侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

シンディー→シン
マーティン→マー
クラーク→クラー

黒森峰女学園生A、B、C→黒森A、B、C


第2話・潜入しなイカ?

エリカ「しつこいわよ!いい加減どっか行きなさいよ!」

シン 「そうはいかないわ!真実を話してもらうまで絶対に離れないんだから!」

 

海の家のれもんの目の前、由比ガ浜の海岸でエリカとシンディーが追いかけっこをしていた。

エリカは水着姿で終始迷惑そうな顔をしながら、シンディーはいつもの格好で目を輝かせながら録音装置を手に走り回っている。

 

イカ娘「あ奴ら何をやってるのでゲソ?」

 

れもんの軒先で、事情を知らないイカ娘が栄子に尋ねる。

 

栄子 「あー、二人とも店に食べに来たんだけどさ。そこでシンディーがエリカさんが黒森峰の戦車道チームで副隊長しているって聞いちゃってさ」

 

~回想~

 

シン 『黒森峰ってドイツ戦車を使っているアレでしょ!?それじゃUFOも所持してるのよね!?』

エリカ『はあ?何言ってんのよあんた?黒森峰が何でUFO持ってないといけないのよ』

シン 『戦車道は第二次大戦時の戦車を使う。そして第二次大戦時、ドイツはUFOを開発していたのよ!それならドイツ戦車を扱う黒森峰がUFOも扱っていないと説明がつかないわ!』

エリカ『どんな理論よ!そもそもUFOが存在している前提で話を進めないで!』

シン 『UFOは存在するわよ!上手く存在を隠蔽しているだけなんだから!』

エリカ『全く、話にならないわ。私はこれで失礼するわ』

シン 『あっ、待ちなさい!』

 

~回想終了~

 

栄子 「・・・・という訳でな」

イカ娘「いつものことだったでのゲソね」

 

イカ娘も栄子も今更シンディーを止めるつもりもなく、ただ静観している。

 

シン 「はぁ、はぁ・・・・ま、待ちな、さい・・・・」

 

やがて体力の差が出たのか、シンディーのスピードが極端に落ちる。

さらに今日も夏日のため、シンディーの目もうつろになり、ぱったりとその場に倒れた。

そんなシンディーにエリカが気が付く。

 

エリカ「ああもう、無茶するからよ。大丈夫?」

 

シンディーを案じたエリカがシンディーに歩み寄り、手を差し伸べる。

そんなエリカの手をがっちりと掴むシンディー。

 

シン 「つ、つつ、捕まえたわよ・・・・!さあ、は、話を・・・・うぐっ」

 

そこまで言ってシンディーは本当に力尽きた。

 

エリカ「本当にもう・・・・ちょっと!イカスミ流!手伝いなさい!」

イカ娘「まったく、仕方のない奴らでゲソ」

エリカ「一緒にしないで!」

 

二人がかりでシンディーをれもんに担ぎ込む。

 

シン 「UFO・・・・ドイ、ツ・・・・」

エリカ「全く、呆れた執着心ね。こいつが目を覚ます前に私は退散するとするわ」

イカ娘「もう帰っちゃうのでゲソ?」

エリカ「ええ、今日はね。戦車道の話はまた今度にしましょ」

 

そう言ってエリカは退散していった。

それからしばらくして。

 

シン 「アーネンエルベ!」

イカ娘「うわっ!びっくりしたでゲソ!」

 

意識を取り戻したシンディーが跳ね起きる。

 

シン 「あらっ!?あの子は!?どこ行ったの!?」

イカ娘「もう帰っちゃったでゲソ」

シン 「くう~!逃げられた!」

イカ娘「そっちが纏わりついただけじゃなイカ」

シン 「あの様子じゃ、絶対何か隠してるわね!長年の調査員としての勘がそう言ってるわ!」

イカ娘「それってつまり、的外れってことじゃなイカ」

栄子 「問題が起きなきゃいいけどな」

 

れもんから研究所へ帰ってきたシンディー。

 

シン (口の堅い子だったわね・・・・。あの様子じゃ問いただしても簡単には話してくれそうにないわ。どうすれば・・・・)

 

