋回よ。もっと弧を小さく描くように意識なさい」

幼まほ「はい」

しほ 「みほ、照準を合わせなおしすぎよ。砲口を定めるのに手間取りすぎて、シュトルヒ計算が間に合っていないことに気づきなさい」

幼みほ「う、うん」

しほ 「何度言ったらわかるの。修練中の返事は!」

幼みほ「は、はい!」

 

しほは二両の戦車の前に立ち、それぞれの戦車に乗り込んでいるまほとみほに細かく指示を飛ばしている。

言っていることは間違っておらず的確ではあるが、まだまだ不慣れな彼女らにとってはついていくのでも精いっぱいといった様子だ。

 

栄子 「ひえー・・・・スパルタだなあ」

千鶴 「戦車道師範の直々の指導・・・・。二人はこうやって鍛えられていたのね」

 

みほはしほに叱られるたびに半泣きになり、涙をぬぐいながら必死についていこうとする。

まほは叱られながらも、ぎゅっと我慢するような表情を見せて懸命に指導について行っている。

しばらくそのまま指導は続き__

 

しほ 「__いいでしょう。十分休憩とします」

 

しほは休憩を告げると足早に屋敷へ消えていった。

ほっとしたのか、戦車に乗ったままぐったりする西住姉妹。

 

幼まほ「みほ、よく泣かなかったな。えらいぞ」

幼みほ「えへへ・・・・。ちょっと泣いちゃったけど。おねえちゃん、おてて、だいじょうぶ?」

幼まほ「ああ、これくらいなら少しすれば治るさ」

 

まほは操縦桿の握り方に無理があったのか、やや辛そうに腕をさすっている。

 

栄子 「辛そうだなあ・・・・」

千鶴 「でもこれは、私たちの知るまほちゃんたちが通って来た道よ。今は不遇そうに見えても、その先には幸せな未来が待っているわ」

栄子 「・・・・そうだな。その未来を崩さないためにも、私らはいない方が__」

 

そう言いながら裏手から去ろうとすると__

 

バアアーーン!

 

突如大きな、砲撃のような音が玄関方面から響いてきた。

そして__

 

???「たのもーう!」

 

砲撃音に負けないくらいの大声も聞こえてきた。

 

栄子 「な、何だ!?」

 

事態に気が付いたまほとみほが玄関へ駆けていく。

それを後ろから追う栄子たち。

そしてついた玄関先では、菊代が誰かと口論していた。

 

菊代 「一体どちら様ですか、あなた方は!?」

???「いいから家元を出しなっつってんだろ!」

 

玄関先にいたのは黒い学ランを改造したような衣装に身を包んだスケバン集団と、『特攻』と書かれた物々しい戦車が数両。

その中でもトップクラスに異彩を放っている服装をしたリーダーらしき少女が声を張り上げている。

 

菊代 「ですから!ご要件もわからずに貴女たちのような人たちを家元にお目にかけさせることはできません!」

頭  「だからよー!西住流をぶっ潰しに来たっつってんだろ!さっさと家元出せや!一瞬でケリつけてやんよ!」

千鶴 「どうやら道場破りのようね」

栄子 「何なんだアイツら・・・・。十年前でもあんなヤンキーいなかったぞ?・・・・いや、あれほどじゃないにしても、いたか」

 

脳裏に白椙の元舎弟のヤンキーたちの顔が浮かぶ。

 

しほ 「何ごとですか」

 

少し遅れてしほが現れる。

 

舎弟 「あっ!アネキ、あいつ師範の西住しほですよ!」

頭  「あん!?師範代だあ!?」

 

おろおろする菊代を下がらせ、頭の眼前に立つしほ。

四六時中威圧しっぱなしの頭を前にしても、眉一つ動かさない。

 

しほ 「私は師範よ。・・・・それで、何用かしら」

頭  「・・・・ほおー」

 

見定めるような視線を送り、にやりと笑う。

 

