侵略!パンツァー娘   作:慶斗

31 / 104
※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

カチューシャ→カチュ
アリーナ→アリー
クラーラ→クラ
プラウダ生A、B、C..→プラA、B、C..
プラウダ生全員→プラ生

イカチューシャ→イカチ


※〈〉内の台詞は、全てロシア語で話しているとご解釈ください。



第6話・共に歩かなイカ?

ニーナ「そういえば」

アリー「ん?」

 

プラウダ校の学食で、ニーナが思い出したように声を上げる。

 

アリー「急にどうしたんだべ」

ニーナ「あれから、イカチューシャさんどうしたんと思って」

アリー「ああ」

ニーナ「あの騒ぎのごたごたから、姿を消しちまったからなあ」

アリー「あのクーデターが失敗したから、居づらくなっちまんたんでねえか」

ニーナ「はーあ、イカチューシャさん好きだったんだけんどなあ」

アリー「私らにも威張り散らさず、対等に触れてくれてたもんなあ」

ニーナ「戦車道にも熱心で、参考になることも多かったしなあ」

アリー「それになにより・・・・」

ニーナ「一緒にいるとちびっこ隊長の機嫌がよくて、平和だったもんなあ」

アリー「それだべなあ~・・・・」

 

ぺとんとテーブルに突っ伏す。

 

ニーナ「またあのちびっこ隊長に振り回される日々が続くんだべか・・・・」

アリー「イカチューシャさん、戻ってきてくんろお・・・・」

ノンナ「お二人とも」

二人 「ひいっ!?」

 

急に背中から声か駆けられ、縮み上がる二人。

 

ノンナ「お二人は、イカチューシャさんに戻ってきてもらいたいのですか?__もうお忘れでしょうか。彼女がここに来た目的はプラウダを支配することだったのですよ。こともあろうに同志カチューシャを人質にまでして」

ニーナ「そ、それはそうですんけど・・・・」

ノンナ「ど?」

アリー「ひっ!?・・・・で、ですんけど、あれがイカチューシャさんの本心とは思えねえ!」

 

ピクッとノンナが反応する。

 

ニーナ「んだ!あんなにプラウダにいて、みんなと一緒に過ごしてたイカチューシャさんが侵略者なんて、到底思えねえべ!」

アリー「きっと、私らには考え付かねえような訳があったにきまってんべ!」

 

声は上がらずとも、周囲にいるプラウダ生たちも皆そろってうんうんと頷く。

 

ノンナ「・・・・皆さんも、同じ考えですか」

 

ノンナが一瞥するも、誰も目を逸らすものはいなかった。

 

ノンナ「・・・・そうですか、わかりました」

 

それだけ言うとノンナは料理をトレイに乗せたまま去っていった。

 

ニーナ「ふはあー・・・・」

 

止めいていた息を吸い込むニーナ。

 

アリー「びっくりしただなー・・・・。まさか後ろにいたなんて」

ニーナ「さっきの話、聞かれてたべな・・・・。思わず口答えしちまったべ」

アリー「もしこの話がカチューシャ様のお耳に入ったら・・・・」

 

青ざめる二人。

 

ニーナ「だけんじょも・・・・」

アリー「うん?」

ニーナ「さっき、みんな同じ気持ちだって知った時のノンナさんの顔、なんだか嬉しそうだったべな」

 

トレイをもって歩くノンナ。

やがて人気のない場所までやって来ると、独特のリズムでドアをノックする。

 

クラ 〈同志カチューシャは〉

ノンナ〈ちっちゃく偉大〉

 

ガチャ

 

クラ 「お待ちしておりました」

カチュ「どうしてあなたたちだけロシア語の合言葉なのよ」

 

部屋の中にはカチューシャとノンナがいた。

 

ノンナ「合言葉と言うのは誰でも同一という訳にはまいりません。重要な項目であればこそ、セキュリティは厳密であらねばならないのです」

カチュ「何だか誤魔化されてる気もするけど・・・・まあいいわ。今日のランチは?」

ノンナ「プラウダ特製ベーリング海風ボルシチです。本日は大量入荷されたということで、ボタンエビ増量となっております」

カチュ「あら、いいじゃない。きっと彼女も大喜びするわ。持って行ってあげなさい」

ノンナ「はい」

 

ノンナは部屋の奥に進み、カチューシャの背後にあるドアを開けた。

部屋の奥は窓も無く狭い個室。

唯一あるものも言えば部屋の中央にテーブルとイスが一つずつ、電気スタンドが一つ。

そんな場所に、イカ娘は座っていた。

晴れない表情だが、束縛はされてはいなかった。

 

ノンナ「お昼をお持ちしました」

イカ娘「!」

 

ノンナの声にビクッとする。

 

ノンナ「本日のメニューはエビたっぷりのボルシチです。召し上がれ」

イカ娘「・・・・」

 

目の前にあふれんばかりのエビが盛られたボルシチを出されるが、手を付けようとしない。

 

ノンナ「どうされたのですか?早く召し上がらないと冷めてしまいますよ」

イカ娘「・・・・私をどうするつもりでゲソか」

ノンナ「はて、どうするつもりと仰られますと」

イカ娘「こんなところに私を閉じ込めて、何が狙いでゲソ!」

ノンナ「閉じ込めるなどとんでもない。この部屋にはカギは掛かっていませんし、拘束もしておりません。ただ座ってもらっているだけではないですか」

イカ娘「__じゃあ、帰らせてもらうでゲソ」

 

