侵略!パンツァー娘   作:慶斗

32 / 104
黒森峰女学園編じゃなイカ?
第1話・流派対決じゃなイカ?


太陽照り付けるある昼時。

黒森峰女学園の面々は由比ヶ浜へ海水浴に来ていた。

 

まほ 「ふう・・・・。熊本の海もいいが、こっちもなかなかじゃないか」

エリカ「はい。・・・・ですが、いいのでしょうか?明日に備え、準備を整えておくべきでは__」

まほ 「エリカの言い分も正しい。だが、ここの所ずっと戦車道漬けで気を張ってばかりだっただろう。時には紐を緩めないと、はち切れてしまうぞ?」

小梅 「そうですよエリカさん。ただでさえ今まで練習量が多かったのに、大学選抜チームとの試合が終わってから更にその度合いが増していますよね?」

エリカ「それは・・・・まだまだ私が力不足だと感じているからで・・・・」

まほ 「エリカ。お前は十分によくやってくれている。それは私も認めているし、チームの皆も異論はないはずだ」

エリカ「ですが、私は、まだ__」

 

エリカがまだ、と言いかけたところで、エリカのお腹がキューっと鳴った。

 

エリカ「あっ__」

 

恥ずかしそうに赤面するエリカ。

そんなエリカをまほはふっ、と優しい微笑みを浮かべる。

 

まほ 「そろそろお昼にしようか。私も何か食べたいと思っていた所だ」

小梅 「はい」

エリカ「では・・・・あそこなどどうでしょうか」

 

エリカの指さした先には、海の家れもんがあった。

 

小梅 「わっ・・・・かなり賑わってますね」

まほ 「賑わっているということはいい店ということだろう。多少の混みなら待とうじゃないか」

エリカ「はい」

 

かくしてれもんに入店する三人。

 

栄子 「いらっしゃいませー」

小梅 「三人なんですが、大丈夫でしょうか?」

栄子 「全然構いませんよー。そこ席が空いたんで、どうぞー」

 

栄子に促され、まほたちは椅子に腰を落ち着かせる。

 

まほ 「さて・・・・何にするかな」

小梅 「海の家の定番がそろってますね」

エリカ(そういえば、海の家で食事なんて何年ぶりかしら)

 

どう振る舞えばいいか勝手がわからず、そわそわするエリカ。

 

まほ 「どうしたエリカ、海の家は初めてか?」

エリカ「いえ、初めてではないのですが久しぶりすぎてどうしたものかと」

まほ 「はは、そうしゃっちょこばることもないだろう。学食やレストランのように気軽にしていればいいさ」

エリカ「はい・・・・すいません」

 

しばらくしてメニューが決まり、まほが店員を呼ぶ。

 

イカ娘「はーい」

 

そしてオーダーを取りに来たのはイカ娘だった。

 

イカ娘「ご注文でゲソ?・・・・あれ、西住さんじゃなイカ」

まほ 「え?」

 

イカ娘がまほにフレンドリーに話しかけてきた。

 

イカ娘「来てるのに気が付かなかったでゲソ。今日は別の人たちと来ていたのでゲソね」

まほ 「あ、ああ・・・・?」

イカ娘「今日はどうするのでゲソ?あっ、前に来ていた時は西住さん、かき氷がいいって言ってたでゲソね。今日は特製のパンナコッタかき氷が__」

エリカ「ちょっと!さっきから何なのあんた!」

 

初対面のはずのイカ娘がまほにフレンドリーに話しかけ続けている様子に、エリカが割って入った。

 

イカ娘「む?」

エリカ「さっきから『西住さん西住さん』って、馴れ馴れしいとは思わないの?そりゃ隊長は有名だろうけど、今はプライベートなんだから弁えなさいよ!」

まほ 「落ち着けエリカ、私は構わないから」

イカ娘「・・・・お主は誰でゲソ?」

エリカ「っ、私は黒森峰戦車道チームの副隊長、逸見エリカよ」

 

全くわからない、といった様子のイカ娘にエリカのフラストレーションがさらに溜まる。

 

イカ娘「知らない名前でゲソ」

エリカ「私の事はどうでもいいでしょ!今は西住隊長への失礼を指摘しているのよ!」

イカ娘「失礼も何も・・・・私と西住さんは友達でゲソ」

エリカ「んなっ・・・・」

 

断言するイカ娘に絶句するエリカ。

まほは会ったことは無かったか、と記憶を探っている。

 