頭  「まあいい。本当は家元をブッ倒して黙らせたかったが、西住しほを倒したとあればアタシらの名は上がる。おい!あんた、アタイらと勝負しろ!」

しほ 「勝負?何で?・・・・まさか戦車道で、なんて冗談言わないでしょうね」

 

ちらりと止めてある戦車を一瞥し、あきれ顔をする。

 

頭  「戦車道に決まってんだろうが!アンタをぶっ潰して、熊本最強はアタイら『ブッコミ菊池隊』として名を轟かすんだ!」

しほ 「・・・・」

 

しほはただ呆れ顔をしている。

ふと、門の陰から事態を覗いているまほとみほに気が付く。

 

しほ 「・・・・いいでしょう。勝負を受けるわ」

菊代 「師範!?」

頭  「よっしゃあ!」

しほ 「・・・・ただし。相手はあの子たちよ」

頭  「あん!?」

幼まほ 「・・・・え?」

 

しほは、まほたちを指さしていた。

 

頭  「オイオイオイ、何だよあのガキどもは!?」

しほ 「私の娘たちよ。あの子たちに勝てたら熊本最強なり全国最強なり好きに名乗るがいいわ」

頭  「ハア!?ガキが相手だあ!?勝てねえからって負けの言い訳に使うつもりか!」

しほ 「そのつもりは毛頭ないわ。あの子たちは私が直々に指導している。いわば西住流を体現した子たちよ。・・・・もっとも、貴女たちでは力不足でしょうけど」

頭  「ざっけんな!このアタイがガキに負けるかよ!」

しほ 「なら実際に戦車道で証明して御覧なさい。私を黙らせる戦車道が出来るかどうか、見せてもらうわ」

頭  「ケッ!後で吠え面かくなよ!」

 

威勢を飛ばし、頭は準備のために下がっていった。

 

しほ 「聞いた通りよ。十分で支度しなさい」

幼みほ「えっ!?でもおかあさん__」

しほ 「西住流に退却なし。挑まれた勝負は受けて立つものよ。あの程度ならあなたたちでも勝てて当然」

幼みほ「でも、おねえちゃんが・・・・」

幼まほ「わかりました。すぐにじゅんびします」

 

そう言ってまほは踵を返した。

 

幼みほ「おねえちゃん!?」

 

慌てて後を追うみほ。

 

幼みほ「ムリだよおねえちゃん!あの人たち、わたしたちよりずっと年うえだよ!」

幼まほ「お母さまもいつも言っていたでしょ?西住流にたいきゃくはないって。それに、もし私たちがしょうぶしなかったら西住流の負けになっちゃう。見たかんじ、あの人たちはそう強くなさそうだし」

幼みほ「でも・・・・おねえちゃん、てはだいじょうぶなの?」

 

まほは軽く腕をさする。

 

幼まほ「・・・・だいじょうぶ。一回試合をするくらいなら、ガマンできる」

 

そう言ってⅡ号に乗り込むまほ。

 

幼まほ「・・・・えっ?」

 

乗り込んだまほは、小さく声を上げた。

そして十分後。

すでにヤンキー側は、ローカストを三両演習場に配置していた。

 

頭  「両数は指定してなかったよなあ?まさか今から一両に減らしてくれ、なんてこたあ言わねえよな?」

 

ニヤニヤしているヤンキーたち。

そんな中でも涼しい顔をしているしほ。

 

しほ 「むしろ三両でいいのかしら。全滅してから車両の追加は認められないわよ?」

頭  「ハン!ずいぶんな自信じゃねえか!」

 

まもなくⅡ号が現れる。

キューポラから覗くまほの顔は、やや緊張しているように見える。

 

しほ 「ルールは殲滅戦。先に相手チームを全滅させた方の勝利とする。双方、位置につきなさい」

頭  「ハハッ!ソッコーで負かせてやんよ!」

幼まほ「・・・・!」

 

迫力に負けじと、必死に睨み返すまほ。

 

しほ 「・・・・始め!」

 

そして戦いの火ぶたが切られる。

 

頭  「撃てえ!」

 

バアン!×3

 

開幕直後、勝負を終わらせようと三両同時に砲弾を放つ。

 

ヒュッ!