シンディーの頭の中はエリカと黒森峰でいっぱいだった。

 

ハリス「ヘイ、シンディー!」

マー 「深刻そうな顔してどうしたんデス?」

クラー「我々に聞かせてみてクダサーイ」

 

シンディーの様子を見た三バカが声をかけてきた。

 

シン 「実は・・・・」

 

シンディーはつい先ほどのれもんで会ったエリカの話を聞かせる。

 

三バカ「それは怪しいデスね」

シン 「でしょう!?」

 

似たもの同士、満場一致で怪しいと決めつける。

 

シン 「どうにか情報を聞き出そうと思ったんだけど、うまく逃げられちゃって」

クラ 「それならこれの出番デスね」

 

クラークは白衣から怪しい銃を取り出す。

 

シン 「これは?」

ハリス「イエス!これはMIT主席の我々が開発したー」

マー 「撃たれた相手は聞かれたことを何でも喋りたくなるー?」

クラー「『喋りたくなるガン』デース!」

シン 「まんまね。でも、他にはないってまでに役に立ちそうね。これ、借りていくわよ」

三バカ「ドウゾドウゾ。宇宙人のいい情報、お待ちシテマース!」

 

そして次の日。

シンディーが張り込む中、まほと小梅が海の家れもんにやって来た。

 

イカ娘「おお、西住さんじゃなイカ。えーっと・・・・」

まほ 「私はまほの方だ」

イカ娘「おお、そうだったでゲソ。よく来たじゃなイカ!」

小梅 「お邪魔しますね」

イカ娘「うむ、小梅もよく来たでゲソ!」

まほ 「今日のおすすめは何があるかな?」

イカ娘「今日は千鶴の気まぐれチャーハンがオススメでゲソ。大当たりにはなんと伊勢エビが入っているでゲソ!」

小梅 「すごいですね!」

まほ 「気まぐれというか、運試しのようなものだな。小梅もそれでいいか?」

小梅 「はい」

 

そんな和気あいあいとしている三人を、こっそりと除くシンディー。

 

シン (彼女は・・・・たしか黒森峰の隊長、西住まほね。隊長である彼女なら、もしかしたらもっと有意義な情報を聞き出せるんじゃないかしら)

 

かくしてシンディーはまほの真後ろをとれる位置に席をとり、チャンスをうかがうことにする。

 

イカ娘「シンディー、来てたのでゲソか」

シン 「ええ。アイスコーヒーを貰えるかしら」

イカ娘「分かったでゲソ」

 

怪しまれないように自然に振る舞いながら、パーカーに隠した『喋りたくなるガン』をから手を離さないシンディー。

 

イカ娘「この間、大洗の方の西住さんも来てたでゲソ」

まほ 「みほが」

イカ娘「うむ。あんこうチームのみんなと倉鎌観光した帰りだったそうでゲソ。お土産にエビせんをくれたでゲソ」

まほ 「ああ、あの時のか。私にもメールが来ていたよ」

小梅 「そういえば私にもメールくれていましたね。一斉メールでいいのに、一人ひとりにメールを出してくれてたのが、みほさんらしいです」

まほ 「そういえばあの時学食にいたんだが、エリカがソワソワしながら学食を抜け出していたな」

シン 「!」

 

急にエリカの怪しい素振りを聞き、食いつくシンディー。

 

小梅 「ああ、それはきっとみほさんからのメールが来たんじゃないでしょうか。周りに読んでいるところを見られたくなかったんですよ」

まほ 「やれやれ。今更気にしなくても、みほとエリカの関係に気をもむ者などもう黒森峰には一人もいないというのに」

小梅 「きっと恥ずかしかったんですよ」

まほ 「ふむ。なら、気が付かなかったことにしておいてやるか」

小梅 「ふふっ、それがいいですね」

シン (なかなかUFOの会話に移らないわね・・・・)

 

和やかに話す二人の会話を、やきもきしながら聞き耳を立てる。

 

まほ 「ああ、そういえば・・・・」

シン (来た!?)