小梅 「あの、西住隊長とは、いつお友達になったんですか?」

イカ娘「む?ついこの間でゲソ。西住さんとは、戦車道を通じて心を通い合わせた仲でゲソ!」

エリカ「ウソおっしゃい!私たちがここに来たのは昨日の晩よ?あんたと知り合う暇なんてなかったはずよ」

イカ娘「嘘なんてついてないでゲソ。私と西住さんとは固い絆が__」

エリカ「もういいわ。子供の戯言なんて聞いてられないから」

イカ娘「むっ、失礼な奴でゲソ!」

エリカ「アンタには言われたくないわ!」

 

エリカの言葉にムッとするイカ娘だったが、エリカも立ち上がって攻め手を緩める気配はない。

 

小梅 「エリカさん落ち着いて・・・・」

エリカ「はぁ・・・・」

 

小梅の仲裁にエリカは少し落ち着きを取り戻し、席に座りなおした。

 

まほ 「すまないな。焼きそば二つと、ラーメンを頼む。・・・・あと、かき氷も三つお願いする」

イカ娘「わかったでゲソ」

 

オーダーをとったイカ娘は、エリカを一瞥して去っていった。

 

エリカ「何なんでしょうか、あの子」

まほ 「さあな。だが私を知っているようだった。私は彼女を知らないのだが・・・・どこかで会っていたのかもしれない」

小梅 「不思議な子ですね」

エリカ「どうせ思い違いとかでしょ。変なカッコしてるし、全体的に子供っぽいのよね」

まほ 「彼女、戦車道を通じて、って言ってたな」

エリカ「あんな子に操縦できるのは、せいぜい玉戦車(クーゲルパンツァー)くらいでしょう」

まほ 「いいから落ち着けエリカ」

エリカ「・・・・すいません」

 

流石にまほにたしなめられ、少し落ち気味になるエリカ。

そしてしばらくして。

 

イカ娘「お待たせしましたでゲソ」

 

イカ娘が料理を運んできた。

 

小梅 「ありがとうございます」

まほ 「では、いただこうか」

エリカ「いただきます」

 

料理に口にする。

 

小梅 「おいしい!」

 

少し暗くなった雰囲気を打ち消すように明るい声を上げる小梅。

 

まほ 「ああ。海の家とは思えないな」

エリカ「確かに・・・・。この味は簡単には出せなさそうですね」

 

料理の質に感心するまほたち。

それも相まって、和やかな空気に変わっていった。

デザートに頼んでいたパンナコッタかき氷も食べ終え、イカ娘が片付けに来た。

 

小梅 「ごちそうさま、とてもおいしかったです」

まほ 「ああ。これほどとは、驚きだったよ」

エリカ「まあ・・・・悪くはなかったと思うわよ」

イカ娘「うむ!お粗末さまでゲソ!」

 

さっきのエリカの絡みももう気にしていないのか、いつもの様子で接客するイカ娘。

しかしエリカはイカ娘のことがまだ割り切れないのか、まだ気にしている。

 

エリカ「ところであなた、流派はどこかしら?」

イカ娘「りゅうは?」

 

イカ娘の事を知ろうと、共通点であろう戦車道の話題を振るエリカ。

 

エリカ「戦車道を嗜むものなら、流派に属して当然でしょう。島田流?玉田流?・・・・まさか西住流とか言わないでしょうね?」

イカ娘「イカスミ流でゲソ!」

エリカ「・・・・、は?」

 

呆気にとられた顔でエリカが固まる。

 

イカ娘「私の戦車道は私の意思そのもの、つまり私が流派そのものでゲソ!なら名前も自分で決めても問題ないでゲソよね?」

エリカ「貴女ふざけてるの!?しかも何よ、ちょっと名前が西住流に被ってるわよ!?」

小梅 「エリカさん、落ち着いて」

イカ娘「そんなことは知らないでゲソ。お主が何と言おうと、私はイカスミ流でゲソ!」

エリカ「アンタねえ・・・・!」

まほ 「くっ・・・・」

小梅 「隊長?」

まほ 「っ、ははははははははは!あははははははははは!」

 

途端、まほがお腹を抱えて爆笑し始めた。

 

エリカ「隊長!?何がおかしいんですかっ!」

まほ 「す、すまんすまん。ははっ、だ、だって、今の今までその子を子ども扱いして、今そうして同じレベルで言い争っているエリカを見たら・・・・・っ、っははははははははは!」