そう言いつつ腰を浮かそうとすると__

 

ノンナ「(くわっ)」

イカ娘「ひいっ!?」

 

瞬間ノンナが見せた表情に、涙目になりながら腰を抜かすイカ娘。

そのまままたイスに座り込んでしまう。

 

イカ娘「そうやって怖い顔して脅してくるからいけないんじゃなイカ!」

ノンナ「はて、何のことでしょう」

 

などとやりとりしてると__

 

カチュ「楽しそうにしているじゃない」

 

カチューシャとクラーラが部屋に入って来た。

 

ノンナ「はい。とても有意義な時間を過ごしています」

イカ娘「どこがでゲソか・・・・」

 

カチューシャはちらり、とてつかずのボルシチを見る。

 

カチュ「あら、食べないの?今日のは特に美味しそうよ?」

イカ娘「食欲がないでゲソ」

 

きゅ~っ・・・・

 

途端にお腹が鳴り、黙り込むイカ娘。

苦笑するカチューシャたちだが、特に何も言わない。

 

イカ娘「私をどうするつもりでゲソ」

 

再び同じ質問をする。

 

カチュ「どうするってどういうこと?」

イカ娘「あの時ノンナたちに捕まえられて、この部屋に閉じ込められてもう三日でゲソ。要求もしないし目的も言わないし、いったい何のつもりでゲソ!」

カチュ「何のつもり・・・・ですって?」

イカ娘「っ!」

 

途端、カチューシャの目つきが鋭くなり、イカ娘が青くなる。

 

カチュ「何のつもり・・・・ねえ。それはこちらのセリフかしら」

イカ娘「うっ」

カチュ「人が寝ている間に連れ去り、人質にとって、脅迫した上にみんなの前で辱めて__これこそどういうつもりかしら」

イカ娘「あわわわわわ・・・・」

 

冷たい見下ろす視線に体が震える。

 

カチュ「ノンナたちが助けてくれたからこそよかったものの__あのままだったらどうなっていたかしら」

イカ娘「そ、それは__」

 

気まずそうに視線を逸らす。

 

カチュ「いわば、あなたはプラウダをペレストロイカの嵐に陥れようとした首謀者。常識的に考えて開放するわけがないでしょう」

イカ娘「ででででも、それはノンナたちも一緒に協力するって__」

 

助け舟を求めるようにノンナとクラーラを見るが__

 

ノンナ「何のことでしょう」

クラ 〈ご自分のされた責任を我々に擦り付けないでいただきたいものです〉

イカ娘「そんな!」

 

あっさりと切り捨てられ、涙目になる。

そんなイカ娘を見て一瞬動揺するが、すぐに平静を取り戻すノンナ。

 

ノンナ「これはカチューシャの仰る通り__粛清しかありませんね」

カチュ「そうね」

イカ娘「しゅ、粛清!?」

クラ 〈カチューシャ様に牙をむいたのです。然るべき報いは受けねばなりません〉

イカ娘「な、何をするつもりでゲソ!?」

 

怪しげな笑みを浮かべ近づくノンナ。

手には何か銀色に光る、長さのあるものを握っている。

 

イカ娘(は、刃物!?)

ノンナ「イカチューシャ、お覚悟を」

イカ娘「ち、近づくなでゲソー!」

 

苦し紛れの触手攻撃も難なくいなし、目前にまで迫るノンナ。

恐怖のあまり泣き顔になるイカ娘。

そして、ノンナは手に持ったものを振り上げ__

 

イカ娘「死にたくないでゲソーーーーッ!」

 

イカ娘が頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

コト

 

テーブルに何か置かれる音がする。

__しばらく縮こまっていたが、何も起こらない。

 

イカ娘「・・・・?」

 

恐る恐るイカ娘がテーブルを覗き込むと、そこには一本のペンと一枚の紙があった。

 

カチュ「イカチューシャには、それに一筆書いてもらうわ」

ノンナ「それが貴女への粛清内容です」

 

恐る恐る紙面に書かれた内容を読む。

 

イカ娘「こ、これは・・・・!」

 

場所は変わり、海の家れもん。

店内では、栄子と千鶴がいぶかしげな顔をしている。

 

栄子 「イカ娘のやつ・・・・帰ってこないな」

千鶴 「そうね」

栄子 「店が忙しいから帰ってこいっつったのに、もう三日は経ってるぞ」

千鶴 「プラウダが居心地いいのかしら」

栄子 「あいつのことだから居座ったりするかもしんないけど・・・・いつまでもいたら向こうに迷惑だろ」

千鶴 「どうしようかしら。こちらからプラウダの事務課へ連絡した方がいいのかしら」

配達員「速達でーす」

 

そこへ封筒を持った配達員が荷物を持ってきた。

 

千鶴 「はい、ご苦労さまです。__あら」

 

封筒を見て声を上げる。

 

栄子 「ん?どうした姉貴」

千鶴 「この郵便・・・・プラウダからだわ」

栄子 「え」

 

千鶴の手に持った封筒には、プラウダの校章が印字されていた。

開封し、中から書類を取り出す。

書類に目を通て行くうちに、千鶴の顔色が少しずつ変わっていく。

 

栄子 「どうした、姉貴?」

千鶴 「栄子ちゃん、これを見てちょうだい」

栄子 「?どれどれ・・・・?__なんだこれ!?」

 

栄子は思わず声を上げる。

その書類には、こう書かれてた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

本校、プラウダ高校は以下の生徒を本校の第三学年生徒として入学することを正式に認めることとする。

 