 

しかしそれを高速の超信地旋回でかわすⅡ号。

まほが車内に消える。

 

頭  「んなっ!?かわされた!?」

 

ヤンキーたちが驚き戸惑うその瞬間を逃さず__

 

バアン!

シュポッ

 

Ⅱ号の砲弾が直撃し、ローカストが一両沈黙する。

 

頭  「バカな!?__おい、散れっ!挟み撃ちにするぞ!」

 

速攻で一両やられたことに焦ったヤンキーは、散会してⅡ号の前後を取ろうとする。

またキューポラから顔を出して状況確認をするまほ。

またすぐ車内に消える。

そして車内にいる人物に状況を伝える。

 

幼まほ「ローカストがぶんさんしてこっちにきます!」

 

車内には__

 

千鶴 「了解。栄子ちゃん」

栄子 「わかってるって!」

 

相沢姉妹が同乗していた。

 

ギュイイイイ!

 

栄子の操縦でⅡ号は急発進、二手に分かれた一方のローカストへ急接近する。

 

頭  「何いっ!?おい、撃て撃て!」

 

しかし慌てて撃った砲弾はあさっての方向に消えていく。

みほは砲弾の並びを整え、弾詰まりが起きないように丁寧に整理している。

最接近したⅡ号はゆっくりと照準を合わせ__

千鶴が引き金を引く。

 

バアン!

シュポッ

 

二両目も難なく撃破した。

 

頭  「ウソだろ・・・・!?これがガキの操縦かよ!?」

 

三度まほがキューポラから顔を覗かせる。

予想しなかった展開にパニックになるヤンキー。

急旋回し、Ⅱ号の背後に回る。

 

頭  「いくら西住流ったって、背後から襲われりゃひとたまりもねえだろ!もらったあ!」

 

背撃に気づき車体を回すが、砲弾をかわすための急発進は間に合わない。

急旋回で正面を向ける。

 

バアン!

 

ローカストから砲弾が放たれ__

 

バアン!

 

同時にⅡ号からも砲弾が放たれる。

そして、その二つの砲弾は__

 

バヂイイイイイイイイイイイン!

 

聞いたこともないような破裂音を空中で轟かせた。

その強烈な音と起きた出来事に、ヤンキーも、しほも、車内のまほたちも目を丸くし、固まる。

二つの砲弾は空中でぶつかり合い、その衝撃で弾道をそらしたのである。

直後、唯一冷静だった千鶴の次の砲撃で、最後のローカストも難なく撃破された。

 

頭  「お、覚えていやがれーっ!」

 

勝負が終わってから、ヤンキーたちは捨て台詞を吐いて逃げていった。

 

栄子 (最後まで時代錯誤な連中だったなあ)

 

戦車の中に隠れ続ける栄子はそう思った。

車外では、しほがまほとみほを(しほなりに)褒めている。

頭を撫でられて、まほとみほも嬉しそうだ。

 

栄子 「結局関わっちゃったな」

千鶴 「そうね。・・・・でも、お話の流れ的にこの勝負はまほちゃんたちが勝ってないとおかしいから、私たちの介入による影響は微々たるものかもしれないわね」

栄子 「あ、そうだ姉貴。あれから考えたんだけど__」

 

その後。

 

しほ 「あら、また出かけるの?」

 

玄関口で、外に出ようとするⅡ号にしほが出くわす。

慌ててまほとみほが顔を出す。

 

幼まほ「はい。もう少しれんしゅうをしておこうと思いまして」

しほ 「それなら道場内でも練習できるんじゃないかしら」

幼みほ「あっ、でも、その、おそとのほうがきもちいいから!」

しほ 「それと、相沢さんたちを見なかったかしら?菊代が席を外している間に、何処かへ行ってしまったらしいけれど」

幼まほ「あ、あの、あいざわさんたちなら、さきほどお帰りになりましたが」

しほ 「あら、そうなの?」

幼みほ「そ、そうそう!あのこわいおねえちゃんたちがくるまえに、かえっちゃった!」

 