エリカ「ううう・・・・」

イカ娘「西住さんの笑いのツボは変わってるでゲソね」

エリカ「くっ・・・・!」

 

未だにまほを『西住さん』と呼ぶイカ娘に、エリカの心に怒りがふつふつとわき始める。

 

エリカ「貴女のせいよ!」

イカ娘「急に何でゲソ!?」

エリカ「そもそも貴女が変なこと言い出したからこんなことになったんじゃない!」

イカ娘「言いがかりも甚だしいでゲソ!そっちが突然大声出してきたんじゃなイカ!」

エリカ「このっ・・・・!こうなったら白黒つけようじゃないの!私と勝負しなさい!」

イカ娘「受けて立とうじゃなイカ!どちらが正しいか、思い知るがいいでゲソ!」

小梅 「エリカさん!」

エリカ「小梅、止めないでちょうだい!西住流を小馬鹿にしたこの小娘を放っておくわけにはいかないわ!」

まほ 「エリカ、私は気にしていないと言っているだろう。それに西住流を小馬鹿にもしていない」

 

しかし熱の入ったエリカとイカ娘は二人の仲裁が聞こえていない。

 

イカ娘「それで、何で勝負するのでゲソ?」

エリカ「私たちが『勝負する』なら、することは決まっているでしょう?」

イカ娘「フッ、私に挑んだ無謀さと愚かさを教えてやるでゲソ!」

 

イカ娘は自信満々、勝つつもりで受けて立つ。

 

千鶴 「それで、誰と乗るの?」

イカ娘「へ?」

 

千鶴の一言に、イカ娘が素っ頓狂な声を上げる。

 

千鶴 「今日は栄子ちゃんはお出かけでお休みよ?」

イカ娘「あ」

 

操縦手不在。

 

千鶴 「渚ちゃんもお休みね」

イカ娘「え」

 

装填手不在。

 

千鶴 「シンディさんも今日は見ないわね」

イカ娘「う」

 

砲手も不在。

 

エリカ「なあに?搭乗員がいないのかしら?それじゃあ不戦勝になっちゃうわね」

イカ娘「ぐぬぬぬぬぬ・・・・!」

 

鼻で笑うようなエリカの態度に悔しがるイカ娘。

 

イカ娘「やってやるでゲソ!勝負しようじゃなイカ!」

エリカ「何のつもりなのあの子・・・・。一人でどう戦おうって言うのよ」

イカ娘「私のイカスミ流の恐ろしさ、思い知るでゲソ!」

小梅 「隊長・・・・」

まほ 「二人ともこのままでは収まりそうにないからな。私がこの勝負を預かろう」

 

真面目なことを言いながら、少し面白がっているまほを見て、小梅はふうとため息をついた。

一時間後。

エリカのチームが乗ったティーガーⅡと、イカ娘だけが乗ったチャーチルが、戦車道エリアに準備に着いた。

 

エリカ「一人でも戦おうという気概だけは評価してあげるわ。今やめるというのなら、乗ってあげないこともないわよ?」

イカ娘「それはこちらのセリフでゲソ。私のイカスミ流の前に、すぐにひれ伏すさせてやるでゲソ!」

エリカ「ふん!西住流の前に、どれだけ軽口が叩けるかしらね!」

 

お互い目線で火花を散らすエリカとイカ娘。

そんな二人を遠目に見つめるまほと小梅。

 

まほ 「では・・・・試合開始!」

 

まほの合図とともに動き出すティーガーⅡ。

 

エリカ「一撃で仕留めてあげるわ!撃てっ!」

 

先手必勝と言わんばかりに砲撃を放つティーガーⅡ。

しかし__

 

ドオン!

 

エリカ「えっ!?」

 

チャーチルはその場で旋回を行い、砲撃を難無くかわす。

イカ娘はキューポラから上半身を乗り出したままである。

 

エリカ「避けた!?操縦主が乗ってないのにどうやって動いたの!?」

 

イカ娘は、背中から伸ばした五本の触手を使い、操縦桿とペダルを操作、砲弾の装填、引き金も握っていた、

今は一人ですべての役割を担い、一人でチャーチルを動かしている。

 

小梅 「どうやっているんでしょうか・・・・。確かにチャーチルには、あの子一人しか乗っていなかったはずなのに」

まほ 「見たこともない戦い方だ。是非参考にしたいものだな」

小梅 「なるのでしょうか・・・・?」

イカ娘「見たでゲソか!これが私のイカスミ流でゲソ!」

エリカ「くっ!惑わされないで!原理がどうであれ動きは素人、ちゃんと狙えば当てられるわよ!」

 

装填か完了し、次弾を放とうとすると__

 

ドオン!