 

まほが思い出したように会話を切り出した瞬間、

 

イカ娘「気まぐれチャーハンお待たせでゲソー」

 

イカ娘が料理を運んできた。

 

まほ 「ああ、ありがとう」

小梅 「ありがとうございます」

 

料理が来たことで会話が中断してしまい、二人は食事を始めてしまう。

 

シン (ああもうっ、今絶対UFOの話をしようとしかけてたわよ!)

 

タイミングの悪いイカ娘を恨みつつも__

 

シン (考えてみれば、食事中の背後なんて一番隙だらけなんじゃなしら)

 

ふと、シンディーはチャンスであることに気が付く。

気取られないように『喋りたくなるガン』を取り出し、タイミングを見計らう。

そして__

 

シン (今よ!)

 

シンディーは素早く『喋りたくなるガン』の銃口をまほに向けた。

・・・・向けたのだが。

 

シン (えっ!?)

 

次の瞬間、まほを捉えていたはずの銃口は狙いを外し、光線は光線らしかぬでたらめな軌道を描き__

 

イカ娘「うわあああああ!」

 

イカ娘に当たった。

 

シン 「なに!?一体、どうし__」

 

気が付くと、まほがシンディーの方を向いていた。

正確には、まほが持っていたレンゲでシンディーが構えていた『喋りたくなるガン』を払いのけていた。

 

シン 「っ、嘘っ!?」

まほ 「ん?」

 

まほは横目でシンディーを見る。

怯むシンディー。

 

まほ 「ああ、すまない。つい無意識に__」

イカ娘「栄子のセーブデータを上書きしたのは私でゲソ!」

まほ 「?」

 

まほがレンゲを当ててしまったことに謝罪しようとした矢先、イカ娘のとんちんかんな声が上がり、そちらを見やる。

 

栄子 「やっぱりお前か!何回私のデータ消しゃ気が済むんだよ!」

 

栄子がイカ娘に拳骨を見舞う。

 

栄子 「他にもデータ消してるんだろ!?」

イカ娘「ほ、他は何もやってないでゲソ!」

栄子 「本当か?正直に言え!」

イカ娘「ゲームソフト踏んづけて割っちゃったのも私でゲソー!」

栄子 「あれもお前かーっ!」

イカ娘「ギャアアアアアア!」

 

今度は頭グリグリの刑に処している。

 

イカ娘「どういうことでゲソー!隠したいことがどんどん勝手に口から出ていくでゲソー!」

 

泣きながら栄子に叱られるイカ娘を見ながら、まほはもう一度シンディーの方を見る。

__シンディーは、既にはるか彼方に走り去っていた。

 

まほ 「なんだったんだ、今の人は」

小梅 「さあ・・・・?」

 

そしてまた研究所へ戻ってきたシンディー。

 

シン 「さすが西住流・・・・。背後からの攻撃も彼女にとっては脅威にならないということかしら」

マー 「どうやら彼女も只者じゃナイようデスネ」

クラー「ますます興味深イ!」

ハリス「もしや彼女も宇宙人ナノデハ?」

マー 「ナルホド。もしかしたら黒森峰女学園そのものガ宇宙人の隠れ蓑になってイル可能性モ!」

ハリス「これは現地へ乗り込む必要がアリマスね!」

マー 「虎穴に入らざれば虎子を得ズ、デスネ!」

クラー「サッソク準備しまショウ!」

三バカ「イッヤホォー!」

 

数時間後。

 

三バカ「追い出されマシたー・・・・」

 

女装した三バカは研究所に送り返されていた。

 

クラー「何故デス!?黒森峰は女子高だから女装して行ったノニ・・・・!」

マー 「一瞬で看破されてしまいマシタね」

ハリス「さすが宇宙人の巣窟デス」

シン (それ以前の問題であることには気づいていないのかしら)

シン 「そもそも変装がうまく行っていようとも、私たちは部外者よ?学園艦へ入る許可が下りるとは思えないわ」

ハリス「デハどうすればいいのデス?」

シン 「こんなこともあろうかと、エキスパートに現地調査のためのレクチャーは受けておいたわ。今回は私に任せてもらえるかしら」

クラー「オー!さすがはシンディーです!」

マー 「素晴らしい調査報告をお待ちしてマス!」

ハリス「アイルビーバーック!」

 

数日後。

シンディーは、黒森峰に向かうコンビニ船に乗り込んでいた。

 

シン (優花里に聞いた話では。潜入にはコンビニ船で潜り込むのが一番だと聞いたわ。確かに、乗り込んでしまえば隠れるところは山ほどあるわね)

 

コンテナの影に身を隠しながら周囲をうかがうシンディー。

身軽に行動するため、ビデオカメラなどの最低限の機械以外は持ち込んでいない。

 

シン (そろそろ着く頃かしら・・・・?)