      氏名:イカ娘(直筆)

      保護者同意:(空欄)

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

プラ生「パジャーラヴァーチ!」

イカチ「あははは・・・・これからお世話になるでゲソ」

 

プラウダ生たちからの歓迎の乾杯を受け、ちょっとひきつった顔ながら笑顔で応えるイカチューシャ。

プラウダのホールでは盛大なイカチューシャ歓迎会が開かれている。

 

ニーナ「いやー、それにしてもどってんしたじゃー」

アリー「まさかイカチューシャさんが正式にプラウダに入学するとは思わなかったべー」

ニーナ「んだー。あんだけ大騒ぎしちゃったのんだなー」

ノンナ「不思議なことではありませんよ」

ニーナ「あっ、ノンナさん」

ノンナ「カチューシャはベーリング海より広いお心の持ち主です。一度や二度の謀反を起こされた程度で追放されるような小さい器ではありませんよ」

カチュ「ちょっと!そこ今小さいって言った!?」

ノンナ「空耳です」

クラ 〈イカチューシャ様、こちらをどうぞ。ノンアルコールウォッカです〉

 

クラーラにドリンクを手渡される。

 

イカチ「ありがとうでゲソ」

 

くいっと一口飲む。

 

イカチ「しかし・・・・予想外の展開になってしまったでゲソ。まさか無理やりプラウダに入学させられるとは」

クラ 〈非礼な態度、強引な手段を取ってしまったことは謝罪します。ですが、全てカチューシャ様の心からの願いでしたので〉

イカチ「私はそこまでして逃がしたくない程だったのでゲソかね」

クラ 〈その通り、としか言いようがありません〉

イカチ「あそこまで大暴れしたのに、粛清どころか同志として再び迎え入れるなんて・・・・。何か狙いがあるんじゃなイカ?」

クラ 〈イカチューシャ様、ああも都合のいいことを口にした我々が言えた義理ではありませんが__カチューシャ様は、本心で貴女をプラウダへ招き入れたいと望まれたのです。それだけは信じていただけますか〉

イカチ「ふむ・・・・そこまで言うのなら、ちょっとは信じてみてもいいでゲソ」

クラ 〈感謝いたします〉

カチュ「ほら、主役がどこに立っているの!イカチューシャ、こっちよ!」

イカチ「うむ、わかったでゲソ」

 

カチューシャの元へ駆けてゆくイカチューシャを見て、頬を緩ませるクラーラだった。

歓迎会も終わり、カチューシャたちが四人連れ立って廊下を歩く。

 

カチュ「さて!イカチューシャへの歓迎会も済んだし、あとは入学願書が返ってくるのを待つだけね!」

 

満面の笑みで語るカチューシャ。

 

イカチ「返ってくる?」

ノンナ「イカチューシャは形式上は保護を受けた学生の身です。入学は本人の意志だけではできず、保護者の同意もあって初めて成立するのです」

カチュ「さっき超速達便でれもんへ願書を送っておいたわ。今頃はチズルーシャも同意欄に書き込んで返送した頃ね!」

イカチ「え」

 

足を止めるイカチューシャ。

 

クラ 〈どうなさいましたか、イカチューシャ〉

イカチ「千鶴に、私がプラウダに入学することを伝えたのでゲソか!?」

カチュ「ええそうよ。なあに、もしかして反対されることを心配しているの?そんな心配は無用よ!プラウダに、ましてやこのカチューシャがあなたの入学を決めたのよ!拒む者なんているわけないじゃない!」

イカチ「・・・・千鶴は、そんな生易しい相手じゃないでゲソ・・・・!」

ノンナ「と、言いますと?」

イカチ「千鶴が、労働力の私をそう簡単に私を手放すわけがないでゲソ!」

 

と、次の瞬間。

 

ヴィー!ヴィー!ヴィー!ヴィー!

 

艦内を警報が鳴り響いた。

廊下をプラウダ生が駆けてくる。

 

ノンナ「何ごとですか」

プラA「正体不明の大型船がこちらへ接近しています!」

ノンナ「サイズは?」

プラA「船体サイズは超大型、LBDはプラウダを超えるほどです!」

カチュ「そんな大型が、何者なの!?」

ノンナ「総員に通達!襲撃の可能性も視野に入れ、保安部に出動要請を!」

プラA「はい!」

クラ 〈一体、何者でしょう・・・・〉

 

見ると、イカチューシャが真っ青な顔をしている。

 

イカチ「来たでゲソ・・・・」

カチュ「え?」

イカチ「千鶴が来たでゲソ!!」

 

プラウダへ接近する大型艦。

その船体は空母の形状をしている。

その先端、発射甲板の端っこに一両の戦車が佇んでいる。

キューポラから身を乗り出す人物は、潮風に黒髪をなびかせている。

 

船員 「伝達!まもなくプラウダ学園艦に最接近します!」

???「ありがとう。無理はしないで、可能な限りでいいですからね」

船員 「はっ!ご武運を!」

 

船員はびっと敬礼をして走り去っていった。

 

???「なあ、本当にやるのか?」

 

車内から声がする。

 

???「ええ。あの子たちの決意を覚悟を、間近で捉えたいの」

???「まったく、姉貴は手の込んだことが好きなんだから・・・・」

 

ふふ、と笑い、頭にかけていたお面を顔にかぶせる。

 

???「さあ、始めましょう」

 

一方、大騒ぎのプラウダ側。

 