 

チャーチル側からも砲弾が放たれるが狙いはやや外れ、ティーガーⅡの後方へ着弾した。

 

イカ娘「もうちょっと右だったでゲソか・・・・!」

 

砲撃まで行ってくるイカ娘に困惑するエリカ。

 

エリカ「もう少し__今よ!撃て!!」

 

エリカの完璧な指示で、ティーガーⅡの砲弾はチャーチルを捉えていた。

 

小梅 「当たった!?」

まほ 「・・・・いや、あれを見ろ」

エリカ「えっ!?」

 

当たったと思われた砲弾は、イカ娘がネット状に編み込んだ残り五本の触手に包まれて止まってしまう。

 

エリカ「嘘でしょう・・・・!?どうすれば砲弾を受け止められるっていうのよ!?」

 

しかも、驚きはそれで終わらなかった。

砲弾を包んでいた触手のネットが形を変え始めたのである。

 

エリカ「何よ・・・・今度はなにをするつもり!?」

小梅 「すごい・・・・!」

まほ 「・・・・」

 

まほたちはイカ娘の常軌を逸した戦い方に目を奪われている。

 

エリカ「えっ・・・・、__手!?」

 

形を変えた触手は手の形に変わり、砲弾を包み込んだまま上へ登っていく。

 

エリカ(いったい何を・・・・まさか!)

 

エリカの背筋に悪寒が走る。

 

イカ娘「これが__イカスミ流でゲソーッ!」

エリカ「急速旋回!左回避!」

 

ドオン!

 

回避した瞬間、ティーガーⅡの間近に高角度からの着弾があった。

 

エリカ(受け止めた砲弾を、そのまま投げ返してきた!?)

エリカ「どこまでムチャクチャなのよあいつ!」

 

チャーチルから砲弾が放たれる。

 

エリカ「回避!」

 

先ほどとは違い、狙いが正確になった砲撃がティーガーⅡの車体をかすめる。

 

エリカ「撃て!」

 

ドオン!

 

イカ娘「無駄でゲソ!」

 

再び砲弾はイカ娘の触手ネットに包まれ、無効化される。

 

エリカ「くっ、また!?」

イカ娘「ゲソーーッ!」

 

再びイカ娘が高角度から砲弾を投げ返す。

 

ドオン!

 

エリカ「くうっ!」

 

さらに着弾位置は近く、エリカは舞い立つ砂に一瞬視界を奪われる。

 

エリカ「・・・・はっ、回避行動!」

 

ドオン!

 

砂煙に乗じて放たれたチャーチルの砲撃もすんでの所でかわす。

 

エリカ(撃てば受け止めて、投げ返してきて、さらに砲撃もこなすだなんて!どうしろっていうのよ!?)

 

死角が無いようにも見えるイカスミ流に、エリカは軽いパニックを起こし始めていた。

思考が鈍り、俯いたまま指示が出せなくなっている。

 

エリカ(いつもそう・・・・。私の相手は、いつも戦車道の、私の常識を破壊してくる!こいつも、あいつも、__『あの子も』!)

小梅 「エリカさん・・・・」

まほ 「・・・・」

エリカ(じゃあ、私はどうすればいいの?常識外れの相手に、私は常識通りで戦えば勝てるの?こういう時、『あの子』なら、きっと、私の思いもよらない手で__)

 

そこまで考えて、エリカは急に頭が冷めていく感覚がした。

 

エリカ(私は何を考えているの・・・・。今ここで試合をしているのは、私!みほじゃない、私、逸見エリカ!だから・・・・戦うのは私!戦えるのは、私の・・・・『私の西住流』だけよ!)

エリカ「だから・・・・私は、私の戦い方を貫いて見せてあげる!たとえそれで負けたって、私は西住流を貫いて見せる!」

 

エリカが心を持ち直し、鋭い目つきでイカ娘をにらみ返した。

 

エリカ「行くわよ・・・・イカスミ流!パンツァー・フォー!」

 

エリカの合図でティーガーⅡはチャーチルに真正面から突撃していく。

 

ドオン!

 

イカ娘「突っ込んできた!?」

 

予想しなかった動きにイカ娘のチャーチルが慌てて砲撃するが、ティーガーⅡは車体を僅かに逸らし、砲弾の被害を抑えながらも距離を詰めていく。

 

エリカ「撃て!」

 

ドオン!