 

シンディーが確認しようと身を乗り出すと__

 

カンッ!

 

コンテナにカメラがぶつかり、金属音が鳴ってしまう。

 

船員 「?何だ、誰かいるのか?」

 

音を聞きつけた船員が近寄ってくる。

 

シン (し、しまった!)

 

慌てて解決策を探るシンディー。

 

船員 「たしか音はこっちの方から・・・・」

 

ついにシンディーが潜むコンテナの角にまで迫る船員。

 

船員 「そこか?」

 

船員がコンテナの角を覗き込むが__

そこには誰もいなかった。

 

船員 「うーん、気のせいか?」

 

頭をかきながら船員は去っていった。

 

シン 「あ、危なかった・・・・!」

 

シンディーは三バカから預かっていた透明スーツを着込んでいた。

 

シン (しかし本当に大した性能ね。これを使えば黒森峰への潜入捜査も楽勝だわ!)

 

かくしてシンディーは透明のまま黒森峰の学園艦へ侵入を果たし、配送カーに潜り込みそのまま黒森峰女学園へと到着した。

 

シン 「ここが黒森峰女学園・・・・。何としても宇宙人とUFOの情報を持ち帰るわよ!」

 

意気込んだシンディーは校舎へと入る。

しかし__

 

シン (広い!)

 

名門である黒森峰女学園、敷地や校舎の広さも半端ではない。

どこから手を付ければいいか見当がつかない。

ともかく調査しようと、校舎に潜入したシンディー。

 

シン (ここで彼女たちを見つけられれば、それが一番楽なんだけど)

 

さすがにそう上手くはいかず、見覚えのある人物は誰も見つけられず、早二時間は経とうとしていた。

 

シン (どうしたものかしら・・・・。このまま何も収穫なしで帰るなんて、調査員としてのプライドが許さないわ!・・・・あら?)

 

ふと、目線の先に案内板が見えた。

その案内板にはこう記されている。

 

『←戦車道戦車倉庫』

 

シン (・・・・これだわ!)

 

閃いたシンディーは、案内板の指し示す方向、戦車倉庫へと歩みを進めた。

かくして戦車倉庫へ到着したシンディー。

電気が消えていたため、スイッチをつけて中を照らす。

そこにはティーガーⅠをはじめ、ティーガーⅡ、パンターやエレファント、はてはマウスまで黒森峰の戦車が勢揃いしている。

今は倉庫内には誰もおらず、シンディーは自由に見て回り始める。

 

シン (・・・・これは、圧巻ね)

 

この場に優花里がいたらさぞ大喜びするだろう、と思いながら、シンディーは奥へ進んでいく。

 

シン 「さて」

 

シンディーは戦車倉庫の中央に立ち、周囲の戦車の写真を片っ端から撮りまくる。

 

シン (これまでの調査では校舎内にUFOの存在を示す証拠は何も無かった。となれば、きっとこの戦車倉庫の中に手がかりがあるはずよ!)

 

一通り写真と動画を撮り切り、戦車を直接調べ始める。

 

シン (宇宙人の技術は未知数。もしかしたら、UFOを変形させて別の物として隠しているのかもしれないわ。この間見たテレビでも、車や家がUFOに変形した映像が紹介されていたし!)