何か言いたげなしほだったが、

 

しほ 「・・・・そう」

 

と、それ以上追及はしてこなかった。

出発するⅡ号。

その中で、栄子と千鶴は息を潜ませていた。

ふと、車内後方ののぞき窓からこっそり様子をうかがうと__

 

栄子 (あっ)

 

しほが、深々とⅡ号に向かってお辞儀をしていた。

やがてⅡ号が見えなくなると、しほはゆっくりと頭を上げた。

 

しほ 「海の家、れもん・・・・。いずれ行ってみようかしら」

 

四人を乗せ、Ⅱ号が走る。

 

幼まほ「駅にお送りしてもよかったのですが、本当にあそこでよかったのですか?」

千鶴 「ええ、大丈夫よ。あそこが私たちの帰り道なの」

幼みほ「へえ、そうなんだー」

 

見覚えのあるあぜ道を通る。

 

幼まほ「今日は、ほんとうにお世話になりました」

千鶴 「うん?」

幼まほ「出会いから失礼をした上に、お母さまにはだまっててもらい、さらに試合の助っ人まで・・・・。なんてお礼をいったらいいか」

千鶴 「ふふっ、気にしないで。これも戦車道よ」

幼まほ「戦車道、ですか?」

千鶴 「ええ。勝負だけではなく、関わる人みんなに優しく、助け合い、絆を深めていくの。戦車道は、自分だけでなく、関わる人々みんなで築き上げていくもの。少なくとも、私はそう思ってるわ」

幼まほ「・・・・」

 

考えたこともないことだった、とまほは感心した様子だった。

 

幼みほ「ねええい子おねえちゃん、つぎはいつあえるの?」

栄子 「あー・・・・いつになるかなー・・・・。もしかしたら十年後くらいかもな」

幼みほ「えー!?」

 

冗談を言われたのかと思い、けらけら笑うみほ。

 

栄子 「あ、そうだ」

 

栄子は腰にかけていたボコのぬいぐるみを外す。

 

栄子 「みほちゃん、これあげる。好きだったでしょ」

幼みほ「わあ、かわいい!これ、おなまえはなんていうの?」

栄子 「えっ?ボコだけど」

幼みほ「へえ~、ボコ・・・・。ありがとう、えい子おねえちゃん!」

 

やがてⅡ号は、まほたちと出会った例の林入り口に到着した。

 

千鶴 「ここでいいわ、ありがとう」

 

Ⅱ号から降りる二人。

そのまま林の入り口に立つ。

 

栄子 「たしか、ここを入った先だよな」

千鶴 「ええ、間違いないわ」

 

林に入る前に、まほたちの方を向く。

 

栄子 「あのさ!これから色々あって大変だろうけど、お互い仲良くな!」

幼みほ「うん!おねえちゃんとは、ずっといっしょだもん!」

 

みほがまほの手をきゅっと握る。

まほも嬉しそうに顔をほころばせている。

 

千鶴 「私たちも陰ながら応援しているわ。決して無理はせず、自分の信じる道を歩んでちょうだい」

幼まほ「はい。ぜんしょします」

 

Ⅱ号からは、まほとみほが手を振っていた。

二人に手を振り返しながら、栄子たちは林に入っていった。

 

栄子 「それにしても、あの頃からすごく仲良かったんだな」

千鶴 「そうね。あれから色々あったけど、二人の思いあう気持ちだけは決して色褪せなかったのね」

 

林の中を進む。

 

千鶴 「でも、本当にこれで帰れるのかしら?」

栄子 「ああ。大体ゲームや漫画のセオリーだと、こういう時は最初の場所に__」

 

やがて目を覚ました場所へたどり着いた。

そこには、れもんでまかれたあの煙らしきものがまだ空中を漂っている。

 