カチュ「いったいどこのバカなの!?このプラウダに喧嘩を売ろうだなんて!」

ノンナ「観測員の通達によると、接近する艦は空母型、甲板に戦車が一両鎮座しているそうです」

カチュ「はあ!?空母甲板に戦車!?いったい何をするつもりなの!?」

ニーナ「まさか、戦車が発射されるなんて・・・・あるわけねえべなあ」

カチュ「ニーナ!笑えないジョークしか口に出せないのなら閉じてなさい!」

ニーナ「すんませえーん!」

クラ 「車種も確認されました。チャーチル歩兵戦車だそうです」

カチュ「チャーチルですって!?まさかダージリンの悪ふざけだって言うんじゃないでしょうね!」

クラ 「いえ、確認された戦車はMk.Ⅵ、ダージリン様のチャーチルはMk.Ⅶです」

カチュ「じゃあ、誰の戦車なの!?」

 

艦橋までたどり着いたカチューシャは、急ぎ相手側を確認する。

 

イカチ(あのチャーチル・・・・やっぱりそうでゲソ!)

 

そして__お互いの船体が接触するギリギリにまで接近した時。

 

???「戦車、前進」

 

グオオオオオオ!

 

チャーチルがアクセルをふかし、甲板の外__プラウダへ向かって突撃する。

そして用意されたジャンプ台を使い__宙へと躍り出る。

 

ニーナ「嘘だべっ!?」

アリー「チャーチルが艦から飛んできたべ!?」

 

そのままチャーチルは計算されたかのように華麗な軌道を描き、

 

ギャギイイイイ!

 

プラウダへと上陸を果たした。

 

カチュ「侵入されたわ!」

ノンナ「後部甲板の人員は内部へ退避。身の安全を第一に考え、外に出られませんように」

カチュ「くっ!」

 

カチューシャが無線を掴む。

 

ノンナ「カチューシャ、どうされるおつもりですか」

カチュ「決まってるでしょ、迎え撃つのよ!相手が戦車で来るって言うなら、こっちも戦車で殲滅してやるわ!」

 

即座に指示が飛ばされ、チャーチルの行く手にT-34/76が三両立ちふさがる。

 

カチュ「遠慮なんて一切いらないわ!プラウダの怒りと恐ろしさをその身に刻み込んであげなさい!」

ノンナ「チャーチル一両にT-34/76三両ですか」

カチュ「多勢に無勢、なんて言わないでしょうね?あの三両は、言わばカチューシャの心を体現したものよ」

イカチ「と、いうと?」

カチュ「一両は傲慢にもプラウダへ乗り込んできたことへの怒り。一両は単身チャーチルだけでどうにかなると侮ったことへのお仕置き。そしてもう一両はイカチューシャがプラウダの一員となった日にケチをつけたことに対する粛清よ!」

ニーナ「オーバーキルだべな」

アリー「やっぱりカチューシャ様は怒らせるとおっかねえべー」

 

すぐに無線が飛んでくる。

 

プラA「もしもし、カチューシャ隊長!」

カチュ「あら、もう終わったの?目立つ行動のわりに呆気なかったわね」

プラB「あの、それが__」

カチュ「?」

 

現場ではT-34/76が三両とも煙と白旗を上げ、行動不能になっていた。

その脇を悠然と通り抜ける、無傷のチャーチル。

 

プラA「すいません、三両全部撃破されました!」

カチュ「はあ!?三両がかりでやられたですって!?」

プラB「それが、私たちにも何が起きたかさっぱりわからず・・・・」

カチュ「言い訳は聞きたくないわ、とにかく帰ってきなさい!」

 

苛立たしく無線を着る。

 

カチュ「全く、一両相手だからって油断したわね!あの子たちは事が済んだ後粛清よ!」

ノンナ「街道開拓14ルーブルはいかがでしょう」

イカチ「並木道清掃ボランティア二週間でゲソか」

カチュ「いいわね、それ、採用!って、それどころじゃないわ!」

 

気を取り直して次の指示を飛ばす。

次にチャーチルが進行してきたのは開けた広場だった。

そこには__

 

ニーナ「そこまでだべ!」

アリー「こっから先には進ませねえ!」

 

次に迎え撃ったのはニーナたちのKV-2を軸とし、前面を四両のT-34/85が固めている。

 

カチュ「いい!?これで負けたらプラウダの恥よ!完膚なきまでに蹂躙してやるのよ、わかったわね!」

ニーナ「ははは、はいーっ!」

アリー「装填完了!やっちまうべ!」

 

ドゴオオオン!

バアン!×4

 

一斉にチャーチルに向けて斉射。

が、それも読んでいたのかチャーチルは建物の間に姿を消した。

 

ニーナ「隠れちまったべ!」

アリー「注意深く周囲を探るんだ!姿を見せたところを仕留めるんだべ!」

 

周囲を警戒するニーナたち。

と、建物の間からチャーチルが姿を現し__

 

バアン!

ドオン!

シュポッ

 

間髪おかず砲撃が放たれ、T-34/85が一両討ち取られる。

そして勢いを殺さず、そのままチャーチルは建物の陰に消えていく。

そして再び別の場所に現れ__

 

バアン!

ドオン!

シュポッ

 

また一両打ち取られる。

 

アリー「また討ち取られたべ!」

ニーナ「姿を現したと思ったら砲撃、次の瞬間には姿が消えてる、これじゃ反撃のスキもねえじゃー!」

 

また一両、また一両とやられていき、ついには残りはKV-2だけとなってしまう。

 

ニーナ「全然歯が立たねえべ、相手の格が違いすぎじゃー!」

アリー「せめて一矢報いるべ!一発でも当てりゃカチューシャ様がきっと__」

 

バアン!