 

放たれたティーガーⅡの砲弾はまたしても触手ガードに包まれる。

そして__

 

ガシンッ!

 

ティーガーⅡはそのまま速度を落とさずチャーチルに激しく車体をぶつけた。

 

小梅 「っ!ティーガーⅡで、突撃を!?」

まほ 「ほお・・・・」

 

エリカの思い切った判断に驚きの声を上げる二人。

 

イカ娘「うわわわっ・・・・!」

 

衝突の衝撃で、イカ娘のバランスが崩れ、砲弾を持ち上げた触手もぐらついてしまう。

そのため、一瞬だけイカ娘の反撃が遅れる。

 

エリカ「これで、終わりよ!撃てっ!」

 

エリカはその隙を逃さなかった。

 

ドオン!

シュポッ

 

ティーガーⅡは、ゼロ距離でチャーチルに砲弾を直撃させた。

チャーチルには、白旗が立っていた。

 

イカ娘「ゲソー・・・・」

エリカ「はあ、はあ、・・・・勝て、た・・・・?」

 

キューポラから身を乗り出したエリカは、すっかり脱力してぐったりと身を突っ伏した。

 

イカ娘「ただいまでゲソー」

 

勝負を終えたイカ娘たちは、一緒に海の家れもんへ帰ってきた。

 

 

千鶴 「おかえりなさい。それで、どうだったかしら?」

イカ娘「えーと、私が__」

エリカ「引き分けだったわ」

イカ娘「!」

エリカ「悪かったわ、あなたの戦車道をバカにして。立派な戦車道だったわ」

イカ娘「気にしてないでゲソ。そっちも強かったでゲソ!」

 

イカ娘が手を差し出し、エリカもその手をぎゅと握った。

その後。

お互いの健闘を称え、千鶴が小規模ながら宴会を開き、イカ娘とまほたち、黒森峰の生徒たちも親睦を深めあっていた。

 

千鶴 「ごめんなさいね、イカ娘さんがご迷惑かけて」

まほ 「いえ、お気になさらず」

 

宴もたけなわな頃、千鶴がまほたちの声をかけてきた。

 

エリカ「本当に、不思議な子ですね」

まほ 「ああ・・・・。だが、あの純粋な目は、見ていて不快ではないな」

千鶴 「・・・・イカ娘ちゃんはね、人の顔を判別することがうまくできないの」

エリカ「!」

千鶴 「ああ、勘違いしないで。別に障がいとか、不自由しているわけじゃないの。イカ娘ちゃんの種族は、ほぼ顔以外の所で相手を判別しているの」

小梅 「顔以外の、ですか?」

千鶴 「ええ。髪型や体格、声や雰囲気とかでね。イカ娘ちゃんは、きっとまほちゃんをみほちゃんと間違えちゃったんじゃないかしら」

まほ 「みほと・・・・?」

千鶴 「ええ」

まほ 「それじゃあ、きっと髪型で間違えたんですね。他で私とみほを間違えようがある訳がないですから」

小梅 「確かに・・・・隊長とみほさんは、似ているところが多いですね」

エリカ「はあ!?何言ってるのよ小梅!隊長と副たいちょ、オホン、みほが似ている部分なんて無いでしょう!?あんな天然ぽわぽわ娘と隊長と、どこが共通してるって言うのよ」

千鶴 「そうね・・・・、みほちゃんは、友達や仲間を大切にするわ」

小梅 「隊長もそうですよね。私たちをいつも見てくれています。練習で自信がなかったところがあれば、何時もアドバイスや特訓に付き合ってくれますよね」

まほ 「いや、それは、チームの戦力強化のために・・・・」

千鶴 「あと、みほちゃんはとても優しいわね。いつも穏やかで、人に怒ったりすることも無いわ」

小梅 「そこもです。隊長は口では立場上厳しい言葉も多いですが、失敗した子を絶対に見捨てないんです。一緒に反省点を見つめ、その子が立ち上がろうとするのなら助力を惜しみません」

まほ 「それは、優秀な子を抜けたら士気に影響があるからで__」

千鶴 「__そして、一番そっくりなところ。みほちゃんは、お姉さんが大好き」

まほ 「!」

 

瞬間、まほが動揺で表情を崩す。

 