 

この間テレビで見た、『映っちまった映像SP』を思い出しながら戦車を調べ続ける。

 

シン 「どこから見ても普通の戦車にしか見えないわね。でもきっと、どこかにUFOに変形するためのスイッチのようなものが・・・・!」

 

だが、どんなに調べてもそれらしいものは見当たらない。

 

シン 「おかしいわね。どこにもスイッチが見当たらないなんて・・・・。あっ、そうだわ!」

 

思いついたシンディーは、戦車から距離をとる。

そしてコホン、と一息つき、

 

シン 「トランスフォーム!」

 

シーン。

 

もちろん合言葉で変形も起こらず、戦車はそのままである。

 

シン 「どういうこと!?合言葉でもないっていうの!?」

黒森A「誰かいるのー?」

シン 「!」

 

シンディーの声を聞きつけた黒森峰の生徒が倉庫へと入ってきてしまう。

 

黒森B「どうしたの?」

黒森A[いや、何か今、倉庫から変な声が聞こえてさ」

黒森C「えっ、何それ怖い」

黒森A「それに電気付いてる。誰かいるんだよ」

 

シンディーは咄嗟に戦車の陰に隠れる、

 

シン (しまった、今の聞かれちゃってたのね。でも大丈夫、私の姿は彼女たちには見え__)

 

すると、消えていたはずのシンディーの姿がうっすらと見え始め、透明ではなくなってきていた。

 

シン 「えっ!?ちょっ、どういうこと!?」

 

その頃、研究所では。

 

ハリス「そういえばマーティンくん、透明スーツの連続使用はインターバルが必要ダって、シンディーに説明しまシタ?」

マー 「ホワッツ?クラークくんが渡すときに説明シテくれてたんジャ?」

クラー「イエ、てっきりハリスくんが先に言っておいてくれてたとバカリ」

ハリス「・・・・」

マー 「・・・・」

クラー「マ、シンディーならダイジョウブデスよね」

ハリス「そうデスね。シンディーなら」

マー 「彼女は我々の信頼する優秀な調査員デスからね!」

三バカ「イヤッホー!!」

 

そのシンディーは、戦車の陰で大ピンチだった。

 

黒森B「誰もいないよ?消し忘れたんじゃない?」

黒森A「そんなはずないよ。たしかに倉庫から『タンスにゴー!』って声が聞こえたんだから!」

黒森C「なんでタンス?」

黒森A「知らないよ。とにかく確かめなきゃ」

 

黒森峰の学生たちが倉庫に入り、辺りを探し始めた。

 

シン (どうしてよりによってこんな時に透明化が解けるのよ!)

 

この場から逃げ出そうにも、三人の生徒がバラけて探しているので逃げ道がない。

 

シン (いくらなんでもマズいでしょ!よりによってこのカッコで!)

 

透明化が解けたシンディーは、今や全身白タイツの不審人物に見える。

シンディーの脳裏に嫌なビジョンが浮かぶ。

 

『黒森峰に不法侵入!全身白タイツの金髪女を逮捕!某研究機関が関与か!』

 

一面を飾る新聞を想像し、顔面蒼白になるシンディー。

 

シン (何としてもここは切り抜けないと!どこか、どこか隠れる場所は・・・・!)

 

焦るシンディーは、身を寄せている物が戦車であることに気づく。

そして三人に見つからないようにそっと戦車に上り、キューポラを開け・・・・

そっと中に入る。

 

黒森B「あれ?」

黒森C「どうしたの?」

黒森B「今、あそこの戦車に誰か入らなかった?」

黒森A「えっ?どこ?どの戦車?」

シン (しまった!気づかれた!?)

黒森B「えーっと、確かこの戦車だったはず」

 

シンディーの存在に気が付きかけている三人が、隠れた戦車に近づいてくる。

シンディーが隠れた戦車は、ティーガーⅡだった。

 

黒森C「もしもーし、誰かいますかー?」

黒森B「返事がないね」

黒森A「でも誰かいるのは確かでしょ?だったら覗いて確かめようよ」

シン (ギクッ!)