 

ニーナ「ふぎぁっ!?」

 

シュポッ

 

結局、ロクに姿を見ることも出来ずニーナ隊は全滅した。

 

ニーナ「ううう、そんなあ・・・・」

アリー「何も出来んかったあ・・・・」

 

コツコツコツ

 

歴然とした力の差を見せつけられ、落ち込むニーナたちの元へ近づく足音。

はっとして顔を上げると__

 

ニーナ「ひいいいえええええ!?」

アリー「おっ、鬼じゃあああ!?」

 

そこには、般若の面を付けた黒髪の女性が立っていた。

その異様ないで立ちと醸し出される桁違いのオーラに、先ほどまでのチャーチルに乗っていた者だということは明白だった。

 

???「ちょっといいかしら」

ニーナ「ははは、はいい!?」

???「貴女たちの隊長さん__カチューシャちゃんは、どこにいるのかしら?」

アリー「カカカカ、カチューシャ隊長ですか!?隊長でしたら、あそこの艦橋で指揮を執ってます!」

 

恐怖に駆られベラベラと喋るニーナたち。

 

???「ありがとう。手荒な真似をしてごめんなさいね」

 

そう言うと、女性はチャーチルに飛び乗る。

操縦席から見える操縦手の顔には、__能で言うところの、翁の面をつけているのが見えた。

他の乗組員たちも、能面を付けているため顔が分からない。

 

ニーナ「あっ、あの!」

 

去ろうとする女性を呼び止める。

 

ニーナ「あなたは、何モンなんですか!?なしてプラウダへ!」

???「・・・・」

 

少し間が置いてから顔を向ける。

 

???「私は正義を守る能面の使者、能面ライダー般若」

???「そして私は・・・・えーっと、秩序を守る能面の使者、能面ライダー翁」

 

※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。

 

能面ライダー般若→HN

能面ライダー翁→OK

 

HN 「ここへは、相沢千鶴さんの依頼を受けてやって来たわ」

ニーナ「千鶴さんの?」

HN 「ええ。カチューシャちゃんにお話が合って。そして、この艦にいるイカチューシャちゃんを連れて帰るために」

アリー「カチューシャ様と、イカチューシャさんを・・・・?」

ニーナ「千鶴さんからって、あの、それってつまり、イカチューシャさんの入学に関する__」

HN 「では、さらば」

OK 「ホント、ごめんねー」

ニーナ「あっ」

 

呆気の取られるニーナたちを置いて、チャーチルは去っていった。

 

ドンッ!

 

カチュ「チョルト!何てことなの!」

 

憎々しげにパネルを叩くカチューシャ。

 

ノンナ「戦車三両をこともなげに、そして続いてニーナさんたちを含める五両をも赤子の手を捻るように・・・・」

クラ 〈認めたくはありませんが、向こうは私たちよりはるかに格上です。恐らく、プロに準ずる腕の持ち主かと〉

イカチ「般若の能面を被った女って・・・・!間違いない、あ奴でゲソ!」

カチュ「イカチューシャ、侵入者のこと知ってるの?」

イカチ「うむ!あ奴の名前は能面ライダー般若!ことあるごとに私の侵略活動を妨害してきた、私の天敵でゲソ!なぜあ奴が私のチャーチルに乗っているのでゲソか・・・・?」

ノンナ「ニーナさん方からの連絡によれば、狙いはカチューシャとイカチューシャと見て間違いありません。ここは御身の安全のため、身を隠すのが得策です」

クラ 「侵入者は我々が食い止めます。カチューシャ様は、イカチューシャ様を連れ安全な場所へ」

カチュ「ニェット!隠れるですって!?このカチューシャが!?有り得ないわ!」

イカチ「カチューシャよ、悪いことは言わないでゲソ!早く逃げるでゲソ!敵いっこないでゲソ!」

 

真っ青になったイカチューシャがカチューシャを説得しようと腕をゆする。

だがカチューシャは動じない。

 

カチュ「私は逃げないわ。隠れるつもりもないし、イカチューシャを渡すつもりもない」

イカチ「カチューシャ!無茶でゲソ!」

ノンナ「カチューシャ・・・・私もこんな提案をするのは心苦しいのです。ですが、カチューシャのためにも__」

カチュ「ノンナ。あなたは、敵わない相手がいるからって泣きべそかいて逃げる私が見たいのかしら?」

ノンナ「!」

カチュ「戦車道の世界に名を轟かす『地吹雪のカチューシャ』は!もう二度とどんな相手にも決して怯み、怯え、逃げたりなんてしないわ!カチューシャがカチューシャであるために、私は私を曲げるつもりはないわ!プラウダの平穏も、戦車道強豪としてのプライドも、ノンナも、クラーラも、ニーナも、アリーナも、そしてイカチューシャも!あんな奴に奪われてたまるもんですか!」

ノンナ「カチューシャ・・・・!」

 

カチューシャの言葉に感極まるノンナとクラーラ。

 

カチュ「打って出るわよ!準備しなさい、ノンナ、クラーラ!」

ノンナ「はっ!」

クラ 〈地獄の声より底までも、ご一緒いたします〉

 

決意に固まった顔で、出撃のため戦車に向かうノンナたち。

そんな決死の決意をちょっと引いた目で見ていたイカチューシャ。

 

イカチ「そ、それじゃあ私は安全なところに身を隠しているでゲソ。無理せず頑張るのでゲソよ~・・・・」

 

と、こそっとその場から去ろうとすると__

 

ガッ!