栄子 「あった!」

千鶴 「最初からここにあったのね。さっきはパニックで見落としてたのかしら」

栄子 「よっしゃ、消えちまわないうちに戻ろう!」

千鶴 「ええ」

 

栄子は勇んで煙に近づいていく。

千鶴は、少し名残惜しそうに振り返るが__すぐに栄子と一緒に煙に飛び込んだ。

同じように、意識が遠くなっていき__

 

???「__子!千鶴!」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

栄子 「んん・・・・?」

 

目を開けると、木の床にうつぶせになっていた。

まかれていた煙もやがて晴れ、そして目の前には__

 

イカ娘「栄子!大丈夫でゲソか!?」

栄子 「イカ娘・・・・?ここは、れもんか」

 

周囲を見渡すと、そこは最初に意識を失う直前とまったく同じ光景があった。

三バカは気まずそうに立ちすくみ、まほとみほは席に座りながら唖然とし、イカ娘は心配そうに駆け寄ってくる。

 

イカ娘「あの機械から出た煙の中で二人が倒れてたからビックリしたでゲソ」

栄子 「倒れてた・・・・?私たち、気絶してたのか・・・・?」

 

状況が理解できずにいると、近くで倒れていた千鶴も目を覚ます。

 

千鶴 「ううん・・・・。・・・・あら、ここはれもん?・・・・戻ってこれたのね」

栄子 「姉貴?・・・・どうなってんだ?」

 

その後。

 

クラー「ウーン、せっかく完成したと思った『タイムスリップスモーク』ですが、失敗ダッタようデスね」

マー 「栄子サンたちがあそこにいたというコトは、そういうコトなのでショウ」

ハリス「マダマダ改良の余地がありそうデース」

 

千鶴に仕置きされたボロボロの服装で、三バカたちは帰っていった。

テーブルに座り、水を一気飲みする栄子。

 

栄子 「やれやれ、大変な目にあったよ」

千鶴 「二人一緒に夢を見ていたのかしら」

イカ娘「あの一瞬で十年前に飛んでたなんて、にわかには信じられないでゲソ」

栄子 「私だって自信はねえよ。第一タイムスリップして帰って来たのに時間が進んでないしな」

千鶴 「タイムスリップして、その一秒後に戻って来た、という考え方もあるわ」

栄子 「今となっちゃわかんないわ。確かめるすべもないしな」

 

うーん、と背伸びする栄子。

 

イカ娘「おや?栄子よ、ボコのぬいぐるみはどうしたのでゲソ?さっきまでつけてたじゃなイカ」

栄子 「えっ?」

 

言われて腰をまさぐるが、どこにもない。

 

~~回想~~

 

栄子 『あ、そうだ』

 

栄子は腰にかけていたボコのぬいぐるみを外す。

 

栄子 『みほちゃん、これあげる。好きだったでしょ』

幼みほ『わあ、かわいい!これ、おなまえはなんていうの?』

栄子 『えっ?ボコだけど』

幼みほ『へえ~、ボコ・・・・。ありがとう、えい子おねえちゃん!』

 

~~回想終了~~

 

栄子 (いやでも、そんなワケが)

 

近くのテーブルでは、まほとみほが引き続き談笑している。

栄子は、何気なくみほを見て__固まった。

みほのバッグには、あの時渡した、古くなった小さなボコのぬいぐるみが下げてあったのである。




幼いころの西住姉妹、本当に仲睦まじくていいですね。
みほが黒森峰を去った後も、きっとお互い心は離れ切っていなかったのだと思います。
長女という立場上、西住流を継がなくてはならないという義務感と、妹を自由にしてあげたいという姉心。
その建前と本音が入り混じる瞬間が、まほの一番の魅力ではないでしょうか。

今回はかなりSFにタイムスリップものでやってみました。
十年前の西住家事情は細かくはわからないので、だいぶ想像で書いています。

こういう話を書く上で、もっと前の話で伏線はっておけばよかったなー、と今更惜しく感じてしまっていたりもいます。

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