黒森B「やめなよー。もし不審者だったら危ないよー?」

黒森A「でもこのままほっておくわけにもいかないよ。もしかしたら戦車ドロボウかもしれないよ?」

黒森C「それは放っておけないね!よーし、調べよう!」

黒森B「気をつけてよー?」

 

黒森峰生徒Aが戦車に登ろうと手をかける。

 

シン 「ああ!ちょっとちょっと待って!分かったから!」

黒森A「!?」

 

観念したシンディーが慌てて声を上げる。

 

黒森B「あれ?」

黒森C「今の声って・・・・」

シン 「降参よ、降参。ここまでバレちゃってたら諦めるしかないわ」

 

シンディーは諦め、戦車から出ようとしたが__

 

黒森A「その声・・・・逸見副隊長ですか?」

 

黒森峰生Aが声をかける。

 

シン 「えっ?」

黒森A「すいません、逸見副隊長だったとは思いませんでした」

シン 「えっ、ううん、気にしないで?」

シン (どういうこと?逸見副隊長って・・・・あの子よね?)

黒森B「ああ、副隊長だったんだー」

黒森C「隊長会議終わってたんだね。その後すぐに戦車の点検かー。副隊長はホント戦車道大好きだよね」

シン 「まあ・・・・そんな所よ」

 

自分をエリカと間違えていると理解したシンディーは、記憶からエリカに口調を似せてごまかし始めた。

 

黒森A「お邪魔しました逸見副隊長。ごゆっくり点検していてください」

シン 「ああ、待って!」

 

立ち去ろうとする黒森峰生たちを、シンディーが引き留める。

 

黒森A「えっ?」

シン 「ちょっと、聞きたいことがあるんだけれど。あなた今時間あるかしら?」

黒森A「ええ、私でよければ、少しは・・・・」

黒森C「それじゃ、先に食堂で席とっておくよ」

黒森B「注文もしておくよー」

黒森A「ありがと、それじゃフラムクーヘン定食頼んでおいて」

黒森B「ヤヴォールー」

 

かくして二人が去り、その場にシンディーと黒森峰生Aだけが残る。

 

黒森A「それで、お聞きしたいことって何ですか?」

シン 「えっと、まずは__」

 

シンディーはエリカのフリをして、戦車ごしに質問をし始めた。

一方その頃、黒森峰戦車道会議室にて。

 

まほ 「では、今後の方針はその案で進めていくことにしよう。みんなご苦労だった。解散!」

 

会議が終わり、参加していたまほ、エリカ、小梅の三人は息をついた。

 

エリカ「隊長、お疲れ様でした」

まほ 「エリカもな。あの立案はなかなかだったぞ」

エリカ「あ、ありがとうございます」

まほ 「ふふっ、そう硬くなるな」

 

そんな二人のやり取りを、小梅が嬉しそうに眺めている。

 

まほ 「二人ともどうだ、訓練の前に軽く学食で食べていかないか?」

小梅 「いいですね。会議が長引いて、甘いものが欲しくなったところです」

エリカ「隊長が仰るなら、ご一緒します」

まほ 「だから硬いって言うのに」

エリカ「す、すいません!」

 

いちいち堅苦しく返してしまうエリカに苦笑しながら、まほは二人を連れて会議室を出る。

 

まほ 「そういえば、この時間ならモーンクーヘンが焼きあがった頃じゃなかったかな」

小梅 「ああ、そうですね!競争率高いですから、食べられるといいんですが」

エリカ「では、私が先に行って確保を・・・・」

まほ 「そんなことしなくていい。食べられるかもしれないと期待しながら向かうのも楽しいじゃないか」

エリカ「は、はい」

 

そんな会話をしながら歩いていると__

 

黒森C「あれ?隊長と、赤星さんに・・・・あれ?副隊長、どうしてここに?」

 

食堂へ向かう二人と出くわした。

 

エリカ「どうしてここにってどういうことよ。私たちはさっきまで会議に出ていたのよ。貴女だって知ってたでしょう」

黒森C「いえ、それは知ってましたけど、でもさっき、会議が終わって戦車倉庫に来てましたよね?」

エリカ「はあ?何言ってるの。私は今の今まで会議に出てて、今出てきたところだってば」

黒森B「えー、そんな冗談ウケないですよー」

エリカ「冗談なんて言ってないわよ!」

まほ 「エリカの言っていることは本当だ。会議には私も出ていたし、エリカは会議室を抜け出したりもしていなかったぞ」

黒森C「えっ・・・・」

 

黒森峰生BとCの顔が青くなる。

 