 

カチュ「イカチューシャ、どこへ行くの?」

 

笑顔のカチューシャに腕を掴まれる。

 

イカチ「え、だから、安全な場所に・・・・」

カチュ「何言ってるの、最も安全な場所があるでしょう?」

イカチ「いや、あの、カチューシャああああぁぁぁ・・・・」

 

ズルズルとカチューシャに引きづられ、連れていかれるイカチューシャだった。

着実にカチューシャたちの元へ進み続ける能面ライダー般若たちのチャーチル。

 

HN 「そろそろ艦橋に着くわ」

OK 「どれくらいの反抗が来ると思う?」

HN 「そうね・・・・カチューシャちゃんの性格から考えると、二十両くらいかしら」

OK 「・・・・サラッと言うね」

 

やがて一番開けた広場に出る。

そこには__

 

OK 「うへえ・・・・」

カチュ「待ってたわよ侵入者!ここまで来れたことだけは褒めてあげる!」

 

カチューシャのT-34/85を中心に於いた、総勢四十両の戦車軍団だった。

 

ノンナ「現状、プラウダが有する戦車の最大戦力です」

クラ 〈カチューシャ様とイカチューシャ様は決して渡しません。お覚悟を〉

 

カチューシャの両脇を固めるのは、ノンナのIS-2とクラーラのT-34/85。

チャーチルはその真正面に位置取り、真っ向から対峙する姿勢を見せる。

キューポラから覗かせる彼女の表情は、能面の上からでも余裕の笑みを浮かべているのが分かる。

それが余計にカチューシャの逆鱗に触れた。

 

カチュ「殲滅!粛清!撃滅!」

 

カチューシャの号令により、一切のためらいもなく全車両から砲弾が放たれた。

__その時の様子を見ていた、プラウダ在住のPさんは語る。

 

Pさん「ええ、本当に驚きましたよ。プラウダに暮らしていれば、戦車道チームの隊長、『地吹雪のカチューシャ』の話題は必ず耳にしますから。決定的な重量差と圧倒的な火力で相手を完膚なきまでにねじ伏せる、それが彼女の戦法だと聞いていました。しかし、まさか目の前でそれを目の当たりにするとは思いませんでした」

 

ドガゴゴゴゴゴドオン!

 

四十両分の砲弾の雨が降り注ぎ、着弾の煙と爆炎でチャーチルが見えなくなる。

 

Pさん「いくら凄腕の侵入者だとしても、一両に四十両ですよ?かなり頭に来ていたのではないでしょうか。あんな砲弾の嵐を受けたら、いくらカーボンコーティングされた車両でもタダじゃ済まないんじゃないかって心配しちゃったくらいです。__ですが、もっと信じられないことが起こったんです」

 

ギュラギュラギュラ__

 

もうもうと上がる煙の中から、悠然とチャーチルが進み出てきた。

着弾から起きた爆発により車体はすすけていたが、ダメージとみられるものは一切見当たらない。

 

Pさん「無傷でした。ええ、砲弾が掠った跡すら無かったんです」

カチュ「」

 

絶句するカチューシャ。

なおも悠然と、一定の速度で近づいてくるチャーチル。

その異様な光景に恐れおののいたのか、他の戦車らが命令を待たず各自で勝手に砲撃を始める。

 

バアン!

ズドオン!

ドオオン!

 

しかし当たらない。

全くもってかすりもしない。

 

Pさん「私も戦車道に詳しいって程じゃないんですが、戦車ってあんな動きができたんですね。社交ダンスってあるじゃないですか。あのクイッククイックスロー、みたいなステップ。緩急をつけながら優雅にクルクル回りながら進むアレです。いやあ、まさか戦車でアレができるとは思いませんでしたねえ」

 

ドオオン!

ギュイイイ

バアン!

シュポッ

ドオン!

ギュイイイン

バアン!

シュポッ

 

チャーチルは信地旋回を繰り返し、その緩急によって着弾位置から絶妙に位置をずらし続けている。

それによって弾を避けつつ前進と言う世にも奇妙な光景が出来上がっている。

そしてその旋回中に放たれる砲撃も正確無比、一撃ごとに一両ずつ白旗を上げていく。

 

Pさん「そのあまりに洗練されきった動きに、私見とれちゃいまして。あんな砲弾が舞い飛ぶ戦場なのに、BGMにくるみ割り人形が聞こえてきましたよ」

 

なおも進軍を続けるチャーチル。

気が付けばプラウダ側の残り戦車はわずか五両となっていた。

 

カチュ「な、な、な・・・・!」

 

目の前に広がる光景が信じられないカチューシャ。

 

イカチ「カチューシャ!」

 

車内からイカチューシャが叫ぶ。

 

イカチ「ははは早く逃げるでゲソ!あ奴は千鶴か、それ以上のつわものでゲソ!」

カチュ「イカチューシャ、出てきちゃ危ないじゃない!ちゃんと車内にいて!」

イカチ「でも__」

カチュ「心配しないで!カチューシャのいるT-34/85の車内は、プラウダで一番安全な場所なのよ!絶対にやられたりしないんだから!」

Pさん「さすがカチューシャさんの周囲を固める人員です、あれほどの差を見せつけられても心乱さず、という印象でした。残り五両になっても隊列を崩さず、カチューシャさんのT-34/85を中心に囲んでいました」

 

ヴロロロロ!