小梅 「ああ!それもそっくりですね!大学選抜チームとの試合の話を聞いた時なんて、隊長すぐに行動を始めちゃって、私たち置いて行かれそうになっちゃったくらいで」

エリカ(そういえば、大洗への転向手続きも誰よりも最初に済ませていたわね・・・・)

まほ 「もう、勘弁してくれ・・・・」

 

まほは真っ赤になった顔を両手で覆い隠した。

 

エリカ(隊長が、真っ赤になっている!?初めて見た・・・・)

千鶴 「イカ娘ちゃんは、きっとまほちゃんのそういう部分を感じ取って、みほちゃんと勘違いしたんだと思うわ」

まほ 「・・・・感服です」

エリカ「知れば知るほど、不思議な子ですね」

千鶴 「ええ。だからこそ、私たちはイカ娘ちゃんから目を離せないのかもしれないわ」

イカ娘「エリカ、これ食べてみるでゲソ!」

 

イカ娘は触手でエリカを自分のテーブルへ誘う。

 

エリカ「ああもう、わかったから引っ張らないでよ!」

 

その後も宴は続き、やがてまほたちが帰る時間になった。

 

まほ 「今日は楽しかったです」

イカ娘「また来るでゲソー」

エリカ「ええ、気が向いたらね」

 

かくして、まほたちは帰路へ着くこととなった。

 

小梅 「不思議なお店でしたね」

まほ 「そうだな。・・・・だが、いい所だった」

 

夕暮れも終わり、星が見え始めている空を仰ぎながら、まほが呟く。

 

まほ 「私とみほがそっくり、か」

エリカ「お言葉ですが、隊長は隊長、みほはみほです。私にとっては全くの別人ですし、重ねてみる必要なんて__」

まほ 「わかっている。ありがとうエリカ。私は私、西住まほだ。これからもこの先もそれは変わらないし、この先も自分を変えるつもりもないさ。だが、少し嬉しかったんだ」

エリカ「嬉しかった、ですか?」

まほ 「ああ。戦車道の家系に生まれ、戦車道でしか生きられず、戦車道以外を知らない堅物でしかないと思っていた私が、みほのようにほがらかで心優しい子と同じように捉えられていたことが、な」

エリカ「隊長・・・・」

まほ 「だが私は後悔していないぞ。西住流を継ぐことへの宿命も受け入れるし、この先も戦車道しかない人生を歩み続けることも覚悟している。それなのに__」

まほ 「あの子は、私がまだみほのような、温かい心を失ってはいない、と教えてくれたんだ」

小梅 「・・・・」

まほ 「最近になって、ようやく理解できる気がしてきたんだ、お母様のことも」

エリカ「家元を・・・・?」

まほ 「お母様も戦車道のために生き、戦車道に尽くすことしか知らない人だと思っていた。だが・・・・」

 

まほは、大学選抜戦の時、観客席でじっと自分たちの試合を見守り続けていたしほの姿を思い出していた。

 

まほ 「お母様も心の中には、もっと温かい心を持っている。きっと立場や守るもののために、それを必死に隠してしまっているだけなんだ」

 

ふう、と息をつく。

 

まほ 「今度家へ帰ったら、お母様と沢山話をしてみようと思う。戦車道以外の話で、な」

小梅 「それは、素敵なことですね」

まほ 「さあ、帰ろう。私たちの居場所へ。明日は忙しくなるぞ」

エリカ「はいっ!」

 

その後、海の家れもんにて。

 

エリカ「だから!どうしてそうなるのよ!」

イカ娘「知らないでゲソ!そっちの感覚がおかしいのでゲソ!」

エリカ「何よ!」

イカ娘「何でゲソか!」

 

エリカたちはれもんに通うようになったが、エリカとイカ娘はちょっとしたことでよく衝突するようになっていた。

 

小梅 「何だか、仲のいいケンカ友達みたいになっちゃいましたね」

まほ 「いいじゃないか。あれでエリカも楽しそうだ」

小梅 「ふふっ、そうですね」

 

まほは、そんな二人を微笑ましそうに見つめながら、かき氷を口にした。




稚拙ながらも、これでガルパンのテレビ版登場校分を全て書くことが出来ました。

ここからはそれぞれの高校との話を掘り下げる展開を考えています。
劇場版登場校におきましては、計画はしていますが、まずはテレビ版校の話を出来るだけ書いていこうと思います。

今後の更新においては話を思いつき次第になりますので、これからは順不同になっていきます。

でも期間だけは空けないように心がけますので、これからもよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。