黒森C「じゃあ、さっきまで私たちと話してた副隊長は、誰なの・・・・!?」

エリカ「・・・・どういうこと?説明して」

黒森B「あの、私たちさっきまで戦車倉庫にいて__」

 

その頃、戦車倉庫では、未だにシンディーが戦車の中から質問を飛ばしていた。

 

シン 「ふうん、そうなの。授業でも宇宙人に関する授業内容は無くて、UFOを見かけたこともない、という訳ね」

黒森A「はい、そうですけど・・・・逸見副隊長も、同じ授業受けてますよね?」

シン 「そ、それはクラスが違えば内容も違うかなと思ったからよ!」

黒森A「はあ・・・・」

シン 「それで、次の質問なんだけど・・・・」

 

懲りずに質問を重ねようとすると__

 

エリカ「ここね!」

 

エリカたちが戦車倉庫に駆けつけてきた。

 

黒森A「えっ、えっ、ええっ!?い、逸見副隊長!?」

シン 「ホワット!?ほ、本物が来ちゃったの!?」

 

突然目の前に現れたエリカに激しく動揺する黒森峰生A。

息を切らし駆け寄ってくるエリカとティーガーⅡを交互に見やる。

 

エリカ「この戦車の中に、私の偽物が入っているのね!」

シン 「えっ、ちょっ、ちょっと待って待って!」

エリカ「うるさいわよ!そこでおとなしく待ってなさい!とっ捕まえて警備部に引き渡してやるんだから!」

 

エリカは果敢にティーガーⅡに上り始める。

 

シン (しまった!聞き出すのに夢中すぎて、逃げ出し損ねた!どうしようどうしよう!)

 

しかし狭い戦車内、他に出口がある訳もなく、まさにシンディーは袋のネズミだった。

 

シン (ゲームオーバーね・・・・。さようなら、宇宙人・・・・。さようなら、米国地球外生命体対策調査研究所・・・・)

 

しかしエリカがキューポラのハッチに手をかけた瞬間、

透明スーツのスイッチに再び光が灯った。

 

シン 「!まさか!」

 

次の瞬間、キューポラのハッチが空き、エリカが中に飛び込んできた。

 

エリカ「さあ、観念しなさい偽も・・・・の・・・・?」

 

しかし戦車内には誰もいなかった。

 

エリカ(嘘・・・・!?今の今まで声も聞こえてたし、確かに人がいた気配もあったのに!?)

 

信じされないものを観させられ、その場で呆然とするエリカ。

・・・・実際には目の前に、ギリギリの所で再度透明化することができたシンディーが息を殺して潜んでいたのだが。

エリカは手を左右に軽く振りながら、操縦席へ進んでいく。

シンディーはエリカに当たらないように慎重にかわし、入れ替わるようにキューポラに回り込み、注意を払いながら外へ出た。

 

エリカ「っ!?」

 

僅かな空気の流れにシンディーの気配を感じ振り返るエリカだったが、最後までシンディーに気付くことはできなかった。

 

シン (助かった・・・・!)

 

気付かれない程度にほっと安堵の息を漏らし、まほたちの横目に見ながら倉庫の出口へと歩くシンディー。

 

まほ 「・・・・?」

 

その時、少しまほは何かの気配を感じ振り向くが__

 

まほ (・・・・気のせいか)

 

結局シンディーは誰にも気づかれず、脱出に成功した。

 

シン (命拾いしたわ・・・・!今日はもう無茶せず、脱出が最優先。今回は収穫はなかったけど、これくらいで諦める私じゃないわ!いつか日を改めてリベンジするんだから!)