 

前列に配置されていたT-34/76二両がチャーチルに迫る。

 

バアン!

シュポッ

 

間髪おかず放たれたチャーチルの砲撃が片方を仕留める。

 

ドオン!

 

生き残った側のT-34/76の方が火を噴くが、またもやかわされる。

が、T-34/76はそのまま勢いを殺さずチャーチルへ突っ込んでいく。

 

カチュ「確かに運転技術や砲撃は素晴らしいわ。でも所詮は一両分でしかない。発射から装填、再発射までの間隔は当然存在するわ!」

 

その一瞬のスキを突き、全速力でチャーチルへ突っ込んでいく。

が、素早く装填を済ませたチャーチルの二発目が突撃するT-34/76の車体を捉えた。

 

バアアン!

シュポッ

 

討ち取られたT-34/76だったが__

 

HN 「!これは__」

OK 「そのまま突っ込んでくる!?」

 

ガッシィン!

 

白旗を上げつつも、速度が上がっていたT-34/76はチャーチルに体当たりし、一瞬チャーチルの自由を奪う。

 

カチュ「今よ!」

ノンナ「ダー」

 

ドゴオン!

 

ノンナのIS-2が火を噴いた。

 

Pさん「勿論これで終わったと思いました。何せプラウダで一番の腕前を持つ砲手です。あの正確無比な砲弾が動きを止めた車両を狙い撃ったのです。当たらないと思う訳が無いじゃないですか。もし奇跡的にかわせても、クラーラさんのT-34/85がそれを逃さない。完璧に詰みでした」

 

バアン!

 

チャーチルも火を噴く。

 

Pさん「チャーチル側の砲撃、負け惜しみの苦し紛れかとも思いました。__ですが、それは戦車道の歴史を塗り替えかねない一撃でした」

 

ガヂィンッ!

 

チャーチルの砲弾とIS-2の砲弾が、空中で接触した。

 

Pさん「ノンナさんの砲撃は正確でした。__正確ゆえに、弾道の予測が出来てしまったのです」

 

お互い接触した弾は機動がずれ__IS-2の砲弾はチャーチルの僅か横に逸れ、チャーチルの砲弾は質量差に負け、大きく軌道を逸らし・・・・

 

クラ 〈えっ!?〉

 

バアアン!

シュポッ

 

クラーラのT-34/85に直撃、白旗を上げた。

 

ノンナ「クラーラ!?」

Pさん「一瞬、そう、ほんの一瞬だけノンナさんはクラーラさんの方に気を取られてしまったのです。それで勝負は決まってしまいました・・・・」

 

バアン!

シュポッ

 

続いてノンナのIS-2も白旗を上げ、とうとう残りはカチューシャのT-34/85だけになってしまった。

 

カチュ「ノンナ、クラーラ、みんな・・・・」

 

呆然自失とするカチューシャ。

あまりの事態に思考が停止してしまっている。

 

ガギギギ・・・・

ガコンッ

 

動きを止めていたT-34/76から解放され、再び動けるようになったチャーチルがゆっくりカチューシャの元へ近づいていく。

 

カチュ「ヒイッ・・・・!?」

 

その姿はもはやこの世のものとは思えず、カチューシャはただ震えるだけ。

と__

 

HN 「よいしょっと」

 

般若がキューポラから身を乗り出し、上に立った。

そして__

 

シュタタタタタタタタタ

 

事もあろうに大破した戦車たちを足場に、単身駆け寄って来たのである。

 

カチュ「きゃあああああああ!?」

 

恐怖に負けたカチューシャが悲鳴を上げ、慌てて車内に引っ込みキューポラを閉じる。

そしてハッチを閉めようと手を伸ばすが__

 

ガバッ!

 

一足遅く、キューポラが大きく開く。

そして、間が開き__

 

ニューーーーッ

 

般若が逆さまの姿勢で内部に侵入してきた。

 

カチュ「キャアアアアアアアアアアアアア!」

イカチ「ギャアアアアアアアアアアアアア!」

 

大きく飛びのいた弾みにカチューシャはイカチューシャにぶつかってしまう。

そのまま内部に完全に入り込んだ般若は、カチューシャを目視する。

 

イカチ「カチューシャ!」

 

咄嗟にイカチューシャはカチューシャを自分の背後に匿う。

 

カチュ「イカチューシャ!?」

イカチ「お主の狙いは私でゲソ!?なら私を連れていくでゲソ!だからカチューシャには手を出すなでゲソ!」

カチュ「何を言ってるのイカチューシャ!イカチューシャを連れてくくらいなら、私は最後まで戦うわ!どいてイカチューシャ!」

 

強引にイカチューシャをのかし、目をぎゅっとつぶり般若へ突撃するカチューシャ。

 

カチュ「うわああああ!」

イカチ「カチューシャーーーッ!」

HN 「はい、これ」

カチュ「へ?」

 

そんなカチューシャに、般若は穏やかな声で何かを取り出し、カチューシャに差し出す。

それは、カチューシャが千鶴に送った入学許可証入りの封筒だった。

それを受け取り、恐る恐る中身を取り出すと__そこにはこう書かれていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

本校、プラウダ高校は以下の生徒を本校の第三学年生徒として入学することを正式に認めることとする。

 

      氏名:イカ娘

      保護者同意:相沢千鶴

      ※ただし、入学はイカ娘の中学校卒業後とする

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

カチュ「何・・・・これ?」

HN 「千鶴さんの入学の同意よ。条件付きの。これを渡しに来たのに、熱烈な歓迎があったんだもの」

イカチ「私が中学を卒業したら・・・・でゲソか?」

HN 「ええ。だから高校入学は手順を踏んで、その後に」

カチュ「それじゃダメよ!」

 

カチューシャが声を上げる。

 

カチュ「イカチューシャがその手順通りにしてたら、いつまで経っても私たちと一緒の学校に通えないじゃない!」

HN 「カチューシャちゃん」

 

諭すように声を掛ける般若。

 

カチュ「イカチューシャは、カチューシャのそばにいないとダメなの!一緒にいて、一緒に戦車道をやって、一緒の学校に通わないとダメなんだから!」

イカチ「カチューシャ・・・・。どうしてそんなに私を手放さないのでゲソ?・・・・もしかして、まだあのことを怒ってるのでゲソか・・・・?」

カチュ「逆よ!」

イカチ「逆?」

カチュ「今まで、私のことを考えてくれる友達はいなかったの!私を尊敬したり、恐れたり、付き従う子なら沢山いたわ。だけど、私のことを考えてあそこまでしてくれる友達はいなかったわ。悪役を買ってまで、私の悩みを解決してくれようとしてくれる子なんていなかった!」

 

吐き出すように言葉を並べる。

 

カチュ「私は、イカチューシャのことが大好きよ!だから片時も離れたくない。いつも一緒にいて、一緒に戦車道をして、一緒の学校に通いあいたいのよ!」

イカチ「カチューシャ・・・・」

 

カチューシャはイカチューシャを抱きしめる。

その姿にためらう姿をした般若だったが、静かに言葉を続ける。

 

HN 「それは、本当にイカ娘ちゃんのためになるの?」

カチュ「えっ・・・・」

HN 「中学を卒業せず、高校も三年生から始めて、すぐ大学や社会に出ることになって。それが本当に、イカ娘ちゃんのためになることなのかしら?」

カチュ「・・・・」

HN 「厳しい言い方になっちゃうけど、それはカチューシャちゃんの満足にしかならないわ。イカ娘ちゃんのことを本当に考えていてくれるなら、彼女の人生になることを考えてあげて」

カチュ「イカチューシャのために、なること・・・・」

 

頭では理解できているカチューシャでも、踏ん切りがつかない様子だった。

 

イカチ「カチューシャ」

 

イカチューシャがカチューシャの手を握る。

 

イカチ「私は、高校に行くときは絶対にプラウダに行くでゲソ。そして勉強して、いい成績を出して、すぐカチューシャたちに追いついてやるでゲソ。少し時間はかかるかもしれないけど、信じて待っていてくれなイカ?」

カチュ「イカチューシャ・・・・!」

 

カチューシャが涙目になりながら、強くイカチューシャを抱きしめる。

そして・・・・

 

カチュ「うっ・・・・うわああああああああああん!」

 

カチューシャは声いっぱいに泣き声を上げた。

それから数日後、海の家れもんにて。

 

イカ娘「いらっしゃいでゲソー」

 

イカ娘はれもんに戻り、バイトの日々を再開させていた。

 

栄子 「今までさんざん遊んでたんだ、しっかり働いてもらうからな」

イカ娘「遊んでいたわけじゃないでゲソ。友人や同志たちとの有意義な時間を過ごしてたのでゲソよ」

栄子 「それを遊んでたっていうんだよ」

千鶴 「いらっしゃいませ」

イカ娘「いらっしゃいませでゲソー・・・・おや」

カチュ「お邪魔するわ!」

ノンナ「お邪魔します」

クラ 〈お元気そうで何よりです〉

ニーナ「今日はみんなで遊びにきたじゃ!」

アリー「カチューシャ様が来たい来たいって聞かんべさ」

カチュ「ちょっと!カチューシャを貶めようなんて、いい度胸ね!」

アリー「ひえー!」

 

すっかりいつもの調子に戻ったプラウダ一行は、れもんでわいわい談笑していた。

そこへ__

 

隊長 「探しましたわ!」

 

れもんの店先にいつぞやの牟銘高校の隊長が仁王立ちしていた。

 

ニーナ「あ、牟銘の隊長さんじゃー」

カチュ「あら、無名の隊長さんじゃない。どうしたのかしら」

隊長 「無名じゃねえ、牟銘(むみょう)だべ!・・・・おほん、たまたまこちらに貴女がたがいらっしゃるとお聞きしまして。いい機会ですので少しお相手して差し上げようと思いましたのよ」

副隊長「もう一回相手して欲しいってどうして言えねえんか?」

隊長 「だまらっしゃ!」

ノンナ「全く、懲りない方々ですね」

クラ 〈今の我々に勝てるとでも思っているのでしょうか〉

 

お互い顔を見合わせるカチューシャとイカ娘。

そしてにこっと笑顔になり__手をつなぐ。

 

カチュ「そう。なら相手してあげなくもないわよ?この私のプラウダとイカチューシャの組み合わせに勝てると言うのならね!」

イカ娘「私たちは無敵のチームでゲソ!」




プラウダは上下関係が激しいイメージではありますが、それによって生まれる結束も高いイメージがあります。
しかしやはりお互いの信頼関係があってこそ成立する物ではないでしょうか。

カチューシャは孤高の存在でもありますが、きっと心から対等になれる存在も欲しているのではないでしょうか。

いよいよテレビ編の高校は残り一つとなりました。
ここからの展開にもご期待ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。