 

そしてシンディーがいなくなった後。

 

黒森A「間違いないですよ!あれは逸見副隊長の声でした!」

黒森C「うん!私も聞きました!」

まほ 「私も確かに聞いた。あれはエリカにそっくりな声だった」

小梅 「でも、戦車の中には誰もいなかったんですよね?」

黒森B「じゃ、じゃあ、まさか・・・・!」

エリカ「ま、まさかって何よ・・・・?」

黒森B「ド、ドド、ドッペルゲンガー・・・・!?」

黒森C「ひゃああああー!」

黒森A[ひいいいいいー!」

まほ 「ドッペルゲンガー?」

黒森B「ドイツに言い伝えられる、オバケの一種です!」

黒森C「きっと黒森峰がドイツ文化を継承してるから来ちゃったんですよー!うわーん怖いよー!」

 

怖さのあまり泣き出す黒森峰生C。

 

エリカ「な、何をバカなこと言ってるのよ!ドッペルゲンガーなんている訳ないでしょう!」

黒森B「じゃあ他に説明できるんですか!?同じ時間に副隊長が二人いて、しかも姿が掻き消えるなんて!」

エリカ「そ、それは・・・・。でも、そんなのあり得ないわ!だって、だって・・・・!」

小梅 「た、たしか自分のドッペルゲンンガーを見ちゃった人は__」

まほ 「見たものは、ど、どうなるんだ!?」

黒森A「・・・・数日後に、死んじゃうんです!」

まほ 「な、何だって・・・・!?」

黒森C「うわーん!副隊長が死んじゃうー!」

エリカ「ちょっと、いい加減黙りなさい!そ、そんな非科学的なこと、現代であるはずが・・・・」

 

必死に否定しようとするが、エリカの体が小刻みに震え、涙目にもなってきている。

そんなパニックを起こしている面々の中、まほは冷静に口を開く。

 

まほ 「だが、エリカは見ていないだろう。その、ドッペルゲンガーを」

エリカ「・・・・へ?」

まほ 「声は聞いた。だが、エリカが戦車を覗いた時、誰もいなかったんだろう?」

エリカ「は、はい・・・・」

まほ 「だったら、エリカはドッペルゲンガーを『見ていない』ということになるだろう」

小梅 「あっ!そうですね!たしかに!」

黒森A「じゃあ、逸見副隊長は死んじゃったりしない・・・・?」

黒森C「うわーん!よかったよー!」

 

安心しても結局泣き出す黒森峰生C。

エリカもまほの言葉に納得したのか、ほっとした様子になる。

 

エリカ「ですが、声は聞いてしまいましたし__」

まほ 「死ぬ条件は『姿を見たら』、だろう?なら声だけならセーフだ」

小梅 「そうですね。声だけを聞いた人が被害にあった話は、聞いたことありませんから」

エリカ「じゃあ、私、まだ生きていられるんですね・・・・!?」

まほ 「当然だ。エリカにはまだ沢山の未来が待っている。一年後、二年後、五年後だって十年後だって、な。エリカの人生はまだまだ長いんだ。こんなことで終わっていいはずがない」

エリカ「隊長・・・・!」

 

まほの力強い言葉に、大粒の涙を浮かべるエリカ。

 

まほ 「ほら、涙を拭け。次期隊長候補がこれくらいで泣いちゃ駄目だろう」

 

差し出されたハンカチを借り、エリカがぐいっと涙を拭い去った。

 

まほ 「さて。ドッペルゲンガーも退散したことだし、お祝いがてらに食堂で派手にやろうじゃないか。私が奢ろう!」

黒森B[わーい、やったー!」

黒森C「モーンクーヘン食べましょう!モーヘン!」

まほ 「よし、行こうか」

エリカ「はいっ!」

 

明るさを取り戻し、戦車倉庫を後にする一同。

 

エリカ「またドッペルゲンガーの奴が出てきたら、今度はティーガーⅡの主砲を浴びせてやりますよ!」

まほ 「それはいいな。私もやろう」

黒森A「エレファントも使いましょうよ!」

小梅 「・・・・」

 

そんな中、一人小梅はもう一度戦車倉庫を振り返り、しばらく見つめていたが、電気を消してまほたちを追いかけていった。

 

 

 

???『ふふ、ふふふふふ・・・・』

 

 

 

戦車倉庫の一角で笑う、もやのように透ける白い人影に気付かずに。




今回はイカ娘出番少なめ、声優ネタ、ホラーオチといった変わり種で書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

イカ娘本編にも適度なホラーは少なからずあり(ジョニー&デップ、赤いサンダル、肝試しトンネルなど)、書きやすい印象でした。

ドッペルゲンガー、怖いですね。
出来れば会いたくないです。(会ったらおしまいですし)

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